魔法科高校のしばたつや 作:司馬達也
今まで書いてきて気になった点をまとめたり考え直したり最終話くらいしっかりしたプロット立ててやろう!と意気込んでステラリスしていたらめっちゃ時間がかかりましたが初投稿です。
何故か真面目な文章を書こうとすると拒絶反応が出てしまって遅れましたが、決して艦これとドルフロのイベント掘り周回で忙しかった訳ではありません。
あと、FTLはいいぞ。
服部刑部は己の至らなさを知っている。
そう余人が耳にすれば十中八九は嫌味と受け取るだろう。
魔法科二年生としてはトップクラスに優秀な成績を収め、魔法至上主義かつ一科生主義な服部だが、だからこそ自身の劣る点には敏感だ。
現にそれを感じさせられる相手はこの第一高校に、上級生に限らず存在する。だからこそ、服部は彼らに劣るまいと精進してきた。
身近なところで言えば、二年生の中条あずさと五十里啓。
彼女らの専門分野ではとても及ばないが、魔法理論全体の成績では服部も負けるつもりはない。
去年の新入生総代を奪われた時から一年間、実に張り合いのある相手だった。
最近では司波達也。
親友である桐原相手に近接戦闘も多少はこなせるとの自負を完膚なきまでに粉砕した新入生。
なまじ魔法技能による蹂躙を得意とするために、一方的な制圧に必要な技量の差を熟知する服部にとって、あの模擬戦はプライドを強く刺激するものだった。
そしていま。
「―――魔法競技系のクラブに予算が手厚く配分されているように見えるのは、各部の対外試合実績を反映した部分が大きく、また非魔法系クラブであっても全国大会で優秀な成績を収めているレッグボール部などには魔法系競技クラブに見劣りしない予算が割り当てられているのは、お手元のグラフでお分かりいただけると思います」
公開討論会が行われている講堂、その壇上での討論は終始真由美の優位に傾いており、徐々に演説会の様相を呈してきた。
演説が独演に変わるのも時間の問題だろう。
つきそって登壇した服部も、その出番は無く真由美のために力を奮う機会はない、ということだ。
そもそも、服部が登壇したのは真由美の護衛が目的だが、力で劣る二科生が暴力に訴えるとははじめから考えていない。
ただでさえ服部の実力は、部分的にはともかく、総合的に考えて真由美に劣るというのに。守るというのもおこがましい話だろう。
……己の手で守りたい、という欲求には蓋をするとして。
分不相応な望みを除けば、あとには副会長としての立場からの義務感が残る。次代へと受け渡される学校運営を引き継ぎ、つつがなくこなすことが先輩方から受けた恩を返す一番の方法だろう。
それができる人材と期待されて任されるのだ。応えなければ男が廃るというもの。
「数年前の大会でレッグボール部は予選三回戦で敗退したことを理由に予算が引き下げられたそうですが、同じ年のボード部は予選二回戦で敗退したのに予算は減らされなかったと聞きました。
これは魔法系クラブを不公平に優遇している証拠です!」
そう意気込む一方で頭の冷めた部分が訴えるのは、服部の能力で可能なことは、真由美にとって容易く可能だという実力差だ。
魔法師としての能力だけでなく、十師族直系としての社会的立場、立場がら身につけた社交性とコネクション、対人経験からくる話術と交渉力。
真由美が持つそうしたソフトパワーがまさにいま発揮されており、そのいずれも服部には無いものだ。
無論有事となれば、真由美が十師族として非常時の権力を発揮すれば、服部自身その身を剣にも盾にもする覚悟はある。活躍するだけの実力もだ。
だが、乱世の英雄志望など平時は厄介極まる。
まして、目の前で煽られた火種が引火するかどうかという時に英雄願望を振りかざすことは、母校のために最善を尽くす真由美に対する背中の一突きに等しい。
よって、服部の出る幕はない。
如何に義務感を持ち、明確な意志の下で力を磨いたところで、いまこの瞬間に望まれる力でなければ意味が無い。
「数年前の大会成績についてのご指摘がありましたが、記録を参照する限り四年前の夏季大会の事ですね。該当年度に行われた予算会議では、対戦相手と試合内容を考慮した結果、そのような予算配分の変更があったと記録されています」
服部が警戒しつつも思案に耽っている間に、予想よりは鋭い(だが年度を把握していない時点で詰めが甘い)意見に苦しい言い訳を口にする展開になった。
だが、有志同盟が気色ばんで声を上げる前に真由美はその勢いを起こりの段階で叩き潰す。
「ボード部の対戦相手はその年の全国大会優勝校であったのに対し、レッグボール部の対戦相手は4回戦、準々決勝で敗退しています。加えて敗戦の原因は、試合前の練習中に部内で起きたレッグボール部所属生徒同士のトラブルの処分によるレギュラーの欠員、それも魔法を使用した傷害未遂事件でした。それらに起因して連携に支障をきたしたことが問題になりました。
これらの理由から、レッグボール部の予算減額は予算会議での懲罰的な意見が強く影響した結果です」
他にも類似した例を挙げてゆき、予算の不公平がないことをアピールするとともに、真由美は魔法系非魔法系を問わず部活動に所属する生徒の支持を集めてみせる。
その演説は次第に反論というには逸脱していったが、なおも続けられた。有志同盟はそれを指をくわえて見ていることしかできなかった。
彼らが味方につけたかった非魔法系クラブの支持を目の前で奪われたのだ。強引に遮ってでも声を上げたいところだが、支持者の側はというと自分たちが正当に評価されていたことに拍手を始め、それを真由美が手振りで抑えてもなお止まないほど。
講堂中から顰蹙を買うくらいなら、黙り込むほうがまだマシ。そう判断できる程度の理性はあるらしい。
(まさしく情報は武器、か……)
控えめに拍手に加わりながら眼下に目をやると、長身の鈴音と摩利の影で端末を叩く小柄な後輩の姿がある。
ここ連日の徹夜で目元の隈を隠しきれていない少女は、しかし欠片も眠気を感じさせないギラギラとした目つきで作業に勤しんでいた。
柴田艶夜。
一科の新入生であり、生徒会庶務。
そして七草家お抱えの探知魔法師だ。
この独壇場の立役者でもある。
いくら生徒会長とはいえ、在校中の期間ならともかく過去の部活動実績をその詳細まで網羅するのは無理がある。そこで艶夜は今回の公開討論会にあたり、あらかじめ指摘されるだろう過去の事例を精査し、手元の端末にまとめてきた。
そしていざ指摘されると真由美の反論が始まるまでに簡潔にまとめた情報を呼び出し、探知魔法の応用で真由美に伝え、並行して真由美がマルチスコープで艶夜に求めた関連情報とその詳細を元データから引っ張ってくる。
不公平な予算分配が行われた、と指摘されたのは事前に艶夜がマークしていた事例であり、そして類似例を次々と挙げていったのは真由美が攻め時と判断したのだろう。
その甲斐あって、講堂に集まった生徒たちは一科二科を問わず真由美を支持している。
ただ整然と反論し守りに徹するだけでも有志同盟は勢いを失い失脚したことだろう。
それを反撃に繋げ、死に体にするため完膚なきまでに叩くことができたのは、艶夜が用意した武器のおかげだ。
生徒会で資料整理といえば会計の市原鈴音か書紀の中条あずさが取り掛かる仕事だが、新入りの庶務に任されたのはひとえに本人が持つ嗅覚を買われてのこと。
艶夜は公開討論会を開くと決まるや、すぐさま戦況を有利にするため武器の確保に走った。
そしてすぐに有志同盟がデータベースにアクセスしていないことを突き止め、
『敵がマトモな武器も持たずに突っ込んでくるってことは、たくさん弾丸を用意すれば機銃掃射みたいに薙ぎ払えるってことですよ! 一網打尽にしましょう!』
と、意気揚々と実弾の用意やデータベースの封鎖を提案したのだ。
後者は公平性を損なうため却下されたが、前者に関しては許可が下りた。
「実を言えば、生徒会には一科生と二科生を差別する制度が―――
―――私はこの規定を、退任時の総会で撤廃することで、生徒会長としての最後の仕事にするつもりです」
そして、有志同盟が勢いを失ったところで艶夜の供給した弾丸を使い、真由美が制圧射撃を加えた結果が現在の独演だ。
真由美の目指す生徒会規定変更も、圧倒的支持を集めた今となっては容易いことだろう。
制度改変につきものの反対も、艶夜が目論んだ通りに事前に排することができる。反対派が支持派の数に押し流される結果が今から目に見えるようだ。
下火になっただけでは燻っていただろう差別撤廃運動も、徹底的に火種を踏み消せば蒸し返されることはない。
計画通り。
そう本人がほくそ笑む姿が、どこかいたずらが成功した子供のように服部の目には映った。
(はじめに提案を聞いた時は画餅もいいところだと思ったが、なかなかどうして、上手くいくものだな)
当初、柴田艶夜に対して服部が抱いた印象は決して良いものとは言えなかった。
艶夜はお世辞にも真面目と言えない生徒だった。
外回りの用事を率先して引き受けるのはいいが、それ以外にもなにかと用事を作っては外出するし、少し目を離すとながら作業でゲームのレベリングをし始める。
熟練の二流サラリーマンでも、あそこまで堂々としたサボり方はしないだろう。
そのサボり癖ときたら、こんな人物が本当に七草のお抱えなのかと疑念を抱くには十分で、あまりに真由美が猫可愛がりするから職権乱用して連れ込んだのではと疑ったほどだった。
だがそれも、こうして結果を示されては認めざるを得ないだろう。
聞いてみれば、準備のためにここ数日は徹夜して七草家に泊まり込んでいたという。
普段はアレだが、いざとなれば私情を排し、献身的に真由美を支える姿は服部をしてある種の敬意を覚えるほどだった。
立場にふさわしい振る舞いをすべきと考え、火事が起きれば消火すればいいと考える服部と、
仕事はノルマと言わんばかりの適当さあふれる振る舞いなものの、トラブルの火種が大火に繋がらないよう全力で踏み消している艶夜。
スタンスこそ正反対ながら、どちらがこの場で役に立っているかといえば艶夜なのだろう。
そもそも、有事に備えるといえば聞こえはいいが、抑止とは抑圧と紙一重。いや、表裏一体だ。不満を抑えるという意味では逆効果ですらある。
その不満の大元である大衆感情を鎮めるという点で、艶夜の貢献は非常に大きい。
……抗議のために立ち上がろうとしたら全力でローキックを喰らわされた格好になる有志同盟にはいっそ同情するほどだ。
(流石は会長が連れて来た人材だ。司波の件といい、てっきり色物好きなだけかと思ったが、こういう事態を見越しての事だったんだな。
……俺も今後の一高運営のために、もっと搦め手を覚えるべきか?)
真由美の先見の明に尊敬の念を深めつつ、有事への備えとは力を磨く事と思い込んでいた己を省み考えを改める服部。
そんな彼に活躍の機会を与えるべく、テロリストが突入するまであと10秒。
☆
真由美の独演会が終了するとともにテロが開始され、一高内は混乱の最中にあった。
そんな渦中を散発的に会敵するテロリストを蹴散らしつつ、司波兄妹は駆け抜ける。
「お兄様。一高の防衛に加わるのは良いのですが、防衛と撃退はどちらを優先すればよろしいですか?」
「どちらでもいい、そんなことより重要なことを確かめたい」
深雪は兄の言い草に目を丸くした。
深雪の知る限り、兄は常識人だ。
なんなら兄にとっての常識が深雪にとっての常識だ。
そんな兄が、一般に無法者のテロリストをさて置くなど、どんな理由があるというのか。
「艶夜の動向だ」
校内でテロ事件が起きるという非常事態に対し、艶夜は真っ先に講堂を飛び出した。
美月を置き去りにして。
身の安全を考えれば、講堂は警備にあたる風紀委員もいる安全地帯だ。おそらく避難場所として校内の生徒たちが集まってくることを考えても、これ以上の場所は無いだろう。
だが、実の姉の傍に居てやらないのはどういう訳か?
愛する妹をわざわざ危険な屋外に連れ出した達也がとやかく言えることではないのだが、それは達也の傍が絶対の安全地帯であるという自負と、そして妹から目を離したくないというエゴによるもの。
『精霊の目』で見守っていれば傍を離れてもいい、などと達也は思わないし、あれほど美月を気にかけている艶夜も同じだろう。
それでもなお飛び出して行ったのは、七草の探知魔法師としての役割があるからだ。
「この騒動を踏み絵にすれば、艶夜の中で七草家と美月のどちらが優先か、自分の立場と個人的な感情のどちらを優先するかがわかるはずだ」
昨日の朝、互いの姉と妹のために行動する限り不利益になることはしないと約束したことが、どこまで信用できるのか。
その答え如何によっては、達也は決断しなければならない。
☆
「どうして艶夜ちゃんまでテロリストのアジトに乗り込む必要があるの!」
「どうしてもなにも、敵の殲滅を確認するためですよ。しっかり息の根止めて根こそぎ排除しないと安心できないじゃないですか」
「だからって、わざわざ危険な場所に行くことはないでしょう。十文字君だって言ってたじゃない、下手をすれば命に関わるって」
「そんな危険な場所に達也くんたちをけしかけておいて、自分だけのうのうと報告を待つだなんてありえないですよ」
達也にとって想定外だったのは、踏み絵を強いるまでもなく艶夜と真由美が押し問答をはじめたことだ。
校内の敵を片づけ、ブランシュの拠点に乗り込もうという話になったところで、艶夜がその拠点の情報を達也に提供した。
本人曰く、校内で大手を振って活動しはじめた有志同盟から非常にきな臭い感情のうねりを感じた己の探知魔法を信じ、彼らを放課後もマーキングしたところ発見した拠点の一つらしい。
―――この場では明さなかったが、艶夜は中継拠点で接触した人物らにマーキングを移して元を辿り、辿り、辿りを繰り返してブランシュの拠点を丸裸にしていた。
その全てに七草の監視をつけ、さらに今日の騒動で乗り込んで来たテロリストを対象とした探知魔法の反応から、実行部隊に指示を飛ばすリーダーの方角を特定。該当する拠点は一つだったため、そこが本丸と断定したのだ。
おかげで有志同盟のために徹夜していたのが二徹確定となったが、大元を断つためなら必要経費だろう。
そこまでは良かった。
問題が起きたらのはその直後。突入メンバーに艶夜が志願し、真由美がこれに猛反対。
両者の間で押し問答になった。
「大体そんなに強くもないのに、火事場に首を突っ込んだって達也君たちの足を引っ張るだけでしょう!」
「私が動きに気づくのが遅れたせいで、七草家の戦力もロクに投入できない状態なんですよ。その尻拭いを友人たちにやらせる訳にはいきません」
「そんなの艶夜ちゃんの責任じゃないわ!」
こちらの意図を悟られないためには都合がいいことだが、一体何が艶夜をそこまで駆り立てるのか。
その理由次第で対応を変えねばならない達也は口を挟むこともなく、この状況を静観していた。
やがて、艶夜がわずかに声のトーンを落とす。
「十文字殿は、ブランシュの拠点に乗り込むと言っています。この学校に七草と十文字が居て、七草は主犯を捕らえるために動かなかった、などと言われては真由美さんの立場が悪くなるんです」
「じゃあ、私が」
「この状況で生徒会長が不在になるのは不味いですよ」
「七草、お前はダメだ」
「十文字君まで!」
「真由美さん、聞いてください。
私の役割は真由美さんの『目』になることです。一体誰が真由美さんを傷つけようとしたか、どうして真由美さんの居るこの学校を害そうとしたのか、それをこの目で確かめないといけません。
行かせてください。必ず無事に戻りますから」
「艶夜ちゃん……」
その目は決意に満ちていた。
今まで艶夜の参戦を懐疑的に見ていたエリカや摩利、深雪でさえ艶夜が示した姿勢に好意的な―――あるいは好戦的な笑みを浮かべるほど。
(柴田艶夜、やはりお前は深雪の敵なのか……)
そして司波達也にとって、七草への忠誠心を声高らかにする宣言は、宿敵宣言に等しかった。
細まる達也の視線を背中に受けながら、しかしそれを感知しているだろう艶夜は、真由美とまっすぐ目線を合わせたまま微動だにしない。
そうして、艶夜の覚悟を受け止めたのだろう。
真由美はわずかに膝を折るようにして目線の高さを合わせると、艶夜の両肩に手を置いた。
真由美が口をひらく。
目の前の小さな後輩の主人としての厳かさで。
あるいは、背伸びをした妹を見守る姉のような優しさで。
「で、本音は?」
「ずっと前から考えてた1度は言ってみたいセリフだったんですけど、いまの超格好よくなかったですか!?」
達也は艶夜を置いて行った。
使命感や義務感で火事場に飛び込む?
そんなことするほど給料貰ってないでしょ。な、柴田艶夜でした。
にもかかわらず艶夜がおかしなことを口走った理由は概ね以下の通りです。
① ここ数日の徹夜でテンションがアッパー状態だった
② 七草のお抱えとしての役割があるので、真由美に止められ、達也に見捨てられるというアリバイが欲しかった
③ 達也が想像以上に覚悟ガンギマリで殺意マシマシだったので、敵の撃ち漏らしが出る心配がない
このうち、①と②に関しては真由美さんも承知の上でした。
真面目なことを言うだけですぐに茶番だと理解してくれる上司、理想的な職場環境ですね。
テロリストに対する殺意の高さだけは素面ですが。
そんなわけで、艶夜は立場より私情を優先するシスコンでした。
気の合う友達ができてよかったね、達也くん!
その後の生徒会室にて
真「今年の一年生は優秀ね。はんぞーくんから見てどうかしら?」
服「司波達也はともかく、司波さんと柴田は今後生徒会に必要な人材でしょう」
真「え?」
摩「え?」
鈴「え?」
服「……えっ?」
はんぞーくんから見た柴田艶夜は、ちょうどふざけているタイミングで意識が朦朧としていたり、昼食は一緒でなかったり、現場にいなかったりするのでサボり癖を除けばマイナスの要素が少ない。
そのため、入学早々真由美の使いっ走りとしてあちこちを飛び回る有能な探知魔法師と思っています。
だから勘違いタグが、必要だったんですね。
実は服部をオチに持ってくることははじめから決めていて、だから入学編①は服部視点で始めたんですが、問題点がひとつ。
真面目な文章書くの疲れたあぁぁぁーんもおぉぉおぉ!!!