色々書き直したりしていたら予定よりかなり遅れました。すみません。
まだ東の空がほんのりと赤いほどの早朝。ワイルドエリアの木々には朝露が降りてキラキラと輝いている。
そんな時間に一人の少年がうららか草原を訪れていた。駅のある南側から入ってすぐ近くにある木を揺らしてきのみを採取している。
「…うん、これくらいあればいいかな」
少年はカゴに詰まったたくさんのきのみを見て満足そうに笑う。小さな身体でずしりと重いそのカゴを背負って立ち上がった。
「グルルッ……!」
出口の方へ一歩踏み出した時、後ろから何かの唸り声が聞こえた。かちりと身を硬直させた少年は恐る恐る振り返る。
「グオォッ!」
「あ…あぁ……」
そこには少年よりも遥かに大きないわポケモン、イワークがいて、少年を睨み付けていた。少年が縄張りに入り込んでしまったようでかなり怒っている。
少年はトレーナーでもない普通の男の子だ。当然ポケモンも持っていない。野生のポケモンもあまり見たことのない少年は敵意を向けてくる大型のポケモンに怯え、ぽてっと尻もちをついてしまう。
「グアァッ!!」
「ひっ…!」
イワークは雄叫びを上げて少年へ襲いかかった。少年は逃げることもできずに身をすくめて目を瞑る。
「イワーク」
そこへ女の子の声が響いた。その声を聞いたイワークはピタリと動きを止める。
「そのへんにしてやれ。そいつも悪気があったわけじゃない」
「ゴゥガ」
少年が恐る恐る目を開ける。イワークに声をかけていたのはゴウカザルを連れた茶髪の女の子__コトネだった。
コトネはいつもの服装ではなく、濃いピンク色のジャージに身を包み首にタオルをかけている。早朝ゴウカザルと共にランニングをしている最中ここへ立ち寄ったのだ。
イワークが渋々といった様子で少年から離れる。だがまだ腹の虫がおさまってないのか表情は険しいままだ。
それを見かねてコトネはジャージのポケットから細長い形の道具を取り出した。先端の取り出し口がモンスターボールを象っているお菓子のケース__ポロックケースだ。そこにはポロックというきのみから作ったブロック状のポケモンのお菓子が入っている。
コトネはケースからきみどりやそらいろといった色とりどりのポロックをいくつか取り出し、ぽいっと投げた。イワークがそれを口でキャッチしておいしそうに食べる。
「それやるから機嫌を直してくれ。こいつは俺がちゃんと外に連れていくから」
「……グルル」
幾分か表情が穏やかになったイワークはジロリと少年を一睨みすると、地鳴りを立ててゆっくり草原の奥へ消えていった。
少年はほっと安堵の息をつく。立ち上がろうと身体に力を入れるが、プルプルと震えて上手くいかない。腰が抜けてしまったようだ。
そこへコトネが近寄ってきた。コトネは少年に手を差し出して声をかける。
「ほら、立てるか? ガキんちょ」
「……ううん、無理そう」
少年はまだ収まらない震え声で答える。するとコトネは少年の脇に手を差し込んで抱き上げた。所謂抱っこの体勢だ。
「え? え…?」
「立てねぇんだろ? 送ってやるよ」
「で、でも……」
「ここでお前を放っておくほど人でなしじゃねぇんだよ。遠慮するな。家はどこだ?」
「ブ、ブラッシータウン……」
「駅から列車に乗ればすぐだな、了解した。ホムラ、そっちのカゴを頼む」
「ガルッ」
少年の代わりにゴウカザルがきのみの詰まったカゴを背負い、コトネは駅へと歩き出した。
ワイルドエリアに迷い込んでしまった子どもを外へ送っていく。時折あるコトネの日常の一端である。
▽
「…あれ? なんだろう」
おばあ様の紅茶の茶葉を買った帰り道。私はブラッシータウンのポケモンセンターに人だかりができているのを見つけた。ダンデ君が帰ってきてるのかとも思ったけどそんな連絡は受けてない。
「行ってみよっか、ワンパチ」
「イヌヌワンッ」
気になったのでワンパチと二人で近づいてみる。年齢は問わず、近所の人達が集まっているみたいだ。様子を眺めてみると皆の目的はポケモンセンター内のカフェにあるみたい。確かに今の時刻は午後1時、お昼にはちょうどいい時間帯だけどここのカフェはそんなに人気だっただろうか。
「ん?」
行列になっている人混みを進んでいくと、ポケモンセンターの入り口付近にポケモンの姿があった。胸に赤いツノがあって人間の女性のような姿をした瞳の大きなポケモン、サーナイトだ。
「わぁ、ママみて。すごくきれー」
「あらまぁ、ほんとね」
「…フォウ」
サーナイトは行列の整理やお客さんの対応をしているようで、お店に入ろうとする人達を誘導しながら小さな女の子に抱きつかれ、その頭を撫でていた。
サーナイト自体はガラルでもよく見られるポケモンなので珍しくない。ただそのサーナイトは普通のサーナイトとは明らかに違っていた。
肌のハリや毛艶が極限まで磨き上げられ、日の光を浴びてキラキラと輝いている。仕草も自分の中のうつくしさやかわいさを引き出すような上品で可憐なもの。
さらにサーナイト用に作られたリボンの付いた白いトップスと、日除けのような花柄のハットを身に付けていて、まるでいいところのお嬢様のような雰囲気を醸し出している。
おまけに元トレーナーとして見るととてもよく育てられたサーナイトだ。外見だけでなく、バトルでも無類の強さを発揮することが見ただけで分かる。
こんなサーナイトは私の知る限り一匹しか、そしてここまで育て上げられるトレーナーも一人しか知らない。そしてその子と私は顔見知りだ。
「久しぶりだね、サーナイト」
「ワンッ」
「! フォゥ…」
声をかけるとサーナイトも私達に気づいたようだ。スカートの裾のような白い膜を持ってカーテシーのように上品にお辞儀をする。
「コトネが中にいるんだよね? 会っていきたいんだけどいいかな?」
「…サーナ」
サーナイトはこくりと頷くと手を振って入店を促した。入っていいよということだろう。
私はワンパチと一緒に中へ入った。センター内はカフェスペースを中心に人でごった返していた。このポケモンセンターは日常的によく使ってるけど、こんなに混んでいるのは見たことがない。
「いらっしゃーい……」
不意にカウンターの方から気怠げな声が聞こえてきた。その声の主を知っている私は苦笑を浮かべながら振り向く。あの子の性格は知っているけど、ここまでやる気のない"いらっしゃい"はなかなか聞けないだろう。
「なんだ、はぁとさんか」
「あのねぇ、私の名前はソニアよ。何度言えば分かるのかしら」
「ワンッ!」
そこでは私が会おうとしていた子__コトネが頬杖をついていた。元々不機嫌そうな顔をしていたけど、私を視界に捉えると見るからにめんどくさそうな顔に変わった。
一方コトネに会えて嬉しくなったワンパチが一目散に走り出して椅子をつたってジャンプし、彼女の胸に飛び込んだ。コトネは私とは打って変わって優しそうな笑みを浮かべてくりくりとワンパチの頭を撫でる。
この子は会った時からずっとこうだ。ポケモンにはとことん甘い顔を見せて尽くすのに、人に対してはどこまでも素っ気ない。未だに私の名前を覚えないで髪飾りからとったあだ名で呼ぶくせに、ワンパチの好みや撫でられると嬉しいところまで熟知している。
まぁもう何度も顔を合わせているし、この子の性格は慣れっこだ。それに表面上は愛想がなくても、根っこは優しい子であることを知ってる。色んなポケモンに好かれるし、決して悪い子ではないのだ。
「わふぅ♪」
「うりうり、気持ちいいか? お前は甘えん坊だな」
「ところであんた、ここで何してるの? というかその格好は何?」
そんなコトネだけど、今日はいつもと服装が大分違っていた。
ヒラヒラとしたフリルの付いた白と黒のエプロンドレスを着て腰には大きな白いリボン、太ももを絶妙に露出させたニーソックスを履いて頭にホワイトブリムまで付けている。
その様相はまるでメイドさんだ。それもミニスカートでキュートなデザインの。
「この服は俺が作った。趣味だ」
「…趣味? ってか、あんた裁縫なんてできたんだ…」
「長く生きてれば特技の1つや2つくらいできるだろ。カレンのやつも俺が作った」
カレンというのは外でお客さんの誘導をしていた彼女のサーナイトの名前だ。つまりあのサーナイトの魅力を引き出していたハットやトップスもコトネが作ったということ。普段男勝りな言動をしているコトネにこんなことができるとは…。女として負けた気がしてなんか落ち込む。
「で、何でここにいるかは知らん」
「へ? 知らんってどういうことよ?」
私が聞くとコトネは、お客さんに料理や飲み物を運んで忙しそうに働いていた少年の首根っこをぐいっと掴んだ。
「わわっ」
「俺はワイルドエリアに入ったこいつを送ってきただけだ。なのに何故かここで働かされてる」
確かこの少年の名前はカンナ君。このカフェを経営している店長の息子さんだ。
コトネはそれ以上説明する気がないようでまたワンパチとたわむれ始めた。なのでカンナ君に事情を聞いてみる。
「あの、実は……」
__始まりは昨日の夜。いつも使ってるきのみ屋さんからきのみの搬入が遅れていると連絡を受けたらしい。お店ではちょうどきのみを切らしているところで、困ってしまった。そこでカンナ君は少しくらいなら大丈夫だろうと朝早くワイルドエリアに行ってきのみを採ってくることにした。
しかし運悪くイワークと遭遇。襲われていたところをコトネに助けてもらい、ブラッシータウンまで送ってもらったそうだ。
「それでどうしてコトネが働くことになるの?」
「お父さんがお姉ちゃんのことを気に入っちゃって…、ショータお兄ちゃんの恩人って分かったら余計に…」
そういえばと思い出す。昨年のジムチャレンジでセミファイナルトーナメント優勝を果たしたショータ選手もここの息子さんだった。ショータ選手はそのままチャンピオンカップを勝ち進み、ダンデ君と白熱した勝負を繰り広げて一躍有名な選手となった。
そのショータ選手はインタビューで度々コトネの名前を出していた。自分がここまで来れたのは間違いなく彼女のおかげだ、と全国ネットのテレビで目一杯の感謝を伝えていた。
おまけに決勝戦の相手だったレイコ選手も恩人としてコトネのことを話していたから、ファイナリストを二人も育てた"コトネ"という人物は何者なのかという話題でネットが盛り上がった。
やっぱり何だかんだ言ってコトネは誰かに手を差しのべられる優しい子だ。私は微笑ましい気持ちでコトネを見る。
「コトネちゃ~ん。コーヒーのおかわりを頼めるかの」
「うるせぇ! コーヒー一杯で何時間居座る気だじじぃ! 迷惑なんだよさっさと出てけ!」
その時コトネは怒鳴りながらおじいさんを店の外へ蹴り出していた。その姿を見て私とカンナ君は顔を引きつらせる。
……優しい子のはずだ、多分…。
「で? はぁとさんよ。来たからには何か飲んでくか?」
「え、えぇ。じゃあエネココアを一つ」
「エネココアだな。了解した。ホムラ、注文が入ったぞ頼む」
「ガゥ」
私から注文を聞いたコトネは裏の調理場へ声をかけた。中ではドリッパーの前でゴウカザルが待機していて、コトネから指示を受けると絶妙な火加減でケトルを温めて豆を挽き、見事な手際でエネココアを作っていく。
一体どうやって育てたらあんなことができるようになるんだろう。
「ワンッ! ワンッ!」
「ちゃもちゃも」
「ウキッ! ウキキッ」
私がゴウカザルの動作に見惚れている傍らで、コトネは相変わらずワンパチと遊んでいた。いつの間にか彼女の手持ちのアチャモとサルノリも出てきて3匹仲良くポケじゃらしで遊んでいる。
「そろそろお腹空いただろうし、飯にするか。ワンパチ、お前も食べるだろ?」
「イヌヌワンッ!」
「あの、お姉ちゃん。お客さんからの注文が溜まってるんだけど…」
「水でも飲ませとけ。ポケモン優先だ」
そう淡白に言い残すと、ワンパチ達のご飯を作るために調理場の方へ行ってしまった。大勢のお客さんをほったらかしにして。
「ちょっとカンナ君。あんなので店員が務まるの? 大丈夫?」
「大丈夫です。ショータお兄ちゃんからお姉ちゃんはああいう人だって聞いてましたし、もう慣れてきました」
それに、喫茶店の軽食くらいならあのゴウカザルが料理できるのでそれほど困ることはないという。ただコトネが作ったものの方が格段に美味しいので、出来ればコトネに作ってもらいたいらしい。
「はっはっは! いやぁコトネちゃんに仕事をお願いしてよかった! おかげで今日だけで売上ノルマを達成できそうだよ!」
カウンターの奥で恰幅のいい男性が上機嫌に笑う。カンナ君のお父さんであるこの店の店長さんだ。
「お父さん、笑ってないで働いてよ。朝から僕とお姉ちゃん頼りでちっとも働いてないじゃんか」
「いやぁ、コトネちゃんから料理の一つでも盗もうと思ったんだが、あれはもう職人レベルだな。俺の腕じゃゴウカザルの料理も再現することはできないよ」
喫茶店のオーナーとしてそれはどうなんだろう。高らかに笑う店長さんを見てカンナ君はため息をつき、私は苦笑を浮かべた。
「…私もコトネさんが来てくれてよかったと思いますよ。彼女、ポケモンの体調や病気にも詳しいから診察の時とっても助かるんです」
今度はポケモンセンターのジョーイさんがそう言った。ポケモン達のわずかな体調の乱れも逃さず感じ取って診察や処置を手早く手伝ってくれるから、センターとしては大助かりなのだそう。
それに加えてコトネはワンパチにしているのと同じように、お客さんが連れているポケモンには大いにサービスする。美味しいものをご馳走したり、マッサージしてあげたり、そのポケモンが好きな香りのアロマを作ってプレゼントしたり…。
おかげでここを訪れたポケモンは皆上機嫌、元気溌剌になる。そのことが人づてに伝わって、半日でこれ程大盛況になったらしい。
なるほど、お客さんはどちらかというとポケモン達にリラックスしてもらうことが目当てで来てるから、あんないい加減な接客でも問題はないのか。
「ガゥガ」
「ありがとう、ゴウカザル」
ゴウカザルがエネココアを持ってきてくれた。エネコを模した可愛いコーヒーカップの中で、ホカホカのココアが湯気をたてている。一口飲んでみると、甘さと苦さがいい感じにブレンドされたココアの味が口の中で踊る。
美味しい…。下手な喫茶店よりも断然美味しい。たまにうちの研究所に来て紅茶でも入れてくれないかしら。
「うーし、できたぞお前ら。たんと食え」
「ちゃもっ」
「ウキッ」
「ワンッ」
しばらくしてコトネがトレーを片手に戻ってきた。カウンターに料理が置かれ、ワンパチ達が歓声をあげる。
「……うわぉ」
その料理を見て思わず声を出してしまった。
ケチャップや海苔でピカチュウそっくりに作られた可愛らしいオムライスに、雷の形に切られたチーズが乗せられたハンバーグ、サラダ。まん丸のミニトマトと星形にカットされたポテトもあって、デザートに生クリームの乗ったプリンまで付いている。
おおよそ喫茶店で出てくることはない、めちゃめちゃにクオリティの高いキャラプレートがそこにあった。ワンパチ達は3匹仲良く美味しそうに食べている。
さぞ美味しいでしょうよ。出来れば私も食べたいくらいだ。
「カレン、ホムラ。お前らも飯にしよう。ご苦労だったな」
「ガルッ」
「フォウ」
ゴウカザル、そしてサーナイトもお店の中へ戻ってくる。それに慌てたのは店長さんだ。
「えっ、ゴウカザルも休むのかい!? お客さんもまだいるし、出来ればもう少し待ってほしいんだが……」
「何か言ったか?」
「いえ。何でもないです」
コトネにギロリと睨まれて即撃沈していた。それを見ていた私達は苦笑いだ。これはもう諦めるしかない。コトネにとっては店やお客がどうなろうと、最優先すべきはポケモンなのだ。
その後、ならせめて僕達のまかないも作ってくれと店長さんが頼んだけど、パンの耳でもかじってろとにべもなく返されていた。
「ワォンッ! ワンッ!」
「あららケチャップまみれだなワンパチ。拭いてやるからじっとしてろ」
…というか、ワンパチがすごく喜んでるのはいいけど、今度からあのオムライスを食べさせて~、なんてごねたりしないかしら。すごく心配。私あんなご飯作れないわよ。
「よし皆、ご飯食べたら帰るからな」
「「「えっ!!?」」」
唐突に告げられたその言葉にお店の皆はぎょっとした。お客さんや店長さんはともかく、ジョーイさんまで…。コトネったらよっぽどここで活躍したのね。
「えっ!? コトネちゃん、帰っちゃうのかい!?」
「当たり前だろうが。ワイルドエリアに仲間を残してきてるし、いつまでもここでメイドごっこしてられる程暇じゃねぇんだよ。むしろ朝っぱらから今まで半日働いてやっただけ感謝してほしいくらいだ」
「で、でもほら! 店の外にまだお客さんが並んでるし、せめてもう少し……」
「知るかバカ。てめぇの店なんだからてめぇで何とかしろ」
店長さんが必死に食い下がっているけどコトネはまったく首を縦に振らない。彼女の最優先事項が仲間のポケモン達である以上絶対に頷くことはないだろう。
それにしても店長さんへの当たりが強い。あれよあれよと半日働かされたことを根に持っているのだろうか。
「……はぁ、分かったよ。なら最後の仕事としてお届けものをしてくれるかい?」
大きくため息をついた店長さんの口から出たのは追加のお仕事の依頼。諦めたように見せかけてちゃっかりもう一働きさせるつもりだ。あ~…、これはコトネの機嫌を損ねるのも無理はないかも。店員の仕事もこんな感じでちゃっかり了承させたのだろう。
「あん? てめぇ調子に乗ってんじゃねぇぞ」
案の定コトネはキレた。額に怒りマークをビキビキと浮かべて店長さんへ詰め寄る。
「いつから俺の雇い主になった? いい加減にしろ。何でもかんでも押し付けやがって!」
「い、いやほら! 簡単なお届けものだから! カンナに案内してもらいながら帰り際にパパッと……」
「知ったことか! 自分で行きやがれ! 今日一日何もせずふんぞり返ってたくせに!」
詰め寄るコトネに店長さんはたじたじだ。こんなでもこの町ではやり手の経営者さんなんだけど、コトネのことは制御できなかったみたい。それでもあんなに断られているのにお願いを続けるのは図が太いというかなんというか…。
「……よーし、よーし分かった。やってやるよ」
「お、おぉ! やってくれるのかい!」
しばらくして深く息を吸ったコトネが引き下がった。店長さんは嬉しそうにしているが、私はコトネが口角を吊り上げた悪い笑みを浮かべていたのを見逃さなかった。
「ガキんちょ、来い」
「う、うん。何? お姉ちゃん」
カンナ君を連れてコトネが向かったのはカウンター。そこにあるのはレジだ。コトネは鍵を使ってレジを開けると、どこからか大きな白い袋を取り出し、レジをひっくり返してジャラジャラとお金を入れた。
「ちょっ!? コトネちゃん何を!?」
「バイト代に決まってるだろ。ここに入ってるのは俺達とこのガキんちょが稼いだ金、だから二人で山分けだ」
うわー…中々えげつないことしてるわね。カンナ君もわたわたして止めようとしてるけど、実際コトネが一番働いていたのは事実なので止めきれないみたい。
かわいいメイドさんが悪どい笑みを浮かべながらレジのお金を根こそぎ奪う…。すごい絵面ね。
「よし、帰るぞ皆。よろこべ、今夜はご馳走だ」
「フォウ」
「がうっ!」
「ちゃもちゃもっ」
「キキキッ!」
「あっ、待っててお姉ちゃん。今荷物持ってくる!」
サンタクロースのように袋を肩に担いだメイド姿のコトネがポケモン達を連れて去っていく。さっきまで売り上げがどうこう言ってウハウハ気分だった店長さんはどしゃりと膝をついた。端から見たら強盗みたいだけど周りのお客さんはその光景を見て笑っている。まぁ、コトネとカンナ君に頼って楽し過ぎてたみたいだし、自業自得ね。
「クゥ~ン…」
「またなワンパチ。元気でな」
寂しそうに鳴くワンパチの頬を、コトネはうりうりと撫でる。その後額と額をこつんと合わせて別れの挨拶をした。
「コトネ、今度研究所にも遊びに来なさいよ。ユウリとホップも待ってるから」
私も別れの挨拶として、ハロンタウンに住むポケモン好きの少年少女達が会いたがってることを伝えた。するとコトネはフッと優しげな笑みを浮かべる。
「……そうか、あいつらが。わかった、近い内にお邪魔しよう。またな、はぁとさん」
「だからソニアだってば!」
話していると荷物を取ってきたカンナ君が戻ってきて、コトネはカンナ君と一緒にお店を出ていった。その後ろ姿をじっと見つめる。
「ガキんちょ、お前昼飯まだだったろ? どこかで食っていくか。奢るぞ」
「そんな、いいよお姉ちゃん。僕もお金あるし」
「遠慮すんな。その金は取っておいて好きなものでも買え」
「…じゃあその、お姉ちゃんのご飯が食べたい」
「了解、じゃあ作ってやる」
楽しそうな背中だ。カンナ君と連れ添って歩く姿は姉弟に見えなくもない。ポケモンを愛しすぎる女の子、コトネ。そんな彼女も少しずつ人々に馴染んできたように思う。それがすごく嬉しくて、安心する。
「……わうぅ?」
ぎゅっと胸元で拳を握る。私の脳裏には未だにあの子の"あの顔"が焼き付いているから……。
『は…ははは……なんだよ……』
__一年前、初めてあの子に会った時、その顔は暗く歪んでいた。
『主…人公……! それにそっちは……ライバル…!……か? 』
__ユウリとホップを見た時は、まるで大切なものを目の前で無惨に壊されたような表情で……
『なんだよ……結局…俺は………!』
__こっちが息を呑むほど悲痛な顔だった。
『…"人形"のっ………ままじゃないか!』
・コトネさん(ガラルに来て数年後)
ポケモン達と穏やかな生活を送っている。昔の荒れた姿をソニアさんは知っているらしい。
メイド服はアニメでヒカリが着ていたのと大体同じもの。
・ホムラ(ゴウカザル♀)
ダイパリメイクでのパートナー。推しポケの一人。女の子らしくかつ炎のイメージを持たせて命名。
・カレン(サーナイト♂)
推しポケの一人。各シリーズでも旅パに大体入ってるほど好き。可憐な子に育って欲しいと思って命名。
・ホノカ(アチャモ♂)
ORASをプレイした時、アチャモが可愛すぎて進化させずにクリアした。
・???(サルノリ♂)
実は今作品のキーとなるポケモン……かも?
この後過去編を挟んでからジムチャレンジ編にいこうかなと考えてます。