人間がウマ娘に勝てるわけ……あれ? 作:賢さG
ちょっとヒスイ地方までばんえいポケモンの調査に赴いていたらいつのまにかこんな時間に……
あとライアンとドーベルなんですが、原作でメジロ合宿に参加していて、トレーナーがついていないのかな、と思いきやレースに出てたりしてるので、どこのチームに入ってるのか分からないんですよね。
なので空いたところに突っ込みました。
チーム『シリウス』、夏合宿――メジロ家の所有する無人島、通称メジロアイランドを貸し切って行われる――を直前に控えた、とある夜。細心の注意を払ってデスクワークを完了させた『シリウス』のトレーナーは、戸締りをしてからチームルームを退出した。
時刻は既に、ウマ娘寮の門限近く。ギリギリまで部屋の片付けや資料の整理、レース映像――先日の、宝塚記念のものだ――を見返し、どうすれば勝てたかを研究していたメジロマックイーン以外は、既に寮へと戻っている。
「さて、マックイーン。忘れ物はあるまいな」
「勿論ですわ。わたくしを誰だと思っておりますの?」
トレーナーとマックイーンは並んで夜の校舎の廊下を歩く。二人の間で交わされる話は、専らトレーニングとレースのこと。スピードを上げるためにはどのように走れば良いか、どこを鍛えれば良いか。仕掛けのタイミングはどう図るべきか、レースの展開によって臨機応変に対応しなければならないことは何か。それは『シリウス』のトレーナーを見て掛かり気味になるウマ娘が多いことを鑑みれば、なかなかに珍しい光景であった。件の金色暴走船であれば、既に二度はトレーナーへ組み付き、五度は技を繰り出し、そしてその全てにおいて返り討ちにされていることだろう。
「つまりだ、マックイーン。ステイヤーである君がより加速を……最高速までいかに速く達するかを極めるのであれば、やはり腕や上半身も含めた強化が必要だ。加速は全身を使って――む?」
ふと、トレーナーが目線を廊下の曲がり角へ遣り、立ち止まる。――数瞬後、そこから顔を覗かせたのは一人の男性。後ろに一つ纏めとし、側頭部を刈り込んだ茶髪。トレードマークの棒付きキャンディを咥えながら現れたその男こそ、
「……おっ。こんなトコで会うとは奇遇だねえ、お二人さん」
チーム『スピカ』のトレーナー。普段のやや三枚目な言動、振る舞いとは裏腹に、癖のあるウマ娘を曲げないまま強く速く育て上げる敏腕にしてベテラン。本人の自己認識以上に、数多のトレーナー達から警戒されるトップトレーナーの一人。そして、ウマ娘のトモに関しては一家言あると言われているその人――沖野トレーナーが、いつもの笑顔でそこに立っていた。
「沖野先輩。お疲れ様です。いつもウチのゴールドシップが世話になっております」
「おう、お疲れ。こっちこそ、いつもウチのゴルシが世話かけてるみたいだな」
「トレーナーさん? この方がもしや……申し遅れました、わたくし、メジロマックイーンと申します。いつもゴールドシップさんがお世話になっております」
三者揃って互いに頭を下げる。なお、話に挙げられた件のゴールドシップは、現在金色の錨を片手にゴルシ流奥義の開発中であった。知らない方が良い事というものは、この世に在るものなのである。
「奇遇なのは其方もでしょう、先輩。何をされていたので?」
「ま、ちょっとな。……ん? おい、どうした?」
沖野トレーナーが訝しげに尋ねる。
尋ねられた側、トレーナーは沖野と話しながら自身の両手を背に回し、大腿部の裏側を覆い隠していた。メジロマックイーンもまた、トレーナーに倣い同じ動きをしている――その目は、「これでいいんですわよね?」とトレーナーに問いかけていた。それら一連の動作は澱みなく、流れるように行われた。
「? トモを触られないようにしているだけですが」
「お前俺のこと特殊な変態か何かだと思ってる?」
「ですが、前科をお持ちですよね先輩」
「ちょっ、おまっ! あれはお前も俺もみんな酒入ってた時だろ!? 黒沼サンが珍しくべろべろになって、全員揃っておハナさんに――って、ほら見ろマックイーンが凄い目で俺のこと見てるじゃねーか!!」
残念ながら当然である。マックイーンはおもむろにスマートフォンを取り出し、不審者の通報を発そうとして……珍しく、くつくつと楽しげに笑う己のトレーナーを目にした。
それだけで、聡いマックイーンは彼と沖野の仲を察した。互いに軽口を飛ばし合う、それでいて互いの間に確かな敬意のある仲であると。それはまさしく、レース史に名を残すような、強いウマ娘同士が抱く友情に似ていた。
それはそれとしてトモを触るのはどうかと思うが。
「で、こんな時間までどうしたんだ? お前さんは仕事だろうが……」
「ええ。私はデスクワーク、彼女はレースの研究です。宝塚記念で、してやられましたもので」
「へえ……で、どうだった。
「ええ、とても。……以前から彼女は強かった。けれど、それ以上に実力を伸ばしたのはあなたでしたのね」
沖野はにやりと笑い、その言葉への返事とした。
チーム『スピカ』所属、メジロライアン。第三コーナー……淀の坂の下りで並いるウマ娘を突き放し、マックイーンですら追いつけぬほどの豪脚で一着を勝ち取ったウマ娘。『シリウス』トレーナーの筋肉仲間でもある彼女は、宝塚記念にて躍進を見せていた。
「そ。あいつ、今度こそマックイーンに勝つって気合い入れてたからな。お前さんも凄かったが、今回ばかりは……ってことだ」
「……確かにその通りですわ。ライアンは強かった。ですが……次は負けません。わたくしは、メジロマックイーンですから」
「なるほど、こりゃ強敵だ……んで、そのライバルチーム、スピカのウマ娘まで纏めて夏合宿に連れてく予定のトレーナーがいるって聞いてるんだが。ついで……ってワケでもないが、おハナさんトコのドーベルまで纏めてな」
沖野は『シリウス』のトレーナーを見、トレーナーも沖野を見返す。険悪な様子はない。むしろ、沖野は半ば答えが分かっているかのように問いかけている節がある。
「少し早めの合同合宿のようなものです。我々とて、夏中すべてメジロアイランドで過ごす予定ではありません。其方……『スピカ』と『リギル』はいつもの浜でしょう?」
「ああ、特段変える予定もないしな」
「ならば夏季休暇の中、後半からはそちらに合流するでしょう。先輩とて、それまでの間にやりたいこともある。違いますか?」
沖野は、我が意を得たりとばかりに口端を吊り上げ笑った。
チーム『スピカ』に現在在籍しているのは、メジロライアン、ゴールドシップ、そして今年のクラシック戦線最有力ウマ娘――トウカイテイオー。将来加入するウオッカ、ダイワスカーレットもいない今、三名中二名を『シリウス』が引き取れば、ほぼ専属のような形でトウカイテイオーに注力できる。
それは沖野にとって、非常に大きな魅力であると言えた。
「どこのウマの骨とも知らねえ奴になら絶対に預けねえんだけどな。ま、お前になら任せられるだろ。それに……」
――運命とは、容易に変わるものではない。今から手を尽くしたとて、目前に待ち受ける悲劇を完全に打破することは出来ない……しかし、この夏。
「……テイオーに関しちゃ、ちと注意して見なきゃなんねえしな。トレーナーとして情けない限りだが、済まん。頼まれてくれ」
沖野がトウカイテイオーの身体作りに尽力したことで、彼女に待ち受ける二度目以降の悲劇は全て、未然に防がれることとなる。それを知るものは居るまいが、それは確かに、沖野の起こす奇跡であった。
ともあれ、未来を知らぬ沖野は言葉尻だけを、マックイーンにすら伝わらない程度の声量で呟いた。呟いて、自身の吐いたその言葉を掻き消すように明るく、顔を上げた。
「さて、長いこと引き止めちまって済まなかったな。そろそろ門限だろ? マックイーン、送ってってやりな」
「ええ、分かりました。では先輩、また」
「ご機嫌よう、沖野トレーナー」
去り際、沖野は腕を上げ指を曲げ、見送る風を装って奇妙なジェスチャーを行い、トレーナーはそれに応えて、同じく指を曲げ伸ばしする奇妙な応答を返し、沖野に背を向けて歩き出した。……果たして十数分後、『シリウス』トレーナーは沖野の元へと戻ってきた。片手には鞄が抱えられている。
「来たか。忘れてなかったみたいだな」
「忘れるものですか。先輩方には色々と世話になりましたので。良いことも悪いことも含めて、ですが」
ハンドサインとジェスチャー。ツーとカー、阿と吽。端的に言えば、二人の間で交わされたそれは、どちらかがどちらかを飲みに誘う際のサインであった。お互い担当ウマ娘のいる身、どことなく担当のいる所で大っぴらに飲みに誘うのが憚られた結果、編み出された技術の一つである。なお、これは南坂、黒沼と言ったトレーナーたちも習得している、中央トレセンに伝わる歴とした技である。
「お前さんがこっちに帰ってきてから、そういや行ってなかったと思ってな。世話を掛けちまう訳だし、今日ばっかりは俺の奢りだ」
「ほう。それは――」
瞬間。沖野と『シリウス』トレーナーの間に、
「あら、奇遇ですね」
「全力で割り込みに来てその誤魔化しは通じねえと思うぞたづなさん」
なんのことでしょう、と笑顔でシラを切るたづなに、さしもの沖野も真顔にならざるを得なかった。
「それで、お酒の話です? この時間からお二人で?」
「あー、いや……まあ、二人のつもりだったんですけどね。こうなったらもう、誘えるだけ誘っちまうか。お前もいいよな?」
「ええ、勿論。浮かれすぎて羽目を外さぬよう自重せねばなりませんが」
「お前マジで送別会の時みたいに酔っ払って弓を持ち出すのは止めろよ」
トレーナーは珍しく、口端を引き攣らせながら頬を掻き、そして誰を誘うのか沖野へ尋ねた。露骨な話題逸らしであることは明白であったが、沖野は笑ってそれを見逃す。
普段は超然としている癖に、酒が絡むと途端に失敗もするし、親しみも増す。そういう後輩であると、知っているからだ。
「誘うのは……まあ、黒沼サンは誘ったら来るだろ。南坂も今日なら行けるか。そっちは……ジョーンズか?」
ジョーンズ……カサマツ出身、ヒト息子キタハラジョーンズ――もとい北原穣。『シリウス』の前エース、オグリキャップのカサマツ時代のトレーナー。
オグリキャップが中央へ移籍した後に奮起し、遅れてではあるが中央のトレーナー資格を取得した彼は、『シリウス』先代トレーナーのもとで学びながらオグリキャップの専属
そんな訳であるから当然、同じ先代トレーナーを師と仰いだ同士として、あるいは似た立ち位置のサブトレーナー同士として、ジョーンズとトレーナーの間には面識も友誼もある。
「ええ。誘ったのですが、気分転換に参加したいと。また、タマモクロスの小宮山トレーナーも参加するそうです。……其方は、東条先輩へは声を掛けないので?」
「……わーったよ。おハナさんも誘う。だが、誘ったからって来るとは――」
ぴろん。
沖野の送ったメッセージに対し、瞬時に発せられた通知音。それが答えであろう。沖野は降参とばかりに、両手を天へ掲げた。
「あらあら。二次会以降は自由解散になりそうですね」
「ええ。その上どうやら、先輩の奢りは後日にした方が良いでしょうな」
「あー、もう……それで頼む。……んじゃ、行くとしますか、お二人さん」
東条、沖野、黒沼、南坂、北原、小宮山、そして『シリウス』トレーナーと駿川たづな。
見るものが見れば目を疑い、そして耳をそば立てるであろう、中央でもトップに位置するトレーナーたちの夜会は、夏合宿前の決起会、かつ夏季前半の合宿を受け持つ『シリウス』への慰労と感謝会……という名目で、しめやかに開かれた。
◆ ◆ ◆
なお、肝心のメジロアイランドでの合宿であるが、
「――何が、どうして、こうなりましたのーーー!?!?」
「ドーベル!? ちょっとしっかりして!! ドーベル!! ダメだマックイーン助けて!!」
「いやあ……流石のゴルシちゃんの目を以ってしても、終わった後に遭難して無人島に流されるとは思ってもみなかったぜ」
合宿終了後の帰路にて大時化に遭い、乗ってきた船――メジロシップ号――は転覆、遭難し。
「やべえ正直無人島超楽しい」
「ゴールドシップさん!?」
「ちょっと分かってきたかも」
「ドーベルまで!? ゴールドシップさんに順応しないでくださいまし!?」
無人島サバイバル生活を一週間ほど繰り広げ。
「ふう……最初はどうなることかと思いましたが思ったより充実してますわね……双眼鏡なんか持って何を見てますの?」
「そりゃアンちゃんがあれだけ魚取って来らぁな……ん? そりゃ船だろ。ありゃ……シンボリ丸って書いてあるから、我らが会長閣下が探しに来たんだと思うが」
「早く報告してくださいまし!? ……んん? トレーナーさん、弓なんか持って何を?」
なんだかんだで充実した延長戦を過ごし。
「気付いておらぬのならば、気付かせるしかあるまい。本気で弓を取る機会など、もう無いと思っていたのだが――な、ッ!!」
「やべえ余波で吹っ飛ぶぞ! 全員退避――ぐわああああっ!?!?」
「なんの爆風ですのーーー!?」
その果てに、ヒトの編み出した絶技を垣間見て。
「……『シリウス』のトレーナー、そして『シリウス』のメンバー各員と、メジロライアン、メジロドーベル。無事で何よりだ。だが一つ言わせてもらうならば、トレーナー」
「何かね、シンボリルドルフ」
「ただの矢文でシンボリ丸の甲板を破壊し余波だけで桐生院トレーナーを気絶させるのは辞めてくれ」
「……うむ。済まなかった」
「まあ、無事で良かった。遭難ともなれば、流石の私も『そうなんですか』と流すことは出来ないからね」
「うむ。……うむ?」
波乱のうちに、夏合宿前半を終えるのであった。
・おまけ①
旧シリウスのトレーナー構成
・トレーナー(元・先代)
・サブトレーナー(ジョーンズ)→オグリ専属
・サブトレーナー(大英雄T)→全体メニュー作成等、テレビ電話でマックイーン指導
こんな感じです。
・おまけ②
大英雄Tの名前ですが、設定してなかったんですがいつもいつも大英雄Tと書くのもな……と思ったり。
沖野Tの例に倣うなら、西前Tになるんでしょうか。
・おまけ③
すまん桐生院トレーナー、君の回は次回だ。