秦・恋姫†無双   作:aly

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ようやくです。なんとか最終話まで書き上げることができました。
ニッチな分野な上、余計にマイナーな改変をしたので中々ハマれるという方も少なかったかと思います。それでも恋姫ならば、と目を通し続けてくれた方にはとても感謝しています。
現在の私に届けられる最終話です。どうぞ。


凱旋

 ようやく訪れたその日。ガイウスは見納めになるであろう自室を丁寧に清掃し、ララリウムを荷物に収めて早朝に建業を馬車で出立した。

 彼よりもずいぶん早く鄴の造船所から出発していた新造船がようやく建業に到着したのが二週間前で、その組み立て作業と安全確認が終わったのが一週間前になる。

 その間はといえば、呉の面々やガイウスとともに陳留を出立した魏の将校たちと昼夜を問わず酒を片手に語り明かした。曹操に語ったローマの政治や経済などについて、まだ十歳やそこらだった頃の記憶を辿りながら荀彧や諸葛亮という三国随一の頭脳を持つ者たちに講義をしたのは、今でも頬が紅潮するやら背筋が凍える心地になる想い出だ。

 一方、ときには孫策や以前水攻めにあったことを根に持っていた趙雲から武を競い合いたいとの誘いを受けたこともあった。それに比べれば孫尚香からローマの海戦を物語としてせがまれることは随分楽な願いで、彼女が部屋を訪ねてきたときはほっとしたものだった。

 劉備たちは一度蜀に帰って、ガイウスとローマへの魏国使節団の船出に合わせて建業に来る予定だったが、何名かはガイウスとともに陳留で過ごして建業にやってきた。董卓に賈詡、呂布、陳宮。そして馬姉妹たちだ。

 馬岱は使節団が創設されるという噂を耳にするやいなや、曹操に直談判をしに行った。ともに一つ屋根の下で暮らした日々や切りあった時、そして何度か見逃されてきた恩が彼女の中で複雑な思いを形成していった。

 しかし曹操は彼女を使節団のメンバーには選ばなかった。その人員は他国の文化を学ぶためのものであり、若い世代に経験させるべきだと考えられていたからだ。もちろん、それらの人員を統括する人物は熟練の将が任命されるのだが、それもまた曹操の脳内で定まっていた。

 そのためか、馬岱は陳留に残ることに躊躇いなく賛同し、ガイウスの屋敷を訪ねては何をするわけでもなく会話に興じることが多かった。諸葛亮たちへの講義も彼女たちの後ろで静かに聴いていた。

 ともかく、平和であった。

 ガイウスは船が完成するまでの日々でようやく中華が統一されたことを実感したと言ってもいい。同時に、役割を果たしたことを噛みしめ、肩の荷が軽くなったように思えた。異人であったガイウスにとっては魏――曹操に役立つことが存在意義だった。

 

「うちの威信をかけた船が出来たで」

 

 扉を開け放つなり少ししゃがれた声で告げた李典がやってきたことでつかの間の平和は終わりを迎えた。彼女はそのままガイウスの寝台に突っ伏して眠ってしまったが、ガイウスにとっては陳留を離れるときがやってきたことを意味する。

 実際には船は鄴から出航するわけではない。黄河は川底が浅いので、喫水の高い外洋船を航行するのに向いていない。したがって、船は一度解体されて陸路にて運送され、建業で再度組み立てられることになっていた。

 数奇なことに、覇を競った呉の地から旅立つことになるのだ。

 今や魏の重鎮となっていたガイウスが大秦に帰郷することは大陸のあらゆる民の知るところとなっていた。彼を直接送り出すことができると思っていた中原の民の反発は強く、曹操は苛立ちの末に完成した船を披露した上で祭りを催すことにした。疑似出航の儀である。

 祭りには中原どころか西涼からも多くの民がやってきた。陳留に入りきらない人々はその郊外に天幕やら小屋を建てて数日間にわたる祭りでガイウスを一目見ようとした。

 

「これは嬉しいというよりも恥ずかしい気持ちのほうが勝りますね」

 

 ガイウスが船の上から民衆に手を振って呟くと、隣に立つ楽進が「確かにそうですね」と応じた。

 彼女は魏の外交団の副長として曹操が選んだ人物だった。職務の遂行に忠実で、他国に利する行為に応じない。ただ一刀の傍を離れることを渋ってはいたものの、その一刀自身が外交団に加わることに意欲的だったので、彼の代理として彼の安全のために話を受けることにしたのだった。

 

「明日には建業ですか。どのような街なのでしょう」

「私も噂にしか聞いたことはありません。陳留より温暖だそうなので、過ごしやすいかと」

 

 祭りの終盤では、ガイウス率いる軍団が陳留の中央路を城門に向かって行進する。城外に出ても各地から集まった人々がその行進を眺めにくるので、ガイウスは数キロもの間緩やかに行進を続けなければならなかった。

 やがてそれらの物見も数を減らしてきたところで、ガイウスは幾人かの護衛と馬車だけを伴に、兵士たちと別れることになった。馬を返して軍団員たちを端から端まで眺める。それはガイウスが子供の頃から憧れていた光景であった。

 

「抜剣」

 

 副団長の一声で兵士たちが剣を抜き、顔の前に掲げる。

 

「団長のこれまでの勝利とこれからに栄誉あれ」

 

 副団長の宣言に続いて地響きが鳴る。眼前の兵士たちが一声に足で土を踏み鳴らしているのだ。ガイウスはその唸りにしばし身を任せると、「さらば!」と大声を上げて彼らを背に馬を走らせた。

 

***

 

 建業の自身の部屋を出ると、そこには呂蒙が待ち構えていた。モノクルの奥の瞳がいつものようにガイウスを観察しているように彼には思えた。

 彼女こそ外交団の団長である。三国の中で若く賢く武も立つとして、曹操が真っ先に選定した人物であった。

 

「よくお休みになられましたか?」

「ええ。もうこの部屋にも慣れたものです。これからは船上で過ごすと考えると少し憂うつです」

「それは私もです」

 

 外交団の船員には呉の出身者が多く割かれている。航海に慣れているためだ。しかし河と海の航海はよほど違うらしく、これまでの訓練でも少なからず死者を出していると聞く。離脱者も多く、最終的な船員として残ったのは優秀な操舵員か命知らずだけだ。

 外交官である呂蒙にとっても完全に安全な航海とは言えない。もちろん、外海用に新造される船であれば、これまでの訓練用の既存の船よりずいぶんマシであろうとは呂蒙も理解している。

 これから正式に完成した姿を見ることになる船のことを思い、呂蒙はガイウスの声を心音がいやにうるさく邪魔をするのを感じていた。

 

「呂将軍ー!」

「呂大使様ー!」

 

 ガイウスは呂蒙の名が民衆から絶えず呼ばれるのを聞いて、建業という町の心地よさを感じていた。彼らは自分を呉を降した魏の将、西凱だとは知らない。日に焼けた肌の多いこの土地ではガイウスの地黒の肌もあまり目立たない。時折町を独り歩きしていても誰も気に掛けないし、呂蒙のような大人物と一緒となれば空気に等しい扱いになる。

 門を出るまでの数百メートルの間、彼らの扱いにあたふたする呂蒙を見ながらガイウスは自由を感じていた。

 門を出てからは馬に乗り、数キロ先にある港へと急いた。今日の式には三国の重鎮だった人々が参列するので遅れるわけにはいかない。既に他の外交官たちも港に到着しているという。

 ガイウスたちが港とに着いた頃、既に多くの人で船着き場はごったがえしていた。劉備や関羽の姿が見える傍らには、蜀から選ばれた人材が訓示を受けており、その家族もまた帯同しており青年の母が涙を流している様子が見えた。

 その傍には馬超らがおり、姜維という魏の統治下にあった西涼で官吏として登用された青年が馬岱に何度も背を叩かれている。一瞬ガイウスと馬岱の目があったかと思うと、ようやく激しい薫陶は終わりを迎えたようだ。

 ガイウスはどこへ向かおうと思ったところで、「凱烏!!」という大声とともに手を振る夏侯惇の姿を見つけ、彼女のところに駆けた。

 まずはよく来たと夏侯惇に痛烈な歓待を背に受け、今度は夏侯淵に向き合った。苦笑しながらもいつものように姉のことを詫びると、すっと真面目な顔になって「淋しくなるな……」と呟いた。

 

「そうだよ! 行かないでよ凱烏!」

 

 ガイウスの腰にぐっと重みが増した。顔を履き慣らした許褚が腰にしがみついている。さらに反対側にも重りが追加された。それが典韋であることは明白だった。

 

「ずっと魏に住めばいいじゃないですか! 私たちでは故郷の人たちに勝てませんか? 私たちとの想い出は足りませんでしたか?」

 

 二人の言葉が的確にガイウスの心を削る。さて、どう説得したものかと考えていると「おい凱烏」と夏侯惇が真剣な様子で問いかけてきた。

 

「それでお前、次はいつ帰ってくるのだ? 二年か? 三年か?」

「は?」

「うーむ。いっそ我らの方から出向き、迎えに行けば船を乗り継ぐ手間が省けんか? もしかして私妙案を言ったか!?」

 

 夏侯惇は顔を綻ばせて夏侯淵とガイウスの顔を順に見た。まるでガイウスがローマに帰って永住するなんて考えていなかったのである。

 

「はは、ははははは!!」

 

 あまりのおかしさにガイウスは腹から声を出して、身体を九の字に折って笑った。

 そうだ。何も今生の別れにしなくてもいいのだ。

 

「ローマでやることを終えたら必ずまた会いましょう」

 

 父母に生存を知らせ、元老院と魏に結びをつけよう。二国間に友誼を結ぶことができたなら、外交団にローマの文化や技術を伝え、伴に魏へ戻ろう。

 一度渡ってしまえば、きっと次に渡るノウハウも得られるだろう。またローマに渡ることもできるだろう。

 そのとき、銅鑼の音が港に鳴り響いた。人々の視線が船の前に築かれた高台に注がれる。そこには外套を羽織った曹操がいつの間にか立っていた。「華琳様、暑くないのかな?」という許褚の疑問にはガイウスもそういえばと感じた。

 

「ここにあるのは魏と、船作りに長けた揚州の技術者による我が最新の傑作である。また、国を新たにして初の大事業である。ここに携わった全ての民に賛辞を贈ろう。そして魏国外交団として十名の若く優秀な人員が大秦に送る。彼らは必ず大秦の優れた技術や智慧を学び取り、今後の交易によって我が国がさらに発展する種を持ち帰ってくるだろう。彼らは大陸全土から選び抜かれた。ここに集う一族の者は誇るがいい。そして外交団の人員たちよ、我が智謀たる荀文若が長を務める賢人臺が汝らの帰りを待っている。必ず汝らの持ち帰るものが国を豊かにすると信じて。海をわたるものへ。幸あれ」

 

 再びの銅鑼の音に、ガイウスは夏侯惇らに別れを告げて船に乗り込んだ。

 船縁には鄧士載が家族に声をあげているのが見える。ガイウスは船尾で水夫たちの状態を確認している呂蒙や孫乾に混ざって出向までの段取りをともに確認した。

 もう出発可能である。そう伝えられてガイウスは西涼で賊に囚われてからのことを思い出していた。

 見送りの人々の顔が見えるところに立ち、また会えるかもわからない人々に、ガイウスはどうしてもこの記憶を伝えずにはいられないと思った。

 

「私は西涼の馬寿成殿の下で初めて漢の地で安寧を得た。馬家での交流は異国とあれど同じ優しさを持った人であることを充分に教えてくれた。洛陽に売られた私を助けてくれた董仲穎殿は誠の慈しみを持った人だった。賈文和殿とともに、私に様々なものと知識を与えてくださった。あの日がなければ私は魏で将軍になることはなかっただろう。そして都での乱の際、孟徳様に拾って頂いた。仮に劉玄徳殿や孫伯符殿に拾われていても悪いようにならなかったと思う。お二方とと立派な方だ。しかし無理難題を平気で投げかける孟徳様のあり方こそが私を成長させ、ローマに胸を張って帰ろうと思わせてくださった。今ここに私が立っているのは魏に拾われ、その後の幾度もの戦で出会った方々のおかげであります。私はローマに帰ります。皆さん、ローマは魏とは違う形の素晴らしい国です。この外交の旅で活発な交流が開かれれば、ぜひ訪れて欲しいと思う。以上、西王秀あらため、ガイウス・リキニウス・アウス」

 

 ガイウスの演説に、人々は当初は何事かと戸惑っていたようだが、彼を知る者を中心に深くその言葉に聞き入った。

 そして演説には拍手が送られ、その拍手を合図に銅鑼がドンドンと景気よく鳴らされ、船が陸を離れた。

 次第、次第に人の姿が小さくなる。声もまた聞こえてなくなる。ついにローマに帰るのだ。 

 交趾郡で最後の物資補給と船の点検を行い、ローマの使節団と合流すると、いよいよ中華ともお別れかと数名の船員が唇を食いしばり、遠ざかる大地を思い思いに見つめた。

 

***

 

 港を出て数時間。随分と日も傾いた。水平線が赤く輝く様子に、「ついに私はローマに帰るのだな」とガイウスは溢した。すなわち、魏を離れたことをようやく実感したのだ。こみ上げる寂寥をぐっとこらえて、船首の船縁に身体を預け空を見上げた。

 そのときである。

 

「やっぱりお兄さんは寂しがりやですね。風がいて正解でした」

 

 声の出どころを探すとそれはすぐに見つかった。船室への入口の傍らで、日陰に彼女は佇んでいた。

 

「風さん! ああ、どうしてここに!?」

 

 純粋な驚きの声色にわずかに喜色が混ざっていることにガイウスは気が付かなかった。

 程昱は扉からゆったりと船首まで歩みを進め、いつものようにガイウスを見上げるところまてまやってきた。いつもの飴も扇もなく、素の表情で彼の前に立っている。

 

「もう魏に風でなければ出来ない仕事は残っていないのですよ〜。風は戦でこそ役立つ身、桂花ちゃんのように民のための政を行うのは得意ではないのです」

 

 確かに戦での鬼才こそが程昱という人物だ。

 

「悪いのはお兄さんなのですよ。ようやくこの気持ちをゆっくり確かめようと思っていたところに国を去ると言うのですから、強硬な手段を選ばなければならなくなったのです」

「気持ち……?」

「愛ですよ。風はお兄さんをずっとずっと前から愛しているのです。どういう形に収めようか考える前にこんなことになってしまったので、答えは一択。お兄さんのお嫁さんにしてもらうしかなくなってしまいました」

 

 幼い身体つきの少女のような程昱の口から出た愛と妻という言葉に、ガイウスは困惑で身体を硬直させた。

 

 「な、なにを言っているのですか。もしローマへ伴をしてくれる、力になってくれるという考えなら言葉を選んでください」

 

 ガイウスの言葉に、程昱はやれやれと頭を振り、一人で陥落させたかったのだがと呟いて、それから甲板の端にある竹の葛籠に向かって問いかけた。

 

 「まったく、堅物すぎて埒が明かないのでこの人の言葉も聞いてもらいましょう。華琳様~」

 

 しばらくの静寂の後、葛籠が左右に揺れる。やがて蓋が開くと、少し横になっていたのか髪に癖のついた曹操が不敵な笑みを浮かべて甲板の上に降り立った。

 これにはガイウスも驚いた。出立前に演説をしていたのは誰だったのか。

 実は数日前から特訓を曹操自ら施した曹仁であった。見た目も近く、声を張った時の声質が最も似ていたことから抜擢されたのだ。

 

「遅いわよ、凱烏。もっと早く見つけなさい」

 

  少し歪んだ髪を気にしつつ、まるで城内でのかくれんぼでガイウスが遅れたことを指摘する程度の気軽さでそう言った。

 

「か……かりん様?」

 

 ガイウスの思考は程昱の登場に加えてさらに疑問に満ちていた。

 程昱は一連の様子を愉快そうに眺めた後、ようやく口を開いた。

 

「ふふふ。どうやら華琳様はお兄さんがいないと退屈で死んでしまう病にかかってしまわれたようでして。国も臣下も、ついでに言えば桂花ちゃんも、ぜーんぶ凛ちゃんたちに押し付けて、付いてきてしまわれたのですよ」

 

 そうだ。このような暴挙を荀彧が許すはずがない。ということは完全な曹操の独断だということだ。

 思えば賢人臺を開き、君主の座を退いたのも全てこのためだったのかもしれない。

 覇王曹操であれば、自らの目でローマを確かめたいと思うのは何度も話を要求されたあの貪欲な知識欲からも理解できる。

 むむ、と唸りをあげているガイウスを見て、程昱と曹操はため息を付いた。

 

「凱烏――ガイウス!」

 

 曹操の口から発せられた流暢な己が名にガイウスは驚いてそれまでの思考を手放した。

 

「我が覇道に終わりなし。しかしここからの伴は数は不要よ。これよりは開拓者、傍にいるのは現地に最も詳しい一人でいいの。逞しく、私への理解があり、私の愛を受けるに相応しいただ一人よ。分かるわね?」

 

 曹操の横顔が赤く染まっている。それは決して西日によるものだけではないのだろう。

 くるくると巻髪の毛先を弄る彼女を見て、ようやくガイウスは彼女と、背後で沈黙している程昱の想いの本気のほどを受け入れた。

 

「美しいですね」

 

 ガイウスは船首から半分身を乗り出して絞り出した。

 

「私にはまだ愛が分かりません。ずっと奴隷だったものですから。でも今なら理解していけるような気がします」

 

 ガイウスの身体が左右から包みこまれ、肘がこつんと弾かれる。

 

「すぐに分かるわ。なにせ覇王と鬼才に見初められてしまったのだもの」

「おう兄ちゃん、愛ってのは一人で抱くものにあらず。ともに育むものなんだよ。と宝慧も言っているのです」

「あら、至言ね。風第一夫人?」

「はて?」

 

 よもや曹操がその地位を自ら手放すとは思っていなかった上、立場などどうでもよいと思っていた程昱は素直にその言葉に驚いた。

 

「ここよりさきは魏ではなくてよ。さきに思いを伝えたあなたこそ第一夫人よ。もちろん、先に子を儲けるのがどちらになるかはわからないわよ」

 

 からからと笑う曹操。早くもリアルな話が両側から繰り広げられているので、ガイウスは居心地の悪さに堪らなかったが、己を左右から包む女性の柔らかな心地を退かすのも忍びない。

 仕方がなく夕日の先に思いを馳せた。

 奇しくも帰郷と同時に妻を紹介することになる。父母に長い不在の罪滅ぼしになるだろうか。果たして二人を気に入ってくれるだろうか。軍人の家ならば快く迎えられるだろう。なにせ覇王と稀代の軍師なのだ。

 ぐい、と左右からの力が強まった。

 

「また何か考えているわね?」

 

 ガイウスの口数が減ったのを感じ取った曹操が問うた。異なることを考えているときにそうなるのはガイウスの癖だ。

 

「はい。ローマのことを」

「私たちも考えましょう。ローマのことを」

 

 

 これは二つの外史が混ざりあった外史。

 中華に未来の少年が落ちてきた外史と、パルティアの戦にローマ人の奴隷が生き抜いてしまった外史。シルクロードを経て繋がった二つの外史は魏によって中華を統一させ、中華の国がローマを訪れようとしている。

 複雑に絡んだ外史はもはや安定した。管理人たちもこの類まれなる外史を興味深く観ている。

 中華に根ざした少年の姿を貂蝉は時折市井のなかから眺めた。管理人アルキメデスはベレニケでエジプトに到達した彼らの船を目を輝かせて迎えた。管理人タレスはローマの道を歩く東洋人たちの姿を感涙して湛えた。

 

 知の巨人たちをして想定外の外史。この外史はまだまだ続く。彼らの痕跡が生き続けていく限り。

 

 

***

 

その後の年表

 

 

20X年 赤壁の戦い

 

20X年 魏国外交団建業を発つ

 

21X年 魏国外交団地中海を通過、ローマに到達

 

21X年 魏国外交団帰路に発つ

 

21X年 アフリカ属州で皇帝を僭称する人物が現れる

 

    ローマ内に軍団の力を背景に皇帝を僭称するものが続出する

 

22X年 属州シリアで内乱が起こるが、軍人ガイウス・リキニウスの活躍によって鎮圧される

 

 

22X年 属州カッパドキア方面の皇帝が南進を始める

 

22X年 属州シリアで東方の軍師を侍らせた青年が軍団の後押しにより皇帝として擁立される

 

22X年 属州シリアに攻め込もうとしたカッパドキアの皇帝を降す

 

22X年 属州メソポタミア、ユダヤ、アラビアを統治下に併合

 

22X年 アラビアの港に東方の魏より船が現れる

 

23X年 皇帝が新たに指名され、東方に再びローマ人が立つ

    傍らには二人の貴人が寄り添っていた




 この物語は円環の物語です。主人公ガイウスが敦煌から漢の大地に入り、海のシルクロードを経て再びローマに帰っていく成長物語。
 そして二つの外史が共存しているという、まだ見たことのない設定を取り入れました。魏ルートでは唯一現世に還らなければならないという犠牲を抱いていますが、その条件は一刀自身の行いによって歴史を変えた場合です。奇しくももう一つの外史からの稀人であるガイウスが夏侯淵を救ってしまったことで、一刀は彼を縛る制約から解き放たれて、他のルートのように中華の大地に根差すことができるようになりました。具体的には描いていませんが、物語の背景でせっせと魏の種馬をしていた一刀はきっと共和政となった魏で重要な役割を担っていってくれるでしょう。
 もう一つ特徴的なのは、ガイウスのヒロインとして風と華琳の二人を選んだことでしょう。風は執筆当初から考えていたのですが、華琳をヒロインにと考え始めたのはローマ使節団が現れ、華琳の私室で二人きりになったときでした。才能を集めることを好み、また自身も頭脳明晰な華琳は、この時点で初めてガイウスに帰郷の可能性があることに気が付いたのでは? と思ったからです。
 
 とにかく、三国志(恋姫)×ローマという異種格闘技のような取り合わせでしたが、恋姫キャラクターたちの描写も含めて楽しんで頂けたなら嬉しいです。

よかったら最後にコメントを残してくれると次回作のモチベーションになります。よろしくお願いします!
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