データ損失して萎えてました。すみません。
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吾輩は訳あってサーヴァントになってしまった元マスターである。名前などない。
何故だろう。いつもの挨拶をしただけだと言うのに、この挨拶がとても懐かしく、久しぶりだと感じている自分が居る。時間感覚もおかしくなったかな?
まぁ、常に朝みたいな場所なので時間感覚が狂ってしまうのも仕方なくはあるか。ORTの宝具によって宇宙が侵食されたこの世界では、視界すらバグってしまうのだから困ったものである。
蒼く、青く、碧い太陽。私の心臓を喰らった事で進化したORTの力―――全能神テスカトリポカの『事象の入れ替え』という権能を以てして現れた黒いORT。そのシバルバー。
『
「随分と変わってしまったな…本当に」
かつて住んでいたマンションの窓から顔を出し、もはやかつての面影など殆ど残っていない三咲町を見渡す。
所々が溶け切った町。青色に染まり切った故郷。名前を持たない私があの日まで育っていた、大切な場所。
ORTと共に過ごした場所。友人と共に過ごした場所。何でも屋として過ごしていた世界―――私にとってただ一つの宝物だ。
こうなったのも、全ては―――私の責任であり、私の失敗が原因だ。
私は選択を間違えた。ORTを信じ切れなかった。それが、それこそが、ORTを狂わせた。三咲町を破壊した。
ただの魔術使いであった私が、ただの名も無きマスターでしかなかった私がサーヴァントとして現界したのは、きっとその償いなのだろう。
責任を取れ、と。狂った全てを修正せよ、と。人理からの追及に他ならないのだろう。
「無論だとも。必ずこの手で、成し遂げてみせるさ」
言われずとも。命じられずとも。私はやり遂げる。
償いも贖いも、全て私自身が望んでいる事だ。
成すべき事を成す。あらゆる犠牲を許容しないまま、私は彼女を止めなければならない。それが私の果たす目的だ。
我ながら、無理な目的なのは理解している。
彼女を相手にして、何の犠牲も払わずに世界を救おうなど、砂漠に落ちた針を見付けるのと同義だ。
だが―――私の責任に、カルデアの面々を巻き込む事など出来はしない。
本来ならば、関わる筈ではなかったのだ。関わる事など無かった筈なのだ。
ただでさえ、ORTとの戦闘を終えたばかりの彼女だ。藤丸立香の肉体と精神の疲弊は、まだ治り切ってはいないだろう。
そんな彼女を、私は再び絶望へと叩き込んだ。戦場へと送り込んのだ。
尚の事、私は動かねばならない。
「無銘さん、準備終わりました!」
「紅茶も充分味わえたし。さ、行きましょ」
「お気に召したなら何よりだ。では、行こう」
カルデアの決戦式魔術礼装に再び身を包んだ藤丸と、紅茶(午後の紅茶ですが)を堪能したアルクェイドと共に、私達は家から外へと踏み出した。
見渡す限りの青色。そんな景色を目に焼き付けながら、目的地へと歩を進める。
「学校に行くんですよね?」
「あぁ。三咲高校―――蒼崎青子や静希草十郎が通っていた学校だ。…情けない話、私は英霊になっても基礎的な魔術以外はからっきしで、探索も碌に出来ない。だから、カドックやマシュを信用して彼らが行きそうな場所を虱潰しで探すしか出来ないんだ」
「貴方、サーヴァントになっても探索には不向きなの?」
「申し訳ない…生前から、探索魔術が成功した
本当に魔術の才能が無いんです、私。
だからアルクェイド、そんなジトーっとした目で私を見ないでほしい。こら、藤丸も真似するな。心が痛くなるだろ。
「魔術回路は凄いのに魔術の才能はからっきしなの、本当に勿体ないわね」
「やめて? その言葉、私に結構突き刺さるから。これでも努力したんだぞ? 何とか変化魔術までは漕ぎ着けたんだぞ?」
「そうは言ってもねぇ…それくらい普通じゃない?」
アルクェイドからの言葉が胸に突き刺さった。わたし、すごくかなしい。なきたくなってきた。
正論だから何とも言えないのが悲しい所である。事実、私が扱う事が出来る魔術は魔術師にとっては常識レベルでしかない。
強化魔術と変化魔術、そして魔弾。私が扱う事の出来る魔術はこの三つしかなく、基礎中の基礎でしかない。特に変化魔術に関しては、強化魔術以上に上手くないのだ。
魔術師ではなく魔術使いである私だが、しかし他の魔術使いの人間と比べても精度は決して高いとは言えない。寧ろどちらかと言えば下手な部類に当てはまるだろう。
それこそ、衛宮士郎の方が魔術使いとしての腕は優れているだろう。
「無銘さんの魔術回路って、そんなに凄いの?」
「ぶっちゃけ、凄いなんてレベルじゃないわ。それこそ、魔法使いと同等ね。量の割に質が異常過ぎるのよ、魔力の生成量と速度で言えば蒼崎青子やゼルレッチのおじいちゃんより上」
「本当に人間?」
「人間だよ。それに、異常なのは回路だけだ」
私の魔術回路は明らかに異常らしい。
量は13本と少ないが、その13の内の一本を起動するだけで鐘が鳴ったかの様な音を出し、大魔術を使用出来る程の魔力が生成される。
聖杯曰く、どうやら私の魔術回路から生成される魔力は非常に綺麗かつ濃厚らしく、神代のソレと同等らしい。
まぁ、その代償として魔術の腕はからっきしなのだが。
基本的に魔力量に物を言わせたゴリ押しでしかないのだ。
「……」
進めていた足を止め、腰を落として身を構える。
アルクェイドも気付いたのか、私と同じ様に足を止めて戦闘態勢へと入る。
『――――――――――――――』
物陰から何かが現れる。
青色の結晶体。サファイアの様に光り輝く綺麗なそれは確かに生物の形をしているものの、しかし明らかに意志を感じない。
もはや命は無いのだろう。ORTの命令か、或いは本能的な何かで動く屍だ。
「初のエンカウントだ。張り切って行こう」
「よぉーっし! 頑張っちゃうわよ!」
「皆、行くよ!」
そう言って藤丸が手を翳せば、眩い光と共に二騎の英霊が召喚される。
「はぁ……面倒くさい。あんなバケモノとまた戦えって言うのかい? 僕たちのマスターは鬼か何かなのかなぁ?」
「オベロン、文句を言わないでください。
わぁ……躍動トリオ来ちゃったよ。私はつい内心でそう零した。
妖精王にして卑王。妖精国ブリテンの終末装置、ただ気持ちが悪いというだけで一つの世界を滅ぼした奈落の虫―――オベロン・ヴォーティガーン。
巡礼の旅を終えし楽園の妖精。星の内海から現界した星の妖精、聖剣の担い手―――アルトリア・アヴァロン。
頼もしい味方が来てくれたものだ。
「君がアーチャーか。あのバケモノの元マスターだって? とんでもない逸材と一緒に戦えてすごく光栄だよ」
(皮肉だ……オベロンの皮肉だ。闇の精霊王の皮肉だ)
「ぷっ」
「おい、止めろ。なんでお前がその名前を知ってるんだ、時系列的にお前あのイベントやってないだろ」
「戦闘開始だ。宜しく頼むよ」
「マスター、コイツ後ろから刺しても良いかなー!」
「良い訳ないでしょ!? 協力して戦ってー!」
喜んで協力しよう。
意識を切り替えて、心臓の魔術回路を開く。
ゴゥンッッッッッッ!!!!!! と、鐘の音が鳴り響く。
近接戦闘が出来るアーチャーがエミヤだけではない事を、私自ら証明しよう。徒手空拳だ。
地を蹴り、弾丸の様に素早く前へと躍り出る。
しかし、敵は何もしてこない。一気に距離を詰めたというのに、一切の回避行動を取らない。
妙だ。だが、攻撃しなければ始まらない。私は訝しながらも、結晶体へと拳を振り抜いた。
拳が結晶体を捉え、呆気なくその体を粉々に破壊する。
あれ…意外と硬くないな。吸収される訳でもなさそうだ。
「なんだ、コイツら。全然攻撃してこないな。アルトリア」
「既に死んでいますから、妖精眼でも何も分かりません。大した脅威でないなら、それで済むのですが……」
「奇妙よね、何か」
気が付けば、戦闘はあっさり終了した。
回避も防御もせず、さらには攻撃すらしない。此方の一方的な攻撃で、敵は呆気なく砕け散った。
「敵じゃない…とか?」
「……分からない。兎に角、今は先を急ごう」
……嫌な予感がする。
私の拳に残った感触は……どこか、懐かしい様な気もした。