宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国の逆襲 作:とも2199
古代は、移民団の人々とも交流を深めようとしていた。移民船団がやって来ると決まってから、藤堂長官からの助言を受け、司令官として、外交的な活動も任務の一つ、というのがその教えだった。
古代は、移民団の代表でスピーチした老齢のガミラス人女性のテリシアと話していた。
「バレル大統領から、直々にあなたのお噂は聞いています。地球人の中でも、異星交流に最も理解が深い、先進的なお考えの方だとか。先程のスピーチも、それを示唆する内容で、とても印象的でした」
古代は、少し照れたように後ろ頭をかいた。
「バレル大統領が私のことをそんな風に? 私のような異星のいち軍人にまで、あの方は、本当に良く観察をしていますね」
テリシアは少し笑っていた。
「ええ、本当に。そんなあなたを、この基地に派遣したあなたの上司も、良く分かってらっしゃる」
「ありがとうございます。実は、私には小さな子供がいまして」
「まぁ、そうだったんですね」
「艦隊勤務は、数ヶ月は家に帰れず、家族と離れ離れになってしまいます。この基地勤務で家族全員で移住する話が出た時に、これなら何時も一緒にいられますから。むしろ願ったり叶ったりといったところだったんです」
「そうだったんですね。確かに、船乗りは、何ヶ月も家に帰れませんものね。ご家族を大切にされているんですね」
「はい。これからもずっと、そうでありたいと思っています。テリシアさんは、どうして移民団に参加されたんですか?」
テリシアは、少し遠い目をしている。
「私は、長い間、マゼラン銀河の様々な星系の人々の、ガミラス星への移住を手伝って来ました。しかし、私自身が移民するというのは、今まで考えてもいませんでした。私も、もう年ですから、私の経験を最後に活かす挑戦だと思いました。移民団に参加した多くの人は皆んな、新天地を夢見て、未知の世界を開拓しようとする冒険者だと思っています。その手伝いをする為に、私のこれまでの人生はあったのかな、なんて思っているんですよ」
古代は、感心したように暫し思案していた。
「なるほど……。私も、今は軍籍に身を置いていますが、将来は、異星の方々と地球人との架け橋になるような仕事が出来たらいいかも知れません。うん。有意義なお話をありがとうございます」
テリシアは、眩しいものを見るように目を細めていた。
「どういたしまして。そうそう、あなたにご挨拶したいという方がいらっしゃるんですよ」
テリシアが手招きすると、初老のがっしりした男性が近寄って来た。
「古代司令官。わしのことは、覚えておるかね?」
古代は、その顔を見て、日本人のような風貌だったことから、ザルツ人だと気がついた。記憶を辿った古代は、はたとその男のことを思い出した。
「モーガン大尉じゃありませんか!?」
モーガンは、微笑して頷いた。
「覚えていてくださったか。お元気そうで何よりだ」
「冥王星の事件以来ですね。あれから、無事に国には帰れたのでしょうか?」
モーガンは、愉快そうに笑った。
「ああ。最初は、ガミラス星に行き、大層な歓迎を受けたよ。バレル大統領直々に感謝の言葉を頂いた。その後、ザルツ星にも帰国出来たんだ。わしは、高齢だったのでな、すぐに退役し、家族と共に、しばらく何もせず過ごしておった。そんな時に、地球への移民団の噂を聞いてな。わしらの地球人への贖罪も込めて、何か出来ることをやりたいと考えて移民団に参加を決めた。わしは、ザルツ星の果実酒を、地球人にも飲ませてやりたいと思っておるんだよ。だから、農業から始めるつもりだ」
古代は、酷く感動していた。
「そうだったんですか。ザルツ星の果実酒は、以前ガミラスに行った時にも飲んだことがあります。地球連邦内に流通する日を、楽しみにしていますよ」
モーガンは、嬉しそうに頷いた。
移民団の歓迎会は、終わりになっていた。
参加者は、それぞれ最後の別れの言葉を交わしながら、平田のレストランを後にしていた。
「アベルト。私は、妹たちと少し話をしてから戻るわ。先に帰っていて」
デスラーは、タランと共に、スターシャたちを見送った。
「タラン。スターシャは、何やら機嫌が悪そうだね。何か知っているかね?」
タランは、デスラーと共に歩きながら、知っていることを伝えた。
「サーシャ第二皇女が、スターシャ女王は勝手なことをやっていて、ずるいと言っているようでした。イスカンダル人でも、姉妹で喧嘩などするんですね。少々意外でした」
デスラーは、立ち止まって遠ざかって行くスターシャたちの後ろ姿を目で追った。
「タラン。少し心配だ。すまないが、それとなく後を追って、可能ならどんな話をしているか聞いてきてくれないか。私が行くと、かなり目立つのでね」
タランは、微笑していた。
「仕方ありませんね。承知しました」
デスラーは、スターシャたちの後を追ったタランの背中を見送ると、数名の兵士の護衛と共に、自室へと戻っていった。
そのすぐ近くで、別のガミラス兵たちが、慌ただしく誰かを探していた。
「お、おい。いたか!?」
「いない。ミルの奴、一体何処へ……」
「やばいぞ。俺たちが見失ったことが上にバレたら」
「も、もう一度、手分けして探そう」
兵たちは、バラバラに散って、捜索範囲を広げようとしていた。
スターシャは、二人の妹たちを連れて、農園を訪れていた。野菜や果物が栽培されているそこは、青々とした植物の匂いや、花の香りが漂っていた。綺麗に隙間なく植えられた作物の間の通り道を、彼女たちは静かに歩んでいた。
スターシャが、農園の中央で立ち止まったので、サーシャとユリーシャも歩みを止めた。
ユリーシャは、一体何を姉が話そうとしているのか、不安げな様子で見つめていた。片や、サーシャは、腕を組んで頭を反らしている。ユリーシャは、いたたまれない気持ちで、二人の間に立っていた。
「何かしら、お姉様」
最初に口を開いたのは、サーシャだった。
スターシャは、サーシャやユリーシャの方を向こうとせず、植物にぶら下がった大きな実を、そっと撫でていた。
「……ここの野菜や果物はね、イスカンダルから持ってきた種から育てたもの」
サーシャとユリーシャは、辺りを見回してみた。確かに、イスカンダルで見覚えのある食べ物ばかりだった。
「ガミラスで以前親衛隊に所属していた兵士たちが、交代で私と一緒に育ててくれた。最初は、あまり上手く育たなかったけれど、何年か経って、やっとここまで大きくなった」
サーシャは、一体姉が何を言わんとしているか計りかねていた。その時、ようやくスターシャは振り返ってサーシャの方を見た。
「イスカンダルでは、汚れ仕事は何もかもすべて機械にやらせていたけれど……。こうやって、自分自身で育てるのを、やっと楽しいと思うようになった」
スターシャは、その心中を探るようにサーシャの瞳を見つめていた。
「私は自分の意志を隠して生きるのを止めました。今は、自分をがんじがらめにしていたものを、少しづつ取り除いている……。サーシャの言うとおり、私は身勝手に生きようとしています。あなたたちには、申し訳無いとは思うけど、そうやって生きると決めたのです」
サーシャは、スターシャの視線を外すと野菜の方を目を細めて眺めた。
「……本当。勝手だわ」
サーシャは、救済に向かう旅路の自身の記憶を探った。
「お姉様に命じられて地球に行き、生死をさまよったユリーシャのことを思うと、本当に胸が張り裂けそうだった。わたくしも地球へ向かった船の中で、たった一人で長い時間を過ごした時、いろいろなことを考えました。自分やユリーシャの人生は、一体何だったのだろうって。遠い昔の先祖がしでかした事の贖罪? そんな事に縛られて、お母様は救済に旅立って行方不明に。そして、妹も生死不明。自分自身だって、どうなるか分からない」
スターシャとユリーシャは、辛そうな表情で彼女を見つめた。
「……もし、妹と共に生きて帰れたら、もうこんなことは終わりにしましょうと、お姉様に言うつもりでした。けれども、わたくしは、あの火星の地で一度は命を落として、それは叶わぬ願いと思っていました。こうして、再びお姉様とお話が出来るからには、このことを訴えようと思っていたというのに……。肝心のお姉様は勝手に救済は終わりと言っているとか、いつの間にやら子供まで作ってイスカンダルを出ていったとか、あまりの事に、わたくし閉口しましたのよ。でしたら、わたくしも勝手にやらせて頂きます。何も文句は言わせませんことよ?」
サーシャは、厳しい表情でスターシャを見ている。スターシャは、彼女の怒りが収まりそうもないことに、落胆していた。
「……そう。分かったわ。私は、あなた方に謝罪しようと思ってここへ誘いました。でも、それは必要なさそうですね」
「ええ。それぞれが自由に生きる。その点において、お姉様とは意見が一致していると思いますもの」
ユリーシャは、話の雲行きがおかしくなっているのに、慌てた。
「ま、待って。二人とも、そんな風に仲違いするべきじゃないよ。私たち、たったの三人しかいない家族じゃない?」
「仲違い? そんなことはないわ」
「そうね。お姉様とは思いは共有出来たと思いますわ。むしろ、あなたの方こそ、まだしがらみに囚われているじゃない。もう、自分の為に生きるべきよ、ユリーシャ」
ユリーシャは、二人が遠くに行ってしまうようで、急に寂しさに襲われた。
せっかく、本当に久しぶりに三人で会えたのに……。
その時、突然大きな音で警報音が鳴り響いた。
「な、何?」
「これは、何か緊急事態があった時の警報のはず。どうしたのかしら……」
すると、ばたばたと作物を揺らしながら誰かが走って来る音がした。
作物の間から現れたのは、タランだった。
「スターシャ様、ご無事ですね? 今、護衛の兵士を呼びましたので、このまま、ここに留まっていて下さい」
タランの様子は、酷く憔悴しているようだった。
「ヴェルテ。何があったの?」
スターシャは、彼を問い詰めた。
タランは、少し言い淀んでいたが、スターシャには話すべきと思い直した。
「……ガトランティス人が脱走を計ろうとしています。報告では、総統を人質にとられたようです。今、ゲール少将が、対応に当たっています」
スターシャは、両手で口元を覆った。
「何ですって!?」
走り出そうとするスターシャの前に、タランは立ちはだかった。
「いけません、危険です。ここを動かないで下さい」
「でも」
「大丈夫です。必ず、我々が総統を助け出します」
スターシャは、顔を覆って真っ青になっていた。
「そんな……。あのミルさんが? 私は、心を入れ替えてくれたと信じていたのに……。アベルトの反対を押し切って釈放させたのは、このわたくしです。ああ、何てこと!」
「お姉様、そんなに取り乱さないで。ここには、古代たち地球人もいる。必ず助けてもらえるよ」
ユリーシャは、スターシャの身体を抱きしめて言った。
その時、サーシャは、一人考え込んでいた。
「おかしいわね。わたくし、あのミルさんでしたら、少し前にお話しましたのよ。申し訳ないけれど、少し心も読ませてもらいました。悪いことをするような心の持ち主じゃなかったのだけれど……」
タランは、サーシャの話の飛びついた。
「その時の、彼の様子を教えてもらえませんか? 何か気になることを聞いたり見たりしていませんか?」
サーシャは、その時の様子を思い出そうとしていた。
「あまり思い当たることは……。何か、とても悩んでいるようでした。自由への葛藤みたいなものがありましたので、わたくしと同じ、という話をしたら、驚いていました」
タランは、それを聞いて少し考えた。
「ふむ。もしかしたら、脱走するべきか悩んでいたのかも知れませんね……。だとすれば、説得すれば何とかなるかも知れません」
タランは、携帯端末を取り出すと、どこかへ連絡し始めた。そうしている間にも、ガミラス兵たちが、農園に駆けつけて来た。
タランは、通信を終えると、スターシャたちに言った。
「古代司令に連絡しました。説得するのなら、ゲール少将より、彼の方が適任でしょう」
サーシャは、少し焦った様子だった。
「それなら、わたくしも行きましょうか。説得出来るかも知れません」
「それなら、私も……」
タランは、サーシャとスターシャを押し留めた。
「いけません。ここは、我々にお任せ下さい!」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。
参照1 サーシャについて
妄執の亡霊11 旅の終わり
https://syosetu.org/novel/213029/11.html
参照2 スターシャについて
白色彗星帝国編24 旅立ち
https://syosetu.org/novel/210483/24.html
参照3 モーガン大尉について
孤独な戦争6 義勇兵
https://syosetu.org/novel/212321/6.html