進藤ヒカルと藤崎あかりの逆行物語   作:藤嶺芳樹

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第十話

 

7月。院生達はもちろん、碁のプロ棋士を目指す者達にとって一番大切な時期。

棋士採用試験の予選が始まった。

院生上位の8人は、予選免除となる。ヒカルとあかりはこれに該当しているため、参加していなかった。

 

 

(……)

 

 

惜しくも9位で免除を逃した和谷は、昼の食事の時間になっても不機嫌そうな顔をしている。そんな和谷に、同じく予選から参加のフクが声をかけた。

 

 

「和谷くんってば」

「ん……あ?」

「何考えてんの? 前半にポカでもやった?」

「やってねーよ」

 

 

フクの問いにも素っ気なく答え、また考え込んでしまう。そこに奈瀬と内田も近づいてきた。

 

 

「そんなに眉間にシワ寄せて……。大丈夫なの?」

「……大丈夫だよ。ちょっとイライラしてただけだ」

「イライラ? なんで?」

「昨日、ネット碁で負けたんだよ。それも圧倒的大差でな」

「えぇ!?」

「大差で? 和谷くんが?」

「……信じられない。相手がプロだったとか?」

「としか思えねぇよ。くそっ、ネット碁で勝って弾みをつけようと思ったのに、逆効果だったぜ」

 

 

驚く奈瀬とフク、内田を見て、和谷はため息をついた。

そして自分の心を落ち着かせながら、周りのライバル達の様子を見渡す。

その中に、見覚えのあるオカッパ頭の少年を見つけた。最後に見たのは遥か昔であったが、そのときの面影がある。自然と、声が洩れた。

 

 

「……塔矢、アキラ?」

「はい?」

 

 

名前を呼ばれたアキラは、解いていた詰碁集から顔を上げて和谷を見つめた。それと同時に、周りがざわつく。

 

 

「アイツが?」

「塔矢名人の息子が今年受けるのは知ってたけど」

「あんまり顔知られてないんだよな」

 

 

思わぬ形で注目が集まる。そんな中、フクはマイペースに話を続けた。

 

 

「ボク知ってたよ。塔矢くんだって。今日のボクの相手だもん」

「うわぁ。それはなんと言うか……」

「フクくんも、初日から運がないね」

「もう、全然かなわないよ」

 

 

奈瀬と内田が御愁傷様と言いたげに見つめる一方、和谷は泣き言を言うなとヘッドロックをフクにかける。それを見て、アキラはクスッと笑った。

 

 

「皆さんは院生ですか?」

「うん。ボクは今年が初めての受験なんだ」

「私も!」

「同じくです」

「和谷くんは3回目なんだって。ね?」

「ね? じゃねぇよ!」

 

 

再び絡む2人を見て、アキラは嬉しそうに話す。

 

 

「そうなんですね。ボクも今年が初めてで……」

「嫌みか、こんにゃろ! 最初で最後だろ、オマエの場合!」

 

 

ガルルと敵意を剥き出しにする和谷。それを奈瀬がなだめた。

 

 

「和谷、カリカリしすぎよ、いくらネット碁で負けたからって」

「ネット碁?」

「えぇ。どうやら昨日、大差で負けてしまったらしくて」

「へぇ。院生相手にそれは、かなりお強い方だったんですね」

「……。間違いなくプロだと思った……んだけどさ」

「? どうしたの?」

 

 

歯に物が挟まったような言い方の和谷に、フクが尋ねる。塔矢の前で言うことでもないことだったが、話を聞いてるのはいつものメンバーの内の3人である。自分が感じたことをそのまま話した。

 

 

「いや、何というか。……やけに定石が古いな、って思ったんだよ。今流行りの手とか打つんじゃなくて、昔からある手を打つみたいな。秀策みたいな棋風だった」

「っ!」

「へぇ。珍しいわね」

「そうなると、桑原本因坊とか?」

「いや、あの人はネットとかしないだろ」

「和谷くん、偏見ー」

 

 

和谷の言葉にアキラ以外の3人は感心するだけだが、ただ1人アキラだけが息を呑んだ。

約半年前。いつもの碁会所で出会った、2人組の少年と少女。

その内の1人の、彼の姿が脳裏に浮かんだ。

 

 

「……」

「? どうしたの、塔矢くん?」

「いや、何でもないよ」

「何だよ。変なヤツだな」

「ちょっと、和谷!」

「ご、ごめんね、塔矢くん」

 

 

和谷の態度に内田が謝るという不思議な状況だったが、午後が始まるということで話はそこで打ち切られた。

だが、アキラの中で先ほどの話はすでに確信に変わっている。

 

 

(院生相手に大差で勝利。そして秀策の棋風。……きっと君なんだろうね、進藤くん)

 

 

彼とは今年のプロ試験での再戦を約束している。

父から聞いた話ではなぜか院生になったということなので、おそらく予選免除でこの場にいないのだろう。

 

 

(本選で彼と再び闘うのが楽しみだ。自分がどれだけ成長したのかを、全力をぶつけてやる!)

 

 

そう、アキラは強く思った。

 

 

 

 

 

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