ついに温泉旅行の最終日。
先輩さんの緩んだ寝顔から朝が始まって。
土産物屋で温泉饅頭、マスコットキャラの可愛いアイテム、あと、修学旅行で絶対に禁止されるアレ。
温泉郷での最後のメシはもちろん海の幸。
帰りの列車に乗って切なくなって。
でも、旅行は家に帰るまでが旅行で……、そんなお話。
第20話は「はじまりはじまり」「1日目・初日」「2日目」「3日目」「4日目・最終日」の5回に分けて公開します。
本作は今野隼史(辺境紳士社交場)・アークライトの『のびのびTRPGスチームパンク』の二次創作です。
ソロプレイのルール「カードをもとに物語を書く」に従って記した世界観を使って記した二次創作です。
『のびのびTRPGスチームパンク』のプレイヤーキャラクターの「名前」を「キャラクターの名前」にしているので、
PC「機械屋」→「機械屋さん」
PC「少女」→「少女ちゃん」
等々となっています。
先に記しとく設定、
機械屋(主人公)と先輩は女性、
作中の「ダリル」は通貨単位、1ダリル=1円くらい、
と言うことで。
クレジット
ゲーム名:のびのびTRPG
ゲームデザイン:今野隼史
発売元:株式会社アークライト
© 2021 FRONTIERPUB / Arclight, inc.
4日目・最終日。
朝、だいたいどれくらいの時間に起きたいか、大事な日はその時間に目が覚める。
考えてた時間、夜明けのいくらか前、に目が覚めた。
部屋は真っ暗。もちろん窓の外は真っ暗。
良い感じだ。
足を動かす。つま先で隣に寝てる少女ちゃんの足をつつく。
なるべく静かに少女ちゃんを起こしたい。
何回か試したが少女ちゃんは目を覚まさない。
先輩を刺激しないように。
今度は手を伸ばして少女ちゃんの頬をぺちぺちと軽くたたく。
「……う……ん」
ちょっと反応した。もう1回。
「……んー」
少女ちゃんのまぶたがゆっくりと開いた。
「少女ちゃん」
小さい声で呼ぶ。
「?
あ、機械屋さん」
あわてて人差し指を口の前に。「しーっ」とジェスチャー。
少女ちゃんははっとして手で口を押さえる。
布団の中で明るくなるのを待つ。
外がわずかに明るくなってきた。そろそろ始めるか。
なるべく音をさせずに布団から出る。少女ちゃんも布団から出る。
できる限り静かに先輩に近づく。
窓側から先輩の顔を見る。少女ちゃんは反対側から見る。
先輩は表情が緩みきってる。
どんな夢を見てるんだろ。……楽しい夢なのは間違いない。
ちょっとの間見てると、
「少女ちゃぁん……」
寝言。同時に緩んでた顔がもう一段緩む。
少女ちゃんの夢を見てるのか。
表情が元に戻った。
ちょっとして、
「機械屋ちゃぁん……」
表情が緩む。
アタイも夢に出てるらしい。
先輩に目が覚める気配はない。まだ大丈夫だ。
「だめだよぅ……」
にへらっと笑顔が緩む。
何がだめなんだろ。どんな夢なんだ?
少女ちゃんを見た。少女ちゃんはちょっと頬を赤くしてる。少女ちゃんらしい。
「ほんとにだめだったらぁ……」
いやいや、本当にどんな夢なんだ?
先輩を観察してる間に外が明るくなってきた。
その後は寝言はなかった。
けど、基本的に緩んでる寝顔が時々もう一段緩んだ。
外がしっかり明るくなって、部屋の中も明るくなった。
ぐっすり眠ってた先輩がごそごそと動き始めた。
少しして目を覚ました。
ぽーっとした感じから始まって、少しずつ状況を把握し始める。
アタイと少女ちゃんに気づく。自分が見られてることにも気づく。
ぼんっ、と赤面した。
あわてて布団をかぶる。
先輩が見てた夢には少女ちゃんとアタイが出てたらしい。
加えて本人を見るとすごく恥ずかしくなる夢だったみたいだ。
布団から顔を出した。顔色が元に戻ってた。
先輩はよっと体を起こした。
「先輩、どんな夢見てたんだ?」
少女ちゃんは何も言わないけど、先輩の顔をじっと見てる。
「夢?
んーと、どんな夢だったっけ?」
どんな夢だったか、分かるのは先輩だけだ。
「だよな」
夢ってのはしっかり見てても起きたら速攻で思い出せなくなる。
「ちょっと残念です……」
少女ちゃんはちょっと悔しそう。
「まあ、何だ、
先輩の寝顔が見れた。いちおう成功だ」
「あ、そうですね」
少女ちゃんの心が浮かび上がった。
「え!?
寝顔見られたの!?」
先輩が驚きの声をあげた。
「少女ちゃんの寝顔見たし、アタイも見られた。先輩の寝顔も見ないと。
これでアタイも少女ちゃんも納得だ」
少女ちゃんがこくこくとうなずいた。
「確かにそだね。うん」
簡単に納得した。この対応はさすが先輩だ。
先輩は布団から出て、うーんと体を伸ばした。
窓に近づいて外を見る。
「おお! 見て! 見て! すごいよ!」
先輩のテンションが上がった。
少女ちゃんと一緒に先輩にならぶ。
快晴だった。
どこまでも青い空と、日の光に輝く雪。遠くに見える海もきれいに光ってる。
「これ、外で見ないともったいないよ!」
「ああ!」
「ですね!」
3人で1階に下りて宿の外に出た。
空を見上げる。雲ひとつない青。
山を見る。銀色に光る雪。
すごい景色だ。
来て良かった、心の底から思った。
少しの間、景色に感動した。
部屋に戻ると朝メシの用意をしてくれてた。
朝メシを食う。
今朝のメインは焼き魚。でも一昨日のとは違う魚。
もちろん味もぜんぜん違う。けど、もちろん甲乙つけがたい美味さだ。
宿で食うメシはこれが最後。正直名残惜しい。
だけど先輩が言ってたのが当たり。今日もまだ旅行だ。
メシの後片付けをしてもらった。
チェックアウトの時間までもうちょっとある。
今日の予定を確認する。
と言っても空港への列車は昼すぎ。
それまでは近所に渡す土産を買って、早めに昼メシを食って、そんな感じだ。
そろそろか、浴衣を脱いで服に着替えた。
荷物をまとめる。
少女ちゃんはコートを着て、先輩とアタイはジャンパーを着た。
それぞれの荷物と、少女ちゃんはぬいぐるみが入った袋。アタイは干物とかが入ってる袋を持った。
忘れ物がないか。部屋の中をぐるりと見る。
忘れ物はない。3人で確かめたから大丈夫だ。
部屋を出る。エレベーターで1階へ。
ロビーのカウンターでチェックアウトする。
アタイのインフォメーション端末をカウンターの端末に同期、ピッと鳴って手続き完了。
「じゃ、行くか」
振り返って後ろにいる先輩と少女ちゃんに声をかけた。
「だね」
「はい」
宿を出る。
「またおこしくださいませ」
宿のスタッフが送り出してくれた。
3人で横ならびになって歩く。
「宿、良かったね」
「ああ、あんな広い部屋で、美味いメシ、ふかふかの布団、んで温泉。
良いとこばっかだったな」
「私も温泉が良かったです。
えと……、露天風呂!
また入りたいです」
少女ちゃんの言う通りだ。
先輩とアタイはうんうんとうなずいた。
宿から駅への道。昨日まではスルーしてたけど、土産物屋もならんでる。
その1軒、それなりに大きな店、に入った。
この街の銘菓、この地方の特産品、等々がならべられてる。
3人それぞれで店の中を見てまわる。
アタイは銘菓を見比べる。『温泉饅頭』ってのがあった。
聞いたことはあったけど、実物は見たことないし食ったこともない。
先輩がアタイのところに来た。
「何見てんの?」
「ん?
近所に土産渡した方が良いかな、って考えてた」
その言葉に先輩が反応した。
「うん、良いね」
「じゃあ買うか。
……どれくらいの近所まで要るかな?」
考えてみると近所に土産を渡すってのは初めてだ。
土産を渡せば良いのは分かるけど、どれくらいの近所で良いのか分からない。
「んー、
『向こう三軒両隣』くらいで良いと思うよ」
「てことは5つか。
それと……、温泉饅頭で良いよな?」
先輩が温泉饅頭を指す。
「これ?」
「ああ」
ちょっと考える先輩。
「決まりだね。
けど、6つ買おう」
「6つ?」
近所に渡す分ともうひとつ?
「私と機械屋ちゃんが食う分ね」
「なるほど」
温泉饅頭、大きい箱のと中くらいのと小さいのがある。
「近所に渡すのは大きいのだな」
「うん。だね」
大きい箱5つを取る。
アタイの手から先輩が持ってくれた。
「アタイらのは小さいので良いな」
「あ、せっかくだから中くらいのにしよ」
そうだな、ちょっと欲張りたい。
中くらいのも先輩に持ってもらった。
「これで良いよな」
「良いね」
レジで支払いをする。
饅頭の箱6つを紙袋に入れてもらう。先輩が店員から紙袋を受け取った。
少女ちゃんは……。
温泉街のマスコットキャラのコーナー、かわいいアイテムが集まってるコーナー、で考え込んでる。
「少女ちゃん、迷ってる?」
先輩が声をかける。
「あ、はい、どれが良いか決められなくて……」
アタイも声をかける。
「少女ちゃんに似合うやつか」
どれどれ、とコーナーを見渡す。かわいいグッズがいろいろある。この中から選ぶのは難しい。
「あの、私にじゃなくて『謎の男』さんにどれが似合うかなって」
!
ふきだしそうになった。でも、少女ちゃんは真剣に考えてる。笑っちゃいけない。
「『謎の男』に似合うやつか……。
難しいな」
「あれとか良いと思うよ」
先輩が指した先、マスコットキャラの隣のコーナー、……木刀があった。
「……確かに似合うな。
けど、土産にはちょっと痛いな」
「ですね」
3人で悩んで最後に、饅頭で良いだろ、となった。
少女ちゃんはいちばん小さい箱の温泉饅頭を買った。先輩が持ってる紙袋に一緒に入れる。
土産物屋を出てまた街を歩く。街は賑わってる。
早いけど良いか、そう思ったから言った。
「早いけど昼メシ食うか?」
「早めに食っといた方が良いね」
「じゃあ、何を食べましょう?」
少女ちゃんの言葉を聞いてちょっと考え込む。
「先輩、何が良い?」
「んー、魚だね。
刺身をもう一回食いたいね」
「機械屋さんはどうですか?」
もちろん賛成。
「アタイも刺身食いたい」
「じゃあ決まりですね!」
少女ちゃんも刺身だったみたいだ。
「どこで食う?」
「このあいだ海鮮丼を食べた店はどうでしょうか?」
「あの店か。良いね。
もう1回、海鮮丼食おう」
一昨日の昼メシを食った店へ。
店に入るとやっぱり店員の気合の入った声。
「いらっしゃいませー!」
「何名様ですかー!」
店員のひとりがこっちに来てくれた。
先輩が3人だと伝えた。
「こちらへどうぞー!」
4人席のテーブルに案内してくれた。
店員は一旦厨房の方へ下がった。水とおしぼりを取りに行ってくれたのか。
この前は海鮮丼と決めて店に入った。
けど今回は、とメニューを見た。
……海鮮丼がいちばんインパクトがある。もう一回海鮮丼で決まりだ。
「あのさ、この『刺身盛り合わせ』ってどうかな?
3人で分けたら食えるっしょ」
「良いと思います」
「賛成」
これも決まった。
「でも、分けたらちょっと少なくないですか?」
「あ、確かにそだね。
……どうしよ」
「『大盛り』にしたらどうだ?」
メニューのひとつを指す。『刺身盛り合わせ(大盛り)』てのがあった。
「決まりだね」
少しして、店員が水とおしぼりを持ってきてくれた。
代表してアタイが。
「海鮮丼3つと刺身盛り合わせの大盛り、お願いします」
「はい、海鮮丼3つと刺身盛り合わせの大盛りですね。
海鮮丼3つと刺身盛りの大盛りー!」
店員の気合の入った声が清々しい。
料理が出てくるまで、このあとのことを話した。
とは言っても、あとは列車で空港に行って、飛行機械で王都の首都空港。それで旅行は終わり。
少女ちゃんは明らかに寂しそう。先輩もちょっと沈み気味。
「あのさ、旅行ってのは家に帰るまでが旅行、
だから帰りも楽しまねぇと!」
はっきりと言い切った。
「そうですね!」
「だね!」
先輩と少女ちゃんが笑顔に戻った。
そんな話をしてると店員が料理を持ってきてくれた。
「はいよっ、海鮮丼3つ! と、刺身盛り合わせ大盛り!」
2回目だけど驚く。どんぶりが3つと今日は大きめの皿もテーブルにならぶ。
「やっぱりインパクトあるな」
「食いごたえあるよねー」
「しっかり食べたいです!」
食べる前に『いただきます』をして食事開始。
海鮮丼はやっぱりボリュームがある。どんぶりの上の刺身から攻略する。
今日はどんぶりを食いながら『刺身盛り合わせ』の刺身も食う。
どんぶりの刺身と盛り合わせの刺身、とにかく刺身を食える。
食い始めたら声がなくなる。「食う」だけになる。それくらい美味い。
黙々と食って、食い続けた。
初めにアタイが、次に少女ちゃんが、最後に先輩が食い終えた。
美味いメシで腹いっぱい。幸せで魂が抜けそう、そんな感じ。
腹を落ち着かせる。
「あー、美味かったー」
「美味しかったです」
「満足できた」
ちょっとして、落ち着いた。
席から立つ。
支払いをして店を出た。
駅へ向かう。
今くらいから行くと列車の時間には十分余裕がある。
いくらか余裕があった方が良いだろう。
駅へと歩きながら話をする。
話題は「刺身」。
美味しかった、また食いたい、王都で食えないのが残念、等々。
駅に着いたのは列車の時間の20分くらい前だった。
早すぎたかと思ったけど、ギリギリよりは良いだろう。
今日はきれいに晴れてる。朝は寒かったけど今はそんなに寒くない。
待合室で待たなくても良いくらいだ。
売店でそれぞれの飲み物を買って、改札ゲートを通った。
ホームに出る。
旅行の楽しかった話をしてるとすぐに時間が経った。
ずっと遠くから列車が近づいてきた。
速度を落としながら駅に入ってきて、ホームちょうどで止まった。
アタイらが乗るのは6号車。ホームの6号車のしるしで待ってたら、ぴったりで止まってくれた。
列車に乗る。帰りも4人用の個室だ。
部屋の番号を見ていく。
「えっと……、ここか」
番号を確かめる。合ってる。
中に入る。まず上着、少女ちゃんはコート、先輩とアタイはジャンパー、を脱いだ。
帰りは窓側に少女ちゃん、隣に先輩、先輩の前にアタイ。アタイの横には荷物を置いた。
置いたのは、市場で買った干物とかと、先輩がスマートボールで取ったぬいぐるみ、それと土産の饅頭。
少しして列車ががくん、と動いた。
走り始めた。温泉街の駅を離れて加速していく。
いくらか加速して、十分なスピードになった。
カタンコトン、カタンコトン、と一定のリズム。
そのリズムが心地良いのか、少女ちゃんがうとうとし始めた。
先輩の肩に寄りかかる。
先輩が肩を抱き寄せると少女ちゃんはすぐに眠りに引き込まれた。
それから20分くらい雪の中を走って列車はトンネルに入った。
長いトンネルの中を走る。
トンネルから出ると景色ががらっと変わる。雪が少ない。いくらか積もってるだけ。
さらに走ると雪が減って、なくなった。
列車は走り続ける。
先輩とアタイ、ぽつりぽつりと話をする。
「少女ちゃん、良い顔してるな」
先輩も少女ちゃんを見る。
肩に寄りかかってるからしっかりとは見えないだろう。でも分かると思う。
「楽しかったんだね」
少女ちゃんを抱き寄せ直す。
「アタイも楽しかった」
「私も」
何となく言葉が途切れた。
少ししてまた話が始まる。
「でもさ、今回のいちばんは『謎の男』だね」
「ああ、間違いない。
『謎の男』が少女ちゃんのこと言わなかったら旅行しなかったもんな」
また話が途切れて、少しする。
「次はどこに行く?」
先輩に尋ねる。
「そだね……、海はどうかな? 真夏の海」
「海か、良いな」
同意して言葉を続ける。
「今度は『謎の男』に言われる前に少女ちゃん、連れ出そう」
「良いね、少女ちゃんなんだから『謎の男』もだめって言わないよね」
今度は先輩が同意してくれた。
「て言うか、『行け』って言うだろな」
時間はすぐにすぎる。
車窓の風景が変わってくる。
冬色の草原から郊外の景色に。街の景色になる。
もうすぐ空港駅。アナウンスが流れた。
先輩が少女ちゃんを起こす。
「ん、うん……」
少女ちゃんが目を覚ました。
わずかな時間ぽーっとして、すぐにしゃきっとした。
「はわっ! 寝てしまいました」
少女ちゃんの様子が微笑ましい。
「もうすぐ空港だ。降りる用意しよう」
すぐに飛行機械に乗る。だから上着は着なくて良いだろう。
それぞれの荷物を持って、忘れ物がないか確認して。
そうしてるうちに列車のスピードが落ち始めた。
もうすぐ到着だ。
列車はどんどんゆっくりになる。すごくゆっくりになって、窓から駅のホームが見えて、止まった。
列車から降りて改札ゲートに向かう。
ゲートを通って、空港への連絡通路を歩く。
空港の出発ロビー、飛行機械の案内が表示されてる大きなパネルを見た。
王都行きの便の出発は30分後、と言うことは搭乗ゲートはそろそろ開いてるはずだ。
3人でゲートの方へ。
ゲートに着いたところで、ゲートが開くとのアナウンスが流れた。
ゲートのまわりで待っていた乗客が順番にゲートを通る。
乗客の列のいちばん後ろにならんで少しずつ進む。
ゲートを通って飛行機械に乗った。
チケットに書かれてる座席を見ていく。
あった。
荷物を荷物棚に入れてシートに座る。
少女ちゃんが窓側。隣、通路側に先輩。通路をはさんでアタイ。来る時と同じ順番。
シートに座ると少女ちゃんはすぐにぼーっとし始めた。
先輩が肩を抱き寄せる。少女ちゃんはびくっとした。
「えっ、あの……」
先輩を見る。
「良いから、
疲れてるんだから寝たら良いよ」
「えと、……はい」
先輩に寄りかかって目を閉じて、少女ちゃんはすぐに眠りに落ちた。
10分くらいして、離陸のアナウンスが流れた。
ちょっとの後、機体がかるく揺れた。飛行機械が離陸した。
そこから30分くらい飛行機械は飛んだ。
時間は長いと思うと長いし、短いと思うと短い。
飛行機械に乗ってる時間、アタイは短いと思った。
着陸のアナウンスが流れた。
少しして、体が前に引っ張られる感じ、飛行機械が減速。
次に体が浮き上がる感覚、着陸だ。
飛行機械がゴトンと揺れた。着陸した。
先輩が少女ちゃんを起こした。少女ちゃんは今度はすぐにしゃきっとした。
この先は上着を着た方が良いだろう。先輩とアタイはジャンパーを、少女ちゃんはコートを着た。
荷物を持って飛行機械から降りた。
到着ゲートを通る。
王国の首都空港に帰ってきた。
次は王都中央のバスターミナルへ。
空港のバスのりば。先輩がバスターミナルへののりばを見てきてくれた。
「3番のりばー」
「OK」
3番のりば、バスターミナル行き。
のりばに着くと、バスがちょうど発車するところだった。
バスに乗る。車内は混んでた。
座席はもちろん全部埋まってる。立って行くことになった。
バスが動きだした。
街のはずれにある首都空港から街の中心へ。バスが走る。
窓の外に見える風景が街から都会になる。
バスターミナルに着いた。
このバスはここが終点。乗客が順々に降りる。もちろんアタイらも降りる。
先輩がまたのりば案内を見に行く。
「6番のりば、軍の役所って『官庁街東』だよね」
「ん、たぶんそうだ」
確か「官庁街東」で合ってるはず。
「じゃあ6番」
先輩とアタイのやり取りを見て、少女ちゃんがはわはわし始める。
「あの、あの、私ひとりで帰れますから」
「だめだめ、少女ちゃんの旅行なんだから、
少女ちゃんが帰るとこまで見なきゃ」
「それに、確かめたいこともあるし」
先輩は純粋に少女ちゃんを少女ちゃんを送り届けたい。
アタイには気になってたことがひとつある。
6番のりば。少し待つとバスが来た。
夕方までもうすぐの時間。官庁街へのバスは空いてた。
いくつかのバス停で止まって、いくつかのバス停を通りすぎて、「官庁街東」に着いた。
バスから降りて少しだけ歩く。
軍の役所に着いた。そのまま正面玄関へ。役所に入る。
窓口があるロビー。ならんでるベンチのひとつに「謎の男」が座ってた。
立ち上がってこっちに来る。
「温泉は楽しかったようだね」
「はい、とーっても楽しかったです!」
「謎の男」の口ぶりは旅行の中身を把握してる感じ。
それに、ここに着く時間も分かってたみたいだ。
「やっぱりか……」
「え? 何が『やっぱり』?」
先輩は気にしてなかったみたいだけど、アタイは気になってた。
「少女ちゃんの護衛、どうなってたんだ?」
「謎の男」はフッと笑みを浮かべた。
「もちろん警護させていた。報告も逐一受けていた。
まあ、いつもは訓練中のをつけているが、
さすがに今回は隊の上の方のを行かせた」
「ああ、そゆこと」
「謎の男」の言葉に先輩も納得した。
「あの、どんなふうに見張ってたんですか?」
少女ちゃんの疑問。
もう一度フッと笑う。
「今は言えないが、……いずれ少女くんにも訓練を受けてもらおう」
「謎の男」は状況を楽しんでいるようにも見える。
「けど、国内だったら分かるけど、隣国まで来てたのか……」
あきれるしかない。
「軍人、それも裏の人間が密入国。
良い訓練になっただろう」
さらっと言うけど軍の人間が密入国。無茶苦茶なことをさせてる。
「あ、そだ、少女ちゃん、お土産お土産」
先輩が紙袋から温泉饅頭の小さな箱を取り出した。
少女ちゃんに渡す。
箱を受け取った少女ちゃんは「謎の男」を向く。
「あの、お土産です」
「謎の男」に饅頭の箱を差し出す。
「ありがとう、いただこう。
少女くんは本当に気がきく」
その言葉に少女ちゃんは照れたのか、頬を赤らめて下を向いた。
さて、これで少女ちゃんの旅行は終わった。
「じゃあ、そろそろ行こっか」
先輩がきっかけを作った。
「ああ、そうだな」
先輩とアタイは、少女ちゃんと「謎の男」に別れの挨拶をして役所を出た。
夕方の直前、工房に帰る。
「歩くか?」
工房までは余裕で歩ける。
「機械屋ちゃん、旅行はまだ終わってないよ」
「なるほど、そうだな」
官庁街東のバス停でバスを待つ。
バスに乗ってバスターミナルへ向かう。
夕方、バスが混み始める時間、乗ったバスはいくらか混んでた。
バスターミナルから倉庫街中央のバス停へ。
今度はしっかりと混んでた。
けど、バス停で止まるたびに人が減ってく。
倉庫街のバス停に着いたときにはがらがらに空いてた。
バスを降りて工房へ。
と、先輩が立ち止まった。
「どうしたんだ?」
「あのさ、旅行、まだ終わってないよね?」
先輩から尋ねられた。
「ああ、まだ終わってない」
「じゃあさ、晩メシ、ラーメン食って帰ろ」
なるほど、良いアイデアだ。
バス停から少し歩いたところに倉庫街でいちばんのラーメン屋がある。その店へ歩く。
晩メシ時にはまだ早い。店は混み始めたところだった。
「まだ旅行なんだから贅沢しても良いよね」
「それは……、良いな」
先輩もアタイもチャーシュー特盛り。
贅沢なラーメンを食った。
ラーメン屋で贅沢をして工房に帰ってきた。
しっかりと日が暮れてた。
工房の小さいドア。
ドアに貼ってある『従業員研修のため、休業致します』と書かれたプラ板。
先輩が、ばりっとはがした。
ドアの鍵を開けて中に入る。
とりあえず食堂に入るか。
うす明かりの中を歩いて食堂に入る。明かりをつけた。
先輩とアタイはまず荷物を置いた。
「土産、明日の朝に持ってくか?」
「だね、そうしよう」
先輩が同意してくれた。
旅行の間の服の洗濯。コインランドリーに行くのも明日。
すべきことは全部、明日の予定にした。
帰り着いたら疲れが、どっと出た。
夜はまだまだこれから、そんな時間だけど、
「早いけど、アタイは寝る」
「んー、私も寝る」
ふたり、それぞれの部屋に入った。
目覚まし時計をセットして毛布をかぶった。
土産を渡しに行ったり、コインランドリーに行ったり。
明日は旅行の延長戦だ。
そんなことを考えてるうちに深い眠りに沈んでいった。
了
温泉旅行の4日目・最終日。
土産物を買って「海の幸」を食って、帰路についた3人。
充実した旅行が終わりました。
これにて 第20話『雪の温泉郷』は終劇です。
次回は第21話『冒険すること、果たすこと(1日目)』です。
王女さまが主人公の「冒険回」でして、どんな冒険になるのか?
ご一読いただけると幸いです。