Q.粛清ヒーローとは何ですか?
A.戦争犯罪人、汚職政治家、背任役員、賠償金を踏み倒す犯罪者などを粛清するヒーロー

Q.座右の銘はなんですか?
A.調整的正義(正義ではない)

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売れるものは全て

 

 

 

 

 

あるところに男がいた。

 

男は犯罪者であり、殺人を犯していた。

 

犯行に及んだ理由は怨恨ですらなく、殺せるならば誰でもよかったという。

 

彼個人はこれと言って不幸な生い立ちでもなく、また特別な不幸に見舞われたという訳でもなかった。

 

情状酌量の余地はなかったが、遺族側の望んだ結果とはならなかった。

 

遺族側は死刑を求めたが、判決は懲役刑だった。

 

証拠は残っており、自白も済んでいる。

 

目撃者も複数人居り、犯行の映像も残っていた。

 

だが死刑ではない。

 

理由は計画性がないなど、あろうが…結局、男は一人しか人を殺していないからだ。

 

どうやら人の命は"個"で数えるらしい。

 

男は法廷で遺族を嘲笑したが、判決の懲役が少し長くなっただけである。

 

殺された被害者は一家の大黒柱だった。

 

賠償金の額は不十分であり、また加害者の男に賠償金を完全に支払う能力は認められなかった。

 

遺族は困窮に直面したが、この困窮は本来被害者が生きてさえいれば見舞われることはなかった。

 

被害者の子は、大学進学を断念せざるを得なくなり、このことは子供の生涯にわたっての傷となるだろう。

 

被害者の配偶者は家族を支えるために過重な労働を強いられることとなり、体を壊した。

 

親の入院に伴い医療費が増大し、子は已む無く働きに出ることになった。

 

家族を失い。財産を失い。健康を失い。

 

それまで順風満帆であった彼らには何かの罪があったのだろうか。

 

断っておくと、彼らは善良な、何処にでもいる一般的な家族だった。

 

ある日、突如として悪意に蝕まれたのである。

 

これほどに善悪が明確なことがあろうか。いや、ない。

 

どこから見ても、悪いのは加害者であり、その被害を補償されるべきは被害者である。

 

しかし、どういうわけか遺族がその日の食にも困り深夜遅くまで働きながらも塗炭の苦しみに喘いでいる時、加害者は三食を保証されている環境で規則正しい生活を送っているのである。

 

自由が無い、というデメリットはあるだろう。

 

監視されている、というのもあるだろう。

 

常に弱い立場である、というのもあるだろう。

 

しかし、加害者の衣食住が税金によって賄われている現状で、税金を納めることに苦闘する被害者の構図に対して違和感を覚えずにはいられなかった。

 

ある日、働き詰めの被害者の子の下に手紙が届いた。

 

手紙の内容は「加害者が憎いか?」「生活が苦しいか?」「もしも憎いなら、もしも苦しいなら手を貸す」という内容だった。

 

いぶかしみ、差出人の住所を調べてみると、都内の閑静な住宅地からだった。

 

子は怪しんだが、金を求められているわけでも無し、だから正直に書いた。

 

「犯人が憎い。生活が苦しい」と。

 

間もなく返答が来た。

 

「わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪しい手紙が届いてから一か月後のことだった。

 

夜勤から帰ってきた子がふとテレビをつけると、犯人が刑務所から忽然と消えてしまったというニュースが目に飛び込んできた。

 

驚いた子が家を飛び出そうとすると、ちょうどドアに手を掛けた瞬間に電話が鳴った。

 

恐る恐る受話器をとると、知らない男の声が聞こえた。

 

「手紙を送った者です」

 

「これから教える場所に来てください」

 

続けて教えられた場所は近所の公園だった。

 

子は訳が分からず、どうしてこのタイミングなのだと不安を抱えながらも、手紙という言葉につられて言われた通りに、公園へと向かった。

 

早朝の靄を抜けて公園に辿り着いた。

 

そこでは背の高い男が一人静かにベンチに座っていた。ボルサリーノハット。分厚い黒革のロングコート。顔を覆う黒い包帯。黒い革手袋。ピカピカに磨かれた黒い革長靴。男の足元には重厚なジュラルミンケースが置かれていた。鞄以外は真っ黒な男だった。まるっきり、殺し屋の風貌だった。

 

「隣にどうぞ」

 

意外にも優しい声音に毒気を抜かれた。

 

言われるがままに隣に座ると、男は徐に足元のアタッシェケースを膝の上に乗せ、そのまま横にスライドさせて子に差し出した。

 

重い。

 

ジュラルミンケースの冷たくすべすべとした感触に、身を固くしていると、男の顔がこちらを向いていることに気が付いた。

 

「もう、あの男はいませんよ」

 

「文字通り、"全身全霊"を以て償わせました」

 

「貴方方の幸せを心から願っています」

 

「では、私はこれで」

 

それだけ言うと、男は腰を上げた。

 

呆気にとられる子を置いて、男は一度も振り返ることなくその場を後にした。

 

朝靄を掻き分けて日の光が注いだ。

 

眩しくて目を細めながら、子は恐る恐る、ジュラルミンケースを開いた。

 

カチりと音がしてケースを開くと、そこには札束がぎっしりと詰められていた。

 

子は喜ぶ間もなく、周囲を見回しながら急いでケースを閉めると、平静を装いつつ足早に帰路に就いた。

 

後日、テレビで犯人が死亡していたことが報道された。一般市民からの通報があったそうだ。

 

町はずれの廃倉庫に急行した警察官が眼にしたものは、ビーカーになみなみ注がれた白っぽいスムージーのような何かだけであり、犯人の男らしきものは何も見つけられなかった。

 

後に鑑識がこの謎のスムージーを調べたところ、スムージーの様なものと男のDNAが一致した。

 

成分など、また類似の部位がないかと調査を続けた結果、不気味な液体の正体は男の脳みそを如何なる個性をもってしても恢復不可能な状態にまで攪拌したものだということが発覚した。

 

ここに、犯人の男の死亡が断定された。

 

男からジュラルミンケースを受け取った子は、この報道が単なる猟奇的な事件ではないことを理解した。

 

そして、あの日公園で会った謎の男の言葉の真意をも理解した。

 

ジュラルミンケースに詰まっていた大金の正体が、文字通り犯人の男の"体"を換えた物だということを。

 

全て理解してしまった子は、その上で謎の男に感謝した。

 

入院中の母が退院してからしばらくして、テレビではオールマイトがAFOという巨悪を打倒したというニュースが流れていた。

 

もう誰も、脳みそをスムージーにされた犯罪者のことなど覚えていない。

 

その犯罪者に殺された誰かのことも。

 

殺された誰かの家族のことも。

 

なにもおかしくない。なのに、なにかがおかしいような気がした。

 

この春から、子は大学に通う。

 

 

 

 

 

 


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