天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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アルバトリオン視点


第37話 合切を破壊する者、創造を繰り返す者

 赤龍ムフェト・ジーヴァ。

 愚かにもわたくしに牙を剥くこの古龍の名は、新大陸を訪れる以前にお姉様から聞いていました。

 この大地における、生態系の頂点であると。

 確かに体内で循環させている龍脈の量は、古龍の中でも間違いなく上位に入るでしょう。

 業腹ですが、わたくしでも苦戦は避けられません。

 

 ……お姉様への献上品としては完璧、ですわぁ。

 人間共との戦いに備えて戦力拡大が必要な今、この龍の力は確実にお姉様の役に立つでしょう。

 ついでに龍脈暴走の原因解明と異変解決の功績までもが手に入り、わたくしの評価は他の兄妹と一線を画する。

 美味しすぎる獲物ですわよ、これは。

 

 どうやら赤龍も、縄張りに踏み入ったわたくしの排除を試みている様子。

 お姉様は力で屈服させて従えることをあまり良い方法と思っていませんが、先に攻撃されてしまっては、戦うしかありません。

 ええ、残念です。

 わたくしは穏便に済ませたかったのですが。

 

 暴走して周囲の環境を蝕んでいた龍脈が、一斉に赤龍へ流れ込む。可視化に至るほど莫大な龍脈が熱量すら伴って顕現した。

 あぁ、とても心地よい殺意です。

 最近は強敵と戦う機会がありませんでしたので、これはわたくしも昂ってしまいますわぁ!!

 高揚に身を任せ、わたくしもまた龍脈を収束させる。

 

 形態(スタイル)選択(セット)、氷活性状態。

 わたくしの体に宿る無数の属性エネルギーの中から、氷、雷、水、龍を軸とします。

 それに伴い、わたくしの逆鱗、逆殻、天角から蒼の光が放たれました。

 膨大な龍脈を扱うムフェト・ジーヴァにも上回る量の力が、周囲の極寒へと変化させていく。

 気温は下がり、大地は凍てつき、吹雪が荒ぶ。

 生命力の弱い竜なら、存在するだけで凍死する地獄。

 

「―――――――ッ!!」

 

 大型の竜種すら刹那のうちに氷結させる冷気を、しかし赤龍は咆哮の衝撃波で粉砕しました。

 次の瞬間、返礼と言わんばかりに赤龍がブレスを放つ。

 溜めの動作がほぼ無い、ノーモーションによるブレスの速射。巨大な光弾が秘めた熱量で氷を溶かしながら、高速でわたくしに飛来する。

 なかなかの威力ですが、わたくしには届きません。

 収束させた力を冷気に変換、大気中の水分を凍結させて巨大な氷塊を生成し、それを超速で発射。

 赤龍の光弾とわたくしの氷塊が宙空で衝突し、轟音と共に周囲に破壊の嵐が吹き荒れます。

 

 直後。

 衝突の余波を引き裂いて極太の光線が放たれました。

 眩い光線はわたくしから溢れる冷気が作り出した極寒の地獄を焼き尽くし、純粋なエネルギーとして迫り来る。

 被弾するのは、流石にマズいですわね。

 四肢で大地を蹴って横へ飛び、ギリギリで光線を回避。ブレスを放った直後の赤龍を狙い、わたくしは吹雪ブレスを放ちました。

 溶岩すら凍結させる、超低温のブレス。

 青の光は再び周囲を凍りつかせながら赤龍へ迫り、後ろに回避するのが少し遅れた赤龍の前脚に当たります。

 

 チッ、掠って終わりですか。

 あれだけの図体のくせに、わたくしに勝るとも劣らない速さとは。あの俊敏性は厄介ですわぁ。

 体格で劣る以上、接近戦は好ましくありません。

 しかし、このままブレスの撃ち合いを続けても長期戦は免れないでしょう。スタミナで負ける気はありませんが、時間をかけるとお姉様に迷惑をかけてしまいます。

 

 そうなると、相手に反撃する余地を与えない連続攻撃で一気に勝負を決めるのが最適解。

 狙うは短期決戦ね。

 まずは攻撃を当てるために赤龍の機動力を奪いましょうか。

 

 ――流水、生成。

 わたくしが天に向かって咆哮すると同時、極寒の地獄でも氷結しない大量の水が溢れ出る。

 水流のブレスでは赤龍に回避されます。

 だからこそ、わたくし達がいる谷底すべてを押し流すほどの大津波ですわぁ!!

 そして、頭上には大量の氷塊と雷撃。

 

 大地は波濤、空は氷塊と雷。

 天地どちらも当たればダメージ不可避の地獄にて、正面はわたくしが塞ぎます。

 後ろに逃げたところで意味はなし。

 逃げ場はありませんわよ!

 

「――ッ!」

 

 わたくしの大規模攻撃を前に、赤龍は不動を選びました。

 その強靭な後脚で立ち上がりつつ、莫大な龍脈を口内へ蓄積させていく。

 それがあなたの判断ですか。

 回避が不可能ならば正面から相殺すると。

 ええ……本当に、本当に、わたくし好みの展開です! 実に結構! それでは力比べといきましょう!

 

 龍脈を収束。

 お姉様直伝、渾身のチャージブレスですわ!!

 わたくしのアギトから青のスパークが散り、周囲が青色に染まっていく。

 強敵と戦うお姉様が二足歩行の時に使う切り札の1つ、それがこのチャージブレス。

 かつて忌々しい竜機兵を100機以上まとめて破壊するという凄まじい威力を見せつけた、祖なる龍の一撃。

 完全再現は不可能ですが、8割程度ならばわたくしにも模倣できますのよ。

 

 チャージ、完了。

 それでは力比べ、ですわ!

 

 ムフェト・ジーヴァが極大のチャージブレスを放つ。

 圧縮光線は大地を吹き飛ばしながら大津波を蒸発させ、正面からわたくしへ襲いかかる。

 仮に山脈に直撃すれば、跡形もなく消し飛ぶでしょうその威力。

 力比べの相手として申し分なし!

 

 限界まで蓄積させた雷撃を解き放つ。

 空間が歪むほどの衝撃波と共に蒼雷が空間を駆け抜け、赤龍のチャージブレスと衝突。

 

 そして、世界から光と音が消える。

 

 谷底全体を揺るがすほどの大爆発。

 超新星爆発を想起させる蒼雷が周囲一帯を吹き飛ばし、赤龍のブレスが通過した大地が一拍遅れて超規模の大爆発を巻き起こす。

 吹き飛ばされないように四肢で掴んでいた地盤が崩れ、わたくしと赤龍が同時に落下。

 数十メートル以上の落下の果てに着地。その後数秒ほど間を置いて、やっと音が戻ってきました。

 

 ガクリ、と。

 思わず四肢から力が抜けて倒れ込みそうになりますが、わたくしはギリギリでダウンに耐えます。

 し、洒落にならない威力でしたわぁ……。

 部位破壊こそ免れましたが、普通に全身が血塗れです。深手はありませんので数分で完治しますが、これだけの傷を受けたのは久しぶりね。

 見事、ムフェト・ジーヴァ。

 正真正銘の強敵でした。

 

 大破壊の余韻が消え、視界を覆っていた砂塵がようやく消えます。

 そしてわたくし以上のダメージを受けて大地に横たわる赤龍の姿が現れました。

 わたくしのブレスは赤龍の命には届きませんでしたが、戦闘を継続するのは困難なダメージでしょう。

 勝負アリ、ですわ。

 普通ならば後は捕食して終わりなのですが、今回は赤龍をお姉様に服従させる必要があります。

 ……流石に赤龍も命が惜しいですし、従いますわよね?

 徹底抗戦された場合のことは何も考えていませんし……あら?

 

 思案するわたくしの前で、赤龍が身を起こす。

 どう見ても傷は深く、戦い続けるのは困難であると思うのですが。

 やはり意識を奪ってお姉様の元まで運ぶしか、な、え、あ、これはどういう……?

 ゾッと。

 嫌な予感のようなものが、わたくしの背中に駆け抜けます。

 

 龍脈が、蠢く。

 わたくし達が立つ大地を循環していた龍脈が片っ端から赤龍へ流れ込み、凄まじい速度で傷が癒えていく。

 それは先ほどお姉様と交戦していたネルギガンテすらも凌駕する異常なまでの再生力。

 まさか、まさか!?

 この赤龍は龍脈を生命力に変換するという工程を省いて、龍脈をそのまま傷の再生に使うことが出来ますの!?

 だとしたら、その生命力は不死と言っても過言ではない領域に在るということ。

 龍脈が尽きない限り、無限に傷の超速再生が出来るということなのですから。

 

 先の攻防で受けた傷を完治させた赤龍が立ち上がる。

 その体内には、上層で戦っていた時よりも膨大な龍脈が循環している。

 

 これはもう、戦いを愉しむ余裕はありませんわね。

 ……認めましょう。

 赤龍ムフェト・ジーヴァ、あなたはわたくしの宿敵であると。

 戯れはここまで。

 この先は全身全霊であなたを叩き潰し、お姉様の元へと無理やりにでも謁見させましょう。

 

 形態(スタイル)選択(セット)、龍活性状態。

 全属性、フルバースト。

 逆鱗、逆殻、天角から漏れ出る光の色が紺碧から紫洸へ変化し、天角が赤黒の雷を纏います。

 生半可な攻撃は意味がありません。

 わたくしが宿す全属性エネルギーを用いた攻撃で、強引にその継戦能力を奪いましょう。

 

「「――――――――――――ッ!!」」

 

 わたくしと赤龍が同時に咆哮する。

 それだけで大地から無数の噴火が発生し、流れ出た溶岩を龍脈エネルギーが吹き飛ばす。

 わたくしはエネルギー攻撃を避け、赤龍が噴火を回避する。

 そうして互いの攻撃を回避しながら、互いにブレスなどで追撃を行います。

 

 赤龍が大地を駆け抜け、接近戦を仕掛けようと間合いを潰しに来る。

 そう簡単に近づいて差し上げると思って?

 今まで温存していた翼を広げて低空飛行モードになり、落雷と火球ブレスで牽制しながら間合いを保つ。

 落雷が大地を穿ち、火球が大気を焼く。

 それでも赤龍はブレスで相殺しながら、多少のダメージを覚悟で突っ込んできました。

 

 ああ、もう!

 すぐに傷を癒せるという自負ですか。

 ダメージを覚悟で距離を詰められると、牽制のために放った攻撃では足止めにもなりませんわ。

 良いでしょう。

 そこまで接近戦がしたいのなら、付き合ってあげます。

 

 限界まで赤龍を引きつけた後、一気に上昇して急旋回。

 一瞬で赤龍の頭上を取ったわたくしは、真上から龍属性ブレスを赤龍の両翼に叩きつけます。

 赤黒のスパークが赤龍の翼を傷つけましたが、ダメージは微妙。

 それどころか攻撃を耐え抜いた赤龍が、急速にエネルギーを解放しました。

 

 ちょっと、これ、は!?

 視界が白く染まる。

 凄まじい量の龍脈エネルギーが赤龍の全身を覆った直後に、大爆発が引き起こされます。

 その数、実に4回。

 まるでバルカンが好んで使う粉塵爆発……いいえ、威力はそれを上回るでしょう。

 わたくしはあらゆる属性に耐性を持ちますが、赤龍の力は無属性とでも形容すべきもの。

 純粋なエネルギーの攻撃では、わたくしの耐性も意味がありません。

 

 4回もの大爆発に被弾してしまい、吹き飛ばされる。

 衝撃と光で視界が明滅するけれども、ギリギリで態勢を立て直すことに成功しました。

 四肢で大地を削り取りながら正面を見れば、赤龍の周囲がごっそりと消滅しています。

 わたくし、よく今の攻撃を耐えられたものね。

 あの爆発、チャージブレス一歩手前くらいの威力があった気がします。

 

 内側から込み上げてくる血を吐き捨て、傷を確認。

 今の爆発攻撃でかなりのダメージを受けました。

 四肢や翼を動かすとギリギリとした痛みがあり、出血も深刻と。……何も問題ありません。

 まだまだ十分以上に戦えますわぁ。

 

 龍脈エネルギーを用いて回復するのが、あなた専門の技とでも思いまして?

 確かにあなたよりも時間は必要ですが……龍脈を生命力に変換することくらい、わたくしにも可能でしてよ。

 一番最初。

 上層で受けた傷が塞がっていく。

 

「――――――……」

 

 おや、ようやく焦りを見せましたわね?

 もしかして、ですが。

 このわたくしを前にして、今まで自分の方が強いとでも思っていたのですか?

 舐めるなよ、赤の龍。

 

 ――形態(スタイル)選択(セット)、炎活性状態。

 

 わたくしの本気を感じ取ったのか、赤龍もまた、これまでの戦いで最大の力を解き放ちました。

 周囲の龍脈が一斉にわたくしと赤龍に流れ込み、先ほどのチャージブレスの衝突時とは比較にならないほど谷底が揺れる。

 否。

 新大陸そのものが、これから起きる戦いをを恐れるかのように振動する。

 

 そして、地獄が作られた。

 

 わたくしと赤龍が、同時に翼を広げて飛翔。

 赤龍ムフェト・ジーヴァから放たれた莫大なエネルギーが蒼白の炎と化して世界を焼き払い、わたくしからは岩盤が融解し流動するほどの熱気が放たれる。

 刹那、赤龍のアギトから周囲が闇に包まれるほど眩しく輝く超極小粒の蒼白い光球が生まれた。

 後に、お姉様が『王の雫』と呼んだそれ。

 美しくも凶悪なエネルギーを秘めた“王の雫”は、まるで夜空に輝く星のようにゆっくりと落下し。

 同時に、わたくしが蓄積した属性エネルギーをすべて放出する。

 

 拝謁しろ、赤の龍。

 その強大な力に敬意を表し、わたくしの切り札をここに解放する。

 

 ―― エスカトンジャッジメント。

 

 世界から音が消える。

 光が消える。

 大地が消える。

 空が消える。

 

 龍脈エネルギーの結晶である『王の雫』。

 属性エネルギーの極地である『エスカトンジャッジメント』。

 

 対極の力でありながら、共通して絶大な破壊を齎す2つの力が、正面から激突した。

大切なものは――

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