本日二度目なんで一個前の話もチェックお願いします。
夜凪景デート編です。(え?)
いくら映画に出演した景といえど、高校に全く行かなくていいわけではない。
「どうしたものかしら」
景の降板がかかった期日まで――あと四日。
『デスアイランド』出演が功をそうしたのか、映画の撮影や演劇の稽古期間、全く出席しなくていいという訳には行かないが、出席は週一でいい――しかもそのうちの稽古に影響が出ない範囲でいいのだという――という約束は景の知らぬ間に黒山によって取り付けられ、そして今日はその一日。
朝から稽古場――というより、表現をできるようになるまでの獲得期間。
実質あと三日しかないから、それほど他のことをしている余裕はないのだけど。
「どうかした、夜凪さん?」
「あ、いえ。なんでもないわ」
とはいえ、他にも悩みはあった。
今日はデスアイランド撮影終了後から初めての登校日――夏休み開始前最終日だったのだが。
困ったことに学校に来るといきなりクラスメイトに囲まれてしまった。中には今まで全く話したことがない人もいるし、顔も知らない男子生徒がいる。今もこうして二限目だろう教科書を出す彼を見ていると話しかけてくる。
一々返すのも面倒なので、適当に頷いては誤魔化していた。
「……」
とりあえず、今はなんだか元輝くんに会いたいと、そう思いながら外を見やる景。うーん、明後日までに会えたらいいのだけれど。
なんにしろ、景から誘わなければ何も始まらない。
いつもだったら、適当に電話して時間を取り付ければいいのだが――今はどうにもクラスメイトがいる。仕事にも関わることなので、周囲に察されても困ってしまうし……。その上元輝くんも元輝くんで何故だかうちの高校で有名人だ。何故だかは知らないけれど。
最近連絡していた感じ、ここ一週間はこれといって予定もないはずだから、連絡さえ取れれば約束を取り付けられそうだけれど。
「ねえ」
「うん? どうしたの夜凪さん」
「デートってどう誘えばいいのかしら」
「!!!!????」
? そんなに驚くことかしら。景は頭を捻った。
うーん。……いくらか方法を考えたけれど、どれも恥ずかしいわけじゃないが妙に難易度が高い気がする。
普段だったらレイとルイも含めて、両親のいない私に気遣って家でご飯を食べたりするのだが――いや、もちろん、二人で遊びに行ったこともある。当時の景にはお金がなかったから二人でファストフードを食べるくらいのものだったが……。
以前はともかく、景は彼よりお金を持っているのだ。――故に。
表現力の確保に都心へ行くのだから――一緒に来て切磋琢磨することになんの問題もないと思うのだ。
景は不敵に微笑んだ。彼女からすれば完璧なデートプランだった。とんだ恋愛下手である。
ぐへへと笑う景。
周りは謎の熱愛暴露に阿鼻叫喚だった。地獄絵図である。
――昼休み。
いつも通りの校舎裏ならば、人気も少なく特に誰とも会うこともないと思っていたのだが。
「ふっふっ」
景は走っていた。
終業式を終え、あとは夏休み本番を残すのみとなった高校一年生の夏。早速人気のない校舎裏で元輝に連絡を入れようとした矢先の出来事である。
困ったわ、電話している場合じゃなさそうね……景は思わずそうごちた。
後ろを見れば、好きな人って――まさか星アキラ――! 何を言ってるのかしら。全く意味がわからず頭を傾げる景である。
そんなことよりもせっかく持って来たお弁当を食べ損ねているのが問題だった。
10分ほど同級生――ひょっとすると先輩もいるのかもだが、彼らから逃げ惑っていても埒が明かない方に気付く。
困ったわ――はっ。
景は閃いた。
そして同時にあの壁の奥に求める何かがあることに気がついた。
さながら動物的感覚である。
「――ほっ!」
眼鏡をかけた男子生徒が座っている円系のレンガによって組んだ花壇に足をかけ、その中心の広葉樹を掴んで壁を飛び越える。……この時期になるとたまに蝉がいて鳴いているのだが、今回はしょうがない。がさがさとした音と同時に青葉が幾枚か落ちてくる。
――スタッ。
見事な着地だった。綺麗な三点着地を決め、景は髪をばさりと整えた。ふふん、気分は最高潮である。
他の生徒たちが本門から出て来ているのを横目に、景は目の前の人物に声をかけた。……自分の勘の冴え渡り具合に正直心底震えた景だった。まさかここで引けるとは。
「??????」
「なんだか久しぶりね、元輝くん」
「え、うん?? え、何してんの」
「逃げてたの」
「誰から」
「みんなからよ」
え、あうん。頭にハテナを浮かべてる元輝くんにくすりと笑いながら、景はあっと声を漏らした。
「お弁当、ぐちゃぐちゃになってないかしら」
「あ、うん。なんか追いかけられてたのか。学校行くのも大変かもな」
「そうね。私も大変過ぎたらやめるかもとは思っていたんだけれど、黒山さんは通学も間違いなく演技のネタになるから辞めさせることはないって話だし」
「ああ、あの人らしい」
「まあ、たしかに女子高生を演じるときに役に立つし、お金に困らなくなったから通っていても損はないかなって」
「んん……それで、何だけどね」
「このあとデートいかないかしら」
「――っ!?」
周りの同級生から悲鳴が聞こえた気がした。
……あ。
デート先は井の頭公園だった。
「……ん? これってデートなのか?」
「そうよ!」
「いやまあ、景がそれでいいならいいんだけどさ」
東京のど真ん中。
中央線吉祥寺駅で降り、徒歩でだいたい五分程度のところに井の頭公園はある。初夏を過ぎ、肌に汗が滲む程度の気温。木々の隙間から溢れる光が眩しかった。
木陰のベンチに座りながら清涼飲料水を煽る元輝に、ふふんとなぜか自信満々な景。
足を投げ出し服の襟元をパタパタとして涼をとっていると、やや深めに麦わら帽子を被った景がリュックから二つの人形を取り出した。
景の服装は簡素な白Tに半ズボン――うーん、それでいいのか花のJK。元輝はそう思わずにいられなかった。
ベンチに座っていた元輝にスペースを少し開けて景が座る。元輝は細やく、景も華奢な体躯をしている為、二人がベンチに座っても半分も埋まっていなかった。
「てかなんでわざわざ井の頭公園?」
「黒山さんが考え事するにはここがいいって」
「それ俺いるか……?」
「いるの!」
「そですか」
そもそもこんな公園が、景が直面している感情表現の課題を解決する糸口となるとあのクソジジイは思って――ああ。ひょっとして。元輝は何か得心を得たかのように頷いた。景に残されている時間は残り僅か。健気に頑張る幼馴染が、舞台を下されるというのもいい気はしない。
ふむ。
「ってことはなんか相談でも」
「ううん、大丈夫よ」
「ん?」
「一緒に出かけたかっただけだもの」
「――」
「それじゃいってくるわ」
終わったらご飯でも行きましょ、そう言って走り出した景に、元輝はあっけに取られた。鳩が豆鉄砲に打たれるとはこういうことだろうか……。思わずそう考えずにはいられなかったが。
「よっし」
白と黒で統一された服装に、同系色のモノトーンのキャップ。後ろで縛った髪を揺らしながら、夜凪景はふっと大きく力をいれた。
後ろを見れば何故か3人の子供達にうぉー! 負けないぞー! と絡まれている元輝。え……? 夜凪は少し驚いた。とてもダルそうに子供達に構いつつこちらを見ている元輝。――よし、景は見なかったことにしてバックから仕事道具を取り出した。
今日やる内容は非常に簡単なものだ。
――大道芸である。
大道芸は、路上や街頭、または仮設の掛け小屋などで行われるさまざまな芸能の総称。路上パフォーマンス、またはストリートパフォーマンスとも呼ばれるそれ。
今日は夏休みの初日。あちこちで子供連れの親子や学校帰りの中高生がいる。そのためか平日にも関わらず周囲は一定の賑わいを見せていた。
昼下がりということもあってか昨日よりも盛況。幼稚園帰りだろうか子連れの親が多く、その子達の興味を引くのが、今日景が自分に貸したタスクだった。
「わー、こいつどっちだ!」
「わかんないよ! でもカッケェんだ」
「……ふふ」
どうやら元輝は子供に人気――いや、子供達の眼鏡には適わなかったのか、この数分で謎に元輝はポカポカと叩かれている。
景は浅く息を吸って、子供達に近づく。
イメージする。
それはまるで、弟や妹に接する『姉』として――
子供達はまだ未熟だ。細かな感情の揺らぎを受け取ることは難しい。
だから一緒に感じるのだ。
良い事をした時は、自分も嬉しいのだと、共に喜び。
悪い事をした時は、自分は悲しいのだと、眉を下げ涙を流そう。
――感情を、共有する。
膝を折り、声色を震わせる。
今自分は悲しんでいるのだ――どうか、そのことがこの子達に伝わるように。言葉に、感情を乗せる。
わふわふっと、狐にもにた人形を動かした。
「ねぇ君たち……そんな事をしちゃダメだよ。おともだちには優しくしないと」
巌裕次郎がいった。
――芝居は妄想じゃねぇ。表現である事を知れ。と。
黒山墨字の言葉が脳裏によぎる。
──人間誰しも本能的に出来てる、忘れてるだけさ。
そう、忘れていただけだったんだ。
演技とは。
役者とは。
いろいろなことを経験して、いろいろなことをできるようになろうとし過ぎて、1番大切なことを忘れていた。
芝居とは表現とは、もっと難しいものだと思っていたけれど。
「ほら見て。お兄ちゃん、痛がってるでしょ?」
そう言って元輝に視線を送ると、いたいいたいとお腹をさする仕草をする。リアリティ満載だ。
景の言葉は子供達に伝わったようだ。
彼らは着ぐるみにトテトテと近づくと、痛くしてごめんなさいと抱きついた。
「ちゃんと謝れて偉いね……よしよし」
ふわふわとした子供たち。
私は彼らの頭を撫でた。
深く役を掴む事。
それを丁寧に伝える事。
――ひどく単純なことだった。
だって。
それは、人が人であるための技術の一つ。
今、私は――こんなにも自然に感情を表現できている。
「みんなー! そろそろクマにゃんは帰らないといけない時間なの」
「えぇ、まだいいじゃんかよぉ」
「そうだ、お姉ちゃんも一緒にあそぼ!」
「わがままばっかり言っちゃダメだよ? ほら、みんなのお母さん達も待ってるじゃない、ほら、一緒にお母さんのところ行こう?」
そう言って子供達の手を引いて、景は子供達を親元まで連れて行く。
元輝も一緒にと思って目線をやると、数時間前から悪化したのか一人を肩車し一人をおんぶ、一人をお姫様抱っこというどう見ても人間のする状態ではなかった。うしお前らー帰れーと、気持ちぶっきらぼうに子供達を帰していた。なんだか懐かしい気分になる。
母親達に引き合わすと、子供達は家路へと着いていく。
名残惜しそうに振り返りながら手を振る子供達に、景は笑顔で振り返した。
「――よし」
「お疲れ景」
「うん。なんとかなったわ」
これで完璧よ⭐︎ と何故かドヤ顔の景。ため息をつく元輝に、じゃあ行きましょと景が元輝の手を掴んだ。
何故かびっくりした表情の元輝に、景が語りかけた。
「え?」
「この前の埋め合わせ、やってくれないの?」
「……あ、マタギのね」
……うーむ。
「……ダメだったかしら?」
そういえば、景に珍しく今日は事前の連絡がなかった。当日に有無を言わせぬスタイルで押しかけてきたのだろう。景も案外乙女である。
えこれ、どうしよっかなっと、今後について思考を巡らせている元輝。何も言わないので不安になったのか、景は瞳を揺らしながらこちらを見る。
…………。
どうせ断ろうとして嫌な顔をさせるのもいやだし……と、元輝は腹を括った。
「どこいくんだ」
再び景の瞳が輝く。何だか子犬のようだった。うきうきとリュックサックを開き、何やらパンフレットを取り出した。
「あのね、私この映画が見てみたくて!」
「あ、これ。最近公開されたやつだよな」
「そう! いこ!!」
景は元輝の手を握りながらスキップにも似た足取りで駅方面へと向かっていく。軽快な足取りだった。景のTシャツにプリントされているよくわからないキャラクターも気持ちよろこんでいるようにみえる。
「ねえ、元輝くん。二人でお出掛けするの、なんだか久しぶりじゃないかしら」
「あー、まあそうだな。ルイとレイもいないってなると、一年振りくらいか?」
「うん、だいたいそれぐらいな気がするわ」
前回はサイゼでちょっとしたパーティをしたわね、と少し笑う景。元輝の高校時代、お互いいい成績を取るために効率の良い勉強会をしていたが、その打ち上げだったか。元輝は少し懐かしい気持ちになった。……アサガヤTを見る。
元輝は死んだ目になった。CMにいくつか出るようになり、見た目に対して気を使うようになったからこそわかる。景の私服は――芸能界で生きていくなら、流石にイカン。紛うことなき元輝の本音だった。景が気に入っているのならば、もともと何か言う必要もするつもりもなかったのだが――うん。
今日一日のプランの中に服屋を予定に入れた。
ここである程度の美的センスを身につければ、今後何かしらで困ることもないだろう……。
「この映画、六時からのナイトシアターっぽいな。2時間くらい時間あるし――服買い行くぞ、景。見繕ってやる」
「ホント!? なんだか今日、すっごく充実してる生活な気がするわ!」
やった!! 景が無邪気にぴょんぴょんと跳ねる。よほどうれしかったらしい。濡羽色の美しい髪がまう。一本一本に生命が宿っているのではないかと疑ってしまうほどに柔らかく艶やかな髪の毛が陽光に照らされ静かに輝いた。
「とりあえずショッピングモールにいくか。原宿の古着屋とかに行ってもいいけど、映画までの時間考えたらあんまりみて回る余裕なさそうだし」
「そうね! 給料も入ったことだし、これで思う存分映画も見れるわ!」
「おーー」
暫く歩いていると、ショッピングモールが見えて来た。服屋はもちろん、映画館もモール内にあるので、ここだけで今日一日なら過ごすことが出来るだろう。
モールに入ると、かすかな涼しさに包まれる。
「私、ポップコーンを食べながら観てみたいわ!」
「んじゃハーフハーフにでもするかー」
毒とかトゲとか無いよな? と。
元輝は小さく息を吐きながら、目の前に立って此方を振り帰る景の元へと、その歩を進めた。
景「スカートってスースーするから得意じゃないのよね」
ホモ「確かにライダーキックに躊躇ないから防御力高い方がいいのかお前……」
あと3話くらいで銀河鉄道の夜は畳んで、二話ほど間話挟んで羅刹女編に行く予定です。
チヨコエル成分が足りてない…………。
感想お待ちしております(乞食)
ホントに……お待ち……して……おります……
ギャンブル
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銀河鉄道編メイン
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とりあえず先進めて修羅場やっちゃう