此度の被害・・・腹を切るより他にあるまい(ガチ)   作:白白明け

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皆様の暇潰しになれば幸いですm(_ _)m





神風2度吹いた

 

 

「・・・立て。俺は、立たねば成らぬ。・・・飛べ。ヒーローだろう。俺は、まだ、ヒーローなのだろう」

 

急激なカロリー消費に伴う手足の痺れと寒気。振るえる身体を、刀を杖にして立ち上がらせて、進撃を続けるギガントマキアを見据える。

既にギガントマキアが蛇腔市内まで到達するのに幾ばくの猶予もない。

身に纏う具足の重さに足が動かない。刀を握っている筈の手の感覚が消失していた。

墜落の際に身体は地面をおろし金のようにして削られている。滲む血が地面を赤く染めた。

満身創痍。ヨロイムシャの老体には既に余力は無い。身体が地面に倒れて眠れと告げている。

生存本能は既に戦闘を放棄していた。しかし、それでもヨロイムシャは倒れない。

彼を立たせて縛る物。それは多くの人々に託されてきた襷だった。

 

彼より先にヒーローを辞した者たちが彼に託していった意思。

それが彼を雁字搦めに縛り付け、ヒーローとして立たせ続けている。

 

「求(・)め(・)ら(・)れ(・)る(・)限(・)り(・)、ヒーローで有らねば成らぬと言う強迫観念(呪詛)。それを、疎ましく思う日もあったが・・・今は心強い。俺はまだ、ヒーローで有(・)ら(・)ね(・)ば(・)成(・)ら(・)ぬ(・)ッ‼」

 

老体に鞭を打ち。若い命を守る為に戦う武士。それを英雄(ヒーロー)と呼ばずして、誰を英雄(ヒーロー)と呼ぶのだろう。

その姿。正しく最後の(ラスト)侍(サムライ)。故にその背に触発される者は必ず現れる。

 

「ヨロイムシャ!」

 

立ち上がった彼の元に駆けつけてきたのは、雄英高校ヒーロー科の生徒たちだった。

彼らを取りまとめギガントマキアに膝を突かせた天才-雄英高校ヒーロー科1年A組の八百万百が代表して、彼の前に立つ。

 

「小童共が、何のようだ?」

「ミッドナイトを保護しました。そして、貴方に指示を仰ぐ様に言われています!私たちに貴方の手伝いをさせてください!指示をください!ヨロイムシャ!」

「フンッ、小童共に何ができる」

「私たちには、ヒーローの使命に命を懸ける覚悟があります!」

 

八百万百の言葉に周囲の生徒達も力強く頷いている。

眉目秀麗な少年少女がそんな事を言うのを聞いて、ヨロイムシャは心の底から悲しくなった。

彼が若かりし頃、女とは家を守るものだった。子供とは守られる存在だった。

そして、そんな彼らを守る為に“敵”と戦うのは男の役目だった。

無論、わかっている。時代は変わった。今の時代、男より強い女もいるだろう。世代を経る毎に複雑化する個性は子供を大人より強くしているのだろう。

そういう者たちが命を掛けて戦うと言う。

これが次代(時代)だ。

しかし、これをヨロイムシャは受け入れられない。

確かに大切なモノを守りたいと思う気持ちに性差などないのだろう。

年齢など些末の問題なのだろう。

しかし、それでもヨロイムシャは前世紀を知る者として、頭を振らなければならない。

 

「簡単に命を賭けると小童が言う。この国が“戦争”を忘れかけている証拠じゃわい」

「・・・え?」

「嘗て、この美しい国は過ちを犯した。国の未来を守る為、未来ある若者を犠牲にした。そして、年寄り共だけが生き残った。小娘、俺にその過ちを繰り返せと?」

「・・・あ、・・・いえ、私たちは只、ヒーローとしてやるべきことを!」

「貴様ら小童が、決死の覚悟で敵(ヴィラン)と戦うのは良いだろう。だが、必死になるのは爺の役目‼」

 

意地(プライド)を張れ。

矜持(プライド)を曲げるな。

誇り(プライド)を胸に戦え。

 

心に火を灯し、“原点(オリジン)”を思いだす。

とおい昔、自分が何のためにヒーローに成ったのか。

それは二度と、祖国が同じ過ちを犯さない様にするためだった。

 

「“生きよ”。小童共がやるべき事などッ、他に何一つ有りゃせんわいッ!」

 

“散りゆく桜は、二度と元に戻る事はない”。

前世紀の大戦の末期。それはこの国が産んだ死の桜。

特別攻撃部隊。通称、特攻隊。命を部品にした玉砕特攻(カミカゼ)。

その善悪を論ずる気はヨロイムシャには無い。

しかし、そう言う時代は確かに存在し、歴史は自ずと繰り返すものだ。

だから、その“最悪”がもし再び訪れたのなら、その役目を今(・)度(・)こ(・)そ(・)自分が果たすために彼はヒーローに成った。

 

老兵は死に場所を探していた。

 

「ッ⁉しかしっ―――」

「お前さん、確か八百万とか、言ったな。俺の事務所に来た小童共から冷静な判断が出来る奴だと聞いている。ヒーローを探し共に戦線を離脱せよ。アレの始末は俺がつける。文句を言う若(・)僧(・)がいれば、言っておけ。文句を言いたいなら、俺より長生きしてからにしろとな」

「・・・私たちは、足手まといにしか、なりませんか」

「フンッ、他の若僧(ヒーロー)共も同じよ。俺の死地に俺以外の死は要らん」

「わかり、ました・・・」

 

ヨロイムシャは俯く八百万百の頭に手を置き、ゆっくりと撫でる。

八百万百は涙を堪えていた。

ヨロイムシャは八百万百から視線を外し、周囲に居る雄英生徒達を見る。

全員が悲痛な表情を浮かべている。それを見て、ヨロイムシャは不快感を隠そうともせずに鼻を鳴らす。

 

「フンッ、なんちゅう表情(かお)じゃ。小童共。顔を上げろ。前を見ろ。俺の生き様を目に焼き付けろ。いつの日か、おまえ達にも必死に成らねば成らぬ日が来るかもしれぬ。それを嘆き、恨み、嫌悪せよ。そして、俺の生き様を僅かでも愚かだと思うなら、おまえ達が二度と、俺のような愚かな漢の産まれぬ未来を築け」

 

個性『劔冑(つるぎ)』。老体に残る熱量(カロリー)。決死の覚悟で捻出していたそれを必死の覚悟で絞り出す。

ブーストエンジンに火が点る。

そして、唸りを上げて再び飛翔する。

 

この日、蛇腔の空に神風は二度吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

“未曾有の大災害”から数日後、具足を脱いだヨロイムシャの姿が記者会見場にあった。

 

「此度の被害、腹を切る他にあるまい」

 

その一言から始まった会見は静寂に包まれている。具足を脱ぎ、鎧兜を脱いだヒーローの姿をテレビカメラが映す。画面越しの視聴者たちは、車椅子に乗る枯れ木のような老人を見る。

 

「先達としての矜持を示し、魔王を討つこと能(あた)わず。若輩と侮った者たちに後を託し、表舞台から退くほかにない俺の無様さをどうか許して欲しい」

 

彼が許しを請う必要などないことは、会見場の誰もが知っていた。

蛇腔の空に吹いた二度目の神風は、確かにギガントマキアの頸を斬った。しかし、それでもギガントマキアの進軍は数分間に及び止まらなかった。

魔王の先兵であり最強の守護者と呼ばれた“歩く災害”は、文字通り大きすぎる被害(きず)を残して死んだ。

 

その責任を”生き残ってしまった“ヨロイムシャは一人で取ろうとしていた。

 

「先の事件。俺は他のヒーローの介入を拒否した。その結果が、コレだ。全ての責任は俺にあり、他のヒーロー達に及ぶモノでは無い」

 

そう言い切るヨロイムシャの発言に記者の一人が質問を投げかける。

 

「しかし、それでは世間は納得しないでしょう・・・。それに、ヒーローの責任を追及する声は、日増しに増えています・・・」

 

投げかけられた質問には力が無い。記者である彼自身もこれ以上、痛々しいまでに弱っているヨロイムシャを追い込むことに罪悪感を覚えていた。しかし、それでも職務として出さなければならなかった質問に対して、ヨロイムシャはゆっくりと頷くと静かな口調で続ける。

 

「先の事件に端を発し、ヒーローを辞する者が相次いでいることは知っている。だが、俺にはそれを責めることは出来ない。俺を、見ての通りだ。ヒーローとて、一人の人だ。老いもする。恐怖に竦む足がある。死を前に生を望む事を、誰が責められよう。社会が個人に、ヒーローに必死を強いる事は、断じて許して良い事ではないと考えている」

 

必死の覚悟で身を投げた者の言葉だからこそ、もう誰にも何かを言うことは出来なかった。

記者達は次の質問に続く。

 

「では、次に・・・№1ヒーロー、エンデヴァーの責任についてはどう考えていますか?」

 

超常解放戦線幹部-荼毘により明かされたエンデヴァーの拭えぬ過去。

奇しくも“ヒーロー”が、その意味を今(いま)一度(いちど)、問われている現状で、そのスキャンダルを民衆は無視することが出来ずにいた。

奇しくも“ヒーロー”が、篩(ふるい)にかけられている。

そして、人々はその責任の全てを一人の男(エンデヴァー)の肩に乗せている。

 

ヨロイムシャは少しだけ考え込む様に目を瞑ると、批判を覚悟で己の考えを口にする。

 

「俺は現代では虐待とされるだろう躾が横行していた時代の人間だ。故にエンデヴァーの話を耳にした時も、正直に言ってトップヒーローの家庭における躾の範疇。他人が口を挟むことではないと思った。故にその善悪を俺が語る資格はなかろう」

「しかし、エンデヴァーの“過去”が荼毘という敵(ヴィラン)を産み、多くの死者が出ています。それは消えない事実です」

「“過去”が消えぬというのなら、エンデヴァーが“過去”、築き上げた実績が消えることもない。事件解決数№1ヒーローを、俺はこれからも応援したいと思っている」

 

ヨロイムシャの見解に対して会場がザワつくが、記者達の聞きたかった答えが聞けた事でこの質問は終わりと成る。

そして、最後の質問がヨロイムシャに投げかけられた。

 

「ヨロイムシャ。貴方のヒーロー人生は、納得のいくものでしたか?」

 

投げかけられた質問は彼の人生を問うものだった。

国がヒーローを保証するより前の時代。ヴィジランテ時代を経てヒーローとなった、この国最古の現役ヒーロー。

若かりし頃、一時代を築いたヒーローの晩年は決して綺麗なものでは無かったことを誰もが知っている。若かりし頃の活躍を貯金に程ほどの活躍と程ほどの名声でトップ10入りを果たし続けていたが、もっと早くに引退の決断さえしていれば彼は喝采を持ってヒーロー人生を終えられていた。

だから、後悔は無いかと問う社会の声にヨロイムシャは、不(・)満(・)げ(・)に(・)鼻(・)を(・)鳴(・)ら(・)し(・)た(・)。

 

「フンッ、後悔がない。と、言えば嘘になる。じゃが、その後悔とは、先の事件を被害無く止める事が出来なかったことに対してだ。それ以外に俺のヒーロー人生に一切の悔いは無い」

 

具足を脱ぎ、鎧兜を外した枯れ木のような老人。

しかし、その目に確かな光りを宿しながら、彼は言う。

 

「刀を握り、七十余年。ヒーローとなり、六十余年。人に求められ続けた俺の人生は、幸せだった」

 

 

 

こうして№9ヒーロー-ヨロイムシャは引退を表明した。

 

 





僕の考えた最強のヨロイムシャはこれにて完結です。
皆様の暇潰しに慣れたなら、幸いです\(^o^)/

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