まず、オリジナル選手達です。
アルゼンチンなので…ハイキューには出ていなかったので…。
正直なところ、オリジナルの活躍はあまりないです。
6番・MB・215cm長身のイポリト・イリゴン(イポで通します。綾隆達からはイリゴン)
10番・WS・威力は清田と同等・ガブリル・バティス(バテ。バティス)
13番・WS・左利き・ネストル・キネル(キネ。キネル)
16番・MB・空中での抜群の安定感・アタルパ・ユパン(パン。ユパン)
20番・LI・ニ・ガウン(ガウ。ガウン)
ハイキューで学んだ知識だけで、このオリジナル試合を書きました。おかしなところとか、おもんないところとかあると思いますが、頑張って書いたので最後まで読んでください!
【9年の時を経て】
何かが変化することなく、時間だけが流れていった。
あれから9年か…。
ずっと待ち続けていた。
綾隆が以前、ある人物を待っていると言っていた。それがもうすぐ分かる。
あの日からずっと計画が進んでいたんだろう。
全ては今日、この東京オリンピックのために。
答えを聞かせて貰おうか…。
玄関の扉を開き、私は一歩外へ出る。電車に揺られ会場の最寄り駅で降りた。
「お~い!清子ちゃん!!」
改札口で私の名前を呼んでいる人を発見し、近付いて行く。
かおりちゃんと雪絵ちゃんの二人が待っていてくれた。
「ごめん、待った?」
「ううん、良いタイミング。雪絵のお腹が丁度いいくらいになったよ」
どうやら少し待たせてしまったようだ。
「これ食べた方が良いよ~宮治のおにぎり」
「それSNSでも有名になってたやつ…」
「そそ、これを食べるために来たんだよね~」
「違うでしょ!」
「あはは。まっ頂こうかな」
雪絵ちゃんから一つおにぎりを貰い、一口頬張る。お、美味しい…。
「さて、いきますかな」
「そうだね」
「久しぶりだな~綾隆くんの試合を生で見るの」
「だね~」
「私も久しぶりだ…テレビとかでも見たことないんだよね」
「そうなの…?てっきり毎試合見てるのかと」
私は綾隆の試合を本当に見たことがない。ただ一回を除いては…。
「私…綾隆が高校二年のときの試合を見に行ったんだ。でも…あんな風に試合をしているなんて知らなかった。怖い人と言うのは分かってたんだよ?でも、離れたところから観ていると…その」
「綾隆くんは機械的な人だからね」
「私達にとっては馴染深いよね~」
梟谷の二人は綾隆の策に言い様にやられたから、理解している。
「それならなんで今日は来たの?」
「それは…今日は特別だから」
「「そう?」」
私達は会場内に入る。騒がしく、声を張らないと隣にいても聞こえない。
そんな騒々しい場で。
「おおお~~~い!清水~~~!!」
私を呼ぶ声が聞こえる。
「雀田ぁ~~雪絵~~!!」
そちらを向くと元烏野と梟谷、音駒のバレー部が集まっていた。
みんなの居る所へ向かい、大勢で観ることに。
「今更だが…たった六年でバレーボール界も大きく変化したもんだ」
澤村が口を開く。
「お前、試合前になると必ず物思いにふけるよな」
「し、仕方ねえだろ!」
「そりゃそうでしょ…!お宅の化け物が暴れちゃってるんだから!しっかりと手綱は握っておくべきじゃないでしょうか!?」
「クロ…いきなりうるさいの止めて」
「そうですよ、黒尾さん。どうせこれから騒ぐんですから、今は抑えておくべきです」
研磨くんと赤葦くんの冷静な突っ込みに静かになる黒尾くん。
そう…バレーボール界隈は依然と違う。今ではどのチームがアルゼンチンを倒すかで盛り上がっている。
それほど、今のアルゼンチンは強い。
「あ、お待たせしました!!ちょっと混んでて…」
「すいません…これ差し入れです」
ひとかちゃんと山口君が遅れてやってきた。
「おっ悪いな」
「「「「「山口くんアザーーーッス!!」」」」」
「あっいえいえ」
高校を卒業してもみんな抜けてないようだ。
「あれ…そう言えば月島は?」
「あ、ツッキーはあそこに…」
山口くんが指を指しながら言う。差された所は、観客席の一番上にある部屋。実況アナや解説者がいる所だ。
丁度、その時マイクが入った。
『はあ、なんで僕が…』
『それは、烏野高校でキヨタ、日向、影山に突っ込みを入れられるのは月島さんとマネージャーだけだったとお聞きしまして』
『それはですね…あいつらが人間じゃないからですよ。僕は人間として人間の目線で突っ込んでいただけです。まあ、綾隆はその頃から頭一つ抜き出た化け物でしたけどね。あいつの名言知ってますか?この世で解が存在するものならオレは全て理解していると言ったんですよ。人間ワザとは思えませんね。加えて素の身体能力でも他者を圧倒してくるし、持ち前の分析力で一度見たものを自分の力にしてくると言う、理不尽さ。あ、そうそう…人を分析するのがあいつの趣味なんですよ。そうやって分析されたものは、知らず知らずのうちに誘導されているんです。化け物じゃなくて悪魔でしたか。悪魔みたいに笑えば可愛らしいのかもしれませんが、ピクリともしませんからね。あいつの笑った顔なんて…………見たことないですね。へっ。そんな奴に勝とうとする方がおかしな話です。まあ……突っ込みを入れるしかない僕の気持ちが分かったでしょう?』
『え、ええ………はい』
「月島めっちゃしゃべんじゃん」
「しかも、綾隆が笑ったことを記憶から消したな」
「ぶわっははっは、お宅のチームどうなってんのよ!これで良く味方として成立してたな!!」
「「「ほんとうにな…」」」
『では……今回も勝てないと…?』
『…バレーは常に繋がっている競技。ずっと前の試合が関係してきたりもする。今日は…あの時のみんなで来ましたからね。当然………勝ちますよ』
月島くんらしく、冷静にどうやって勝つかだけを考えている。
月島くんの一言で皆の顔に笑顔が灯る。
▽▽▽
「コーチ!」
「んああ?」
烏野高校バレー部は烏養に連れられ、東京オリンピックの会場に来ていた。
日向達が卒業してから6年。まだバレー部のコーチを勤めていた。
「本当に、清田選手と日向影山選手がウチに居たんですか??」
「ああ、そうだぞ」
「そんなの無敵じゃないですか!?しかも月島っていう人も凄く強いんでしょ?」
「まあ、確かにあいつらが揃ってたから、全国で優勝し続けたと言うのもある。だが、何も最初から強かったわけじゃねえぞ」
「え?そうなんですか!?」
「ああ、特に日向なんかレシーブもサーブもスパイクだって下手糞だった」
「「「「えええええ!?」」」」」
その頃の日向を知らない子供たちが驚くのも無理はない。
「一つ一つ練習して出来るようになっていったんだ」
「それじゃ清田選手も??」
「あいつは………ま、色々練習してたんだろな」
烏養の誤魔化した言い方に高校生達は首を傾げる。
『さあ!待ちに待った東京オリンピック。日本 VS アルゼンチン。男子決勝戦を開始します!!』
「「「「ふぅおおおお!!」」」」
『『『『バンバンバンバン!!!』』』』
観客の声援とバルーンの音で会場が満たされる。
『選手紹介!』
『2番!夜久衛輔!』
「ぶわっはっはっは!やっくんがキャプテンって大丈夫ですかああ!?」
馬鹿にする嘗てのチームメイト。睨む夜久。それでも笑い続ける黒尾。
『11番!牛島若利!』
「牛若ー!!」
こちらはファンが多いようだ。
『16番!星海光来!』
「おっしゃああ!!」
『20番!影山飛雄!』
「影山ーーー!!」
『10番!日向翔陽!』
「うおおおおお!!やってやるぜ~!!」
『3番!木兎光太郎!』
「KOUTAROU!BOKUTO!!」
「「「「はっはっはっは」」」」
『5番!佐久早聖臣!』
「さくさ!!」
『続いて、アルゼンチン』
『2番!オイカワトオル!』
「「「「「せ~の及川さーん!!」」」」」
「はぁ~い及川さんだよぉ~!」
『5番!キヨタアヤタカ!』
「「「「きゃーーーーーー!!」」」」」
「「綾隆ぁぁあ!!」」
会場が日本であり、完全なアウェーな中でもこの二人は人気だった。日本人だからでもあるが。
『6番!イポリト・イリゴン』
『10番!ガブリル・バティス』
『13番!ネストル・キネル』
『16番!アタルパ・ユパン』
『20番!アントニ・ガウン』
選手紹介は終わり、両チームベンチに戻る。
「なぁぜ!俺がミドルぅぅう!!?」
「おれも久しぶりのミドルぅぅう!やったぁ~!」
ミドルに選ばれた二人、小さな選手の反応は対称的だった。
「星海さん、前から決まってたじゃないですか」
「清田対策だと」
「分かっとるわ!分かってるけど分かってるけど…!」
「エースが良かったんやな」
「だな」
「安心せえ…俺がいつでも出たるからな」
そう言うのは宮侑。だが、星海を見ず影山に向けて放っていた。俺がセッターとして出たろか?と言う意味だろう。
「宮…お前は今日セッターとして出ないと言われてたやろ?」
「うぐっ…」
「はい注目」
選手の視線を浴びながら話し始めたのは全日本ユースの監督。
「敵は最強のアルゼンチン。戦えば戦うほど、勝つ希望が見えなくなっていく。でも絶対に勝てない試合なんてない。君らが楽しめば楽しむほど、新しいことは増えていく。
楽しもうじゃないか。この舞台で。最強の敵に勝って新たな時代へと進もう」
「「「はい!!」」」
『―では両チームのスターティングメンバーです』
『まずはアルゼンチン』
アナウンサーと月島はポジションについた者に目を向ける。
まずは、アルゼンチンの後衛ライトを守備している日本人。そして初っ端のサーバーでもある。
『2番!キャプテン。どんなチームでも最大値を引き出す、及川徹』
そして、その前に位置する無表情のエース。
『5番!アルゼンチンを世界最強に仕立てた男、WS清田綾隆』
『6番!215㎝と長身のMBイポリト・イリゴン』(イポで通します。綾隆達からはイリゴン)
『10番!威力は清田と同等!ガブリル・バティス』(バテ。バティス)
『13番!左利きで相手を翻弄する、ネストル・キネル』(キネ。キネル)
『16番!空中での抜群の安定感、アタルパ・ユパン』(パン。ユパン)
『20番!繊細なボールタッチの技術から神の手とも呼ばれている、アントニ・ガウン』(ガウ。ガウン)
『続いて、日本…』
『2番!リベロと言えばこの人、LI夜久衛輔!』
『11番!日本の大砲!そしてサウスポー!WS牛島若利!』
『16番!攻守に秀でる“小さな巨人”MB星海光来!』
『20番!日向とのコンビでブロックを寄せ付けない!S影山飛雄!』
『10番!最強の囮!MB日向翔陽!』
『3番!今日も元気!ビームウエポンWS木兎光太郎!』
『5番!期待のルーキー!WS佐久早聖臣!』
『アルゼンチン、日本共に影山達から木兎達までの3世代は異様に活躍している選手が多く、妖怪たちの世代。と呼ばれているんですよねえ』
『その妖怪を引っ張ってるのが、悪魔こと清田綾隆です』
月島が補足を入れる。どうやらこちらは何も成長していないようだ。
『前回は惜しくも敗れた日本。今回は日向翔陽と新しい選手を交えアルゼンチンに挑みます!高校時代に名を轟かした変人コンビを世界でも轟かす!さあ、いよいよ試合スタートです』
【一セット目】
牛島 影山 夜久
日向 サクサ木兎
ーーーーーーーー
バテ イポ 綾隆
キネ ガウ 及川
及川はエンドラインを越え、ボールを受け取り更に後ろへと下がっていく。
『初っ端のサーブは清田と同等、いや、それ以上の威力を誇る及川徹からのサーブ。立ち上がり凌げるか日本』
掌でクルクルと高速回転するボール。
『試合開始です』
『ピーーー!』
笛の合図とともにパシッとボールを止め、ネットの向こうを見据える。
相手の熱量、気合を見定める。
十分。
申し分ない敵。
ニッと笑い、ボールを高く高く上げる。
緊張の一発目のサーブ。
静まり返った会場。
『ボッ!!』
ボールの核を捉え、弾丸と化したボールが日本コートに侵入する。
だが、そんなサーブを真正面で迎える夜久。
『バァン!』
「「「ナイッスレシィィブ!!」」」
「「「うおおおおおおおお!!」」」
初っ端からキッチリと上げて見せたことで歓声が沸き起こる。
セッターのポジションについた影山。
真ん中から素早く入って行く日向。
影山から日向への挨拶代わりのマイナステンポ。
ブロックをぶっちぎる速さに。
『ドンッ!!』
高さは決して殺さない。MAXのはやさ。
高校時代多くのブロッカーを泣かせてきた速攻。しかし高校のときよりも更に速い。
日向は打ち下ろす。
『ダァン!』
『初っ端から捕まったぁあ!』
「うぅ~!」
日向は呻き、自コートで弾むボールを目で追った後、叩き落とした張本人を見る。
目を見開き、呆然とする日向。嘗て閉じ込められた音駒の研磨のように、こちらをまるで見ていなかった。
「おい、次だ」
何度か対戦したことのある影山は、今の綾隆を日向より知っている。
勝って当然、楽しさなどに興味はない。
観客席では、胸辺りで拳を握り締めギュッと目を瞑る清水。
「大丈夫だよ。まだ始まったばかりだし」
雀田が声を掛ける。そう、まだ一点目。それだけで試合の全容は見えてこない。
『まあ、今のは挨拶代わりですね。それに日向の持ち味は囮。相手に存在感を与えることが重要です。まっ、それでも今のは読みやすすぎますけど。負けず嫌いが発動してしまったんでしょうね。さすが単細胞』
フォローと同時に罵倒していくスタイル。
日本-アルゼンチン
0-1
再び及川のサーブが日本を襲う。
牛島が上げるが、崩れサイドラインを出て行く。
そのボールを追いかけていく影山。
嘗て清田がこれ見よがしにプレーしており、影山をイラつかせていた。
清田のように先に動くことなど不可能だが、影山は影山らしくスパイカーへと繋ぐ。
ボール下への移動の速さで負けるのなら、経験の数で負けるのならば、技術で圧倒的センスで相手を凌駕すれば良い。
体勢が悪く、まともにトスは上げられない。誰もがそう思った。それは及川も無理だと思っただろう。
この位置でこのタイミングでこの角度へ。どんぴしゃ。
真ん中を強行突破。
『ズッパァァァアン!!』
「「「うおっしゃああああ!!」」」
「ソォーーイ!」
「はっ…相変わらず生意気な後輩だこと!」
「及川さんも出来たら良いのですが」
「うっさいわ!」
『日向!!』『『『バンバンバン!!』』』
『今度は決めてきましたね~待ってました。超速攻!!』
『さっきの今で真ん中を突っ切る…何にも変わってませんね…』
「あははは、影山くんらしいね!」
雀田が笑いながら言う。
「あいつ、ほんっと変わんねえのな。あの強気のプレー…俺には未だに考えられんねもん」
菅は涙を流しながら、影山の成長?を褒める。
1-1
『ピーーー!』
日向のサーブ。ドが付くほどの下手糞だったサーブはもうない。
高く上げたボールを全力で打つ。
そのボールの行方は後衛セッターの前。ライトを護っている清田。日向は清田を狙ったのだろう。
『バァン!』
だが、軽々取られる。
「ンガッ!?」
「当然だろ、このボゲェ」
懐かしいやり取りをする二人だが、すぐに気を引き締める。
高校時代は頼もしく感じていた圧。
それが自分達へと放たれている。
『ドォッ!!』
誰しもがこの空中での滞空時間の長さに苦しめられてきた。だが、日本の選手たちはずっと見て来た。故にタイミングを外したりはしない。
清田のスパイクに3枚のブロックが付く。
だが…。
『ドォォォオン!!』
日向と牛島の間を抜けていく。
『左か…いきなり来るとは思いませんでしたね』
『最近、左を使うところを見てなかったんですけどね…』
清田の凄さは滞空時間だけではない。
『清田は高校時代でさえ最高到達点が350㎝を越えていましたが、今では更に高くなっており身長が185㎝で365㎝と日本人の最高の高さでもあります』
完成された肉体から来るパワー、スピード、バネ、バランス。
それらに加え、相手のプレーを分析する目に頭脳。だからこそ多彩な攻撃手段を持っている。
これらが頂点に君臨し続けられる所以だろう。
1-2
『さあ、その清田のサーブがやって参りました!何でくるか分からないのが、最も怖い!』
『ピーーー!』
清田は高くサーブトスを上げる。ベンチで見ている日向に見本を見せるかのように。
全力で放たれたサーブは、牛島と夜久の間に突き刺さる。
『ドォォオオン!!』
『サービスエース!さっそく来ました。これが清田です!』
叫ぶことも無く、その得点にチームでハイタッチをすることもなく、エンドラインより後ろに向かう。
『ピーーー!』
再び、スパイクサーブを放つ。
『バァン!』
『今度はきっちりと上げて見せた、リベロ夜久!さあ、影山誰を使うか』
「レフトォォォオ!」
「ライト!」
両サイドから二人のエースがトスを呼ぶ。
その真ん中を一足早く跳ぶ、星海。
『すべてを囮にし、後ろから牛島若利!!』
牛島のスパイクを真正面で及川がレシーブする。
清田がカバーに入り、真ん中からの速攻でイリゴン。
『ズッドォォォオン!』
1-3
『速い速攻で決めてきました!215㎝の身長を活かした攻撃。日本のMBとは対象的ですね~』
『まあ、本来MBは身長の高い選手がしますからね。日本がおかしいだけです。ですが、あのおチビ二人にちょこまかと動き回られるのは、他では味わえない。だからこそ鬱陶しく感じるはずです』
この声は選手にも聞こえており、二人のおチビがしょげていたのは言うまでもないこと。
『ピーーー!』
軽く上げ、軽く跳ぶ。されど強く押す。
一瞬で目の前までくるジャンフロ。それを牛島が上げる。
「フォロー!」
夜久からサクサへ。冷静なサクサはブロックを掻い潜りスパイクを打つ。及川の腕に当たったものの、コート外へ飛んで行った。
「及川さん…」
「うっせぇ!久しぶりに取ったんだよ!」
「Oh…サクサのスパイクは取りづらい」(日本語で話させます)
サクサのスパイクは異様な回転。取り損ねるのも仕方ない。
2-3
アルゼンチンの対応力に少しずつ点差が離れていく。
4-7
星海 木兎 さくさ
影山 牛島 日向
ーーーーーーーー
及川 パン キネ
綾隆 ガウ バテ
『少々離されました日本。ですが、まだ序盤も序盤。まだまだこれからですよ!』
『まあここからですね』
『ピーーー!』
星海のサーブも強烈。バティスがギリギリで繋ぐ。
「ボールに触れられる時間は一瞬」
観客席で観戦している研磨は口を開く。当然、その間も試合は進行している。
及川からバティスのバックアタック。それを木兎が体当たりで繋ぐ。
「ボールが空中に浮いている時間も長くはない。思考する時間が短い。常に確率的な計算をする綾隆にとって、思考する時間が短いのは致命的のはず」
崩れた日本だが、影山がすぐにボール下へ移動し、日向へマイナステンポ。
『バァン!』
アルゼンチンの2枚のブロックで日向のスパイクを阻む。落ちるボールをサクサが繋ぐ。牛島が上げ木兎へ。体勢が悪く、まともなスパイクは不可能。だが、リバウンドでブロックに当て、日本のチャンスボールにする。
「なのに、すぐに対処してくる。それはサーブを打つ前に思考しチームに伝えているから。それは当然のことだけど、綾隆の場合、その読みが綺麗に当たり策が嵌る。もしくは強引にその策に嵌るように誘導する」
「確かにあいつはそう言う傾向があったな」
「誘導するのは日常茶飯事」
「俺らが気付かない内にも誘導されていたもんな」
経験者である烏野はうんうんと頷き、研磨の考えを肯定する。
「なら、簡単な対処法だけど…」
完璧な体勢。全員が助走距離を確保している日本。
ファーストテンポのシンクロ攻撃。
これも清田にとっては見慣れた攻撃。そこから日向だけが飛び出してくるのも。
だが、そこへ無視できない存在が増える。
『『ドンッ!!』』
ほぼ、同時に跳んだ二人のおチビ。
星海は超速攻には不向き。空中でのバランスが強みの星海にとって、超速攻は空中での時間を減らしてしまう。
だが…使えないわけではない。
「可能性を増やせば、良いよね」
二人を囮にした、木兎へのトス。だが、それでもブロック一枚が木兎につく。マイナステンポの二枚攻撃はかつて清田日向もしていたから、清田はあらかじめ対処法は考えてあった。コースを誘導し、バティスが繋ぐ。
だが、完璧には捕らえられずネット直上。そのボールを及川が押し込む。が、牛島が上げる。
それと同時に日向が横へ走り出す。
「全ての可能性を味方に伝える事も不可能。常に選択肢を増やし続ける」
またもや星海がバックアタック+マイナステンポで入って行く。選択肢が増えたなら、あとはいつも通りやるだけのこと。
「身長も最高到達点でも負けているのなら、頂上へ先に着け」
ネットの向こうに立ちはだかる高い高い壁。
どこへ行ったって日向には変わらない。自分よりも小さい選手なんていないから。
しかし、日向はずっと高さで勝負してきた。
長身の選手よりも、高さで劣るのなら…1㎝を1mmを一秒はやく、てっぺんへ。
ここが一番高い場所。
ネットの向こう側はどんな景色だろうか。
追いつけないブロッカー。ブロック0枚で打ち下ろす。
『ズッパァァアン!!』
「はああ…ほんっとこの攻撃嫌いだわ~」
及川は愚痴を零す。他の者は先の攻撃を褒めたたえていた。
マイナステンポの二枚攻撃により巻き返す日本。
だが、それはMBがコートに二人居てこそのもの。ローテが回れば、苦しい時間が来る。
しかし、そこはプロ。高校の時とは違う。冷静に一点を積み重ねていく。
5-7
9-10
日向 牛島 影山
サク 木兎 星海
――――――――
バテ イポ 綾隆
キネ ガウ 及川
『『ドンッ!』』
『再び速い速攻!それも2枚!!』
『ズッパァァアン!!』
『今度は星海が決めたぁああ!!日本同点!!』
10-10
『『ドンッ!』』
『またも二枚の速い攻撃!』
『ズッドォォォオン!』
『二人を囮にしての牛島若利ぃぃい!!日本逆転!!』
11-10
離されても取れる時に確実に取っていく。そうやって、追い抜かれても離されず、日本は順調に試合を進めて行った。
15-16
星海 木兎 さくさ
影山 牛島 日向
ーーーーーーーー
及川 パン キネ
綾隆 ガウ バテ
だが、相手はアルゼンチン。すぐに対応される。
ファーストタッチを牛島が上げることで、ファーストテンポのシンクロ攻撃の参加から外した。
『『ドンッ!!』』
二人のマイナステンポ。真ん中から日向。そしてバックアタックで星海。
日向へのブロックは清田が、ややレフトよりで真ん中からレフトには打たせない。ライト側からの星海へのブロックはバティスが、クロスを護りライト側へは打たせない。こうしてレフトよりに固められたブロック。
ユパンはバディスよりも身長は低いが、208㎝はある。日向のマイナステンポで跳んでからでも二度跳べば、真ん中からの木兎のバックアタックに間に合う。
必然的にレフト側からのサクサへとボールが集まる。
バックアタックで入ってくるサクサ。キネルが一枚でブロックを跳ぶ。躱し打った先にはガウンが待ち構えている。
『ドォッ!!』
バックアタックでキヨタのスパイクが決まった。
これで完全に封じられたわけではないが、着実に上げられる本数が増えて行った。
16-17
17-20
『ピーーー!』
『ここで日本メンバーチェンジです。サクサを一度下げまして、宮侑を投入します。宮侑はサーブも強力でありながら、本来はセッターとして活躍しております』
『アルゼンチンの対応力は笑えない冗談です。ならこちらも更に選択肢を増やし相手に対応する時間を与えない』
日向 牛島 影山
宮侑 木兎 星海
ーーーーーーーー
バテ イポ 綾隆
キネ ガウ 及川
三人が一足先に跳ぶ。
「一つ一つ対応されるのなら、また一つ選択肢を与え続ける」
「春高で俺達が稲荷崎にやったみたいな感じだな」
「そうだね」
「てか、マイナステンポを三人って…」
『ズッパァァアン!!』
アルゼンチンは対応しきれず、得点を許す。
18-20
宮侑の投入は何もマイナステンポのためだけではない。
「くっ…フォロー!」
「ライト!」
「飛雄くん!」
『ズッパァァアアン!!』
「くっ…影山、相変わらずコースの打ち分けうめぇんだよな…」
「当然だろボゲが」
そう言って右ストレートを放つ。サッと躱す日向。
「おいおい、テレビ回ってるから!やめんか!」
「ツムも手を出しとるで??」
「アッ!?」
19-20
20-21
宮侑が入ったことで、MBが一人の時でもマイナステンポの増員が可能となった。
アルゼンチンはマイナステンポ2枚でも対応できるようになったとは言え、止めることは簡単ではない。
『バヂィィン!』
星海によるマイナステンポをガウンが繋ぐ。
『アルゼンチンが崩れた!そのまま返ってくる。日本、チャンスボール!』
影山がファーストタッチ。
ファーストテンポで宮侑が攻撃に入る。
イリゴンとキネルが二枚でブロックを跳ぶ。
『宮侑、セットされたボールを再び木兎にセット!完全にフラれたアルゼンチンブロック!』
『ズッドォォォオン!』
「へいへいへ~い!!」
観客に向けてガッツポーズをし、雄叫びを上げる。沸き上がる観客。
21-21
「単純な策が試合では最も良策。使いやすく、思考せずとも体に覚えさせることだって可能だからね」
「確かに…チビちゃん~じゃなかった…日向や木兎のような大人になっても、単細胞でいる奴らには、練習で反復したことを直感的に行動させたいだろうしね~」
「夜久ナイスレシーブ!」
「影山!」
ファーストテンポのシンクロ攻撃。慣れ親しんだ攻撃。
マイナステンポで…。
「誰も入らない!」
「紛れる…」
菅が反応し、黒尾が嫌な顔をする。
星海にトスがセットされる。余裕のない速い攻撃から、余裕のある空中戦勝負。
「ワンタッチ」
イリゴンによるワンタッチ。だが、ボールはそのまま日本コートへ。
再びやり直す。
今度はバックアタックで牛島にトスが上がる。
『バァン!』
今度は清田が完璧に上げた。及川から身長を活かした速い速攻。
「ナイッスレシーブ!」
夜久によるレシーブが会場を沸かせる。
マイナステンポで二人が入って行く。
急な速度の緩急に付いて行けず、アルゼンチンコートで落ちた。
『にっぽん!!』『『『バンバンバン!!』』』
22-21
マイナステンポを増やす日本。段々とアルゼンチンから得点を奪えるようになってきた。
だがアルゼンチンも黙っていない。
『ドォォォオン!!』
レフトから大砲のバティス。清田と同等の威力で会場を黙らせる。
「綾隆くんが二人いるような感じだね…」
「うん…」
「でも威力だけだから、まだマシだね。そこにテクニックやスピード…あと狡猾さが混じってくるとほんっと腹立たしい」
「狡猾さが一番なんだろうな…」
誰しもが分かっていること。清田の最も警戒するところは策にある。
22-22
24-23
星海 木兎 さくさ
影山 牛島 日向
ーーーーーーーー
及川 パン キネ
綾隆 ガウ バテ
『にっぽん!マッチポイントです!そしてここでこのローテ!』
『まだ三枚のマイナステンポには対応しきれていませんからね。ここがチャンスです』
笛の合図と共に星海がサーブを放つ。
清田が綺麗にセッターに上げ、ライトキネルへ。左から放たれるスパイクだが、日本は慣れている。
それは牛島がいるからだ。普段と異なる逆回転が掛かったボールを木兎が繋いだ。
影山から日向へ。単体でのマイナステンポ。
指の先に当て吹き飛ばす。だが、後ろへ下がっていたガウンが繋いだ。
及川がエンドラインまで下がりカバーする。後方からレフト清田へトスが上がる。
「マイナステンポ…ただでさえ相手にとって不快な攻撃。マイナステンポで決められなくとも、相手にまともな攻撃をさせない。
続ければリズムはこちらにやってくる」
研磨の想定通り割れた(ネットから離れた)トス。打ちづらい。
だが…。
『ドォッ!!』
『バッヂィィン!!』
時に狡猾に時に大胆に出られるのが、世界の王者である。
だが、後方に飛んでいったボールをサクサがギリギリで繋いだ。ほっとする日本陣営だが…。
『「ほんっとウザいんだよね…理屈が通じない相手って」』
月島と研磨の言葉が被った。
((((被った…))))皆は突っ込みたくなる気持ちを必死に心に留めた。
『特に綾隆の場合。大胆なプレーだけでも勝ち上がっていけるだけの力がありながらも、それを選択しない時もある。やってらんないですよね』
誰かに向けて話しているわけでは無く、独り言を呟く月島。だが、それが奇跡的に清田の解説になっていた。
「でもそれはこちらも同じことでしょ?」
黒尾が口を開く。
『『ドンッ!!』』「ダン!」
三人のスパイカーが先に跳ぶ。
「確かに…マイナステンポ3人ってなに?って感じだもんな」
『ストン』
遅れて跳んだ人たちも全てを囮にした影山。
『ここでツー!!!!にっぽん!アルゼンチンから一セットを取りましたぁあああ!!』
『にっぽん!!』『『『バンバンバン!!』』』『にっぽん!!』『『『バンバンバン!!』』』
▽▽▽
「まじかぁ~日本が取っちまった」
私達が集まっているすぐ傍で、観客の誰かがそう零した。
日本を応援しにここまで足を運んでいる。東京オリンピックの決勝の舞台。当然、日本に勝ってほしい。だけど、相手はあのアルゼンチン。
応援はしているものの、内心では諦めている人が殆どだろう。
そう…私達以外。
「取っちまったな…」
いや、旭以外の私達だった。
「おいおい…旭、オマエ…ちゃんと綾隆と一年過ごしたのか~?」
「そうだぞ~綾隆のヤバさはこれからだってのに」
「わ、わかってるよ~」
「でも、綾隆が居てセット取られるってあんま無かったから…」
「それも確かに」
みんなも分かってはいるものの、一セット取れたことに喜んでいる。
「このまま押し切れると良いんだけどね~」
雪絵ちゃんが肉まんを食べながら言う。
「だね」
「…どうだろうね…」
私はそう言いながら綾隆を見る。当然だけど、焦っていない。表情も崩れていない。
「まあ厳しい状況ではあるよね」
色々と考えて日向達に託してきた研磨くんがそう言うなら、そうなのだろう。
「二枚でのマイナステンポがすぐに対応されて、それ以外にもカードを出させられた」
「研磨くん~~もっと考えておきなさいよ~」
「仕方ないでしょ。相手はあの綾隆なんだから、そうそう見つかるもんじゃないよ。高校の時でさえ、勝つ方法なんてあんまり見つかんないしね」
綾隆に勝つ事。それは未来のAIに勝つ事を意味する。
かなりの先を見通し、相手を誘導し策に嵌める。
つまり…もしかしたら………。
「もしかしたら、一セット目取られたことも綾隆には想定通りなんてこともあるのでしょうか?」
「「「「………」」」」
ひとかちゃんの言葉に皆が押し黙る。
無いとは言い切れない。白鳥沢戦、そして音駒戦。そのような傾向が見られたから。
「ははは、そんなまさか」
「まさかまさか」
「「「「はははは」」」」
………
「「「「ありえる……」」」」
▽▽▽
【2セット目】
『二セット目のスターティングメンバーは両チーム変えずのスタートです!』
牛島 影山 夜久
日向 宮侑 木兎
ーーーーーーーー
イポ 綾隆 及川
バテ キネ ガウ
『牛島若利のサーブで始まります!』
『にっぽん!!』『『『バンバンバン!!』』』『にっぽん!!』『『『バンバンバン!!』』』
『ピーーー!』
笛の合図と共に、応援が無くなり静寂に包まれる。
そんな中、牛島がサーブトスを上げ打つ。
「フッ…⁉」
強烈なサーブをキネルが上げるも、弾かれコートを出て行く。
イリゴンがフォローに入り、レフト清田へ。
体勢の悪い清田に三枚のブロックで囲う。
『チッ!!』
ブロックの指に当て後方へ飛ばす。夜久が繋ぎ、影山が木兎へアンダーで送る。
完全にストレートを切りクロスへ誘導。
それならと超インナークロスを選択する。
『バァン!』
「うおっ…⁉」
ガウンが完璧に上げる。世界のリベロとしての当然の仕事。何も驚いたりはしない。
『ドォッ!!』
レフトからファーストテンポで入って行く清田。その圧と床を蹴る音から、ブロッカーは反応してしまう。
その隙を縫って。
『ストン!』
及川のツーが決まった。
「お返しだよぉん」
「ちっ」
『今度は及川のツーが決まった!アルゼンチンの得点』
『ほんと高校時代から変わってませんね。あの二人は』
0-1
及川のサーブを上げ、宮侑のマイナステンポで得点を得る。
1-1
日向 牛島 影山
宮侑 木兎 星海
ーーーーーーーー
バテ イポ 綾隆
キネ ガウ 及川
『さあ!またしてもこのローテが回ってきました!マイナステンポ3人!点を稼ぐチャンスです!』
アナウンサーの言う通り、日本の最強の攻撃ローテだ。
日向のサーブをキネルが上げる。及川からバティスの速攻。
「ワンタッチ!!」
ファーストテンポのシンクロ攻撃。ここでも三枚のマイナステンポ。相手が対応してくるまで続ける。
日向にセットした影山。ブロック一枚の腕に当たり地面に落ちた。
2-1
4-2
『さあ、再び回ってきました!清田のサーブ!日本、ここを早めに切りたい』
『ピーーー!』
『ドォォォオン!』
『コート右端に突き刺さる!サービスエース~!』
4-3
『ピーーー!』
「くっ………⁉」
『夜久が繋ぐが…そのまま返った。及川のファーストタッチから清田のバックアタックぅぅぅう!!』
4-4
『ピーーー!』
『今度は緩急をつけたジャンプフローター!セッターには返っていない…!』
『今のはわざとアウトボールを取らせましたね…これがジャンフロの嫌なところです』
だが、影山ではなくとも…木兎がトスを上げ、真ん中からの速攻で星海を使う。
『そこから速攻に繋ぐか!だが、イポリト・イリゴンのブロック!高い215㎝!』
地面に落ちそうになったボールを影山が繋ぎ、宮侑から牛島がバックアタックで打つ。
『ダァン!』
『ここもイポリト・イリゴン!!叩き落とされました!』
「うわ~俺達が牛若を止めるのに散々知恵を振り絞ってやっとドシャットを食らわせたのに…世界は更なる高さとパワーでねじ伏せてくるんだな…」
「だな…日本人の多くは小柄だし。だが、それを言い訳にしたところで、平等なルールを作ってくれるわけじゃない。牛若もここでは小柄な選手だし、色々と考えないといけないんだろうなぁ~」
「その大柄な選手の中に小柄でも絶対王者として君臨している奴が居るけどな」
「あいつは………知らん」
「まあ、あいつの場合、小柄でも高さとパワーで圧倒してくるんだけどな」
「ほんっと意味わかんねぇっすわ」
4-5
『ピーーー!』
清田のサーブで選手、観客の全員が上を向く。このプロの試合の中でのアンダーハンドサーブ。
そのボールは天井すれすれまで打ち上げられ、自由落下で勢い付けて落ちてくる。しかも、天井のライトを利用した眩しさのオマケ付きだ。
「トラウマを呼び起こしてくれるやんけ!」
宮侑がキレながら上げる。だが…。
「ちょっと短いか…」
「ナイスレシーブ!」
影山には上に上がれば問題ない。
レフト木兎へ。アンテナギリギリまで伸びるトス。スパイカーとブロッカーに選択肢を与える。
スパイカーにはご褒美を。ブロッカーには罰を。
『ズッドォォォオン!』
超インナーに突き刺さった。
「へいへいへ~~い!!」
『木兎!!』『『『バンバンバン!!』』』
5-5
正に接戦を繰り広げる日本とアルゼンチン。アルゼンチン相手にここまで善戦するとは思っていなかった日本の観客は更に応援の熱量が上がる。そんな応援を感じ取り、木兎や日向の勢いは増していった。
12-10
夜久 木兎 宮侑
影山 牛島 日向
ーーーーーーーー
綾隆 及川 パン
ガウ バテ キネ
『日本がリード!このまま行きたいところだが…』
『ドォォォオン!!』
『ん~~ここは清田のスパイクが決まった!!』
12-11
『影山から日向への速攻!!』
ファーストテンポのシンクロ攻撃。日向は紛れ攻撃に入った。
だが。
『バァン!』
ブロックで誘導し、ガウンが上げる。及川からユパンの速攻。安定した体勢から放たれるスパイクはどこに向かうか直前まで分からない。
『ズッドォォォオン!』
12-12
15-17
日向 牛島 影山
宮侑 木兎 星海
ーーーーーーーー
バテ イポ 綾隆
キネ ガウ 及川
『影山がファーストタッチ!宮侑から星海!ではなく、通り越してレフト木兎ぉぉおお!!』
宮侑から日向の直線状に位置する木兎へ。ファーストテンポでの木兎への攻撃。
誰もが引っ掛かっただろう。
だが…。
『ダァン!』
速攻は速いが故に空中での時間を奪う。星海や木兎、牛島にとっては難しいボールだった。
だが、それでもそれをする価値のあるセットアップ。
それを読まれ叩き落とされた。
「はあ!?」
宮侑の顔が険しくなる。
「すまぁん!ツム!」
「木兎さん、ドンマイです!」
「今のは決まったと思ったんだがな」
15-18
だが、次は二枚のマイナステンポで取り返した。
16-18
19-21
星海 木兎 宮侑
影山 牛島 日向
ーーーーーーーー
及川 パン キネ
綾隆 ガウ バテ
「チャンスボール!」
影山からマイナステンポの三枚。
『スッパァァアン!!』
『決まったぁぁああ!!』
「なんかマイナステンポ多くない…かな?」
清水が疑問を口にする。二セット目終盤になり、明らかにマイナステンポでの攻撃が増えた。
「まあ、よく決まってるからね」
「確かに…」
不可解な点を覚える清水達。だが、マイナステンポがかなり決まっているのも事実。逆にそれ以外が決まらない。
観客もマイナステンポが決まると騒ぎ出す。
背中を後押しする声援に応えようと、天然煽てられ上手達は更に加速する。
22-22
影山 夜久 木兎
牛島 日向 宮侑
ーーーーーーーー
綾隆 及川 パン
ガウ バテ キネ
『さあ再びアルゼンチンの背中を捉えた!ここで追い抜きたい!』
『ここでブレイクできれば、こちらが圧倒的有利ですしね。ただ…』
『はい?』
『なんと言うか気味が悪い…ですね』
だが、月島の考えとは裏腹に。
『―夜久が上げている!そして二人のスパイカーが同時に跳ぶ!!』
日向と宮侑に完全に一枚ずつのブロックが引っ掛かった。
『ズッドォォォオン!!』
『ここでライト牛島若利ぃぃいい!!そして日本逆転!!』
『にっぽん!!』『『『バンバンバン!!』』』『にっぽん!!』『『『バンバンバン!!』』』
23-22
ネットを挟んで日向と清田の目が合う。
「囮が本武器になってどうするんだ?」
淡泊な声が日向の耳に入る。
『さあ、突き放せにっぽん!!』
『にっぽん!!』『ババンバンバン!』『にっぽん!!』『ババンバンバン!』
影山の強烈なサーブでキネを崩す。パンが繋ぎ及川がラスト返す。
『日本チャンスボール!!』
ファーストテンポのシンクロ攻撃で全員が紛れる。
ライトの牛島にトスが上がる。三人一斉に押し寄せブロックを跳ぶ。
『バヂィィン!』
ブロックに阻まれるが、高く浮き日本コートに返る。再び日本のチャンスボール。
セカンドテンポでレフトから宮侑。
こちらにも一気にブロックを押し寄せる。打てば捕まると判断した宮侑はフェイントで躱す。
ガウンが繋ぎ及川からユパンの速攻。
『バァン!』
抜けた先に待っている夜久。だが、威力を殺しきれず、サイドラインを越えていく。
影山が颯爽とボールしてに潜り込む。二枚のマイナステンポ。そして日向の延長線上に牛島。
影山は日向を選択。
『ダァン!』
『あ~っとここは捕まったぁ!それも三枚揃えてきました!』
『…完全に読まれていましたね。まあ二枚の時は止められることは偶にありましたが』
「「「…」」」
清水達は押し黙った。
全員がこう思った。
(((あ…来た)))
綾隆の策が動き出したことを何となく悟った。まだ明確ではないが、一緒にプレーをしたことのあるものは異様な雰囲気を肌で感じ取る。
23-23
25-25
日向 牛島 影山
宮侑 木兎 星海
ーーーーーーーー
バテ イポ 綾隆
キネ ガウ 及川
日向のサーブを軽々取るガウン。及川から清田へ。
『バッヂィィィン!!』
『上げたぁああ!!』
『もう…体に当てにいったという感じですね』
牛島が体に当て、コートに落ちるのを防いだ。影山には返っていないが、日本にはセッターが二人もいる。
ブリッジの要領で身体を逸らし、その状態でレフト木兎へ。
「OH…Jesus…⁉」
イリゴンは感嘆な声を零しながらも木兎へブロックを跳ぶ。そこに清田も加わり二枚で阻む。
ブロックを躱し、ストレートに打つが及川が繋ぐ。清田がセット位置に入り、こちらもファーストテンポのシンクロ攻撃。威力重視のバティスがブロック関係なしに打ち下ろす。
『バッヂィィィン!!』
ブロックで威力が弱まるも後方へ飛んでいく。牛島が繋ぎ、影山がアタックラインよりやや後方へ走っていく。
二枚で止められたのなら三枚で、マイナステンポ3枚。
『ダァン!!』
完全に日本のペースかと思われた瞬間。一本の柱を折るかのようなブロックをアルゼンチンが食らわせた。
完璧なトスに完璧な入り方。
ブロックを振り切ったと思った影山だが、完璧に読まれていた。
25-26
清田によるサーブ。
左で回転を加え、ギュルと手元で曲がる。夜久が上げるもまたもやサイドラインを越えていく。
宮侑からレフト木兎へ。三枚のブロックが詰め寄るが、僅かに開いたストレート。
「んぅ~~~!!」
木兎の渾身のスパイク。
『バァン!』
真正面で待っていた及川が綺麗に上げた。ストレートに誘導していたからだ。
清田からバックアタックで及川。不意を突かれ、ブロックは0枚。
だが、これを夜久が繋いだ。崩れた位置から星海のマイナステンポ。
『バァン!』
今度はドシャットではなく、誘導し綺麗に上げた。
『ドォッ!!』
『ドォォォオン!!』
25-27
着地した清田は影山と向かい合う。
「スパイカーを立たせてこそのセッター。スパイカーを潰してどうする」
▽▽▽
チビちゃんが欲しいトスに100%応えているのか。応える努力をしているのか。
勝つためなら、なんだってする綾隆。
だからこそ、俺達は絶対王者としているわけだけだ。
そんな綾隆に勝とうとする日本。
ずっと見て来た綾隆のプレー。
勝つためには多少の強引さを見に着けてしまったがための隙。
今のプレーだけじゃない。この試合が始まって長く続けて来た星海のマイナステンポ。
マイナステンポの増員が強力な手札なのは見た通り。
けど、星海のマイナステンの数を増やしたのが間違いだったね☆
▽▽▽
『二セット目はアルゼンチンに取り返されたあ!しかし、二セット目も僅差でした。まだまだこれからです!』
「くぅわ~やっぱ取ってくるよな~」
「てか、来たって感じがしたんだが…」
「「「「それな」」」」
「絶対綾隆の策が始まったよな~」
「恐ろしい策。見慣れない戦い方が始まるんだろうな…」
「でも…なんかアルゼンチンの戦い方って懐かしい感じがするんだよなぁ」
「そうか?」
「澤村クンの言う通りかも知れないね」
研磨がその問いに答える。
「おれ達音駒の埋めていくレシーブ力、鴎台のリードブロック、烏野の多彩な攻撃、これは当然だけど親善高校のサーブの強さ。どれも綾隆が分析したチームの強み」
「なるほど…それで…」
「ただ、ひとつないとしたら…梟谷のようなチームを鼓舞するエースがいないという事。まあそれがアルゼンチンに必要かは疑問だけど」
「確かにな…安定感、適応力のチームには無くても勝てるのか…」
【3セット目】
『三セット目が始まります!』
『日本はローテを回してきましたね。まあそれが正解だとは思いますけど』
『そうですね。正直、日向をWSに変えてくるのかと思ってましたね。準決勝でもそうでしたから』
『それは相手がアルゼンチンだからですね』
『ん?…どういう事でしょうか?』
『日向の一番の武器は囮。まあそれだけならWSでも良いでしょう…ですが、綾隆を混乱させるためには意味の分からない行動が必須。MBはそれにうってつけなんです。つまり、馬鹿が綾隆の目の前でウロチョロして欲しいということです』
「おい!失礼だぞ!」
『それに…この試合で最も重要な人物は木兎さんです。こちらも日向と似たような人物ですが、木兎さんは綾隆が唯一分析しきれなかった相手でもありますからね…』
『つまり清田にとって理解不能な攻撃手段を持ち合わせてる日本はアルゼンチンにとっての脅威ということ!三セット目が始まります!』
『ピーーー!』
夜久 星海 牛島
影山 木兎 日向
ーーーーーーーー
バテ イポ 綾隆
キネ ガウ 及川
『ドォォォオン!!』
日本コートで響く。
『サーービスエーーーッス!!及川徹のサーブ!日本取れません!!』
『このサーブを切っても次もまた同じようなサーブが来るのは笑えませんね』
0-1
『ピーーー!』
再び及川の強烈なサーブが日本を襲う。
「フッ…⁉」
星海が飛び込み腕に当てるが、セッター頭上には上がらなかった。
だが、影山には十分。レフトの木兎へアンテナギリギリまで伸びたトス。
読んでいたアルゼンチンは三枚のブロックを揃え、跳ぶ。
だが、少し空いたストレート。アンテナとブロックの隙間を抜いたキワキワストレート。
『バァン!』
真正面で上げる及川。木兎のクロスを警戒してストレートが甘くなっていたわけではなく、ワザと開けていた。
清田や夜久のように、読みが上手くなくても誘導しておけば問題ない。
ガウンから清田へ。
『バッヂィィィン!!』
ブロックに当て、後方へ飛んで行った。
0-2
『パサッ!!』
次のサーブは白苔に当たりネットイン。夜久が飛び込み繋ぐが、そのまま返っていく。
『ズッドォォン!』
ネットの真上からイポが打ち下ろす。
0-3
しかし、次のサーブはアウト。
再び、アルゼンチンが決めた。
1-4
『そして回ってきました!清田のサーブです!』
『どの選手もサーブは強烈ですけど…その種類の多さから苦手なサーバーだと言う人は多いでしょう』
『ピーーー!』
軽く上げて軽く跳んだ。レシーバーは二歩前へと移動する。ジャンフロとスパイクサーブとでは守備の位置が違うからだ。
だが、その移動しただけボールが目の前に来る感覚が早くなる。
「っ…」
夜久が上げるもセッターには返らず、日向が代わりにセットする―と見せかけて、そのまま強打。
『バァン!』
『んぅ~ここも清田がいる~!!』
『ちっ』
『へ?』
『?』
『ドォッ!!』
清田にセットされたボール。
再び、ブロックを吹き飛ばし点を稼ぐ。
1-5
次の清田のサーブを夜久が繋ぎ、牛島がブロックを吹き飛ばした。
2-5
5-10
影山から星海にセットされる。
三枚のブロックが星海を囲う。まるで傘のような壁。だが、空中での安定したバランス感覚により、指の先を当て弾き飛ばした。
『だが、清田いる~!!なんと言う反射神経⁉』
『出たよ…』
アタックライン近辺で後方へ飛んでいくのを阻止した。
だが、速攻は不可能。なら…と、及川は威力重視のバティスを選択。
ブロックを抉じ開け、強引に点を取った。
5-11
『かなり点差が開いてしまった日本…!厳しい状況ではありますが、まだ空気は悪くない!』
点差は開いているものの、誰も諦めているわけではない。それはこの決勝の舞台まで来る流れを見ていた観客もである。
いつだって逆境を乗り越えて来た日本に期待しないわけがなかった。
だが…ここで想定外の事が起こる。
『後ろから…牛島!!―がこれはガウンが上げている!そして、及川が清田にセット!』
レフトからセカンドテンポで清田が入って行く。昼神と影山がブロックを跳ぶ。
ストレートを完全に塞がれているなら…と清田は木兎の超インナーを真似てスパイクを打つ。
それを直感で感じ取った木兎。コースへ入るが…。
(間に合わない!)
「ん゛ん゛ッ゛⁉ンゴォッ⁉』
木兎は手が間に合わないと判断し、胸でレシーブ。
だが、忘れてはいけないのはスパイクの主は清田。世界でもトップクラスに威力の強い選手だ。
木兎はそのまま倒れていく。
だが、ボールは上がっているので、影山が繋ぎ昼神の速攻。
『ピッ!』
『あ~っとアウト!よくあそこから速攻に持っていきました!』
『木兎さん、動きませんね…』
皆が木兎に駆け寄る。控えの宮侑が真っ先に駆け付ける。
「息をしていない…!(大嘘)」
「ぼぼぼぼ木兎さん!!」
宮侑の嘘に簡単に騙された日向が慌てふためく。
「嘘言うんじゃねーよ」
宮侑の頭をポカンッ!と叩く夜久。
「あだっ。この辛気臭い空気をなんとかしんと思て!」
「誰もそんな空気になってないっすよ」
「はっ!?死んだかと思った!」
急に跳び起きた木兎。
「一旦、下がっときや」
「ええ!?まだやれる!」
「熱くなって前に飛び出たんやろ?綾隆くんのボールをもろ受けたらそうなるわ。いっぺん下がるだけや」
「うっ…!?」
「宮、お前が出たいだけやろ…」
「やかましいわ!」
『えー木兎を一度下げまして…宮侑を代わりに投入します』
『まあ、今のは判断を誤った木兎さんが悪いですからね。仕方がないです』
牛島 夜久 宮侑
星海 昼神 影山
ーーーーーーーー
イポ 綾隆 及川
バテ キネ ガウ
宮侑が入り、マイナステンポの要因が三枚になったとはいえ、木兎光太郎の一時退場は日本にとって痛手だった。
▽▽▽
「木兎さん…」
「木兎…」
赤葦くんとかおりちゃんが項垂れる。
「ま、まあ木兎らしいと言えばらしいけどな」
澤村が気を利かせる。
「はああああ…ほんっとウチのエースがすいません」
「でも、やっぱり痛いね。木兎さんがいなくなるのは」
そんな澤村の気遣いを全無視して研磨くんが口を開いた。
「綾隆にとっての計算が通じない相手。存在するだけで厄介だっただろうしな」
「確かに…」
その予想は的中し、どんどん点差が離されていく。
『ここもガウンが繋いで!及川のツーアタックがここで決まった!!』
9-18
嫌だ…やっぱり見ていられない…。
「清子ちゃん、大丈夫?」
「これ食べる~?」
二人が心配をしてくれる。
「うん…ごめん、大丈夫」
淡々と得点を重ねていく綾隆。私も高校のときはその背中が頼もしく安心していられたのに…。
だけど、それは私が見たいと思って、そうであると信じたかっただけだったのかも知れない。
少し遠くから見れば、綾隆の実態がよく分かる。
だからこそ、悲しくて辛い。
『ドォッ!!』
『ドォォォォオン!!』
13-20
▽▽▽
『なんと言うか…流れが悪いですね…』
『リズム…』
『え?』
『綾隆が以前言ってました…バレーはリズムが大切な競技だと。当然、それは僕らも心得ています。日本は自分達でリズムを作っていたと思っていた。だけどそれが違った。リズムを作っていたのはアルゼンチン側。この場合は作らされたと言うべきでしょうか』
『乗せられていたという事でしょうか…』
『はい。プロでさえ、崩れたリズムを立て直すのは難しい。それも1セット目2セット目と掛けて、そのリズムに慣れさせられてきましたから…』
『厳しい戦いになって来た日本…しかし、まだ試合は終わっていない…!』
マイナステンポという強カードに頼った弊害。速さと言う武器に囚われていた影山はもういないものの、そのカードが有効ならば、使わない手はないと考えていた。
『速い速攻で三人が入って行くが―またもやガウンが上げた!』
打つたびにコースが絞られていくのが外から見ていてもよく分かる。
『そして再びの清田!!―が、後方に飛ばされたボールをギリギリで繋いでみせた!MB日向!』
高校時代よく見た日向の反応の速さ。
そして上げて終わりじゃないのも知っている。
「かっげやまあああああ!!」
『そんな後ろから攻撃に参加しようとしている…!?』
『ふふっ』
バックアタックで攻撃に参加し、セットされたボールを相手の指に当て吹き飛ばした。
16-23
「ヘイ!諦めたりしないのか!?」
かなりの点差が開き、ここは次のセットに切り替えるために体力を温存するところ。
だが、日向は構わず追いかけた。
その行動に理解できず、イリゴンは声を掛けた。
「はぁ…はぁ…まだ…終わってないから」
アルゼンチンは誰もが気持ち悪いと思っただろう。日本は笑みを零しただろう。
17-23
だが、それでもアルゼンチンの勢いは止まらず…。
『ドォォォオン!』
18-25
『ん~~~三セット目はアルゼンチンに取られましたぁ!日本あとがありません!』
ベンチに戻った日本チーム。
タオルを受け取り、腰を下ろした宮侑は口を開く。
「高校んときに、烏野に負けてから何回も烏野の試合を見た。白鳥沢との試合の前からも搔き集めてな。おかしいやろ…春高予選と春高本戦では明らかに戦い方が違うねん。手を抜いとる…そんな感じやった。あのままやったら勝てる隙も多かったやろに!」
自分の膝に拳を打ち付ける。
「あ~そう言えば!春高予選で優勝した時に、何かひと悶着?あったよな影山」
オレンジ頭がそれに反応する。
「そうだったか?あんま覚えてねえけど。確かに春高本線から本領発揮してきたな」
「ん…?」
「なんか!白鳥沢と戦ったあとに、変なおじさんが来まして!綾隆のことバーッて話して言ったんですよ!あんま覚えてないですけど。んで、その後に皆で騒いでいたら、綾隆が笑ったんですよね~」
「「「「は?」」」」
「おれも初めて見ました!綾隆の笑った顔!あの一回きりでしたけど!」
「………またお前かい!このアホたれが!!」
日向の言葉に激怒する宮侑。
「ええ~!?」
「キミらがあの悪魔に好きにやらせたんやろが!」
そう―これは全て烏野の責任だった。
【4セット目】
影山 夜久 日向
木兎 宮侑 牛島
ーーーーーーーー
イポ 綾隆 及川
バテ キネ ガウ
『さあ、あとがない日本!この危機を乗り越え最終ラウンドへ行けるのか!この四セット目に全てが掛かっています!』
『日本はポジションを大きく変えてきましたね』
『そうですね、宮侑に星海がMBって初めて見ましたけど…大丈夫なんでしょうか?』
『リズムが崩れたのなら、強引に点を取ろうということでしょう。脳筋が多いので有効でしょう』
「星海くんはMBは合わないけど、こうなっては仕方ないよね。対処されたのなら、更に上からいくしか」
「結局はいつも通り。相手を何かで上回れってことだな」
『ピーーー!』
四セット目が開始した。初っ端のサーブは影山。
『ドォォオオン!!』
『サーービスエェース!!影山!!』
流れを取り戻すかのような一本のサーブ。
1-0
日本目の影山のサーブをリベロガウンがきっちりと上げる。
及川からレフト清田へ。清田が決め取り返した。
1-1
及川のサーブを日向が綺麗に上げる。そこから日向、宮侑のマイナステンポ二枚攻撃を囮にし、木兎がブロックを弾き決めた。
三セット目止められることが多くなったマイナステンポだが、その攻撃が死んだわけではない。
2-1
日向がWSに入ったことで、鬱陶しい存在が常にコートに居ることになった。それが少し嵌ったのか、縺れながら試合は進んでいった。
しかし―
『ダァン!』
11-11
四セット目に来て、日向の攻撃は自由さが増し得点を重ねて行った。そして、日向本来の持ち味である囮としての機能も本領発揮をしていた。しかし、それでも、相手はあのアルゼンチンであり、清田綾隆である。日向達も分かっている。同じ攻撃は何度も通じない。しかし、試合終盤に差し掛かり攻撃手段が少なくなってきた。清田の策略なのか、思うような攻撃に入れなくなっていた。
そして、四セット目中盤で牛島のスパイクがドシャット。完全に牛島一本に絞られコースも絞られていた。
その痛さが観客にも伝わったのか、応援の熱量が低い。
「へいへいへ~い!次一本いくぜぇ~!!」
木兎は声を張り、チームに声を掛ける。高校生最後の試合での敗因を繰り返しはしない。
「これだけの攻撃をもってしても決まらへんのに、なんで元気でおれんの⁇」
心底気持ちわりぃと言う顔で宮侑が言う。
「大丈夫!だって俺らは、今、100%の力で挑んでるから!」
「それを滅多返しにされたんやろ!」
「ツムなに言ってんの。試合で100%を出し切れることなんて、そう出来ないよ?」
はっとするチームメイト。木兎は続ける。
「俺達は今、練習通りに動けているということ!何も調子が悪いなんてことはない。これはただ勝つ事がムズカシイだけでムリではない!」
『あははは。木兎光太郎らしいですね』
『まったくですね。気持ち悪いです』
「うおぉぉおっす!木兎さぁん!まだまだこれからっす!」
「おお!弟子よ!これから取り返すぜぇ!」
だが―
『ドォッ!!』
『バッヂィィィン!!』
それが難しいのである。
13-16
清田のサーブで崩れた日本。それを木兎がリバウンドでもう一回を作る。
それでも皆の助走は確保できていない。
「お~らい~~~!!」
日向が高く上げ、リズムを整える。
乱れた呼吸を整え、真正面からの殴り合い。
『ダァン!!』
それは当然のこと。日向のリズムの切り替えは高校時代に清田は見ている。
『あ~っとここもアルゼンチンのブロック…!』
14-18
「よこせぇぇぇぇいいいい!!」
苦しい日本。それでも元気な木兎。普通のエースになった木兎は試合が終わらない限り、トスを呼ぶ。
『ダァン!』
それでも阻まれる。成長した木兎も高校時代に見ている。
15-20
五点差。それも相手は20点台に乗ってしまった。
もう駄目かと、誰もが思っただろう。アナウンサーも声が出ていない。月島も研磨も厳つい顔をしている。
観客もバルーンを叩くのを忘れ、諦めモードに移ってしまっている。四セット目中盤にして会場が静かになった。
だがそんな時、一人の男が立ち上がる。
「下を向くんじゃねえええええ!!!」
静寂に包まれた会場で、一人の男が最大声量で吼える。
「バレーは!!常に上を向くスポーツだ!!!」
男は顔を上に上げ、笑顔を作りまだ終わってないと選手に伝えた。
周りにいる子供たちがポカーンとした顔で男を見つめていた。他の観客もそうであり、男は注目の的になっていた。
だが、選手の…特に日向影山はニッと笑い、上を…前を向く。
まだ、試合は終わってない。
負けたくないことに理由はない。
ここで諦めるわけにはいかない。
それが日向影山の心情。そこに直接訴えかけた。
『おや、今のは烏野高校の…』
『ええ…いつまでもコーチです』
夜久 木兎 影山
牛島 日向 星海
ーーーーーーーー
パン キネ バテ
及川 綾隆 イポ
アルゼンチンのサーブを日本は崩れながらも上げる。だが、そのままアルゼンチンコートに返っていく。
畳みかけるように、ファーストタッチを及川はセット。そしてバックアタックから清田。
『ドォッ!!』
ブロックは二枚が付くが、それでは止められない。
余裕を持った体勢でライト側へ腕を振ろうとしたとき、小さな手が清田の視野に入る。
だが、清田からすれば撃つ場所を変えれば良い話。
『ドォォォオン!!』
『ピッ!』
『ア、アウトォォォオ!!初めての出来事!!清田のスパイクは僅かにそれ、アウト。これは月島さん…何が原因だったんでしょう』
『……日向のブロックと…夜久さんの守備位置ですね。夜久さんは相手の撃つコースに入って真正面でボールを拾います。なので基本的には目立つことはありませんが、相手スパイカーからすれば相当嫌なリベロです。日向の突如視界に入ってくるブロックを躱した場所に夜久さんが居た。それを避けた結果でしょうね』
「珍しいこともあるんだな、狙ってならまだしも、それ以外でアウトって」
「………すいません」
謝罪し、清田はネットの向こう側を見る。
「邪魔だな」
清田から発された冷たい声。日向潰しに移行したということ。
その圧を感じ取ったのか、日向は距離を開ける。
16-20
『夜久が繋いだ!影山誰を使うか―サイドに走った日向!』
ファーストテンポの速攻でサイドから逆サイドへスパイクを打った。
しかし。
『バァン!』
『んぅ~~清田が居るぅ~』
及川からユパンへ空中での安定感を披露しながら、空いているスペース。前へ落とした。
「くっ……!」
影山がそれを阻止する。そして星海から日向へ。
『そこから速攻を使うか!』
日向の体勢が悪く、まともなスパイクは不可能。だが、それでも押し込んだ。ネットに当たりネットの上を少し転がった後、アルゼンチン側で落ちる。
『ふぅ~~~あ、すいません。思わず出てしまいました』
『危なっかしいのは、高校でも今も変わりませんね』
17-20
18-21
日向 牛島 夜久
星海 影山 木兎
ーーーーーーーー
及川 パン キネ
綾隆 ガウ バテ
日向のサーブをガウンが繋ぎ、及川から清田へ。
『ドォッ!!』
『バッヂィィィン!!』
ブロックを吹き飛ばし、後方へ飛ばす。だが、これを日向が繋いだ。
そして、そのまま攻撃に参加する。日向のバックアタックに3枚のブロックで対応する。及川は直感的に指を狙われたと感じ、手を引っ込める。だが、空中戦では日向の方に分がある。
日向は構わず、及川の場所を打ち下ろす。
『バァン!』
読み合いで勝ったと確信した日向だったが、真正面でレシーブをされた。
『またしても清田が上げました!』
『ドォッ!!』
そして、またもや清田のバックアタック。
こちらも三枚のブロックで対応する。だが、それを躱し打ち下ろした。
『バァン!』
抜けたスパイクを真正面で待ち構えていた日向が、触る。
『日向が上げているが、後ろに逸れた!日本、これを繋げるか―』
牛島以上の威力に耐え切れず、尻もちを着くがすぐに立ち上がる。夜久が繋ぎ、牛島が最後に返す。
まだ立て直していない日本。ファーストタッチを及川。そして三度目の清田のスパイク。
『三回連続ッ清田のスパイク!』
日向はフェイントを入れ、空いているスペースをワザと空ける。そして清田が打つと同時に移動する。
だが―
「くっ……!」
それを清田が逆に利用し、元居た場所に落とす。それを日向が跳び込んで拾うが、そのままアルゼンチンコートに返った。
『ドォッ!!』
そして、四度目の清田のスパイク。ファーストテンポの速攻で決めに来た攻撃。
日本は二枚のブロックで対応する。
が―
『日本、完全に振られた~~ライトからネストル・キネルゥ~~!!』
1枚ブロックで跳ぶ。その一枚のブロックに当たり、後ろへ飛んでいく。
繋いで跳んで。走って繋いで返して繋いで跳ぶ。疲れて当然。足が動かなくなり、思考を巡らせることが難しくなる。
苦しい。止まってしまいたい。
そう思ってからの一歩。
「フンッ!!!」
『日向が繋いだぁあ!!ボールはまだ落ちてない!!』
「影山ぁあああああ!!」
すぐに立ち上がり、日向は攻撃に入って行く。
「ああ…日向はいつだって変化しているのに、何も変わってない…!」
菅は大きな声で独り言を言った。皆も笑んで頷いた。
日向の圧倒的存在感。
鴎台のようなブロックを誇るアルゼンチンだが、その存在感に重心が僅かに傾く。
『影山、レフト木兎を選択!』
真ん中に集まったブロックではストレートを完全には防げず、キワキワストレートが決まった。
「おっしゃあああ!!」
「うぉおおおお!!!!」
その一本は反撃の狼煙かのような。まだ諦めるには早すぎると観客に教える一本だった。
『にっぽん!!』『ババンバンバン!』『にっぽん!!』『ババンバンバン!』
19-21
しかし、アルゼンチンには勢いなど関係ない。
「アルゼンチンって本当に泰然自若なチームと言えるよな…」
「迫って来ても全く動じたりしないもんな」
「やると決めたことには徹底してくるし…」
東峰、澤村と菅が感想を零す。
日向が足掻けば足掻くほど、清田は更に上から日向を封じる。
「そう…!そうなんだよ!!」
黒尾はありったけの気持ちを込めて、二人の感想を肯定する。
「ミスをしないなんてありえない。のに…!ミスで点を落とすことが少なすぎるんだよ…!人間がしているとは思えないよね~」
「日本はミスをすることも多いけど、それ以上の点を稼ぐチームだからね。対照的なチームだよ。ただ一人を除いてだけど―」
22-23
影山サーブをガウンが繋ぎ、及川がツーで押し込む。なんとか拾い日本は返す。
レシーブ位置に戻れていない日本。畳みかけるアルゼンチン。
『ドォッ!!』
▽▽▽
決して目立つことなかれ。
半歩先に辿り着け。
その半歩が、ボールを操る余裕を生む。
その半歩は、味方の余裕にも繋がる。
そしてその半歩は、相手の余裕を奪うことになる。
三枚のブロックの隙間―
『バァン!』
▽▽▽
『清田のスパイクを完全に上げて見せた夜久!!』
『さすがですね…これで攻撃への助走も取れます』
影山から宮侑へのマイナステンポ。腕を振り下ろすが、ブロックに捕まる。ゆっくり落ちていくボールを宮侑は、そのまま上にセットする。そこから牛島が決めた。
『ここで来ました牛島若利ィィ!!』
23-23
26-26
『長いラリー…スタミナとの勝負…!ここを切らなければ日本は敗北です…!』
牛島のサーブを清田が上げる。及川から清田へ。
打つ瞬間、コースを変え打ち下ろす。
清田のスパイクを真正面で受け止めた牛島だが、後ろへ逸らす。木兎から星海への二段トス。
空中での安定感を活かし、打ち下ろす。が―清田が移動し繋ぐ。
及川から清田へのファーストテンポの速攻。
『ドォン!』
最高到達点368㎝から364㎝に落ちたとしても、大した差ははない。
だが、相手が空中戦を得意とする者だったなら。
その道のプロだったなら…。
空中での駆け引きに大きなハンデを背負うことになる。
『ダァン!』
ボールが弾み止まるまでの異様な静けさ。
『ピッ!』
審判の笛と共に会場が爆発的に騒がしくなった。清田のスパイクをドシャット出来たのは今まで、天童くらいだった。
久しぶりに見たと言う者もいるだろうが、初めてみたと言う者の方が多いだろう。
『やりましたね、月島さん!』
『ええ…体力切れ…とまではいきませんが、最高到達点から少し…数センチ引きずりおろせたのでしょう。この四セット目は日向を完全にマークしていた。でないと、日本が勢いに乗ってしまうから。それを素早く察知した綾隆は勢いに乗る前に止めに来た。結果的に日向の活躍は半減しましたが、綾隆の体力を少し切らすことが出来たということですね』
『なるほど…これは見えてきましたよ!』
『いえ…これは高校の時もありました。だけど、すぐに体力を回復し元通りになった。だから、今するべきことは―』
『今するべきことは…?』
『審判が早く笛を吹くこと!一秒も休ましてはダメだという事です!』
「ぷっツッキー、めっちゃ必死じゃん」
「でも、ほんと月島の言う通りだよ…早く笛吹いて!!」
「こっちもか…」
ほんの僅か、その綻びを日本は待っていた。
27-26
▽▽▽
繋いで繋いで、落として託して繋いできた。例え意図せずとも、繋がっていることは大いにある。
それが偶然だろうと必然だろうと、そのチャンスを逃すわけにゃあ…いかんよな。
▽▽▽
清田の体力を温存しなければならないアルゼンチン。
だが、及川はそれでも清田にセットした。
『ドォン!』
不意を突かれた日本はブロック一枚で対処。夜久が横に飛びながら繋ぐ。
木兎が繋ぎ、星海が最後に打つ。ブロックの指を狙い、後方へ飛ばすが―それはガウンが繋ぐ。清田からレフトに移動した及川へ。
クロスへ打とうとした及川だが、直前にストレートへ。
『ピッ!』
「かあ〜やられた!」
『ア、アウト!!アウトだ!日本取りました!四セット目を取り返しました!これでファイナルセットです!!』
『最後、及川さんは打つコースを変えましたね。打とうしたコースに夜久さんが入っていたからでしょう』
『それほどの駆け引きをその一瞬で…』
想定外の事態に会場を大盛り上がりを見せていた。
そして、アルゼンチンにとってもこれは想定外であった。
「…このまま行くか?」
「そうですね、行くしかないです」
その短い会話でチームの方針は決まった。
「おいおいおいおいぃ…なんかこっちの空気になって来たんじゃないの?」
「だな…このまま行けるか…?」
澤村達もこの光景には驚きを隠せていなかった。
「行ける…」
「おや、研磨くん随分と自信だね」
「アルゼンチンの計画は1セット目を捨てて、2.3.4セットで終わらせるつもりだったんだろうね。でもそれが叶わなかった。勿論、それが出来なくなったときの策は考えてあるんだろうけど…」
「ここに来ても、沈まねえ木兎と日向達…そしてやっくんと言う厄介な存在か」
何度も計算を上回ってくる日向や木兎。それらを陰ながら支える夜久。
「例え体力を回復しようと、こちらは数で翻弄する。今まで繋いできた数が勝ち越したということ」
『にっぽん!!』『ババンバンバン!』『にっぽん!!』『ババンバンバン!』
【ファイナルセット】
『日本はポジションチェンジをしてきましたね』
『綾隆に対して日向をぶつけてきましたね。綾隆を翻弄できるのは日向だけです。逆もしかりですが』
及川のサーブで始まり、木兎が上げ影山からレフト木兎へ。
三枚のブロックで跳ぶが、ストレートを木兎は抜く。
『バァン!』
待っていたように及川が繋ぐ。綺麗に上がったボールを清田がセット―
『清田がツーで打ち下ろした!』
ノーブロックで打ち下ろす清田。だが、そこに小さな腕が伸びる。
『ここも夜久が繋ぐ!!』
「やばい…!やっくんが覚醒してるぅ!」
「思えば、もりすけ君は高校の時から綾隆によく狙われてたからね」
「あいつ、こいつを崩せば勝ちってヤツを良く狙ってたからな」
「犠牲者は多かったんだよなぁ~」
夜久が清田の攻撃にな慣れていてもおかしくはない。高校の時、そしてプロになってからも清田との対戦時は狙われる対象だった。今までは惨敗だったとしても今、勝てば問題ない。
影山から宮侑への真ん中を突っ切るマイナステンポ。疲れている相手には速さでの勝負。
『バッヂィィィン!』
『ここは清田が阻む…!疲れを感じさせませんね…』
『綾隆は決して顔に出す人ではありません。ただ、疲れているのは事実です』
及川のセットから、レフト清田へのトス。
『ドォン!!』
『ここも清田を選択しました!―しかし、日本も3枚のブロックを揃えてます!』
三枚のブロックを揃えた日本。ここで止める強い意志が感じられる。
『ドォォォオン!!』
『ここで超インナーへ!三枚ブロックの更に内から…!』
『ほんっと厄介な相手ですよ…!』
0-1
及川のサーブはコートを僅かに外し、アウト。
1-1
影山 夜久 日向
木兎 宮侑 牛島
ーーーーーーーー
バテ イポ 綾隆
キネ ガウ 及川
『ドォォォオン!』
『サービスエェース!!影山飛雄!!』
コートラインギリギリを攻めた結果のサービスエース。相手には相当なダメージを与える。
2-1
2-2
ガウンが綺麗に上げて及川からレフトバティス。
『バッヂィィィン!』
威力を重視したスパイクでブロックを吹き飛ばすが、あらかじめ下がっていれば問題なく、木兎が上げる。
[寄越せ]
と、後方から圧を影山は感じ取る。
今大会、得点は決して少なくはないが、なにかと目立ってはいなかった。
高く羽ばたかせ、アタックラインから跳ぶ。
世界の中でパワーが強くとも、上には上が居る。
足掻いたところで、威力が上がるわけでもなく、相手が手を抜いてくれるわけでもない。
それでも目の前には勝たなければならない相手が居る。
強くなるために、何度でも強さを捨てる。
プロになってから、フォームを変えて威力を重視してきた。だが、今回の相手は牛島よりも威力を上回る相手。
そしてレシーブもブロックもパワーでのごり押しは不可能。
ならば―パワーを捨てればいい。
コンパクトなフォームで威力より正確さを重視した。三枚のブロックの指先に当て軌道をずらす。そのまま地面に叩き落とした。
『決まったぁあああ!!牛島若利ぃぃ!!』
ここに来ての日本のエースの得点に歓声が沸いた。
4-2
日本も好調だが―
『ドォォォオン!!』
『ここはバティスの一撃ーー!!』
『まるでウチには流れなんて無いと言いたげですね』
4-3
ここまでの日本の得点には多少の運が重なっていてのはある。
しかし、牛島の得点を期に日本は更に調子を上げている。それでもアルゼンチンを押し通すことは難しい。
及川のセットから湯パンが真ん中からの速攻を決める。
淡々と取り返してくるアルゼンチンに逆にこちらの空気を破壊されそうであった。
『何か…あと一つ』
月島は呟く。
『え?』
アナウンサーが聞き返すが、月島からは返ってこない。
「なんでも良い…あと一つの歯車があれば、完全な日本の空気になれる」
「逆に…悠長なことをしていれば、化け物がすぐにでも復活しそうだ…」
あと何か一つ…と考えるのは選手も同じだった。
『ドォン!!』
及川からバックアタックで清田へ。三枚のブロックで清田を囲うが、すっぽりと抜け出す。
『ドォォォオン!!』
『ここで清田の左ぃぃい!!』
「あれは…稲荷崎の角名倫太郎のスパイク…!」
「ここに来て、まだ手札を持ってやがったか…」
7-6
木兎 牛島 夜久
星海 影山 日向
ーーーーーーーー
綾隆 及川 バテ
ガウ バテ キネ
今にも追いつかれ追い越されそうな、この緊張感。
研ぎ澄まされていく感覚で、頭を思考を巡らせる。
自分に何が出来て何が出来ないのか。
必要なことは補う事ではない。相手を上回るなにか。
理解するや否や、日向は走り出す。
ブロックの強い相手には、コートの横幅めいいっぱい。
端から逆サイドへ。打ち下ろす。しかし、それはキネルが上げる。
これでは駄目だと、再び思考を巡らせる。それを肌で感じ取った及川は「気持ち悪い…」と零す。
高校生のときから、いつも見て学んできたこと。高校生らしからぬ存在、清田綾隆を見て来た。攻撃に入る体勢、レシーブの技術。トスの正確さ。それらはどこから来ていたか。
全て、動き出しのはやさから来ていた。
見て、感じて、考えると言う行為は一歩踏み出すのを遅らせる。
ビーチバレーの経験を積んで来た日向。
味方は二人だけ。それでも三回のパスで返さなければならない。
予測し、次の行動を考えて行動する。
いつも繰り返してきた行動はいずれ“直感”へと化ける。
夜久のレシーブが高くは上がらない。低く、すぐにセッターの頭上に向かうパス。
日向はそう感じ取った。
もう一度、日向はサイドへ走り出す。
いつもよりもタイミングの早い日向。それは当然、影山も感じている。
サイドへめいいっぱい。
ドンッ + マイナステンポ。
相手を上回るために何が必要か。
それは至って単純明快。243㎝のネットの高さ。その更に上での空中での戦い。
大きい者が強いのは当然のこと。
しかしそれでも…小さい者が不能というわけではない。
星海が常に言っていることだ。弱いことを知っているから、強くなるための武器を探す。
何を取り入れるか…それは人それぞれ。強くなる方法はいくらでもあるからだ。
小さい者は高さ勝負ではまず勝てない。だから、他の方法を探す。
しかし―
1㎝を1mmを一秒はやく、てっぺんへ。
日向はいつだって高さでの勝負。
2mを越える大きい壁が自分の高さへ来る前に。
最高高さから打ち下ろす。
『ズッッパァァアン!!』
『決まったぁああ!!マイナステンポでブロックをぶっぢぎりました!』
『…ふっ』
「おっしゃああああああ!」
「ふふっ、翔陽らしいね。世界の大きな壁に高さでの勝負か」
「あっはははは」
8-6
その一本が完全な日本の空気へと変えた。
木兎のサーブをバティスが上げる。
及川から左利きキネルへの流れるようなトス。日向牛島でブロックを跳ぶが、ストレートを強引に突破する。
そして、今度は日向によるレフトから超速攻。その圧倒的存在感にブロックが二枚着く。
ファーストテンポの速攻で真ん中から星海が入っていき、そのまま決めた。
11-6
約9年間、勝ち続けて来た清田綾隆。6年間、絶対的な王者として君臨してきたアルゼンチン。
その均衡が崩されていた。誰もその光景を見たことがなく、日本の応援をしてきたファンたちでさえも喜びを忘れ、唖然としていた。
苦しい表情を浮かべるアルゼンチンの選手達。
▽▽▽
俺を構築するんは普段の継続や。結果よりも過程が大事。その考えは今でも変わらん。
でもな…。
なあ清田くん。楽しいは楽しいで良いらしいで。
感情に理由なんかいらんねん。
▽▽▽
「…ハッハハハ」
静かな会場に大きくはない声が響く。
その笑い声は日本からではなく、観客からのものでもない。アルゼンチンのエース、清田綾隆からだった。
楽しそうに。愉快そうに。実に高揚している。
負けている、追い詰められている。自身の計算を上回った相手を捉えて笑った。
綾隆の笑いに、観客たちは目を見開き驚愕し、誰も声を発せなかった。清田綾隆は常に冷静沈着で笑みも疲れた表情も見せなかった。それが人気の理由でもあったのだから当然の反応だろう。
アルゼンチンの選手たちでさえ驚いている。それは及川もそうだ。
だが、最も驚いているのは日本の選手だろう。いや、驚いているわけではないようだ。
日向は手をギュッと握り拳を作る。顔は笑顔のような警戒しているような難しい顔だ。
日向は嘗て、研磨に「た~のしぃ~」と言わせたとき、大層喜んだものだ。今回もそれを間接的に言わすことができ、嬉しかったのだろう。
だが、それ以上に試合がこれからだと言う予感に、警戒心を隠さずにはいられなかった。
「いつも通りで良い」
綾隆は及川にそれだけ伝えてポジションに戻る。
『ピーーー!』
日本から放たれたサーブを崩れながらも上げて繋ぐ。
サイドラインを越え、ボールは出て行く。
懐かしいセッティング。
青城 対 烏野。春高予選で最後の及川のセッティングと被る。
▽▽▽
なんか、綾隆のことを分かった気がした。
あいつと飯を食いに行ったこともあるけど、綾隆は自分の話とかしねえから何を考えてるのか分からん。
でも、練習に試合に同じ時間を共に過ごすことで、何かに囚われているんだな…と何となく思った。
いつも通りで良い…か。
うるせぇ…。
ここまで来い!
『ドォッ!!』
才能は開花させるもの。センスは磨くもの。
タイミングのはやいセカンドテンポでトスを送る。
ドンピシャ。
『ッドォォォオン!!』
チームを鼓舞してこそのエース。
▽▽▽
聞きなれた音が響き渡る。
以前、菅さんが言っていたセリフを思い出した。
「教科書はな…最後に破る物なんだよ」
スパイクを打つ瞬間の綺麗な景色。
色があった。
ハッキリと全体が見えた。
オレは弾むボールを見てから、振り向く。及川もこちらを見ていた。
考えての行動ではない。
だが、足は前へ進んでいく。それは及川もだった。
ちょうど手の届く距離になったとき。
『パァン!』
乾いた音が響いた。
…これが高揚か。
取り返したと言っても、プロの試合でここまでの点差をひっくり返すのは困難だ。
だが、一先ずどうでもいいよな。
みんな、何かを繋いできたんだろう。それがここまで成長させた。
オレも一つ、あの時から繋いで来たことがあったな…。
【目の前の相手をぶっ潰して勝利を勝ち取るのが、この決勝戦のコンセプト】
月島の懐かしい言葉だ。
目の前の敵を潰すことだけを考えて。
試合はまだ……始まったばかりだから。
木兎 牛島 夜久
星海 影山 日向
ーーーーーーーー
イポ 綾隆 及川
バテ キネ パン
ユパンのサーブで日本のレシーブを崩した。
だが、影山には関係ないことだろう。厄介な攻撃、マイナステンポの可能性、そしてその使い方を計算する。日向に二枚のブロックで向かわせ、真ん中から同じようにマイナステンポで入ってくる星海をマークする。影山は囮に使い、バックアタックで木兎にトスを上げた。
完全にクロスだけを切って、ストレートに誘導するようにブロックを跳んだが、やはり厳しい…。
『バァン!』
バティスが横に飛びながら繋いだ。
『おおおおお』
及川からイリゴンへ。三枚のブロックで囲われたが、その上から打ち下ろした。
「カモンッ!!」
▽▽▽
互いが互いの師。
今までは、みんなが烏野16番…綾隆を師としていたが、今はこちらが師だなぁ。
「レフトよこせぇぇいい!!」
木兎に三枚のブロックが囲うが―
『ズッドォォォオン!!』
「へいへいへ~い!!」
『木兎~~~~!!』
ほっほぉ…ここは師としてちゃんと決めて見せたな。
『ドォォオオン!!』
『『『キャーーーー!!清田選手!!』』』
まったく…こっちは全力でやってんだい。
それなのに、こちらの全力を次の瞬間に超えてきやがって…。
これだから――
▽▽▽
『ほんっと…ほんと、これだから…あいつは―』
「すぐにそう来るよね…どれだけ勇者を瀕死にさせなけらばならないんだよ…これだからこのゲームは―』
『「嫌いなんだよ」』
「なんかあの二人、いつもキレてるな」
「最後になるといつも熱くなりますから」
月島くんと研磨さんが何故か怒っており、その二人を見て笑う人達。そんな光景が懐かしく感じ、ふっと笑みが零れた。
横を見ると清水先輩は涙を零していた。無理もないよなぁ…私も、ずっとこの綾隆が見たかったんだし。
「おっまた日向が入って行く!はええ!」
「綾隆もやっぱりついていけんだな…」
日向にセットされたトス。今回、日向には綾隆一人で対応するみたいだ。
ずっと前に綾隆が言っていたことが日向も出来るようになったという事かな…それが綾隆を狂わした?というより、綾隆の領域に入れた感じかな。
まあ、綾隆のように先読みが上手くなったとしても…
『バヂィン!』
日向のスパイクは綾隆に阻まれ、日本コートに落ちていく。
綾隆に読み合いで勝つ事なんて無理。
そんなことはみんな知っている。だから―数を増やすんだ。
『ドンッ!』
影山くんがサッとカバーに入り、真ん中の星海さんにそのままセットする。
『ズッドォォオン!!』
「お、おおおおまえーーっおれが叩き落とされると分かってカバーに入って来やがったな⁉こんにゃろー」
「当然だろ、このぼげぇ」
あははは、日向影山くんらしいや。
しかし―
『ドォォォオン!』
『こちらも止まらない!!清田綾隆!!』
振り抜いた腕。腕が下がると綾隆の顔が見えた。
楽しそうだと、私はほっとする。
いつしか、私達烏野の元バレー部員はどちらを応援すれば良いのか分からなくなっていた。
『ししゅーー!!』
「絶対に死守ーー!!」
月島くんと研磨さんは日本に勝てと応援していたけど…。
私は今の綾隆を見れただけ、もう満足だった。
▽▽▽
今日と言う日を私は一生忘れないだろう。
溢れる涙、拭い流れまた拭う。
この試合を絶対に見逃してはダメ。
終わってほしくなく、ずっと見ていたい。
それでも終わりは刻々と近付いている。
綾隆によるスパイク。圧倒する高さ、パワー。そして技術。
それでも絶対に決まるか分からない、不安定さに欣快感。
あ…終わる。
『ダァン!!』
▽▽▽
分かっていた。
勝ちよりも、楽しさを求める気持ちが少しだけ上回った。
色のある世界。高揚している自分。
もっと色んな景色を見たかった。
鬱陶しいぼやけた視界は、この綺麗な景色を邪魔する。
それをやめたことで、この色鮮やかな景色を見ることはできたが、不安定さが生まれた。
修正していけば、対応できただろう。
だが、そんなことは…もう、どうでも良いことだな。
自コートで弾むボール。静止するまで見届けた。
18-16
『さ、最後はドシャットォォォオ!!日本!優勝!!日本!!優勝!!!!絶対王者アルゼンチンを下して、この東京オリンピックを日本が制しました!!歴史が変わります!!』
『『『『『うおおおおおおおお』』』』』』
会場内が凄まじい熱量を帯びている。だが、静かだった。オレにはそう感じた。
勝つ事が当然であり、敗北は『死』
負けたところで、誰も死なない。
世界トップから引きずり降ろされただけのこと。
オレにとっては…一歩、確実に前へ進んだ。
【こころ】
「綾隆君と初めて試合したのが高校2年生の頃。
ほんで、今、俺は26歳や…約9年間。9年間やで…あの化け物を倒すのに掛かった時間は…はぁ…はぁ…ほんで、倒した俺等が満身創痍ってなんでやねん………はぁ…ふぅ…ほんまに…アカンやろ。バランス取れとらへんわ。
ようやっと…とんでもない魔王を倒せたわ…俺等は勇者と勇者一行やで…」
「ツム、何言うとん。疲れすぎて頭おかしなったか?」
「なんでインタビュー中に話しかけてくるねん!
どっかいけや!ってかなんで選手じゃないお前がここにおんねん!」
「はい…というわけで、宮あつむ選手からでしたぁ〜」
「終わってもうたがな!」
▽▽▽
「これからどうすんの?お前が来てから、初めての敗北。チームにとっては良い兆しになった。俺はここで続けていくけど…?」
「そうですね……オレは先ず、やらなければならないことがありますから」
久しぶりに疲れを味わった。だが、足取りは悪くない。
終わってしまったことに残念に思っているくらいだ。
今なら、心の底から楽しかったと言えるだろう。
控室を出て観客から向けられる視線を無視し、目的の場所へ向かう。
一本の柱を背に一人で佇んでいる人を発見する。
他の人達はもう帰ったのか。
2.3メートル離れた位置から声を掛ける。
「清水…さん」
「やっ…待ってたよ」
観客の視線をものともせず、いつも通りの清水さん。
「今日はどうだった…?まっ…見てれば分かったけど」
「楽しかったです」
「そっか…そうだよね」
「オレはこれでバレーを引退します」
オレがそう宣言するとどよめく。
だが、清水さんは特に驚く様子を見せずに、続きを待つ。
「これからは…そうですね……まあ貯めたお金でのんびり、日本各地を周ろうかと…金を湯水のように使って、今まで出来なかったことをします。だから―」
ここで一度言葉を切る。上手く言葉が出てこない。
まだ高揚しているからだろうか。
「いえ…清水さんには感謝しかありません。色んな感情を教えてくれたのは貴女です。
貴女が居なければ、オレはバレーを続けていなかった。いつも一緒に居てくれたのは貴女だった」
言葉を選び口にするのが難しい。
それは教科書がないからだが、言葉を選ぶ最中にどうしても昔のことを思い出してしまう。
それが言葉が上手く出てこない原因のようだ。
清水さんとの思い出。
初めて会った時は、体育館の前だった。
帰り道にコンビニで一緒にポテトを食べた。
ビンタをされたこともあった。街灯の下での異様な雰囲気纏った清水さんを、今でも鮮明に覚えている。
手をケガしたときはいつも料理を振舞ってくれた。
そんなことを思い返しているうちに、左頬に冷たい感触を感じる。地面にポタッと1滴の雫が落ちる音がする。
だが、それを確かめること無くオレは伝えたいことを言う。
「オレは貴女が好きです」
一気に周りが騒然とする。主に黄色い声だったが。
清水さんの方を向くと涙を堪らえようとせず、飛び込んでくる。受け止め、優しく抱きしめる。
「オレと一緒に来てください」
「ほんとに……遅いよ」
騒然としているなか、清水さんの声は確かにオレの耳に届いた。
「綾隆が…全国各地を周るなら私は会社を辞めないとね…」
「その話は後でも良いのでは?」
「ふふ…そうね」
抱きしめたままその場に留まっていたが、落ち着きを取り戻した清水さんがオレから離れる。
「じゃ…じゃあ、また連絡待ってるから…」
「はい」
一先ず、オレ達はここで別れることにした。
オレは控室に戻り、このアリーナから出る、
「へい!今日は負けたが、今までで一番楽しかったぜ!」
「アヤタカ、今日でホントウに引退するのか?」
「はい。今までありがとうございました」
「そうか…それは残念だ。またな!」
チームメイトともここで別れ、及川と二人きりになった。
「お前、本当に辞めんの?」
「はい」
「勿体ね」
「及川さんは続けるんですか?」
「当然。俺のバレーはまだまだ終わらないよ」
「そうですか…ですが、もうすぐ三十路では?」
「うるせえ!…バレーは別にプロでやっていかなくても良いだろ…監督になるのも悪くないな!」
「そうですか…まっ…楽しみにしてます」
「及川さんの素晴らしさをテレビで一生見ておくと良いさ!」
さてと…帰ろうか。
懐かしの宮城県に、帰ってきたオレは町を逍遥していた。
何も変わらない町に安心する。
道行く人にカメラやサインを頼まれながら、ブラブラと歩く。
烏野高校。
本当に懐かしいな。連絡を入れた訳では無いが、入っても問題ないだろう。
何も変わってない。
校舎も体育館も…体育館を覗くと、バレー部が部活動に励んでいた。今でも強豪校らしい。
「あれ!?綾隆君!?」
変わらず、武田先生はバレー部の顧問をしているようだ。
それとコーチもまだしているとか…。
「お久しぶりです。武田先生」
「いや…来る時は連絡くらいしてくださいよ!」
「エッ!?なになに?たけちゃん。誰か……き、た…の……んっ…!?っ!?」
生徒の一人がオレを見ると驚愕し、固まってしまった。
「ほらぁ…貴方のような人が来ると、皆びっくりするんですから…」
「それは…なんというか…すいません」
「どうした?」
「うそ…」
バレー部の選手達とマネが顔を出し、また驚き固まってしまった。
「うぉ!?綾隆じゃねーか!」
「変わらないですね。コーチ。外見以外は」
ちょっと…髪が…。
「やかましいわ!ったく…というか来たんなら練習してやってくれよ」
「オレは引退したのですが…?」
「遊びだ遊び」
「……はい」
「「「「うおおおおおぉ!」」」」
「き、ききききき清田さん…練習してくれるんですか?」
「まあ少しな」
大騒ぎになった。その声が他所にも聞こえたのだろう。
あちこちから、生徒たちが押し寄せてきた。
「「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」」
最後は皆で写真を撮り、解散する。
「お前…これからどうするんだ?」
「まあ日本各地を周ろうかなと…」
「そうなんですか…また来てくださいね」
「はい」
「お前ぇ〜清水に想いを伝えたんだってなァ〜涙まで流しちゃって…」
はぁ…コーチは変わらないんだな…
「コーチこそ…お相手を探さなくていいのですか?」
「綾隆君…それは僕にも突き刺さるものがありますので…」
「それは…すみません…」
「ま、まだいいんだよ!」
「へぇ~そうですか…」
懐かしの烏野高校を去る。ちょっと汗をかいてしまったな…。
また、町を歩く。
約6年間、この町に帰ってなかったが…こんなにも変わらないものなんだな…
全国を周ったあとはこの町でゆっくり過ごすのも良いのかもしれない。
「綾隆…こんなところにいたの」
「潔子こそ、何故ここに?」
「影山も日向も皆が帰ってきてるんだよ?はやく打ち上げ行くよ!」
「もうこんな時間か…遅れそうだ」
「さっ行こうか」
駆け足で皆がいるところに向かう。
店の前に着く。この店もまだあったのか…懐かしい店だ。
先生の奢りのときは、いつもここだった。
「お待たせ」
「すいません、遅れました」
「お~い!おっせぇぞ!ほら!早く座れ〜!!」
菅さんはいつまで経っても変わらないな。
いや、皆…何も変わっていない。
「皆、揃ったな。まぁ久しぶりの再開ってことで…ワイワイしましょうや!乾杯!」
「「「「かんぱーーい!!」」」」
澤村さんが乾杯の音頭を取り、皆でグラスを合わせる。
「それで、綾隆は本当に引退するのか?」
「はい」
「え~~信じらんねえ〜!こないだは楽しかったじゃん!」
「そうだな。楽しかったし、満足のいく試合が出来た。だが、オレはやっぱりバレーが好きというわけではない。これけらはもっと、色んなことを経験したい」
「ま、綾隆なら何処でもやっていけるしな」
「ほんと…羨ましいぜ……」
「それで日向影山は続けるのか?」
「「当然!!」」
「そうか、テレビで見ている」
「おうよ!」
「及川さんもまだ続けるみたいだからな」
「ま、負けねえ…!」
こいつらは、本当に変わらないな。
「田中さん。これ…渡せていませんでしたね。祝儀です」
「お?おぉ~ありがとな!あやポンもそろそろ結婚か…??」
何だか、少し怖い雰囲気を出して聞いてくる。
「それは…どうでしょうか。まだもう少し先ですね」
「そっかそっか!」
「あやポン!結婚するのか!?」
「いえ…ですから、まだと…」
「くそ羨ましい…!!」
こっちも相変わらずだ…
オレは一先ず、元の位置に戻り、料理に手を付ける。
懐かしい…この味はいつまでも変わらない。空っぽの皿が多くなった頃、オレに声を掛けてくる。
「久しぶり…かな?綾隆」
「連絡は取っていたがな、まあ久しぶりだなひとか」
「清水さんとはどう?」
「まあ、順調だ。といっても、まだあれから数回しか会っていない」
「そっか……幸せにしなよ…?」
「それは当然だな。ひとかも…幸せにな」
「それ…綾隆が言う?」
「…悪い」
「まっ、でも私は私で充実した生活を送れてるから、幸せだけどね」
「そうか、それは良かった」
「ふふふ…」
「どうした…?」
「変わり果てた綾隆を広告に載せておくだけで、ガッポガッポ稼げそうだなと思ってね…今度旅行行く?」
「勘弁してくれ…」
「たまには良いんじゃない?皆で旅行もね」
「潔子まで…」
「なんか、皆で旅行するのも久しぶりだ」
何故か、拳を握りしめ気合を入れた。
数時間ほど、ワイワイしたのち…。
「よっしゃ~みんな入っているか~?」
ここでもまた集合写真を取る。
そしてお開き。
あれから数か月。
オレと潔子は車に乗りエンジンをかける。
「それでは行きますか」
「うん。まず何処へ行くの?」
「…まずお墓参りに行っても…?」
「うん、そうだね…」
若干の気まずさの中、潔子が口を開く。
「ねえ…綾隆は一歩を踏み出せた?」
「踏み出せていなかったら…オレはここにはいません。まだ彼処に居ます」
「そっか……私がそうさせたかったんだけどね…それでも良かったよ。貴方が…ようやく…ね」
確かに最後のピースを当てはめてくれたのは、日向達であったが、それでも潔子がいなければオレは変わろうともしなかった。
「潔子のおかげですよ」
「ふふっ」
お互いフッと笑んだところで車を出す。
「ねっテレビつけようよ。今、日向と影山の試合が始まるころじゃない?」
「あいつらの試合を見る必要があるか?」
「綾隆が見ているって言ったんじゃない」
「まあ…そうだな」
カーテレビを起動させると、ちょうど日向影山の試合が開始するところだった。
「今日もおれが勝つ!!」
「今日は俺が勝つ」
予想通り、こいつらは変化しているものの何も変わっていない。
「だね…ははは」
「そうだろ?結局こいつらに付き合うだけ無駄な体力を使うことになる」
「変わらない安心感。それじゃ行こうか」
「ええ」
「ねえ、綾隆…」
「はい」
「綾隆はあの日…本当に負けたの?」
「見てたよな…?」
「試合はね」
「…試合には負けましたね」
「ふふっ勝負に勝って試合には負けたと言うヤツ?」
そういう事です。とオレは認める。
お墓参りを終え、近くの展望台に寄った。
車を停めて、街を眺望できる位置まで移動する。
「潔子…」
名前を呼ぶとこちらに顔を向けた。
「ん?」
「オレは潔子が居たから変われた。人の暖かさを知ることも出来た」
一生に一度しか言わないであろうセリフ。
恥ずかしく口にすることを戸惑いたくなる気持ちもある。だが、それでもオレは言う。
「久遠の時を越えてもオレはあなたを愛したい。だから―」
言い終えると同時に、潔子の強烈なハグを受け止める。
「これからも…よろしくね」
9年前、高校1年の春高予選からの計画。
それは、決して不可能なこと。
それは、既に諦めていたこと。
それでも、ひとかや清水先輩と共に過ごしたことで、変わる必要があると判断した。
だが…。
オレはオレのことを良く知っている。
自分の愚かさを。自分の恐ろしさを。
自分で自分を変えることは出来ない。
それなら、誰かに変えて貰う必要がある。
自身の手で育成し、自分に勝てる存在を作り上げた。それが成功し皆がオレを否定してくれた。
その結果、オレは変わることが出来た。
全ての人間は道具でしかない。
どんな犠牲を払っても構わない。
そんな考えはもうない。あの試合で全ての教科書は捨てて来た。
そして、オレは隣に居る人を生涯大切にしていきたいと思った。
その感情が何よりも変われた証。
だが…。
何も全てが変化したわけではない。
根本的な部分は何も変わらない。
約9年間の時間を要してしまった。甘酸っぱい青春を送ることはできなかった。世界トップの座から降ろされ、ネットや記事ではアルゼンチンが敗北したことばかりが載っている。
だが、それでも…オレはかけがえのない存在を手に入れた。心の底から楽しい日々を送れている。
だから…9年の時間を費やしたことも、世界一から降ろされたことも…どうでもいい。
最後にオレが勝っているのだから…それでいい。
完
いやー最後の最後まで書きっぱだったぜ!
二万字が消えた時は泣きそうになったけど、頑張って書きました。
最後までお付き合いくださりほんっっっとうにありがとうございました!
どうでしたか?面白かったですかね?
不安で不安で…なにしろ最終回まで書いたのはこの作品が初めてですので…。
この作品を投稿し始めたときは、既に白鳥沢戦くらいまでは書いていたのですが…あまりの反響の薄さに正直やる気をなくしていました笑
仕方無しに、白鳥沢戦まで投稿しておいたらまさかの伸び伸びという笑ありがたい次第です。
そして、これが僕の投稿作品の中で最も人気になりました笑
でもね…正直です、面白い作品がかけたなぁって思った時は反響が薄かったり、これは…ズタボロだろ…と思った時は反響が良かったりと…笑
なので…正直なのところ、なぜ伸びた…という疑問が凄いです。
よかったら面白かった点とか教えてほしいです。また、こうしてほしかったというのも教えてください。今後のためにも。
あ、誤字が多いのは分かっております…何度も確認するようにします。すいません。
それでは皆さん。
長々と読んでいただき、ありがとうございました。