後エルデンリングDLC発表おめでたすぎる。
私の住む小屋から北部までの道のりは、王都からの道のりほどでは無いが、それでも遠いものだった。
ここから出発した勇者一行が五年ほどかけてようやく北部にある魔王城に辿り着いたことを考えると、私の旅も随分と長いものになるかもしれない。
そんなふうに考えながら、ゆっくりと日差しの差し込む村の畦道を歩いていく。
今私がいるのは、北部へと向かう道の途中にあるとある村だ。
この村はヒンメルによって腐敗の賢老、クヴァールが打ち倒された場所だと噂されているが、実際はそうでは無い。あの時会って以降手紙のやり取りをしていたフリーレンによると、どうやらクヴァールは完全に倒されたわけでは無いらしい。彼ら一行には倒すことができず、クヴァールを封印しそのままここに残していったとフリーレンは言っていた。
であれば、彼を甦らせることを望む魔族がいるのでは無いか。
少し安直かもしれないとも思いつつ、そういうわけで私はこの村を訪れていた。
だがその心配は杞憂だったようだ。
村長にクヴァールについて聞いたところ、クヴァールの様子を確認するべくヒンメルが定期的に訪れているらしい。
彼がいるならば魔族が寄り付くことはないだろう。
どこか
♢
出発する前日のことだった。
なるべく人と関わりたくなかった私は、滞在日数のほとんどを借りた部屋の中で過ごしていた。
その日も特に変わらず部屋の中で過ごしていた。
そんな時、突然扉がノックされる。
村長あたりだろうか、と考えつつドアを開くと、そこにはどこか見覚えのある初老の老人が立っていた。
「…久しぶり、アッシュ。君がここに泊まっていると聞いてね、久しぶりに会おうと思って」
ヒンメルだった。
私は驚いた。村長に聞いておいたヒンメルのやってくる日は今日では無いはず。
だというのになぜ彼はここに。
「なぜって、さっき言っただろう? 君に会うためだよ。普段なら君の知っている通り、クヴァールの様子を見にくるためだけど…今日だけは、クヴァールはついでだね」
そう言って彼は、昔から変わらない優しさでそういった。
初めて会った時もそうだ。フリーレンいわく「壊れていた」私に対し、彼はまるでそのことを知らないかの如く私に何度も話しかけてきた。
だが彼は察しがいい。あの時だって気づいていたのだ、今の私がどうなっているか、気づいていないわけがない。
そう思った私は彼を部屋に入れず、勢いよく扉を閉め、彼を締め出した。
だが彼はその場をさらず、扉越しに私に話しかけてくる。
「……君の家の近くにあった村、壊滅したそうだね。君が村の住人と仲良くしていたことも、その後君がすぐに旅立ったことも耳にした。…責任感の強い君のことだ、きっと彼らのことを気にしてしまったんだろう?」
責任感が強いだと? …そんなわけがないだろう。使命を放棄して逃げ出すような人間が、そんなわけ。
そんなことを考えるが、声には出さない。いや、出すことができなかった。
そんな私の様子を、ヒンメルは気にすることなく話しかけてくる。
「さっき君の顔を見た時、君は僕がよく知っている顔をしていた。魔族に復讐したいっていう顔だ。きっと君もそう思っているんだろうね」
……やはり気づいていたようだ。
昔から勘のいい男だったが、老いてもその勘の良さは変わっていないらしい。
私をよそに、ヒンメルは話を続ける。
「…その考えを否定するつもりはない。けれどね、君を心配している人もいるってことを、覚えていて欲しいんだ。その目をしていた人は魔族に復讐しようとして、けど最後には家族のもとに帰っていっていた。だから君にも、できればそうして欲しいんだ」
そのヒンメルの言葉に、私は思わず耳を塞ぐ。
声は静かなはずだったのに、うるさく感じた。彼の言葉が、聞きたくなかった。
何も言わず、耳を塞いで蹲る。
復讐してもなんの価値もない。そんなことは、私が一番知っている。
でも、それをなさなければ、今の私には価値がないんだ。
それを声に出すこともできず、ずっと蹲っていると、ドアの前の人影が立ち上がる。
「……今は無理でも、僕は信じているよ」
そう言い残したヒンメルは、静かにドアの前から立ち去っていった。
私には、蹲ることしかできなかった。
♢
村が一つ消えた。
少し前だったらありふれた報告だった。
悲しいけれど慣れてしまった僕は、けれど頼まれた仕事をこなすべく、その村に関する報告書を確認する。
「……この場所は」
報告書に載せられた村の場所を、地図に照らし合わせて確認する。
やはりそうだ。彼女の家の近くの村。少し前から音沙汰のなくなった、手紙でやり取りしていた時に彼女が記していた村。
彼女は、大丈夫だろうか。
他人の目があるからとそっと胸の奥にしまい込んだその感情は、僕を不安にさせていた。
数ヶ月後、クヴァールを封じた村長から手紙が送られてきた。
内容はクヴァールを知る人が村に現れたというもの。
魔族かもしれないということもあり、旅の仲間以外が村に現れた時は知らせるよう伝えておいたのが功を奏したらしい。
今になって戦えるだろうか、と少し不安を覚えつつ、情報を確認するために続きを読む。
そして手紙の続きに記されていた、やってきた人の特徴には、長い白髪に赤い目を持つ女性と書かれていた。
「……アッシュ?」
数ヶ月前に読んだ記録を思い出す。
それ以降手紙を住所に飛ばしたり色々していたが、彼女の行方はわからないままだった。
だがこの特徴。間違いなく彼女だと僕の勘は告げていた。
であれば、すぐにでもいくしかないだろう。
思い立ったらすぐ行動。それが僕のモットーだ。
♢
村長に教えられた、彼女の泊まっている部屋。
基本的に外に出ることはないらしく、ほとんどの時間をここで過ごしているらしい。
今もそうだという話を聞いたことを思い出しつつ、僕は部屋のドアをノックする。
一瞬間を置いて、ドアが開かれる。
やはりアッシュだった。あの時見た黒いドレスではなく、いまは旅装に身を包んでいる。
彼女は僕の顔を見て驚いていた。
「…久しぶり、アッシュ。君がここに泊まっていると聞いてね、久しぶりに会おうと思って」
随分ひどい顔をしている。親を殺された子供のような顔をしている彼女に、そのことを言わないようにしつつ挨拶をする。
だが彼女はフリーレンいわく人の視線に敏感らしい。
どうやら察してしまったようで、すぐに扉を閉じてしまった。
「……なぜ、お前がここに」
「なぜって、さっき言っただろう? 君に会うためだよ。普段なら君の知っている通り、クヴァールの様子を見にくるためだけど…今日だけは、クヴァールはついでだね」
うそだ。本当は君が心配だったから。
けれどそんなことを言ってしまったら、きっと君はさらに心を閉ざしてしまうだろう?
本音を隠し、彼女に嘘をつく。
何も言わない彼女に、なるべく優しくいうことを意識しつつ話を続ける。
「……君の家の近くにあった村、壊滅したそうだね。君が村の住人と仲良くしていたことも、その後君がすぐに旅立ったことも耳にした。…責任感の強い君のことだ、きっと彼らのことを気にしてしまったんだろう?」
「………」
「さっき君の顔を見た時、君は僕がよく知っている顔をしていた。魔族に復讐したいっていう顔だ。きっと君もそう思っているんだろうね」
「……………」
「…その考えを否定するつもりはない。けれどね、君を心配している人もいるってことを、覚えていて欲しいんだ。その目をしていた人は魔族に復讐しようとして、けど最後には家族のもとに帰っていっていた。だから君にも、できればそうして欲しいんだ」
そうだ。君にはまだフリーレンという大切な家族がいるだろう。
だから、彼女のもとへ帰ってほしい。復讐なんて何も残らない、悲しい真似はせずに。
そんな想いを込めて、僕は彼女に言った。
けれど彼女は結局答えることはなかった。
…きっと僕の言葉では無理なのだろう。
「……今は無理でも、僕は信じているよ」
彼女がその言葉の意味を理解してくれると信じ、僕はそう言い残してその場を去った。
いつか彼女も報われてほしい。そんなことを思いつつ。
ちょっと場所の設定だったり時代設定が甘い気がするんですがまあ許していただけると幸いです。恥ずかしながらアニメ勢なので…。
それから日刊5位ありがとうございます。久しぶりにこの順位見た。