進藤ヒカルと藤崎あかりの逆行物語   作:藤嶺芳樹

39 / 39
第十話

 

7月。院生達はもちろん、碁のプロ棋士を目指す者達にとって一番大切な時期。

棋士採用試験の予選が始まった。

院生上位の8人は、予選免除となる。ヒカルとあかりはこれに該当しているため、参加していなかった。

 

 

(……)

 

 

惜しくも9位で免除を逃した和谷は、昼の食事の時間になっても不機嫌そうな顔をしている。そんな和谷に、同じく予選から参加のフクが声をかけた。

 

 

「和谷くんってば」

「ん……あ?」

「何考えてんの? 前半にポカでもやった?」

「やってねーよ」

 

 

フクの問いにも素っ気なく答え、また考え込んでしまう。そこに奈瀬と内田も近づいてきた。

 

 

「そんなに眉間にシワ寄せて……。大丈夫なの?」

「……大丈夫だよ。ちょっとイライラしてただけだ」

「イライラ? なんで?」

「昨日、ネット碁で負けたんだよ。それも圧倒的大差でな」

「えぇ!?」

「大差で? 和谷くんが?」

「……信じられない。相手がプロだったとか?」

「としか思えねぇよ。くそっ、ネット碁で勝って弾みをつけようと思ったのに、逆効果だったぜ」

 

 

驚く奈瀬とフク、内田を見て、和谷はため息をついた。

そして自分の心を落ち着かせながら、周りのライバル達の様子を見渡す。

その中に、見覚えのあるオカッパ頭の少年を見つけた。最後に見たのは遥か昔であったが、そのときの面影がある。自然と、声が洩れた。

 

 

「……塔矢、アキラ?」

「はい?」

 

 

名前を呼ばれたアキラは、解いていた詰碁集から顔を上げて和谷を見つめた。それと同時に、周りがざわつく。

 

 

「アイツが?」

「塔矢名人の息子が今年受けるのは知ってたけど」

「あんまり顔知られてないんだよな」

 

 

思わぬ形で注目が集まる。そんな中、フクはマイペースに話を続けた。

 

 

「ボク知ってたよ。塔矢くんだって。今日のボクの相手だもん」

「うわぁ。それはなんと言うか……」

「フクくんも、初日から運がないね」

「もう、全然かなわないよ」

 

 

奈瀬と内田が御愁傷様と言いたげに見つめる一方、和谷は泣き言を言うなとヘッドロックをフクにかける。それを見て、アキラはクスッと笑った。

 

 

「皆さんは院生ですか?」

「うん。ボクは今年が初めての受験なんだ」

「私も!」

「同じくです」

「和谷くんは3回目なんだって。ね?」

「ね? じゃねぇよ!」

 

 

再び絡む2人を見て、アキラは嬉しそうに話す。

 

 

「そうなんですね。ボクも今年が初めてで……」

「嫌みか、こんにゃろ! 最初で最後だろ、オマエの場合!」

 

 

ガルルと敵意を剥き出しにする和谷。それを奈瀬がなだめた。

 

 

「和谷、カリカリしすぎよ、いくらネット碁で負けたからって」

「ネット碁?」

「えぇ。どうやら昨日、大差で負けてしまったらしくて」

「へぇ。院生相手にそれは、かなりお強い方だったんですね」

「……。間違いなくプロだと思った……んだけどさ」

「? どうしたの?」

 

 

歯に物が挟まったような言い方の和谷に、フクが尋ねる。塔矢の前で言うことでもないことだったが、話を聞いてるのはいつものメンバーの内の3人である。自分が感じたことをそのまま話した。

 

 

「いや、何というか。……やけに定石が古いな、って思ったんだよ。今流行りの手とか打つんじゃなくて、昔からある手を打つみたいな。秀策みたいな棋風だった」

「っ!」

「へぇ。珍しいわね」

「そうなると、桑原本因坊とか?」

「いや、あの人はネットとかしないだろ」

「和谷くん、偏見ー」

 

 

和谷の言葉にアキラ以外の3人は感心するだけだが、ただ1人アキラだけが息を呑んだ。

約半年前。いつもの碁会所で出会った、2人組の少年と少女。

その内の1人の、彼の姿が脳裏に浮かんだ。

 

 

「……」

「? どうしたの、塔矢くん?」

「いや、何でもないよ」

「何だよ。変なヤツだな」

「ちょっと、和谷!」

「ご、ごめんね、塔矢くん」

 

 

和谷の態度に内田が謝るという不思議な状況だったが、午後が始まるということで話はそこで打ち切られた。

だが、アキラの中で先ほどの話はすでに確信に変わっている。

 

 

(院生相手に大差で勝利。そして秀策の棋風。……きっと君なんだろうね、進藤くん)

 

 

彼とは今年のプロ試験での再戦を約束している。

父から聞いた話ではなぜか院生になったということなので、おそらく予選免除でこの場にいないのだろう。

 

 

(本選で彼と再び闘うのが楽しみだ。自分がどれだけ成長したのかを、全力をぶつけてやる!)

 

 

そう、アキラは強く思った。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

逆行したヒカルと佐為が藤崎あかりを魔改造するお話(作者:そとみち)(原作:ヒカルの碁)

二十一歳の若さで本因坊タイトルを獲得した進藤ヒカルが小学二年生のころに逆行。▼再び佐為と出会い、神の一手を共に探しに行きます。▼なお藤崎あかりが二人の再会に居合わせたことでクッソ脳を焼かれて囲碁にドハマりしてアヘ顔W本因坊指導碁を受けて魔改造されてヒカルと一緒にプロを目指します。▼しばらくしたら筒井先輩も脳が焼かれます。▼塔矢アキラも脳が焼かれます。▼院生メ…


総合評価:15319/評価:8.96/連載:73話/更新日時:2026年01月30日(金) 21:00 小説情報

ヒカ碁の世界で緒方精次となったからには、打倒saiを掲げたい。(作者:くま子)(原作:ヒカルの碁)

週刊碁で、桑原本因坊と塔矢九段の総譜を見つけた時、ようやく理解した。▼ここが『ヒカルの碁』の世界なのだと。▼なるほど。同姓同名とばかり思っていたが、この幼い身体は、緒方精次その人らしい。▼神は囲碁に没頭できる第二の人生を与えてくれただけでなく、佐為と──本因坊秀策と打てる機会すら、用意してくれているようだ。▼ならば、目指すしかないな。▼ネット最強の棋士、sa…


総合評価:20874/評価:8.98/完結:14話/更新日時:2026年06月17日(水) 21:00 小説情報

【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜(作者:ペンギンって可愛いですよね)(原作:推しの子)

表紙イラスト↓▼【挿絵表示】▼世界的な名声を得た天才外科医は、数え切れない命を救った末、過労によりその生涯を終えた。▼――しかし、目を覚ますと彼は記憶を持ったまま、日本で赤ん坊として転生していた。▼二度目の人生でも迷うことなく外科医の道を選び、再び天才と呼ばれるまでに成長した彼は、都内の大学病院へ勤務することになる。▼病院の近くへ引っ越し、新たな生活を始めた…


総合評価:5623/評価:5.84/連載:69話/更新日時:2026年10月01日(木) 21:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>