荒野に轟くねじり金棒の凪払い(仮)   作:刀馬鹿

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運命 って信じます?


罪と罰

蜀よりはるか東の呉の江都までの道のり。

それは通常であれば馬を使いつぶすつもりで、単騎の早馬で駆けたとしても二十日以上の日数が必要になっている。

が、そこはモンスターワールドで超能力を得た俺の力を用いれば、わずか一両日中ほどで到着することが可能だった。

しかもこれは俺が全力を出したものではなく、それなりの余力を残した状態……古龍と戦うこと「は」できる……での能力解放だ。

その速さたるや……想像することもできないだろう。

 

まぁ呂蒙も把握してないからな……

 

力の一端は見せたが、それでも一端しか見せていない。

持たされた書状は機密文書ゆえに中身を見ることはできないが……さすがの呂蒙も俺が一両日で呉まで帰れるとは思っていないはずなので、俺が蜀を出て数日経ったと書状には書かれているだろう。

 

まぁ……行商の時の速さで鑑みるに、一週間かからないくらいか

 

行商時は呂蒙がいたのでかなりセーブしていた。

それは呂蒙も把握しているはずなので、それを加味することを考慮してもそれが限度だろう。

 

つまり、最低でも四日は作業時間があると踏んでいい……

 

ここからは時間との勝負だ。

何せ俺がやるのは宴席の材料集め。

しかも振舞う相手は体のどこにそんなに食い物が入るのかと……質量保存の法則を疑いたくなるほどに食う連中の宴席だ。

しかもその後は一般兵の飯まで準備しろという始末。

そしてそれは……呉の連中もしなければならない。

 

絶対に面倒ごとになるからなぁ……

 

ミドリボンは食材を集めることの大変さがわかっていただろう。

が、罰として命令された以上、腐っても士官である俺に反論するすべはない。

ゆえに……大量の食材が必要なのは事実だった。

 

まずは……潜入するか……

 

日付が変わるごろに蜀を出発……俺が出るのはそれなりに秘匿事項になっているため……して、次の日の夜明けの時間に呉の首都のそばまでつくことができた。

あとは簡単だ。

城壁の上に歩哨は立っているが、四六時中同じところにいるわけもなく、しかも城壁はかなり長い距離がある。

間隙などいくらでもある。

 

まぁ……30メートル以上の高さがある壁を、一足飛びで飛び越える存在なんか、ほとんどいないだろうしな……

 

気配で壁の上近辺に人がいるのかいないのかなどすぐにわかるので、あとはいない隙に飛び越えてしまえば潜入など一瞬だ。

その時姿を見られないように、風翔の力を用いて空気をゆがめることで、半透明化するのも忘れない。

 

それなりに魔力を使ったな……

 

モンスターワ-ルドほどのマナがないとはいえ、三国志時代はまだ自然が多いので、冬木に比べれば魔力は多い。

それでもさすがに電磁による超高速移動は、それなりの魔力を消費することとなった。

 

これからも結構消費することになるのだが……吉と出るか、凶と出るか……

 

今回、博打に出ることにしたのだ。

いい加減イライラしていたこともあったのだが、そこで尾行娘の呪術だ。

さすがに堪忍袋の緒が切れるという感じなのだ。

 

あえて隙を見せて……どうなるか……

 

相手は多少なりとも俺のことは調べているだろう。

ならば俺と呂蒙の関係性は把握しているはずだ。

その呂蒙とこれほど離れたのは初めてだといっていい。

さらには俺のこれからの行動である食材調達は……小細工はいくらでもしようがある。

何せ食物だ。

口に入れるものに毒を仕込むなど……たやすいに決まっている。

むろんむざむざと毒を盛られるつもりはないが、それは俺だけでなく俺以外の連中にも有効な手段だ。

さすがに何も仕掛けてこないとは思わなかった。

 

面倒だが……いろいろやるかね……

 

呉の首都、江都に到着し目的地へと足を進めて……俺はその区画に能力も用いて侵入した。

そしてその区画の最も大きな屋敷に潜入し……すでに身支度を整えて仕事をしている男へと近寄り、背後から口をふさいだ。

男の口を後ろから塞ぐとか……あまりにも嫌な構図だが、騒がれても面倒なのでこうするしかなかった。

 

「!?」

「騒ぐな、助。俺だ」

 

すでに夜も明けてそれなりの時間が経過している。

それなりの地位にいる助……呂蒙の父親……にこうして誘拐犯まがいで接触したのには、重要な用事があったからだ。

 

「と、とぅへふさま」

 

口を塞いだ状態なのでくぐもって言葉になっていないが、それは当たり前なのでどうでもいい。

自室に潜入した男が俺だと分かった助は驚いているようだったが、すぐに冷静さを取り戻した。

そんな助に騒ぐなと再度念を押してから、俺は口を塞ぐのをやめて背後から正面へと回った。

 

「いつお帰りに?」

「本当についさっきだ。俺の上の連中にも報告してないから、俺の存在はまだ内密にしておけ」

「いつものやつですね。承知しました」

 

いつもの……という程度には、助は俺のこの帰還を知っていた。

念のため見張りというか、道化餓鬼たちへの牽制もかねて、この助の家にはたまに来ているのだ。

 

「しかし初めてですね。顔を出すのは」

 

といっても実際に顔を合わせるわけにはいかない……呂蒙との文のやり取りなどで、確認されても面倒なので……ので、助の家に忍び込んでこっそりと木簡などを置いていく感じだ。

そうすれば具体的な時間まではわからないからだ。

一応二人には俺の能力について詮索しないように言ってはいるが、念には念を入れてである。

 

まぁ俺の部下みたいなやつとはいえ、助は平民だから客将とはいえ武将の俺の行動を逐一把握できるわけがないが……念のためだな

 

こいつを信用してないわけではないが、用心に越したことはない。

そんな潜入したときに調味料やら酒の生産状況などを確認し、場合によっては木簡で助言、実際に加工場へ足を秘密裏に運んで状況を確認しているのだ。

 

他の連中は、俺の超常の力は知らないからな……

 

呂蒙以外で俺の超常さを多少なりとも理解しているのは助だけなので、助以外に俺のことは秘密にさせておいた。

 

「面倒ごとになってな……」

 

軍規もあるので俺のことを話すことはほとんどできないが、それは助も承知しているので細かくは聞いてこない。

俺が助の家……元刀村の連中が住む区画に来たのは、俺が主導で行っている調味料が目的だった。

今回の宴席の開催理由は、決戦前の不和をなくすこと。

そしてそれは俺からの詫びの意味も多分に含まれている。

ならば宴席で出さないわけにはいかないだろう。

 

俺が生み出している、貴重な調味料と酒を……。

 

「すまんがかなりの量を消費することになりそうだ。現在の在庫状況と生産状況を夜までにまとめておいてくれ。それと運搬するため俺が以前に作った巨大運搬車の準備をしておいてくれ。断腸の思いだが……酒も今回持っていく」

「!? 承知しました」

 

俺が酒を消費することにかなり驚いていたが、助はそれだけ言って作業を開始した。

そんな助に礼を述べて、再度俺は気配を消して家を出て江都すらも出て……刀村跡地へと向かう。

江都に移住することになったとき、俺の小屋以外はほとんどの家屋を解体して持って行ったため、跡地となってしまった村。

ただ、俺が魚などをこっそりと一人で取りに来るときに必要なのと、外部の貯蔵庫として必要だったので、俺の家だけは置いておいたのだ。

 

村をそのまま残しといて、野党の拠点になったら胸糞悪いしな

 

開けた場所にあるのであまり拠点にすることはないだろうが、それでも木材を残しておくのもあれだったので他の家屋のものなどは引っ越したために、俺が来てすぐの様子に近い状況だった。

跡地について、俺はすぐさま道具を取りに走る。

そしてすべての荷物をまとめて、畑に放置している結構大きな漁船に積み込む。

なぜ畑に漁船を放置しているのかというと、俺以外に使われないようにするためである。

浜辺まで数百メートルあるので、運ぶのがなかなかに難しいから使いようがないのだ。

俺は必要な道具をすべて積んで、船のそばによると、体を軽くほぐした。

 

「さて……頑張りますか……」

 

わざと言葉にして、俺は自らに気合を入れた。

それは心だけではなく……体に対してもだった。

竜骨と呼ばれる……船の先端から末端までの一番頑丈な部位を持って、俺は全身に力を込めて気と魔力を開放する。

 

「ふん!」

 

木製とはいえ……サイズ的には現代日本の一般的な漁船サイズの船を、思いっきり投げ飛ばした。

数百メートルの距離を超えて、海へと飛んでいく漁船……刀丸。

俺はそれに向かって全速力で走って近寄り、飛び上がって空中で船にぶつかった……のではなく、手でぶつかったときの衝撃を吸収して、そのまま自分の飛び上がった力で船を加速させた。

 

気と魔力を用いた全速力での疾走からの体当たりによる加速!

 

今回赴くべき戦場である海原は、北太平洋付近。

この時代の普通の航海では絶対にたどり着けない長旅となる。

が、そこは俺。

以前から漁業は行っていたが、さすがに遠洋といえるほどの距離を航海したことはなかったが……そんなことを言ってる場合ではないので、能力をフル活用して高速で海を突き進むことにしたのだ。

 

!!!!!

 

船が落ちて、すさまじいほどの水しぶきが発生する。

しかしこの時代の主な材料は木材が主。

当然俺の船も木製であるため、穴でも開かなければ沈むことはない。

しばらくして浮いてくる。

その前に同じく着水した俺は、先に泳いで海面へと出ておいて船が浮き上がってきたら、転覆している状態の船を回転させて正しい姿で海へと浮かべた。

 

「さて、ここからは風と炎か」

 

船に飛び乗った俺は、濡れた衣服を脱いで軽く水気を切って、固定していた物体をいくつか開放する。

その一つが……帆だった。

そして使うのは当然……風翔龍の力だった。

 

「いざ行かん! マグロ漁へ!」

 

その言葉を置き去りにするほどの風を帆の後ろに発生させて……船を急発進。

遠洋に近い漁はそれなりに行っていたのだが、それでもマグロほどの巨大な魚を目当てにするのは、さすがの俺も初めてだった。

というよりも普通に考えてできるわけがない。

大きいものでマグロは、俺の背丈すらも超えるのだ。

それを漁業経験がほぼ皆無な俺が、漁で入手できるわけがない。

 

が……それは俺の世界の時の俺だったらの話だった。

 

「俺には、神威の力があるのだ~~~~!!!!」

 

自分を鼓舞するためか、それともマグロが食べたくて俺もテンションがおかしくなっているのか……はたまたその全部か。

もしくは久しぶりに人目がないことによる能力解放の心地よさか?

俺は実におかしな言葉をほざきながら、大海原へと突っ込んでいった。

 

 

 

 

「刀月が帰ってきた?」

「はい~報告では~そのように~」

 

江都、執務室にて政務を行っていた孫策は、配下である陸遜の言葉に眉をひそめた。

顔をゆがめたのは果たして……どのような感情が起因しているのか? 孫策本人もすぐにはわからなかった。

 

全く……なかなかなことをやらかしてくれたわね

 

軍規違反。

三国志の時代において、これは通常であれば斬首がもっとも適切といえるほど重い罰を課されるものだった。

しかしその軍規違反を、蜀の王劉備は……次に軍規違反をした場合に必ず重い罰を課すという約束をさせることで終わらせた。

斬首に比すればあまりにも軽い罰だが……刀月という常識の範疇を超えた存在を縛るには、実に有効なものと言えなくもなかった。

そして、軍規違反によってもっとも腹立たしいはずの蜀がすでに裁定を下している以上、呉がそれ以上に重い罰を課すのは王としての質を問われてしまう。

むろん何もしないわけにはいかないが、それでもなかなか面倒なことをされたのは間違いなかった。

 

「どうします~?」

「あの男を騙るような馬鹿がいるわけもないのだから、もちろん謁見するわ。今すぐに来れる武将は?」

「今でしたら~黄蓋様が調練中ですので、呼ぶことは可能かと~」

「そう、なら刀月は少し待たせましょう。あと冥琳も呼んで」

「承知しました~」

 

陸遜が首を垂れて執務室から出ていく。

わずかな時間だが、一人となった孫策は目を閉じて一度大きく息を吸うと、しばし息を止めて……それを大きく吐き出した。

そして……閉じていた目を開けて、小さくつぶやいた。

 

「行こうかしら」

 

細く開かれたその目は……射貫かんばかりに鋭く、力を秘めた眼をしていた。

そして気持ちを切り替えた孫策は、そばに置いていた王剣、南海覇王を手にもって立ち上がった。

 

 

 

うわぁ……またこんな感じか

 

報告に登城した俺。

普段であればそれなりにすぐ執務室やら王の間など、報告する存在の場所へと案内されるのだが、今回は王の間の前……前室で待たされた。

といってもそこまで待たされなかった……一時間ほど……のだが、それでも待たされたのは初めてだったので、少々面倒ごとの予感がしていた。

そしてそれは、王の間に入ったことで、的中していると判明した。

手枷こそ嵌められてはいないが、俺は王の座より50mは離れた位置でひざまずかされた。

俺のそばには、二名の完全武装の近衛兵。

王座へと至るまでにも左右に数人の兵士が、槍を持って立っている。

そして玉座の高座……床よりも数段高い位置にある場所そのものの名称……のすぐ下に褐色妖艶が同じく完全武装でいる。

そして玉座に……剣を携えて尊大に座る、褐色ポニーの姿がある。

この配置はどう考えても……罪人のそれだった。

 

いやまぁ……軍規違反って本来斬首が基本のはずだからね……

 

俺の知識は以下略なので詳しくはわからないが、狭い知識で考えるに、時代が上れば上るほど処罰というのは過激になっていくイメージがある。

そして俺が今いるこの世界は、日本の戦国時代も真っ青の、三国志時代だ。

正しくは中国にも戦国時代は存在するのだが、確か三国志よりもはるかにさかのぼった過去の時代だったはず。

 

 

 

※中国の戦国時代は紀元前403~221年。三国志は184年ごろ

ちなみに時代が上るという意味は時代が進むごとに下っていく考えの逆として、時代が古くなるほど上がると表現している

今回の場合は、刀月の平成時代の視点として、時代が上る……過去に遡る……という観点である

一応、鑑刀用語である

 Wikiよりby作者

 

 

 

斬首はないが……どうなるのかね?

 

蜀が裁定をすでに下しているので、面子のこともあってそれ以上に重い罰を下すことはできないはず。

別段それが怖いわけではないが……それでも恐れがあった。

 

というよりも、俺を居竦むかせざるを得ないと思えるほどの覇気を……褐色ポニーが発していた。

 

 

 

……これが、王か

 

 

 

玉座がそうさせるのか……否……締めるべきところは締めるということなのだろう。

王としてこの場にいる以上、褐色ポニーはいうならばこの空間の絶対者。

しかもそれが権力という意味だけでなく……それなりの実力者が王としているのだ。

迫力が普段とは段違いだった。

そしてそれについては当たり前なのだろう。

 

呉の王として……この場に座っているのだから。

 

 

 

……あれだな、さすがに少々この世界の連中をなめすぎていたな

 

 

 

個人で戦えば俺はこの世界において、最強クラスなのは間違いない。

だが、自分でもわかっていたはずだ。

この時代の戦争とは数がすべてであると。

 

そして数だけではなく……国すらも統べる存在である王という存在。

 

ましてや呉の王である褐色ポニーは、素人娘と違い……武をもって国を治めているといっていい。

蜀はいわば、皆が皆のために国として成り立っている雰囲気がある。

だが呉は……世襲とはいえ王たりえる孫策が治めている国なのだ。

その王が……生半可な存在であるはずがなかったのだ。

 

 

 

「さて刀月……呂蒙からの書状をもらいましょうか?」

 

 

 

挨拶もなにもあったものではない。

完全に事務的な言葉。

罪人である俺に当然、言葉を発するような立場であるはずもない。

ただ黙って、呂蒙より預かった書状をそばの近衛兵に渡した。

 

実に遠いな……

 

たった半日ほど前まで、俺は蜀の都にいたというのに……このわずか50mほどもないような距離が、ひどく遠く思えた。

といっても、別段本気で遠いと思ってはいない。

それは空間的にも心情的にもだ。

距離以上の隔たりは……まだない。

この距離が通常にならないように、俺も今後の動きを注意しなければならないだろう。

そうして俺が少し内心で反省していると、書状を読み終えた褐色ポニーが……尊大に言い放った。

 

「なかなかどうして……暴れまわったようね、刀月」

 

責めるわけでも、咎めるわけでもない。

平坦な言葉。

ただただ褐色ポニーが思ったことを述べただけ……そんな口調だった。

 

「そうなります。軍規違反は重々承知しておりましたが、それでも私が戦わなければならないと判断し、一人戦場へと降りました」

「城壁から飛び降りて、そのまま敵軍を壊滅にまで追い込むか。本当に……あなたはとんでもない存在ね」

 

その言葉に、俺のそばにいる近衛兵が身を委縮させたのが伝わった。

敵軍がどの程度の規模かまでは伝わってはいないだろうが、それでも城壁から飛び降りる……それはすなわち一つの城が門を閉ざさなければいけない規模であることは明白。

それを一人で壊滅させたというのだから、委縮するのも無理はないだろう。

 

俺が暴れたら真っ先に戦わないといけないのが、この二人だしね~

 

むろん暴れるわけがないので杞憂でしかないが……それでも恐怖するのは当然だろう。

 

「戦わなければならない……ね」

 

ぼそりと……そんなつぶやきが孫策の口から洩れた。

小さいつぶやきのため、おそらくそばに控えている褐色妖艶にも聞こえているかどうか、といったところだろう。

しかし五胡の前線基地である城にて暴れまわった事実は、褐色ポニーだけでなく他の将にも間違いなく伝わっているはずだ。

呉の最高司令官である呂蒙が書状にどんなことを書いたのかは謎だが……悪いようには書いていないはず。

そこは心配していないのだが、刑罰がどうなるかが……少々心配だった。

 

戦うことを強要されないことを祈るしかないが……

 

俺が戦に出れば被害は減る。

これは間違いない。

というよりも、ぶっちゃけ……俺が本気を出せば魏は間違いなく、すぐに堕とすことができる。

何せ魏の総大将である骸骨ツインテもそれなりに武人だが、褐色ポニーよりも弱い。

能力を使わなくても……俺は生来の身体能力と暗殺術のみで、骸骨ツインテを殺すことができる。

そうすれば骸骨ツインテのカリスマでまとまっている魏は、壊滅的な被害が出る。

俺が三国を統べるために動いているのなら暗殺は悪手だが……俺は国を統べる気もなければ、暗殺するつもりもない。

 

戦いは数だよ……

 

利用するためには、敵国を疲弊させたくない。

また、骸骨ツインテも殺すに足る理由がない。

何よりも……俺自身に「俺ツエー」をさせるために、あの二人がこの世界に俺を飛ばしたわけがない。

 

得物を封印したのはそうだと思うんだが……

 

得物が封印されて、不殺をさらに厳格にして早数年。

俺がまともに戦ったのは二回のみ。

そして……俺がこの世界で命を奪ったのは一度。

 

数は……残念ながら多いのだが……

 

操られていただろうし、おそらく俺が殺したほうがよかったという可能性は捨てきれない。

だがそれでも俺は殺してしまった。

この世界で虐げられた人々を。

それも……俺と同じように並行世界から来たと思われる、悪しき存在に踏みにじられた人々。

 

必ず借りは返すぞ……

 

と、思い返して想いを新たにするのだが、それでも今は目先のことが肝心。

とりあえずひざまずいたまま……俺は褐色ポニーの言葉を待つしかなかった。

 

「呂蒙の書状、そして蜀の諸葛亮、さらには蜀の王からも書状が来ている。蜀ではすでに裁定が終えていると。本来、同盟関係の相手の軍規を破ってまで出陣など、即座に斬首することのなるのだけど……呂蒙だけでなく、蜀からも文句ではなく礼を言われては、それはできないわね」

 

呂蒙とミドリボンはともかく……よもや素人娘からも書状があるとは思っていなかった俺は、思わず目が点になってしまった。

しかしそれもすぐに納得に変わった。

お人好しの素人娘のことだ。

気をまわしてくれたのだろう。

 

王になるには……優しすぎるやつだな

 

つくづく……己に合わないことをするのが好きなやつだと、俺は思ってしまった。

 

人のために己をねじ伏せてまで……自分ができることをやる。

 

俺にはできないと……素直に尊敬した。

 

「ただ……次に問題を起こしたときは厳罰を受けるという約束を、私の許可もなく受けたのは、あまり褒められたことではないわ。さらに言えば……あなたが天の御遣いと同じ世界から来たというのは、私だけでなく呂蒙すらも初耳だったと、記されているわね」

「……」

「これに対して、刀月……あなたからいうべきことはあるのかしら?」

 

これに関しては……正直何も弁明が思い浮かばなかった。

なのでここは正直に……言うこととした。

 

「正直に申し上げて、弁明することすらできません」

「あら、ずいぶんと潔いのね?」

「聞かれなかったから答えなかった、というのは簡単ですが、あまり誠実な態度とは言えませんからね」

「まぁそれはそうね」

「また、敵の存在も反董卓連合の時にすでに接触していたのですが、あちらが妖術を使う存在だったので、警戒して報告をしませんでした」

「帰るのに妖術が必要……ずいぶんと奇天烈なことをいうのね」

 

俺自身そう思っているのだから、いくら妖術や仙術などが信じられていたこの時代とは言え、あまりにも馬鹿なことを言っている思いだろう。

実際……そばの近衛兵二人の侮蔑に満ちた視線が、俺に向けられたのが分かった。

しかしこれについては前から褐色ポニーには伝えている。

それをあえて言うのは……兵士に聞かせていると考えていいだろう。

あまり考えが読めなかったのだが……褐色ポニーが剣を帯びているのが少々気になった。

 

だがすぐにその意味を俺は知ることになった。

 

「裁定がすんでいるけれど、勝手に相手の要求を飲んだことに対して、何もお咎めがないわけにはいかないわね」

 

そう言いながら立ち上がり……高座を降りて、褐色ポニーがこちらへと歩んでくる。

 

「策殿」

 

褐色妖艶が一度は止めるが……褐色ポニーから漏れ出始めた闘気を感じ取って、止めるのやめていた。

兵士たちはわざわざ王座から降りて俺に近寄るのかわからず、戸惑っていた。

 

「立ちなさい刀月」

 

王座と俺のちょうど中間点で立ち止まって、褐色ポニーがそう命じてくる。

今の俺に拒否権などあるわけもなく……俺は素直に立ち上がった。

そして……そばの近衛兵にとんでもない命令を下した。

 

「刀月に剣を渡しなさい」

「!? 孫策様、それは!」

 

近衛兵がそれを拒否するような言葉を発するが、有無を言わさぬほどの覇気を身からあふれ出させて、黙らせる。

ちらりと褐色妖艶へと近衛兵が目を向ければ、驚くことに褐色妖艶もうなずいてしまう。

なんのために自分がいるのかとか、いろいろ思うところはあるだろうが王命とあっては逆らえるはずもない。

近衛兵が俺に抜き身の剣を渡して、後ずさった。

剣を受け取り、近衛兵が二人とも下がって……俺が褐色ポニーへと視線を向けたその瞬間、褐色ポニーが俺へと突貫してくる。

 

「……本気で防ぎなさい」

 

ぼそりと……俺にすら聞き取るのが難しいほどの小さな声で、褐色ポニーがそうつぶやいた。

それで大まかな内容を察した俺は、褐色ポニーの攻撃を防御する。

 

!!!!

 

すさまじい剣戟音が、王の間に響き、そして埋め尽くされた。

あまりの激しく鋭く……数の多い猛攻だった。

 

大根役者にならないようにしないとな……

 

と、最初こそのんきに考えていたのだが……結構普通にいい攻撃をしてくる褐色ポニーに、内心で少々驚いた。

 

以前より攻撃が鋭くなってないか?

 

そんな思いが態度に出たのか……表情筋を総動員して、何とか真面目な顔にはなっていた……褐色ポニーの体から覇気とは別に、怒気が爆発して周囲を威圧する。

 

……やるじゃん

 

俺が戦ったことがあるのは入れ墨娘と、この前の五胡の時のみ。

ゆえに……この場にいる兵士で、俺が戦う姿をここまで間近で見たことのあるやつはいない。

そのため……猛攻で押されている俺を見ても、不思議に思わない。

というよりも、俺が手を抜いているかもしれない……そんな疑いを抱けるような攻撃を、褐色ポニーがしてこなかった。

 

冗談抜きで、俺が少しでも防御をしくじれば普通に殺すつもりで襲ってきている。

 

そんな攻防をしばしやっていたのだが……意外なことに褐色ポニーが振りぬいた剣をそのまま手放した。

 

「なっ!?」

 

戦闘中に剣を手放すなんて想像だにしていなかった俺は、文字通り面食らって声をあげてしまった。

そんな俺にお構いなく、褐色ポニーは振りぬいた勢いをそのまま溜めの姿勢にもっていき、渾身の力を拳へ乗せる。

 

「受けなさい」

 

再度ぼそりと……深く深い、重く重い、おどろおどろしい感情を乗せた小さなつぶやきが褐色ポニーから発せられて、俺はこの茶番の本当の意味を悟った。

 

……やむなし

 

確かに面食らったのは事実だが……正直本気であれば何ら問題ないが、今は裁定の場。

ならばこれが罰であると理解した俺は、気力も魔力も使わずさらには筋肉へ力を入れるのも最小限にして……褐色ポニーの殴打を腹で受けた。

 

!!!!

 

「ぶっ!?」

 

震脚によって王の間という広大な部屋が揺れるほどの、足の力が込められた殴打。

それを気力も魔力も、挙句に腹筋もほとんど力を入れない状況で受けた俺は、打ち上げら

れた。

平均身長より少し高めなだけとはいえ、筋力も相応以上にある俺の体が少し浮くほどの打ち上げ。

 

……普通に死んでるぞこれ

 

実際、とっさに内臓上げで腹部の内臓を肋骨内に隠しておかなかったら、胃などを痛めていただろう。

冗談抜きで……殺すつもりだったということだろう。

 

俺じゃなければ死んでいたってのがみそだね……

 

と、冷静に分析しているが、実際としては……久しぶりに味わう殴打の痛みに、結構本気で悶絶したりしていた。

口を押えて吐くのを必死に耐えるくらいには、効いていた。

 

「ここは王の間よ。汚すことは許さないわよ」

 

そんな俺に追い打ちをかける褐色ポニー。

王の間を汚すことはない……斬って殺すつもりはないが、汚物などで汚すのも許さないという二つの意味。

 

しかしこれは、俺のことをある程度知っている人物のみがわかることだ。

 

周囲にいる近衛兵や一般兵などには……俺という土木怪人を打倒した孫策という構図になる。

仁王といえる蜀の王が、約束という縛りで罰を与えた。

ならば武王といえる呉の王が与えるべき罰とは?

 

それは……客将とはいえ自らの部下を、武をもって下すことができるのを知らしめることだった。

 

要するに……本気で戦えば俺が勝つのだが、そんな俺が「負けた」という黒星を刻ませることが罰であるということだ。

この世界においてはあまり影響がないが、これが自分の世界であれば結構やばいことになる。

何せ俺の世界における敗北とはすなわち……暗殺失敗ということに他ならない。

別段成功率100%を謳っているわけではないが、失敗したという事実は依頼者からの信用を落とすのと同義。

かなり痛い罰である。

 

だがここは並行世界。

 

そこまで重くない、また俺自身……負けてもいい相手ではあるため、そこらは飲み込むことができた。

 

「少しは落ち着いたかしら?」

「……はい」

 

しばらく間をおいてから、悶絶を終えた俺を見て、褐色ポニーが見下すようにそう告げてくる。

それに返答し、俺は再びひざまずいて首を垂れた。

その俺の首元に……拾い上げた自らの得物、南海覇王を添えてくる。

 

「状況を鑑みて、今回はこれで許してあげる。けれど……次はないわよ」

「承知しました」

 

また、一番重要なのは……兵士たちに自らの王が強者であり、俺という存在の手綱を握らせることができるということを、知らしめることだった。

武将の連中は俺が褐色ポニーに勝てるだろうことは想像できるだろう。

また武将とは言わなくともそれなりに強いやつは、俺のほうが強いと考えている連中もいるだろう。

しかし実際問題として……俺がこの場で褐色ポニー、つまりは孫策という王にひざまずいたことが重要なのだ。

武で劣るかもしれないが、それでも俺を御せるというのを周知させる。

 

王の命令を聞く存在であると、喧伝する必要性があるのだ。

 

これらすべてが俺の今回の騒動に対する罰ということなのだろう。

そう俺が分析していると、褐色ポニーが大きく頷いてから剣を収めて、玉座へと戻った。

 

「これをもって、刀月の今回の騒動における裁定を終えるわ」

 

その言葉をもって、俺の命令違反の裁定は終わりを告げた。

それに伴い、王の護衛についていた……実際は今回の沙汰を広めるための証人だろう……近衛兵や兵士が王の間から退出する。

主要な武将以外に人がいなくなったことで……俺はようやくひざまずいていた体勢から立ち上がった。

 

「なかなか、重い罰をくれたな」

 

俺が立ち上がる前から褐色ポニーは玉座から離れていたのがわかっていたので、俺は普段通りの言葉でそういった。

そんな俺に対して褐色ポニーが苦笑を浮かべる。

 

「しょうがないでしょう? 普通斬首だけど、それはできる状況じゃなかったし……命令違反を除けば、蜀に与えた恩義は相当なものだから、本当は恩賞を与えてもいいくらいよ?」

 

その言葉には少々驚いたが、確かにそれは不思議でもなんでもなかった。

仮に俺があの場にいなければ、一つの城が攻め落とされて、国の内部まで侵攻を許していただろう。

元気娘の言を信じるのならば、侵攻された土地は相当悲惨なことになったのは想像に難くない。

 

「しかも劉備から罰は軽めでお願いしますって言われたたらねぇ。こっちの度量が問われる状況だったものだもの。それに、甘んじて私の拳打を受けたってことは、意味も分かってるんでしょう?」

「あぁ」

「まったく、策殿も無茶苦茶する」

 

この場に唯一残った褐色妖艶が、からからと笑いながら俺の肩を叩いてくる。

二人の態度に悪感情は見られない。

とりあえず本当にこれで終わりにしてくれたのだろう。

 

あくまでも王としての罰はだが。

 

「それと、あちらで宴席を設けるみたいだけど、まさか主である私に何もない……なんてことはないわよね?」

「……もちろん」

 

書状の報告に入ってないわけがない内容だったので、俺は内心苦虫を嚙み潰した思いで返答する。

さらに……素人娘と違って絶対についてくるのが、仕合だった。

 

「それと……わかってると思うけど、抜いた得物での仕合もしてもらうわよ?」

 

俺の得物が抜けたことは、すでに報告が終えてそれなりに周知されているようで、褐色妖艶も驚いた様子はなかったが……実に猛々しい笑みを浮かべている。

こちらとも戦うのはわかりきっていたが……こうもやる気満々だと、逆にこっちは少し辟易としてしまう。

 

「……あまり時間がないぞ?」

「あなたの馬鹿げた移動で補いなさい。これは命令よ?」

「……了解」

 

俺の移動がどれほどのものかは俺以外誰も把握していないが……それで遅れをカバーしろという命令まで下された。

なかなかにひどいものである。

 

「それで、どっちが先がいいかしら?」

「どっちがというと? 命令違反以外にも何かあったのか?」

 

書状を読んでいない褐色妖艶がうずうずと、戦意を漲らせながら問うた。

まだ呂蒙の書状を読んだのは褐色ポニーだけなので、蜀の状況を把握してないから当然と言えた。

 

……そして、そうなると

 

「それがね祭。この男、劉備に刀月が作った酒を飲ませたみたいなの」

「な、なんじゃと!?」

 

褐色妖艶が驚きのあまりに、実にでかい声をあげている。

褐色知的眼鏡に一晩程度の酒は渡しているので飲んだことはあるだろうが、それでも俺としてはかなり渋って出したのは、二人とも十分理解している。

そんな俺が振舞ったと知れば、驚くのも無理はなく……そして怒ってくるのも納得だった。

 

「刀月、おぬし劉備のようなおなごが好みだったのか?」

 

あ、こいつの場合、そのたぐいもあったか……

 

思いっきりため息をつきそうになったが、一応怒られた後だ。

さすがにため息は我慢した。

しかしこれ以上続けられたら面倒なので、俺は言葉を返す。

 

「好みか好みじゃないかで言えば外見は間違いなく好みだが、それが理由じゃねぇ」

 

またぞろ面倒な問答が始まりそうだったので、俺はぴしゃりとそう切って捨てた。

確かに俺がまずいことをしたのは事実だが、あまり機嫌を損ねるようなことをすれば、俺としても全力でめんどくさい方向にもっていく気だったので、それを態度で出しておく。

さすがにそれは察したのか、それともこれ以上からかうと酒が飲めなくなると考えたのか……二人がこれ以上このことについて、話題を掘り下げることはなかった。

 

「策殿。わしとしては、こいつの酒が飲みたいのだが?」

 

逃がさんというように俺の肩に腕をまわして……褐色妖艶がそうそわそわしながら褐色ポニーに対してそう意見する。

酒好きとしては、ぜひとも飲みたいのだろう。

 

「ちなみに私たちに出す料理って仕込みはかかるのかしら?」

「……そうだな、数日は待ってほしいかな」

「なら仕合ね。どうせあなたのことだから、さっき殴ったのもほとんど治ってるでしょ?」

「ご明察」

 

実際問題、気力ですでに殴打の影響はほぼ皆無になっている。

それに対して、料理はどうしても仕込みに時間がかかる。

むろんすぐに出せるものもあるのだが、褐色ポニーが求めているのは、宴席に出す予定の俺のとっておきの料理を「主である自分に先に食べさせる」ことだ。

ならば下手なものは出せない。

 

まぁ……ある意味で呪われる食べ物になるんだが

 

「それで、あなたのあの剣が抜けたのよね? まずはどんなものか見せてもらえるかしら?」

 

この世界において唯一、俺の刀を手に持ったことのある褐色ポニーがうずうずしながらそう言ってくる。

見せるのは別段問題ないので返答をしようとしたのだが……

 

「刀月!」

 

王の間が乱暴に開かれて、一人の人物が入ってくる。

それは意外なことに……褐色知的眼鏡こと周瑜だった。

 

「あら瞑琳。血相変えてどうしたの?」

「そこの男が帰ってきたと聞いたから、今やっていた会議を切り上げてきたんだ」

 

褐色知的眼鏡が仕事を切り上げるという言葉に、俺だけでなく褐色ポニーに褐色妖艶も驚いた様子だった。

そんな俺たち三人を無視して、褐色知的眼鏡は俺に近寄ってきて……俺の胸倉を思いっきり掴んだ。

 

「お前というやつは……いくら同盟国とはいえ、命令違反をするとは何事だ?」

「いや、その……すまん」

 

別段怖くはないのだが……普段冷静沈着な褐色知的眼鏡が青筋を額に浮かばせながら言ってくるものだから、なかなか迫力があって思わず謝ってしまった。

素直に俺が謝るものだから、褐色知的眼鏡も面食らったのだろう。

キョトンとするが……すぐに手を放して優し気に苦笑した。

 

「まぁ先ほど捕まえた近衛兵に報告を聞いたから、私からとやかく言うのもあれだろう。次はないからな?」

「お前ら二人は、言うことが同じだなぁ」

「当たり前でしょ? 私と瞑琳の仲なんだから」

 

褐色ポニーがそう言いながら、褐色知的眼鏡の腕に自らの体を絡めて満面の笑みでそう言ってくる。

突然腕に抱き疲れて褐色知的眼鏡が少々驚いていたが、一切嫌そうなそぶりは見せず、それを受け入れていた。

少々百合百合しく思えてしまうが……こいつらの場合は本当に仲がいいのはわかっている。

ちらりと目を向ければ、褐色妖艶も苦笑こそしているが実に微笑まし気に、二人を見ていた。

 

まぁ……こいつらの場合どっちも死にかけたからな

 

というか、俺がいなかったどちらも死んでいたのだ。

確かにこの乱世において、死とは常に隣り合わせのような状況だが……こいつらの場合は普通ならば死なない立場なのだ。

何せ王とその一番の側近だ。

暗殺される可能性は低く、二人とも戦場には出るだろうが最前線に出ることは稀だ。

可能性は相当低いはずだ。

 

むろん二人とも死の覚悟がないということはないだろうが、

 

覚悟はあっても別に死に急いでいるわけでもない身で……本当に死を乗り越えたのだ。

仲睦まじい分には何も問題ないだろう。

 

「それで? 実際にどのような状況なのか、私にも説明してくれないか?」

「ちょっと瞑琳。刀月はこれから私と祭の――」

「そう言うと思ったのもあって急いできたんだ。二人からしたら酒も仕合も大事なんだろうが……まずは実際に現場にいる人間からの報告だ。それはわかるでしょう、孫策様?」

 

あえて様付けにしたことで、王に進言したという体にしたのだろう。

そしてそれは、ある意味で今この場においては、最も効果のある言葉と言えた。

 

「ぐっ」

 

何せここは王の間。

玉座から降りて同じ高さの床に立っていることで、王ではなく私人としての立場で接しているとはいえ、王であることは消しようもない事実。

挙句に、必要なことだったとはいえ、先ほど俺に対して王として罰を下したばかりだ。

しかも魏との決戦が近いと……ミドリボンが予想していた。

それは書状でやり取りをしているはずの褐色知的眼鏡が考えていないはずもなく、その考えを褐色ポニーが聞いていないはずがない。

時期が時期なだけに、さすがに私情を優先することはできないだろう。

しばし悶絶するように顔を歪めていたが……すぐに諦めて息を深々と吐きだしていた。

 

「まぁそれもそうね。刀月、なるべく手短に報告してもらえる?」

「手短でいいわけがないだろう、雪蓮。しっかりと話をして今後の対策を練らないと」

「それは~私も~聞きたいです~」

 

そうしているとおっとり眼鏡が王の間に入ってきて、そう言ってくる。

確かに子細な報告が必要なことは間違いないので、そのまま報告会と相成った。

しかしそれの終わりの際に

 

「「明日は仕合と宴席!」」

 

と、要求してきたのだが……さすがにこれにはNOを言えなかった褐色知的眼鏡が、明日の予定を調整していた。

 

 

 

 

そうして次の日……俺はその日も必死になっていろいろと駆けずり回っていた。

 

まずは深夜。

再び漁へと向かい魚を大量に仕入れたり、また目当ての魚の熟成を進める。

次にほかの食材の仕込み。

調味料を助の家から運び込んで料理の仕込みを開始。

そして昼以降にまずは……戦闘狂の二人の相手をさせられた。

 

!!!!

 

剣戟の音があたりを響かせる。

ここは野外の練兵場。

俺と相対しているのは、褐色ポニー。

そしてそばで、俺と褐色ポニーの仕合をじっくりと見つめる、褐色妖艶の姿。

この場にいるのはそれだけだった。

武将がそこまで多くない呉ではあるが、褐色襟巻はどうやら褐色ロングと一緒に視察というか、別の要所への慰問などに行っているようだ。

褐色ロングの妹である褐色ツインロールも、それについて行って仕事を覚えているらしい。

また玄人娘こと公孫賛は、一昨日蜀へ向けて定期便の任務について出払っていた。

ただこれについては俺にとっては好都合だった。

俺が蜀へ戻る際に荷物のいくつかの運搬を、途中で合流して任せてもいいだろう。

何せ今回は大量に食料やら調味料やら酒やらを、運搬しなければならない。

俺に一人ではきついが、保存食でもある調味料の運搬は任せて問題ないだろう。

 

また、この二人にとっても、玄人娘がいないのは都合がいいのだろう。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

裂帛の気合とともに振り下ろされる褐色ポニーの剣。

 

「せいっ!」

 

褐色妖艶の短い呼気とともに放たれる幾重もの矢。

 

そのどちらもが……本当に俺を殺す気で来ているのが、本当に笑うしかなかった。

確かにこいつらに殺されることはほぼないというのはあるが……それでも冗談抜きで文字通り殺してやるという感情まんまに襲い掛かられては、ちょっと思うところがないでもない。

 

いや、べつにいいんだけど……

 

ちなみに仕合形式というか……俺が本気を出したらすぐに勝敗が決まるために、数分は防御に徹しろとのお達しが出ていたりする。

砂時計もないこの時代では、時間を計るのは完全に個人の感覚に大きく左右される。

むろんある程度の時間は鐘で知らせるなんてところもあるし、首都であるここにもそのシステムはあるのだが……数分はさすがに対応していない。

ので仕合が始まる前に俺が、同じ高さになるように……ボウリングの玉ほどの岩を上空へと投げて時間を計ることとした。

地面に落ちればよほど遠くに落ちない限り、周囲の地面を響くほどの重さがあるからだ。

そして、

 

!!!!!

 

地面に落ちて音がすると同時に、俺も攻勢に転じる。

 

「時間だ」

 

その言葉とともに、相手が身構える。

一応ガス抜き兼俺への罰兼訓練になっているので、攻勢に転じてもすぐに二人を負かすことはしない。

決戦が近い。

褐色ポニーはともかくとして、褐色妖艶は前線に出る可能性が大いに高い。

ゆえに……俺としても仕合を行うのはやぶさかではなかった。

 

まぁその前に……褐色妖艶とはひと悶着あるだろうが……

 

俺が知る、数少ない歴史的事実。

これをさせると結構面倒ごとになると考えて、俺としても手を打っているのだが、それでももめるのは容易に想像できるので、少々面倒くさかった。

 

まぁ今はとりあえず、目の前の仕合に集中しようか……

 

片手間でできなくはないが、それはさすがに相手に失礼なので俺としても一応それなりに本気を出して、夜月を振るう。

褐色妖艶の矢の場合は、刀で切り捨てると流れ弾が危ないので、俺は一度夜月を宙へ投げて褐色妖艶が放ってくる矢を、手で掴んでは捨ててを繰り返して、距離を詰める。

 

「くっ!? 腹立つやつじゃな!」

「ほめてくれてありがとう」

「嫌味か!? 刀月!?」

「もちろん」

 

戦国時代の人間が、五人がかりで弦を張る五人張りの弓。

常人では少しも引くことのできない強弓を、褐色妖艶は恐るべき速さで連射してくる。

刀で弾くことは容易ではあるが、こう連射されては弾きながら近寄るよりも、矢が切れるのを待ってから攻勢に転じたほうがいいかもしれない……俺がそう思わせるほどの連射。

なかなかできることではないだろう。

さすがは戦国武将。

すさまじい肉体だ。

しかしこれは二人の訓練でもある……と俺は思っている。

ゆえに……普段ではありえないことを経験させるのも悪いことではない。

なので、俺は……褐色妖艶の連射を両手を使って掴んでは捨ててを繰り返して、さっさと褐色妖艶を己の間合いに捉える。

 

「くっ!」

 

しかしそこは宿将といわれるほどの、経験と実力を持つ褐色妖艶こと黄蓋。

すぐに弓を体に通して剣を振るえる状況にして、抜剣して俺の拳を迎え撃つ。

 

!!!!!

 

生身の拳が剣を殴ったとは思えない音が、辺りを震わせる。

俺の殴打に対して褐色妖艶の防御が間に合うと判断した俺は、あえてその一撃で攻撃をやめて鍔迫り合いというか……力比べへと発展させた。

男女の肉体的差があるために、本来であれば褐色妖艶がすぐに負けるのだが、さすがは五人張りの弓を扱う宿将。

俺の一撃を受けて拮抗する。

 

「本当に……憎たらしい小僧よな、刀月」

「あらわかった? さすがだな」

 

まぁ正しくは拮抗状態に俺がしているわけだが……

 

褐色妖艶が吹き飛ばないのは言わずもがな……俺が拳を振りぬききっていないからだ。

吹き飛ばすつもりならばすぐにできるが今は特殊状況を味わう修行の場。

あえて拮抗状態へと陥らせる。

 

「おぬしに言われても嬉しくないわ!」

 

その言葉とともに全身に力を入れて俺を吹き飛ばそうとするのだが……俺はそれを右腕の力だけで抑えつける。

さすがに片手の俺の腕だけで、両腕で剣を握っている自身が力負けするとは思わなかったのか、今度こそ褐色妖艶が瞠目する。

その隙を見逃さず……俺はその隙にゆるんだ四肢の足元を狙って、足払いをする。

 

「なっ!?」

 

実に屈辱的なことで転がされた褐色妖艶が、驚くとともに背中を打ち付ける。

目を閉じることはなかったが、完全に態勢を崩された形だ。

その首筋……のすぐ横の地面に向けて思いっきり四股を踏んだ。

 

!!!!!

 

実に鈍い音が辺りを響かせる。

その音が響くのとほぼ同時に、俺のそばに先ほど投げた夜月が降ってきたので、柄を掴んだ。

 

「ほい終了」

「……憎たらしいの」

 

さすがに負けたことはわかっているのか、褐色妖艶が言葉どおりの感情を目に宿らせて、俺を睨んでくる。

俺はそれを涼し気に受け流しながら、寝転ぶ褐色妖艶に手を差し伸べた。

 

「まだやるんだろ? とりあえず一度休憩だな」

「そうじゃな」

 

俺の手を素直に取って褐色妖艶が立ち上がった。

その瞬間だ。

 

「さぁ、今度は私!」

 

そう言いながら俺の背に向けて斬りかかってくる、褐色ポニー。

なんというか……好戦的なのは十分結構なのだが、さすがに礼儀礼節を少しは考えろと言いたくなる始め方だ。

俺は背後からの上段切りを、背中に回した夜月の鎬で受け止める。

 

「お前な。さすがに少しは礼節をだな?」

「あなたなら大丈夫でしょう? 実際……あなたが得物を抜いた状態で相対して、興奮が止められないのよ!」

 

言葉通りというべきか……声が文字通り興奮気味だ。

背後からの切り込みなので、褐色ポニーが俺に剣を押し込む力を利用して、あえて体勢を崩す。

自ら倒れこむような状態になった俺に対して一瞬驚く褐色ポニーだが、そのまま一歩踏み込んで剣を押しつけて俺を地面にたたきつけて斬ろうとする。

体勢を崩して倒れこんだ時に踏み込んだ俺は、その一歩で横へと跳んだ。

褐色ポニーの切り込みよりも速くだ。

 

「なっ!?」

 

自らが振るった殺す一撃を避けられた褐色ポニーが驚きの声を上げるが、その時にはすでに俺は気壁を展開しそれを蹴って玉が跳ねるように、急速に褐色ポニーへと近寄って右回し蹴りを繰り出す。

 

「っ!」

 

その俺の蹴りに剣を振り下ろす褐色ポニー。

俺の足が斬れないとわかっての行動だろうが、なかなかどうして、普通の訓練ではしないことだ。

 

まぁ……確かに斬れないが……

 

剣と真っ向からぶつかった俺の足から、実に硬質な音が響き……褐色ポニーの剣を腕ごと吹き飛ばした。

 

「ぐっ!」

 

魔力こそ使用していないが、今回はそれなりに本気を出すために、気力は使用している。

両手で振り下ろした剣とはいえ、俺の気力を用いた脚力に勝てるわけがなかった。

体勢を崩した褐色ポニーに対して、俺は回し蹴りの勢いを回転に加えて一回転し、そのまま胴へ向けて夜月を閃かせ……服の上でそれを止めた。

 

「くそ!」

「気持ちはわかるが、一回一回を大事にしろよ。それこそもったいないぞ?」

「それは……」

「まぁ口で言ってもわかるまい。ということで、今回はこれで終わり」

「えっ!?」

 

不意打ちをして仕掛けてきたうえに、攻防は本当に一瞬。

これではさらにうっぷんがたまるかもしれないが、目には目を歯には歯を。

不意打ちと負け一回で即座に終了だ。

褐色妖艶が先ほどそれなりに切り結んだのに、自分は数秒で終わり。

なかなか重い仕置きといえるだろう。

 

「ちょ、刀月! それはひどくない!?」

「不意打ちするような卑怯者は、少し仁義と道徳を考えなさい。黄蓋、行くぞ」

「策殿、案ずるな。わしが必ず敵を取るからな」

「勝手に殺さないでくれる!? っていうか、ちょっとまって!?」

「不意打ちするのが悪い」

 

そう言ってすぐに、褐色妖艶と切り結び始める俺。

さすがに始まってしまってから邪魔をする気はないのか、横やりを入れてくることはなかった。

 

「弓でダメなら剣で勝つまでじゃな」

「おいおい、それこそ無理だろう? 一番の相棒である夜月を手にした俺相手に剣で? 悪いが俺が剣を捨てない限り、俺に勝つ日は来ないよ」

「いうたな小僧!」

 

なめたわけでもなければ馬鹿にしたわけでもない。

気力と魔力を使える俺が、負けるわけがない。

が、これは訓練も兼ねている。

ゆえに……すぐに負かすことはしない。

 

!!!!

 

間断なく振るわれ、剣と刀が激しく金属音を響かせる。

どちらかといえば弓のほうが実力が上の褐色妖艶だが、宿将なだけあり……剣技も相当なものではある。

破壊する気がないとはいえ、俺の夜月と切り結べていることから鑑みても、褐色妖艶の剣もなかなかの業物のようだ。

まだ成熟しきれないとはいえ、明日死ぬかもしれない状況下で鉄を鍛える職人だ。

ものが悪いはずもないのだ。

 

だがそれでも……夜月が負ける道理はない!

 

しばらくして攻勢に転じて、今度は力ではなく速さと範囲を重視し、俺はあえて左手で柄頭を持った片手の状態で、レイピアを扱うかのように連続での突きを繰り出す。

 

「ぬっ!?」

 

夜月は定寸……時代によるが大体、刃渡り二尺三~四寸の長さ(70cm前後)……の打刀。

しかも反りもあるため、レイピアに比べれば突きには向かない代物である。

しかしそれを覆せる刀を押す膂力と、瞬時に伸ばした手を引き戻すしなりもある。

 

「くっ!?」

 

突きは腕を引き戻すときに懐に潜り込むのが、攻め側からしたらある意味で一番都合がよい。

伸ばし切った手を引き戻さねば、再び突くことはできないのだから。

が、それはレイピアであればそれなりに通用する手。

何せ俺が手にしているのは打刀。

斬ることに特化させた剣であり、そして刃物は引くときに最も切れ味を発揮する。

懐に入ろうとしたその時に、腕の戻し方を変えれば斬ることも不可能ではない。

さらに言えば、俺が懐に潜り込むことができるような遅い突きを、するわけがなかった。

 

「ぬぉぉぉっ!」

 

それでもいじらしくも、俺の突きを必死になって捌き続ける褐色妖艶。

それを続けさせるのもよかったが……今は普段は感じることのできない力の差を味合わせて咄嗟の判断力を磨くための場。

ゆえに……俺は一瞬だけ溜めた突きを、黄蓋が両手で持った柄のちょうど真ん中に向けて突き通す。

 

「ふっ!」

 

短い呼気とともに突き出す夜月。

それは速さよりも力を重視した一撃。

しかし決して先ほどよりも突きが遅いわけではない、ある種の矛盾を孕んだ突き。

力と速さを両立させた突きは、褐色妖艶を体ごと吹き飛ばすには十分すぎた。

 

「ぐあっ!?」

 

あえて柄を破壊しないように、突いた瞬間に貫き通すのではなく、触れた瞬間にそのまま柄ごと押すことで、体ごと吹き飛ばす……つまり刀で押し出す形にした変技。

武器を取りこぼさないのはさすがというところだが、一瞬とはいえ俺が本気に近い形で打ち込んだ突きをまともに受けて、手がマヒしているようだった。

 

「ほい、黄蓋が今度は休みな。さて、それでは互いに構えて……」

「行くわよ!」

 

俺の言葉が終わるのと同時に、褐色ポニーが俺に向かって走り寄ってくる。

今度は不意打ちをしてこなかったが、フライングに近い形だった。

 

「お前は……本当に猪だな」

「悪かったわね!」

 

全く悪びれる様子もなくそう言われても、何の意味もない。

だがとりあえずこの二人の発散及び技量向上は、それなりに大事な仕事だ。

ゆえに一対一だけにとどまらず、そのうち二人がかりの攻防もさせられた。

しかしこちらに関しては、俺も実に有意義な時間となった。

何せこの世界においての上位実力者が、二人がかりで俺に向かってくるのだ。

対人戦闘が鈍っている俺にとっては、願ったりかなったりというところ。

ゆえに……俺もこちらに関しては結構本気で取り組んだ。

といっても……それは防御に限った話になるのだが。

 

「祭との二人がかりで!」

「仕留めきれんとは! 腹たつの!」

「まぁまぁ、そうカッカするな」

「「お前が言うな!」」

 

こんな漫才みたいなやり取りもあったりしたが……俺としてもなかなか楽しい時間を過ごせたりする。

 

 

 

 




だってさぁ……くっそ忙しい五月中、三日しか休めず終わらせた決算が終わって、数か月ぶりの有給取ったその日、ぶらぶら銀座歩いてたらさぁ……
懇意にしている店から



いいの入ったよ!



って、メールくるんだもん

タイミングよすぎませんかねぇ

しかも俺が求めているものドンピシャだぜ?

刀趣味十年続けてるけど、20振りも見てない刀を仕入れてくるんだもん

この前の大刀剣市のカタログでも同じタイミングでメール送ってきてくれてさぁ……

あ~まずいなぁw
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