トレセン学園であった怖い話   作:塩化プラス

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【第一話】メジロドーベル・アイの蹄鉄
【第一話】メジロドーベル/冒頭~A分岐


えっ、アタシが最初?

フクキタルからなのかなって勝手に思ってたけど……大役貰っちゃったね。緊張するけど……うん、一個目の話。させてもらうね。

ええと……雰囲気重視、なんだっけ。あははっ、フクキタルの顔で察した。それじゃ、話す前に自己紹介した方がいいのかな。

みんな知ってるだろうけど、アタシの名前はメジロドーベル。よろしくね。

 

どう話したらいいのかな……七不思議について、なんて。

……ああ、そうだ。起承転結が必要なんだから、まず起から。創作にしろ事実にしろ。こういうものって順序立てて話さないといけないもんね。

 

で、この催し自体にバッテン付けるようなことを言っちゃう感じになるんだけど……学園にまつわる七不思議なんてもの、おばあ様が言うにはそんなものないんだって。

ああでもゼロって意味じゃないよ。むしろ逆。なんでも七不思議じゃ収めきれないくらい不思議な話があるからなんだって……

身も蓋もない話から入ってごめんね。でもね、これからアタシの話す内容は、そんな沢山ある不思議のなかのひとつ。そう思って聞いてくれると嬉しいな。

それでね、みんな。

トレセン学園で昔から有名なおまじないのこと、知ってる?

 

1・知ってる

2・知らない

3・ドーベルはどうなのか尋ねる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その噂なら……」

 

確か以前にスぺちゃんが言っていたような気がする。

蹄鉄を、どうとか。交換して走る、とか。

何か恋心とかそういうものに対してのおまじないだったような……

うろ覚えながらに答えると、ドーベルは感心したような表情でうなづいた。

 

そうそう、スズカの言ってるそのおまじないで多分合ってるよ。

まあこの学園は広いから、この手のおまじないって幾つもあるんだけど、蹄鉄がらみのものはこれが一番有名だからね。

うん。省いても大丈夫だとは思うけど、とりあえず。説明話をさせてもらおうかな。

知らない人もいるかも知れないから。念のためね。

 

まず、そのおまじないについてなんだけど、けっして複雑なものじゃない。

レースをするウマ娘の告白のお約束は流石に知ってるよね?

想い人に蹄鉄を渡しながら告白するってやつ。それのちょっと変化版って感じかな。

好きな相手がいる友だちと蹄鉄を交換して、ちょっとした手順を踏んで告白する。たったそれだけ。

蹄鉄は普通に使ってるやつでも良いらしいけど、身体に合わない蹄鉄で走るのは危ないから、一緒に選んだやつを使うんだって。メジロの目線で見なくても、蹄鉄ってウマ娘学割利くから意外と安いしね。

そしてその蹄鉄でレースをして。良い勝負が出来たなら、交換したやつを返してもらって。

そのあと、想い人に蹄鉄を渡して告白すれば。焦がれるだけだったその想いはきっと成就する。そんなおまじないなんだ。

……ええと、なんかみんなやけに目がキラキラしてるね。

理由は……聞くだけ野暮かな。とりあえず、続けるね。

 

このおまじないの良いところってさ、自分に自信が持てるってところにあると思うんだ。好きとか嫌いってすごく曖昧な価値観で、それに双方向性……えーっと、互いに向き合っているかわからないものでしょう。見えないものは怖いから、つい踏み出すのを恐れてしまう。でも、おまじないをしていたのなら。様々な障壁が取り払われる。今だったら挑戦できる。そういう気持ちにさせてくれる、ううん、強迫観念染みた、しなきゃって意思に変換してくれるんだ。

 

レースが終わったあとって高揚感でいっぱいでしょう?

勝つとなおのこと、自分の生きた心地ってものに対して拍車をかけてくれる。そこに、あの時した眉唾ものなおまじないが、もっともらしい理由に取って代わって。

万事控えめな女の子たちを、これからの人生を左右する大舞台にまで引き上げてくれる……

 

ケ、だったっけ。そうそう、八卦のケ。あれと一緒だと思う。

おまじないは絶対だって、真っ正直に信じる子の方が少ないだろうしね。

当たるも当たらないもおまじない。叶ったなら成就させてくれたんだって嬉しくなるし、叶わなくてもおまじないだし仕方ないって割り切れる。都合の良い解釈を許してくれてるんだ。

瑠璃色か玉虫色かも分からない、他人の心情っていう色味の強い宝石たちを掴み取るための、最初の一歩をくれるもの。

要するにこのおまじないはさ、勇気のない女の子の背中を押してくれる、プラス思考のヘルパーなの。

 

おまじないの名前は、知ってるひとによってまちまちだけど……

一番有名な名前だと……愛の蹄鉄、だったかな。

……え、それなら知ってる?

そっか、この通称だけはいまでも結構ウワサになったりしてるから。

となると最初にそれを話せば良かったね。うーん、なかなか難しいな。

 

……んと、なに?

いいことづくめじゃないかって?

そんなのやらない理由がないんじゃないかって?

確かにそうかもね。私が説明したここまでの部分だと、メリットしかないように思う。

けどね、盲信はしちゃいけないよ。

これはあくまでもおまじない、だからね。

 

そもそもだけど。おまじないって漢字でどう書くか知ってる?

のろい。もっと難しく書くと、しゅ。そう書いて、まじない。

印とか呪いとか。どこかに刻みこむものとして扱われてる。

魔法や呪文って漫画や小説だと素敵なものとして描かれてることが多いけど、実際には結構血なまぐさいものでしょう?

文字通り身を切ったり、何かしらの生贄を捧げたり、大切なものを犠牲にしたり。生々しい対価を支払って、切望していた見返りを手に入れる。リスクとリターンの釣り合わない方法で……

いやいやいや、誤解しないでね?!

スイープのはまた別だと思ってるからね、アタシ!?

 

まあ、そのね。頭ごなしに否定するわけじゃないよ。

後押しぐらいのおまじないならいいと思う。

それこそフクキタルじゃないけど、占いとか縁結びとか、あとはパワーストーンやちょっとした神頼み、とかね。

努力すれば手の届く範囲の、ささやかな幸福を叶える材料に使うなら……

 

あー、ごめん。話がズレちゃったね。

でもこれからするお話には必要なことだったから。

この愛の蹄鉄なんだけどね、実はちょっとだけいわくのある話なの。

なぜなら、そのいわくの部分はあまり伝わっていないから。

かわいいおまじないの部分だけがまことしやかに噂されてるだけなんだ。

 

友達と交換してラブレターがわりにするっていうのは、あくまでおまじないの一側面。本物であっても本質は違うんだ。

なんでも、燃えるような恋愛感情さえあれば。

ほんの少しおまじないのやり方を変えるだけで、終わってしまったものすらも取り返せるって言われてる。

 

アタシが話すのはそんな、蹄鉄に祈りを捧げた女の子の話。

小指で繋がる縁よりも濃い赤色で結ばれてしまった二人の話……

 

アタシたちが産まれるよりもっと前。

誰かと同じように恋していたウマ娘がいた。

名前は……確かスター……ええと、ごめんなさい、しっかり思い出せないや。

とりあえずスターさんって言ってくね。

 

スターさんはね、才能に溢れていたの。

鳴り物入りで学園に入って、あっという間に頭角を表した。

当時の記録を読んだけど、オープンでは敵なし。

主戦場は重賞レースで、G1にも勝ちの目アリで挑めるようなウマ娘だったみたい。

ただ、生まれつき脚があまり強くなかった。

トレセンに来るまで通ってたスクールでも、脚は大事にするように言われてたらしいの。

必要最低限の範囲を見極めつつラップ走や並走をして、水泳やストレッチを中心にした低負荷トレーニングを繰り返す。リハビリに似た練習風景だけど、それで勝てるんだからすごいよね。

 

そんなスターさんだけど、トレーナーにはなかなか巡り合えなかった。

模擬レースを好成績で潜り抜けても、ガラスとまで揶揄された脚があるからか、ベテランも新人もみんな及び腰だった。

かなりストイックな人だったのも作用してたんだろうね。

押し付け一辺倒な関係じゃなく、共に切磋琢磨できるトレーナーを探してた。

理想が高すぎるんじゃないかって思うこともあったけど、スターさんは挫けなかった。

自分と一緒に夢を見てくれる人がいつか現れることを願いながら、他のチーム練習に混ざったりしてトレーニングを続けていったわ。

 

何度目かの模擬レース、今日も上々のタイムと着順。

だけど理想のトレーナーは現れない。けれど腐ってもいられない。

脚を軽くさすりながら、ベンチに座ってスポーツドリンクを飲んでいたとき。

こつこつ、地面を叩く革靴の音と共に、若く優しそうな男の人が彼女の前にやって来た。

 

「……あの、どなたですか?」

「率直に言わせてほしい。君のトレーナーになりたい」

 

真剣な表情に真摯な瞳がスターさんを貫いた。

 

「私のこと、知っていても……ですか?」

「勿論。僕は君の走りをずっと……近くで見ていたいんだ」

「なら……私の夢、一緒に見てくれますか?」

「ああ。一緒に。僕は君と夢を見たい」

 

差し伸べられた彼の手を取りながら、スターさんは思ったわ。

ああ、運命ってあるんだ……って。

 

……時々思うけどさ、トレーナーってみんなキザだよね。

だってドラマか映画でしか聞いたことのないセリフで、アタシたちに手を伸ばしてくるんだから。

受けちゃったアタシたちもアタシたちだから……うーん、あんまり考えたくないや。

ごめん、また脱線しちゃった。話、戻して続けるね。

 

トレーニングは厳密に、戦うレースは慎重に。

トレーナーはスターさんに尽くしたんだ。

身を粉にするって言い回しがあるけど、まさにその通りだと思う。

好調なときでも常に気を配り続けて。

しかし不安や負担は決して与えないように。

不調で脚が痛むときはマッサージをして、練習に休養そして実戦の日々を過ごした。

本当にトレーナーが親身に寄り添っていた。

 

楽しくてやりがいのある練習、着実に増えていく勝ち星。

真面目な顔ばかりしていたスターさんに笑顔が増えていく。

掛け値なしに温かく優しい三年間だったみたい。

自然と深まっていく二人の絆。

一歩手前の関係になるまで、そう時間を要さなかった。

手を繋いで帰って。抱擁で慰めて貰って。

一時の間違いで構わないからと、まるで恋人かのように、唇と唇を触れ合わせて……

少女漫画みたいなことも、実際あったのかもね。

アタシは当人じゃないから、そこについては分からないけれど。

 

ただね、誰にでも等しく終わりのときは来る。

走り続けて、これからも……ってときに。スターさんにドクターストップが掛かった。

これ以上走り続ければ、一生癒えない傷を負う可能性がある、って。

スターさんはお医者さんと……もちろん両親や友だち、トレーナーともいっぱい、じっくり話した。

自分の中で考えをまとめて、ここで終わろうって決断した。

未練は当然あったよ。走れなくなるのも悲しいけど、楽しいこの競争生活が終わってしまうことが何よりも辛い。この関係だけは終わらせたくない。もっと、もっと続かせていきたい。

そんなとき、おまじないのことを思い出した。

そう、愛の蹄鉄のおまじないを。

 

「あの、あと、あと一走だけ、走ることは出来ませんか……?」

「……そうですね、あと一走なら。数か月様子を見て、ケアに努めながらであれば……リスクはありますが、まだ、大丈夫でしょう」

 

当時のおまじないは今とはかなり違っててね。

誰かが選んでくれた蹄鉄で、最後にするレースを勝ち切れば、自分の望みはきっと叶うってものだった。ああ、勿論愛し愛され的な話なのは変わらないよ。今より限定されてなかったって感じかな、どちらかといえば。

とにかく、蹄鉄はトレーナーが選んでくれたものだし、あつらえたようにレースも最後。

スターさん自身は占いとかには懐疑的なひとだったらしいけど、それこそ藁にも縋る気持ちだったんだろうね。

このわがままさえ受け入れて貰えば、もしかしたらを掴めるかも。

けど、果たして受け入れてくれるだろうか。

不安に震える小さな手を、トレーナーの大きく温かい手が包み込んだ。

 

「私は、彼女が走りたいと言うのなら。全力で走らせてあげたいです、走りに魅せられた者として。私が必ず支えます、だから。頑張ろうね、スター」

 

本当、ここだけ切り取ってもドラマみたいだよね。

胸の奥にぽっと灯りがともるようなあったかいエピソード。

アタシでもちょっとうらやましく思えるような出来事。そんなの経験したら、踏ん切りというか覚悟もできちゃうよね。

この一走で最後にしよう。走ることへの区切りをつけようって、潔く決められた。

 

数か月の調整を終えて、ついに本番。

様々な気持ちがない混ぜになった、シニア最後にする重賞。

そのお陰なのか分からないけど、色んな要素が発奮してくれたんだろうね。

なんとか勝ちきったその夜。スターさんはトレーナー寮の前で。彼を呼び出してもらって、蹄鉄を差し出しながら言ったわ。

 

「トレーナーさんっ、私、あなたが好きです! どうか受け取ってください……!」

 

ついに、スターさんは思いの丈を打ち明けた。

一世一代の告白に、トレーナーはどう答えたかって?

大丈夫、焦らないで。ちゃんと話すから。

トレーナーはね……

 

「少し、考えさせてほしい……」

 

唇を真一文字に結んで、辛そうに俯いて、そう言った。

 

「わかり、ました……っ」

 

スターさんは逃げるように立ち去った。身勝手だって分かってはいても、裏切られた気持ちを隠して気丈に振る舞うことは出来なかった。走り去らなかったのは、直情的になろうとする自分へのせめてもの抵抗。手近な場所にあった公衆電話から寮に電話を掛けて、寮母さんに伝えたの。同室の子に今日は少し出掛けるからと伝えてくれって。幸い肩に提げたカバンに財布とか諸々も入ってたから……ううん、幸いじゃなかったかもしれない。財布が手元にあったからこそ、自室に戻る選択肢を選ぶ必要もなかったんだし。

 

スターさんはひとり、夜の街をとぼとぼと歩いた。

胸中に渦巻く様々な想い。好き、嫌い、好き、嫌い……不安定な気持ちは、花占いをするみたいに行ったり来たりを繰り返した。

いつかに交わしてくれたキスや、ハグされたときの温もりは何だったのか。

あれはすべてその場しのぎのうそでしかなかったのか。

 

涙があふれて止まらない。場所が場所なら膝を抱えて泣きだしたかった。

けどね。スターさん、理性的な人だったから。

感情を爆発させて泣くことがどうしてもできなかった。

あてもなくふらふらと歩きながら、悲しみを逃がそうと必死になったんだけど。落ち込んでいるときに一人で考え事してもさ、良いことってないでしょう?

 

考えれば考えるほど深みにはまっていく。何故、どうしてばっかりが頭の中で回り出す。

さっき受け取った、少し考えさせてくれって言葉はすぐに変質し始めた。

甘い言葉で唆して、最後には私を捨てるのね。

被害妄想染みた疑念が、更なる苦しみを生んで。

どんどん凝り固まって、飛躍してしまって。恨みつらみが重なって、トレーナーのことを許せなくなった。そんなわけないってことぐらい、自分でもわかっているはずなのに。

 

……心って難しいよね。ほんとうにさ。

でもね、そんなときだからこそ、思い出してしまったの。

愛の蹄鉄に秘められたもうひとつの、いわくつきの方のおまじないを、ね。

 

ねえ、スズカ。

このいわくつきのおまじないだけどさ。

どんなものだか想像できる?

 

1・想像できる

2・想像できない

3・想像したくない

 

 

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