エログロ上等な百合ゲー世界に転生したTS淫魔さんは双子の姉を守り抜きたい 作:こびとのまち
「侑咲、貴女が無事でほんとに良かった……。ふふ、ふふふ、もう二度と貴女を離さないわ。この先たとえ何があっても、絶対に。わたし、そう決めたの」
「まったく、心配かけやがって。散々探し回って、嫌な汗かきまくったんだからな。そんなわけで、あたしもオオカミと同じ気持ちだ。おまえはずっとあたしの側にいろ」
姉と蒼に救い出され、自分たちの部屋へと戻ってきたのがついさっきのこと。そして今、ボクはその二人に挟まれて両隣から交互に囁かれていた。
「二人とも、きょ、距離が近すぎるよぉ」
「侑咲のことだから、こうでもしないとまた逃げちゃうかもしれないでしょ? わたし学んだの」
「そうだそうだ、警戒心緩々ですぐに攫われてしまうウサギが悪いんだ。自業自得だと思え」
ぐぬぬ。尻尾が弱いボクだけど、耳も同じくらい弱いから、ちっとも力が入らない。そんなボクにますます密着し、仲良く笑う姉と蒼。もはや近いとかそういう次元の距離感ではない。
「でもほら、ちょっと暑いなぁって……」
「うふふ、だって温泉上がりだもの。とっても暖かくて、わたしは寧ろ落ち着くわ」
「ウサギは先に上がったから、そろそろ冷めていてもおかしくないはずなんだけど……あはは、おかしいなぁ? どんどん熱くなっていくぞ?」
ダメだ、口を開けば開くほど追い詰められていく。
「そ、それは、二人がこんなことするから……」
「ふぅん、わたしの可愛い妹は、お姉ちゃんたちと密着して耳元でこんなふうに囁かれるだけで身体が熱くなっちゃうんだ……?」
「うぅ、そんな意地悪言わないで……」
「そうかそうか、ウサギって案外むっつりなんだな」
「うぅうう、二人とも意地悪だぁ!」
いつも優しい姉と蒼が、今夜はとっても意地悪で。だけど不快かと問われれば、まったくそんなことはなくて。ついさっき知らないお姉さんたちに迫られたときは、あんなに恐ろしかったのに。
「というか、お姉ちゃんたち、なんだかいつも以上に息ぴったりだね……?」
「あら、よく気づいたわね。ふふふ」
「ウサギにしては鋭いな。普段から息が合っているかのような言い方なのは少し引っかかるけど」
……うん? もしかして、ボクの知らないところで何かあったのかな? 二人がボクに告白したことで、少しだけギスギスしているのかもと思っていたんだけど。実際、何度か言い争っていたし。
まあでも、二人の仲が良好ならそれに越したことはない。作中でも蒼のルートに入らない限りは息ぴったりな二人だからね。ボクの所為で険悪になるくらいなら、ボクのことなんて嫌ってくれてもいいくらい。いや、そうなったらもちろんすっごく辛いけど。
「さて、そろそろ告白の返事を聞かせてくれよ」
「…………ふぎゃ!? へ? い、今!?」
その
「ああ、今この場でだ。ついさっき、ウサギに逃げられちゃったからさ……。おまえの気持ちを聞かなきゃ不安で眠れそうにないんだ」
より一層感情を込めて、色気すら感じさせる声を
「そうね、わたしも聞きたいわ。ふふっ、旅館で泊まる最後の夜。告白の返事をするにはぴったりのシチュエーションだと思わない? それにほら……今夜は窓から見える月がとっても綺麗よ」
そんなふうに間髪入れず姉まで囁くものだから、ボクはもう頰を赤く染めることしかできない。ああ、この数日で一体何度赤面しただろうか。
……ただ、今ボクの頬が赤くなった理由はこれまでと少し異なっていた。つまるところ、ただ恥ずかしいから赤面しているわけではないということ。己の胸中に芽生えた新たな感情を、ボクは改めて自覚する。
この際だから赤裸々に明かしてしまうと、その感情は姉たちに告白された時点から早々に芽生え始めていた。だって、知らない人や只の知人に告白されたわけじゃないからね。二人の良いところや魅力はボクが一番よく知っている。それこそ、きっかけひとつであっさりと意識してしまうようになるくらいには。
けれど、とどめはやっぱりさっきの出来事かな。二人の声が耳に届き、見慣れた姿を目にした瞬間の安心感と胸のときめき。自分に嘘を吐いて、あれを誤魔化すことなど到底できない。
「わたし
「だからあたし
耳元でそんな口説き文句を囁かれて、この感情に気づいてしまった今のボクが耐えられるはずもなく。いつの間にかボクの首は、こくんと縦に動いていた。
「…………あっ」
慌てて両隣の様子を確かめれば、俯いて小さくガッツポーズしている幼馴染と、微笑んだまま静かに何かを噛み締めている姉の姿が目に映った。その直後、ボクの肩から力が抜けていく。
ああ、良かった。きっとこの判断は間違っていない。これからボク
いや、ちょっと待って、ボク
「ごめん二人とも、さっきなんて言った……?」
「ふふっ、もう一度聞きたいだなんて、侑咲ったら欲しがりさんね。いいわ、何度でも言ってあげる。わたし
「えっと、たしかあたし
あのさ、どう考えても今気にすべきポイントはそこじゃないよね!? 深く考えずに流されたボクも大概だけど、二人とも何を言っているのかな!?
ボクが頭を抱えていると、暫く考え込んでからハッとした顔になる幼馴染。あぁ良かった、さすがに気づいてくれたよね?
その蒼が姉に何やら目配せすると、すぐに姉も腑に落ちたような表情を浮かべる。そして、二人で小さく頷き合うと、再びボクに視線を向けた。
「あたしとオオカミはさ、手を組むことにしたんだ」
「て、手を組む? えっと、なんの話……?」
「要するに、二人で共に侑咲を愛そうと決めたってこと。だってほら、わたしと蒼が貴女の奪い合いで喧嘩ばかりしていたら悲しいでしょ?」
……ごめん、今なんて????
待って待って、頭の整理が追いつかない。
「そういうわけだからさ、難しいこと考えず素直にあたしたちと付き合おうな、ウサギ」
「わたしたち二人はこれからもずっと侑咲の側にいるわ。だって、わたしも蒼も貴女のことが好きで好きで堪らないんだもの」
そんな甘言を、またしても耳元で囁く姉と蒼。ぐぬぬ、なんて良い声なんだ。ここに来て百合ゲー主人公とヒロインの本気を見せ始めた二人の所為で、ボクの体温はますます上昇していく。
「そうね、もしどうしても納得できないなら、納得できるまで何度でも耳元で囁いてあげる。ふふっ、もしかしたら今夜は眠れないかもしれないわね」
「それ、いいな。もちろんあたしも協力するぜ」
ひっ、ひぃいいいい!?
このあとボクがどんな目に遭ったのか、不思議なことにほとんど記憶が抜け落ちている。
♢
「……ん、んぅ、まぶしい」
ふとした拍子に眠りから覚めたボクは、天井の照明を直視して弱々しい呻き声をあげる。
「うっ、しまった……」
どうやらいつの間にか寝落ちしてしまっていたようだ。部屋が明るいということはつまり、それほど長時間意識を手放していたわけではないんだろうけど。
そんなことをぼんやり考えていると、姉と蒼が何やら申し訳なさそうな表情で近寄ってきた。
「あら……起きたのね、侑咲」
「あ、あはは、可愛い寝癖がついてるぞ〜」
蒼の言葉を真に受けて、ボクは慌てて寝癖を直す。二人の視線を一身に浴びながら。うぅ、そんなにまじまじと見つめないでほしいなぁ。
「ごめんなさい、さっきは少しやりすぎてしまったわ。侑咲が耳も弱いことは知っていたけど、まさか目を回して気絶しちゃうだなんて……」
「あたしも、浮かれてちょっと調子に乗りすぎたかも。ただ、根負けして素直になったウサギがあまりにも可愛くて、つい……」
根負け? 素直になった? う〜ん、一体何のことだろうか? ダメだ、全然思い出せない。
覚えていることといえば、ボクが二人の想いを受け入れて恋人になったということくらい。うん、べつにおかしなところはないね。
ところで、二人の声を聞く度に耳の奥が蕩けるような感覚に陥るのはなんでだろう?
「くっ、そんな顔を見せられたら、また続きを始めたくなっちゃうじゃないか……」
「ダメよ蒼、気持ちはわかるけど自制しなきゃ」
そう言いながら、細くて白い指でボクの顎のラインをするりと撫でる姉。……んん?
「それはそうと、せっかく起きたんだから今日の分のキスをしましょ。ああ、でもこれからは恋人としてのキスってことになるから……なんだかファーストキスのような気分ね。うふふ」
幼馴染の目の前で突然何を言い出すんだとボクが戸惑う暇もなく、姉がボクの唇を奪う。
「えっ、ちょっ……んぅ!?」
恋人としてのキス。その言葉通り、いつも以上に熱のこもった激しい口付けにボクはひたすら蹂躙され続ける。姉が満足げに唇を離したときには、ボクはすっかりヘロヘロになっていた。
「うぅ、お姉ちゃん、びっくりしたよぉ」
「ふふっ、我慢できなくなっちゃった。だってほら、昨日は誰かさんの所為でお預けを食らっちゃったし? だから今のは二日分よ」
いや、お預けって……。まあ、たしかに毎日キスをするって約束だったけどさ。そんなことを考えながらボクが息を整えていると、先ほどから身動きひとつしていなかった蒼の口元がわなわなと震え出す。
「自制はどうした、自制は!?」
弾けるように叫ぶ蒼。ダメだよ、あまり大きな声を出しちゃ。旅館に迷惑がかかっちゃう。
「なぁ、なにしれっと二人でキスしてんだよ!?」
「あわわ、落ち着いて、蒼……!」
「……ん? ってか、今の会話の感じだと、普段から隠れてそんなことやっていたのか!?」
「あら、べつに
「重要なのはそこじゃないが!?」
その後も暫く怒涛のツッコミを続けた蒼は、最後に俯いてぽつりとこう呟いた。
「……あ、あたしともしてくれよ、キス」
ボクがよく知る幼馴染の口から発されたとは思えないような、弱々しくて不安げな声。彼女の珍しい乙女な姿に、ボクは思わず胸を押さえる。すぐ隣から息を呑む音が聞こえたので、たぶん姉もそのギャップにときめいてしまったのだろう。
恐る恐る蒼の肩に触れ、そっと唇を近づける。すると彼女もゆっくり顔を上げ、上目遣いでボクを見つめた。かかか、かわいい……!
瞳に映った幼馴染の整った顔に見惚れていると、二人の唇が自然に重なった。
やがて名残惜しげに顔を離した蒼は、恥ずかしそうに微笑んで自身の唇を軽く舐める。
「あのさ、一応そういう関係になったんだし……これからはあたしともたくさんキスしような」
す、すごい、これが幼馴染系ヒロインの破壊力ってやつか……! 蒼の上目遣いに再びときめいていると、今度は姉がボクの唇を奪う。えぇえええ!?
「ちょっ、がっつきすぎだろ!? ってか、もう少し余韻に浸らせてくれよ!?」
「ふん、今のは妹一筋のわたしまでドキッとさせた貴女への仕返しでもあるんだから。大体、付き合っているんだから何度やったっていいでしょ、べつに」
「う、うわぁ……やっぱりおまえは獣だよ、オオカミ。しかもよく分からない逆恨みだし」
「文化祭の最中に衆人環視の場でキスをした獣にだけは言われたくないんですけど!?」
相も変わらず生き生きと口喧嘩を始める姉と蒼。ボクたち、付き合うことになっても賑やかなのはそのままだね。それがなんだかとても嬉しい。
双子の姉妹とか幼馴染とか恋人とか、そんなの関係なくボクはやっぱり二人と一緒がいい。だって、こんなに楽しくて幸せなんだもん。二人のおかげで、ここがエログロ上等な百合ゲーの世界だってことを忘れてしまいそうになるくらい毎日が充実している。
いや、もちろん忘れちゃダメなんだけどね。
これからボクたちの運命はどのように転がっていくのだろうか。先のことなんて誰にもわからない。それでも、主人公と幼馴染、そして妹の三人で付き合うという『スズランにくちづけて』のシナリオライターすら苦笑いしてしまうような道を選んだボクたちなら、バッドエンドも避けられるかもしれないなって。ボクはなんとなくそう思っている。
それに、何かあってもボクが姉を、そして蒼を絶対に守り抜くからね。今回は姉たちの策略にまんまと乗せられた気がしないでもないものの、最終的に告白を受け入れたのは誰でもないボク自身である。だからこそ、守りたいという想いはより一層強くなった。
おまけに、二人もボクのことを守ってくれるみたいだしね。あはは、守られる側に回るのは、お姫様扱いみたいでちょっぴり恥ずかしいや。
「おい、なにひとりだけ涼しい顔して傍観してんだよ。一応言っておくが、温泉のときみたいにこっそり逃げようとしても無駄だからな」
「ふふっ、たしかに。ほら、もっと近くに来て」
姉と蒼の間へと引き寄せられたボクの両頬に、二人の柔らかい唇が触れた。