蒼都になったけどバンビちゃんが死ぬほど面倒臭い(※死ぬ) 作:黒兎可
後、推薦ありがとうございます・・・!
────カツ、カツ、と。
普段あまり被らないローブを下ろして歩く青年。その足取りは力強い……というより、どこか地団太を踏むような強さを秘めている。八つ当たりなのだろうか、一歩一歩の踏みしめ方が
そんな歩く青年に、「やあどうしたんだい? そんな生気のない顔をして」とかけられた声。わずかに覗く目元が胡乱な半眼の青年は、独特なメッシュの入った髪を持つベレニケ・ガブリエリの名を、力なく呼んだ。
「ベレニケ、さん」
「悩み位なら相談に乗るさ。バンビエッタがいつも通りすぎて今日も殺されるのが辛いとか、ミニーニャ・マカロンが妊娠して責任をとらなくてはならなくなったとか、キャンディス・キャットニップに気が付いたら薬を盛られて気付けば全裸で翌朝だったとか、ジゼル・ジュエルに襲われたとか」
「ベレニケさんの中でもみんな、そんな扱いなの……?」
(バンビちゃんはまあ、頭バンビエッタだから仕方ないにしても……)
というより、ミニーニャ・マカロンは
わずかに目元に光が戻り、半眼を止めたブルー・ビジネスシティこと蒼都は、苦笑いを浮かべた。
「と言うか、ジジさんはともかくキャンディスお姉ちゃんはそういうことしないよ」
「……ジゼル・ジュエルはする可能性があるのかい?」
「するっていうか、しそうっていうか、冗談半分にやらかしそう? 僕、耐性というか聖文字の効果で意味なかったけど」
「既に過去形だったのか…………」
何をやっているんだ一体、と天を仰ぐベレニケであるも、視界の先は天井かあるいは影の闇であるため、その仕草にあまり意味はない。
場所を変えよう、と足元に周囲の霊子を集めて飛行するベレニケについていくブルーは、影の中にあっても微妙に目立つ大きなシルエットの建物の前に到着した。基本的に“
いうなれば、建物の壁と壁の隙間にさらに塀と塔が立っているような、中途半端な隙間である。
その塔の屋根に腰を下ろすと、ベレニケは自分の隣、配置としては「L」の字のように直角になるように座ることを勧めた。曰く、顔を見られたくないだろうからとのこと。
(何かこう、すんごい優しい)
「…………」
「ははっ! これでも気の良いお兄さんを自称したいところだからね、そう気の良いお兄さん! 子供が泣いていたらそっとアイスクリームを買ってあげるような、そんなお兄さんをね!
…………生憎ここは現世じゃないから、そういう嗜好品は限度があるが」
特に何か言ったわけではなかったが、ベレニケはブルーの表情から考えていたことをすぐさま察したらしい。
ありがとう、と答えるブルーに、どうということはない! と妙に力を入れて返答した。
「城で話していたら誰かに聞かれるかもしれないし、それは得策じゃないと思ってね。君の表情、君の感情、どう見てもひとりで抱えてきれていないと見た。
とはいえ矛盾するようだが、僕と話してすぐさま外面を取り繕えたということは、それが出来る程度の余裕はあるのだろうと見たからね。状況が許せば、相談くらいはしてくれるだろうと思ったまでだ」
「………………
ベレニケの“
時折キルゲ・オピーがベレニケを伴い尋問めいたことを行っていたのも、その能力による効果を期待してのものであった。……もっとも頭バンビエッタな理由で施設を破壊したりといった、どうしようもない真実に頭を抱える回数はお察しである。
ブルーのそんな言葉に対して、ベレニケは肩をすくめる。
「そもそも
「…………」
「身体も大きくなったし、肉体関係も含めて大人になったと言えるかもしれないけれどもね。幼いころから見てきた限り、心根が変わらず今のままでいる君は、まだまだ子供だよ。
エス・ノトの教育係を任されたことにちょっとウキウキしてたり、マスキュリンのところの彼と三人で映画を見てあーでもないこーでもないとアクションシーンについて語ったり、
だから無理なら無理と言って良いのだと、ベレニケはあえて調子を変えずに、ブルーに言う。
ブルーとベレニケの視線は重ならず、それぞれの方を向いているからこそ────たとえブルーが今、どんな顔をしているのだとしても、それでも傍で話を聞こうと。
一連の動きが、その全てが、一つの異議も無く幼い日にブルーへ接してくれた当時のままのベレニケであった。
だからだろうか。ブルーもわずかに
「………………みんな、死んじゃったんだ」
「……皆、とは?」
「陛下がつけてくれた……、キルゲさんがつけてくれた、部下、みんな」
「嗚呼、
────
────相手に卍解を使わせる暇もない速度での攻撃……、かしこまりました。刀剣解放のないこの身でどれほど熟せるかわかりませんが、ご指導願います!
ブルーの脳裏に、数人の破面の顔が過る。自分が下し、彼等の刀剣を奪ったうえで、ユーハバッハ陛下が改めて全員に滅却師としての血を、力を与えた。元が破面であるがゆえに、本来の刀剣解放から考えれば酷く中途半端なレベルでの霊力の引き出しにしかならなかったが、それでも事あるごとに、ブルーは彼らを庇った。
時に心配して様子を見に来たバズビーも交えて、彼らの滅却師としての戦い方を見守ったり、指導したり。時に「
……もっとも一番のリスクは「あたしのブルーの時間、無駄に使わせて……ふぅん」とか言い出したバンビエッタの癇癪の行方であったが。当然、爆発四散されそうな彼らの間に割って入って何度も死に、何度も蘇ったからこそ、勝ち得た信頼もあったろう。
「バンビちゃんはともかく……、みんな凄い義理堅かったんだ。義理堅いっていうか、複雑なことを考えないで、命助けられたら借りは返さないといけないっていうか。自分たちのために頑張ってくれたって思ったら、最初は疑って馬鹿にしてたけど、それでも段々打ち解けて来てくれて」
「…………」
「けど皆、あっさり陛下に殺されちゃった」
昨日、黒崎一護の前に
尸魂界で
フリーゲンに関しては多少やらかしたこともあってか粛清も受け入れざるを得ないところはあった。
だが、当然のように落ち度なく首を落とされたイーバーンに関しては、受け入れられない。
イーバーンがその扱いであるのなら、フリーゲンとて落ち度の有無にかかわらず、当然殺されたのだろうから。
「そういうものだから納得しろ、って理屈はあるんだろうけれど……。僕が、他の滅却師たちみたいに
「…………」
「やっぱりそこまで簡単に殺せるってことはさ。陛下にとって、僕たちだってその程度なんじゃないかなって、思うんだ」
「その程度、か」
ブルーのそう思うに至る経緯を聞き、ベレニケは相槌を打てない。堰を切ったようにつらつらと出てくるブルーの言葉に、強い反論を出来ないのと同じように。
ブルーの、正確に言えば
「うん。前に現世の、
能力とかじゃなくて、こう……気持ち的に」
「……だろうね」
力の徴収と、分配。
ブルーの言葉に、以前エス・ノトから「怖イ……!」と相談されたことでもあったのか当然のように理解を示すベレニケ。あるいは本人もその可能性は感じていたのかもしれない。感じていたが、あえてそれを言葉にはしなかったか。
「意外とリルトット・ランパードあたりは、その可能性は
「リルお姉ちゃん?」
「ああ。とはいえそこで思考停止していないあたり、中々複雑な育ちを伺わせて可哀想な気もするかな? あちらは、下手な同情などいらないだろうがね」
「……『気持ち悪ィぞハゲ野郎ォ』とか?」
「上手だね物真、
突然取り乱したベレニケはさておき。
恐いのかい? という相手の言葉に、ブルーは空を見上げる。
「わかんない。……なんだかんだ、陛下が僕たちからそういうことをしない、かもしれないって可能性に縋りたいような、それが当たり前だって思いこみたいような。でも、やっぱり頭のどこかがそれを否定していて」
(原作的に確定してるし、別に僕の行動がバタフライエフェクト的に何か影響してると思えないし……、
「そこを切り分けて洞察できるだけ、ブルーはしっかり育っているな! ……バンビエッタ相手に辛そうだが」
「慣れた」
「慣れちゃったのか……」
なおこの時点で「バンビエッタが頭バンビエッタなのには慣れた」が「痛いのは別に慣れてない」という事実まで、ベレニケが洞察するのは流石に無茶が過ぎた。この場にバンビエッタがいれば「何よ文句あるわけ?」などと言いつつ胸に剣を突きさされたまま身体を爆弾に変えさせられ爆発四散するような運命、慣れろと言う方がどうかしている。
だからこそ、続くブルーの言葉にベレニケは好意的な解釈が先行する。
「だから、バンビちゃんたちも死んだら嫌なんだよ」
「そうかい?」
「うん。……色々あるけど、皆の中で育ったから」
にこり、と微笑ましいものを見る目をするベレニケ。
「あとバンビちゃん、一人でいたらすぐ
……もっとも、続くブルーの言葉に絶句するしかないのだが。
「…………」
「ジジさんが────」
「具体的な説明は要らないとも? うん。やはりというか、それなりに恨みは買っているようだね方々。詳細はしらないがね……」
「ミニーちゃんは、意外と何もしなさそう」
「ほう?」
「興味なさそうだし」
「えぇ……?」
「キャンディお姉ちゃんは文句言いながらも助けそうかな。リルお姉ちゃんは時と場合によりそうだけど……」
果たしてこれはしっかり育っていると言えるのだろうか、と頭を抱えるベレニケである。
いや、まあ、あの面々に預けて当然と言えば当然なわけで、そもそもブルーの霊的な年齢から逆算してみれば、彼の情緒が外見上でもまともに育ったように見えるだけまだマシなのかもしれない。きっとそうに違いないと、ベレニケはぶつぶつと自分に言い聞かせるように唱えていた。
もちろんすぐ近くのブルーには筒抜けなので「大げさだな」くらいの感想ではあるのだが。
(性格もまあ、可愛いところがゼロと言うわけでも無い……無……、うんまあゼロではないしね、人当たりの仕方に慣れれば。うん。身体は良いし。殺された回数分は求めて来るから、釣り合いは取れてるのかもしれないなあ……、バンビちゃんの中では)
その感想で「大げさだな」は流石に無理がないだろうか。
「ミニーちゃんとか、みんなは多分大丈夫だと思うんだ。けど、バンビちゃんだけは無理かなって」
「聖文字込みの戦闘力で言えば、バンビエッタが彼女たちの中では一番だと思ったが……」
「でも多分、ジジさんとかリルお姉ちゃんとかが本気で協力したら仕留められちゃいそうだし」
「いちいちものの言い方が物騒なのだがね……! というか全員から攻撃されること前提なのだろうか」
「僕、ちょっとは頑張ったんだよ? 何かあっても周囲に当たり散らさなければ、リルお姉ちゃんたちからの好感度も少しは低くならないかなーとか」
その結果、誰にその癇癪が向いたかはお察しである。
それよりも、ベレニケとしては「頑張った」と言い切るブルーに涙を禁じえなかった。そもそも
「だけどさ。前に
「ふむ?」
「僕の中で優先順位はバンビちゃんたちなんだけど……、それでもやっぱり付き合いがある人が死ぬのって辛かった。いつか死ぬかもしれないって、ずっと言われてたことでも、ずっと教えられてたことでも」
「…………ブルーは、破面の部下たちも……、しっかり親愛していたんだね」
バンビエッタが聞いたら爆死(物理)不可避なセリフであるが、ブルーはそれを否定することはなかった。
会話の流れからすれば飛躍した話ではあったが、実際にその通りで。だからこそ現在、センチメンタルな気分になっているのは間違いないのだから。
「だが、その調子では今後のバンビエッタにも影響が出るだろう。明日は尸魂界侵攻となるのだから。ブルーが本調子でないとなれば、
「うん。…………ベレニケさんから見ても、そんなイメージ?」
「これでも一応、同期だからね! バンビーズ、を結成するまでは、昔から散々周囲を色々な意味で振り回していたし。
……それに、“見えざる帝国”に来た当時はもっとオドオドしていて、口調もああではなかったような気がするし」
「…………」
ひょっとしてそれバンビちゃんの素なのでは? それ知って未だに殺されてないとか何だかんだベレニケさん凄いのでは? などなど色々感想が過るブルーであったが、真剣に自分のメンタルを気遣ってくれている相手にそう茶化す言葉を言わなかった。空気を読んだのである。
「ブルーは、僕が死んでも悲しんでくれるかい?」
「…………うん」
「ふふ、ありがとう! だが、それでは結局、君は君が一番大事にしたい誰かを、守ることもできなくなるかもしれない。だったら、そうだね。
あえて
ちらり、と横目にベレニケの方を見るブルー。
ベレニケは前髪をいじりながら、光なき空を見上げて……、得意げに微笑んだ。
「クイズに一喜一憂する
君は、君が守りたいものを護るために! それだけに生きたって良いんだ。例え多くの屍を踏み越えて生きなくてはいけないのだとしても……、それが生きるために必要なら、どこかでそう割り切らないといけないときが来る。僕が、誰も彼も見捨てて騎士団までたどり着いた時のように」
「…………」
「目的のために、時に躊躇わない。他の何を捨ておいても、一番大事なものを護るためになりふり構わない。自分の命か、他人の命か。対象は問わないが……そういう振る舞いを、君だってして良いと思うんだ。
バンビエッタに育てられたなら、きっとそう出来る心も育ってると思うからね」
もっとも例えに出したが、僕とてそう簡単に死ぬつもりはないがね。そう微笑み立ち上がるベレニケ。「そろそろ戻ろうか」という彼の言葉に、ブルーはこちらに来てからのやり取りを反芻しながら立ち上がり。
ベレニケは、微笑みながらブルーの胸の中心に、人差し指を向けた。
「『君の胸の痛みに、異議を唱える』」
「…………効いてないみたい、ベレニケさん」
知ってるよ、と微笑むベレニケ。
「だから、
「…………」
「返答も聞かないよ」
つまりそれは、言外に……、ブルーがその痛みを抱える必要はないという、彼なりの励ましであって。
どう生きるかは君次第だ、と。さわやかに微笑むベレニケに、ブルーは少しだけ頑張って微笑み返した。
※ ※ ※
なお侵攻早々、更木剣八に原作通りにあっさり喉を引きちぎられて殺されたベレニケに、その霊圧消失に一瞬表情を無くしたブルーであるが。
それでも気を取り直して「いつものように」バンビエッタの御守を優先することが出来たくらいには、彼の言葉はブルーの背中を押したのかもしれない。