赤の広場にもゲートが開いてしまったようです   作:やがみ0821

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気楽なスターリン

 帝都には逃げ出した住民達は多いが、全てではない。

 帝都に残存していた者達――皇帝をはじめとした皇族から庶民に至るまで――にとって不幸であったのは、これまでに得られたソ連の情報が少ないことだ。

 

 確定していることは、ソ連が魔法の道具らしきものを一兵卒に至るまで使ってくることや敵対すれば誰であろうと一切容赦しないこと。

 ソ連軍に降伏せず、立ち向かった勇敢な都市や街は根こそぎ瓦礫に変えられたという。

 

 

 限られた情報しかない中で、降伏するかあるいは徹底抗戦するかで皇帝のモルトは寝室にて悩んでいた。

 

 

 

「近衛や第一軍団をはじめ、精鋭はまだ無傷だが……」

 

 援軍のアテがどこにもない。

 ソ連の脅威を喧伝し、各国に救援を求める使節はとっくに出しているが、どれもこれも良い結果ではなかった。

 

 帝国がこれまで好き勝手に諸国に対して振る舞っていたことは勿論、かつて結成した連合諸王国軍がアルヌスで壊滅したことも大きく影響している。

 この戦いで王や貴族など、国政に直接関わる者達を各国は失っていた為、帝国に対する感情が良いわけがない。

 

 ソ連軍の進撃速度は信じられない程に速いというのもあるが、その兵力もまた悪夢のようだ。

 

 ソ連について、モルトはゾルザルが所有しているソ連から連れてきた女達に尋ねたことがあったが、今になってあの言葉は全て嘘偽りがなかったと痛感している。

 それはアルヌス周辺に陣取ったソ連軍へ帝国軍が攻撃を仕掛ける直前であった。

 

 彼女達は帝国軍の兵力を鼻で笑って、口々に言ったのだ。

 

 

 ソヴィエト連邦はファシストとの戦いに備え、1000万を超える兵士が軍務に就いている――

 我々は決して屈しない――!

 

 

 その言葉の通り、彼女達はゾルザルの手荒な扱いにもよく耐えて壊れることなく、亜人達やニホン人を励ましている程だという。

 

 ファシストなるものは未だに何なのかよく分からないが、ソ連が脅威に思うほどなのだからよほどの難敵なのだろうとモルトは予想している。

 そのファシストがソ連を倒してくれればと淡い期待をこれまで何度も抱いたが、今のところそのような兆候はない。

 

 交渉の手札として連れてきた女達を使えるのではないか、ということでソ連との講和を目指すピニャに任せていたが望みは薄い。

 モルトがソ連側の立場であっても、囚われているのが重要人物であるならともかく、単なる平民ならば攻撃を躊躇する理由がどこにも見当たらない。

 

 ゾルザルは論外だ。

 近衛軍団と第一軍団でもってソ連軍に痛打を与えて帝都周辺から叩き出す云々と声高に主張しており、帝都における数少ない徹底抗戦派である。

 

 元老院でも軍でも彼の主張に対して支持は得られていないのは言うまでもない。

 

 

 モルトとしてはヴォーリアバニーの女王あたりに吹き込まれたのだろう、と予想しており、もはや溜息しか出ない。  

 いつの間にか逃げ出していたディアボといい、男子の後継者候補が揃いも揃ってまるで駄目であった。

 

 

「……ソ連が帝国をどう扱うかだが……」

 

 皇帝の退位は確実ではないか、とモルトは予想している。

 既に真夜中であったが、ここしばらく寝付けない日々が続いており、明け方になってようやく眠りにつくという生活だ。

 

 今日もまたそうであったのだが――彼が眠り始めて1時間程で、それは破られることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

Огонь(撃て)!」

 

 

 命令一下、帝都を取り囲むソ連軍陣地より数多の火砲が砲撃を開始する。

 ソ連軍において戦車と並んで戦場の女神と信仰される砲兵は、この世界においても存分にその威力を発揮していた。

 

 単なる石造りでしかない城壁は一瞬で粉砕され、市街地だろうが軍事施設だろうが砲弾が降り注ぎお構いなしに全てを瓦礫へ変えていく。

 

 

 老若男女、兵士だろうが市民だろうが一切の情けも容赦もない。

 

 しかし、唯一攻撃を受けていない場所が存在した。

 帝都の南東門であり、逃げ道としてあえてソ連軍はここに攻撃を仕掛けていなかった。

 といっても、帝都からは逃げ出せたとしてもそこから先へ進めることはない。

 

 待機している部隊によって逃げ出してきた者達は捕らえられてNKVDへ引き渡される為だ。

 勿論、抵抗したならば即座に射殺される。

 

 といっても、当初とは若干方針が変化している。

 スターリンは亜人に関しては丁重に扱うよう、攻撃許可と合わせて指示をしていた為だ。

 

 ジューコフら軍人達はその意味が理解できた。

 亜人の持つ人間を超越した身体能力や特殊能力に関してはチラホラと聞こえてきている。

 彼らをソ連に組み入れて、戦力化できたならば各国に対して優位に戦闘を展開できる可能性があった。

 年単位の時間が必要だろうが魅力的だ。

 

 そのようなソ連側の思惑もあったものの、帝都攻略に関してはその予定に遅延が生じることもなく順調に進んでいった。

 

 準備砲撃により、帝国軍は完全にその士気を粉砕され、また城壁やその周辺に張り付いていた部隊は多くが瓦礫の下敷きとなるか、砲弾で吹き飛ばされるかで壊滅している。

 たとえ無傷であったとしても、瓦礫によって移動が遮られて迅速な移動は望めず、そうこうしているうちに進出してきたソ連軍によって遠距離から一方的に攻撃されて壊滅に追い込まれてしまう。

 

 宮殿制圧に関してもスターリンの要望通り、砲撃ではなく歩兵の突入によって決着がつき、またゾルザルの奴隷となっていた者達も傷跡は多くあるものの、命に別状はなかった。

 そして、宮殿内にいた皇帝をはじめとした者達は全員の拘束に成功という報告を聞いたスターリンは結果に対して大満足であったが、それから程なくして現地からとある報告が届いた。

 

 それは事情を知っていたスターリンにとっては予想通りのものだった。

 

 

 

 

 

 

 スターリンはクレムリン宮殿の執務室にて、ソファに腰掛けながら現地から届けられた嘆願書を読み進める。

 執務の合間に、何かの役に立つかもしれないと異世界の言語を学んでいたことが幸いした。

 

 嘆願書には彼女の身の上話から始まり、帝国との戦争で国を救う為にゾルザルとの取引を交わしたが、約束を破られてなどの様々なことが赤裸々に書かれている。

  

 テューレの願いはたった一つ。

 ゾルザルの処刑を自らの手で行わせて欲しいというものだ。

 

 

「対価に彼女は何を差し出すんだ? 何も書いていないじゃないか」

 

 ゾルザルが死んでも別に構わないのだが、それに対してテューレがどういった形でソ連に利益をもたらしてくれるか、肝心なところが嘆願書には書いていない。

 

 といっても、処刑後の展開も何となくスターリンには予想がついてしまう。

 ゾルザルを始末したら、その場で自殺でもするのだろう、と。

 

 しかし、スターリンは彼女が死ぬのはもったいないと感じている。

 

 ヴォーリアバニーの元女王であるテューレは、近接戦闘において人間よりも優れている可能性がある。

 全部ゾルザルが仕組んだことで、テューレは女王として国を救おうとしたことを証明し、ヴォーリアバニーを再度一つに纏め、ソ連に移住させたいというのがスターリンのささやかな野望である。

 元々亜人を受け入れる態勢はやるかやらないかは別として、世論形成をはじめとして色々な準備をさせていた。

 

 ソ連が異世界に行って向こうの種族を連れてくるというのは色々と問題があるので、ソ連領内でこれまでに発見されていなかった部族と接触したという形だ。

 

 とはいえ、まずは言語の習得から始めねばならない為、1年や2年では無理であり、5年や10年といった長い目で見なければならないだろう。

 その最中にソ連を構成する共和国の一つとして、彼女達が建国してくれれば万々歳だ。

 ソ連はヴォーリアバニーという戦闘力に優れた種族を戦争において投入できる。

 元々地球にはいない種族である為、他国に対して優位に立てるだろう。

 

「まずは彼女と会ってみよう。対話は大事だ。ついでに現地でゾルザルがテューレにしたことを広めておこう」

 

 幸いにもプロパガンダに関してソヴィエトは大得意であった。

 ゾルザルがテューレにやったことは事実であるが、ちょっとだけ脚色しても問題はないだろう。

 

 スターリンとしてはヴォーリアバニーという戦力が手に入らなかったとしても、21世紀世界のロシアから日本経由で色んなものを持ってくる具体的な日程が決まりつつあったので気楽であった。

 

 ノリコなる人物に関しても、既にアルヌス経由で日本側に伝えてある為、日本からも良いものが得られるだろう。

 アメリカに関してまず旧エルベ藩王国領土を譲渡する方向で調整が進んでおり、近いうちに調査団が派遣されてくる。

 

「帝国との決着もついた。あとは貰えるものを貰って、亜人も引き込めそうものは引き込んで、その後の異世界統治は21世紀のアメリカに任せよう」

 

 スターリンとしてはアメリカは統治に失敗して、ぐだぐだになる未来しか見えない。

 といっても、ソ連は口も手も出さない。

 

 貰えるものを貰って、引き込めそうな亜人を引き込んだ後、ソ連がやることは門が閉じるまで21世紀世界から色んなものを持ってくるだけであった。

   

 

 

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