ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
ヴェネチアは陥落した。ガリア解放、グレゴーリ撃破に沸いていた人類に冷や水を浴びせるものだった。
連合軍は総力を上げてヴェネチアに残された一般市民と軍の避難を実行に移していた。
当然付近にいた航空戦力として私達もその戦いに巻き込まれていた。
私は今日何度目かの出撃を空母からするところだった。
完全に海軍ウィッチになった気分だ。いくら巨大な空母であっても、空軍ウィッチには発着艦は荷が重い。
今日の僚機はハルだった。
行方不明からふらりと帰ってきた彼女は、何食わぬ顔でそのまま軍務に復帰していた。話を聞けば502部隊に居たらしい。エーリカが知っていたらしいが、私には秘密にされていたことの方がショックだった。そこまで私を信用できていなかったのかと。
考えすぎなのだろう。彼女はそんなつもりはなかった。だが、1人で突っ走りすぎだ。
とはいっても戦力として考えたら彼女はエーリカと同じくらいに頼りになる。それは事実だ。
空母から飛び立ってしばらくして、空は鈍い灰色に変わった。もうここまでネウロイの瘴気が来ているのだ。遠くの陸地の奥で赤い光は稲妻のように地面を焦がしていた。かなり戦線が後退している。あと保って一週間ほどだろうか。
港の方は避難民でいっぱいだった。それでも秩序よくパニックを起こさずに船に乗って行っているのは単に軍人への信頼がなせるものなのだろう。
「港の上空警護に移る。私は東側、ハルは西側を」
「了解。事前の作戦通りに」
街の建物はすべて空き家になっている。無人で打ち捨てられた街。人の気配もなく、ただ時が止まったような、虚しさだけが残る場所。
だが戦線に近い方の建物は軍が接収し防衛戦を構築しようとしていた。
それを守るのも私たちの仕事でもある。
索敵を繰り返していると、ふと影が視界を横切った気がした。目線が無意識のうちにその方向に向く。上空をネウロイが単機で飛んでいた。
攻撃してくる気配は無い。ただ真っ直ぐに街を見下ろしているかのような印象を受ける。
「偵察のネウロイか」
攻撃してくる気配は無いが、それでも放っておくわけにはいかない。
「ハル、上空900の位置にネウロイ。そうだ、偵察タイプだ」
そう無線でハルに呼びかけながらも私は上昇を始めた。使っているFw-190D型はA型と違い高高度での出力低下が最小限だ。それでも一気に飛び上がるにはなかなか時間がかかる。
横を見ると、白い飛行機雲が街の反対側から昇っていた。ハルだ。
装備するTa-152の方が上昇能力は上だ。先に動いたのは私でもすぐに逆転されてしまう。
高高度を悠々と飛行するネウロイを捉えたのか、ハルが狙いを定めた。
引き金が引かれたのか甲高い射撃の音が1秒だけ続いて、ネウロイの胴体が引き裂かれた。
コアを破壊されたネウロイは自身の体を維持することが出来ずに四散した。
「わざわざ偵察なんてしにくるとはな」
偵察のネウロイは戦争初期の頃はよく見かけた。だが最近はほとんどそういった存在はいなかった。単騎で攻撃してくるということはあったが……
「今のネウロイは新しい巣が古い巣を破壊して成り立っています。もしかしたらそのせいで情報がリセットされたのかも」
そう考えると、巣同士での連携をしていたりこうしてしていなかったりとネウロイには一貫性がない。それがまた人間味があるようで不気味だ。
「なるほどな、しかしネウロイも一枚岩では無いということか」
「人間も、ネウロイも大いなる運命に翻弄される存在でしかないのかもしれませんね」
ハルは考え詰めるような表情でネウロイの巣のある方向を見つめていた。迷っているのだろうか、あの人形ネウロイのような存在とそれを排除したネウロイ。まるで強硬派と穏健派の争いのようだ。
「だとしたら奴らは我々と似たような存在なのかもしれない」
「存在を正しく認知できない以上結論は出せませんけれどね」
そう言いつつ、上空を見上げると、私たちがいる高度より更に上空に黒い影が見えた。
「もう一体いるな」
「さっきよりも高高度……いえ、私たちがあれを撃破したのを見て高度を上げたんですね」
「まさしく偵察の動きだ。確実に情報を持ち帰ろうとしているな。だが……」
「逃しません」
それから三日後、港は陥落した。一週間は保つかと思われていた戦線はあっけなく崩壊したのだった。
その頃には私達は奪還に向けての戦力温存のため、ロマーニャの基地に集められていた。
特にストライカーの消耗が激しすぎた。
私たちのストライカーユニットは陸軍機だ。作戦に導入されてから一週間もたたずに私達のストライカーは使用不能なレベルになっていた。
地中海の日差しで格納庫は熱くなりやすい上に開放式のため潮風や波飛沫が入ってくる。
高温多湿に潮風で機体は各部が腐食、エンジンはシーリング部分が腐食に耐えきれず液漏れが多発した。
これが海軍航空隊を持ち運用ノウハウがあるリベリオンや扶桑、ブリタニアならストライカーユニットにも防腐剤や腐食防止のシーリング技術があったのだろうが生憎カールスラントは陸軍国家だ。そういったノウハウはまだなかった。それはストライカーだけでなく艦載機も同じだった。稼働機の大幅な減少によりカールスラント海軍は早々に引き上げざるをえなかった。
その結果が三日で港が陥落した遠因でもあるのだろう。
だがミーナ中佐はただでは転ばなかった。壊滅した504部隊を後方に下がらせ再編する間、解散した501部隊を復活させると上層部に提言していた。いずれにしてもこのままではロマーニャが陥落しかねない状況だ。連合軍もミーナ中佐の意見を受け入れた。
「まさかここまでスムーズに進むなんてね」
補充でやってくるストライカーユニットを待つ間にミーナはそこまでのことをしていた。それを伝えに格納庫に来た時にはまだ501部隊はカールスラント組しかいなかった。
「上も必死なんだろうさ」
「プロパガンダにも使えますからね」
「ハルはまた捻くれてる」
塩害で使用できなくなったストライカーユニットから使える部品を外していたハルは渋い顔をしていた。嗜めるエーリカもプロパガンダに使われるのは嫌なのか写真撮影はパスだからねと勝手なことを言っていた。
「だが現実として戦力の集中のためには必要だ」
「なら504部隊に戦力を集めれば良かったんだよ。いくら損耗したっていっても指揮系統はそのまま残ってるんだし」
エーリカにしてはまともだ。
「501部隊はガリアを解放した実績があります。武勇伝として士気向上に使うにはうってつけです」
「ミーナからそんな言葉が出るとは思わなかったなあ。まあ芳佳ちゃんとかの美味しい料理が食べれるなら大歓迎だけどね」
とエーリカ。ミーナも本心からそれを言っているわけではないのだろう。元々ミーナが考えていた策は504部隊のメンバーをそっくり501部隊に入れ替えるものだった。
「芳佳さんは現在軍から身を引いていますから来られるかは……」
「え?軍人じゃなかったの?」
ハルもエーリカも驚いた顔をしていた。そういえば二人は知らないんだったな。
「ええ、あの時は軍属の医療ウィッチという立場で来ていたのよ。501部隊解散後に扶桑に帰った後はまた民間人に戻っています」
「えー……残念だなあ」
「他のメンバーはどうなんだ?」
変わって私がミーナに尋ねた。
「ブリタニアとガリアはすでにリネットさんとペリーヌさんを向かわせてるとの事です。他はまだ回答待ちです」
反応は悪いわけではないが……急すぎたか?
だが時間がないのも確かだ。ネウロイの侵攻は山脈と海で今の所抑えられているが予断を許さない状況に違いはない。
そう思考していると、格納庫の入り口から整備班長が駆けてきた。彼も501部隊だった頃に整備班長をやっていた古参兵だ。父親に近い年齢である彼はよくルッキーニ達からおやっさんと呼ばれていた。
「ミーナ中佐殿、ストライカーユニットが到着しました!」
「分かりました。では第一格納庫に運び込んでください。各人向けのユニット調整に入ります」
サングラスをかけた整備班長は、ミーナの返事に答えながら他の整備員に指示を出した。
「了解しました。おーい、仕事にかかるぞ!」
私達もストライカーユニット調整の準備に入らないといけない。
忙しくなるな。
ハルちゃんの三走目
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