転生しても戦争だった ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~ 作:ガンスリンガー中年
……と思いきや、どうにも様子がおかしいようで……
今回はイラスト皆無の硬派(?)なエピソードですw
1944年4月1日(現地時間)に行われた”ドイツの実験”は、最高レベルの軍機として一切情報が公開されない、何の発表もないままに成功裏に終わった。
無論、”核分裂反応弾”開発機関『
さて、4月1日と言えば日本では年度初めだ。
幸い……と呼んでいいのか分からないが、現状、日本皇国では戦時体制の挙国一致内閣であり、新年度予算その物はスムーズに通過した。
1939年のドイツのポーランド侵攻による”日英同盟に準ずる国家非常事態宣言”以降に10%の戦争税(消費税)が導入されて久しいが、国の現状全体もそう悪いものではない。
また、史実のように(販売は日本皇国国籍を有する者に限っているのに)戦時国債が飛ぶように売れている現状があるので、まあ軍事費の調達も相応に順調だった。
また、史実の大日本帝国→日本国の変遷のように、「戦後のハイパーインフレで戦時国債が紙屑」という悪夢はとりあえず回避できそうな国情なのが幸いだろう。
おかげで、軍事費として計上される金額は、現代風に言うなら対GDP比で10%程度、戦時下の国家としては割と健全な(国家が傾くほど無茶な軍費はしていない)数字だ。
おかげで国民健康保険と国民年金、救護法(”この世界線”では国民年金が国民健康保険導入前後に独立し、救護法対象には含まれていない)は今でも維持できている。
まあ、平時の日本皇国の軍事費が対GDP比で5%を少し下回る程度なので倍加以上はしているのではあるが。
そして現実の自衛隊との大きな違いは、(大半の国と同じく)「人件費は別会計で軍事予算には含まれていない」という事だろう。
そもそもが軍人というのは”特殊公務員”扱いなので、これも納得だ。
また、これは幸いにしてという他ないが戦死・負傷した軍人が史実よりずっと少ないため傷痍軍人援護、恩給、弔慰金などが膨れ上がり財政を圧迫するという事態には至っていない。
加えて、日本皇国本土が他国から攻撃されておらず戦災が未だ起きていないので、民間人の戦死も今のところはない。
とここまでは平和(?)だったのだが……
「領土係争状態にある東西中華、南北朝鮮半島、中国国民党政権の支配領域の自称”中華民主共和国”、中国共産党支配領域の自称”中華人民共和国”、朝鮮半島北緯38度線以南の”大韓共和国”、以北の”朝鮮人民共和国”について、今まで以上に厳格に軍公官民を問わない政治経済文化あらゆる交流を制限する。つまり皇国政府に承認された”特例”以外は、対象との一切のヒトモノカネの往来は禁ずるってことだな」
挨拶直後の新年度の方針演説で近衛首相の口から飛び出したのはそんな言葉だった。
「正確には、何も中国や朝鮮だけじゃなくて『係争状態にある地域との交流の制限厳格化』だな。しかも戦時特法や時限立法ではなく正規の法改正で」
その声はラジオだけでなく試験放送段階を越えて本放送へと至った”日本国営放送(NKH)”のテレビ放送を通じて、皇国全土に一斉に放たれた。
一瞬、静まりかえる会見場に……
「首相、それはどのような意図の政策なのでしょうか?」
おずおずという調子で挙手したのは、保守でもリベラルでもない中立中道派を自称する記者だった。
「あー、それな。端的に言えば、皇国のお国事情だ。具体的に示すと皇国の外交と軍事力のリソース限界だよ」
「……は?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする記者。
どうやら「政界のマイルドヤンキー」枠であるはずの近衛の回答は、記者の予想の範疇外であったようだ。
「右も左も真ん中も関係なく、ここに集まってる記者諸君は既知だと思うが……ようやくイタリア戦を終わらせた矢先、米国のグリーンランド侵攻があり、対抗して2月に同盟国イギリスの『アイスランド保護』名目の進駐と”
近衛はそう苦笑すると、
「で、皇国に直接関係する部分だけを抽出するとな、ビルマとカンボジアとラオスが手に入った事で、ベトナム王国に続いて”カンボジア・クメール王国”と”ラオス・ルアンパバーン王国”の復権と再興、ビルマの独立国化を計画前倒しにした上に並行してやらにゃならなくなった。まさかクォン・タム殿下とシアヌーク殿下、シークワーサーウォン陛下、アウンサン御大の前後や上下や優劣をつける訳にはいかんだろ? 独立国化後の国交を考えれば尚更な」
近衛は集まった記者たちに思考的咀嚼時間を与えるように一旦言葉を切ってから、
「加えて、香港と広州湾の英仏租借地が事実上の米領になり、米軍も当然『治安確保』やらの大義名分で入って来るだろう。交易相手としてならともかく、政治的には対立状態にあるアメリカの軍隊の増強だ。そして、目と鼻の先には我が国領土の台湾島と海南島がある。おまけに”最後の難関”のイタリア王国の一件がとりあえず片付いたとはいえ、地中海情勢は未だに安定してるとは言い切れない。”赤城”と”天城”、一部の艦隊や部隊は本土に戻すように手配しているが、”ララシュ事件”のような突発的な軍事衝突の前例がある以上、現状ではあまり安易に戦力を地中海やアフリカ・中東から引き抜くわけにもいかん」
これでも近衛、ちゃんと言葉を選んでいるのだ。
「政治的には対立状態」、つまり裏を返せば「アメリカ全体とは敵対状態にはない」という事だ。
「わかったか? もう地中海周辺とインドシナ半島で皇国は手一杯なんだよ。これ以上、他国に関わるリソース、特に係争状態にあるような面倒な国に関わる余力はないんだ。例えば、国民党や南朝鮮に加担して、あるいは加担したとみなされる事をして、もし共産党や北朝鮮が係争戦に勝って統一したら、その後の外交はどうなると思う?」
「そ、それは……」
「だからな、俺たちが国交を持つのは『どちらかの勢力が大陸なり半島なりを統一した後』ってこったな。少なくとも、それまでは危なっかしくて交流窓口なんぞ作れん」
そしてこの発言は、実は『祖国統一を成さない限り、東西中国も南北朝鮮も皇国はこの先も国家として認めることはない』という宣言に等しいのだが、それを即座に気づくメディアは無かった。
当然である。
何しろ、日本皇国は一貫して『一国一政府が基本。二つの政府を自称する組織が互いに”我こそが正統”と名乗りを上げるなんて論外』というスタンスを数十年以上貫いているのだ。
分かりやす現在進行形のサンプルがフランスで、国際社会や国際連盟に復帰して久しいパリ政権のフランスこそが正統、そして「一国一政府の原則」から言うなら、ケベックの”自由フランス”は「正統政府のパリ政権を差し置いてフランスを僭称する”フェイク”にして国際テロ組織」という扱いだ。
また同じ理屈で、中国の最後の正統政府ないし王朝は”清”であり愛新覚羅氏、半島は李氏朝鮮であり大韓帝国だ。
そしてそれらは全て今となっては歴史用語になっている。
現在の中華と朝鮮は、大多数の皇国臣民にとり、「今は小康状態だけど内戦中の土地」という認識だった。
実は”この世界線”にも、やはり半島や中華への進出を声高に叫ぶ人間はいることはいる。
最近では、「米国資本が独占している大陸鉱物資源の獲得」が彼らのトレンドらしいが……
だが、”この世界線”の日本において彼らが常に政治的・経済的マイノリティーであり、「黙殺されるべき存在」で良しとされる理由が上記の国民意識・国民認識が根本にあった。
言ってしまえばそれは、
”わざわざ火中の栗を拾いに行く馬鹿がいるかっ!!”
という事だ。
事実、「対価さえちゃんと払えば」在中米国資本から鉱物資源はいくらでも購入できるのが現状だ。
そんな土地に軍事介入するのは無駄でしかない。
そもそも多くの皇国国民は、1920年代の日米で”渤海海峡通商条約”が締結された理由や背景、「外地の治安コスト上昇で赤字経営化まっしぐらだった」事情を知ってるし、学生なら皇国の転機の一つ「退路国屋半島から全面撤退」となったこの事例を近代史で習う者も多い。
国民の大半は、お題目を時々に変えて主張する「大陸への再進出を狙う少数勢力」は、「現代と現在が認識できない時代錯誤のアナクロリズム集団」と思っているようだ。
それに大抵の国民にとり、「国が面倒事に巻き込まれて税金が上がる」のは御免被るのだ。
ただ、視点を変えると……軍官公民のあらゆる繋がりが制限されるということは「祖国統一がされるまでは少なくとも皇国への企業進出はできない」という意味でもある。
☆☆☆
「……英国のように”エイプリルフールの
「俺も皇国の置かれた政治情勢ががエイプリルフールのネタだったらどんなに良いかって思ってるよ」
「……我が国は、”未だ大国になり切れず”という事を認めるのですか?」
そう切り出したのは別の中道左派を自認する記者だった。
「勘違いすんなよ? 『東亜あるいは極東のローカル覇権国家』なんて海外から言われる事もあるが、皇国は建国以来、大国とやらになった試しはないんだ。ただ、『小国ではない』というだけだな」
ちょっと国外から「大国じゃないのに地中海とインドシナ半島へ同時に軍隊を展開して、独立の面倒見るとかできるんですかね?」とツッコまれそうだ。
ちなみに覇権国家の前に”東亜”だの”極東”だの”ローカル”だのと枕詞がついていたのは皇国が過小評価(?)戦前までの話で、欧州まで遠征して地中海の覇者となり、インドシナ半島まで手中に収めようとしている日本皇国は、普通に
「軍隊と外交を分けて説明するとな、まず皇国軍は現在、第三次までの予備役動員、開戦以来の軍への志願要項の緩和と採用枠の拡大、
近衛は居並ぶ記者を見回し、
「これ以上、戦域やら実行支配区域やら作戦区域を増やしたいってんなら、今度こそ人員かき集めるのに”
近衛からの明確な「(議会で発動が凍結された形になっている)徴兵制解禁の拒否」に、会場の記者たちからどよめきが上がった。
「しゅ、首相は徴兵制解禁に反対なのですか? 正直、意外です」
とは(存在が許容されるレベルの)左派記者だった。
「ああ、そういや俺は左じゃあ”ウォーモンガー”だと思われてるんだったな」
近衛はレフトサイドな記者に苦笑で返し、
「生憎と俺は国家存亡の危機ってんならともかく、今のところ徴兵には大反対だ。考えてもみろよ。皇国がそれなりにまともに”世界大戦って時代”を現在進行形で乗り切れてるのは、”まともな銃後”が過不足無く機能し続けるからだぜ? この場合の銃後ってのは皇国の産業、工業力や経済力だ。そして、その屋台骨は民間人、即ち労働力さ。なあ、生まれたばかりの赤子や老い先短いご老体、それに新領土やら何やらの『新たな日本人』まで含めてようやく1億2千万を少し超える国家人口で、そもそも『働き盛りの優良な労働力をお国の為と300万人も軍に差し出している』現状の方が、俺に言わせればよっぽど異常なんだよ」
「まさか近衛首相の口からそのような言葉が出るとは……」
記者は驚愕の表情を隠しきれないようだ。
「そうか? 俺の目下の目標は、『一日でも早くせめて予備役だけでも動員解除して市民生活に戻し、労働力兼消費人口として皇国経済の下支えになって欲しい』だ。もっとも、現在の世界情勢じゃあ動員解除しても陸海空合わせて最低130万人の皇国軍常備戦力が戦後の現状維持に必要って試算されてることって事に頭が痛いが……」
参考までに書いておくと、現実の自衛隊のピーク兵力が約26.5万人(2014年)とされているので、現代日本と総人口が大差ない(ただし年代人口分布が全く異なる)日本皇国は、ざっとその5倍の兵力が戦後常備軍として必要なようだ。
そして諭すように、
「わかるか? ”現状維持でさえ戦後に常備兵力130万人が必要”なんだぜ? これ以上、戦力張りつけて担当せにゃならん地域を簡単に増やしてたまるかっつーの」
人、それを”フラグ”と呼ぶ。
「あの軍事の話は理解しましたが、外交については……」
違う記者がそう質問すると、
「引退していた幣原翁を無理やり引っ張り出して現役復帰させ、”地中海統括”なんて役目押しつけて、様々な要因で未だ帰国させられていない現状から外務省の状況を察してくれ」
そして近衛は努めて真面目な顔で、
「今はまさに、誰が呼んだか”外交消耗戦”の真っ只中。上から下まで死屍累々、仕事場に寝袋持ち込んでる職員だって珍しくねぇよ。ぶっちゃけ、いつ『外務省で戦死者』が出てもおかしくねえな」
何やら、地中海沿岸諸国のほぼ全域とインドシナ半島に兵力同時展開できるのに、「大国になったことは一度もねーぞ?」とほざいてる国があるみたいですよ?(挨拶
そりゃあ全力で戦争してない、どちらかと言えば交戦ではなく治安任務主体だからできることなんでしょうけど、軍属合わせて300万人以上徴兵せずに動員できて、尚且つやろうと思えばその半分以上を海外派兵に回せる日本皇国とかいう国ですw
ただ、流石に「これ以上は(徴兵制解禁しないと)ムーリー!」という理由で、絶賛係争中(一時小康状態なだけで内乱中)中国大陸や朝鮮半島は、「互いに正統政府を主張する対峙する二つの組織が国土統一しない限り、事実上、軍官公民あらゆる分野で付き合わない」宣言。
皇国軍だけでなく、外務省も当面仕事が減る気配しない(むしろこれからの方が増える?)し、キャパ的に「これ以上の面倒は抱え込めない」って感じですし。
人材枯渇の深刻度は、むしろ軍より酷いか?
とりあえず、「明確な交戦中の敵が存在しない状態なのに、かといって第二次世界大戦から足抜けできない」という方向性で、日本皇国は昭和19年度を進むみたいですよ?
次回は、皇国の1944年度新規装備とか?
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