トリックスターの歩む道   作:保泉

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選択肢のひとつ

 

 皆でもぐもぐと夜食を食べた後、新一君はすぐにうつらうつらと船を漕ぎ始めた。肉体が幼くなった上に、怒濤の一日で心身共に疲弊していただろうから、当然だろう。僕たちは彼が完全に眠ってしまった事を確認してから、音を立てないようにそっと談話室へと移動した。

 

 談話室で向かい合って座ったのは良いけれど、魔法側からの見解を少し話しただけで空気が重い。まあ、僕が作った以外の魔法薬が犯罪組織の手にあるのだから、気が重くなるのも当然だけれど。

 

「新一君から魔法薬と同等の反応ですか……組織に悠さんと同じ魔法使いが?」

「その可能性がないとは断言できませんが、僕は低いと思います」

「あの薬が毒薬として認識されているから、だよな?」

「そうだね。今回、新一君の身に現れた幼児化……若返りほど、古今東西資金集めに有効なものはありません。

 なのに組織の幹部でさえ、この目を見張る効果を知らない。もし製作者すら認識していないのであれば、これは再現の難しい極めて稀な副反応なのでしょう。

 ──もしかしたら、幼児化する工程に身体が耐えきれず、結果的に死亡するからこそ毒薬と認識されているのかもしれませんね」

「いつか、この隠れた本質も見つかるかもしれないってことか」

 

 遺伝か、体質か、当日摂取した飲食物か……どれが要因かわからないけれど、奇跡的な確率で幼児化に成功したのだろう。それも、臓器の機能まで正常な魔法薬に限りなく近いものを。

 

 効果が継続する魔法薬の調合は非常に難しい。身体変化であれば、トレイ先輩のユニーク魔法「薔薇を塗ろう(ドゥードゥル・スート)」のように、一時的に上書きするような時間制限付きのものが一般的だ。長い効果を発揮する魔法薬でも、本人の代謝によって細胞が入れ替わり、いずれ効果が切れる。

 安定した反応をし続ける魔法薬の作成には、ツイステッド・ワンダーランドでも希少な動植物や鉱物が必要だった。それを使用せずに半永久的な効果が出るのは、妖精族の祝福くらいなもの。だけど、以前そのまさかの永続効果を持つ魔法薬を、この世界の材料のみで作ってしまった前例がある。そう、僕が犯人です。

 犯罪組織でも、新薬作成にうっかり魔力を帯びた材料を使ったとか、土地柄魔力に満ちていたとか、条件が嚙み合ってしまう可能性は否定できない。

 

 まあ、それはそれとして、だ。摂取したマウスが大半死に至っているため、この魔法薬は酷い出来のもの。そんな不良品な代物を、魔法士だと自負する僕が放置なんて出来るわけがない。

 

「風見さん」

「! はい」

「今まで聞かないようにしていたけれど、僕にも今回理由ができました。降谷さんの許可を取ってからでいい、その組織について話を聞かせてください」

「悠君」

 

 ヒロさんが咎めるように僕を呼ぶ。心配されていることは承知の上だ。世の中には、知ることによって降りかかる危機があるのは知っている。だけど、もう傍観者でいられないよ。

 

 魔法が関わるのならば、それは僕の舞台なのだから。

 

「このままだと死因不明の被害者が増え続けることになる。その中に新一君と同じく幼児化して助かる人がいたら、さらには組織にその人が見つかってしまったら……より一層被害は拡大する」

 

 新薬は既に新一君に投与されてしまった。はじめてが終わってしまえば、組織はよりデータを取るために人体実験を重ねることだろう。それでも、毒薬と認知されている方が安全だなんて、酷い話があったものだ。

 目標として最低でも、薬のレシピや研究結果を処分しなくてはならない。再現ができないように、徹底的に。

 

「新一君の件がある程度収まったら、あらためて聞きます」

「……一度話を通してみます。希望通りになるとは限りませんが」

「承知しています」

 

 許可がでないうちは僕も動くつもりはない。大人しくしていることで、僕の危険度を下げているのだから、しばらくは静観が続くだろう。

 後は、新一君の今後についてかな。

 

「公安としては、彼をどうするつもりですか?」

「おそらく『工藤新一』としては死亡してもらう事になるでしょう」

 

 風見さんは淡々とした声音で言う。やはり、この選択以外はとれないだろうね。『工藤新一』が生きている限り、犯罪組織の手は何度も伸びてくるだろうから。

 逆に、新一君の死亡が確認出来た時点で、実験一人目としてのみ記録が残ることになる。彼は今まで一般市民として生きてきたのだから、引っ掛かる記録自体が存在しない。その上戸籍さえも途絶えてしまえば、今の彼を見つけることは不可能だ。

 

「死亡の発表と名前を変えてこの町から離れれば、彼の安全は確保できる」

「問題は本人が拒否した時ですね。預かり先を抜け出して一人で黒い服の男たちを探しに行きそうです」

「嫌な想像だなぁ」

 

 話を聞く限り、思慮深く熟慮できるのに、感情制御が下手で行動力に溢れている彼。放っておくと、本当に何するかわからない。あっさり監視を捲きそうだ。そんな僕の言葉にヒロさんが辟易とした声を出した。

 

「そこで相談なんですけれど」

 

 僕からの提案に二人は驚いた顔を浮かべたけれど、しばらく黙り込んだ後、確認すると強く頷いてくれた。

 

 

* * *

 

 

 コンコン、と木を叩く音で目が覚めた。

 もぞもぞと掛け布団から出て、自分の部屋と異なる内装に気づいてオレは身体を強張らせた。目線を下ろせば、見えるのは布団を掴む小さな手。本来の身体とあまりの大きさの違いに気分が落ち、オレはため息をついた。心の底から残念なことに、昨日の出来事は夢じゃなかったらしい。

 

「新一君、起きているかな?」

「はい。起きてます」

「よかった。朝ごはんの準備がもうすぐできるから、枕元にある上着を羽織ってから出てきてくれるかい。洗面台に案内するから」

「わかりました」

 

 声の主は昨日オレを助けてくれた悠さんだった。指摘通りに枕元に置いてある上着を広げてみれば、丁度今のオレのサイズの厚手のパーカーだった。わざわざ用意してくれたのだろうか。

 

 手早く着替えてから、子どもサイズのスリッパをつっかけてドアを開ける。その先に立っている悠さんは二コリと笑っておはようございますと言った。

 

「おはようございます」

「顔色も良くなったね。じゃあこっちが洗面所だよ」

 

 手招きしてから歩く悠さんの後を追う。今のオレの歩幅を考慮してか、ゆっくり歩いてくれているため、小走りはしないですんだ。悠さんの後ろ姿は姿勢がまっすぐで、ブレがない……なにか格闘技でもやっているのだろうか、細身の印象を受けるがよく見ればしっかりと厚みがある。

 悠さんは職業を便利屋だと言った。便利屋とは、様々な雑事の代行業務を行うサービス業者、オレの夢である探偵もその中の一つだ。便利屋は多種多様な方向性があるといっても、その報酬は決して多くない。

 ちらりと壁に設置されたライトを見る。アンティーク調の電灯かと思ったがこれは違う、アンティークの燭台を電灯に改造したものだ。その電灯が廊下に一定距離で配置されている……平均的な便利屋の報酬で、これらを手に入れるのは不可能だ。悠さんのゆったりした振る舞いを見る限りは、裕福な家だからという答えが一番予想が容易いけど。

 

 悠さんが階段の横のドアを開けてオレを手招きする。部屋の中を覗き込んだ先に、洗面台の前に踏み台が置かれているのを見て、何とも言えない気持ちになった。

 

「戸惑う気持ちもわかるけれど、少しずつ今の身体に慣れていこうね」

「はい……わかってはいるんですが」

 

 今のオレが何歳の姿なのかはわからないが、たぶん小学校入学よりも前だと思う。幼稚園時代と思えば、踏み台を使うことはむしろ当たり前なんだけど、やっぱり戸惑うことは止められそうにない。

 

 洗顔後に渡されたタオルで顔を覆いつつ、オレは吐きそうになる息を飲み込んだ。

 

 

 食堂で出された朝食はシンプルな洋食だった。焼きたての香ばしいパンにとろとろのスクランブルエッグはとても美味しかった。料理を作ったのは弘田さんだそうだ。そういえば、昨日のサンドイッチも美味しかったけど、悠さん達は便利屋稼業の依頼で、レストランで働いていたこともあるのかもしれない。

 

 朝食の席に着いたのはオレと悠さんと弘田さんだけで、警察官の飛田さんの姿はなかった。聞けば、昨夜のうちに職場に戻ったらしい。一年前くらいから捜査一課の目暮警部達とは事件の度によく会ったけど、飛田さんは見かけたことがない。どこの部署なのかと首を傾げる。

 

 彼がこの家に来ていたのは俺が起きる前、黒ずくめの男達について話す前だ。だから銃や薬物の対応をする組織犯罪対策部ってわけじゃないだろう。

 私服を着る部署には間違いないと思うが、刑事以外の部署となると──

 

「新一君、今いいかな?」

「あ、はい。なんでしょうか」

 

 悠さんの声で巡らせてた思考を止める。振り向いた先には、タオルと服を抱えた悠さんがいた。

 

「昨日、お風呂入ってないでしょ? よかったら僕と今から入らないかなと思って」

「あー」

 

 たしかに、昨日は一日中外にいて、汗まみれに土まみれに濡れネズミだった。起きた時は着替えさせられていたので、すっかり忘れてた。

 

「傷の状態を確認してからになるけど、どうかな」

「入れるんだったら是非」

 

 全身ずぶ濡れになったからか、または寝ている間に清拭してくれたのか、あまり汚れているという感覚はないけれど、すっきりしたい気持ちが湧き上がってきた。

 

 了承したオレは悠さんの先導に続き、地下への階段を下りる。身体が小さくなったせいか、とても降りにくい。一段一段がやけに高く感じる。

 時折悠さんが振り向いてオレの確認をしている所を鑑みれば、階段を踏み外して落ちてこないか心配されているのだろう。……ハハ、笑えねー。

 

 心労を溜めながら何とか降り切った先の風呂は、個人宅にしては随分と広かった。いや、これ小さな銭湯か温泉くらいはあるぞ。

 

「すげー……!」

「うちのこだわりスポットだからね。じゃあまず傷を確認しようか」

 

 オレは脱衣所にある椅子に座り、悠さんは丁寧な手つきで頭の包帯を外していく。

 

「ん-、出血も浸出液もなくて、かさぶたになっているね。これなら入浴はできそうだ」

「ホントですか」

「頭を洗うのは大変だろうから手伝うよ。それじゃあ一人で脱げそうかな?」

「たぶん……」

 

 小さくなったからといって、自分の世話ができないほどではない、と思う。恐る恐るボタンに指をかけて、無事外せたことにほっとした。次のボタンに挑もうとした時に、隣で悠さんも服を脱ぎだした。

 どうにか全部脱いで服を畳んだ後に見上げると、悠さんと視線が合ってニコリと微笑まれた。……文学青年の見た目に反してすげぇ筋肉ですね。これが細マッチョってやつか。

 

 オレもこんな感じになりてーな、と促されて湯気の立つ浴室へ進んだ。

 

 

***

 

 

 正午を過ぎておやつの時間になったころ。本田邸に来客を告げるチャイムの音が鳴り響いた。

 

 談話室で弘田と新一の二人とお茶をしていた悠は、カップをソーサーに戻してローテーブルに置き、立ち上がる。

 

「あ、依頼人が来たならオレは部屋に戻っておきましょうか」

「いやいや、大丈夫。便利屋の仕事じゃないから」

 

 弘田が手を振って気を聞かせようとした新一を押しとどめた。本日の万屋灰猫は何も依頼を受けていないため、来訪者は依頼人ではない。悠はインターフォンに向かってボタンの操作をすると、再びソファーに戻って座りなおす。

 

「新ちゃん!」

「母さん!?」

 

 数分後、談話室に飛び込んできたのは、亜麻色の髪の女性。ソファーに座っている新一に気づくと、駆け寄ってその小さな体を抱きしめた。

 

 唐突な母親の登場に、わたわたと手を動かしている新一。彼が驚いたのは、彼女は居住地をアメリカにしているため、突然現れたことで軽くパニック状態になっていた。その驚く姿を微笑ましく見ていた悠だが、次に入ってきた飛田にお疲れ様ですと笑顔を向けた。

 

「そちらが新一君の……」

「はじめまして、工藤優作です。愚息がお世話になったようで」

「はじめまして。本田悠です」

 

 飛田の後から姿を現したのは、黒縁の眼鏡と整えられた髯の男性。新一の父親だった。昨日夜の時点で飛田が呼び、アメリカのロサンゼルスから新一の両親が到着したのだった。

 友好的に握手を交わす二人。悠の手を握りながら、優作は息子を保護した相手の人となりを探ろうとしたが、向こうで新一が苦しいと母親の腕をタップしているのが見えて、おもわず苦笑した。

 

「申し訳ない、妻は気持ちを抑えられなかったようです」

「御子息の命の危機となれば当然でしょう。お気になさらずに。さあ、工藤さんも座られてください」

「ありがとうございます」

 

 息子に抱き着いている妻を促し、優作は三人掛けのソファーへ腰を下ろす。父さん、と新一の小さな声に、父親は穏やかに微笑んだ。

 

「まったく、私心臓が止まるかと思ったのよ? 初めてよ電話の内容でそう思ったのは」

「すいません……」

「まあ、無事とは言い切れないが……お前が生きていてよかった」

 

 抱きしめていた息子の身体を解放し、あらためて初対面同士で自己紹介をした後、新一の母である有希子はジト目で我が子を見た。肩身が狭そうな息子へ優作は眉を下げながら薄く笑いかける。

 

「ねぇ、新ちゃん。私たちと外国で暮らしましょう?」

「……え?」

 

 有希子の言葉に、新一は小さく疑問の声を出した。見上げた先の母の顔は、いつも通り美しい笑顔だったが、新一にはどこかこわばっているように見えた。

 いつもとは違う母の態度に戸惑っている新一へ、優作は語りかける。

 

「新一。お前これからどうするつもりだったんだ?」

「どうって、元の身体に戻るためにどうにか黒ずくめの奴らを捕まえて、俺が飲まされた薬を手にいれたいけど……」

「それはお前ひとりで出来る事じゃないってことは、わかっているな?」

 

 穏やかな口調の優作に、新一はすぐに反論が出来なかった。

  ──それは、理性では理解していることだったからだ。口を噤んだ新一に、有希子はそっと小さな手を取った。本当に小さい、懐かしさを感じる柔らかな手を。

 

「ねえ、新ちゃん。それは子どもの新ちゃんがやることなのかしら?」

「オレはもう子どもじゃ」

「子どもよ。まだ成人もしていない十七歳の子どもなのよ、新ちゃんは。逮捕権を持っているわけでも、捜査権を持っているわけでもない、子どもなの」

「!」

 

 有希子は幼くなった息子の頭をなでる。頭に受けた傷は、もうかさぶたになって大事はないと聞いた。毒薬を飲まされたと聞いて、心配していた体調が悪いそぶりも無く、元気な姿を見て安心もした。けれど、自分に似て無鉄砲な息子の性格は、誰よりも知っている。

 

「お前が父さんの真似をして捜査に協力していることは知っているさ。だが、あくまで協力だ。お前主導で警察を動かせるんじゃあない。──それは父さんだって同じだ」

「ちょっと話を聞いただけでも、子ども一人で追えるような相手じゃないってわかるわ。ひとりで、しかも今は幼い姿で、どうするつもりなの?」

「そ、れは……」

 

 ここで釘を刺さなくては、自分達は息子を失ってしまうだろう。そう確信しているからこそ、彼らは新一の詰めの甘さを追及していく。

 一人暮らしを許し、思春期に傍に居なかったこと。高校生探偵として名前が売れ、多くの人が新一を褒め称えたこと。際立った才能があったこともこの場合は禍いしただろう。どこかまだ精神が幼い息子は、幼児的万能感を持ってしまっている。自分は何でも出来ると、自分は害されることはないと、盲目的に。

 

「日本にいることが危険だって、新ちゃんだってわかるわよね。万が一新ちゃんが生きていると知られたら、次は命がないことだって」

「命を失う方が楽な可能性だってある。捕らえられて、実験体にさせられるかもしれない。なにせ、お前という若返った実証があるんだ」

 

 新一の敵になりえるのはその犯罪組織だけじゃない。国の正式な研究所でさえ、倫理を踏み外して研究対象にする可能性は否定できない。それを防ぐためには、今の環境から切り離すことが最善だと優作は考えた。

 

「だから、新一。父さんたちと外国に行こう。それが一番、お前を守るのに安全だ」

 

 三年前に許したわがままは、今回はもう聞いてやれない。新一は父親が目でそう言っていることを悟った。本来であれば三年前、新一は両親と共にロサンゼルスに移住するはずだった。新一が断固拒否したため両親だけが移住することになったが、今回それは許されないらしいと理解した。

 

 だけど、と新一は拳を強く握りしめる。

 それを選んでしまえば、両親は二度と新一が事件に関わることを許さないだろう。日本を離れて、安全な場所で、小さくなった身体が成長するまでは、確実に。

 今だって、出来ることは殆どない。探偵に必要な身体能力すら、今の新一は失ってしまっている。変わらないものは、知識を詰め込んだ頭だけだ。

 外国に行ってしまえば、本当に何もできなくなってしまう。新一にとって、それは選び難いことだった。

 

「ひとつ、僕からも提案してもいいでしょうか」

 

 親子の会話の流れを止めまいと様子を見ていた悠は、穏やかな声音で挙手をした。室内全員の視線が集まったことを把握してから、ゆったりと新一に向かって言う。

 

「新一君。君がこれまでの人生を全て捨てられるなら、この国に残る方法がある」

「すべて、って」

「全てだよ。名前も、これまでの経歴も、家族や友人達とのつながりも、全て」

 

 この日本に残るのならば、『工藤新一』の死亡の公表は必須だ。生存の疑惑が出るたびに『工藤新一』の人間関係は洗いなおされ、下手をすれば友人知人に害が及ぶ。それを防ぐために一切の全てをリセットすれば、情報を辿られることはなくなる。

 

「この国に居たいのなら、君は別人として生きなくてはならない。今の君の死を事実として、世間だけでなく戸籍にだって刻まなくてはならない。そうでなくては、君の安全を確保できないからだ。もちろん、ご両親の安全もね」

 

 悠の指摘に、新一は息を飲む。彼は此処へ駆け付けた両親が、危険な橋を渡っていることを考えていなかった。一人息子が殺されて、または行方不明になった翌日に来日した実の親。新一に薬を盛った犯罪者にそれがどう映るだろうか。

 軽い口調で、なんてことないさと息子を匿うことを両親は告げた。その先は神経をすり減らす日々になるだろうと気づいていながら。

 

「君に、その覚悟はあるかい?」

 

 その愛情を、その覚悟を蹴とばしてでも、貫き通すエゴはあるか。そう聞かれて、新一は無言でしばらく考えた後、隣に座る父親へ視線を向けた。

 

「父さん達と外国に行ったとして──オレが工藤新一を捨てるのは同じなんだろ」

「おや、バレたか」

「まあ、二人目の息子ってことになるわね」

 

 ちょっと伏せた事実に気づかれてジト目で見られた優作は、苦笑いを浮かべる。

 

「それなら、オレは日本に残りたい。オレ一人じゃ出来ることはとても少ないけど、それでも、何もせずに日々過ごして、結果を待つだけなんてできない」

「家族を捨てて、か?」

「表立ってだけだろ! わざわざ悲しそうな顔作るんじゃねーよ、バレバレなんだよ!」

 

 第三者からすれば本心からの悲壮な表情だったが、息子にとってはあからさまだったのだろう。悲しい表情を作った優作に新一は怒鳴った。

 

「むう、これで今までは騙されていたんだが……」

「おいこのクソ親父、後でいつやったか聞くからな……!」

「クソ親父!?」

 

 優作がガラの悪い呼称にショックを受けているが、普段からからかってばかりであれば、そのうち呼び方が変わるのは時間の問題だったろうな、と警察官二人は心の中で呟いた。なにせ御子息は思春期なので。

 

「それじゃ、新一君に僕から一つの提案だ」

 

 親子のじゃれあいをくすくすと笑って見守っていた悠は、ピンと人差し指を立ててウインクする。

 

「僕の息子になって、この家で暮らさない?」

 

 

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