十七話!
これで今章は終わりです。
「紅郎っ! ハジメっ!」
ユエの叫びが聞こえてくる。
極光は確かに俺達を飲み込み─────しかし、同時にダメージにはなっていなかった。
「ぐっ、あぁぁぁぁ!!」
大棺を構えたハジメが、極光を防いでいるからだ。上からの凄まじい圧力に耐え、踏みとどまっている。
本当なら今すぐにでも俺が〝和御喰〟を使って吸収、と行きたいのだが……なぜだか、身体がまともに動かない。
というか、身体が熱い。立ち上がることすら出来ない。
〝荒御刈〟の副作用? いや、違う。正確には違うわけではないがそこではないと、俺の〝直感〟は囁いている。
ならばなぜ─────
頭だけでも回していれば、ハジメが極光を防ぎきった。
大棺も溶解しているが、すぐにハジメの〝錬成〟で修復されていった。
だがこれで終わりではない。未だに危機は止んでいない。
「っ、ハジメ……次が、来るっ」
「あぁもうしつこい……!」
こちらを心配そうに見つめながらも、それでも敵への備えは忘れない。
今度は大きな極光ではなく、小さな無数の極光が俺達に降り注ぐ。
いや、俺達だけではない。ユエ、シア、ティオの三人にも極光は降り注いでいる。幸いにも極光の量は俺達よりも少なさそうだ。
ならば、あの三人であれば─────
「妾が逸らそう! 〝嵐空〟!」
「お願い。〝凶剱〟」
ティオが俺達よりは密度の少ない極光の群れを逸らし、その隙にユエが反撃の魔法を繰り出す。
繰り出された刃は空へと向かい、仕掛けてきた下手人へと向かって致死の一撃を喰らわせようとする。
飛び込んでいった刃は何匹かの空飛ぶ何かの障壁に阻まれたが、刺さった拍子に刃から重力球を形成し身体を削り取ることでマグマに落下していく。
だが、本命には届かなかったようだ。何匹もの空飛ぶ何か……魔物、それも灰色の竜に防がれてしまった。
極光が止み上を見上げれば、何処に隠れていたのか大きな白い竜とそれに乗る男が見えた。
「……信じられん。まさか私の白竜のブレスを防ぎ、灰竜の掃射の中で反撃に出るとは……看過できない実力だ。やはり、ここで待ち伏せていて正解だった」
「長々とうるさいな。今結構苛立ってるんだ、喋ってるだけなら殺すよ」
「……野蛮な異教徒が。どうやらそんなにも死にたいらしい」
ハジメが矢面に立ち男……魔人族の男を挑発する。
……挑発かな? 多分挑発、のはず。
いや気にするべきはそこじゃなくて、今こいつ待ち伏せとか言ってたよな。
魔人族が待ち伏せ……こいつが神代魔法を持ってる魔人族なのだろうが、情報を伝えたのは……まぁ俺が逃した魔物だろうなぁ。くそ、ここで響いてきたか。
せめて身体が動いてくれたならマシだったんだが……
「既に動けないその男を守りながら、私に勝てるなどとは思わないことだな」
「あっそ」
ハジメの行動は非常に簡潔だった。オルカンを取り出し魔人族に向けて放つ。
つまりそんなのどうでも良いから死ね、である。
灰竜……いや、その後ろに乗る亀の魔物の張った障壁に防がれるが、それが戦いの合図となった。
ユエとティオが魔法を、シアはドリュッケンに取り付けられた炸裂スラッグ弾と呼ばれるものを撃ち、ハジメが数々の兵器群を撃ち放っていく。
灰竜が主人を守ろうと盾のように張った障壁に阻まれ魔人族には通らないが、着実に灰竜と亀を殺していき数を減らしていく。
肝心の魔人族だが……何やらブツブツと詠唱している。何か魔法を使おうとしているみたいだが……ちょっと妙だな。
白竜が攻撃に参加せずブレスを溜めてるだけ、というのが違和感がある。
うーん……身体は、まだ熱いし本調子じゃないが動かせるか。
とはいえ今の感じだと一撃放ったらまた動けなくなりそうだから、一回だけだな。
やるならカウンターだ。
「紅郎さん、ハジメさんから神水を貰ってます。飲めますか?」
「すまないな。けど、出してもらったところ悪いんだが多分飲んでも治らないし、時間が経てば回復するはずだ。今はシアが持っていてくれ」
「そうですか……?」
シアはスラッグ弾を放ちながら合間でハジメから神水を貰ってきたらしいが、今回は使わないで良さそうだ。貰っても意味がないから、というのもあるが……
そこで〝直感〟が反応。後ろから来ると分かり、俺は納刀状態で振り返る。
「〝界穿〟─────っ!?」
「良い位置だ」
本当なら〝荒御刈〟を使いたいが、身体の調子を考えると〝高速抜刀〟と〝飛刃〟の組み合わせで我慢する。
放たれた刃は驚愕する男の身体に一線の傷を入れ血飛沫を上げさせた。
だが、そこで止まってしまったのは俺のミスだった。
白竜は止まらず、収束・圧縮したブレスを放とうとしていた。
「紅郎さんっ!」
そこにシアが割り込む。
咄嗟に突き飛ばされ、地面に転がりながら間一髪避けることができた。
しかし、避けれたのは俺だけだった。
「ぐ、ぅ」
「シア! 神水は飲めるかっ」
「な、なんとか……めっちゃ痛いですぅ」
シアも一緒に直撃はしなかったのだが、背中を抉られてしまった。
傷が爛れ、神水を飲んでも再生が緩やかだ。あの極光、なんとなくわかってたがヒュドラと同じものか。しかも威力だけなら覚醒ヒュドラと互角か。
イフリート、もしくは魔人族でもいい。どちらか片方さえなければ……なんて、考えても意味のないことだとわかっている。
幸いだったのは追撃が来なかったことか。魔人族の男は傷を抑えながらこちらを睨みつけていた。
灰竜も数を減らし、当初の半分ほど。
魔人族が傷を追ったのを良いことにハジメが〝空力〟で空を駆け灰竜たちを殲滅していく。
ここで魔人族に焦りが見えた。もうこれ以上の戦力はないと見ていい。
「まさか、新しく手にした神代魔法を感知するなど……っ、あの炎の化身を相手にして、なおこれか。出来ればこの手は、使いたくなかったが……!」
魔人族が、肩に小鳥のような魔物を乗せている。
何をしようとしているのかはわからないが、何かヤバい。それだけは感じられる。
瞬間、グリューエン大火山に激震が走った。マグマが荒れ狂い、無数のマグマの火柱が立ち始める。
何が起こるのか、その時点で察しはついた。
「っ、噴火でもさせるつもりか!」
「その通りだ」
どうやって……というのは考えるまでもないか。
グリューエン大火山には〝静因石〟が固まっている箇所が複数あった。なぜそんな箇所が複数あるのか。
あれは意図的に作られた箇所であり、あれがグリューエン大火山の噴火を止めていた。
ならば、固まっている箇所を壊せばどうなるか。それが今の答えだ。
「間も無く、この大迷宮は破壊される。神代魔法を同胞にも授けられないのは痛恨だが……貴様等をここで仕留められるなら惜しくない対価だ。大迷宮もろとも果てるがいい」
そう魔人族は言い、懐からペンダントを取り出すと天井が円形に開いていく。その開いた天井から白竜と共に飛び出していった。
天井が開いたのは、グリューエン大火山の攻略の証を使ったからか。まぁあれがどういうものなのかは今はどうでもいい。
問題なのはここを生き残れるのかと、アンカジに持っていくはずの〝静因石〟をどうするのか。
前者はさほど問題ない。ハジメが作ってくれているだろうと確信している。問題は後者、さてどうしたものかと悩んでる時間はない。
解決できそうな人物は、恐らく一人だけ。
「ティオ、頼みたいことがある。それとハジメ」
「うん。はい、これ」
「むっ、〝宝物庫〟? このような状況で何を……」
「簡潔に言うぞ。どうにかして俺達は神代魔法を取得して生き残るから、ティオは先に〝静因石〟を届けてほしい。今できるのは、多分ティオしかいない」
恐らくグリューエンの神代魔法を手に入れる機会は今回だけ。その今回の噴火でグリューエンには暫く入れないだろう。
他の神代魔法を手に入れればどうにかなるかもしれないが、無駄に時間をロスすることになるのは避けたい。
そしてアンカジのタイムリミットもある。どちらも達成するにはティオに頼るしかない。
「……信じて良いのじゃな?」
「このくらいじゃ死なないよ。脱出するための手もあるしね」
「ならば信じよう。アンカジは任せよ!」
「すまない。頼んだぞ」
「あぁでも一つ訂正。ティオは紅郎も連れて行ってね。身体の不調もあるみたいだし、香織に見てもらわないといけないから」
「……うん?」
「それは構わぬが……どうやって運べば良いのじゃ?」
「それは竜になって口の中に入れる、とか? 脱出するまではクロス・ビットで援護するから。あ、あと香織には〝あとで会おう〟って伝えておいて」
「伝言はわかったが………うぅむ、背に腹は代えられない、かのぅ」
「いやちょっと待っ」
なんか話が思いもよらぬ方向に進んでいる。
そう認識して止めようとしたが、その時には既にティオは竜化し、
〝すまぬの、紅郎殿!〟
と言って口の中に放り込まれた。
……口の中に入るなんて経験、異世界ならではだろうなぁ。普通入ったら食われて死んでるだろうし。
そう現実逃避しながらも上に向けて飛んだのか、身体にGが掛かりティオの脱出劇が始まった。
俺は口の中で混ぜられながら、胃の中のものを吐き出さないようにするので精一杯で外の状況は全くわからず……
口の中から出ることが出来たのは、体感で五分後になるのだった。
そして、それを見ていたモノが一つ。
「主よ、いかがいたしましょうか」
『 』
「よろしいのですか」
『 』
「─────主の御心のままに」
それは銀の翼を持つモノ。
人の形をしていながら、人ならざるモノ。
そして、未だ心を持たぬモノ。
「そのまま成長してください、桜田紅郎。主はそれをお望みなのですから」
銀と紅の衝突の日は、近い。
ラスボスはもちろんエヒトなのですが、原作でのハジメへの矢印と今作での紅郎へ向ける矢印はだいぶ違います。
どう違うのかは、まぁその時になればわかるでしょう。
とりあえず再びある程度出来るまでお待ち下さい。
では。