別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか 作:さすらいの旅人
客としてきた【ロキ・ファミリア】より注文された酒(注:アイズは果実水)を配った後、ロキが乾杯の音頭を取った事で宴会が始まった。
大人数として来ただけあって、料理の注文も今まで以上に多い。調理担当をやっている俺は厨房でフル活動するのだが、今回は監視役も兼ねた臨時ウェイターをやっている。誰かがヴァレンシュタインに酒を飲まさないよう目を光らせておかないと、店の中で暴れると言う悲惨な事になってしまう。因みに厨房から『リューセー戻って来てぇぇ!』と言う叫びが聞こえたが、ミア母さんから「空耳だよ」と言った後に鎮静化されてしまった。
決して如何でも良い訳ではないのだが、リューの様子が変だった。【ロキ・ファミリア】が来る前からそわそわしてたり、一部のテーブル席だけピカピカになるまで掃除したり等々、普段見ない奇行が少しばかり目立っていた。そしてロキ達、ではなくリヴェリアをピカピカに掃除したテーブル席へと案内させ、彼女の近くで待機している始末。
ああ言う気配りが出来るなら普段からやって欲しいと内心突っ込むも、アレはあくまでリヴェリア限定の対応なのだと後々分かった。知っての通りリューはエルフだから、ハイエルフであるリヴェリアを敬っているが故に、あのような行動に出ているのだ。なので俺は敢えて気にせず、自分の仕事に専念する。
それはそうと、監視役を兼ねたウェイター役の俺は、仕事をしながら彼等の話し相手も務めるのであった。
①ガレス・ランドロック
「はい、追加の『ドワーフの火酒』です」
「おお、すまんな」
宴会を始めて早々にランドロックが一杯目をあっと言う間に飲み切ってしまったので、お代わりを催促された俺はすぐに用意した。
酒が入ってるジョッキを受け取った彼を見た俺はすぐに離れようとするも、向こうから突然声が掛かった。
「そうだリューセー、いくつか訊きたいんじゃが」
「何でしょうか」
ランドロックが隣の席に座るように催促してきたので、最初は彼かと思いながらも言われた通りにした。それを見ていたリヴェリアは『先を越された!』みたいに少しばかり睨んでいるが、そこは敢えて気にしないでおく。
「お主、この前の遠征でラウルに携帯食を用意したそうじゃのう」
あらら、内緒で食べるように言ったけど、やっぱりバレてしまったか。
とは言え、女性ではなくこのドワーフにバレるって、もしかして見た目とは裏腹に甘い物好きなのだろうか。
「ラウルから貰ったナッツが美味かったから、酒のツマミとして欲しいのじゃが、今すぐに用意出来るか?」
「……ああ、ソレでしたか」
そう言えば携帯食の中に塩味のナッツもあった。確かに酒好きのランドロックからしたら、ツマミとして欲しいのには納得だ。
「すいません。あのナッツは遠征用で用意しただけなので、作ってないんですよ」
「何じゃ、そうだったのか」
用意出来ないのに凄く残念そうな表情になるランドロック。
「ツマミが欲しいなら、ミア母さんに頼めば用意出来ますが」
「それでも良いが、この店にはあのナッツみたいな塩っ気の強いのが無いからのう……って、そうじゃ」
何か思い出したのか、ランドロックは途端にカウンターにいるミアを見ながら言ってきた。
「店に入った時から気になっていたのだが、ミアのあの変わりようは一体何なのじゃ?」
「まぁ、ちょっと色々ありまして……」
別人と思わせるようなミア母さんは今も可憐で美人な姿になっているが、ランドロックは他の男と違って奇異な目でみている。
今までの男性客は一目惚れしたかのように凝視して、中には勇気を出して愛の告白をしているのもいた。しかし、俺の目の前にいる彼はそんな様子を微塵も出さず、ただ信じられないと言わんばかりな様子だった。
因みにミア母さんは現在【ロキ・ファミリア】の女性眷族達に詰め寄られている。一体どうやって若返ったとか、どうやって綺麗な肌になったとか、更には美容方法を教えてくれと強請られている。普段のミア母さんであれば相手が客でも容赦しないのだが、女性冒険者達の執念らしき圧力に珍しくタジタジ気味だった。まぁその後にはいつもの怒号で黙らせる事になるだろうが、な。
「ランドロックさんは、美人になったミア母さんに告白とかしないんですか?」
「誰がするか。いくら見目麗しくなったところで、普段から何でも腕っぷしで全て解決しようとする暴力女にそんな酔狂な真似はせん」
「聞こえてるよ、老け顔ドワーフ!」
ロキの女性眷族達の対応をしている筈のミア母さんだったが、ランドロックの悪口(?)をばっちり耳にしていた。
何かこのままいると要らぬとばっちりを受けそうな気がしたから、適当な理由を言って離れる事にした。
②リヴェリア・リヨス・アールヴ
ランドロックから離れた俺はチラリとヴァレンシュタインを見るも、今も酒を飲んでいない事に内心安堵している。
「?」
(おっと不味い)
此方の視線に気付いたのか、彼女はすぐに振り返ってきたので、俺はすぐに目を逸らした。
下手に合わせるとあの子の事だから、すぐに此方に近付いて『黄昏の館』でやってる会話を此処でもやるのが容易に想像出来る。ウェイターをやっている俺に『私と手合わせして下さい』と言った瞬間、【ロキ・ファミリア】以外の客達が絶対に騒ぐだろう。
別にヴァレンシュタインの話し相手になっても構わないけど、他の人とも話さなければいけないので後回しだ。偶然目が合ったリヴェリアが、『此方へ来い』と言わんばかりにジッと見ているから。同時に空いてる椅子まで用意して、それにトントンッと軽く叩いているのは『座れ』と言う意味だ。ああまでやる理由は、中断した魔術講座を再開する為の話をしたいのだと察している。
この世界で初めて出来た生徒は本当に勉強熱心で、思わず感心してしまいそうになる。それだけ魔術を知りたいと言う探求心が強い、のかもしれない。
取り敢えず今度はリヴェリアの対応をやるとしよう。これでスルーして拗ねられてしまったら、後々やる魔術講義で面倒な事になりそうな気がしそうだから。
俺が彼女の隣に座った瞬間、今も待機中のリューから鋭い視線を向けられるが、そこはスルーさせてもらう。他のエルフ達も同様に、な。
「久しぶりだな、リューセー」
「ええ、あの時の見送り以来ですね」
再会の挨拶をするリヴェリアに、俺は思わず見送りについて思い出していた。
確か【ロキ・ファミリア】の遠征を見送ったのは約二週間以上前か。ダンジョン探索と言う大変な冒険をしている彼等とは別に、俺も俺で【フレイヤ・ファミリア】に絡まれて少々面倒だったけど。
「それで、こうして態々席を用意してまで俺と話したいのは……やはりアレですか?」
「その通りだ」
リヴェリアは当然と言わんばかりに頷いた。
「私としてはすぐにでも再開したいが、遠征の後処理があってな。やるにしても明後日以降になるのだが、リューセーの方はどうなんだ?」
「そうですね。一応ミア母さんから再開の許可を貰ってはいますが、此方の都合もありますから……」
魔術講座をやるのは午前時間のみとなっているが、少しばかり難しい状況だった。
午前中にはミア母さん目当てに来る客の数が何とか落ち着いたとはいえ、まだまだ予断が許されない。だからもう少し様子を見ないといけないから、魔術講座を再開するのはもう少し先になる。
「すみませんが、暫し待って頂けますか? 大丈夫だと分かれば、すぐに連絡しますので」
「むぅ……」
「まぁその代わりとして、後で俺が
「ほう、それはそれで興味深いな」
先程まで残念そうなリヴェリアだったが、英雄譚と聞いて再度表情が変わった。
彼女もティオナと同じく本を読むのが好きだと言っていたから、手慰みには丁度良いだろう。向こうが遠征中にそれなりに書いたから、読み切るのにかなりの時間を要する筈だ。
「因みにどれくらいの内容なんだ?」
「えっと、既にノート五冊分以上で――」
俺が言ってる最中、此方の会話を聞いている一人の客が反応した事に俺は気付けなかった。
「それ本当!?」
「うわっ!」
突然誰かが俺の背中を覆いかぶさるように引っ付いてきた。大変見覚えのある褐色肌の黒髪少女が。
最後が誰かはお分かりでしょうか?
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