古龍になったマガイマガドは長い時を経て幻想郷で生活していましたとさ。



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ネタの供養兼リハビリ兼戦闘描写の練習用です。

ノリと勢いで戦闘描写だけを詰め込めるだけ詰め込んだので読んでて疲れるかもしれません。
めちゃくちゃな解釈をしたマガイマガドが出てきますので苦手な方はブラウザバック推奨です。


紛い物の龍が幻想入りするそうです

 

 

 

 空を赤い霧が覆う。

 吸血鬼異変にて先代当主たる伯爵が殺されてから新たな当主として就任したレミリアが、初めて事を起こす。

 幻想郷の一員として認められるため。そして妖怪たちに『弾幕ごっこ』という娯楽をもたらす為。

 幻想郷の管理者たる八雲紫との密約の元に起こされたそれは、人も妖怪もスペルカードルールによる決闘を行うことで解決されるものだと決まっていた。

 そう終わることで幻想郷中にスペルカードルールを告知する。あらゆる物事がこの戦いの勝敗により決定できると知らしめる。天狗の一部の文屋まで巻き込んだその計画は、その初っ端からくじかれようとしていた。

 

 

 紫の炎が舞う。

 

 

 紅美鈴はただただ困惑していた。

 レミリアから異変解決のために幾人かの刺客が送り込まれてくるであろうことは聞かされていたが、それにはスペルカードルールをもって対応せよというお達しも受けていた。

 

『人間たちや博麗の巫女はそのルールに則った勝負を仕掛けてくるわ。相手の土俵で敢えて戦い、勝つことで我らの誇りと強さを知らしめるのよ』

 

 基本的に(寝ていることはあるが)仕事に熱心で真面目な美鈴は、たとえそれが苦手とする遠距離戦闘を強いられることになっても、主の命を全うしようとしていた。逆に苦手であるからこそ、万全の状態で迎撃ってやると意気込んでいたくらいである。

 

 だからその着物の男がいきなり自分に殴りかかって来た時は驚きと共に困惑することしかできなかった。話が全然違うではないか。というかこの男めちゃくちゃ強いじゃないか! と。

 

「───っ!」

 

 瞬時に気を操り強めていく。

 出鼻をくじかれた感が否めないがとりあえずそれは置いておこう。お嬢様にはスペルカードルールで戦いを挑んでくる相手にはスペルカードで応えろとしか言われていない。

 近距離の肉弾戦を挑んでくるのならそれはそれで構わない。妖怪としての全力でもって、容赦なく叩き潰してやろう。

 

「破ッッ!!」

 

 気を纏わせた正拳突きが男の体を穿つ。オーラとも称されるそれを纏った拳は見た目以上の威力とリーチを持つ。空気に弾かれるように眼前の敵は吹き飛び、そして綺麗に空中で一回転すると地面に着地する。

 手応えは確かにあった。気が未だ十分に高まってはいないとは言え、普通の人間がああもピンピンしていられるとは思えない。

 

()()()()()()()()ために確信が持てずにいたが、やはり彼は人間ではない。妖怪、もしくはそれに類する何者かだ。

 この霧にあてられて暴走した奴の一人か? いや、それにしては纏う気の量が尋常ではない。霧程度で気分が変わるような木っ端の妖怪とは訳が違う。

 

「何者ですか、不届き者め! 名を名乗りなさい!」

 

 気を込めて言を放つ。

 男はそれを受け取るとその口の端を吊り上げる。それと同時に。この辺り一面を覆う熱くもない紫の炎が更に舞い上がる。

 

「マガト。俺の名はマガトだ。腕を見るような真似をしてすまなかった。お前は俺が喰うに値する妖怪だ」

 

 少し紫がかった黒っぽい髪に青い瞳。そしてその髪の色によく似た紫に、骨のような黄色と青ざめた血の色のような線が入る派手な着物を着る彼は、そう名乗りを上げた。

 

 彼こそはマガト。その真名(まな)を《マガイ・マガド》と言う一匹の()。この時代よりもはるか昔、まだ竜が地上を闊歩し、人がそれと戦っていた時代に【()()を喰らう】モノとして恐れられた龍の生き残り。

 

 禍つ龍であり、紛い物の古龍だ。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 彼が彼と認識できるようになったのは今から遠い遠い昔のこと。再び巻き起こった人と竜の戦いにより、文明も生態系も断絶する前の時代まで遡る。

 

 元来、彼はただのマガイ・マガドであった。とある古龍によって引き起こされる【百竜夜行】に便乗し、集まってきたモンスターたちを喰らう一匹の竜であった。

 彼が他のマガイ・マガドと違ったのはより多くの竜を食べていたことと、古龍ナルハタタヒメに挑めるだけの力があったことだろう。

 

 そう。彼はホムラの里の希望たるかのハンターが【百竜ノ淵源(ひゃくりゅうのえんげん)】ナルハタタヒメと対峙していた、まさにその時に乱入したマガイ・マガドなのだ。

 

 彼は自分の身に潜む()()()に呼ばれ、二頭の古龍が子を成そうとするその場に舞い降りた。そして、果敢にもナルハタタヒメに勝負を挑んだのである。

 他の古龍ですらイブシマキヒコの養分を吸った直後のナルハタタヒメのパワーに気圧されるというのに、彼は一匹の竜でありながらがむしゃらに食らいつき、そしてナルハタタヒメの体の一部をちぎり取った。

 

 しかし彼にできたのはそこまでで、怒り心頭のナルハタタヒメを倒すことは叶わず、生存本能に従うままに撤退を選択した。食いちぎった部位の一つを口に含んだまま。

 

 異変が起きたのは彼がそれを捕食した直後だった。

 イブシマキヒコの養分を吸い取り、生涯で最大のエネルギーを蓄えていたナルハタタヒメの体は、一欠片であろうとも竜にとっては過ぎたる力だったのだ。

 

 それは新たな古龍を産み出すためのエネルギー。

 

 ナルハタタヒメやイブシマキヒコは、零れ落ちた鱗から剥ぎ取った素材だけで強固な装備をつくることが出来る。通常時でさえそんな強力な力が体に宿っているというのに、彼が喰らったのは二体の力が合わさった代物だ。

 それは竜一体を自滅させるのに十分なエネルギーを秘めていた。

 

 このままではエネルギーを抑え込めず、何れ死に至る。

 

 紫の炎を全力で噴出しても消費し切れない力の奔流。ならば同等の力をぶつけて無理矢理にでも抑え込むしかない。彼は本能が発した直感に従って更に捕食を繰り返した。

 

 竜では足りない。百竜では足りない。龍でなければこれは抑え込めない! 

 

 ナルハタタヒメと対峙したあの日から、彼は常に爆発する紫の炎を纏って各地を彷徨い、喰らった。山を越え、谷を越え、時には海を越えて大陸間を移動して。

 そうして炎王龍を、鋼龍を、幻獣を、老山龍を。

 その胃の中に蓄えて、蓄えて、しかし足りずにまた喰らう。

 

 そんな日々の中、彼が新大陸で滅尽龍ネルギガンテを見つけたのは幸運だったろう。古龍を喰らう古龍の力。それは彼に適合反応を示した。

 それまでは何を食らっても延命措置にしかならなかったというのに、ネルギガンテを喰らった直後は痛みが引いたのである。

 そこからは更に痛みを和らげるためにネルギガンテを追うようになる。

 

 古龍の生態系の中で自浄作用の役割を担うネルギガンテ。

 

 その中でも最強格の【悉くを滅ぼす】ネルギガンテを仕留めた時、彼はついに意識を取り戻した。

 ナルハタタヒメとネルギガンテの力を吸収し、進化した彼は、彼らの性質の一部を引き継いだ新たな古龍として、その瞬間に再誕したのである。

 

 

 野性はなりを潜め、知性と理性が生まれたマガイ・マガド。もはや彼はそれまでのマガイ・マガドではなくなっていた。

【百龍を喰らう】マガイ・マガドと称されるようになる彼は、絶大の力と知性を授かるとともに誇りを持った。

 

 生態系の頂点を担う古龍の中の一体であるという認識を持った彼は縄張りを持ち、不届き者を制する王として君臨した。その姿には悪鬼羅刹と謳われた頃の面影はない。

 

 

 故に、そんな態度を取る彼を他の龍が気に入るわけもなく。

 竜として生まれ、龍に成った紛い物の彼に、祖龍による鉄槌が下るのは、龍の序列を叩き込むための必然であったのかもしれない。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

(───強い。確かに彼女は強い。だがこんなもの見飽きている)

 

 

 マガトは戦いの中で紅美鈴をそう評した。

 気を操る技とその応用によって殺人的な破壊力が備わった格闘武術は確かに脅威だ。

 だがしかし、彼の長い半生の中で出会ってきた強敵たちの中には既に彼女のような手合がいた。気を自然エネルギーと捉えるなら、竜の中にも彼女と似たような戦い方をする奴がいただろう。

 彼女と彼らの違いは質量差と機動性くらいなもの。もっとも美鈴の場合は、質量がなくとも妖怪としての力が合わさっているため、総合的な実力で見れば彼ら竜よりも数段上ではあるが。

 

(しかしこれは違う。()()()()()()()()()()()()()

 

 マガトは完全に戦意を失っていた。こちらから仕掛けてきておいて何を言っているんだということは彼自身重々承知している。だからこそ、どうやってこの煮詰まった戦いを、敵の()()()()()()()()()終わらせるか考えを巡らせていた。

 

 

(っ、どうしましょうかねこの人……)

 

 

 そんなのマガトの考えなんぞ露知らず、紅美鈴はこれまでの攻防の中で冷静に眼前の敵の戦力分析を行っていた。

 

 まずもって、やはりと言うべきかマガトと名乗った彼はかなりの手練である。

 気を込めた打撃の一撃一撃を簡単に受け止めてくる。この戦いが始まったばかりとは違い、周囲から気を集め高めているのにも関わらず未だに致命打を入れられていない。

 

 硬いのだ。異様に。

 

 力を受け流されている訳では無い。こちらが繰り出す全ての攻撃を真正面から受け止めているのだ。しかしそれでもマガトにダメージがない。凄まじい防御性能である。

 

 そして更に厄介だと思われるのが、彼の手に纏われた紫の炎だ。

 直撃を貰っていないが故に威力がどの程度なのかは測りかねない。周囲に舞った火の粉も長い間残り続けているが、それだけ。

 草木を燃やすでもなく本当にただそこにあり続けている。熱もそこまて無いようで、周囲の気温上昇も感じられない。

 

 だが、妖怪としての本能があの炎を食らってはいけないと警鐘を鳴らす。触れることすら不味いと美鈴は直感していた。アレには妖怪にとっていけないものが混じっている。

 

 

(まだ余裕そうにして! 底が見えない強さね……)

 

 

 紅美鈴は攻めあぐねている。炎に当たらないように動きながら精一杯の一撃を繰り出すのだが、難なく彼は受け止めてくる。勝つビジョンが見えない。

 それでも戦い始めた手前、お嬢様の許可なく退避するのは従者としては言語道断だ。油断している今のうちにどうにかこうにかダメージを与えたい。

 

 

 二人は思案する。お互いの目的のためにこの場でどう動くべきなのかを。それは図らずも膠着状態を生み出し、あたりは一瞬静寂に包まれる。

 

 

 

 

 

「おいおいおいおい、なんだよありゃ! アレも弾幕なのか!?」

「いえ、どうやら拳と拳でぶつかってるみたい」

 

 

 だからこそ彼らの耳にその言葉が入ってきた。

 

 両者は眼前に敵を捉えながら、宙に浮かぶ2人の少女を片目で見る。

 そこには、霧の影響で凶暴になったルーミアを退けたばかりの博麗の巫女、博麗霊夢と、縄張りに侵入されたと思い込んだチルノを倒した、普通の魔法使い霧雨魔理沙が並んでいた。

 

 

 彼女たちはお互いに妖怪を押し付け合い、いがみ合いつつもいざ敵陣に乗り込もうとしていたのだが……、館の目の前で舞う紫の火の粉と、その中で繰り広げられる攻防が目に入り、果たしてここに突撃していいものか相談するためそこに留まっていたのである。

 

(好機!)

 

 マガトは彼女たちの存在を利用してこの場から離れることにした。館の中に潜んでいるであろう次なる敵を目指して。

 

「なっ!?」

 

 脱兎のごとく走り去るマガトの姿に美鈴は驚きを隠せない。

 

「なぜ逃げるんですか!!」

「博麗の巫女共が来たからだ! 人間相手にはスペルカードルールなるもので戦えと言われているが、生憎と俺はその戦い方を知らん! だから逃げる!」

 

 そういうことにしておいた。実際嘘は言っていない。彼は弾幕勝負なんてできないし、八雲紫との約定により全力で人間と戦うのは禁止されている。

 

「あとは任せたぞ紅美鈴。俺は先に行く」

「は、はあああああああ!? そっちから勝負をしかけておいてなんて身勝手な!」

 

「なんだかよく分からないけど……どっちも叩きのめせばいい感じね」

「それは勘か?」

「勘よ」

「そういうことならあの赤い髪の妖怪はこの魔理沙様が相手をしてやるぜ」

 

 宙に浮いていた2人が動き出す。既に辺りを包んでいた紫の炎は消えているため、彼女たちは簡単にこの門を突破できるだろう。

 

「そらどうした門番! 侵入者が増えてくぞ?」

「あぁもう!! すみません咲夜さんあとは任せます! ……絶対後で一発ぶん殴りますからね!」

「やれるものならな!」

 

 体良く押し付けられてしまった美鈴はため息をつきながらも意識を切り替える。

 弾幕バトルの音を聞きながら、マガトは塀を乗り越えて紅魔館へと侵入する。彼の目的はただ一つ。より強い者と戦うこと。

 物理法則に囚われない超能力を持つ敵を打ち倒すことで、祖龍をも超える力を身につける。

 

 彼は今それを果たすためだけに幻想郷にいる。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 ”それ”はこれまで出会った全ての生命の、何れにも該当しない存在だった。

 風を操る者はいた。炎を操る者もいた。雲を、雨を、雷を、氷を、溶岩を、山を、鉄を、火薬を、岩を、山を、海を、砂漠を、病を、死骸を、毒を、血を、地殻の力を。

 津波に例えられる奴がいた。地震に例えられる奴がいた。噴火や雪崩、或いは彗星のような自然災害として揶揄される奴はいた。

 

 だが”それ”以外の全ての生物は自然を拠り所にしていた。この星に生きる物として、この星にしか存在しない自然現象を操り、その権化として君臨していたのが彼らだ。

 

 ”それ”が操る物は未知だった。

 

 超常現象。

 

 そう言葉にするしかない事象が今目の前で起こっている。

 理解が及ばないその力はこの身と共に空間さえも震えさせる。

 

 空に亀裂が走った。

 

 現れるのは青い異空間。円状に開かれたその中心で白き竜が悠々と飛んでいる。

 全てを飲み込んでしまいそうなその白き鱗は、まだ戦ってもいない彼に恐怖を刻み込む。

 否応なく炎が溢れ、風が舞い、皮膚は硬さを持っていく。それは一介の生物なら難なく屠る凶器であり、傷をつけることも叶わない防具でもあるはずなのに、その瞬間においては紙切れのように頼りなかった。

 

 足りない。これでは”アレ”に勝つことなど不可能だ。

 だが逃げることも叶わない。獲物を逃がさんとばかりに轟く赤と白の稲妻が彼の逃走を阻む。

 

 そしてその不気味なまでの白さを持った巨龍が大地に舞い降りる。

 

 

「───ガアアアアアアアア!!!!!」

 

 

 先制攻撃は当然こちらから。着地の不自由を狙う必殺の攻撃。それが最もこの敵を屠る可能性が高いのだと彼は瞬時に理解した。

 故に放つのは渾身の一撃。

 ネルギガンテの硬さと鋭さを持った彼の尾に、ナルハタタヒメの稲妻、イブシマキヒコの嵐、そして爆発力のある紫の炎まで纏われた全力全開の一撃。

 彼のその突きは、大砲のような爆発力を伴って放たれた。

 

 衝撃だけでも大地は抉れ、草木は吹き飛ばされるその技は、確かに眼前の敵を殺すために放たれ、そしてその胴体を捉えたはずだった。

 

 

『五月蝿い』

 

 

 だが、その雷撃、暴風、爆炎を伴っても、その存在には全く通用しない。怯みもせず微動だにしないそれは、軽く腕を振るうだけで自身が生み出した暴力の奔流を霧散させ、その勢いのまま体を吹き飛ばした。

 

「グガ……ッ!?」

『なるほどなるほど。よく喚く。その力の大きさを持ってすれば確かに、この一帯の長を務められるに足るだろう。他の龍が何故お前に敗れたのかよく分かった』

 

 悠然とその白き巨体はこちらに向かって歩を進める。

 先程の一撃で既に動けない彼に抗う術はない。”それ”は彼の体の前で腰を下ろし、見下しながら語る。

 

『竜から龍に成った紛い物よ。私はお前を認めよう。お前はきっと行き過ぎた自浄作用を修正する存在。あの大食漢が産まれ落ちた時からこうなるのは必然であったのであろうな。故に───』

 

 

 その腕が振り下ろされる。横たわるこの身に躊躇なく突き刺さる。堰を切ったように体の血が体外へと流れ出る。

 だがこれで死ぬことは無い。彼には数多の滅尽龍を喰らうことて獲得した再生能力があった。しかしそれでも恐怖を刻み込むには十分であった。

 

『───龍の序列というものを教えてやらねばならぬ。新しき龍よ。その意識に、身体に、我ら祖龍の存在を刻み付けるがいい』

 

 その存在に屈する他なかった。

 百竜を喰らい、百龍ですら返り討ちにしたそのマガイ・マガドは初めて自らの意思で他の生物に屈服することを選んだ。

 

 それからの幾星霜。彼はずっとこの恐怖に苛まれることになる。名前すら呼んではいけない。龍の中の龍。力ある龍であるが故に、想像を絶する程に分厚い壁の存在を彼は知った。

 

 時のハンターならその祖龍のことをこう呼んだだろう。【歴戦王】と。

 その日彼が出会ったのは人間の前には決して現れることの無い■■■■■■。

 古龍の中でも歴戦の猛者でしかお目にかかることの出来ない、絶対を示す存在。そんなものに龍になって数十年の彼がかなう筈もなかった。

 

 

 ────え。

 

 

 今は負けを認めるしかなかった。這いつくばってでも生きなければいけなかった。

 

 

 ──た──え。

 

 

 それでも彼は完全には屈しない。いつか”絶対”を打ち破ることを諦めない。

 

 

 ───戦え。

 

 

 身の内に宿る闘争本能がそう叫ぶのだ。奴を倒せと。今は心も体も恐怖に縛られようとも、長い時間をかけてそれに打ち勝ち叛逆してみせろと。

 

 

 ───戦え! 

 

 

 いつだって彼はそうだった。

 百竜を狩る時も、ナルハタタヒメに挑んだ時も、龍を喰らう時も、彼は己の身に宿る何者かの声に従ってきた。

 だからこれからもそうしよう。いつか白き歴戦なる祖龍を己が牙で屠り、その力を我が物とするのだ。

 

 

 

 だから今はただ強くなるために、闘争のための闘争を続けよう。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

(感じる。超常なる力の流れを)

 

 

 紅魔館に侵入したマガトは館の扉を開けるなり、この異界の存在を感じ取った。いや、観察力のある人間なら誰でも分かることではあるが。

 

 広すぎる。

 

 館の外観からは想像もつかないほどに広大な空間がそこには広がっていた。玄関からすぐの部屋ということでここはエントランスなのであろうが、いくらなんでも天井が高すぎる。

 廊下の幅も外から見た紅魔館の横幅3分の1程度の長さを持っているように思える。そこに各部屋に通じる扉が並んでいるのだから、これと似たような広さを持つ部屋があるのは想像にかたくない。

 館内に何者かの力が働いているのは明らかだろう。

 

 

(来たか?)

 

 

 そしてその力の源であろう少女の存在をマガトは知覚する。

 先程まで誰もいなかったエントランス。2階へと繋がる階段もあるこの部屋は吹き抜けになっており、上階から玄関を見下ろす事が出来る。

 その階段を登った先に彼女はいた。

 

 

 銀の髪に少し明るい紺色の瞳。そしてその瞳の色と同じメイド服を着たその少女は、その瞳にマガトを捉えるとゆっくりと階段を降りてくる。

 

 

「人げ───」

 

 

 人間か? 

 そう問う暇もなく銀のナイフが顔面目掛けて飛来する。メイドが消えるのと同時に、空中にいきなり出現したそれに、流石のマガトも驚きを隠せない。

 

 

「挨拶もなしとは……やってくれるな」

 

 

 ついこの状態で出せる限界の速度で避けてしまった。先程まで漂わせていた強者としての余裕は何処へやら。完全に出鼻をくじかれた。少し恥ずかしいな、とマガトは思った。

 

 

(まぁどうでもいいことか。強ければ強いほど学びがいがあると言うもんだ)

 

 

 油断を捨て去り敵を見据える。それまでの一瞬メイドは攻撃をしてこなかった。どうやら余裕綽々のその態度が気に入らなかっただけらしい。

 改めて戦う姿勢になったマガトに彼女は名を告げる。

 

 

「私は十六夜咲夜。この紅魔館のメイド長を務めているわ」

「マガトだ。人間が随分と面白い力を使うじゃないか。動きが全く捉えられなかった。どんな手品だ?」

「答える義理はありません。どの道貴方は私に勝てない」

「やれるもんならやって───」

 

 みろ。

 そう宣言し終える前に咲夜が姿を消す。そして、やはり同時に眼前に無数の銀のナイフが出現した。

 

(またいきなりかよ!)

 

 今度は体を通す隙もない。先程のように超スピードに任せて切り抜けることは不可能だ。このままではナイフは容易く自身の体を貫くだろう。

 

「───そらッ!」

 

 そう判断した彼は、イブシマキヒコを元とする風を操る権能を解放した。

 自信を中心として吹き荒れる旋風は、容易く銀のナイフを吹き飛ばす。全周囲に放たれたそれの勢いは留まることを知らず、ナイフを投げたあとマガトの後ろを取っていた咲夜すらも呑み込む。

 

「なんて風!」

 

 だがそれで簡単にやられる咲夜ではない。彼女は自身の時間を操る程度の能力を発動し、自分以外の全ての時を停止させる。この時間停止から逃れるられる物体は存在しない。それはマガトも吹この攻撃例外ではなかった。

 

「この空間すらも支配する力がある限り、私に負けはありえない。このナイフでサボテンみたいにしてあげる」

 

 マガトの攻撃から逃れた彼女は再度マガトの周囲を囲むようにナイフを展開させる。普通ナイフの投擲なんて鍛えれば誰でもできるが、彼女の能力と合わさることで絶大な殺傷性を持つに至った。しかも、シンプルであるが故に簡単に繰り返す事が出来る。

 

「貴方がどれだけ耐えきれるか。見物ね」

 

 美鈴とマガトの戦いを咲夜が見ていなかった訳ではない。彼はきっとあの門番よりも遥かな高みにいるのだろう。

 だがいくら強くともこちらに攻撃を当てられなければ意味が無い。咲夜の能力であれば彼の放つ技の全てを避けきることなぞ容易いだろう。しかも、時間停止状態なら咲夜自身は一方的に攻撃できる。負けることなどありえない。

 

 時は動き出す。

 

「───チッ!」

 

 再び眼前に現れる無数の刃。マガトはこれで咲夜の能力の全容を凡そ掴むことができたが、避ける手段がなかった。

 先程の風の放出はそう連発できるものでは無い。風と雷を操る力は生来のものでないが故に、発動までにそれなりの集中力と時間が必要であった。

 

(間に合うか?)

 

 このままでは受けきれない。だから彼は次の手を切ることにしたのだが……紛い物の龍であるがためにその権能は他の龍と比べて性能が劣るものであった。

 要は時間がかかる。しかし彼に取れる手段は他になく、実行に移す他になかった。

 

 そして刃は彼の体に突き刺さる。

 

 

 どさり、とマガトの体は倒れ伏した。

 

 

「……こんなものかしらね。はやく片付けなくては、博麗の巫女が来ちゃうわ」

 

 

 その光景を見て咲夜は勝ちを確信した。

 次なる敵の来訪に備え、時空間を停止させて散らばったナイフの回収を始める。彼女以外の者から見れば紅魔館のエントランスは一瞬で綺麗になったかのように見えるのだろうが、裏ではこうして彼女の丁寧な作業が行われているのである。

 

 

(さて……これはどうしようかしら)

 

 

 壁に刺さったナイフを粗方回収し、咲夜は倒れた敵の亡骸を見下ろしていた。多分コイツは妖怪だろう。であるならばお嬢様にお出しすることは出来ないだろうし、処分するにしても時間がかかるだろう。

 はてさてどうしたものか。そう思案して、気づく。

 

 

(血が……全く流れ出ていない?)

 

 

 ナイフによって針のむしろのような状態であるにも関わらず、床には血の一滴もこぼれ落ちていないのだ。それどころか彼の着る衣類には血の滲んだ跡すらない。

 確かに彼が倒れたのを確認して直ぐに時間を止めたが、いくらなんでもこれはありえない。

 

 

 危険を察知した彼女はすぐさまマガトから距離を取り、時間停止を解いた。するとどうだろうか。彼の体は蠢き、形を変えていく。

 

 がき、ごき、ぐちょ、ばき、がぎ。

 

 内臓が、筋肉が、骨が胎動する音が聞こえる。

 マガトの肉体は人間のそれから形状を変え、少しずつ巨大化していく。全体的に太く大きく変わっていく中で、腕の変貌の仕方は特に特徴的だった。

 

 着物の裾を切り裂いて、内側から刃のような骨のようなものが露出したかと思えば、皮膚の色は次第に紫変わっていく。

 そしてその皮膚は次第に硬さをもち始め、並々の突起を作り出すと、そこは骨のような白に変色した。

 5本あった指は4本に変わり、犬のような猫のような形状へと変化していく。

 

 二足歩行状態であるものの、それの姿は獣のようで、まさに怪物と人間の中間のような状態であった。

 

 

「待たせてすまんな。第2ラウンドだ」

「その前に、その悪趣味な変身は何か聞いても?」

「あぁ、元々人間の姿が擬態だよ。これは元の姿へと戻る途上の姿。他の奴らは霧のように霧散して直ぐに戻れるというのだが、どうにも俺は苦手でな。こうして段階を踏まなければいけないし、時間もかかる」

「……貴方みたいなのがまだいるのね」

「世界は広い。俺がお前のような能力を持つ人間を知らなかったように、お前が知らないだけで存在する生物は無数にいる」

 

 言いながらマガトは立ち上がる。それと同時に彼に突き刺さっていたと思っていた銀のナイフが全て床に散らばってしまった。実際の所は彼に何一つとして効いていなかったのだ。

 

「全力じゃなかったということ?」

「あの姿では全力だった。でも俺の力の全てじゃない」

 

 腕から紫の炎が吹き出る。凄まじい勢いを持ったそれの威力が尋常ではないことを咲夜は直ぐに理解した。ならば放たれる前に動くのみ。

 時を止める。そして思考する。どうすれば眼前の敵を退けられるかを。

 この銀ナイフは妖怪すら切り刻めるというのに、彼にはまるで効いていないようであった。彼女の武装はこれしかない。となるともう倒すことは不可能だ。

 

(時間稼ぎに徹する? いずれここにも博麗の巫女が来るはず。これは彼女を避けていた節があるし……)

 

 お嬢様やその友人のパチュリーを頼るという選択肢は彼女にはなかった。そんなことをすれば従者の名折れである。故に彼女は敵を利用することにした。

 

 牽制に銀ナイフを投擲し、時を動かす。

 

 博麗の巫女の到着を待つ以上時間は進ませねばならない。できるだけ時間を止めずに耐えることができるかの勝負になっていた。

 

「これで終わりだ」

 

 もっとも、マガトはそんな勝負すら挑ませてくれないが。

 

 彼はもう突然現れるナイフに驚きはしない。ただそれまでに行っていた動作を続けるだけだ。

 手から、足から、人間より少し大きな体躯から紫の炎の爆発が起こった。

 

「!!」

 

 全方位に放たれたそれに人間が投擲しただけのナイフなど無力だ。だがしかし咲夜には当たらない。時を止められるということは光よりもはやく彼女は動く。爆発の閃光を見た瞬間、時を止めた彼女は爆発範囲の外に逃げ時を動かした。

 

「何がこれで終わりだ、ですか。まだまだ付き合ってもらいますよ」

「いいや終わりさ。もう時を止めても逃れられない」

「何を馬鹿なことを」

「こういうのをチェックメイトって言うんだぜ。メイドさん」

 

 そう言って彼は指を鳴らす。彼の一挙手一投足も見逃さずに警戒する咲夜は、それが次なる攻撃の合図だと見込んで音が鳴った直後、コチラに届くか届かないかの絶妙なタイミングで時を止めた。常人ならざる技である。

 

 だがしかし、止まった時の世界で彼の攻撃らしきものは見当たらない。念の為、彼の死角で彼から遠い位置へと移動してから時を動かした。

 

 その直後、エントランス全体が爆発した。

 爆心地はマガト本人ではない。マガトを中心とした円を描くように床が爆散し───。

 

 

「がふっ……!!?」

 

 

 ───そして同時に、咲夜の体も爆発した。

 

 衝撃によって彼女の体は宙へ浮く。一体何が起こったのか。それを確認できぬまま次なる衝撃によって彼女の頭は揺さぶられた。

 

 思考が回復し、咲夜が能力を使う前に、マガトが彼女に超スピードで近づいて彼女の頭を鷲掴みにしたのだ。

 

 

「やはりな。時を止めてもお前の干渉を受ける物体は動くらしい」

「な、にを……!」

「最初の爆発でお前に纏わせた俺の【鬼火】は、止まった時の中でもまとわりついて離れなかった。それが爆発したのさ」

 

 彼の【鬼火】には普通の火にあるような熱さは無い。故に彼の火の粉に被爆した者は己の身から燃え盛る紫の火を見ることでしか、彼の【鬼火】に晒されていることに気がつけない。

 時の止まった世界で見つけるのは難しいだろう。なんせ火も止まってしまっているのだから。

 

「なるほど……、ですがだからと言ってこれで終わるわけではない!」

「終わりだよ。何をしても───」

 

 

 時を止める。掴み上げられているが手は自由だ。懐に向かって銀ナイフを刺し込む。今度は確かに体を貫いた。

 投擲ではダメだったが直接なら通るようだ。まだ勝負が終わった訳では無い。この拘束は力が強すぎて解けそうにもないが、時が動き出せばいくらでも逃げるチャンスがあるだろう。

 そんな確信を持って彼女は能力を解除する。しかし。

 

 

「───いいが、無駄に終わるだけだぜ。ほら」

 

 

 手の力は緩まれない。彼は痛みに悶えなどしない。そして突き刺したはずのナイフは、急速に再生していく彼の肌に押し出される形で地面に落ちた。

 

 勝てない。

 

 そう気付かされた咲夜はただ脱力する他なかった。

 真剣勝負に負けてこの状況。後は彼が腕に力を入れて終わりだろう。頭を掴んで離さないのに痛みがないことから、彼が手加減してこれだけの腕力を誇っていることは咲夜にはすぐ分かっていた。

 

 

「あぁ、安心しろよ殺しはしない。俺はお前の能力が知れればそれでいいんだ。だからさ、そう睨むなよなお嬢さん」

 

 

 だが、どうやら既のところで助けられたらしい。冷たい冷気が咲夜の肌を走る。

 

 

「お嬢様……申し訳、ありません」

 

「いいえよく働いたわ咲夜。待ってなさい、今そこの下郎をぶっ倒して助けてあげる」

 

「だから殺らねぇって言ってるだろ」

 

「それを信用できるとでも???」

 

「八雲との約束だぞ。守るに決まってるだろうが」

 

「もっと信用できなくなった」

 

「……やっぱり普段から胡散臭すぎるぜ、八雲よ。全然信頼されてないじゃないか」

 

 

 吸血鬼と怨虎龍が相うつ。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 第二次竜大戦とも言える竜と人間の絶滅戦争が終わり、竜は一部の龍を残して殆どが死滅。人間も文明レベルをいくつも後退せざるを得ない大打撃を受け、この星の生態系は一度リセットされた。

 

 そんな戦いを辛くも生き残ったマガトは幾千幾万の時を独りで過ごすことになった。生き残った竜を喰らいながら。

 マガトは元々百竜を喰らわねば生きていけない大食漢。戦での消耗の回復の為、エネルギーが必要になるのは仕方の無い事だった。

 そしてそんな状態なのはどこの竜も龍も同じだった。そして引き起こるモンスター同士の生存競争。

 結果、竜は龍によって完全にこの世界から存在を消す形となった。

 

 マガトを含めた龍たちは己を生かす餌が消失したことを直感すると、蓄えたエネルギーの消耗を抑えるために永い永い眠りにつくことになる。

 

 生態系から姿を消し、人々の世代交代によってその存在は忘れ去られ、竜の因子の一部を持つ生物が誕生し、惑星の氷河期で死滅して───。

 

 そうして竜大戦以前の人間の祖先が、地上の覇者としてのさばり出すようになる頃に、マガトは目覚めた。エネルギーが底をついたのだ。

 

「腹が減った……。……あれはなんだ?」

 

 餌を求めて歩き出したマガトは直ぐに彼らと出会った。

 どことなく竜の因子を感じる生命体、妖怪に。

 

 

「コイツは……喰える」

 

 

 それは龍の新たなエネルギー源にたる存在だった。故に彼は各地の妖怪を殺して回り始める。

 

 結果、自らの生存のための活動が人間の知るところとなった。

 都では退治屋マガトとして名の知れた存在になった頃、舞い込んだ妖怪退治の依頼で八雲紫と出会うことになるのである。

 

 

「貴方が噂の退治屋さん? 不思議な炎で妖怪を跡形もなく消し炭にしてしまうとか」

 

「どうやらそれが俺らしい。俺の炎にそれほどの威力は無いんだがな」

 

「ふふっ、変な退治屋ね」

 

「そうか?」

 

「人間ならこの私を前にしてそんな堂々としてられないわよ」

 

 

 紫はその知謀をもって成り上がった大妖怪だが、それでも雑魚妖怪とは比べられないほどの力をその身に宿している。

 人間にとっては何十人もの戦士を用意してようやく倒せるような相手。そんな者を前にしてこの男の態度はなんだ? 

 恐れを感じない。人間ならば紫の殺気を浴びせただけでそれなりに反応を示すものだがこの男にはそれがない。

 自身の能力に絶対の自信があるからこうしていられるのだろうか。自ら自身の能力について語ったところからも自信があるのは感じられる。

 

 でもこの視線の感触はそれとは違うと訴える。調子に乗っている者は確かにこちらを舐めて見ているが、それと同時に自分の力を見せびらかしたいという、顕示欲も持っているものだ。

 

 この男の眼差しはそれとは違う。純粋に、八雲紫を前にしてその気配からある程度の実力を把握した上で見下している。

 

 

「人間ならば、そうだろう」

「やっぱり人間じゃないの? でも妖怪にしては恐れを感じさせないのよね。妖精とも違うようだし」

「妖怪でも妖精でもねぇよ。俺は龍だ。この姿じゃ分からねぇかなァ!」

 

 

 瞬間、この森から一斉に鳥たちが飛び立った。静かな夜の森の中は逃げ惑う足音の騒音で包まれる。危険を察知したのだろう。この男に近づけば死ぬと直感したのだろう。

 

 ばき、ごき、ぐちゃ、ぐちょ。

 

 そんな音とともに男の骨格が変わっていく。手足が太くなり、肩が隆起する。上半身はどんどん膨れ上がり二足歩行では最早保てない。

 色が変わる。鱗のような硬いいくつもの突起物が背中を覆う。

 顔は人間のそれから虎のような、しかし虎にはない角と牙を持つ化け物のものへと変わっていく。

 何かが背中から飛び出した。尾だろうか。槍のような刃先を持つそれが躍動すると、紫の炎を持った旋風がその化け物を包み、そして。

 

 

「グガアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 咆哮と共にその龍は姿を現した。

 こんな体積を持つものが人間の姿を保っていたとは到底信じられないが、彼は確かに龍だった。

 

 

『妖怪相手にこの姿を見せるのは初めてだ。だが、お前から感じるその力は確かに長たる者のものだ。故に、本気で相手をしよう』

 

 

 鋭さを持った瞳がこちらを射抜く。震えが全身を走った。

 確かにこれは、大妖怪を前にして怯まないわけだ。

 種として上位なのだ。龍にとって妖怪は簡単に滅ぼすことの出来る存在なのだ。先程の自尊心に満ち溢れた物言いができるのも理解出来る。

 

 しかし八雲紫は木っ端の妖怪とは違う。力だけの大妖怪とも違う。

 その知謀と能力をもってこれまで格上の妖怪に打ち勝ち、大妖怪に成った女。故にこそどんなに強大な相手を前にしても彼女は怯みはしない。

 

 

「そう。それは光栄なことね。でも残念、貴方が相手をするのは私じゃない。この子達よ!」

 

 

 強敵ならば全力をもって戦おう。

 逃げも隠れも大いにやろう。タイマンなんて以ての外。持てる力と配下を全て使ってその絶対の自信に裏打ちされた誇りを汚してやろう。

 

 

『!?』

 

 

 怨虎龍マガイマガド。その周囲を囲むように無数の”スキマ”が開く。

 これこそが八雲紫の能力。境界を操るその力はあらゆる空間を繋ぎ、彼女の配下を呼び寄せる。

 

 無数の妖怪たちが奇襲を仕掛ける。いくら龍でも多勢に無勢。その身体を覆えるほど物量差を前に彼は手も足も出せないだろう。

 反撃されたとしても大抵の攻撃は耐えられる。彼は見るからにパワー型だ。炎を操るようだがそれだけで倒れるような雑魚はここに連れてきていない。

 

 

 そう八雲紫は考えていたが、マガイマガドの考えは逆だった。

 自分の周りに密集してくれた方が彼にとっては好都合だった。

 

 

「ガウウウウウウッッッ!!」

 

 

 耳をつんざくような咆哮の後に彼の周囲が爆発する。

 尾や背や腕や口。そこから放出され舞っていた紫の火の粉が臨界点に達し連鎖的に爆発を引き起こす。

 それは周囲を取り囲んでいた妖怪たちに直撃し、その尽くを一瞬にして無力化した。

 

 

「げぅ!?」

「やめ、やめろォ! 入ってくるなぁ!」

「ぅう、うわあぁ!?」

 

「なっ、これはどういうこと!?」

 

 

 爆発にあてられ、のたうち回る紫の配下たち。

 その皮膚には焼け焦げた跡がある者こそいれど、妖怪にとっては死に至るものでは無いし、こんなにも苦しみ悶えるようなものにも見えなかった。

 

 

(これは……まさか!?)

 

 

 だが紫は瞬時に理解する。

 これは怨念だ。しかもその念の密度は紫がこれまで目にしたこともないほどのもの。憎悪に塗れ、魂もぐちゃぐちゃに混ざりあったそれは妖怪にとって最悪最凶の代物だった。

 

 正しく天敵。

 

 妖怪たちにとって自我とは命だ。それを飲み込んでしまう怨念や怨霊を彼らは嫌う。なんせ一度それに呑まれれば、自らの存在を固定が出来ずに召されるからだ。

 

 しかし普通の怨霊ならば彼らにとって敵ではない。そもそも怨霊や怨念は妖怪に敵意を向けてこない。ただただ出会いを避ければいいだけの事。

 

 だが怨念をその内に秘めた炎を操るこの龍はどうだろうか。

 明確に捕食という目的を持って妖怪を喰らう者。紫個人だけではない。妖怪という種にとってこの龍は天敵だ。

 

 すぐに消さなければならない。

 

「やりなさい、貴方たち!」

 

 配下の出し惜しみをしている場合ではない。圧倒的物量で押し潰すしか現状手段がない。

 鬼が獣がろくろ首がぬりかべが。彼女に付き従う者たちがマガイマガドに殺到する。彼はこの森の中でその巨体を器用に動かしながら、自らの尾で迎撃する。

 

『オラァ!』

 

 剣のように振るわれたそれは彼の前に立ちはだかった敵たちを吹き飛ばす。彼の尾からも火の粉が溢れ出ており、尾の衝撃も合わさって、妖怪たちは簡単に退治されてしまう。

 それでも倒れたのは前方の敵だけ。もう一方から別の集団がマガイマガドに襲いかかる。

 

『邪魔だ!』

 

 マガイマガドは2本の後ろ足で立つと、重力に身を任せてその巨体を叩きつけた。さらに身をかがめ、地面を抉るように牙を振るい、前方へと押し出る。

 

 こんなふうに後方は尾が。前方はその腕と牙で妖怪たちをなぎ倒していく。彼は集団戦が得意であった。百体の竜を喰らってきたあの時代で既に、多対一で戦う局面の方が多かった。

 積み上げられたその経験は、彼が手に入れた知性と合わさることで驚異的な力を発揮していた。

 

 

『これで終わりだ!』

(!? この陣形は不味いわ!)

 

 

 いつの間にか八雲紫の一団は直線上に並ぶ形になっていた。彼の機動力を削ごうと包囲に徹しようとした妖怪たちは、しかし彼の動きについていけず翻弄され、陣が縦に伸びるよう動かされてしまったのである。

 

 マガイマガドは尾を回す。

 次第に彼の尾は()()()()()、紫の火の粉が()()()()収束し、()()()()()()が纏われる。

 

「……っ!」

 

 

 紫はその力の収束を見て即座にスキマに退避することを選んだ。残念ながら配下を救うことは叶わないだろう。

 

 

 轟ッッッ!!! 

 

 

 その予想は現実となる。

 槍のように突き出された彼の尾は紫の雷を直線上に放った。その進路上に居たものたちがどうなったのかは語るまでもないだろう。

 そして光だけではない。光を中心として渦のように烈風が舞う。そしてその風に乗って彼の鬼火が森に撒き散らされる。

 

 

「グガアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

 

 咆哮と共に彼の目の前にあった全てのものは爆散した。妖怪ごと地面をえぐり、木々を撒き散らしたその場には、ただただ荒れ果てた光景が広がるのみで。

 

 

 そこにスキマが開く。

 

 

 残ったのは八雲紫ただ一人だった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 吸血鬼と怨虎龍の激突。

 

 逃れられないと思われたそれはしかしてひとつのスキマによって防がれた。

 

 

「はい、ストップ!」

 

 

「八雲紫……!」

 

「おいおいこれからがいい所なのによ」

 

 

 現れる幻想郷の管理者。大事なメイドをボコボコにされて怒り心頭のレミリアと、強敵との対決を邪魔されたマガトは同時に彼女を睨んだ。

 

 

「ダメよ、おしまい! 2人とも約束は守って頂戴!」

 

 

 しかしそれでも彼女は怯まない。このままレミリアがマガトに倒されてしまうと非常に困るのだ。

 彼女では彼には勝てない。彼にとって彼女は龍の姿で戦うに足る存在では無いのだ。少なくとも今の時点では。でなければ対峙した瞬間に変身している。

 

 

「約束は守るさ。博麗霊夢とはスペルカードで戦おう。だがコイツは……ッ!」

「貴方の気持ちもわかるけどここは押えてちょうだい。この人の炎は私たちにとって危険なものなのよ」

 

 

 確かにレミリアは強いが、結局は妖怪の一種。彼の炎が天敵であることには変わりがなく、彼がその気になればその魂ごと焼き尽くされてしまう。

 そして、彼はその気だった。

 

 

「それにマガト! 貴方はここでは人殺しも妖怪退治もダメだって言ったじゃない!」

「……はいはい。悪かったよ。威勢のいい殺気を浴びちまったもんだからつい、な?」

「もっともっとここには沢山の者たちが来るわ。貴方の戦いたい相手と会う前に追い出されたい気?」

「悪かったって」

 

 

 あの初めての邂逅から幾度の時が流れて紫とマガトの間にはあるひとつの約束が結ばれていた。

 

 

『お前の能力を見て思い出した奴がいる。……俺はそいつに勝ちたい』

 

 

 出会うことも難しい幻の祖龍。しかしそれが忘れ去られた存在であるならば、幻想郷で巡り会うことができるかもしれない。

 

 

『妖怪にはお前みたいな奴らがいるんだろう? 俺はそいつらと戦って戦って……アイツより強くなりてぇ』

 

 

 だから彼は紫に従った。

 ひとつ、人間を殺さないこと。

 ひとつ、妖怪を殺さないこと。

 ひとつ、自由な戦闘を認めること。

 ひとつ、幻想郷の運営に協力すること。

 

 

 龍たるマガイマガドは幻想郷にて爪を研ぐ。

 ここに蔓延る妖怪、魔人、神すら倒して祖龍を討ち取る。

 それこそが彼に喰われた竜たちの、龍たちの願い。

 この身から溢れ出る鬼火に宿る魂たちは支配者への叛逆を望んでいた。

 

 

 

 

 






つべこべ言わずに詰め込めぇ!



人物紹介

マガト(怨虎龍マガイマガド)
ナルハタタヒメにかぶりつき古龍になった奴。マガトは人間態ネーム。
禍つ竜が紛い物の龍になった。

彼の炎にはこれまで食われてきた龍や竜の魂が篭っている。
百竜夜行を起こしたナルハタタヒメに挑んだのは、彼ら古龍夫妻によって住処を追われた竜たちの復讐の念に作用されたためらしい。

今回は祖龍に支配された龍たちの屈辱の念に駆られて、自分を理解らせてきた祖龍への叛逆を望んでいる。
幻想郷に住み込んでいるのは現代では見つけづらい祖龍さんの到来を待ちつつ修行するため。紫をはじめとした竜にはなかった能力持ちと戦うのは結構楽しいらしい。できれば彼らからそういう力の手ほどきを受けたいと思っている。

ナルハタタヒメとイブシマキヒコ、ネルギガンテの力を受け継いでおり、鬼火の他に暴風や雷を操り、驚異的な再生力も擁している。
本気を出すと元々骨のような黄色をしていた部分が黒く染まり固くなる。これはネルギガンテの棘と同じくらいの硬度を持つ。

3つの力を合わさったことで、それまで放射状に炎を出すだけであった尻尾の溜め突きが、直線上に極太ビームを繰り出す技に進化した。

幻想郷ではそれなりに古株の存在。居は妖怪山に構えている。鬼や天狗とは面識があり、仲が良い。
吸血鬼異変でかなり暴れており、紅魔館の先代頭首は彼によって殺されている。なお、現在の紅魔館メンバーでこの事実を知っているものはいない。(この作品では吸血鬼異変は原作開始から50年以上前としております)

今回殴り込んだのは前回からどれだけの力をつけたのかを調べるため。実はフランが彼にとっての天敵だったりするが、運良く遭遇することはなかったよう。


6月28日追記

硬くて鬼火を常に纏う個体が来てしまったぜ

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