モブ死神に憑依したみたいです 作:神話オタク
村正が斬魄刀を実体化させた事件の後も護廷十三隊、そして天満達も主を失った斬魄刀「刀獣」との戦いに駆り出される日々を送っていた。正気を失い日番谷に折られた清龍や白哉によって斬られた袖白雪も涅マユリによって復元され、大きな事件ではあるがその一方で穏やかな日常を過ごしていた。
そんな未だ事件の痕跡がありつつも事態の収まった瀞霊廷では、事件中も基本的に一緒だった袖白雪、炎輝天麟、清龍、五色燕凰が連れ立って歩いていた。
「それにしても、清龍は主にどのような不満を抱いておりまして?」
「……せ、清龍は……その」
「その?」
「あまり詮索はよろしくないのではありませんか?」
「そうですよ、全員が全員、
「でも、主の血が欲しいと襲いかかるのを見てしまっては、気になるというものですわ」
「そういうのは、忘れてあげるのも優しさですよ」
袖白雪の言葉に炎輝天麟が同時に頷く。それぞれルキアの刀としてではなく「袖白雪」という個として思うままに振る舞ってみたかったというまるで幼子のような不満を持ってしまった羞恥か、その話題は彼女としても苦手なものだった。
一方で炎輝天麟としてみれば主が救世と太陽という目標がいつしか重荷になっていることを憂いた行動であるため、やり方が悪かったとはいえあまり話題を気にしてはいない様子だった。
「……主様は、清龍を……とても大事に、してくださいます……ですから、卍解をする度に……錆びてしてまうことを、気にしていました」
「──そういえば、井上織姫に治させて連続使用していましたね」
「はい……」
「それが、不満ということですの?」
その問いかけに清龍は首を静かに横に振った。強力な卍解とはそれだけの代償を要求するものであり、その卍解の能力にはそれだけの価値がある。それは事実でありそれ以上のことは何もない。
酷使とも言うべき戦争の際、優しく声を掛け続けてくれた彼に対して清龍は不満を持った。
「
「さ、錆びることを?」
「はい……あの錆は、主様の血です……清龍の中に、主様が混ざっていく感覚は……とても、言葉では表せられ、ません……」
何処かうっとりとしたような、恍惚の表情にそれを識っていた炎輝天麟以外の二振りはやや清龍から距離を取る。清龍の不満とは、その気遣いであり、自分は大丈夫だと伝えたい、その感覚は不快なものではないということを信じてほしい。そんな小さな不満だった。
天麟はそんなことを打ち明け恥ずかしそうに顔を俯かせる清龍に微笑み掛ける。
「伝えられましたか?」
「それは、それは……はい」
「あら、良かったですわね」
「後は、
袖白雪はその言葉に少しだけ寂しそうな顔をする。彼女は斬魄刀達から自分たちは同じ名前、同じ姿だがこの次元の存在ではないという表現を用いた彼女達とは近い未来に別離するべきものであり、その後彼らが戻ってきてもそれはこの事件を通して言葉を交わした彼女達ではないということに、袖白雪は寂寥を感じていた。
「心配要りません、どちらのわたくし達もわたくし達ですわ、
「……そうですね」
「珍しく、いいことを言いますね」
「一言余計ですわ炎輝!」
この世界でも恐らく藍染と破面との戦い、そして千年の因縁に決着を付ける戦いに死神達は、そして朽木ルキアは身を投じていくことになるのだろう。その中で、沢山の人が傷つき斃れていってしまう。今回の村正の騒動、そして刀獣事件の被害は大きく、瀞霊廷に侵入された際の脆ささが浮き彫りになる形になっていた。
「……こちらの世界も、大きく変わりそうですね……まぁ私達がいる以上それは避けられぬ新たな運命かも知れませんが」
天麟の言葉に炎輝が頷き、袖白雪が微笑み、清龍と五色燕凰が顔を見合わせて笑った。
いずれ離れることになっても、この記憶を本来の三振りが憶えてないとしても、彼女達は変わらない。ならば語って聴かせよう、と袖白雪は寂寥がいつしか、戻って来た時の楽しみへと変わっていた。
「帰る方法などないヨ、そもそも前例がなさすぎてお前達の記憶の混濁を疑っているくらいだからネ」
「そうは言われましても……事実だし」
「穂華、黙ってろ」
「おい、この三人の霊圧が消失してから穿界門で発見されるまでの断界の記録をもってこい」
「はい」
一方で天満達は事件も収束に向かっているという炎輝天麟の言葉に従い、技術開発局にて元の次元に戻る方法を模索していた。その眉唾な絵空事をあまり信じていない涅マユリはそう言って席官と思しき、腰が曲がり髪が緑と黄色のツートンカラーの少し陰気な男に命令する。断界の研究をしている唯一の職員であるため、彼とマユリが解らなければお手上げということになる。
「あんな感じだったのか、あの人」
「そうだな、頑張って擬態してたんだと思う」
後に尸魂界を破壊しつくさんと己の研究の粋である「侵軍」を率いる、今はただの十二番隊第七席である男がしばらくしてマユリに何かのデータを見せる。どうやら異変があったらしいということにややほっとした天満達をよそにマユリは非常に難しそうな顔をする。
断界に穴が空いての次元移動など、そもそも原作を識っても知らない現象だ。安易に答えが見つかるとは天満も思っていなかった。
「どうですか?」
「……断界は時間と空間から切り離された場所です、無数の通り道があり、その中の安全な道を穿界門と地獄蝶を使って通っています」
「そこから外れると?」
「簡単に図解すると現世と尸魂界の道が断界、そしてその周囲に叫谷と呼ばれる空間が大小ありますが点在し、その隙間を埋めるように
「──その黒腔に落ちた時に発生する現象が解っていない、ですか」
「……左様です」
「つまりキミ達の言葉を信用するならば、断界に空いた穴とやらに落ち、黒腔の内部で何かしらの要因が重なった結果、時間も空間も異なる場所にたどり着いてしまった、ということだヨ」
業平と天満がその時に顔を見合わせてほぼ同時に、もしかすると原因は断界内で天満が卍解したことにあるんじゃないかという結論に至った。
本来ならば呑まれた段階で生きて出られる可能性は無いに等しい。だが、天満の卍解が何らかに作用したならば。
「稲火狩天満、断界のデータに僅かに残っていたヨ、キミの卍解の霊圧が」
「つまり、同じことをもう一度やるだけでいいってことですか……?」
「まァ、また全く別の次元に飛ばされる可能性は無くはないがネ、それはそれで、そちらに研究結果として伝えてやるときっと同位体の私が興味を示すだろうから止めはしないヨ」
同じことをもう一度、と穂華は言うがそれは案外難しいことでもあるように感じた。あの時も天満は運命を自分で選択した。無事に戻ってくるという運命を選んだというのにこうして別次元で足踏みをするハメになった。その事実が天満の決意を鈍らせていた。
だがその肩を業平が叩く。
「いいや、多分此処までがお前の創り出した運命の流れだと俺は思う」
「どういうことだ?」
「この遠回りな旅全部が、元の場所に戻るって運命の一本道だってことさ」
「……業平」
「そうですね、此処に来て、村正の事件に巻き込まれてから落ち着いて元に戻る。この一連全てが決められた流れだと私も感じます」
「穂華まで」
それは慰めではあるのだが、天満にとっても納得の出来る、感情の面で落とし所である慰めだった。村正の事件を経由することで炎輝天麟や清龍、五色燕凰という独立した存在を改めて認識することが出来た。共に歩んでいく中で彼女達が同じ魂を持ちつつも別人格のように意思を持っていること、向き合っているようで向き合ってなかったこと、改めて話し合えたことも、一つの流れだと感じれば得るものはあったのだから。
「そういえば、斬魄刀達はいつ戻るんですか?」
「フム、刀獣の件を見るに、独立してる間にも霊圧は消費されて、維持出来なくなれば自然と元に戻るヨ」
「有難う御座います、涅隊長」
「失礼します!」
自然と元に戻るというなら時が満ちるまでのんびりと待つしかないなということで天満達は技術開発局を後にした。もう一つの懸念材料である本来の天満達の件も、あちらはあちらで天満は卍解を習得しているためなんとかなるだろうという楽観をしてその時を待った。
それから、数週間が過ぎた頃。
「天満!」
「日番谷隊長、浮竹隊長も」
「……どうやら出立の時が来たみたいだぜ」
「ってことは……」
「ああ、稲火狩天満、阿久津業平、丹塗矢穂華、この三人がトラブルはあったものの空座町にやってきたという連絡を受け取った」
どうやら元の天満達が現世に到着したらしく、天満達はその言葉にほっと息を吐いた。どんなトラブルがあったかは別次元の天満には知る由もないが、帰る為の条件が全て揃ったことを示していた。
浮竹やルキア達に見送られる形で三人は穿界門の前に立つ。
「お別れ、ということになるのか」
「いえ、俺達のところにもルキアさんはいますし」
「そのうち私達も帰ってきますから」
「そうか、まぁ元気でなお前達」
「……はい、浮竹隊長も」
「ああ」
穂華は少し涙ぐみ、業平は微笑みを浮かべて、天満はまっすぐに浮竹の顔を見つめて握手を交わした。
──元の次元に戻れば、彼はおらずルキアが隊長業務を代行している。治療の際に世話になりっぱなしだった卯ノ花も、元の三人が発見されるまで同じ立場として過ごすようにはからってくれた元柳斎も、斬魄刀に地味だと思われていたなんてと落ち込んでいた雀部も、既に言葉は交わせない。狛村は姿こそ変わったが会おうと思えば会えるのだが。
だが浮竹は「そっちの俺にもよろしくな」とは敢えて言う事はしなかった。天満達の反応に、自分の近い未来に何が起こるのかを自然と察してしまっていた。
「──そっちの皆にもよろしくな」
「はい」
その皆の中に自分はいなくとも、浮竹は護廷十三隊という面々を、特に旅禍騒動以降の隊の垣根を越えた僅かな時間ではあるものの暖かな時間を愛していた。
だからこそ、そこに自分がいなくとも、笑って送り出せる。自分がいなくとも、自分が護った皆がいると信じているから。
「……やっぱり、浮竹隊長は凄いな」
「そうですね……」
「あれが、隊長って存在なんだろうな」
断界を歩きながら、天満達はそれぞれに口にする。同時にそんな浮竹に託された自分達が十三番隊として、そして天満は次の副隊長として何が出来るのだろうかと考えるようになっていた。
ルキアを支えるだけではきっと足りない何かを、長いようで短い十年の間に見つけていくのだと。
「どうやら、この辺らしいな」
「その探知機、みたいなの確かなんですか?」
「涅隊長は妙なものを造りがちだが、無用なものは造らないからね」
ダウジングらしきものを手に天満の卍解の痕跡を捜す。ほんの僅かではあるが近くまで来ると穂華はその霊圧に気付くことが出来た。三人の中で最も霊圧知覚に優れているのは天満だが自分の霊圧を探知することは不可能であるため穂華のリアクションにほんの少しだけ安堵する。
「天満さんの霊圧なら自信がありますよ!」
「犬みたいだな、飼い主の匂いを憶えてる犬」
「──阿久津さん!」
「煽るな業平……よし、行くぞ、準備はいいか穂華、業平」
「……は、はい!」
「おう」
「卍解!」
二刀が輪の形になり、それを天満は地面に放ち宇宙空間によって穴を空ける。同時に小さな星を二つ創り、二人の足場にした状態で三人は宇宙空間へと飛び込んだ。
これで戻れるという期待とは別にこんなお手軽な次元移動が出来てたまるかという気持ちもありやや緊張した面持ちで天満は霊圧を注ぐことで空間を小さくしていく。
「よし……地面に入ったようだな」
「動いていますか?」
「……ああ、下に移動し始めた」
無限の距離があるため天満以外には移動している感覚はつかめないが、天満の言葉に自然と下方向に目を向けた。
そこからは飛ばされた時と同じで出口の光を目前にして卍解を解除し、天満達は再び正規の出口からは程遠い場所から飛び出す。
前回はいつの間にか気を失っていたが、今度もまた光に眼が眩んだと思ったら天満は空の上から落下していく。
「お、おおおいおいおい!」
「結構な速度出ちゃってますよ!?」
「吊星でなんとかするしかない!」
「──え、炎輝天麟!」
現世の、空座町の景色であるためそこには安堵しつつも三人は急降下を「吊星」と斥力で軽減する。
小高い山の中腹にある公園に出たなと天満は早速伝令神機でルキアへと連絡し、浦原商店を目指すことにした。元々寄る予定だったことと、不測事態でいったいどれだけ時間が経過しているのかという確認を取るためだった。だが、瞬歩で移動する間もなくそんな三人に見慣れた下駄と帽子の男が近づいて来た。
「お帰りなさい、皆さん」
「……浦原さん」
「訊きたいこと沢山あるでしょうけど、ひとまずはお疲れ様です」
「何か識ってる口振りですね浦原喜助さん」
「この人の匂わせ態度はいつものことだ、相手にするな穂華」
ひとまずはルキアの返信からも戻ってきたことを確信し、天満は浦原の後をついていく。
──こうして天満達の時空を旅するという経験、そして起こらなかった事件に遭遇するという奇妙な体験は終わり再び日常へと戻っていくことになった。
だがこの経験は、本来天満にも起こりえないもう一つの可能性である。ならば彼がまた別の未来を辿るのも必然ということであった。
荒廃した精神をリフレッシュしているので「REAPER OF REAPER」とは別の未来を歩むことになります。
これにてアニオリ篇終了しまして、やりたいことも完結しました!
これまで有難うございました。