SIDE:三人称視点。
灰原が見た米花私立病院でのひと悶着からしばらくしたある日、成田空港に降り立ったとある飛行機から一人の男が日本の地へと足を踏みしめた――。
――男の名前は
長年、
名前の通り彼は生粋の日本人であり、前述したとおり彼はある怪盗一味を捕まえるため、日夜その一味を文字通り世界を股にかけて追いかけている専任捜査官なのだが、今回彼が生まれ故郷の日本に舞い戻って来たのは決して里帰りという訳では無かった。
切っ掛けはほんの一日前の事。
ICPO本部で怪盗一味に関する資料をまとめ終え、休憩がてらにコーヒーを飲みながら今日買って来たばかりの新聞を読みふけっていた時の事だ。
新聞を流し読みしていた途中、ふととある一面に目が止まったのだ。
――『IT産業界の帝王、日本に来日』
という、デカデカとした見出しの後に髭を蓄えた貫禄ある五十代くらいの男の写真が載せられていた。
「…………」
飛行機を降りて日本の空港にいるときに撮影されたであろうその新聞の写真には、多くのファンらしき群衆やボディーガードらしき黒服たちに囲まれながらにこやかに手を振る五十代の男が中心に大きく写っている。
銭形は、写真の男を見つめながら僅かに目を細めた。
写真に写るその男の名は、トマス・シンドラー。
過去に銭形は、そのトマスと面識があった。とは言え、それは
銭形は写真に写るトマスの姿を見た後、新聞の文面へと目を走らせ、彼が来日した目的――その内容へと読み進めていく。
そうして読んだ新聞のその文面の内容から、どうやらトマスが来日した目的は彼が自社で開発したとある仮想体感ゲーム機の発表会に参加するためだという事が分かった。
だが、ゲーム機に一ミリも興味が無かった銭形は、その来日目的にもあっさりと興味を無くし、再びトマスの写真の方へと視線を移すと――。
「……?――ブッ!!?」
――その写真の中に
最初こそ気づかなかったが、その人物はトマスに向けて手を振る群衆の中にいた。
赤いジャケットを身に纏い、猿に似た顔を持つその
目下、自身にとって
そうして日本に行く手続きを済ませ、即行で荷物をまとめて飛行機に乗り込み、遠路はるばる日本へとやって来たというのが今現在銭形がここにいる事の
(さて、日本にやって来たはいいが、これからどうするか……。やはり、シンドラー社長と一度面会を取るべきかもしれんな)
そう考えた銭形はその足を
元々、銭形はインターポールに出向する前は警視庁所属の警察官だった。
そこに行けば今現在トマスが宿泊しているホテルを特定できると踏んだ彼は、足早に警視庁へと向かった。
「…………」
時刻はもう夕方――。
ラッシュ時間帯故に、車道脇の歩道を行き交う人々は多く。銭形の向かう先には人の群れがごった返していた。
警視庁へと向かうその道すがら、銭形はふと新聞に映っていたシンドラー社長を睨む男の事を考える――。
(
――銭形がそこまで思考を巡らせた、その時だった。
「……遠路はるばる日本にやって来るたぁ、職務熱心なこってぇ
「――!!!」
唐突に
しかし、直ぐにゆるゆると肩の力を抜きながら銭形は肩越しに背後へと視線を送った――。
――そこには男が立っていた。
嫌と言うほどに見慣れた
それを見た銭形は思わず男の名を零していた――。
「……る――」
「――ルパン……!」
――世紀の大泥棒、ルパン
東西南北。それこそ文字通り世界を股にかけて飛び回り、他の一味たちと共に『お宝』を求めて各国を引っ掻き回していくその名は知らぬ者はいないと言わしめるほどに有名であった。
その名の通り、かの名高き大怪盗『アルセーヌ・ルパン』の孫にあたり、その肩書に恥じぬずば抜けて狡猾な頭脳と不可能を可能にするほどの高度な技術力を有しており、長年にわたり世界中の警察が血眼になって彼と彼の一味を追い続けるも、一向に捕まえられずにいるのが現状であった。
自身が捕縛に執念を燃やす、狙った獲物は決して逃がさない神出鬼没の大泥棒が早くも自分の目の前に現れた事に銭形は不敵な笑みを浮かべる。
「……ルパン。自分からワシの目の前に現れるとはいい度胸だ。ようやく逮捕される気にでもなったのか?」
「アハハハ、馬鹿おっしゃい!そんなわけないでしょーよ」
「だろうな」
片や犯罪者。片や警察官と言う関係だというのに、二人は軽薄な会話を交わして行く。
「そっちこそ、俺様が目の前に現れたってぇのに捕まえねぇのか?」
「直ぐにでもそうしたいが、今周りはこの人の混みようだ。ここで暴れたら周囲の一般市民に怪我をさせかねんからな。……それに、今回はお前に聞きたい事が色々とある」
「…………」
銭形のその言葉に男――ルパンは思わず黙り込む。
それをチラリと一瞥した銭形は構わず言葉を続ける――。
「――
「!」
それに僅かに目を見開くルパン。銭形の言葉は止まらない。
「……昨日見た新聞の記事――シンドラー社長来日の写真に、お前が写っていた。お前がシンドラー社長に近づいたのは
「……やれやれだぜ、
「?」
苦笑を浮かべながらため息交じりにそう呟くルパンに、銭形は怪訝な顔を浮かべる。『一度ならず二度までも』、その言葉に引っ掛かりを覚えたのだ。
だが気にはなったものの、それよりも最優先で確認しなければならない事が銭形にはあった。
「……で、どうなんだ?ヒロキ君は元気なのか?今、何処にいるんだ?」
「案外、墓の下とかかもしれねぇぜ?俺様が言う事を聞かないあのガキンチョに苛立って思わずナイフでグサッと……」
「それこそ馬鹿を言うなだ。お前が十歳の子供に手をかける冷酷漢なら、ワシがとうの昔にお前を刑務所にではなく地獄に送ってる」
「お~
そう言っておどけて見せるルパンに銭形は鋭い目つきで睨みつける。
その視線を受けて肩をすくめたルパンは観念したように銭形の問いにようやく答えた。
「……元気だぜ。もっとも、今何処で暮らしてるとかまでは言えねぇがな」
それを聞いて銭形はホッと小さく安堵の息を漏らす。
――二年前。ルパンは当時十歳ながらも天才とうたわれたヒロキ・サワダの前に突然現れ、彼をシンドラー社から連れ去った(ルパン流にいうならば『盗んだ』)のだ。
直ぐに警察が捜査に乗り出すも、その後のヒロキの行方は手がかり一つ掴むことが出来ず、全てはルパンだけが知る運びとなり今に至ってしまう。
当時の銭形も、その一報を聞いて捜査に乗り出し、目の前でヒロキを連れ去られて半ば放心状態となっていたトマス・シンドラーの事情聴取にも立ち会っていた。
ルパンが理由もなく子供に手をかける人間じゃないと分かってはいるものの、やはり二年間もヒロキの安否が分からず進展も無ければ、多少なりとも銭形の中にも不安はくすぶってしまうのも無理からぬことであった。
もちろん、ルパンの方だけならばこの二年の間に接触する機会は幾度とあった事はあったのだが、そういった時は毎度のことのように別件のトラブルが起こっており、必然的にそちらのトラブルを優先して解決しなければならない流れとなってしまい、結果、ヒロキの件は二の次状態となってしまっていた。
それ故にようやく
「そうか……ま、元気にしているのであればそれでいい」
「おいおい、
「まぁ、警察官としてなら
「まぁなぁ♪」
銭形の言葉に、ルパンは苦笑交じりにそう返す。
すると次の瞬間、そんなルパンの表情がスッと消え、今度は真剣な目を銭形に向けながら口を開いた。
「……なぁとっつぁん、今すぐこの件に首を突っ込むのを止める気はねぇか?」
「無い。ルパンある所に銭形ありってな。ワシも二年前の一件には浅くとも関わっている。……今回の一件、まず間違いなく二年前の一件絡みなんだろう?……まだ憶測の域を出たわけじゃ無いが、恐らくは下手をするとヒロキ君の身に危害が及ぶ可能性がある。違うか?」
「…………」
そんな銭形の問いかけにルパンは沈黙する。銭形はそれを肯定ととり言葉を続けた。
「……なら一般市民を守るべき警察官の俺が何もせずに引き下がるわけにはいかん」
「かーっ!予想はしてたけどやっぱこうなったか!」
顔に手を当てて天を仰ぎ見るルパンを視界の端に捉えながら彼を見据え続ける銭形。
そんな銭形の視線を受けながら、ルパンは銭形に背中を見せるとそのまま彼に向けて口を開いた。
「……今夜開かれるっつー体感ゲームの発表会に行ってみりゃあいい」
「――!シンドラー社長も製作に関わっているというあのゲームのか?……お前はそこで何かを起こすつもりなのか?」
「
「何?」
ルパンが呟いたその言葉に、銭形は眉根を寄せる。てっきりルパンがその発表会で何かを企んでいると考えていたからだ。
そんな銭形の心境をよそに、ルパンは言葉を続ける。
「……全てはシンドラー社長、
「…………」
ルパンの言っている意味が今一つ掴めなかった銭形は、首をかしげながら沈黙して彼をジッと見据える。
すると、ルパンはもう言う事は無いとばかりにおもむろに人込みをかき分けながら歩きだした。
「じゃあなぁ、とっつぁん。縁がありゃあ今度は会場の中ででも会おうぜぇ。……あんま会いたかねぇけど」
「待て、ルパン……!」
片手で軽く手を振りながら人込みの中へと消えていくルパンの背中に、銭形は慌てて声を張り上げて呼び止めようとする。
しかし、ルパンの足取りが止まる事は無い。人の往来も激しく、彼を追いかけることも出来ない。それでも銭形は小さくなっていくルパンの背中に声をかけ続けた――。
「最後に一つ聞かせろ!……二年前のあの一件!
二年前のヒロキ誘拐事件。あの一件は銭形の中でずっと引っかかっていた。
トマスや部下の黒服が犯行現場を目撃しているため、実行犯はルパン本人に間違いない。
しかし、ルパンがヒロキを連れ去った
確かに巷ではヒロキは十歳という年齢にもかかわらず大人顔負けの頭脳を以って様々な成果をもたらした天才少年だが、ルパンがその才能を利用して何かを企んでいるという考え自体、銭形には想像できなかったのである。
仮にルパンがヒロキの才能を利用して何かを計画しているとしても、ヒロキがそれに協力するとも限らないし、もしヒロキがそれを断ってしまえばそれまでとなってしまう。
長年、銭形はルパンを追っているためその過程で彼の性格を熟知している。そのため、ルパンがヒロキを無理矢理従わせるために手を上げるような事をするというのも考えられなかった。
ましてや、二年という
それらの事もあってルパンがヒロキを使って何かをやろうとしているというのは、銭形にはどうしても思えなかった。
なのに二年前のあの日。ルパンは
そこに今の自分も知らない何か大きな理由が隠されていると、銭形はそう直感していた。
――しかし、声を上げて投げかけた銭形のその問いかけは、周囲の雑踏にかき消され、と同時にルパン本人の姿も銭形の視界から完全に消え失せる。
彼の耳に銭形の言葉が届いたのか……それはもはや問いを投げた
SIDE:三人称視点。(ルパン一味の会話)
「たっだいまぁ~。今帰ったぜ
「……遅かったなルパン。何処に行っていた?」
「ん~?いや、ちょいととっつぁんに会いになぁ」
「……何?……何故、銭形に?」
「いやなぁ、この際だからとっつぁんにもすこーしばかり協力してもらおうと思ってなぁ。……ほら、
「…………」
「それよか
「少し前に連絡があった。そろそろ帰って来てもいい頃合いだ」
「……おう、ルパン。今帰ったぜ」
「噂をすればだ♪……よぉ次元。シンドラーの方で何か動きはあったか?」
「ああ、それなんだがな……。ちょいとこれを見てくんねぇか?」
「あん?どったのさ?……写真?……!!
「そいつらがシンドラーと会っているのを見つけちまってな。……どうやら
「オイオイ、シンドラー社長……
SIDE:???・???
「……
日が傾き、外が茜色に染まり始めた部屋の中で、僕は目の前で身支度を整えるお父さんにそう尋ねる。
「安心しなさい。
お父さんは僕を安心させるように小さく笑みを浮かべながらそう答える。
しかし、それでも僕の中でくすぶる不安の感情は一向に引く気配がなかった。
するとそこへ白衣を纏った
「失礼するよ?準備は出来たのかい?」
「ああ、
お父さんのその言葉に、カエル先生は小さく頷く。
「……そうかい。僕も準備が出来次第、直ぐに会場に向かう事にするよ。……さっき
「そうですか。カエル先生だけでなく優作もいてくれれば、もう何が起ころうとも大丈夫そうですね」
「ああ……それに、会場には他にも
「本当に……何から何までありがとうございますカエル先生。それでは行ってきます」
そう言ってお父さんはカエル先生との会話を終えると再び僕へと顔を向けた。
「じゃあ、行ってくるよ」
「……あ!待ってお父さん!」
玄関へと向かおうとするお父さんを、僕はすぐさま呼び止める。
そして「何だい?」首をかしげて僕を見るお父さんに、僕は
「これ……持って行って。今日、
「へぇ……良く出来てるじゃないか。ありがとう、大事にするよ」
そう言って喜びながら、お父さんは僕があげた『創作物』を
それからすぐにお父さんが退出し、それに続く形でカエル先生も僕に別れを告げて出ていくと、部屋には僕だけが残り静寂が降り立った――。
(あと数時間でゲームの発表会が始まる……。何も起こらなければいいけど……)
そうは考えるも、何故だか一向に不安が僕の中から消える事は無かった。
どうにも心配になった僕は、我慢しきれずにそばにある机に乗っている
そうして、少しの間カタカタとキーボードを操作すると僕は明るくなっているモニター画面に向けて
「……お父さんの様子、見に行ってくれる?」
最新話投稿です。
長く期間が空きましたが、何とか書くことが出来ました。
これで、今年の投稿は最後とさせていただきます。
また来年からも投稿は続けますので、その時はまたよろしくお願いいたします。
それでは皆様、良いお年を!