伏黒甚爾の逆行奇譚   作:ぴーなつ

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短めですが、前の話のエピローグになります。




後日譚1

「恵にもやっと友達ができてよかったね。たった一人の卒業写真を津美紀と甚爾に送り付けなきゃいけないのかと思って、僕は冷や冷やしてたよ」

「津美紀はともかく死んだクズに送り付ける必要はないです」

「その場合は仕方ないから僕も写ってあげようかと思ってたのにな。僕ってば、超優しいグレートティーチャー!」

「人の話聞いてます?余計なお世話です」

「それにしても……恵はほんと年々似てくよね。あーやだやだ」

「少し気にしてるので、その話はやめてください!!」

 

超多忙であるはずなのに、暇そうにウザ絡みをしてくる恩師相手に恵はこのどうしようもない所は何も変わってないなと、額に青筋を立てていた。絶妙に神経を逆撫でしてくる発言をするし、デリカシーの欠片も見当たらない。普通生徒の死んだ父親の話を学び舎の中でするだろうか、しかも殺した相手は話をしている本人である。

 

東京都立呪術高専、冬は寒く夏は暑い伝統的な建築様式に則った古めかしい木造建築物の中、二人は歩いてグラウンドへと向かっていた。かつての激戦の見る影もなく、穏やかな日差しに満ち静かでゆっくりな空気が流れている。

五条の手前、誰も面と向かって恵に文句は言ってこないが、この場所を滅茶苦茶に破壊した甚爾の話を不用意に話さないでほしいと恵は思った。

 

「伏黒、先生、おはよー!盛り上がってたけど、何の話してたの?」

「え~それ聞いちゃう?聞きたい?聞きたいよね?」

「別に話す必要はないでしょう」

「あるよ。悠仁は呪術界の事をなーんにも知らないんだから、アイツの話をする必要はある」

「…………余計な話はやめてくださいよ」

「えっ!むしろそれがメインでしょ!」

 

恩師のこういうところは、年々悪化していないだろうか。今日は自主練をする予定だったのに、嫌な話をまた聞かされることになりそうだ。せめてもの救いは、ここに釘崎や真希、他の先輩方がいない事だろうか。話をこれ以上面倒な方向にもっていきたくないので、恵は閉口した。人生諦めが肝心である。

 

「簡単にまとめると、死んじゃった恵のお父さんはものすごい人外超人で、それまでの腐った呪術界を根本からぶっ壊しちゃったんだよね!最悪な方法で!」

「つまり……どういう事?」

「気を遣う必要なんてないぞ、虎杖。俺は別にアイツが死んだことを引き摺ったり、悲しんだりは全くもってしてない」

「オッケー、それじゃそうするわ」

「悠仁のその切り替えの早さは異常だよね。ちゃーんと最初から説明してあげるから焦らない、焦らない」

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

甚爾が天元を殺した後の呪術界の混乱はひどいものであった。日本の呪術のあらゆる制度設計や利権構造が天元の結界を前提条件として成り立っていた。術師は弱体化し、帳を下ろすのにも一苦労という状況であった。

 

呪術総監部もこんな突発的なテロに対応できるほど頭は柔らかくはなかった。なにせ千年続く変化のないシステムの中で、甘い蜜を吸っていたのだ。自分だけでも、と保身を図ろうにも根本の常識が変わってしまった挙句、身を守る術が失われたので勝手に自滅していった。

まさに無秩序、アナーキー状態。そんな中、しばらくは呪物の窃盗が横行し、闇市場に流れていた呪具の値段は跳ね上がった。

 

そんな中、白羽の矢が立ったのが五条悟であった。一人で完成された力を持つ、呪霊も呪詛師も呪術師も誰も敵わない、正真正銘の最強の術師。結局、呪術界は強さがものを言う世界だ。五条悟は、自分が想像していたのと全く違うやり方で新しい秩序を作っていく羽目になった。

 

教育という手段を使って、強く敏い仲間を育て、ゆっくりと内側から腐った呪術界を変えていく───そんな夢はあっけないほど簡単に実現した。

腐った蜜柑が成るその木ごと消し飛んだのだ。甚爾が天元を殺した事で、ピタゴラスイッチのように腐った呪術界そのものが空中分解した。正直、拍子抜けである。

自分で勝ち取りたかったものを甚爾からぶん投げられたようなものだ。試合に勝って勝負に負けた、五条は甚爾相手に一生勝てないという思いを抱え続けるのだろう。

 

勿論、御三家の力や発言権が完璧になくなった訳ではない。しかし以前より格段に弱くなったし、五条は強くなりすぎた。

誰もが、五条悟は言うまでもなく最強であり、自身が生き残るためには新しい秩序が必要になるという事を理解している。そうして、名実共に五条悟は呪術界のトップへと躍り出た。

 

とは言っても、面倒事は信頼する恩師や仲間たち、家の人間に丸投げし以前よりも好き勝手にやっている。

 

「五条先生って、もしかして一番エライ人なん?」

「う~ん、そうとも言うし違うかもしれない。僕は堅苦しい上下関係とかは嫌いだしね」

「へぇーなら先生は先生でいっか。術師が弱くなっちゃったんだよね?なんかそんな鬼気迫ってる感じはしないけど……」

「よくぞ気付いてくれました!!!」

 

術師が弱体化したことで、呪霊討伐任務による死亡率が激増し、死屍累々となる事を誰もが想像していた。

呪霊の全盛期が来てしまう、そんな最悪な予想は外れた。()()()()()()()()()、呪霊の発生件数が徐々に、しかし明らかに減っていったのだ。

観測できる範囲内の統計を見ると、日本は諸外国に比べ、呪霊の量も質も極端に多かった。だからこそ、人々を、自身を守るために、強い術師を増やす必要があったし、実際多くの術師が居た。

 

最初は、呪詛師──特に呪霊操術を持つ夏油傑の仕業ではないか、と噂されていた。呪術師の砦である総監部、高専、御三家、呪術連、その全てがかつてないほどの混乱に見舞われているうちに、戦力を集め潰しにかかるのではないか、そう恐れられていた。

しかし、集める価値のない蠅頭のような低級呪霊の数でさえ明らかに減っていた。そして、局所的に呪霊が居なくなるのではなく、全国的に等しく呪いの気配が弱く、少なくなっていった。

つまり、呪術師だけが弱体化したのではなく、日本に居る全ての呪いに関わるモノたちが弱くなったのだ。

 

結果的に、状況は前とあまり変わらないという事にみなが気付いた時には五条はちゃっかり絶大な権力を握って、五条悟体制が敷かれていた。実力も権力も弱くなった腐った蜜柑たちはどうしようもできなくなっていた。

 

呪術界は、五条悟を中心とした新秩序のもと、クリーンな業界に絶賛再編中である。業務内容が真っ黒なのだから働き方や組織くらいホワイトであるべき、その考えのもと、古くからの組織構造も瓦解したので制度改革も行っている。

五条の信頼の厚い、元ブラック企業勤め、ブラック組織には恨みが有り余る後輩が中心となって改革は推進されている。せっかく、転職したのに業務内容はほぼコンサルティングだ。労働はクソ、残業はしない主義、それなのに仕事のやりがいがありすぎて以前より社畜と化している。

 

「そうしていくつかの例外を除いてみんな平等に弱くなったので、平穏が訪れました~!ちゃんちゃん」

「??それじゃあなんでみんな戦ってるし、鍛えてんの?」

「そう!現実はそんなに簡単じゃなかった。まず、悠仁、君のような存在が現れた。両面宿儺の呪いは、今でも変わらず凶悪だ。古い呪物は消えてなんてない。それに、他にも警戒すべき敵がいる」

「術師の敵は呪霊だけじゃないってこと?」

「呪詛師──呪術を使って人を陥れ害する人間たち。それと、あの甚爾を嵌めたやつがいる。甚爾はそれを歩く死体と言っていた」

「ウォーキングデッド!?ゾンビいんの!?ミラ・ジョヴォヴィッチ!?!?」

「急にテンション上げてきたね!ミラはゾンビ役じゃないだろ。だいぶ前の話だけど、妙齢の額に傷のある綺麗な女だったって」

「へぇー、その人がゾンビなの?」

「全容は不明!ただ、鼻が効く甚爾が死臭がするって言ってるくらいだから生きてないか、一回死んでるとか?」

 

五条が虎杖に真面目に説明していたのはそこまでだった。それから先は、甚爾が恵を10倍凶悪にしたような顔をしている事、それなのに女児に大人しく叱られていた事、恵が大泣きしたことなど昔のくだらない出来事を暴露していった。

どちらかというとこういう話をしたかったのだろう。死人に口なしと言うが、これは酷い。五条なりの復讐なのだろうと恵は考えた。

 

「いや、なんで俺まで被弾してるんですか!!!!」

 

やっぱり違うかもしれない。先輩の言葉を借りると、馬鹿目隠しは少し楽しそうな雰囲気を出しながらある事ない事虎杖に吹き込んだ。性格が悪いというか、人間として終わっている。

 

「それで、結局伏黒の父ちゃんってどんな人なん?」

「人は、親父の事を最低の術師殺しと呼ぶな。でも、俺にとってはただのクズで、最強だ」

「クズで最強ってキャラ被ってんね!」

「待って?恵はともかく悠仁までそんな事いうの??僕ショックで立ち直れそうにないんだけど。アレと同じにされるの本当にムカつく、もうちょっと甚爾の事殴っとけば良かった……」

「五条先生が殺したんでもう無理ですね。俺も殴り足りないのに」

「先生が伏黒の親父さん殺したの!??何でこんな平和にその話してんの、気まずいとかないん!?!?」

「「いや、別に」」

「呪術師ってイかれてんね……」

「……甚爾はさ、悠仁の言う正しい死を迎えられたんだと思うよ」

「それをアンタが言うのは可笑しいですけど、おおむね同意です。そうじゃなきゃ最後にあんな顔する訳ない」

「……そっか」

 

甚爾と恵は親子だが、ドライな関係だった。甚爾が死んだ時も恵も津美紀も大人しく聞いていたし、五条が殺したと言っても決してせめなかった。

二人とも早く大人になりすぎた子どもだった。時折、甚爾や五条が血の臭いを纏わせている事に気付いていたし、不穏な気配を漂わせていたのは分かっていた。父親が自分たちをいつか置いて行くんじゃないかと、薄々勘付いていた。

 

そんな二人を見て、いっそ五条をせめたてて泣いてくれた方が良かったと、五条は悲痛な気持ちになった。仲のいいありふれた親子ではなくても、確かに彼らは家族だったのだから、何も思わない訳ないだろうに。

そんなこんななシリアスモードも通り過ぎて、今では普通に甚爾の話をするようになっている。

 

甚爾がどうしようもない女たらしのギャンブル狂、家族サービスなんてもっての他、加えて刑事事件まで引き起こすゴミ人間だったという事は二人が一番知っていることだ。それに、死に顔が見たことないくらい幸せそうだったので、置いていかれたものが引き摺ったとしても意味が無い。吹っ切れたともいう。

 

 

 

 

 

 

「僕もアイツに何回か殺されかけたよ、一回は本当に心臓が止まった。その上以前の僕ならまだしも、最強へと覚醒した僕に致命傷食らわせたんだよ?本当に、規格外に強かった」

虎杖がジュースを買いに走りに行った時、独り言のように恵にこぼしたその言葉は五条の心からの物なのだろう。

 

「それなのに、策に嵌められたんですね」

「そうだね。だけど、僕には甚爾が何の考えも無しに突っ込むような馬鹿には到底思えない。タダで死ぬタマじゃないから、嫌がらせでもして死んでると思うんだけど、分かんないんだよね〜」

「……俺たちのせいで、アイツは死んだんじゃないんですか。親父が死んで、津美紀はすぐに目覚めたし、俺だって人質になった事がある」

「違う、それだけは決して無い。それだけなら、他に方法はいくらでもあったはず。甚爾はただ呪われていただけだ」

「それ、結局なんなのか教えてくれませんでしたね」

「この世で最も強くて、重くて、歪んだ呪いだよ。僕らはね、呪い呪われ、生きて死んでいく。そんな生き物なんだよ、きっと」

 

 

 

 

─────────

 

 

 

 

「そういやさ、伏黒はなんで術師やってんの?」

「馬鹿っ、それ聞いちゃ駄目なやつでしょ!!御三家である禪院相伝、五条悟が恩師、術師しか道がない、親を嵌めたやつに対する敵討ち・復讐、理由なんて想像するだけで余りあるわ!!!」

「えっマジで?どうしよう」

「とりあえず謝んなさいよ」

「いや、そのどれも理由じゃない」

「逆にそこまでクソ重い過去背負っといてどれも理由じゃないってどういう事?」

「キレんな釘崎!」

「金稼いで自立できるし、それに強くなりたかった」

「へぇ~なんで強くなりたかったの?少年漫画の主人公に憧れるタイプじゃないわよね、アンタ。守りたい物があるとか?」

「守りたい物があるっていうのは一つの理由だが………俺は、小さい頃から規格外に強いやつらに弱っちい、すぐに折れそう、モヤシって言われながら成長してきたんだ」

「なるほど、つまりムカついたのね」

「そういう事だ。別にどんな未来を選んでもいい、好きにしろと言われた。それなら、あのムカつくグラサンを叩き割るまで、俺は術師を続ける」

「いい理由じゃない!アンタのことちょっと見直したわ」

「なんか伏黒らしくねぇけど、いいんじゃねぇの?強くなって、死んだ親父さんを見返してやれ!」

 

 

 




主役が消えたあとの物語の方が複雑かつ原作からだいぶ乖離した展開になりそうなので、時系列飛び飛びかつざっくり書く予定です。

甚爾は出てきませんが死後も圧倒的存在感を放ってます。ありとあらゆる人間の人生狂わせすぎ。あと虎杖、それゾンビでもミラでもなくてお前のカーチャン。
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