攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
いきなりの宣言。引退の意向を示したエリスさんに、俺も香苗さんも思わず見たのは葵さんだ。
弟子として、そして友人としてパートナーとしてエリスさんと二人三脚でやってきた彼女のことを、何よりも先に気にしたのだ。
見ればアンジェさんもランレイさんも耳に入ったのか、えっ!? みたいな感じで唖然としてエリスさんを見ている。
けれど葵さんだけは……あっけらかんと、朗らかに、けれどどこか寂しげにも見えるいつもの笑い声をあげて、応えている。
「はっはっはー! ようやく言いましたね師匠、ずーっといつ言うか、いつ言うかって気が気じゃなかったんですよ。もしかして探査が終わるまで言わない気なのかなーって、ほらいつものテンパりが発動したとかで」
「ハッハッハー、エリスさん的にも迷いどころだったけどねー。正直今も緊張したよー、いや引退発表に緊張も何もないんだけど」
「え……え、え? ほ、本当に引退するんですか? エリスさん」
「うん、するよー。まあ段階を置いての形にはなるけど、もう近日中には葵とのコンビも解消だ」
何気ない日常の雑談の延長、そんなノリでやはりすごいことを仰る。どうも冗談でなく、本気で引退されるつもりのようだね。
いやまあ、それならそれでお疲れ様でしたなんだけども。しかしてあまりに急な話で驚いちゃうよね。
部屋の前、もうモンスターもこちらに気づいて警戒しつつある段で全員止まり、エリスさんの元に集う。
とりあえずこっちの話を一段落つけてからじゃないと、今から戦う御三方だって気が気じゃないだろう……だからもしモンスターがこっちに来るようならそこは俺が止めるつもりではいるよ。
ともあれ、経緯を聞きたい俺達の視線を受けてエリスさんはやはり笑う。
どこか晴れ晴れとした、スッキリした表情のままで、彼女はそこに至るまでを語ってくれた。
「いやーシンプルにね、そろそろ世代交代だなって。ソフィアさんが引退するって話した時にじゃあ私も引退しまーすハッハッハーってさ。もちろん、葵にはその時にソフィアさん、ヴァールさんとあとマリーも併せてお話済みだよ」
「お、おばあちゃんまで……ていうか葵のことは良いんですか? まだ師匠として教えるようなこととかあるんじゃ」
「ハッハッハー、ないない! そりゃエリスさんの目から見てもまだまだ未熟なところの多い娘だけれどね、葵を舐めちゃいけないよアンジェさん。この子はもう、能力者犯罪捜査官としても探査者としても戦士としても、そして何より一人の人間としても……私の庇護下にいなくたって良いくらい、立派に成長してくれてるんだ」
「師匠……」
慈愛と慈悲、友愛と信頼──一人の人間に対しての、大いなる敬意さえ込めて。エリスさんは葵さんに眼差しを向け、そうして話す。
ソフィアさんが引退するってなった時点で、あるいはエリスさん的には予定調和なのかもしれない。ともに不老存在であり永年の付き合いだから、終わる時は一緒にって思ったのかもしれないね。
WSOの特別理事である、マリーさんにも話している時点でもうこの流れは止まらないだろう。伊達や酔狂、ジョークで話していい内容でなければ、そうしていい立場の人じゃないからね、あの方も。
つまりここでこの話を聞いている今、この時点でもうエリスさんの能力者犯罪捜査官引退については確定事項、既定路線というわけだった。
「新時代の到来に向けて一区切りがついた。だからソフィアさんも引退を決意した。なら、エリスさんもいつまでも幻のS級だとかって言われながら能力者犯罪捜査官やってて良い場面でもないだろう? 不老だからこそ、いつまでもやっちゃえる身体だからこそ身の引きどころは考えるものなんだ。あの人も私もね」
「それは……そう、かもしれませんね」
「だから引退するわけだし、だからその後の葵の身の振り方もすでに検討済みなのさ。アンジェさんやランレイさんをわざわざお招きして今回の探査に臨んだのもそこが関係してるよ」
「えぇ!? ……ま、まさか、そ、それって!?」
引退への想い、そしてここに至るまでの経緯を端的に語れば、そこで気づいたランレイさんが声をあげて驚いた。薄々勘付く話ではあるけど、今回の探査が能力者犯罪捜査官ばかりになったのはやはり意図的なことか。
エリスさんがそう調節したんだ。葵さんはもちろんのこと、アンジェさんやランレイさんも同行するように。
なぜか? なんてそんなこと、ここまでの話の流れからして一つしかない。
葵さんは最初から知っているようでニコニコ笑顔だし、アンジェさんも気づいたようでピンときた様子でいる。もちろん俺も、香苗さんもだ。
そしてエリスさんは、若く有望な能力者犯罪捜査官トリオに向けて言い放つのだった。
「ここでソフィア・チェーホワWSO統括理事、ならびにマリアベール・フランソワWSO特別理事および国際探査裁判所長官からの正式な通達をお知らせするよ、ハッハッハー。能力者犯罪捜査官、早瀬葵」
「はっはっはー! はい!!」
「……能力者犯罪捜査官エリス・モリガナとのチームを解消し、同じく能力者犯罪捜査官アンジェリーナ・フランソワ、シェン・ランレイ両名のチームに加わるように。またフランソワ、シェン両名はチームに早瀬を加えるように、ってね。ハッハッハー、辞令としてはまだだけどトリオ結成だね!」
「私と、ランレイのコンビに……葵が加わるの!?」
「アンジェリーナと、ランレイさんに葵さんが。これはまた、すさまじいチームになりますね……」
──アンジェさん、ランレイさん、そしてそこに新たなメンバーとして葵さん。
元よりコンビだったところに加わり、今後はトリオとして能力者犯罪捜査官の活動を行え、と。
WSOならびにその傘下組織、能力者犯罪捜査官の所属元である国際探査裁判所にも話を通した上でそうした通達が来ていたのだ。
あまりの話に香苗さんも驚くほどだ。まさに最強新世代トリオの結成と、そう言っても過言ではないだろうね。
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