冒険と探検と日常と ~のびのびTRPG~   作:混沌野郎

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 温泉旅行2日目。
 少女ちゃんの可愛い寝顔から始まる朝。
 朝からの外湯はもちろん気持ち良い。
 昼食の『海鮮丼』はごはんの上に刺身が山盛り。
 午後は隣街に足を伸ばして、やっぱり海の幸。
 夜の温泉街には楽しいことがいっぱいで……、そんなお話。

 第20話は「はじまりはじまり」「1日目・初日」「2日目」「3日目」「4日目・最終日」の5回に分けて公開します。

 本作は今野隼史(辺境紳士社交場)・アークライトの『のびのびTRPGスチームパンク』の二次創作です。
 ソロプレイのルール「カードをもとに物語を書く」に従って記した世界観を使って記した二次創作です。

 『のびのびTRPGスチームパンク』のプレイヤーキャラクターの「名前」を「キャラクターの名前」にしているので、
PC「機械屋」→「機械屋さん」
PC「少女」→「少女ちゃん」
等々となっています。

先に記しとく設定、
 機械屋(主人公)と先輩は女性、
 作中の「ダリル」は通貨単位、1ダリル=1円くらい、
 と言うことで。

クレジット
ゲーム名:のびのびTRPG
ゲームデザイン:今野隼史
発売元:株式会社アークライト
© 2021 FRONTIERPUB / Arclight, inc.


第20話 雪の温泉郷 (2日目) [3/5] (日常回)

 2日目。

 

 朝、窓から入る日の光で目が覚めた。

 先輩と少女ちゃんはまだ眠ってる。

 2人を起こしては悪い。布団から動かずに天井をぼーっと見る。

「んー」

 先輩がごそごそする。

 先輩には朝日がしっかりと当たってる。

 ごそごそ、ごそごそ、体をいくらか動かしたあと、体を起こした。

 ぐーっと伸びをする。

 先輩が起きたから、アタイも体を起こした。

「おはよ」

「あ、おはよー」

 アタイはしっかりと目が覚めてる。

 先輩は8割くらい目が覚めてる感じ。ちょっとぼーっとして、のこり2割が埋まった。しゃきっとする。

 あとは少女ちゃん。先輩とアタイ、ふたりで少女ちゃんの寝顔を見る。笑顔、幸せそうな寝顔だ。

「うーん」

 少女ちゃんの体が動く。ぽーっとした感じで目を覚ました。

 目の前に先輩とアタイ。

「……えと」

 少女ちゃんは状況を把握できてない。

「……」

 考えてるっぽい。

「!?」

 把握したらしい。

 顔が赤くなる。

「少女ちゃんってさ、かわいい寝顔だね」

 先輩が笑顔で言う。

 もう一段赤くなった。

 少女ちゃんは体を起こした。

「……あの、いつから見てたんですか?」

「5分くらい前から、かな」

 少女ちゃんは先輩の言葉を聞いた後、

 すーはー、すーはー、と呼吸を整えた。顔色も元に戻ってく。

「はぅ」

 小さな声が出た。

 

 3人とも起きたので今日の予定を考える。

 先輩のガイドブックでだいたいの予定を決めていたが、大きく変える。

 午前中は外湯に行く。これは予定通り。昼メシは外で食うつもりだが、これは街に出てから決める。

 昼からは、隣街に行くことにした。漁港を見てみたいし、大きな市場にも行きたい。

 夜は外湯に行って、その後、街を散策。

 と決めた。

 ガイドブックを見つつ、3人で行きたいところをあれこれ話す。

 

 コンコン、と引き戸がノックされた。

「はいー」

 先輩が答える。

「失礼致します。お食事をお持ちしました」

 伝統衣装、着物、を着た女性スタッフが朝食の準備に来てくれた。

 まず布団を片付けて、机を出して、朝メシの準備に入った。

 朝メシは何が食えるのか。わくわくする。

 先輩と少女ちゃんはすぐに席につく。続いてアタイも。

 スタッフが料理をならべた。やっぱりどれも美味そうだ。

「では、失礼致します」

 スタッフは一礼して部屋を出た。

 朝食は焼き魚がメイン。

 「朝メシ食わない派」の先輩も、もちろんしっかりと食う。

 昨日の晩メシよりはシンプルなメニューだけど、同じくらい美味いのは間違いない。

 朝メシを食い終えて、またガイドブックを3人で囲む。

 いくらかの時間の後、スタッフがメシの片付けに来てくれた。

 メシの準備も後片付けもしなくて良い。食うだけで良い。贅沢だ。

 外湯が開くまではまだ時間がある。ガイドブックを見て、あーでもない、こーでもない、と盛り上がった。

 

 もうすぐ外湯が開く時間。宿を出ることにした。

 宿の外へは浴衣の上に羽織を着ていくと良いらしい。

 羽織はそんなに分厚くはないが、ヒーターが入ってるとのことだ。

 ヒーターを使うとそれほど寒くない。もちろん、あえてヒーターを使わないのも情緒があって良い。

 浴衣の上に羽織を着て、部屋を出ることに。

 靴をはかなくても良い。宿の『下駄』、木でできた履物、をはいて出れば良いと聞いた。だからそうする。

 宿を出る。下駄で歩くと、カランコロンと音がした。何となく心地良い音だ。羽織がほんのりと暖かいのも良い。

「あの……、どの外湯に行くんですか?」

「そだね……、

 よし、どこに行くか少女ちゃんが決めよう!」

 少女ちゃんの質問を少女ちゃんに決めてもらう。先輩らしい。

「え!?

 それじゃ……、あそこで……」

 少女ちゃんはすぐ近くの建物、外湯のひとつを指した。

「じゃ、決まりー」

 その建物に入る。

 建物に入ったところにあるリーダーに、アタイのインフォメーション端末を同期させる。

 ピッと音がした。

 中に入ると女湯と男湯。もちろん女湯に入る。

 脱衣場で浴衣を脱ぐ。

 風呂場へのガラスの引き戸の横に積まれてるタオルを一枚取る。

 引き戸を開けて中に入った。

 今日のひとつめの風呂。髪を洗って、体を洗って、それから風呂に体を沈めた。

「あー」

 先輩が声を上げた。

「寒いとこから一気に温い。最高だねー」

「先輩さん、ヒーター使ってなかったんですか?」

 少女ちゃんが尋ねる。

「もちろん。

 やっぱ外は寒い方が何か似合ってるっしょ」

「言われると、確かにそうだな」

 何か納得できる。

 それはそれとして、何回か入ったら分かった。本当に風呂ごとに湯の感じが違う。湯の入り比べか。楽しい。

「んー、

 次はこっちに入ろう」

 先輩が湯から上がる。隣の風呂に入った。アタイと少女ちゃんも続く。

 体を沈めると、やっぱり湯の感じが違う。

「何かさ、すっごい贅沢してるよな」

「そうですね、とっても楽しいです」

 少女ちゃんが心の底から楽しそうに同意してくれた。

「温泉ってさ、知ってたけど体験したことなくって、何か損してた気がする。

 やっぱ体験しないとだめだね」

「先輩らしいな。

 何でも試すのが良いんだろ」

 アタイの言葉に先輩が返してくれた。

「もちろん、知ってるだけじゃだめだよ。

 感覚ってのかな、そっちを分かるのが大事」

 本当に先輩らしい。

 そこからは会話はなく、それぞれで湯を堪能した。

 どれくらいしたか。

「あの、そろそろ上がりませんか?」

 少女ちゃんが申し訳なさそうに言った。

「そうだな」

「賛成ー」

 少女ちゃんの言葉に先輩もアタイも乗った。

 正直、のぼせそうだった。

 脱衣場に戻って浴衣と羽織を着る。

 風呂で汗をかいてのどが渇いてる。

 脱衣場のはしに自動販売機があった。アタイがそっちに行くと、先輩と少女ちゃんがついてきた。

 3人でそれぞれ飲み物を買って、渇きを潤した。

 

 建物、外湯、から出た。やっぱり寒い。けど、今は寒さが心地良い。

 街なみを見つつゆっくりと歩く。

 ?

 時々閉まってる店がある。

 人通りはそれなりにある。夜だけ開けてる店なのか?

 そんなことを考える。

「機械屋ちゃん、これ!これ!」

 気がつくと、先輩と少女ちゃんがちょっと後ろで立ち止まってた。

 ふたりのところまで戻る。

「ん? 何だ?」

「ほら、これ、海鮮丼って!」

 先輩が指すのは食い物屋の店先にある料理のサンプル。

 メシの上に刺身を乗せた感じか。

「これ、すっごい贅沢そうだな」

「ちょっと早いですけど、昼ごはんにしませんか?」

 反対する理由はない。先輩と少女ちゃんについて店に入った。

 

「いらっしゃいませー!」

「何名様ですかー!」

 店員の気合の入った元気な声に先輩が返す。

「3人で」

 店員のひとりがこっちに来てくれた。

「こちらへどうぞー!」

 4人席のテーブルに案内された。

 先輩と少女ちゃんがならんで座る。先輩の前にアタイが。

 4人席だとこの座り方が何か落ち着く。

「ご注文は?」

 店員に尋ねられる。もちろんもう決めてる。

「海鮮丼3つ」

 代表して先輩が言った。

「はい、海鮮丼3つですね。

 海鮮丼3つー!」

 やっぱり元気の良い声。

 海鮮丼が来るまで昼からの話をした。

 一旦、宿に帰って服を着替える。

 隣街に行くつもりだけど、どうやって行けば良いか宿で聞こう。

 そこで海鮮丼が来た。

「はいよっ、海鮮丼3つ!」

「おお!?」

 どんぶりが3つテーブルに置かれた。それを見て先輩が驚く。

「うわー、すごいです」

「食いごたえありそうだな」

 少女ちゃんとアタイも驚くと言うか、感動すると言うか。

 出てきた海鮮丼はおもてにあったサンプルよりもでかかった。

 どんぶりの下の方にメシが入ってるはずだが、ぜんぜん見えない。刺身が山盛りになってる。

 『いただきます』をして、速攻で食い始めた。

 山盛りになってる刺身。昨日の晩メシの刺身よりも種類が多い。もちろん量も多い。

 刺身をいくらか食って、ようやくメシが見えた。

 先輩はがつがつ食ってる。アタイは控えめな食い方をしてるつもりだ。少女ちゃんはのんびり食ってる。

 たぶん少女ちゃんの食い方が、海鮮丼をいちばん堪能できる食い方だろう。

 何も話さずに無言で黙々と食った。

 食い終わった。

 腹いっぱいだ。

 ……アタイが腹いっぱいって言ってるんだ、少女ちゃん、大丈夫か?

 ちょっと心配になったけど、少女ちゃんはにこにこしてた。大丈夫そうだ。

 腹を落ち着かせて、店を出た。

 

 楽しい話をしながらのんびりと宿に戻る。

 宿に着いた。部屋に向かう。

 部屋に入ったら早速、浴衣を脱いで服に着替える。

 昼からは寒い中をちょっと遠出する。だから防寒をしっかりと。

 少女ちゃんはコートを着て手袋とマフラー。アタイはジャンパーを着て手袋とマフラー。先輩はジャンパーを着て手袋とマフラー、加えて、毛糸の帽子。

 しっかりとした防寒装備だ。

 さて、隣街に行こう。

 宿の1階に下りる。

 先輩がロビーのカウンターに行く。隣街への行き方を聞いてくる。

 鉄道で行くのがいちばん楽だそうだ。

 3人で駅へ向かう。

 道路は除雪されてるけど、道のはしには雪が積もってる。

「こんないっぱいの雪、王都ではないね」

「雪の風景ってとっても新鮮です」

 先輩と少女ちゃんは笑顔で歩いてる。たぶんアタイも笑顔だ。

 

 駅に着いた。

 まず時刻表を見る。

「え!?」

 時計を見る。もう一度、時刻表を見る。

 うわぁ……。

「ん?

 どったの? 機械屋ちゃん」

「次の列車まで1時間だ……」

 普通列車は1時間に1本、ちょうど列車が出たところだった。

「んー、

 まあ仕方ないね。待とう」

「待合室、入りますか?」

 少女ちゃんが待合室を指す。

「だな」

 待合室に入る。アタイら以外にふたり、列車待ちの人がいた。

 自動販売機がある。

 先輩と少女ちゃんはココア、アタイはコーヒーを買った。

 ベンチに座って話をする。この旅行の話。

 今日は隣街に行くとして、明日はどうしよう。

 先輩のガイドブックで考えてた予定は考え直しだ。

 宿で観光スポットを教えてもらうと良いかもしれない。

 そんなことを話した。

 話をしてると時間が速いのか、もうすぐ1時間だ。

「そろそろ行くか」

「うい」

 アタイが立ち上がると先輩が続いた。少女ちゃんもベンチから立つ。

 改札ゲートを通ってホームへ。ちょっと待つと列車が来た。

 降りる人はまばら、乗るのもまばら。

 列車はがらがらに空いていた。

 列車の中はそれなりに温い。手袋とマフラーを脱いだ。

 発車した。カタンコトン、カタンコトン、と列車がリズムを刻む。

 少女ちゃんは車窓、雪景色に夢中になってる。先輩とアタイはそんな少女ちゃんを見る。

 目的の駅までは30分以上あった。

 列車から降りて、うーん、と伸びをした。

 改札ゲートから出る。

 駅舎の壁に大きな観光マップがあった。

 漁港はもちろん駅の海側にある。いくらか歩くだけの距離らしい。

 教えてもらった大きな市場は漁港のすぐ近くだった。

「機械屋ちゃん、これ、あそこにあったよ」

 先輩を見る。先輩が指した先にはいろんなパンフレットが置かれてるラックがあった。

 パンフレットを受け取った。

「ん、ありがと」

 先輩が持ってきたのは、壁の大きな観光マップを小さくしたパンフレットだった。

「はい、これ、少女ちゃんの」

 少女ちゃんにも渡す。

「ありがとうございます」

 パンフレットを見ながら漁港を目指すことにした。

 駅から漁港への道はほとんどまっすぐだった。

 3人で話をしながら歩く。歩いてるだけなのに楽しい。

 漁港に着いた。思ってたのと違う。閑散としてた。

 地元の人っぽい人がいたので、先輩が漁港のことを聞きに行った。

 先輩は残念そうに戻ってきた。

「漁港、午前中に盛り上がって、昼からはいつもこんな感じなんだって……」

 先輩は力が抜けてる。

「ちょっと残念ですね……」

 少女ちゃんも気を落とす。

「ま、仕方ないな。市場に行こう」

 アタイの言葉で先輩と少女ちゃんのがっくり、がちょっとましになったようだった。

 市場へは漁港から駅へ戻る道の途中、幹線道路との交差点で曲がる。

 幹線道路沿い、すぐに市場が見えた。そちらへと歩く。

 市場には駐車場があった。蒸気自動車、内燃自動車、いろんな自動車がとまってる。駐車場の6割くらいが埋まってた。

 市場の出入り口に向かう。

 出入り口のガラス張りの扉をくぐって中に入った。

 中はいかにも市場。ひとむかし前のマーケットの雰囲気。ただし店のほとんど全部が魚屋。

 市場の中はかなりたくさんの人で賑わってる。

「どうする?」

 先輩と少女ちゃんに尋ねる。

「とりあえず一通り見て、それから何か買おっか」

「私もそれが良いと思います」

 決まった。市場の中、右側の店を見て、左側の店を見て、3人でのんびりと歩く。

 鮮魚を扱ってる店があった。王都のマーケットでは見られない魚がいろいろならんでる。

 干物を売ってる店もある。いろんな魚の干物が店先を埋めていた。

 大きな生け簀を置いてる店があった。生け簀の中でたくさんの魚が泳いでる。加えて、貝とかえびとかもいた。

「うわー、いっぱいいるねー。

 新鮮なのを食べたいねー」

「はい、食べてみたいです」

 先輩と少女ちゃんは生け簀に興味津々。

 ふたりの話が聞こえたのだろう。店の人がふたりに近づいた。

 店の人が言うには、市場の奥にフードコートがあるとのこと。焼きたての魚なんかが食えるそうだ。

 これは行くしかない。店の人にお礼を言ってフードコートを目指す。

 フードコートは魚介類が焼ける磯っぽい香ばしい匂い。料理別に何軒も店があった。

 もちろんここもたくさんのたくさんの人で賑わってる。

 まずはテーブルを確保。

 アタイがテーブルを押さえて、先輩と少女ちゃんが好きなものを買いに行く。

 少し待って、少女ちゃんが戻ってきた。大きな皿に魚とかえびとかのフライがいくつも、どん、と乗ってる。

 少女ちゃんと入れ替わりで、テーブルを離れた。

 料理を見てまわる。どれも美味そうだ。

 その中から決めた。

 でかい巻貝をそのまま焼いたやつと、でかい二枚貝をそのまま焼いたやつ、の盛り合わせ。

 支払いをして、大きな皿を持ってテーブルに戻った。

 先輩も戻ってた。先輩のは大きなどんぶりにいろんな魚がこれでもか、と入ってるみそ汁。

 三者三様の料理。ただし魚介類は共通。

 「いただきます」と言って食い始める。

 少女ちゃんは、はふはふ、とフライを食べる。

 先輩は魚を食いつつ、汁を飲みつつ。

 アタイはまず巻貝。貝殻から身をくりん、と取り出して食う。磯の味が美味い。

「すっごく美味しいです」

「これさ、贅沢だよねー」

「贅沢だ、間違いない」

 食いながら考える。工房で料理するとして、刺身みたいな生はどう考えても無理だ。けど、火を通す系はできる。

「先輩が食ってるみそ汁、

 帰ったらそんな感じの、作ってみるか」

「おお、機械屋ちゃん、試してみる?」

「あの、私も食べたいです」

 決まり。王都に帰ったらマーケットで魚、買い込もう。

 そんな話をしながらとにかく食って、食い終わった。

「はふぅ、おなかいっぱいです」

「あー、ボリュームありすぎ」

 ふたりの言葉、アタイも同じだ。

「1年分の貝、食った気がする」

 腹が落ち着くのを待つ。

 落ち着いてきた。

 フードコートを離れて、また市場を見てまわる。

 とりあえず一周した。

「じゃあ、今度は買おう」

 先輩の声は、アタイと少女ちゃんが言いたいことと同じ。

 買うつもりで店を見てまわる。

 鮮魚はもちろん無理だ。

 干物か、乾物か、加工してびん詰めとかにしてあるやつか。そんな感じのをターゲットにする。

 市場をぐるりとまわって、干物メインで中くらいのレジ袋ひとつ分、買った。

「そろそろ宿に帰るか」

「そだね、良い時間になりそうだね」

「はい」

 アタイが袋を持って駅へと歩いた。

 駅に着く。

 時刻表を見ると今度は良い時間だった。列車が来るまで10分弱。

 待合室があったが入らずに、改札ゲートを通ってホームに出た。

 ホームからの雪景色を見てると、列車が来た。

 温泉街の駅まで40分くらい、雪の中を列車は走った。

 温泉街に戻ってきた。

「じゃ、宿だな」

「今日はいっぱい楽しかったです」

 少女ちゃんが言い終わったところで、

「あっ! 機械屋ちゃん、マーケットに行かなきゃ」

 先輩が何か思い出したっぽい。

「マーケット?」

「ほら、わさびだよ、わさび」

 思い出した。昨日の晩メシのやつ。

 駅からちょっと歩いて地元のマーケットへ。

 マーケットに入る。中は王都のとだいたい同じ。

「調味料かな?」

「だな」

 先輩に答える。

 3人できょろきょろと棚を見ながら歩く。

「あ! ありました」

 少女ちゃんがわさびを見つけた。細長い緑色の箱に「わさび」と書かれてる。

 なるほど、これか。

「3つくらいで良いか?」

「うん、3つあったら十分だね。

 ……少女ちゃんはどうする?」

 先輩が少女ちゃんを振り返って尋ねる。

「えと、私はちょっと苦手っぽいんで……」

 少女ちゃんの言葉は予想通り。たぶん先輩も予想通りだろう。

「そっか、……3つ買うから、もし欲しくなったら工房に来て」

 レジで支払いをした。

 マーケットを出て宿へ、3人でてろてろと歩く。

 そろそろ夕方。

 宿に帰って、部屋に戻った。

 部屋の中は十分すぎるくらい温かい。

 防寒着を全部脱ぐ。そのままの勢いで服も脱いで浴衣に着替える。

 浴衣はラフな感じだと思う。着ていて楽だ。

 3人で今日あったことを話す。それぞれに思うところがあったが、「楽しかった」は一致してた。

 そんな話をしてると、着物を着たスタッフが晩メシの用意をしに来てくれた。

 テーブルの上に料理がならべられていく。今夜のメインは肉だった。

 先輩がスタッフに尋ねる。

「肉もこのあたりの名産なんですか?」

「はい、この地方は海沿いは漁業が盛んですが、内陸は畜産が盛んでして」

 スタッフの言葉が続く。

「肉料理の店も街に何軒かありますよ」

「決まったね、明日の昼は肉にしよう」

 スタッフの話を聞いて先輩が明日の昼メシを決めた。

 料理を全部ならべ終えて、

「では、失礼致します」

 スタッフは部屋を後にした。

「さて……」

「食うか」

「はい」

 それぞれ箸を手にする。

 『いただきます』で晩メシが始まった。

 どの料理も美味そうだ。食う順番に迷う。

 先輩には迷いがない。速攻で肉。

 もぐもぐとして、じーんとした表情になる。

 少女ちゃんも肉からスタートした。

 じゃあアタイも。肉に箸を伸ばした。

 口に入れる。噛むとすっごい柔らかい。あ、これは美味い。ストレートにそう思う。

 今日の晩メシは「山の幸」がメイン。

 昨日の晩メシと比べて……、甲乙つけがたい。

 とにかく美味いメシ。今日はまだ2泊目だ。明日の晩メシもここで食う。

 今の美味さを堪能しつつ、明日を楽しみにする。

 しっかりと食って、料理全部を食い終えた。

 はらいっぱいになった。料理の余韻を楽しみつつ、ちょっとの間ぼーっとして腹を落ち着かせる。

 

「それじゃ、外湯に行こう!」

「はい!」

「行くか」

 先輩の言葉に賛成して、浴衣の上に羽織を着る。

 下駄をはいて部屋を出た。

 宿を出て道を歩くと、カランコロン、と軽やかな音。

 街なみ、昼間には閉まっていた店が開いていた。

 街は夜の方が賑わってるように思う。

 向かう外湯は宿からいちばん遠いのにした。そこから帰ってくる時に街を楽しもう、と言う目論見。

「『射的』……、『射的』、『スマートボール』……」

 先輩が店を見ながら言ってる。

「どうしたんだ?」

「ん?

 昼間閉まってた店、全部『射的』か『スマートボール』だね」

 先輩が答える。

「あ、そうですね」

 少女ちゃんも見てたのか。アタイは気にしてなかった。

「帰り道に入ろう!」

 先輩が気合を入れた。

 

 外湯。

 髪を洗って、体を洗って、湯につかる。

「あー、少女ちゃん、どう?」

 少女ちゃんに聞いてみる。

「はふぅ、こんなに楽しいの、初めてです」

「まだ明日もあるんだよ?」

 ちょっといじわるな質問。

「もっと、になるんですね」

 少女ちゃんは旅行の楽しさの限界? なのか?

「これってさ、人を堕落させるねー」

 先輩の声、気が抜けてる。

 けど言いたいことは分かる気がする。

 工房の風呂でもまともに入ったら幸せに満たされる。

 ここは風呂に入るための街だ。

 当然だ。

 

 温泉、ひとつめの外湯から出た。

 宿に戻るまでにもうひとつ入る予定だ。

 十分に温もった体に冷たい風が心地良い。

 賑やかな街を歩く。

 先輩が立ち止まった。アタイと少女ちゃんも立ち止まる。『射的』の店の前。

「じゃ、入ろっか?」

「はい」

 先輩が提案、少女ちゃんが同意。もちろんアタイは決まってる。言うまでもない。

 3人で店に入った。

 『射的』、おもちゃの銃にコルクの弾。景品を撃ち落す。200ダリルで弾が10個。

 先輩は射的をいちおう知ってるらしい。

 店員に200ダリルを渡して弾をもらう。アタイは先輩に続く。

 少女ちゃんは……。

「どうする?」

「えと、こう言うのは苦手なんで……」

 入ったものの……、だったらしい。

 ならそれで良い。

「じゃあさ、見てな」

「はい!」

 少女ちゃんと話してる間に先輩が準備を整えていた。

「よし!」

 先輩が銃を構えた。

 けど、構え方が違う。

 先輩は銃床を右肩に固定して、左手で銃身を固定して、本式な構えだ。

「先輩、構え方が違う」

「え!? 違うの?」

 アタイの言葉に先輩が驚く。

「こうするんだ」

 右手だけで銃をしっかり持って、右腕をできる限り伸ばす。銃口をできるだけ景品に近づけて。

 ポン!

 弾が飛んで景品、小さいキャラメルの箱に当たった。箱がちょっと動いた。

「!

 なるほど!」

 先輩はすぐに分かったみたいだ。

 アタイがしたのと同じように銃を構えて。

 ポン!

 先輩はちょうど正面にあったキャラメルを狙って撃った。

 弾はキャラメルの箱からちょっとの距離をかすめた。

 もう一回チャレンジ。

 今度は当たった。箱がちょっと動いた。

 三回目、これも当たったが箱は動かなかった。

 先輩を見るのはここまでにして、アタイはアタイのゲームに入った。

 少女ちゃんに見守られつつ、先輩とアタイは真剣になる。

 ふたりして何も言わない。

 先輩が先に撃ちつくした。アタイもすぐ後に。

 悔しい、たぶん先輩も一緒。

 店員に200ダリル払う。先輩も。

 また何も言わずにコルクの弾を撃つ。撃ちつくした。

 200ダリル払う、撃つ、200ダリル払う、撃つ、を繰り返す。

 繰り返しの10回目、アタイはあきらめることにした。

 先輩は10回目の残り3発。

 1発目、キャラメルが揺れた。

 2発目、大きく揺れて、後ろに倒れて、棚から落ちた。

 先輩は店員からキャラメルを受け取った。

 残りの1発は適当に撃ってゲームをやめた。

「いやー、やっぱゲームってのめりこんじゃうね。

 少女ちゃん、はい」

 店から出つつ、先輩は勝ち取ったキャラメルを少女ちゃんに手渡した。

 少女ちゃんが困り顔になった。

「えっと、もらっても良いんですか?」

「もちろんだよ。

 私、攻略するのは好きだけど、景品には興味ないから」

 さらっと言う。先輩は何も気にしてないけど、200ダリルを10回、2,000ダリルのキャラメル。アタイのも入れたら4,000ダリル。

 4,000ダリルのキャラメルか……、もらいにくいな。

 射的に熱中してた間に体がいくらか冷えてた。

 先輩も、少女ちゃんも同じっぽい。

「ふたつめ入るか?」

「はい」

「賛成ー」

 少し歩いて、ふたつめの外湯の扉をくぐった。

 髪も体もついさっき洗ったばかりだ、許されるだろう。

 かけ湯をして湯に入った。

 冷え始めてた体が改めて温もる。

 体のしんまでしっかり温めて湯から上がった。

 温もった体で外湯を出る。

 今度はスマートボールの店に入る。

 先輩はスマートボールはしっかり知ってるらしい。

 店の中にならんでる台を見てまわる。

「先輩さ、スマートボールは知ってんのか?」

「うん、昔、王都にもあったからね」

 なるほど。

「少女ちゃん、スマートボールはどうだ?」

 尋ねてみる。

「ちょっとやってみたいです」

 決まり。

 台のひとつに座ってもらう。

 台の投入口に100ダリルを入れる。球が20個出てくる。

 見本。アタイが2回、球を打って少女ちゃんに分かってもらった。

 その先は少女ちゃんの好きなように遊んでもらう。

 店内をぐるりと見る。先輩は……、いた。

 先輩を見に行く。

 球を打っていく、球が減ってくる、上手く穴に入れる、球が出る、のルーティーンで、球が少しずつ増えていってる。

 声をかけようかと思ったがやめた。先輩は『本気の先輩』になってる。じゃましちゃいけねぇ。

 改めて少女ちゃんを見る。さっきのところにはいなかった。

 両替機で1,000ダリル札を両替してる。

 さっきとは違う台に座った。

 投入口の横に100ダリル硬貨を積んで、一枚目を投入口に入れた。

 少女ちゃんはがんばるが、球はどんどん減っていく。

 100ダリルを投入、どんどん減る。100ダリルを投入、どんどん減る。

 ……1,000ダリルが消えた。

 少女ちゃんは立ち上がって両替機に向かう。

 1,000ダリル札を両替機に。100ダリル硬貨10枚を手にして、また違う台に座る。

 投入口に100ダリルを入れて打ち始める。どんどん打つ。

 なかなか穴に入らない。お、ひとつ入った。球がガラガラと出てくる。

 その後は「入らない」が続く。100ダリル硬貨2枚目、3枚目、……10枚が終わった。

 少女ちゃんはまた両替機に向かう。

 止めた方が良い、絶対。

 少女ちゃんの肩を後ろからぽん、と叩いた。

「もうやめた方が良い」

 少女ちゃんの体がびくっと震えた。

 振り返ってアタイを見る。

「楽しいのは分かるけど、のめりこむのは良くねぇ」

「えと……」

 少女ちゃんは少し考える。

 はっとした。

 自分の状況を把握してくれた。

「……あぅ、

 2,500ダリルくらい使っちゃいました……」

 少女ちゃんはがっくりと肩を落とした。

「遊ぶのは悪くねぇけど、程度を考えねぇと」

「……はい」

 少女ちゃんのちょっと悲しそうで情けなさそうな声。

「?

 先輩さんは……、どうしたんですか?」

「ん? 先輩?

 あそこでずっと打ってる」

 先輩を指す。

 少女ちゃんは先輩のところに行こうとした。

 腕を取って行くのをやめさせる。

 少女ちゃんがアタイを見た。

「?」

「今の先輩、『本気の先輩』になってる。

 近づかない方が良い」

 ちょっと厳しい目で少女ちゃんを見て言った。

「は、はい……」

 先輩の台のはし、球が50個ちょうどが入るトレーが3つ積まれてた。てことは150個か。

 少女ちゃんとふたりで先輩を待つ。

 15分くらいかして、先輩が打つのをやめた。

 空のトレーをひとつ取って、台にある球をトレーにならべる。50個が入って、入らなかったのが3個。全部で203個。

 店員と何か話をして、ちょっとした大きさのぬいぐるみをポリ袋に入れてもらう。

 その袋と、プラス板チョコひとつを先輩は受け取った。

 先輩がこっちに来た。

 そのまま3人で店を出る。何となく宿を目指す。

「いやー、スマートボールって楽しいね。久々に熱中しちゃったよ。

 少女ちゃん、はいこれ」

 先輩は笑顔でぬいぐるみが入った袋と板チョコを少女ちゃんに差し出す。

「えと、ありがとうございます」

 少女ちゃんはお礼を言って袋とチョコレートを手にした。

 歩きながら話をする。

「先輩すごいな。

 いくら使ったんだ?」

「200ダリル。

 やっぱ長いことやってないと腕が鈍るね。

 勘戻すのに100ダリル使っちゃったよ」

 腕が鈍っててこの結果か……。

「王都でやってた時もこんな感じだったのか?」

「んーと、

 ピークの時は、100ダリルで500個にしたことあったね」

 20個を500個に増やしたのか……、すごい。

 何も言えないアタイと、アタイ以上に何も言えない少女ちゃん。

「でもね、遊びはほどほどにしないとだめだね。

 300個越えたらぜんぜん楽しくないよ」

「そうなんですか?」

 少女ちゃんが不思議そうに尋ねる。

「うん、もう何か作業してる気持ちになってね、

 500個出した時は、1ヶ月くらいスマートボールは見たくないって思ったね」

 話しながら歩いて、宿に着いた。

 部屋に戻ると、もうそろそろ良い時間になってた。

 布団を敷いてくれてあった。

 少女ちゃんは一生懸命眠気と戦ってる。

 急ぐことはないけど、明日の予定を3人で話した。

 明日は山に行こうと話してた。

 街の奥からちょっとした山道を30分くらい登ると、ほこら、海の神様のほこらがあるらしい。

 何で山の上に海の神様が? と思ったら、海を見渡せるそうだ。

 だからこの街いちばんの展望スポット。

 明日の午前中はここに行こう。そう決めた。

 後は明日に向けて寝よう。となった。

 寝るところは昨日と同じ。少女ちゃんが真ん中、先輩が窓側、アタイが引き戸側。

 先輩が自分の布団を少女ちゃんの布団にぴったりとくっつけた。アタイもそうした。

 先輩と少女ちゃんが布団に入った。

 部屋の照明を消してアタイも布団に入った。

 今日も楽しい一日だった。明日はどんな楽しいことがあるんだろう、そんなことを思ってるうちに眠りに落ちた。

 




温泉旅行の2日目。
昼食に海の幸、おやつ?に海の幸、夕食に山の幸を味わった3人。
もちろん温泉もしっかり堪能して。
温泉旅行はまだまだ続く訳で……。

次回は 第20話『雪の温泉郷 (3日目)』です。
ご一読いただけると幸い。
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