アマゾネスとして生まれた私は〇〇になる。   作:だんご

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これで全部火種は巻き終わりました。
あとはのんびり爆発させていきます。


最終学歴テルスキュラ卒②

 ベルがイシュタル・ファミリアに誘拐された。

 

 イシュタル様が誘拐を命令したそうだが、今度は勝手にフリュネが他の仲間を出し抜いてベルを誘拐した。

 一日に二度も誘拐されるベルもすごいし、一日で二度も誘拐を経験できるファミリアとはいったい……。

 

 ともかく、そんなベルは無事に逃げ出すことに成功し、今はイシュタル・ファミリア全員に追手をかけられている。

 

 「イシュタル様の気は確かなのかなぁって……」

 

 ベルの気を探しながら、必死にファミリアの拠点を駆け巡る。

 

 どうしてイシュタル様は、ベルに手を出したのだのだろうか。バカな私にはわかりません。

 ベルがイシュタル様の何か琴線に触れたのか。何かの縁が絡み合ってそうなったのか。理由は私にもわからない。

 

 しかし、よりにもよってベル・クラネルはマズいと思うのだ。

 

 「ベルさんはなぁ……。物事の中心に現れ、爆発して環境を一変させてしまう爆弾みたいなものなんですよねぇ。ときメモ以上に危険な爆弾というかなんというか。取り扱いには注意しないといけないのに、よりもよって誘拐とか……。えぇ……?」

 

 主人公やヤンデレヒロインみたいな、イベント爆発人間を相手する際には、ちゃんと準備して関わらないと痛い目を見るっていう法則を知らないのだろうか。

 

 戦争遊戯の時にベルに会いに行ったはずなのに、どうしてかアイズとティオナに遭遇した。

 これでフリュネみたいな悪いことばっかりしていたら、どんなことになっていたか想像にたやすい。

 

 ギルドで開示されたり、うちのファミリアが調査した情報なんかを見ても、ベルはどこぞのエロゲーの主人公かと思うぐらいには、あの年にして波乱万丈な人生を生きている。

 

 もしかして、向こうからベルというフラグが飛び込んできて巻き込まれたパターンなのだろうか。

 

 フラグは回収されるものではなく、最近は向こうからやってくることがトレンドになっているらしい。

 「平穏無事にいたいのに」とか「凡庸な私が」とか、そんな頭文字がついたらだいたいフラグの方がやってくるものなのだ。

 

 イシュタル様は美の女神なので、流行りにも強いのかもしれないな。あっはっは。

 

 今、私は絶対に死んだ目をしていると思うんだ。

 世の中こんなはずじゃなかったことばっかりだよ。

 

 「って、見つけた。ベルの気配ともう一人……。これは春姫さん?そうか、春姫さんが連れ出してくれたのか」

 

 流石は和風狐耳。

 良妻賢母でミコーンと優秀である。素晴らしい。

 

 フリュネは地下室に男を連れ込み、ズッコンバッコンする手口を好んでいると聞く。しかし、いくら地下を探ってもベルの気配は感じなかった。

 これはひょっとすると、何らかの手段で春姫さんがベルを救い出してくれたに違いない。

 

 屋根へと壁を駆け上がり、目的地へ建物と建物を飛び越えていく。

 ああもう、アイシャたちの気配も目的地へ移動している。100パーセント、彼女たちはベルへの追手だ。

 

 このままじゃ間に合わない。

 

 「負けるな私の小宇宙ぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 今の私に足りないのは知性とか品位とか我慢とか、あと諸々あるけど一番は速さが足りない!

 屋根に着地して飛ぶ時間も今は惜しい。TASさんを見習うんだ。電車に間に合うかどうかの一秒と、暇な時の一秒とでは時間の価値が違う。今こそ一秒を争う時、限界を超えろ。

 

 「『偽・六式』『月歩』

 

 空を踏みしめて着地し、空を駆ける。

 

 直線距離ならすぐなのに、道がグニャグニャしていて目的地に遠いということがあるかもしれない。

 そんな時は簡単だ。飛んで直線距離をまっすぐ進めばいい。なお、前提として地球物理法則には縛られない世界観とする。

 

 よし、集団から先行していたアイシャと同じぐらいに到着。間に合った。

 フリュネは遅いのでこっちに来ていないし、これならベルを無事に逃がすことが出来るかもしれない。

 

 「アイシャっ!ちょっとま──」

 

 「どういうことなんですかっ!?春姫さんが犠牲になるって……いったいっ!?」

 

 「──って……。はい?」

 

 アイシャが春姫さんの肩を掴んで己の方に手繰り寄せ、左手の大朴刀をベルと仲間の命へと向けていた。

 

 私が識別できなかったもう一人の気配は、戦争遊戯でも仲間として戦った団員の命だったようだ。

 ベルと命は厳しい表情でアイシャを睨み、アイシャはベルたちを平然と見つめている。

 

 そんな四人の緊張感あふれる場所へ、空中でバランスを崩した私は落下。

 顔面から落ちて、カエルが潰れるような悲鳴を上げた。ぐえ。

 

 「っち、何がっ!いや、ソフィーネ様かい……。あんた、何をやってるんだよ」

 

 「ソフィーネさん!?」

 

 「ま、まずい。まさか彼女も私たちを捕らえに……っ!?」

 

 私に気がついたアイシャが顔をしかめ、ベルが驚きの声を発する。命は状況がさらに悪くなったことに焦りを隠せないといった様子だ。

 

 一方の私は、苦悶の声をこぼしながらも、なんとか顔を上げて状況を確認する。というか、春姫さんが犠牲になるとか、どういうことなんでしょうかね。

 

 視線で「わけがわからんぞ」とアイシャに問いかけると、彼女は止めて欲しいともがく春姫さんを抑え込んで語りだした。

 

 「全てはイシュタル様のお心のままにってことさ……」

 

 春姫さんの魂を殺生石というマジックアイテムに閉じ込める。

 そして石を砕き、春姫さんの貴重なレベルアップの魔法を自在に行使できる魔石の欠片を量産。

 その力をもって、イシュタルが目の敵にしているフレイヤ・ファミリアを壊滅させる。

 

 なるほど……。

 うちのファミリアだけ、やっていることがメイドインでアビスみたいなことになっている。ヤバイな、胃がキリキリしてきたぞ。ナナチみたいな癒しが欲しい。

 

 「その魔石、そしてソフィーネ様の力があればレベル7、オラリオ最強も崩せるとイシュタル様はお考えなのさ」

 

 全員の視線が私に向けられた。こんな注目は浴びたくなかったでござる。

 

 状況を理解したのか、彼らはあっと驚いた様子で顔を強張らせている。

 きっと彼らの頭の中では、私は黒幕レベルの悪役になっているのだろう。視線が怯えているし、敵意を感じるんだもの。

 

 つまり、あれだ。

 はい、私が築き上げた好感度は全部崩れました。これも全部、ボンドルドみたいなことをやらかそうとしているイシュタル様や、キバヤシみたいな解説をしているアイシャのせいです。あーあ。

 

 泣いていいかな?

 

 「アイシャさん、ソフィーネ様、どうかお願いします!どうかクラネル様と命様を見逃してあげてください」

 

 春姫さんや。ベルを手助けしようとやってきた私を、ベルに敵対する追手にナチュラルに組み込むのは止めてくださいな。

 もう私のライフと好感度はゼロよ。デュエルスタンバイする前に終わっているわ。次回、ソフィーネ死すってか。私の胃はもうとっくに死んでいるけどな、HAHAHAHA。

 

 「無理だ、計画の一端を知った以上はお前らはもう逃がしちゃおけない。……イシュタル様が生かしておく筈がない」

 

 自分で事情を暴露して、ナチュラルに退路を絶つの止めようよ、アイシャ。

 それってコナンで犯人が良くやることだぜ。だいたい失敗して大変なことになるんだから、良くないって。

 

 あとアイシャ、そうだろって同意を促す視線を私に投げないでください。私も初めて知りました。

 確かにあの人はそんな感じの神様だから否定はできないけど、そういうことじゃないんです。

 

 ほら、ベルも裏切られたって顔をしないでください。

 私はマジでなんも知らないんです。私に悪いことがあるとしたら、何も知らないし知ろうとしなかっただけなんです。

 

 だって、ここまで沼になるとは思わないじゃんか。

 私がこの場所に来てから、もういくつフラグが立ったんだよ。これ全部回収できるのかよ。いや、回収しないでくれ、お願いだから。

 

 その後もベルとアイシャの掛け合いは止まらない。

 

 アイシャにベルが仲間を殺すのかって言って、アイシャが内心でめっちゃぶちぎれていた。アイシャから発せられている悲しみと怒りの気がやばい。

 

 あと春姫を救おうとしたアイシャに、イシュタル様がレズプレイを強引にしかけて魅了したこともわかった。魅了は私には効かないが、どうやら決まると本当に心と体が支配されるらしい。エロ同人かよ。

 

 春姫さんも知らなかったようで、両手で口をおさえて涙目になりながらアイシャを見つめていた。私も合意しないレズプレイを強要した主神の話を聞いて、ついに胃が限界を迎えて吐血した。

 

 話が重いわ。

 

 さて、問題です。

 春姫さんは被害者ですよね?アイシャもこんなエピソード話してたらわかる通り、わりと被害者ですよね?

 ベルや命も巻き込まれた側なので、少しの反論も見つからない被害者です。

 

 残った私はどう見えるでしょうか?

 

 「ソフィーネさんは、このことを……っ!?」

 

 「ソフィーネ、殿……っ!」

 

 はい、こうなります。残った私は悪役に見えるわけです。

 

 これは私の株が落ちすぎて、ソフィーネ株を買った連中がみんな首を吊りだすでしょう。

 雨が降ってもいないのにテルテル坊主がたくさんだ。はっはっは、心が痛いわこんちくしょう。

 

 「いやっ!?私も全然知らなかったんですけどぉぉぉぉぉっ!?というか、ベルさんが捕らえられているって聞いたから気配を追ってここまで助けたいと思って来たんですけどぉぉぉぉぉっ!?なんでこんな悪者みたいな空気になるのぉぉぉぉぉっ!?いや、悪いことは確かにたくさんしてきたけど、これはこれでなんか違うんですけどぉぉぉぉぉっ!?」

 

 私は叫んだ。

 銀魂みたいな叫び方になったが、人は限界の処理容量を超えたらそうなるんだとこの時初めて知った。こんなトリビア知りたくなかったわクソッタレ。

 

 「お前も春姫の魔法を使うってことに納得していただろう」

 

 「だからあなたって私に途中からツッケンドンになっていたんですかアイシャぁっ!?知らないよ、こんな重い設定があるとか知らないからね!?みんな知っていることでも、私だけ知らないことってあるんだよ!?うちのファミリアの秘密主義に馴染めないで泣いているテルスキュラ出身のアマゾネスもいるんだよ!?クラスで先生にどうしてお前は知らないんだ、忘れたのかって怒られても、クラスメイトが教えてくれていないから分っていなかったっていうパターンもあるんだからね!?ここはジャパリパークじゃないから、ケモノはいないけど除け者はいるんだよ!?」

 

 私は泣いた。

 

 これが外様であるが故の仲間はずれか。

 別に黒い話の輪に加わりたいわけではないが、こんな場面で陰鬱フラグ爆発させられるぐらいなら、もっと早くから知りたかったわこんちくしょう。

 

 キミたちが顔の穴という穴から水分を垂れ流しまくっている私を見て、残念なものを見るようにドン引きするのは勝手だ。しかし、泣き叫んでもいいじゃないか。

 というかここで何も言わなかったら、それこそ私は黒幕である。主張しないのは罪、しかし主張してもあかんやつ。ざけんな。

 

 私の尊厳クライシスのおかげで、ベルやアイシャたちの視線がなんとも可哀そうなものを見る目になっている。春先に出没する愉快な人を見るような目だ。

 私のあんまりな姿にベルたちの誤解はきれいさっぱりと消え去ったようだが、代わりに私の威厳もグーンと下がったようだ。

 

 え、元から無い?沈めるぞコラ。

 

 「ま、まぁそれは別にいいさ。お前はあの女神の恐ろしさをわかっちゃいない」

 

 良くないよ。私の尊厳とか自尊心を返して。

 「ちょっとベルに良い恰好できたな」って、「私って格好良くないか」とかひそかにニヤニヤできていた、あの頃の私を返して。

 

 改めて睨み合うベルとアイシャたち。

 へこんで体育座りになっている私は蚊帳の外。

 なつかしいな、エロに出会うまではテルスキュラではよくこうして寂しい気持ちを紛らわしていたわ。

 

 「……それにね、言わせてもらうが、なんでお前たちは口だけで向かってこない」

 

 アイシャは双眸を細め、ベルと命を見定める。

 

 どうやらアイシャの中では、既に私はいないものとして扱われているようだ。

 これは大事な場面だから、これ以上は邪魔しないで欲しいということだろう。わかった、空気が読める私は路傍の石として丸まっているとも。

 

 唯一、チラチラと春姫さんだけは私を気にしてくれているようだが、手を振って無視してくれて構わないと伝える。

 

 一人ぼっちの最中に気を使って話しかけられることが、かえってその人の心をえぐることもあるんだぜ。

 でもその優しさは素晴らしいので、大切になさってください。

 

 「この春姫の身に、何が起こるかわかっただろう。何故奪いに来ない、何を黙っているんだ」

 

 「それ、は……」

 

 「……やっぱり、ダメだね。お前にはこの娘を渡せない、ベル・クラネル」

 

 その後もアイシャの問いかけが続いているのを見ると、なんか複雑な気持ちになってくる。

 

 アイシャもあれで損な性格というか、なんというか。発破の掛け方が不器用な子だ。

 

 きっと本心ではベルや春姫さんを応援しており、自分が出来なかった代わりにイシュタルから春姫さんを助け出してほしいのだろう。

 そんなに自分を悪者にして傷つけなくてもいいのに、あえてあんな言い方で振る舞っているのは春姫さんのためなのだろう。

 

 

 「単純な力のことを言っているわけじゃない。あんたには覚悟が足りない。この春姫と駆け落ちして、心中でもしてやれるって覚悟がねっ!」

 

 ベルの揺れる心、アイシャの諦めと期待が入り混じった感情が伝わってくる。

 

 「お前は『雄の顔』をしていない」

 

 ベルはショックを受けたようだった。

 

 私も雄の顔というパワーワードにショックを受けた。

 

 雌の顔は諸氏のエロマンガで見てきたし、セリフで出てきたというのに、雄の顔という言葉にはとんと縁がなかったからだ。

 雄の顔、なんというキャッチーな言葉なのだろうか。アイシャ、やはり……天才か。

 

 「傲慢で荒々しくて、欲深い雄の顔をしていないんだよ、お前は。ふらふらして意気地のない、ただのふぬけたガキの顔さ。お前はこの娘のために全てを投げ出せない」

 

 アイシャと一緒にベルを探していたアマゾネスたちの気配が、ここへと間近に迫ってきている。

 潮時か、そう思って私は体育座りから立ち上がった。

 

 「イシュタル様を、この私たちイシュタル・ファミリアを、レベル6のソフィーネ様を相手に、お前は戦う決意ができるのかいっ!」

 

 おっふ。

 

 発破をかける内容に私が含まれていることに、どうしようもないぐらいに私の立ち位置を理解する。

 アイシャは悪くないよね、普通に考えても私ってその位置だもんね。

 

 でも、私の名前が出てからベルがより一層、顔を曇らせたことは、なんか、あれだ、言葉にできないものがある。辛い。

 

 あの鍛錬を施したが故に、ベルは痛いほどに私という壁を理解しているのだろう。

 しかも私がベルの憧れであろうアイズから、「私より強い」なんて直々に言われてしまったことも、躊躇いに拍車をかけているのかもしれない。

 

 そう考えると、私がここに来たことでベルのメンタルは悪化したと考えていいだろう。

 おかしい、サポートに来たはずなのに私の扱いが呪いのアイテムレベルだ。こんなの絶対おかしいよ。

 

 「おーい、アイシャ。何をやってるんだよ。早く捕まえないと、また逃げられちゃうよ」

 

 「お、ラッキー。ソフィーネ様も来てくれてるじゃん。これは勝ったな、お風呂入ってきてもいい?」

 

 「バーカ、ともかく兎もこれで終わりだ。足は速いようだが、ソフィーネ様には勝てないぜ」

 

 合流し始めたアマゾネスたち、綺麗なフラグ乙。

 絶望に顔を白くするベルと命に一瞬で駆け寄ると、両脇に抱え上げる。

 

 喜ぶアマゾネスたち、悲鳴を上げる春姫さん、静観するアイシャ。

 驚きと混乱、そしてなんとか希望を見出さないといけないと、私を睨むベルと命を一瞥。うむ。

 

 「じゃ、この二人は私が外に送ってきます。あと、終わったらイシュタル様に会いに行くからって伝えてください。じゃあの」

 

 私はアマゾネスたちに背を向けて、空へと飛翔。

 そのまま空を駆けて、歓楽街の外側に消えていった。

 

 「「「……」」」

 

 残されたアマゾネスたちは沈黙、そして。

 

 「「「ソフィーネ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」」」

 

 大絶叫。

 先ほどまでの余裕はどこに消えたのか、彼女たちは目まぐるしく表情を変えてソフィーネが消えた方向を呆然と見つめるしかなかった。

 

 「ちょ、どうするの!?いや、まずは追わないと……!!」

 

 「いやいや、ソフィーネ様に追いつけるわけがないだろう!?というか、ついに空を飛び出したぞあの人!?」

 

 「飛んだというより、跳ねていた?」

 

 「そんな違いはどうでもいい!こんなこと、どうイシュタル様に説明すればいいのだ!?」

 

 「本人が説明してくれるっていうから、それでいいだろ。帰ろうよ、なんかお腹すいてきたし」

 

 「あ、あなたは随分とおちついているのね」

 

 「慣れ」

 

 互いに詰め寄ってああだこうだと言葉をぶつけ合うアマゾネスたちをよそに、ほっと春姫は一息ついた。

 良かったと、春姫は心からベルと命の無事を祈る。そんな様子をアイシャは横から見ていた。

 

 アイシャは体の緊張を解くと、ペシリと春姫の頭をはたく。

 

 「まったく、無茶をするんじゃないよこのアンポンタン」

 

 頭を抱え、蹲る春姫。

 アイシャはそれを見て息づくと、ソフィーネとベルたちが消えた先を見て瞳を細める。

 どうしてだろう。夕暮れの光がとても眩しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よーし、ここなら大丈夫でしょう」

 

 ベルと命を放り投げると、凝った肩をぐるぐると回してときほぐす。

 呆然と地面に座り込む二人を一見し、無事を確認。周囲に追手の気配もなし。

 

 二人は体勢が悪い状態で運ばれ、しかもまるでジェットコースターのような加速と重力かかりまくりであったので、気分はそんなに良くなさそうだ。

 先ほどまでの会話による、精神的な苦痛もあるのかもしれないな。

 

 さてと、団員のアマゾネスたちは混乱しているに違いない。

 すぐに引き返して彼女たちを安心させ、私はイシュタル様と話し合わなければいけないだろう。

 

 「周囲にイシュタル・ファミリアの気配はないので、ここからは安全に帰れるはずです。しばらくは歓楽街に近づかない方が良いでしょう。あと、ベルさんの身の安全のためにも、ロキ・ファミリアに助けを求めればいいと思います。いろいろあって、あそこはうちのファミリアを警戒していますからね」

 

 ロキは目ざとい神様だ。

 イシュタル・ファミリアの秘密を握れるということであれば、喜んで手を貸してくれることだろう。

 

 「あなたは……味方、なのですか」

 

 訳が分からないといった様子で問いかけてきた命に、私はなんとも言えない気分になる。

 

 「いや、ガッツリとイシュタル様に関わっているので、そうとは言えませんよ。ただ今回はあんまりにもあんまりだし、うちのファミリアにとってもヤバイ気がしたのでお二人を助けただけです」

 

 命は私の言葉に要領をえないと悩んでいる。

 

 既に話が広がっているかもしれないが、ベル誘拐の話がフレイヤの耳に入ったらマズい。

 今回の事態はベルの貞操が守られたことにより、最悪・手遅れにはならなかったが、フレイヤが道理を弁えるか怪しいところだ。

 

 ロキはなんだかんだで一線を越えなければ、はじめにギルドに確認を取るなど道理から外れることはない。

 ロキの眷属たちもフィンをはじめとして、オラリオの平穏を第一に考えるような理性的な冒険者が多い。

 

 しかし、フレイヤは未知数だ。

 話に聞くと、あそこってイエスマンしかいない。

 フレイヤが道理をすっとばして暴走し始めても、誰も止める奴がいないかもしれない。なんてはた迷惑なファミリアだ。

 ……いや、うん。同じぐらい迷惑を方々にかけまくっているうちのファミリア、私が言えた義理ではないんだけどさ。

 

 「私はすぐに戻ります。さっきも言いましたが、お二人、あとヘスティア様はロキに保護を申し出た方が良いです。それでは、この辺で──」

 

 複雑な気分のままに、飛び出そうと一歩踏み出した私。

 だが、その一歩は正気を取り戻したベルの一言によって止められた。

 

 「ソフィーネさんは、本当に、春姫さんが犠牲になることを知らなかったんですか」

 

 また転びそうになるも、なんとか踏みとどまって体勢を整える。

 

 振り返れば、ベルが葛藤しながらも真剣な眼差しで私を見つめていた。

 私は誤魔化すことも、ふざけることもできないだろうと考えて、正面からベルに向き直る。

 

 「はい、私は知りませんでした。春姫さんの魔法のすごさは知っていましたが、そのクールタイムと、彼女自身の魔力の容量の限界から、あの魔法が融通がきかないということも理解していました。それの解決方法があると主神から示唆されていましたが、あんな形であったことは初耳であり、不本意です」

 

 「これで、良いと。ソフィーネさんは、これでいいんだと思ってるんですか!?」

 

 ベルの感情はぐちゃぐちゃになっているようだ。

 

 悪いことをしてしまった、と思った。

 どうやら彼は私に憧れのような、尊敬のような想いを感じつつあったのかもしれない。

 そんな私がこの事件に絡んでいると知って、叫ばざるをえなかったのだろう。

 

 ベルはなんだかんだといって、まだまだ精神が未熟な少年だ。

 

 私みたいに酷い環境に慣れ切って、擦れた人間でもない。

 この出来事は、ベルの心の処理が追いつかないのかもしれない。

 無理もない、こんな話は重すぎるからな。プリキュア大好きな小学生に、大人のプリキュア本を叩きつけるかのような残酷な所業だ。

 

 「ベルさん。私ってベルさんが思うほどに、まっとうで綺麗な人間じゃないですよ?」

 

 「──え?」

 

 「私と一緒に育った同室のアマゾネスたちを殺し、親代わりであり、親身になってくれたお姉さんのようなアマゾネスも殺した。そんなテルスキュラ出身のろくでなしがこの私です」

 

 ちなみに、ヒリュテ姉妹もあそこまで生き残ったということは、同じ体験をきっとしているのだろう。

 

 あそこは鬼畜なことに、生まれ育った同室のアマゾネスたちと、最初から殺し合いをさせない。絆を深めさせる。

 そしてある時期になると、同室同士で互いに殺し合わせるのだ。甘さを捨てさせ、慈悲を忘れさせる。ろくでなししか生き残れない、蠱毒の穴を作り上げるのである。ホント腐ってるわ。

 

 別に不幸自慢やら過去語りなんてしたくはないのだが、ベルが迷っているのであればちゃんと向き合うべきだ。

 

 「あなたは私が春姫さんを救ってくれるのではないか、あの強いソフィーネならなんとかしてくれるのではないかという、淡い希望を抱いているのではないのでしょうか」

 

 「それは……」

 

 「辛い時、苦しい時、自分の力ではどうにもならないのではないかと思った時。人は自分を超えた大きな力にすがりだす。この世界では意味合いが違いますが、神といったマジカルパワーもそうです」

 

 私はできないけど、あの人ならなんとかしてくれるんじゃないか。どうして自分よりも優秀なあの人がなんとかしてくれないんだ。

 壁にぶち当たった人というものは、そんな期待を感じてしまうものだ。

 

 まぁ、元々グループで進化して生き残ってきたのが人間という存在だ。

 遺伝子に刻まれた本能が、大変な時は他人を頼るという選択肢を重くしていると考えることもできるかもしれない。

 つまり、ベルの反応はごく普通のことなのだ。他人に期待するっていうのも、当たり前で良いのだ。

 

 「ただ、私は春姫さんを助けませんよ?」

 

 「──っ!!」

 

 「ソフィーネ殿は何もお心に感じられないのですか!?」

 

 「春姫さんは確かに素晴らしい逸材であり、それに普通にこんな外法が行われること自体が悲しい。でも、イシュタル様にヘスティア様、ティオナさんとは違って、私に特別な恩や借りが春姫さんにあるわけではない。さらに言えば、私はイシュタル様と春姫さんであればイシュタル様の方を選ぶ人間です。動く理由がない」

 

 「それが、仲間の命であってもですか!?」

 

 命が信じられないと怒声を上げるが、私は変わらない。

 仲間を犠牲にして成りあがるテルスキュラの影響は、私の成育歴に大きな傷跡を残している。

 

 「さっき言ったと思いますが、私は自分が死なないために親代わりすら殺した人間ですよ。私はあなたたちからすればどこか壊れているし、歪です。春姫さんが犠牲になることで、私と親しい多くのアマゾネスたちの安全が保障され、彼女たちの命の危険が少しでも減るというのであれば、私は彼女たちのために春姫さんを犠牲にできる人間です」

 

 「なっ!?」

 

 「優先順位の問題です」

 

 これがレナ、サミラ、アイシャにイシュタル様であれば話が変わる。最後まで私は抗議するし、時には力づくで止めようとするかもしれない。

 しかし、春姫さんは私にとって遠い存在であり、私と彼女に心の繋がりがあるわけではない。

 

 あの一見能天気そうに見えるレナであっても、優先順位がある。

 レナは言った。アイシャと春姫さんを比べたとき、アイシャを選んだからこそ春姫さんを見捨てていると。

 

 アマゾネスたちの中で春姫さんの命を本当に心配しているのは、他のアマゾネスたちに大切にされているアイシャだけだろう。

 その関係性が、この問題をより複雑にしているわけだが。

 

 「じゃあ、どうしてリリは助けたんですか!?」

 

 「ヘスティア様の大切な眷属候補だからです、仲間だからです。今ではベル、あなたの仲間であるということも理由になる。私は自分の想いもあり、リリルカさんを助けた。春姫さんも私の想いからすれば大切な人物ですが、それはイシュタル様や他の仲間をあまりにも裏切りすぎてしまう。私の勝手な理由で、そこまで周りを振り回せない」

 

 オラリオに来たばっかりの頃の私であれば、春姫さんを犠牲にするとか「ゆ゛る゛ざ ん゛」と、てつをみたいに憤って暴れまくっただろう。

 冗談抜きで、文字通りファミリアを半壊させていたに違いない。

 

 しかし、それは私が孤独であり、独りよがりだからからこそ出来たこと。

 

 オラリオに来て大切なものがたくさん出来てしまった今の私は、一人ではなくなってしまった。

 

 イシュタル様もいるし、レナやアイシャにサミラもいる。歓楽街のお姉さまたちとも、心地よい時間を過ごさせてもらった。それにたくさん助けてもらった。

 

 立場と守るべき仲間を得てしまった私は、昔ほど我儘に振る舞って暴れることはできない。

 

 正しく言うと、今だって本当は「マジふざけんな、あんなエロかわい子ちゃんを犠牲にするとかウンガー!!」と暴れたい。イシュタル様をはっ倒してやりたいとさえ思った。

 

 しかし、どうしたってイシュタル様や他のアマゾネスたちのことを思うと、頭に暴れる考えが浮かんでも、そんなことは出来なくなるし萎えてしまうのだ。

 

 人は守るものができると、動けなくなってしまう。

 家族、社会的な立場、お金、その他諸々。これが弱さととるか、強さと考えるか。或いは大人になるということなのか。

 

 「それは私だけではなく、ベルさんも同じことなのでしょう。大切な仲間、主神を守るために、あの時に春姫さんを選ぶことができなかったのでしょう?」

 

 「そ、それは──」

 

 ベルは初めて、私を責めてしまっていると気がついたようだ。

 

 申し訳なさ、情けなさ、悔しさ、いろいろな想いが彼を苛む。もう彼自身ですら、何がなんだかわかっていないのかもしれない。

 

 「ベルさん、私はベルさんに怒っているわけではない。私は気にしていません。選択肢がなければ、ただ一点を守るだけでいい。だけど、複数の守るものができれば、人は時に何かを捨てて何かを選ばなければいけない。ベルさんはあの時、選べなかった。ただ、それだけだと思うのです」

 

 「僕は、僕は……」

 

 「あなたが抱える大切な人たちは、本当に大切な人たちなんです。だからあの時、あなたは迷ったんですよね。安易に春姫さんを助けると叫べなかったんですよね。あの場ですぐに決断し、選んだ方が私はあなたを疑う。あなたは間違っていない、ただ、一つの運命の岐路に初めて立たされただけです」

 

 ベルの葛藤は終わらない、苦しみは終わらない。

 私はその苦しみを救ってあげることができない。ベルの葛藤を終わらせられるのは、ベルだけなのだから。

 

 ベルは心の中で戦っている。

 

 格好悪い自分。惨めな自分。傷つけた人に助けられた自分。そして、自分を育ててくれた恩人に感情の矛先を向けてしまった自分。

 ベルが体を震わせ、歯を食いしばり、必死に自分の中で戦っている。強い子だ、もっと私にぶつければいいのに、もっと私を責めればいいのに、ベルはそうしようとしない。

 

 春姫を助けたいという想い。仲間の絆を大事にしたいという想い。

 どちらも大事だからこそベルは苦しんでいる。

 命も涙に滲んだ声を必死に押し殺している。

 

 こんな感情を知らなければ良かった。こんなに苦しいなら、悲しいのなら、愛などいらぬと捨ててしまえたらどんなに救われることだろうか。

 

 しかし、ベルという人間はそれができない。

 

 「それに、これが一番大事な理由ですが──」

 

 言うべきか否かと悩んでいた言葉を伝える。

 

 「春姫さんは、私に一度も助けを求めることも、心を開いて話してくださるなんてこともありませんでしたよ?」

 

 「……え?」

 

 ベルの顔は青を通り越して白く、命の顔はついに耐えられなくなったのか、涙でぐちゃぐちゃになりはじめた。

 

 「春姫さんは私に一度も助けを求めなかった。相談もなかった。いつだって諦めていた。私に力があっても春姫さんは私に希望を見出せず、私は春姫さんの希望にはなり得なかった」

 

 助けを求められもしていない人を助けるのはどうなのだろうか。

 

 助けを求めるであれば、それは変化を望んでいるということかもしれない。

 今の自分や環境を変える意思があるということかもしれない。

 

 だが、諦めていてはダメだ。

 

 いくら私が動いたところで結局はなんの結果に繋がることもない。

 春姫さんは助けられても、この辛く厳しい世界を生き抜く覚悟がないままだ。

 

 そして助けたからには一人の命を背負う責任が私には生まれる。

 その責任から関わる私がいくら頑張ったところで、希望も生きる活力もない春姫さんは変わらないだろう。

 彼女にとっては所有者が変わっただけである。そして私も春姫さんに勝手に期待して、勝手に裏切られて終わりだ。

 

 春姫さんは自分に価値を感じていない。守られる価値を感じなければ、人は救われない。

 重い過去を持つ春姫さんに、自分の価値を感じさせる熱を私は持っていない。

 

 ああ、なるほど。

 これがきっとアイシャが言っていた『雄の顔』という熱なのだろう。

 

 お前が欲しい、お前を抱きたいという身勝手な男の熱は、どうしようもなく女に自分の価値を感じさせるのかもしれない。お前が欲しいと求めることは、それだけで存在性の証明になり得るのだ。

 

 ということは、不遇な女の子が救われてラブラブエッチという展開はやっぱりすごいのだ。心にくるのだ。格好いいのだ。

 奴隷の女の子が笑えるようになってラブラブエッチなんて、エロマンガじゃどんなに古くなってもチンコにくるもんな。

 

 「おそらく、強さなんて、レベル6なんて苦しい人間にはなんも関係もないんですよね。一番はこの人だったらと希望を見出せるかどうか。夢を一緒に見させてくれるかどうかなのだと思います。春姫さんはベルさんには心を開いた、悲しみを打ち明けた、助けを求めた。私やアイシャは春姫さんの救いにならず、ベルさんだけが彼女にとっての救いになった」

 

 春姫さんにとって、アイシャは迷惑を掛けたくない大切な仲間。春姫さんにとって私はイシュタル様の怖い仲間だろうからなぁ。

 

 その関係を飛び越えて助けを求めるには、深い信頼と信用が必要になってくる。

 私とアイシャではそこまで至らず、ベルは少しの期間でそこに至ったのかもしれない。やっべぇわベル、魅力値カンストしているのかなって。

 

「春姫さんの言葉がこの場所から救い上げて欲しいか、それとも今の私の心を少しでもわかってほしいということだったのかは、心を開かれていない私には知る由もありません。言葉には表の意味と裏の意味があるもの。ベルさん、あなたは春姫さんの言葉をどのように受け止められたのですか?」

 

 ベルが顔を強張らせて、爪が皮を引き裂きそうになるぐらいに手を握りこむ。

 

 それを見て、こんな言い方でしか言葉を返せない自分に、私も複雑な想いを感じる。

 もっとうまい言葉がかけられたらいいのだが、私はやっぱりキリトさんや上条さんみたいにはいかないようだ。

 

 もっと無責任にベルへ言葉をかけられたら、ああしろこうしろと言えたら私も楽なんだけどなぁ。

 

 だが、それだけは絶対にやってはいけないことぐらい知っている。

 だってそれは私がベルたちを心配して言った言葉ではなく、私が楽になりたいから発せられた言葉だからだ。ベルのためではない言葉を、ベルに向けるべきではない。

 

 「……イシュタル様は狡猾な女神です。団長はレベル5のフリュネ、副団長はレベル4。レベル3の冒険者が多数存在し、私はレベル6です。あなたが春姫さんを諦めたとしても、誰も文句は言わないでしょう」

 

 アポロンの時とはわけが違う。

 私たちと戦うことは、そのままなんでもありの大戦争の始まりだ。しかも今回の私はベルの方ではなく、イシュタル様の方についている。

 

 「でも、そんなことは些細な事だと思います」

 

 初めて、二人が慟哭の中から顔を上げた。

 私の言った言葉に驚き、一瞬全ての感情を忘れてしまったように見えた。

 

 私もその時その時で何回も道を選んだ。

 こうして悩んで、修羅ではなくエロという愛の道に進むことを選んだ。

 

 「一番は、ベルさんがどうするか選ぶことです。あなたがあなたの行動に責任を持ち、誰かに選ばせることではなく、あなたが選ぶことです。春姫さんがああ言ったから、アイシャがああ言ったから、ヘスティア様がああいったから。誰かに選んでもらったら、後悔した時に誰かのせいにできる、それではダメなんです。どんなに苦しくても、どんなに辛くても、それがどんな結末を迎えるにしても、ベルさんは責任を負えるように、ちゃんと自分を責められるように自分で道を選ぶべきだ」

 

 「ソフィーネ、さん」

 

 「私はあなたがきっと選べることを信じています。だって、あなたは多くの人の想いを背負ってきたのでしょう?なら、これからも背負っていける気がするのです」

 

 救いの神がいないこの世であっても、祈ることぐらいしかできない。信じることしかできない。ベルがベルとして納得できる道を選べることを。

 

 その上で、ベルが剣を取って向かってくるのであれば私も戦う。

 

 未熟だとか、戦うのが早いとか心配すること自体が愚か。決断し、選んだ戦士に対する侮辱。

 ベルの想いへの軽視。彼が生き抜いてきた縁、彼を支え育ててきた多くの人たちに対する蔑視だ。こんな邪見は許されるものではない。

 

 「迷ったら、あなたがこれまで出会って来た大切な人たちが、尊敬する人たちが、あなたの先祖がどう思うかを考えてみるのもいいかもしれません。それはきっと、ベルさんがベルさんとして立ち返る、一つの起点になるのではないのでしょうか」

 

 私も説教臭いことばっかりいっているだけではなく、選ばなければいけない。

 イシュタル様と話し合うべきだ。怖いからと逃げていては、私は後悔してしまう。それではいけない。たとえどんな結果になっても、今の私の全てでぶつかるべきだ。

 

 「多くの女の子たちを幸せにしたいのでしょう?ハーレムを求めるのでしょう?ベルさん、あなたはあなたのなりたいヒーローに、英雄になるために、未来のあなたが過去のあなたを許せるために、選んでください」

 

 ベルの目に力が宿る。目の奥に燃える炎が光り輝く。

 

 泣くのは悪いことじゃない。迷うのは悪いことじゃない。泣いた先に、迷った先に磨かれ、光るものがある。苦しみと悲しみを積み重ねた先に、人の輝きがあるのだと多くのエロマンガは教えてくれる。でもリアルNTRは許さねぇ。

 

 「あなたが──あなたらしく生きられることを、祈っています」

 

 私はベルと命に一礼すると、暗くなってきた空に飛んだ。目指すは、イシュタル様がいるファミリアの拠点だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そこをどいてくれないかな、タンムズ」

 

 「謹慎の期間はとっくに始まっているはずだが、ソフィーネ」

 

 私がやってくると、タンムズと同じように部屋の前にいた男娼たちは逃げ出した。

 

 お前らなぁ……。いくら私が良い笑顔してるからって、低レベルだからって、ちょっと甘すぎるだろう。

 ベルを見習えと他人を尺にして言うつもりはないが、守ると決めたら意地を張らなきゃあかんだろうに。

 いざという時に、ちゃんとイシュタル様を守れるのだろうか。

 

 「ベルさんへの誘拐命令、あれってイシュタル様が出したってね。説明されていなかったとはいえ、妨害してしまったことへの謝罪と、イシュタル様へのお願いに上がったんだけど?」

 

 「お前の話は団員から聞いている。その上での話だ。イシュタル様への謝罪は不要だ」

 

 「それはイシュタル様のご判断?」

 

 「そうだ。お前は地下に入れ」

 

 そうか、わかった。

 事情はよくわかった。

 

 「じゃあ、私がこの扉を突き破るのと、大人しく通すのではどちらが良いと思う?」

 

 「……昔のように、有無を言わせず強引に押しとおるのではなく、一応確認してくれるんだな」

 

 「これが私の成長よ、文化人ソフィーネの理知的な判断能力ってもんよ」

 

 「文化人で理知的な人間は、扉を突き破ろうとせん」

 

 確かに。

 おのれタンムズ、なんと卑怯な。言葉で善良な私を欺くなど、西欧人が未開の民族を騙して不当な取引をするブリカスの如き所業。鬼、悪魔だ。

 

 「なら、テルスキュラ流で扉ではなく壁をぶち破ります」

 

 「お前はテルスキュラが嫌いなのか好きなのかはっきりしろ」

 

 「都合の良い時のテルスキュラは大好きです。状況に合わせて使い分ける、これぞオラリオで学んだ文化人の理知的な判断だ」

 

 「使い分けられていないからな。少なくとも、この会話のお前は最初から最後までテルスキュラだからな」

 

 「マジか、流石にそれはへこむわ」

 

 くそ、口ではオラリオ文明人として長いタンムズの方が有利だ。

 どうすればいい、私はまたタンムズを天井の現代芸術にするしかないのか。いや、それで解決できるのであれば、もうそれでいいのではないのだろうか。

 

 私の怪しい視線を感じ取ったのか、タンムズはぶるりと身体を震わせて一歩後退。

 自分の首に不思議な違和感があるのか、右手でぺたぺたと何度も触って確かめているようだ。

 

 「どうしてわざわざイシュタル様に会おうとする。ベル・クラネルか、それとも春姫か、あるいはアイシャのためか」

 

 事情を全て知るタンムズは、嘆息して私に問いかける。

 私はどうしてここで三人の名前が出てくるのかと、タンムズに言葉を返した。

 

 「違います、イシュタル様のために決まっている。私は一にエロ、二にエロ、三にエロで、四にイシュタル様。五に私の友人知り合いで、あとは全部同じだからな」

 

 タンムズはほぉっと感嘆の息をつくも、すぐに顔をしかめる。

 

 「……全部エロって言わなくなった分、お前も成長したな」

 

 「急に褒めないでよ、照れるじゃん」

 

 「褒めていない、呆れている」

 

 しかし、タンムズは一向に退くつもりはなさそうだ。

 彼のイシュタル様に対する忠誠心は私も認めるところである。弁慶のように矢の山になろうが、タンムズはここを退く気はないのだろう。

 

 「タンムズ、そこを退いてください。もうあなたの首を天井に突き刺すのは心が痛い」

 

 「止めろ、あれは地味に修繕費がかかるんだぞ」

 

 「く、なんて適切なコメントだ。ほんの少しだけ、先っちょだけでいいからその扉を開けてください。それで全て解決できるんです」

 

 「それのどこが解決だ。何を言おうが、ここから退くことはない。大人しく謹慎に入るんだ」

 

 ええい、しゃらくさい。

 

 よし、首をトントンしてタンムズを気絶させ、扉を正攻法で開ければ無問題だな。タンムズも傷つかないし、扉も壁も綺麗なままだ。

 

 天使のように微笑む私。私が何を考えているのか理解したタンムズ。

 タンムズは顔色を変え、とっさに得物に手を伸ばしたが、遅い。私の手刀の方がずっと早い。

 

 このまま眠れ、タンムズ。

 

 「うるさい」

 

 部屋の中より、苛立たし気なイシュタル様の声が聞こえた。

 

 タンムズの動きが止まり、私も腕を止める。

 小さな声なのに、どうしてかよく耳に聞こえてきた。恐らくは神の力が声に込められていたのだろう。

 

 扉が小さく開き、中から体を震わせた男娼の少年が姿を現す。

 彼は緊張によって何も言葉が出てこないものの、どうやら中に入れと言いたいようだ。イシュタル様の許可が下りたのだ。

 

 タンムズに「入っていいの?」と戸惑いながら顔を向けると、タンムズは男娼を一目見てから私を見返し、扉の前から横へと移動した。

 

 「……許しが出たのであれば、私は何も言うことはない」

 

 「そ、そっか。なら、えーと、入るね?」

 

 もう何も言うことはないと寡黙キャラに戻ったタンムズ。その横を通り過ぎて、私は招かれた部屋の中へと入っていく。

 

 私が入室すると、入れ替わりに先ほどの男娼の少年が外に出ていき、そのまま扉が閉められる。

 視線を前に向ければ、先ほどまで男娼を侍らしていたであろうイシュタル様の姿があった。片手に酒を持ちながら、いつもの叶姉妹染みた装いに身を包んでいた。

 

 「サミラ、アイシャから話は聞いた。謝る必要もないから、とっとと地下へ行って謹慎しろ」

 

 そう言ってからイシュタル様は間を置くと、大きく息を吐き出して胡乱な瞳で私を見つめた。

 

 「……と言っても、お前は無駄に頑固だからな。話をまた聞いてやる、言え」

 

 口に酒を含み、ごくりと喉を鳴らして飲み干す。なんていうか、それだけの仕草で官能的でエロい。

 私は流石イシュタル様だと喜びそうになりながらも、今はそんな場合じゃないんだったとなんとか我慢する。そして両膝をついてその場に座り込んだ。

 

 「春姫さんの件を聞きました。イシュタル様は春姫さんを大切になされていると思っていただけに、驚きを隠すことができません」

 

 イシュタル様は私を一瞥すると、鼻を鳴らしてつややかな唇を開く。

 

 「ふん、大切に思っているとも。私が春姫を殺そうと思っている者もいるだろうが、そんなつもりはない。あの女神を倒せば、借りた魂は返す」

 

 魂を貸し借りできる世界観。自分がそこで生きている身であっても、どうにも眩暈がしてくるマジカル具合だ。恐ろしい。

 

 「私が血も涙もない女神であれば、とうの昔に『魅了』して言うことを聞く人形にして奴隷扱いだ。私は私なりの慈悲であの娘を可愛がってきた」

 

 くっくっく、と笑うイシュタル様に、私は何とも言えない気持ちになった。

 本人はそのつもりはないだろうが、笑い方が相も変わらず悪っぽい方だなぁと。

 

 「窮屈な思いを与えてしまったのは仕方がない。しかし、豪華な食事も綺麗な衣服もあれには与えてきた。そして、女の喜びを知る機会もな」

 

 イシュタル様は火をつけた煙管を口に。

 ゆっくりと座れ、吐き出された紫煙が天に昇っていく。

 

 「奴隷として売り出されたあれを、どこぞの酷い連中に買われたところを想像してみると良い。ぞんざいに扱われ、髪も艶なく、肌もあんなに綺麗ではなかっただろうに。生というものに悩む余裕があることこそ、春姫がここでの暮らしに守られてきた証よ」

 

 「性に関しては、あんまり乗り気でなさそうでしたけど?」

 

 「その感情が私にはわからん。性とは神聖なものであり、体を重ね、欲望に身を委ねることで子を為し、豊穣の未来へと繋がっていく。男の獣性を収め、女は世界の安寧の柱となるための人の理こそ性愛よ。多くの男たちと肌を重ねることに、なんの不浄があるというのか私にはさっぱりわからん」

 

 処女厨、ユニコーン系男子、フェミニスト、PTAおばさん、倫理おじさんたちが大激怒。

 なんて豪華なパーティに喧嘩を売るんだこの人は。SNSやってたら絶対に炎上間違いなしだ。

 

 「お前も春姫の我儘と私の神としての真理、どちらに筋を通っているのかわかるだろう?」

 

 神の価値観、神の視点というものを教え、伝えてくれるのはイシュタル様の優しさ故か。

 

 だが悲しいことに、イシュタル様の視点はどこまでいっても神の視点であって、人の視点ではない。

 そして大きすぎる視界からの言葉であるが故に、一人の人間の苦悩などただの我儘にしかならないのだろう。

 

 「春姫が本当に嫌であるのなら、どうして自らの命を絶たなかったのだ。貴族は貴族に、商人は商人に、技術を扱う家系はその家系に生まれた時から、己の運命を背負うことになる。やつは私という性愛の神に拾われた。その職の運命は私である以上は逃れきれない。逃れるとしたならば、それは死ぬことだけだ」

 

 どうして私が批難されることがあろうか、そう言ってイシュタル様は不愉快げに煙管をまた口にくわえた。

 

 「私の恵みを享受し続け、受け入れ続けたのは奴自身だ。私の目的も願いも、春姫のスキルが発現したときから伝えていた。そこまで私は慈愛をくれてやったというのに何故、覚悟をしない。何故、お前のように私に与えられた恩を少しでも返そうとは思わないのだ」

 

 現代日本倫理なんてものは、現代だから通用するわけでして。

 イシュタル様の言葉には少しも陰りがなく、少しも迷いがない。間違いないと言えば、間違っていないのだろう。

 

 しかし、間違っていると言えば間違っている。

 

 自分が恥ずべき存在であると考える人は、助けを求めようとはしない。

 どんな不幸な境遇も、存在しているための罰として受け入れようとするからだ。自分に危険が及んでも、自分が救われる行動を取ろうとは考えられないのだ。

 

 春姫さんにとって死ぬことは救いであり、それはどうしようもなくやってはいけないことになる。だって自分は救われていけないと思っているのだから。

 

 だが、私のあふれ出る知性では、どうやってもイシュタル様に伝わるような言葉が思い浮かばない。

 くそ、最終学歴テルスキュラはやっぱり小卒以下であったか。

 

 「ソフィーネ、お前だってテルスキュラが嫌だから抜け出してきたのだろう。春姫とて同じことよ。逃げられはしなくとも、命を選ぶ機会は奴の人生で何度あったことかわからん。お前は選んでここに来た。奴は死ぬことを選ばずにここまで来た。何も違いはない」

 

 「私は春姫さんに比べて力があり、彼女は選べるだけの力がなかったと思います」

 

 「そこだ。力ある者は道を自分で選べるが、力なき者は自分で自分の道を選ぶことさえできない。これは世の真理であり、それでも唯一弱者に許される手段が死ぬことだ。春姫はそれもできんほどに弱い、どうして力ある道を選べ、生きていけるというのか。あれは私に従って生きることでしか生きられない女だ」

 

 「……そこまで言い切れちゃいます?」

 

 「女神であり、人の子を見続けた生き字引だぞ?ある程度の人間の素養など見て分かる」

 

 イシュタル様、確かにイシュタル様の知る春姫さんはそんな存在かもしれない。

 しかし、人は変わり続ける生き物であり、ベルと出会って春姫さんは変わった。ベルとの出会いが変えてくれたのだ。

 

 力がないというのも春姫さんに巡り合わせが悪かったからだ。

 だが、その巡り合わせが春姫さんを変えた今、春姫さんは本当にイシュタル様に従うことでしか生きられないままなのか?

 

 人のような定命のものではなく、いくつもの命の終わりを眺めてきた神に言われると、頭の良くない私にはもうなんて言っていいのかわからん。

 

 「……殺生石の件ですが、返すと言っても全部無事に残っているとは限らないですよね?」

 

 「そうだな。仮に春姫がどんな有様になったとしても、フレイヤの戦いにおいては、奴がお前を除いて一番の功労者になるだろう。死ぬまで面倒を見てやってもいい」

 

 自分の体や心を兵器に変える系や、精神崩壊廃人ENDの陰鬱エロゲは止めよう。あれは心にくるんだ。

 

 しかし、悲しいことに、実はこれでもイシュタル様の対応はとてもやさしい部類に入るのだ。

 

 冒険者稼業なんてヤクザ稼業と似たようなもの。

 負傷して稼げない冒険者が追い出され、元冒険者は雲隠れで一家離散。母親も生活できないからと捨てられた子供は、ダイダロス通りで孤児になるなんて話も珍しいことではない。

 

 そう考えれば、イシュタル様の対応はマジで優しいレベルである。この世界において、という枕詞はつくわけだが。

 

 なるほどだ、ほうほう。うんうん、そうかそうか。ダメだ、わかんね。

 

 「でも、なんかもやってきます」

 

 イシュタル様が盛大にバランスを崩し、咽て激しく咳き込んだ。テーブルに積み重ねてあった果実が揺れによって床に落ちていく。

 

 だってなんだか気分が悪いんですもの、と「ばなな」みたいなアホガールになった私はもう考える処理能力が追いついていない。

 イシュタル様は呆れた様子で煙管をテーブルに置くと、頭が痛そうに額に手をやっている。

 

 「もう少し頭を回して考えろ、戯け。お前がどういう理想をもっているかは知らんが、私が認められない以上、それができない以上は無いも同然だ。お前がテルスキュラでエロ活動できなかったように、ここイシュタル・ファミリアでは許されず認められないこともある。それは神である私の判断だということだ」

 

 ①イシュタル・ファミリアにいる以上はフレイヤは絶対にぶっ潰す。ファミリアの主神である以上、私の言葉は絶対な。

 

 ②イシュタル・ファミリアに有用なスキル・人材は逃がさん。代わりに、だいたいの願いはかなえてあげるよ。好待遇だよ。エロマンガ活動もバンバンしていいよ。応援するよ。

 

 ③え、それでも嫌ならどうするって?魅了するしかないわな。それもいや?なら死ねばいいじゃねぇの?

 

 話をまとめると以上となる。春姫にとっては地獄だが、私にとってはわりと天国であることが判明した。

 やっぱり弱肉強食、力こそ全て。弱い命は死んでいき、強い命だけが生き残れる。福祉とかほぼ全否定の中世的世界観では、命の尊さなんて金貨一枚にも劣るということだ。

 

 「そこを割り切れん春姫も、アイシャをはじめとする団員たちも、お前もぬるい。特にソフィーネ、お前は私の横に立つ強者なのだぞ?そこのところをわかっているのか?」

 

 いつの間にか私への説教に移行するイシュタル様、冷や汗をかく私。

 

 「ベル・クラネルはフレイヤへの挑発でもあり、お前が後進を育てて相応しい精神を身につける上でも役に立つ。どれだけ私がお前に期待していると思っている」

 

 「え、ベルさんって私のために誘拐したの?」

 

 「それもある、ということだ」

 

 「いやいやいやっ!?多分情報がフレイヤに伝わる前にって話なのでしょうが、わざわざそのためにあえて大きな危険を取る必要はないでしょう!?」

 

 「お前は穢れた精霊との戦いでアビリティをさらに押し上げた。春姫の魔法に馴染む時間を考えても、そう悪い賭けではないと判断した。それにベル・クラネルの成長と立場を考えれば、フレイヤを除いても今を逃せば手を出しづらくなっていくだろう」

 

 「それはそうかもしれないですけど、なんで私のためにベルさんが必要なんですか!?別に精神を磨くのであれば時間をかけて大人になっていけばいいし、なんなら他に弟子をとるなりなんなりすればいいでしょう!?」

 

 「お前が磨いているのはエロ関係の技術ぐらいだろう、いつ私が望むような大人になる。あと、お前のしごきに耐えられる奴がいるのか?」

 

 全私が泣いた。

 

 大人とはなんだ、概念か。いや、大人っていうのはためらわないことだというではないか。

なら私はためらわずに常に真っすぐエロにばく進しているから、もう十分大人なのではないか。

あと、私の鍛錬は何故か不人気である。私はそれで強くなれたんですけどね!

 

 「それに、お前がはじめて期待している雄こそベル・クラネルだろう?これを逃せば、いつお前を女にしてくれる可能性がある雄に巡り合えるかもわからん。私はお前に女としての喜びを教えられなかったのが心残りであったが、奴であればその資格は十分あるだろう」

 

 悲報、イシュタル様はお節介お見合いおばさんだった。

 

 「私、そういう男女間でのセックスとか興味ないっていってましたよね!?」

 

 「男の精神が女の体にあるとか、そんな話だったか。だが恋人を愛する喜び、性愛の喜び、子を成す喜びを知らぬなど、女としてもったいにもほどがあるだろう。いつまでチンコがあればって言い張っているつもりだ」

 

 「メス堕ちする喜びは賛否両論激しいっていうのが定説でしょうがぁぁぁぁ!?

 

 「女神として長いが、そんな話は聞いたこともないな

 

 え、私ってベルとセックスするの?私がベルに突っ込むのではなく、私がベルに突っ込まれるの?

 私のエロとかどこに需要があるんだよ、馬鹿じゃないの。

 

 「なんだ知らないのか。お前がいつ雄を見つけてヤルのかって賭けが、団員の間で隠れて行われていることを」

 

 「よし、ちょっとその連中を教えてください。すぐにそんなバカげたことができないようにしてあげますよ」

 

 「ちなみに、一番人気は『相方は見つけられない』という話だ。まぁ、気持ちは分かる」

 

 「そりゃそうでしょう、だって私がそもそも相手を探していないわけですからね」

 

 「お前についてこられる雄が地上に存在しない、という話だった

 

 「私ってあんな野蛮アマゾネス連中からもそんな扱い受けてるの!?失礼な、私はあいつらよりも女子力に溢れているわ!!

 

 その後も、ああだこうだとイシュタル様とベルについて言葉をぶつけ合う。

 

 イシュタル様はベルを諦めるつもりがない、そうはっきりと言っているが、私からすれば理由が全て納得できるものではない。

 一番納得できないのは、私の女性としての魅力が団員の中で最底辺だと思われていること……。

じゃなくて、イシュタル様の危険があまりにも大きくなることだ。

 

 「私なんぞどうでもいいでしょう。ベルさんはフラグ大爆発させる天命を背負っています、あんなトラブルメーカーにこんな関わり方をしてしまっては、どんなイベントを呼び寄せるかわかったもんじゃありません」

 

 「ソフィーネにとっての最善を言え」

 

 「この際どい時期にフレイヤを徒に刺激することも、ベルさんという火種を無理に抱え込むことも私は危険に思えます。ベルさんは蚊帳の外の存在として扱い、利用し、私たちの力を貯めるべきです。ベルが春姫さんに関わり、興味関心を持った以上は、最悪として春姫さんを差し上げても距離をとるべきだとさえ私は思っています」

 

 「ソフィーネ、それがどれだけ滅茶苦茶なことを言っているのかわかっているのか?あの小僧にそれだけの価値、力があると?」

 

 「無茶は百も承知の上。その上でベルは味方になれば頼もしく、敵になれば恐ろしい。本人の実力に限らず、どんな災厄を呼び込むか想像できません」

 

 クルペッコぶん殴っていたらイビル・ジョーを呼ばれる。ワールドやっていたら受付ジョーが勝手に出てくる。そんな悲劇は知る者からすれば当たり前のものだった。

 

 ベルの場合はなんの拍子にオシリスの天空竜を呼ばれたって私は驚かない。

 「世界観違うだろ、どんなクソゲーだよ」と思うかもしれないが、フラグメーカーとして認めるということはそういうことなのだ。

 

 「それはそのまま、ベル・クラネルを取り込むことに成功すれば、恩恵となって返ってくるということではないのか」

 

 「そりゃそうですけどッ!?」

 

 「お前は分の悪い賭けと思い、私は好都合であると判断した。これはそれだけの話だ」

 

 私はそういうことがあるのだと人としての理を知っている。イシュタル様は神としての理を知っている。

 イシュタル様は結局、神の理を優先した。それだけの話だった。

 

 「故に、これ以上聞く話はない。地下にこもって謹慎していろ。殺生石の用意が終わり、小僧を手に入れればすぐに解放するつもりだ。ゆっくり謹慎していられるのも今のうちというもの、自分の実力を振り返って自信を持ち、その不安症を克服して帰ってこい」

 

 テルスキュラ卒の知能では、神様に言葉で勝てなかった。

 

 ずーんと肩を落とした私が扉から出てくると、タンムズが全てを察したように寄りかかっていた壁から離れ、此方に向かってくる。

 

 私は決意した。

 こんな悲劇がもう二度と起きないように、いつかテルスキュラに義務教育制度を導入してやろう。

 あそこ出身のアマゾネスを全員瓶底メガネにするぐらい勉強させてやるのだ。

 

 窓の外を見れば、もう真っ暗な世界が広がっていた。光がなければ、何も見えない夜だ。

 不夜城のように明かりがつき、活気が出始めた歓楽街の街並みを見て、どうにも消え去らない不安に感じ入る。

 

 私は本当に考えすぎなのか。占い大好きおばさんみたいに、荒唐無稽にベルの可能性に焦がれていただけのか。

 

 イシュタル様は自信が足りないと言っていたが、そうなのだろうか。

 

 私はイシュタル・ファミリアに災いがないことを、ただ祈ることしかできなかった。

 




いろいろ考えたり言いながらも、やっぱり春姫もベルも助からんかなぁと願うポンコツハッピーエンド好き主人公です。
そしてたぶん、次回はオラリオの街でいよいよキャンプファイヤーです(無慈悲

誤字訂正いつもありがとうございます。
そして、感想もいつもありがとうございます。中々時間が足りなくてお返しはできてはおりませんが、いろんな感想を頂けてニヤニヤしながら喜んで全部見てます。

感想見てて思ったのですが、IFでフレイヤ・ファミリアルートがもしあったら、たぶんソフィーネなんてキャラは春姫を問答無用で連れ出している気がする。
フレイヤだったら立場的にも性格的にも止めない予感。環境に良くも悪くも人なら影響を受けると思うので、ソフィーネはもっとバーサーカーしてるような。

また、感想では気にもしなかったところに注目してくださったり、自分以上に上手く説明できる人がいて、なるほどって興味津々でした。

私なんてエロマンガで例えられているのかよくわからないものを書きなぐり、分かる人は分かってくれぐらいにぶつけまくってます。なんて迷惑な。
エロ性癖を語る文豪もいるし、こんな私もなんだかんだで生かしてもらえている、そんな懐の深いハーメルンの未来は明るい(確信

そして紳士ネタがシリアスになるほどに使えなくなっていく。悲しい。
多分終わりまで割と原作の空気でシリアス風味が続いていくので、終わったら一回ぐらいは番外編を書いて初心に帰りたい。紳士のみんなはすまない、でも、みんなの心のチンコが元気であることを祈ります。

もうすっかり暖かくなり、地方によっては夏に近い気温だとか。皆さんもどうぞ、ご自愛ください。
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