言葉を知らないTS幼女、エルフで過保護なお姉さんに拾われる   作:こびとのまち

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こんな日常が続きますが、何か?

 今夜は満月だからだろうか。街灯なんてひとつもないのに、外は思いのほか明るい。池の水面に夜空の煌めきが反射しているその光景は、周りに生い茂る木々と相まって神秘的であるとすら感じる。

 そんな中で、ボクとお姉さん、それからダークエルフさんの三人はいつものように水浴びをしていた。

 

「ふにゃあ……きもちいい」

 

 それにしても、エルフの水浴び姿って、どうしてこんなにも絵になるのだろう。月光に照らされたお姉さんを眺めながら、飽きもせずにそんな感想を抱く。

 

 しかし、ありのままの姿のお姉さんを何の抵抗感もなく直視できてしまうボクって一体……。

 連日の水浴びによって、ボクの中に潜む男性としての意識はすっかり麻痺してしまっていた。いやまあ、よく思い返せば初日の時点から疾しい感情になる余裕なんてなかったんだけど。

 ……男性としての意識なんてもの、本当にまだ残っているのだろうか? 今更ながら、かなり不安になってきたぞ。

 

 うーん、まあいいか。

 今、この身体で答えの出ない疑念について考え込んでも意味がない。そんなことより、現状において注目すべきことは他にあるのだから。ボクは思考を切り替えて、その対象であるダークエルフさんの方へと視線を移す。

 

 うん、やっぱり。何度見ても、明らかに身体が小さくなっているよね、ダークエルフさん……。

 ボクよりひとまわり大きかったはずの彼女は、夕食の最中にいきなりボクと大差ない大きさにまで縮んでしまった。これは一体どういうことなのか。

 

「まさか……実はエルフって、身体の大きさを自由自在に変化させられたりするのでは?」

 

 ボクってば、当たり前のようにお姉さんたちと過ごしているけど、冷静に考えればエルフの存在そのものがファンタジーの権化みたいなものだからね。そんなエルフが実在しているこの世界では、何が起こっても不思議ではない。

 

 そうなると、実はララなんかも幼女の振りした大人だったりして。ふと、そんな妄想が脳裏を過ぎる。

 って、それは流石にあり得ないか。だって、どこからどう見ても完璧な幼女だからね、あの子。

 

 ……ん? あわわわわ!

 くだらないことを考えていたら、背後から突然ダークエルフさん(幼女)が抱きついてきた。よく見ると目元には微かに涙が浮かんでいる。だ、大丈夫かな?

 

 

 

 

 

 

 まるで昔に戻ったかのような愛らしい容姿のナナシちゃんを前にして、わたしったら少し盛り上がり過ぎてしまいましたね。

 

 わたしがあまりにもしつこく可愛い可愛いと連呼し続けた所為で、ナナシちゃんの中で自身に対する褒め言葉の許容量を超えたようです。ナナシちゃんが珍しく目元を潤ませると、真っ赤な顔でナーニャちゃんの背中に隠れてしまいました。

 

 妹の背中に抱きつくもう一人の妹……ふふっ、これはこれで悪くない光景ですね。

 っと、また悪い癖が出てしまいました。いくら本当に可愛いからとはいえ、大切な妹を泣かせてしまってはお姉ちゃんとして失格ですから。

 

「ごめんなさい。そうよね、ナナシちゃんは小さくならなくたって、いつでも世界一可愛いもんね」

「うがぁああああっ……ふーねーのばか! そういうもんだいじゃねぇから」

 

 あらら、なかなか難しいお年頃ですね。余計に拗ねてしまいました。

 

「そもそも、せかいいちかわいいのはナーニャだから。そこだけはゆずれない」

「……えぇっ!?」

 

 引っかかったのはそこなんですね。流石わたしの妹なだけあって、着眼点が一味違います。

 まあ、姉歴最長のわたしからしてみれば、妹二人とも同じくらい可愛いのですが。ナナシちゃんは自分の可愛さに鈍感過ぎるのではないでしょうか。

 

 そういえば……身体が小さくなった影響が精神にも及んでいるのか、はたまた単純に細かいことを気にする余裕がないだけなのかは知りませんが、ナナシちゃんったら先ほどからナーニャちゃんの背中に抱きつきっぱなしです。普段は、ナーニャちゃんが相手だと頼れるお姉さんっぽく振る舞おうとして、必死に背伸びしているのにね。

 恐らくですが、後からこの状況を思い出したナナシちゃんは羞恥心で悶えることになるでしょう。そんな情景がありありと目の前に浮かびます。そのときはわたしが慰めてあげますね。

 

「あのね、ナナシちゃん」

「ふーんだ。ふーねーなんてしらない」

 

 すっかり頑なになっていますね。

 ですが、このわたしを舐めてもらっては困りますよ。えぇ、伊達に何年もお姉ちゃんをやっているわけではありませんから。

 こういうときはですね、お姉ちゃんの愛で包んであげるのが一番効果的なんです。ということで、

 

「ふふふっ、二人とも大好きよ」

 

 ナナシちゃんとナーニャちゃん、二人まとめて抱き締めてあげます。

 

「うぅ。ふーねー、それずるい……」

「ーーーー!? あわわわわ」

 

 いい子、いい子。

 途端に大人しくなったナナシちゃんと、何故か狼狽えるナーニャちゃん。そんな二人の頭を軽く撫で、再び水浴びを始めるのでした。

 

 

 

 

 

 

 いやさ、お姉さんに抱き締められること自体には、だいぶ慣れてきたんだけどね。一糸まとわぬ姿でってのは、さすがに耐え難いわけですよ、はい。あのレベルになると、もはや性別なんて関係ない。

 水浴び中の一幕を思い出し、ボクは思わず鼻を押さえる。おっと、危ない危ない。

 

 そんな具合にちょっとしたトラブルはありつつも、無事に水浴びを終えたボクたちは、これまたいつものように三人揃ってベッドに寝転んでいる。もちろん川の字の就寝スタイルだ。今夜もまた、サンドウィッチの具材も同然の扱いを受けるのだろうか。南無三。

 

 そういえば今朝、お姉さんたちからおはようのキスをされたんだよね。ということは、つまり就寝前にも同じ習慣があって然るべきはずで。

 

 今朝の時点では、ボクの方からキスをするなんてあり得ないと思っていたけど……本当にいつまでも受け身でいてばかりで良いのだろうか。

 いや、良いはずがない。昼間だって、自ら行動を起こしたからこそ、子守という名の手伝いを果たすことができたんじゃないか。つまり、ボクから動かなきゃいつまで経っても成長なんて出来やしないってこと。いい加減、覚悟を決めて前に進むんだ、ボク。

 

 ……よし! ここは日頃の感謝も込めて、ボクの方からおやすみのキスを仕掛けてみよう。やられっぱなしのボクとは今日でおさらばだ。

 

「えっと、その、お姉さんたち……」

 

 そう呟きながら、ボクは手招きしてお姉さんたちを呼び寄せる。二人は「どうしたの?」とでも言いたげな表情で目をパチクリとさせながら、狭いベッドの上で更に身を寄せてきた。

 だけど、まさかボクが一晩と経たないうちに挨拶のマナーを理解したなんて、想像だにしていないんじゃないかな。だからこそ、ボクが見事に挨拶を決めたら喜んでくれるに違いない。

 

 大丈夫、ボクなら出来る。

 

「あのね……お、おやしゅみなさいっ」

 

 はい噛んじゃった! 途端に顔が熱くなる。

 だけど、そんなの今は気にしない。これはただの挨拶なのだから、下手に照れたら負けなんだ、きっと。

 ボクは勢いに身を任せ、まずはお姉さんの頬へと接近する。そしてそのまま、そっと唇を押し当てた。

 続けて顔の向きを変えると、ボク自身が照れて白旗を上げてしまう前に、ダークエルフさんに対しても同じように唇を押し当てる。

 

 ……やった!!

 ちゃんとおやすみの挨拶ができたよ!

 

「うぅう、恥ずかし」

「「〜〜〜〜〜〜〜〜!?!?」」

 

 あぁ、うん。やっぱり少し恥ずかしいね。

 ちなみにお姉さんたちの反応はと言えば、何故か顔を真っ赤にした後、声にならない声を上げながら布団の上でぐねぐねと悶え苦しんでいた。

 

 ……あれ? その反応はおかしくない? これが普通の挨拶、なんだよね?

 

「まあいっか……」

 

 そんな二人を横目に、ボクは布団へと潜り込む。

 周知の事実だとは思うけど、この身体は夜に割と弱いんだよね。今だって、もう眠たくて堪らない。

 だから正直、お姉さんたちがどうして悶えているのだろうかとか、そういった難しいことを考える余裕はないわけだ。

 

「ふわぁああ……」

 

 ひとつ大きく欠伸して、ボクは静かに瞼を閉じた。

 

 あぁ、今日も楽しい一日だった。

 いつまでこの世界での日常が続くのか、いつまた元の世界に戻れるのか、それはボクには分からない。

 だけど、その日が来るのはまだもう暫く先な気がするんだ。そんなわけでお姉さんたち、これからもどうかよろしくね。

 

「ーー、ーーーーーーー」

「ナーニャ、ーーーー」

 

 まさか想いが通じたのだろうか。微睡に沈みかけていたボクの身体を、お姉さんとダークエルフが左右から優しく抱き締めてきた。ボクは一瞬驚いたものの、その驚きはすぐに安心感へと移り変わる。

 

 見知らぬ土地で目を覚まして途方に暮れていたあの日、泣いてばかりなボクを拾ってくれたお姉さん。

 嫌な顔ひとつせずにボクを受け入れ、家族のように接してくれたダークエルフさん。

 そんな二人の温もりを感じながら、ボクは今度こそ深い眠りへと落ちていった。

 

 おやすみなさい、また明日。




 『言葉を知らないTS幼女、エルフで過保護なお姉さんに拾われる』はこれにて完結となります。
 連載開始から丸一年、長らくお付き合いいただき本当にありがとうございました。前作に引き続いて完結まで書き続けられたのは、間違いなく読者の皆様のおかげです。

 ご存知の通り、本作はたわいもない日常を垂れ流す作風なので、果たしてどこまで続けるべきか最後の最後まで迷ったんですよね。結論、ナーニャが本格的に言葉を学び始める前夜の時点で区切りをつけるのが、タイトル的にもちょうど良いだろうという判断になりました。

 さてさて、この先ナーニャは少しずつ言葉を覚え、フウラやナナシたちとの親交も益々深まっていくのでしょうけれど……それらのエピソードを語るのは、今後また機会があればということで。
 
 最後に一言。感想評価などいただけますと、作者が飛び上がって喜びます。何卒!
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