この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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誤字修正と感想ありがとね、すんごい助かる。


44話

 さて、昨日は正直ムラムラが限界だった事もあり色々とシてすっきりした後に寝てしまったので考えねばならない。

 私が契約した悪魔、見通す悪魔ことバニルのおまけで知ってしまった魔王軍幹部の来襲について、だ。

 ……いや、本当にどうしようか。

 まさかこんなに短いスパンで魔王軍幹部に出くわすだなんて思いもしなかった。

 一番最初に出会った魔王軍幹部――首無し騎士ベルディア。

 彼はアンデッドと言う性質から生前の記憶を継承していた元人間であるが、劣悪な環境に居た事で味方であった人間に愛想が付き魔王軍へと降った。

 その実力は一つの団を率いるだけの確かなものがあり、デュラハンの性質と魔王の加護とやらで手強い相手だった。

 アンデッドの軍勢を率いた遊撃を担っていたと考えられるのだが、その情報で思う事があった。

 もしや、魔王軍幹部ってそれぞれ特色のある軍勢を引き連れているのではないか、と。

 だが、それに反論するようにバニルと言うワンマン迷惑アーミーな奴も居たので首を捻らざるを得ない。

 

「……そう言えば、バニルの奴、魔王軍の城の結界維持のためのなんちゃって幹部だったって言ってたな」

 

 なんちゃって魔王軍幹部。

 ……魔王軍幹部になんちゃっても糞も無いのでは???

 そこのところが良く分からないんだよな。

 ベルディアの様に魔王に忠誠を誓って統率されていた幹部が居て、バニルの様に好き勝手しても許される自由奔放な幹部も居る。

 そうなると魔王軍幹部の付加価値とは一定以上の強さを持つ個体である、と言う事になる。

 または、ギャグ寄りの王道RPGの脚本沿いと言うべきか、個性が強いのを選んでいると言う可能性もある。

 しかも解せない点が魔王軍には多々存在する。

 紅魔族の里に度々襲撃しにくる事もあってそれなりの強さを持つ個体は補充が効くと言うのに、それを利用してアクセル……は少しアレだが、小さな村や町から狙いを付けて根絶やしにするような作戦をとって来ていない。

 言うなれば、ターン制の戦略ゲーム染みた戦争ゲームに近いのだ、人類と魔王軍との戦いは。

 積極的に魔王軍は攻め込んで来ているものの王都前線による抗いによって拮抗している、拮抗できてしまっている時点で普通の戦争ではないのだ。

 まるで、国同士の争い、ある一定の基準を設けた上での戦争行為の様に見えてくる。

 そうなるとやはりと言うべきか、魔王は転生者に違いないと言う決め打ちをせねばならない。

 基本的にモンスターとは人類を餌か縄張りに入ってくる邪魔者くらいにしか思っておらず、野生のゴブリンならともかく他のモンスターが積極的に人類へ牙をむけて来ている訳では無い。

 結局のところ自衛能力を高めた野生動物の延長線上にしか無い、と言える。

 そのため、しっかりと統率を成して横と縦の繋がりを持っている魔王軍と言うのは異質と言わざるを得ない。

 つまりは命令を聞く事のできる最低限の知性を会得していると言う事であり、魔王と呼ばれる存在の在り方と言うのが見えてくる。

 恐らくながら、魔王の意向は人類の滅亡では無い。

 

「……生存競争でもなく、侵攻侵略でもなく、生存権の拡充でもなく、で、あれば……」

 

 一種の種族としての独立、国を立ち上げようとしているのだろう。

 露骨な人海戦術による人類への破壊工作をせずに王都の前に築いた前線を維持し続けているのも結局は時間稼ぎ。

 知性を会得したモンスターの教育を優先して、どうしようも無い奴らをそこそこ知性のある幹部で先導して磨り潰しながら増やしているように見えてくる。

 魔王、魔の王として国を統べる王様になろうとしている、そんな風に思えてくる。

 ……まぁ、これは現状から察する憶測でしか無いのだが。

 仮に私が魔王側に立って人類の滅亡を目標としているのであれば、食料インフラを徹底的に潰し、貧困と飢えに喘いでいる所に病原をばら撒き、何も出来ずに死んでいくような環境を一方的に押し付けて、ワンサイドゲームを仕掛ける。

 または、モンスターの繁殖のしやすさと言う特性を用いて、一部のダンジョンを抱え込んで生産ユニットとして質より量で人類圏の押し流しを図るだろう。

 素人でも幾つか人類の滅ぼし方を思い付くのだ、頂点に立つ魔王がそれを考えていない訳が無い。

 と、なればそれを用いない理由を考えるに二つ程思い付いた。

 一つは穏健思想の魔王である、と言う事。

 そもそも前線の争いは自衛目的で人類を足止めしているに過ぎず、日々どうすっかなぁーと頭を悩ませているパターン。

 二つ目はそもそも戦争の土台が作れておらず、戦いが成り立っていないパターン。

 モンスターの教育に制限が掛かっているとか、個体数に制限があるとか、何かしらの障害によって人類殲滅の糸口が掴めていない。

 あるいは天界側のてこ入れである勇者候補たちの活躍が目まぐるしく、消極的遅延行為に費やざるを得ない、とか。

 

「まぁ打って変わって積極性を持ち出されても困るからどれもこれも憶測でしか無いんだけどな……」

 

 故に、現地民でもなく、魔王軍でもない勇者候補と言うPMCめいた私たちは備えなければならない。

 過去にどう言った活動があったのかは未だに掴めていないが、相互補助組織が樹立していない時点で全員がスタンドアローン化しているとしか思えない。

 我々の、日本人の在り方として一つの目標に団結して協力をするスタンスは誰も彼も心に根付いている筈だ。

 そのためのアクシズマーケットであり、小さなルイーダの酒場なのであり、未来への先行投資でもある。

 何故かアクシズ教を半ば乗っ取る形で掌握できてしまったのは、……割とマジで分からないし理解できないが、幸運であったと今は思っていたい。

 既に二体の魔王軍幹部を討伐している私を旗印に勇者補助組織の樹立を進めているのも日本人の気質を考えての事だ。

 結局のところ、日本人は羽休めする枝が欲しいのであって、羽ばたく事自体には不満は無いのだ。

 そういう国民性であり、そういう教育を施されている事もあり、一旦腰を落ち着かせる椅子は皆欲しい筈だ。

 何処ぞのヒーロー協会宜しく方向性を決め付けて勇者候補たちを縛り付ける場所ではなく、手を取り合うための憩いの場を用意しようとしているのはそういう理由があっての事だ。

 アケットに集まる勇者候補の人数次第ではあるが、……割と好感触なんだよなぁ、送られて来た物を見る限りは。

 原作ママの日本語で書かれた小説の他に、明らかに勇者候補っぽい奴の名前で送られてきていた作品も確かにあった。

 今の所確認できる人数は十数人程度であるが、分母を考えるとそこそこの人数と言えるだろう。

 

「……それに、クラス単位で転移召喚されるような事態が起きていないし、天界側のてこ入れはあくまで最低限と言う感じが透けて見えるしなぁ」

 

 ダンゴムシの群れに蟻が群がっていたとして、それを助けてあげようだなんて思う奴がどれくらいいるだろうか。

 天から見下ろした神様の視点だなんて結局そんなところなのだろうし、輪廻転生業務に差し支えたから勇者候補を送ってトラブルシューティングをしているに過ぎない。

 でなければ、複数人の勇者候補が持ち得る特典を束ねた様な出力の物を渡して魔王を瞬殺しない理由にならない。

 結局のところ、天界からすればこの世界の人類がどうなろうが割と興味無いのだろうし。

 出荷するための実が傷物だったから困っていて、出荷量が減るから困っていると言う訳では無いのだろう。

 

「椅子に座りながら唸っててどうしたんですかおんおん」

「ん、少し考え事をな……」

 

 旅館によくある部屋の奥側にある机と椅子と窓の空間たる広緑で、一人考え事をしていたらめぐみんが後ろから抱き着いて来た。

 少し肌がしっとりとしている事から朝風呂に入って来たらしい。

 温泉とめぐみんの匂いで少し癒されながら、あすなろ抱きされてしまった私は仄かに感じる膨らみを感じながら思考を少し止めた。

 いやまぁ、勇者候補だから魔王を倒す、と言う前提ではあるのだが、この可愛い系幼馴染幼妾なめぐみんを守るために立ち上がったと言っても過言ではないんだよな。

 ちょいと順番がアレだったが、肉体的相性の良いララが間に加わって尚更に守らねばと言う心持ちであった。

 結局のところ、私はこの幸せな時間を守りたいが故に色々と奔走しているに過ぎない訳で。

 首に回された細い腕を手に取り、小さな白魚の様な掌を頬に当てがって触れ合いを楽しむ。

 ちょっとした事で初々しい姿を魅せるめぐみんであるが、前はこうして私から甘えに行く事もあったのだ。

 主に、戦闘で心がささくれ立って精神的にピリピリとしていた時は、こうしてお互いの体温を感じ取って癒しを得ていた。

 一度、デストロイヤーにファイヤーデストロイされ死んでから、こういう触れ合いよりも肉体的重なりを求めてしまった事もあって久しぶりに感じる。

 身体はララに、心はめぐみんに寄り添っているのが今の私と言う公然二股野郎な訳で。

 ……もう一度死ねば案外ストイックな方向に修正できるんじゃなかろうか、主に戦闘狂としてだが。

 でもまぁ、こうして触れ合う事を許されている事もあって、めぐみんも私を好いてくれていると心で感じる。

 

「アルカンレティアに来た時にだが、バニルから言われた事があってな。どうも明日、此処に魔王軍幹部の奴が毒を使って破壊工作に来るらしいんだ」

「……へ? 初耳なんですけど?」

「うむ、めぐみんにだけ言ったぞ」

 

 ララ? 大分前に耐毒スキルを会得してたっぽいから割と本気で心配していない。

 何でも淑女教育と称して毒の耐性を実家の方で得ていたようで、冒険者になってからスキルを取って地道に伸ばしていたらしい。

 ララは彼の大貴族ダスティネス家の令嬢なので然もあらん、長女だし政治関連で何かしらあったら事なので備えているのもおかしくはない。

 

「まぁ、そう言う事で考えられる毒の使用方法は源泉への混入か直接的な毒殺あたりだろうから、明日は温泉に入らないで欲しいんだ。ララは耐毒スキル持ちだし、アクアさんは浄化するだろうし、カズマくんやクリスには口頭で伝えておけば良いだろうしね。ウィズさんは……案外耐毒スキル持ってんじゃないかなぁって思うんだよね」

「ふぅむ……、まぁ、確かに私は爆裂魔法関連のみに割り振っていますし、少し残念ですが仕方ありませんね」

「すまないな、一応ゼスタに色々とやらせて速攻で工作員を捕まえて囲んでボコす予定だからそれで勘弁してくれ」

「……なんか最近のおんおん殺伐としてません? 思考が逆鱗ドラゴン染みてませんか?」

「ん、んんー……、まぁ、否定はしないな。私の大事な人を守るために色々としていたからな、少し神経質になってたかもしれん」

 

 そう言ってめぐみんのむにむにほっぺに手を当てる。

 少し体温が高くなっためぐみんの赤面顔に気力ゲージを回復させつつ、私の掌に手を重ねてくれた事に喜びを感じる。

 ……ぁー、こういうので良いんだよこういうので。

 ララやクリスだとすーぐに肉体直結に繋げるからなぁ、ちゃんと愛情で癒しに来てくれるめぐみんマジ天使。

 実際、私の心情は前世三割:めぐみん四割:ララ二割:クリス一割くらいの比率で構成されているからな。

 ララの事は確かに愛してはいるが、肉体的な共依存な一面もあるからなぁ……。

 めぐみんとの関係は精神的な共依存であったし、結局のところ世間一般的な恋愛なんて元々できやしなかったのだろう。

 こうして色々と落ち着かせた状態で考えるとララとの関係を早めたのは少し早計だったようにも思えてきてしまう。

 ……いや、私が浮気性な性格をしているのだろうか。

 愛してくれるから愛を返しているのを繰り返して塵が積もった関係であるとも言えてしまう。

 まぁ、何にせよ私がクズ人間である事は変わりは無いのだ、開き直るしかあるまいて。

 こうして婚約者が居ると言うのに幼馴染の少女の身に触れている時点で本当にどうしようもない浮気野郎なのだから。

 ……勇者ってハーレムを築くのが王道的なもんだと思ってたけれども、案外こういうドロドロとした実情があっての形成だったのかもしれないなぁ。

 自分を犠牲に世界を救うくらいのお人好しだからこそ、ヒロインたちが傷心するのを良しとできない。

 だからこそ、誰も彼も受け止めて愛を囁いて済し崩しのハーレムを築いてしまうのではなかろうか。

 正直、凌辱エロゲー的な攻略をしたララと純愛ギャルゲー的な攻略をしためぐみんな訳だし、ある意味方向性が真逆だから修羅場に陥っていない可能性が非常に高いんだよなぁ。

 なので、肉体的な関係を続ける事で純愛ギャルゲーからラブコメエロゲーへと変貌した時に、めぐみんの心象が非常に恐ろしいのだけれども。

 今の所、正妻枠であるララがめぐみんを愛妾として良しとしているから成り立っている訳で。

 この子猫みたいな可愛いめぐみんが成長を果たして、あの時の様なヤンデレめぐみんと化した時が本当に怖い……。

 

「流石に魔王軍幹部の情報なんてあんまり持ってないからな。ぶっつけ本番になってしまうのが怖い所ではあるけどな」

「そうなんですか? なら、ウィズに聞いてみれば良いじゃないですか」

「あぁ、昔、手練れの冒険者だったんだっけか」

「いえ、魔王軍幹部の一人らしいので」

「……………………はい?」

 

 寝耳に水なめぐみんの情報に若干裏返った声を返してしまう。

 ……後ろに振り返り、首筋に鼻を押し当てめぐ吸いをして心を落ち着かせてから詳細を尋ねる。

 どうもあの貧乏店主なウィズさんは魔王城の結界の維持を理由にアクセルへの進軍を禁止させているらしい。

 理由は分からないらしいが、あの魔法雑貨店に固執している事から何かしらのエピソードがあるんじゃないかとの事だった。

 ふーむ?

 そう言えばウィズさんのリッチー化にベルディアが関係していると言うのは聞いた事があったな。

 つまり、なんだ?

 首無し騎士ベルディアに冒険者時代のウィズさんが殺され、その後リッチー化して魔王城辺りに殴り込んで魔王となんやかんやで話し合いが成立して、結界維持の条件でアクセル滞在を許されている、的な感じか?

 その割にはウィズさんに致命傷っぽいのは無かったような気がするんだが。

 となると……、アレか? めぐみんにやろうとしてた死の宣告か?

 アレを克服するためにリッチー化したのかウィズさん。

 

「あー……、成程?」

「幹部が減ればアクアの結界破壊の魔法で何とかなるらしいので見逃されてる感じですね」

「ふむ、ならちょいと聞いてみるか。毒を使う魔王軍幹部について分かれば封殺も視野に入れられるかもしれん」

「んふふー、役に立てましたね。尽くす女なのです私は」

「ああ、本当に助かったよめぐみん。これで被害者を減らせる」

「……ほんと、そういうところ変わらないですよねおんおんは」

 

 非常にこっ恥ずかしい台詞を吐かれてしまったので思わず黙ってしまう。

 いやほら、一応アクシズ教の聖母として働いている訳だし?

 こうして未曽有の危機が迫っているなら阻止するのは冒険者としてもするべき事だし?

 ……だなんて言い訳を口にしていたらめぐみんに微笑ましい顔で良い子良い子と撫でられてしまった。

 

「……さてと、ウィズさんに会いに行くか」

「ふふ、そうですね。流石にもう起きてるでしょうし、出て行った様子も無いですしね」

 

 めぐみんのあすなろ抱きを解くのが少し勿体無いが、事が事なので一応其方を優先すべきだろう。

 ララとクリスは死ぬ程疲れているのでそのまま寝かせておくとする。

 ……ちょっとハッスルし過ぎたしなぁ、昼までは起きないだろう。

 ウィズさんは隣の部屋でゆんゆんと一緒に居る筈なので、めぐみんと二人で訪ねるとふわっとした返事が聞こえた。

 

「ふぁーい……、どちらさまですかー……?」

「おはようございます、ウィズさん。起こしちゃいましたか?」

「いえいえー……、温泉とお布団で気持ち良く寝れたので余韻が残ってるだけですねぇ……」

 

 たわわなおっぱいが緩んだ浴衣から零れそうになっている光景は非常に眼福であったが、後ろからの仄かに感じる怒気によって胸がドキドキな私はスルー一択であった。

 溜息交じりに淡々とウィズさんのお色直しをしてやり、広緑に座った私たちは温かい昆布茶を飲みながら向かい合った。

 

「えぇと、一つ確認なのですが、ウィズさんって魔王軍幹部の人、なんですか?」

「うぇええ!? え、ぇえっとぉ! その、め、めぐみんさんから……?」

「まぁ、そうなります。事情が事情なので聞き出した事には目を瞑ってくれると」

「あっ、いえいえ、そう言う訳では……、おんおんさんにでしたら伝えても良いかなとは思っていたのですが、機会がなくて……。と言うかバニルさんから聞いてるものかと」

「……そういやそうだったわ、後日ペナ入れとこ」

『おぉっとぉっ! 何だか嫌な予感がしたので説明しておくが、魔王軍幹部事情は守秘義務に当たる上に、口約束ながら契約で縛られているから吾輩からは言えないのだ! 悪しからず!!』

「……ちっ、タイミング良く弁明が来たな、まぁ、いいか。そんでもって一つ聞きたい事がありまして、魔王軍幹部で毒の扱いに長けている人物って居たりします?」

 

 相当泡を食った感じのバニルの弁明念話を聞いて少し胸がすかっとしたのでペナルティは免除してやろう。

 今回の被害次第では、少し考えなくちゃならないが。

 正面で顎に手をやったウィズさんは、昔の事を思い出すかのように少しだけ唸ってから人名を口にした。

 

「あっ、ハンスさん。デッドリーポイズンスライムの変異種であるハンスさんくらいでしょうか。毒の扱いと言うと少し語弊があるかなと思いますが、種族的に毒を取り扱う幹部の方ですね。それがどうしたんですか?」

「いやなに、バニルからのタレコミで毒を取り扱う魔王軍幹部が此処に破壊工作を明日から仕掛けるらしいので先手を打とうかな、と。デッドリーポイズンスライムですか、種族が判明しているのは大きい」

 

 スライムが魔王軍幹部になっているとなると、クリスに居る媚薬スライムが成長するのが少し楽しみになってきたな。

 っと、それは置いといて魔王軍幹部のハンスとやらの話だ。

 

「へぇ……、そうですか。ハンスさんが……、そうなると私も協力する機会があるかもしれません。私は魔王軍に関して中立の立場として結界維持を頼まれていますが、戦いに携わらない人への非道な行いは阻止しても構わない約束となっています。デッドリーポイズンスライムの毒は猛毒、耐毒スキルを持っていても即死する可能性がある程に危険です。それが変異種のハンスさんとなれば……、言うまでもありません。本来であれば敵の前線を破壊するための工作員として働くハンスさんですが、なりふり構わない理由ができたのかもしれませんね……」

 

 ……ベルディアが私に倒されたからでは?

 首無し騎士デュラハンとしてアンデッドの軍勢を率いるベルディアを倒すためには軍団を派遣しなくてはならないだろうし、そうして出張った奴らを仕留めるのがそのハンスとやらの仕事であるならば、こうして生産拠点である街などへの破壊工作を仕掛けてくるのも可笑しい話ではない。

 実際、私ならそう動かすだろうしな。

 となると……、猛毒を自在に生み出せるであろうスライム野郎が来るとすれば、温泉の源泉や飲み水に用いられる水路などの水源に対し自慢の毒を散布してアルカンレティア周辺を一網打尽にする破壊工作が一番可能性が高い。

 敵国に属する村や町で飲み水を得るための井戸へ毒物を投げ入れただなんて事例は戦争ではよくある事だ。

 毒を霧状に散布できたりするのであれば都市を滅ぼす事だって出来る事だろう。

 

「まぁ、相手がスライムだって分かればやりようはあります」

「本当ですか?」

「ええ。幾ら殺しても不死身な奴よりかは遥かに潰しやすい。アクシズ教の聖母として、私の名を使って聖都防衛のお触れを発布します。なぁに、暇してる奴らがごろごろと居るのがこの街の特徴なので、正々堂々不意打ってやりましょう」

 

 幹部として同僚である人物をぶち殺す算段をウィズさんの前でする訳にもいかないので、アクシズ大教会へと向かうべきだろう。

 ウィズさんに早朝に訪れた事を謝罪し、そのまま部屋から出てインベントリに入れていた修道服へ即着替え。

 めぐみんにはカズマくんたちへ今の事を伝えるように伝令に行かせた。

 耐毒スキル持ちでも即死する、だとぉ?

 なら、もう手段は選ばない、確実に、しっかりと、何も出来ずにいるまま殺し尽くしてやらねばなるまい。

 ごぉごぅと左目の暗い穴が燃えるように疼き、胸に灯るソウルが火の気を放つ。

 そんな威圧感全開の状態で大教会へ正面から向かってしまった事で、色々と細かな問題はあったが、捨て置く。

 最高司祭のための部屋へと歩んで行き、窓際に垂れ下がる一本の紐を引っ張り下ろす。

 大教会の中央、その頭上に付けられた鐘が鳴り、アルカンレティア全域に響き渡る。

 私の剣呑な表情を見た瞬間に、非常に真面目な顔になったゼスタが後ろ斜めについてくる。

 大教会に備えられた大きな講堂へと歩んで行き、扉を開けばこのアルカンレティアに住まうアクシズ教徒たちがずらりと並び、我も続かんと次々に集まってくる。

 見事な女神アクアを讃えたステンドグラスの真下にある主祭壇の前、内陣と呼ばれる場所に立った私はアクシズ教徒たちの視線を浴びながら彼らを見下ろした。

 

「敬虔たるアクシズ教徒の諸君、我らが聖母おんおん様からお言葉を授かる場へとよくぞ参りました。静かに、そばたて、内容を理解するように。では、臨時集会を開始します、聖母おんおん様、お言葉を」

 

 内陣の下に陣取ったゼスタが私に最敬礼の礼をし、私に背を見せない恰好、つまりは半身になって教徒たちへ語り掛ける。

 こういう時のゼスタは使いやすいし、何よりも女神ファーストである事が最大の理由だ。

 女神アクアの居るこの街に魔王軍幹部がちょっかい出してくるってよ、と伝えたら殺意マシマシの「は?」が聞けたからな、少し笑った。

 続々と集った信者たちで講堂がぱんぱんになり始め、廊下に並び始めたのを機に私は演説を始めた。

 

「諸君、こんにちは」

『こんにちは!!』

「うむ、良い挨拶だ。挨拶は基本だ、隣人にすべき最初の言葉として女神アクアも頷いてくれる事だろう」

 

 集会の度に時間に合わせた挨拶を繰り返しさせているからか、もはや応援劇場並みに声が揃っている。

 

「では、本題に入ろう。明日、女神アクアの神託により、不届き者がこの街に現れる事が判明した。魔王軍幹部、デッドリーポイズンスライムの変異種であるハンスと言う神罰者だ。ああ、皆まで言わなくて良い。汚い言葉は自身に還るものだ、良い言葉を使いなさい。咄嗟に出てきてしまう言葉に浮かんでしまえば、ふとした時に言ってしまうものです。それにより人間関係が壊れてしまえば、哀しみに暮れる日となってしまう事でしょう。貴方達は元より良い子なのです。少しだけ違って、少しだけ変わっているだけの、良い子なのですから」

 

 めぐみんを甘やかす時以外には使わないであろう甘ったるい慈愛を込めた言葉で説法めいた内容を紡いでいく。

 大分盛っているのだが、信徒たちには割とウケが良いようで誰もが恍惚な顔で笑顔を浮かべている。

 

「ですが、神罰者は違います。悪魔は、モンスターは、魔王は、女神アクアや女神エリスによって否定されたこの世に居てはならない存在です。殺して良いのは神罰者だけです、隣人は愛し愛され支え合うべき存在なのですから。そんな神罰者が、明日、この街に破壊工作を仕掛けようとのこのこと来てしまうのです。――そう、女神アクアが人の姿となって羽休めをしているこの街に、です」

 

 某イスカリオテの第十三課な神父さんの言葉を借りつつ、信徒たちへと熱狂を伝播させていく。

 じわじわと、潰すべき相手を、ふつふつと、殺すべき相手を、ぐつぐつと、狂信を伝えていく。

 慈愛の顔から段々と狂信者の貌を魅せて行き、妖しい雰囲気に講堂を包み込んでいく。

 恍惚から一転し、不倶戴天の仇を見るかのような憤怒に腸を煮えくり返らせていく信徒たちの変貌に笑みが浮かぶ。

 自分たちを導き助けてくれた女神アクアを信仰する者たちであるからこそ、このシンパシーの波に乗れるのだ。

 

「許してはなりません、この街、アルカンレティアは我らアクシズ教の聖地。汚物のような毒を用いて愛しきこの地を汚そうとする魔王軍幹部を決して許してはなりません。で、あれば、我らが何をすべきかお分かりですよね? 私たち、良い子がすべき事は、何でしょうか?」

 

 両掌を広げて見せて、信徒たちへと問い掛けるように差し向ければボソボソとした騒めきが、段々と殺意を込められた言葉となって返ってくる。

 

「殴殺を!」

「絞殺を!」

「撲殺を!」

「刺殺を!」

「焼殺を!」

「轢殺を!」

 

 一心不乱の狂気を身に纏い、とびっきりの笑顔を魅せて肯定してあげる。

 それだけで彼らは、彼女らは、一致団結して物事に速やかに、そして積極的に行動をしてくれるだろう。

 

「ええ、えぇ、勿論ですとも。可能な限り、惨たらしく、陰惨に、残酷に、二度とそんな事ができないようにしてやりましょう。我らが隣人を守るために、我らが女神を守護するために、此処にジハード、聖戦を宣言します。良い子の皆様、出来る限りの準備を。スライムは水気が多く含まれており、燃やしたり、砂をかけたりすると良いとされているそうです。それ以外にも核を砕いたり、閉じ込めてしまうのも良いかもしれません。何か、良い案はありますか?」

 

 そして、具体的な内容を周知し、それを踏まえて何をすべきかを考えさせる。

 

「熱した油を引っかけて火に掛けろ!」

「乾いた期限切れの小麦粉をぶつけろ!」

「腐った卵をぶつけて混ぜてやれ!」

「毒を浄化する魔法で存在ごと消してやれ!」

「逃げたところを落とし穴に沈めて固めてしまえ!」

「動きを止めるために凍らせてしまえ!」

 

 そうして、各々が思い付いた事を発言させて全員に行き渡るように煮詰めていく。

 どんどんと出てくる悪戯から派生した殺意の籠った手段の数々に私としては花丸をあげたい気分であった。

 

「素晴らしい考えばかりですね。では、それを明日、行ないましょう。我らが女神アクアを狙う神罰者へと。ああ、言い忘れていました。もしかしたらもう侵入しているかもしれません。ですので、確かめましょう。けれど、直接的にはいけません。仮にも魔王軍幹部、貴方達に被害があってはなりません。観察しなさい。そして、監視するのです。確実に神罰者は観光客を装っている事でしょう。普段見かけない人物を、傷が無いのに顔を隠す人物を、不審な事をしている人物を、怪しい事をしようとしている人物を、疑いなさい。隣人であれば良し、神罰者であれば容赦は要りません。見つけ次第大教会へと報告し、それを秘密裏に伝えて見張りなさい」

 

 悍ましい程の雰囲気を醸しながら不気味な静寂に潜む信徒たちへと命令を与えていく。

 

「そして、直接的な行為をし始めたら囲いなさい。あらゆる準備をして、安全に気を付けて、こっそりと囲いなさい。それからは私の合図で動きましょう。宜しいですね?」

『はーい!!』

「良いお返事ですね。では、これにて緊急集会を終わります。女神アクアの加護が有らん事を」

『女神アクアの加護が有らん事を』

 

 一同が声を揃え、指を組んでステンドグラスの女神へと信仰を捧げて祈りを送る。

 今頃アクアさんの女神パワーが凄い事になっていそうだが、まぁ、保険は多い方が良かろうて。

 ぞろぞろと妖しい雰囲気を消し去って、普段通りの表情に戻って擬態した狂信者たちが街へと帰って行く。

 最後の一人が背を向けて講堂から出たのを機に、作り笑顔を止める。

 

「ふぅー、ま、ざっとこんなもんだろう。ゼスタ、総括を頼んだぞ」

「御意に、聖母様」

 

 深々と頭を下げたゼスタを尻目に別の出口から出て行くとひっじょうに苦い顔をしためぐみんたちの姿があった。

 カズマくんパーティは此方に居るように誘導したからな。

 おずおずとアクアさんがびくつかせながら強張った表情で近付いて来た。

 

「……あの、いつのまに私の教団ってカルトになったの?」

「いえ? いつも通りですよ、あれ。そういうノリでやっただけなので、今回が初めてです」

「嘘でしょ……、何それ、こわ……」

 

 いやぁ、アクアさんが標的だぞーって内容をすり替えた結果がアレである。

 明日が楽しみだなーと暢気に言うと、おんおんだけは絶対に怒らせないようにしよう、だなんて事を異口同音で言われてしまった、解せぬ。

 使い勝手の良い人員が腐る程居るなら有効活用するのが上のお仕事なのでね。

 さて、既に居るのか明日来るのかは知らないが、顔も知らぬハンスとやらには塵一つ残さずに死んで貰おうじゃないか。

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スターウォーズの銀河からヒロアカ時空の地球にTS転生した元ジェダイの主人公が、ジェダイ復興のためにヒーローを目指しつつ、無自覚に(そして少しずつ自覚的に)トガちゃんとイチャイチャするお話です。▼***▼遠い昔、遥か彼方の銀河系で……。▼分離主義者たちを率いていたドゥークー伯爵は討たれ、クローン戦争も終結間近となった。▼しかしそれすらもシスの暗黒卿、ダース・シ…


総合評価:17289/評価:8.52/完結:288話/更新日時:2023年12月31日(日) 23:00 小説情報

チート持ってウマ娘なるものに転生した、芝生える(作者:白河仁)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

ウマ娘どころか競馬の事もさほど知らない男が、チートな肉体を持ってウマ娘ワールドに生まれちゃったお話。▼こんなチートな肉体がタダで与えられるのか!?マジで!?怪事件に巻き込まれたりしない!?と警戒しながら生きるチートオリ主ははたしてどうなるのか。▼わりと無自覚に周囲の情緒を破壊し続ける主人公とそれに否応なしに巻き込まれるし何なら自分も破壊されるあるウマ娘がメイ…


総合評価:24288/評価:8.12/連載:61話/更新日時:2022年10月10日(月) 07:00 小説情報

架空原作TS闇深勘違い学園モノ(作者:キヨ@ハーメルン)(オリジナルファンタジー/戦記)

 前世でプレイしてたゲーム世界に、人工不死者のプロトタイプとして生を受けた、皮肉とお喋りが趣味のTS少女が、ボロボロになっていく話。▼ なお周りは曇る。▼ 言うまでもないハーメルン特有のTS闇深勘違いのアレ。誰も書かないなら私が書く理論&どうしても暗い世界観でお喋りクソ女を喋らせてボロボロにしたかったので書いた。反省はするが後悔はしていない。▼ ※お喋りクソ…


総合評価:16903/評価:8.8/連載:39話/更新日時:2024年06月06日(木) 19:50 小説情報


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