機械屋さんの可愛い?寝顔から始まる朝。
猛吹雪の中の露天風呂で新たなる体験。
昼食には山の幸・肉てんこ盛りの『肉丼』を食べて。
午後は外湯を楽しんで。
夜の温泉街には楽しそうな?娯楽を見つけちゃって……、そんなお話。
第20話は「はじまりはじまり」「1日目・初日」「2日目」「3日目」「4日目・最終日」の5回に分けて公開します。
本作は今野隼史(辺境紳士社交場)・アークライトの『のびのびTRPGスチームパンク』の二次創作です。
ソロプレイのルール「カードをもとに物語を書く」に従って記した世界観を使って記した二次創作です。
『のびのびTRPGスチームパンク』のプレイヤーキャラクターの「名前」を「キャラクターの名前」にしているので、
PC「機械屋」→「機械屋さん」
PC「少女」→「少女ちゃん」
等々となっています。
先に記しとく設定、
機械屋(主人公)と先輩は女性、
作中の「ダリル」は通貨単位、1ダリル=1円くらい、
と言うことで。
クレジット
ゲーム名:のびのびTRPG
ゲームデザイン:今野隼史
発売元:株式会社アークライト
© 2021 FRONTIERPUB / Arclight, inc.
3日目。
夢の中から現実に浮かび上がる。すうっと目が覚めた。
目を開くと、先輩と少女ちゃんがアタイを見てる。
一気にしっかりと目が覚めた。
特別な理由はないけど何か恥ずかしい。
「機械屋ちゃんの寝顔、かわいいねー」
先輩が笑顔で言う。
「だよね、少女ちゃん」
「えと、……良いと思います」
顔が赤くなってるだろう、分かる。
とりあえず体を起こした。
「でさ、機械屋ちゃん、今日どうする?」
「どうって、山に……」
何となく窓の方を見た。
窓の外は真っ白、吹雪だ。何も見えない。
「でしょ、だからどうしよう?」
「そうだな、……メシの時に聞いてみるか」
布団から出て乱れてた浴衣を整えた。
窓に寄って改めて外を見る。
ビュービューと吹雪いてるんじゃなくて、ゴウゴウと吹き荒れてる。
「山は無理だな。間違いなく遭難できる」
「予定変更ですね」
しばらくして、宿のスタッフが布団の片付けと朝メシの準備に来てくれた。
今日の朝メシのメインは魚の干物だった。
準備を終えたスタッフに、今日でも行けそうな観光スポットを尋ねた。
スタッフが言うには、今日みたいな日は地元の人でも大変、吹雪は昼頃にはおさまるだろうから、それまでは宿にいた方が良い、とのことだ。
朝メシを食う。干物、ありがちな言い方だけど、旨みが凝縮されて美味い、だ。
今日も朝から幸せだ。
食い終わっていくらかして、スタッフが朝メシの片付けをしてくれた。
3人で今日の予定を考える。
吹雪は昼頃にはおさまるとのことだが、それまでをどうするか。
何となく窓際に3人ならんで外の真っ白を見ながら考える。
「そだ、あれどうかな? あれ」
「『あれ』ですか?」
先輩が何か思いついたらしい。
「そうそう、あれ」
「『あれ』ってなんだ?」
先輩は考え込む。
「そだ! 露天風呂!
吹雪の中で入ったらどうなるかな」
「さすがに寒すぎると思います」
先輩の言葉に少女ちゃんは困り顔。
けど……。
「入ってみるか。
無理そうだったらすぐ戻れば良い」
「じゃあ、大丈夫そうですね」
「だよね!」
困り顔だった少女ちゃんも大丈夫っぽいと思ってくれた。
露天風呂に入ることに決まった。
大浴場は掃除をするので9時までは入れないとのことだ。
だからその時間を待つ。
今日の昼メシは肉にすると決めていた。
ガイドブックで肉の店を探す。
なるほど、いくつかあったけど、やっぱりこの街は魚がメイン。肉の扱いは小さい。
実際に店を見て、どの店にするか決めることにした。
そうこうしてるうちに9時をすぎた。
3人で大浴場に向かう。
大浴場に入ると、開いてすぐだからか人は少なかった。
脱衣場で浴衣を脱いで風呂場に入る。
まず、髪を洗って体を洗った。
露天風呂、そう言ってた先輩が大浴場のいちばん大きい風呂に入った。
「?
先輩、露天風呂じゃないのか?」
「ん?
先にいくらか温まっとかないと、きついっしょ」
先輩の合理的な答え。
「確かにそうですね」
少女ちゃんが先輩の横に入った。
なるほど。
アタイも湯に体を沈めた。
湯の中から見えるガラスの向こう側の景色。いや、景色じゃない。「白」だ。
体が温まってくる。
「そろそろ行ってみよっか?」
先輩の声。
「だな」
湯から上がる。先輩と少女ちゃんがアタイに続いた。
先輩が先頭になって、ガラス張りの引き戸を通る。
大浴場側の引き戸と露天風呂側の引き戸。
大浴場側がきちんと閉まってるのを確かめて、露天風呂側を開けた。
ゴウッと吹雪が体を飲み込んだ。
体中に冷たい空気が突き刺さる。雪が叩きつけられる。
「少女ちゃん、早く湯に入れ!」
半分固まってる少女ちゃんの手を引く。
先輩はもう湯につかってる。
少女ちゃんを引っ張って、露天風呂につからせた。
アタイも急いで湯に入る。
冷気でこわばってた体が湯の温かさで感覚を取り戻した。
何も考えられなくなっていた脳が働きだした。
湯につかってるところは温かくて心地良い。けど、つかってないところは吹雪に包まれて極寒。
肩まで、をこえて首まで湯につかる。
それ以上はどうにもならない。首より上は冷たいままだ。
温かさと冷たさを同時に味わう。初めての体験だ。
「不思議な感覚だね。
温いと寒いが一緒に来てる」
「はぅ。私はまだ寒いです……」
先輩はもう余裕が出てきたみたいだけど、少女ちゃんはまだつらそう。
「少女ちゃん、戻るか?」
「……戻りたくもないです」
少女ちゃんらしい。がんばりやと言うか、努力家と言うか、あきらめない。
ちょっと時間がすぎる。
「はふぅー、気持ち良くなってきました」
「温もってきた?」
少女ちゃんの緩んだ声を聞いて先輩が尋ねる。
「はい、もう大丈夫です」
少女ちゃんにも余裕が出てきた。
時間がすぎる。
体が十分に温まると頭にも温かさが上がってきた。
吹雪に飲まれてるけど、そんなに気にならない。
「また新しい体験だね。吹雪の中なのに温かい。
これは贅沢だ」
「賛成だな。こんなの初めてだ」
少女ちゃんが何も言わない。
気になったので見ると、少女ちゃんの表情は緩みきってた。
何も言えないくらい気持ち良いのか。
さらに湯の中ですごす。
頭も十分に温もる。そろそろ出た方が良いか。これ以上はのぼせそうだ。
「先輩、そろそろ出るか?」
「だね、温もりすぎも良くないね」
少女ちゃんは……、ぼーっとしてる。
のぼせかけてる? 湯から出した方が良いな。
湯から上がる。
全身に雪が吹きつけるけど、今は冷たく感じない。
引き戸をふたつ通って、大浴場の中に戻った。
「もう十分だね」
先輩が脱衣場に向かう。少女ちゃんの手を引いて先輩の後を追った。
浴衣を着る。
自動販売機でそれぞれ飲み物を買う。
それなりに汗が出てるから水分補給。
脱衣場でちょっと休んでから部屋に戻った。
部屋に入って、3人してたたみに大の字になった。
ひたすらぼーっとする。放心してる。
ふわふわしてる頭が少しずつ落ち着いてくる。
十分にしっかりした。
よっ、と体を起こした。
先輩と少女ちゃんはまだ放心してる。
ふと窓の外を見た。吹雪が弱まっていた。
時計を見る。昼前。
少しして先輩が体を起こした。さらに少しして少女ちゃんも。
昼を少しすぎた。吹雪はほぼおさまった。
雪はしっかりだけど、風はそうでもないみたいだ。
アタイは決めた。
「行けそうだな」
「だね」
「はい」
昼メシ。肉を食いに行く。
それなりの雪だ。浴衣では頼りないから服に着替えた。もちろん完全防寒。
ロビーに移動。宿のかさを借りて外に出た。
雪はどんどん降ってるけど風は弱い。
ガイドブックにあった店を見てまわる。
1軒目、肉メインのようだがインパクトが寂しい。
2件目、この店も確かに肉を推してるけど、もうちょっと勢いが欲しい。
3軒目、店の前にならんでるサンプルをみて即決した。『肉丼』、メシの上に肉が乗ってるだけ。シンプル・イズ・ベスト、店に入った。
店の中は賑やかだった。
店員がテーブルに案内してくれた。食うものはもう決めてるので注文する。肉丼・並がふたつと大盛りがひとつ。大盛りはもちろん先輩。
「どんなのが出てくるのかな」
先輩はわくわくしてる。
サンプルを見てるから出てくるメシの大まかなところは分かってる。でも本物はどんななのか、確かに気になる。
「肉丼、ってのも王都にはないな」
「言われると、……ないね」
「えと、ないですね」
肉丼を食う、またひとつ王都ではできない体験ができる。
大きなどんぶりふたつが乗ったトレーを持って、店員がやってきた。
「肉丼・並、ふたつです」
店員は一度厨房に下がった。
どんぶりがふたつ、これで並? そんな感じのどんぶり。
「並」のどんぶりよりひとまわり大きいどんぶりを乗せたトレーを持って店員が来た。
「肉丼、大盛りです。
以上でおそろいでしょうか?」
「はい!」
先輩がちょっと上がったテンションで言葉を返した。
肉丼、肉はミディアムレア、たぶん大きい肉を焼いてスライスしてるのだろう、そんな肉が積み上げられてる。肉の下にメシがあるはずだけど、見えない。
3人で『いただきます』をして、肉丼の攻略にかかった。
まずはメシが見えるまで肉を食うしかない。
何も言わずに肉を食う。
ようやくメシが見えてきた。
ここからは肉とメシを一緒に口に入れる。肉だけとは違う味。
肉は肉だけで十分に美味い。肉とメシの組み合わせも違う風味で美味い。
どんぶりを空にした。少女ちゃんはマイペースで食ってる。先輩はがつがつ食ってるけど、まだ3分の2くらい食ったところ。
何てんだろ、この店の「並」の基準は多い方にずれてるんじゃないか、そう思う。
「はふぅ、おなかいっぱいです」
少女ちゃんが食い終えた。表情が「すっごく満足」になってる。
先輩はまだ食ってる。かなり腹いっぱいだけど意地で食ってる、そんな感じだ。
先輩とアタイの共通認識、「メシを残してはいけない」。
メシが食えるってのはすごく大事なことだ。だから全部食わなければならない。
「あー、食ったー」
先輩が食い終えた。無理矢理食い終わらせた、そんな感じがある。
「よくあんなでかいどんぶり食えたな」
「予想外だよ、こんなのが出てくるって」
同意だ。「並」でこのサイズだったんだから。
「私もなんとか食べきった感じです」
少女ちゃんも無理矢理食ったっぽいけど、表情にはまだ余裕がある。
「この街って謙虚なのかな?」
先輩の問いかけ。
「謙虚って、どう言うことだ?」
何を聞きたいのか分からないから質問に質問で答える。
「何てのかな、昨日の海鮮丼もそうだけどサンプルよりすごいのが出てくるっしょ。
普通はサンプルの方が盛ってるってのかな、そんな感じでしょ」
なるほど。
「言われりゃそうだな。予想よりすごいってのは間違いない。
宿のメシも思ってた以上に豪華だったし」
3人で満足を満喫する。
旅行をしなかったらこの気分は味わえなかった。
直接ではないけど旅行をさせてくれた「謎の男」に感謝だ。
「でさ、昼からはどうする?」
新しい話題になった。
「どうするって……」
考えるが良いアイデアが出ない。
「外湯はどうでしょう。
まだ半分くらいしか入ってませんし……」
少女ちゃん、良いアイデアだ。
「それ良いね。
機械屋ちゃん、どうかな?」
「もちろん賛成だ。
このまま行こう」
テーブルを離れる。レジで支払いをして店を出る。
まずはこの店からいちばん近い外湯。
雪の中を歩く。
かさに雪が乗る。
除雪されてる道に新しい雪が積もる。
外湯の建物に入る。
服を脱いで風呂場に入る。
驚いた。風呂の湯が白く濁ってる。
そういやガイドブックにそんな感じのことが書かれてた。『濁り湯』だっけ。
「おー、これが濁り湯かー」
「何か不思議です」
早く入ってみたい。だから急いで髪と体を洗った。
濁り湯に入る。
ゆっくりと体を湯に沈めた。少女ちゃんもゆっくりと。先輩は一気に肩までつかった。
濁り湯は今までの温泉とぜんぜん感じが違う。
湯がぬるぬるとしてる。そのせいか湯が体にまとわりつくように感じる。それが気持ち良い。
「外湯がいろいろ違うってのはガイドブックにあったよね。
ちゃんと見とけば良かった」
「でも、いろんな違うのに入れてます」
「まあ、このあともうひとつ入って、
晩メシ食ったあとにもうひとつかふたつ入れるから、
夜の分はちゃんとチェックだな」
少し言葉がとぎれた。
湯が体を包み込む。温もりが肌を温めて体の中に入ってくる。体のしんまで温もる。
「旅行、明日で終わりなんですね……」
少女ちゃんのちょっと寂しそうな声。先輩が答える。
「何にでも終わりがあるからね。
でもさ、まだ明日があるんだよ。楽しまなきゃね」
「年に1回くらいだったら旅行しても良いかな?」
アタイはぽつりと言った。
「良いね、これからは毎年1回、旅行しよう。
温泉も良いけど、海とか山とか、いろいろ行こう」
「じゃあ、じゃあ、楽しみです!」
先輩の言葉に少女ちゃんが喜びを爆発させる。
もう少し風呂につかって、ほどほどに温もったところで湯から出た。
宿に戻る前にもうひとつ外湯に入る。
だからしっかりと温もる前に出る。
服を着て外湯を後にした。
次の外湯、脱衣場で手早く服を脱いで風呂場へ。
さっき体を洗ったばっかりだ。かけ湯をして湯に入る。
意識すると、この風呂の湯はさらさらしてる。さっきの濁り湯とは明らかに違う。
けど、体のしんまで届く温かさは一緒だ。
今度は体のしんまで徹底的に温める。温めすぎるわずかに前のぎりぎりまで。そこまで温もって湯から出た。
服を着た。
体がしっかり温まってる。
汗が出てのどが渇いてる。
脱衣場のはしに自動販売機がある。3人でそれぞれの飲み物を買った。
自動販売機の横にベンチがあった。そこに座って買った飲み物を飲みつつ、ぼーっとした。
温まりすぎた体からほど良く熱が抜けた。
まず先輩がベンチから立った。続いて少女ちゃんが。最後にアタイが立ち上がった。
外に出ると雪は弱まってた。
でもまだかさが要るくらいの雪。かさをさして宿に帰った。
宿のロビーでかさを返して部屋に戻った。
浴衣に着替える。ラフな感じなのが良い。
もうすぐ晩メシの時間。
今すべきこと。晩メシを待つ。重要だ。
窓から外を見た。
朝の吹雪とはぜんぜん違う。穏やかな雪景色。
アタイの隣に先輩と少女ちゃんがならんだ。
「吹雪いたり、落ち着いたり、すっごい変わるね」
「王都は寒いか暑いかだけですね」
先輩と少女ちゃんがぽつりぽつりと言葉を出した。
時計を見た。そろそろだ。
コンコン、と引き戸がノックされた。
「失礼致します」
宿のスタッフが晩メシの準備に来てくれた。
今日はどんな晩メシか。すごく気になるし、すごく楽しみだ。
料理がならべられ始めた。料理を前にするように座る。
机の上に料理がならべられてく。
メインは天ぷらだった。
時々マーケットで買う惣菜の天ぷらとは明らかに違う。
もちろん揚げたてだろうし、たぶん素材も良いだろう。天ぷらからそんなオーラを感じる。
料理を全部ならべ終わらせて、
「では、ごゆっくり」
そう言ってスッタフは部屋を出た。
「じゃあ、食おっか」
先輩の声が合図。
3人で『いただきます』をして晩メシスタート。
どの料理から食い始めるか、やはり悩む。
先輩を見る。まったく迷いがない。天ぷらのいちばん大きいやつ、たぶん天ぷらのメイン、に箸を伸ばす。
少女ちゃんも天ぷらから。けど、先輩とは違って周りから固めていく感じ。
アタイは……、先輩を見習おう。
いちばん大きい天ぷらから食うことにした。
「さくさくして美味しいですね」
少女ちゃんの言葉に先輩がこくこくとうなずく。口の中がいっぱいで喋れないみたいだ。
「どうやったらこんな上手く作れんだろ。
勉強して作ってみるか」
先輩はまたこくこくとうなずいた。
天ぷら以外にもいろんな料理がならんでる。
そいつらにも箸を伸ばす。もちろん美味い。
どれもこれも美味い。どんどん食いたい。
先輩はがつがつ食ってる。少女ちゃんはのんびり食ってる。
今度は少女ちゃんを見習おう。ゆっくり食ってひとつひとつの味を頭にしっかり刻み込む。
宿で食う晩メシはこれが最後だ。悔いを残したくない。そう考えてじっくりと食った。
食い終わった。宿で食う最後の晩メシ。
先輩はもう食い終わってる。少女ちゃんはまだだ。
先輩とアタイを見て急いで食おうとする。
「少女ちゃん、ゆっくり食ったらいいよ」
「先輩とアタイが速いんだ。
少女ちゃんくらいの食い方が本当はちょうど良い」
少女ちゃんが答える。
「ありがとうございます。
でも私、いつも食べるのが遅くって……」
「いつも、って軍の食堂で食うとき?」
少女ちゃんの「いつも」が気になった。
「はい、そうです。
みなさん食べるのが速くて、私はいつも遅いです」
いやいや、軍の連中は「食える時に食え」だ。特別な例だ。
「まわりが特別だ。
少女ちゃんくらいが本当はちょうど良い」
「はい」
少女ちゃんが改めて食い始めた。
安心したのか、ゆっくり食う。それで良い。
少女ちゃんが食い終えた。
3人で『ごちそうさま』をする。
腹が落ち着くまで休憩。
メシの片付けをしてもらうまで、ぼーっとしよう。
先輩と少女ちゃんを見ると、同じような気持ちのようだ。
メシの後片付けをしてもらった。
それをきっかけにして動こうと考えられるようになる。
よっと立ち上がった。
「外に出るか?」
「はい」
少女ちゃんが立ち上がる。
「だね」
先輩も立った。
「とりあえず外湯に行くか?」
「OK」
「行きましょう」
3人の意見が一致。
部屋を出てロビーへ。
宿を出る。
雪は降ってなかった。
まだ入ってない外湯のひとつを目指す。
歩きながら話す。
「温泉、今夜で終わりだな……」
寂しく感じる。
「だね、ちょっと悲しいね」
「もっと入りたいです」
先輩も少女ちゃんもちょっと憂鬱げ。
けど、だからしっかり楽しまないと。
「温泉にはもう入りたくない、って思うくらい入るか」
「良いと思います」
「賛成!」
外湯のひとつに入る。
手早く裸になって風呂場に入った。
この風呂は硫黄の匂いが強いように感じる。
ざっと体を洗って湯に入る。湯はちょっとぬるい感じ。
でも、湯の温かさが体を包み込む。体の中に入ってくる。体の奥まで温かくなる。
「やっぱり贅沢だねー、温泉って」
「いろんな温泉があるのが楽しいですね」
「そうだな」
温泉イコール幸せ。3人同じ考えだ。
体がしっかり温まった。湯から上がる。
脱衣場に戻って浴衣を着た。
汗をかいてのどが渇いてる。脱衣場のすみにある自動販売機で飲み物を買った。
のどを潤しつつ「次」を考える。
先輩の考え。
「思うんだけどさ、この街ってメインストリートがこんなに楽しいっしょ。
だから裏通りも楽しいよ、絶対」
「えと、どう言うことですか?」
少女ちゃんが尋ねる。
「ほら、王都でも大通りがすごくって、東通りとか西通りも楽しいっしょ」
「確かに先輩の言う通りだ」
「じゃあ行きましょう」
意見が一致した。裏通りに入ってみることに決まった。
ちょっと待て、アタイの心に何かが引っかかった。裏通りには行かない方が良い、わずかにそう感じた。
けど、その感じはすぐに消えた。温泉街を楽しむ。それが大事だ。
外湯から出た。
先輩が先頭。その後ろをアタイと少女ちゃんがついていく。
メインストリートを歩く。
「このへんで曲がってみっよか」
狭い割には広い道との角で先輩が曲がった。アタイと少女ちゃんが続く。
少し歩いて、ライトで明るく照らされてる「看板らしきもの」に気づいた。
看板は道を向いてる。だから何の看板なのか分からない。
けど、アタイには分かった。思い出した。裏通りに来たのは失敗だ。
先輩ももちろん看板に気づいてる。
「何かな? あれ」
先輩は看板が掲げられてる建物の前へ急いだ。先輩の後をアタイと少女ちゃんがゆっくりと進んだ。
看板を見て、建物を見て、先輩の頭の上に「?」が浮かぶ。改めて看板を見る。
「『ストリップ劇場』?」
看板の文字を読んだ。
やっぱり……。何で忘れてたんだ、こんな大事なこと。
「ストリップ劇場か。
……機械屋ちゃん、知ってる?」
知ってる。おやっさんに世話になってた時に入ったことがある。
「知らない」と嘘を言うか、正直に「知ってる」と言うか……。
知らない、と言ったら「じゃあ入ってみよう」になるだろう。
知ってる、と言っても「見てみたい」と言われるだろう。
けど、知ってると言った方が入らないように説得するのは楽だろう。
決まった。
「ああ、知ってる」
覚悟を決めて言った。
「え!? 知ってるの!?
どんななの、教えて教えて!」
「私も知りたいです!」
先輩が聞いてきた。思った通りだ。
加えて少女ちゃんも興味を示した。まさか少女ちゃんが先輩の側につくとは……。
「説明するから、こっちに来な」
劇場の前からちょっと離れた道のはし、目立たない所に移動する。
ストリップ劇場が何なのか説明した。
少女ちゃんは顔を真っ赤にした。
先輩は興味津々、瞳を輝かせた。
「じゃあさ、早く入ろう!」
少女ちゃんは説得できたが、先輩はまだだ。
もう一回説明する。
野郎が入るところ、女が入るところじゃない。子供は入れないから少女ちゃんを待たせることになる。
「んー、そっか、
……じゃあ仕方ないね」
あきらめてくれた。正直ほっとした。
「戻ろう、少女ちゃんの教育に悪い」
「残念だけど、また今度だね」
今度があるのか。ぞっとした。
少女ちゃんはと言うと、顔が真っ赤なまま。何も言えなくなってた。
表通りに戻るとそれなりに良い時間だった。
温泉に入るのはあとひとつで最後になりそうだ。
「温泉、次で終わりそうだな」
「もうあとひとつですか……」
少女ちゃんは心底残念そう。
「最後はあれで決まりだね!」
先輩が元気良く言う。
「あれ?」
「そ、露天風呂」
「良いと思います」
先輩の提案に少女ちゃんが乗った。
じゃあ決まりだ。
「宿に戻るか」
今度は3人ならんで宿へと歩く。
宿に戻ってそのまま大浴場へ向かう。
手早く浴衣を脱いで風呂場に入った。
かけ湯をして露天風呂へ。さっきの外湯の温もりがまだ残ってる。だから外に出てもそんなに寒いと感じない。
3人でならんで湯につかった。
たぶんこれが最後の温泉。旅行も明日が最後だ。どうしても寂しい気分になってしまう。
「旅行、明日で終わるんですね……」
少女ちゃんに同意。
「すっごく楽しかったな……」
「そんなこと言っちゃだめだよ。
旅行は明日もあるんだから。まだ楽しいんだよ」
確かに先輩の言う通りだ。
「だな、明日も思いっきり楽しもう!」
「はい!」
先輩の言葉で気持ちが切り替わった。まだ明日がある。
そんな話の間に体が温もった。
露天風呂、体は温かいのに頭は涼しい。
存分に堪能した。
これで温泉は十分だ。
湯から上がって大浴場を後にする。
部屋に戻ると布団が用意されてた。
そろそろ寝るか。
今夜も少女ちゃんが真ん中。先輩が窓側。先輩の反対側にアタイ。
先輩とアタイがそれぞれの布団を引っ張って、3組の布団をぴったりとくっつけた。
先輩はすぐに布団に入った。
少女ちゃんは……。少女ちゃんに目をやるとアタイの目を見て何かを伝えようとしてた。
あ、分かった。こくりとうなずいた。
灯かりを消して布団に入った。
やっぱりすぐに眠りに沈んだ。
続
温泉旅行の3日目。
昼食にとてつもない山の幸『肉丼』を味わった3人。
もちろん温泉もしっかり堪能して。
温泉旅行は残り1日……。
次回は 第20話『雪の温泉郷 (4日目・最終日)』です。
ご一読いただけると幸い。