一発ネタ。なお、召喚サーヴァントは月のプリンセスと謎ネコな模様。

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それは彼女のグランドオーダー

『人理継続保証機関カルデアへ ようこそ。

はじめまして。貴方は本日 最後の来館者です』

 

 

 ────夏休みのバイトに来たと思ったら、なんかとんでもねぇトコにいた。

 

 肌で感じる。生物として、十六年生きてきた直感が告げている。

 ここ、なんか、自分がいるべき場所(セカイ)じゃなくね……? と。

 

 ゲートをくぐって見えたのは壁も床も真っ白な、まさに現代の最新施設! といった内装だ。ていうかどこなのココ。日本じゃなさそうなのは分かる。外って雪山? ホントにどこなの?

 

「……カルデア……」

 

 友人と献血に行った帰り、一緒にバイトにスカウトされたのが私のあらすじ。

 二人で共に夏の労働を楽しもう、という予定だったのだが、()()()()()()()()()()()()。この度、たった一人で派遣されることになった────のである!

 

 スカウトマンの人がとても悲しそうな顔をしていたのを覚えている。そんなに人手不足だったのかなぁ、とあの時は思ったものだが、これ、なんかの詐欺だったのかなァ!?

 

「……まぁなんとかなるか(≪中立・中庸≫)。とりあえず地図を……」

 

 と、習慣でポッケのスマホを探してしまった。

 しかし求めた感触はない。着ている白い女子用の制服を探るが、持ち物その他が、一切ない……!

 ……ていうかスマホで調べて情報が出るような場所にも思えないけどな、ここ……

 

「フォウ、フォーゥ!」

 

「!?」

 

 なんか足下から声した!

 振り向いて見ると、廊下の向こうから、何やら白い……? 小さい……? 小動物が駆けてきていた。

 謎の生物(小)はそのままこちらの足下を走り抜けていく。踏まなくて何よりだったが──今のは一体。

 

「きゃっ!?」

 

 と、小動物が去った方角から悲鳴が聞こえた。いかん、被害者が。

 急いで行ってみると、そこには尻もちをつく白髪の少女が一人。小動物の姿は既にない。

 

「っ……なんなのよ一体! ああもうっ、最悪だわ……!」

 

 憎々しげに悪態をつく少女。そこでふと、──こちらと目が合った。

 

「──、」

 

「あ、大丈夫ですか? さっきのリス、なんですかね? よくここに来るんですか?」

 

 とりあえず手を差し伸べる。

 目を見開いて固まっていた少女は、そこでハッと我を取り戻した。

 

「し、知りません! 貴方誰!?」

 

「今日着いたばかりのバイトです。それより、一度立った方が──」

 

 ぱしっ、と軽く手をはたかれた。

 一度こっちを強く睨むと、少女は軽く自分の服を払って立ち上がる。

 

「……バイトって? そんな人材、募集した覚えは──いえ待って。今日着いた、と言ったわね。じゃあ、貴方もマスター候補の一人?」

 

「候補……?」

 

「訓練くらいは受けてきているでしょう? わたしは所長のオルガマリー・アニムスフィア。……さっきのことは忘れなさい。これは所長命令です」

 

「え、あ、ハイ」

 

 気迫に呑まれて頷いてしまう。よろしい、と一つ頷き、所長……? のオルガマリア? マリー? さんは自分の腕時計を見た。

 

「……もうこんな時間ね。これから中央管制室で特務作戦(ミッション)の説明会をするわ。ついてきなさい」

 

「い、イエッサ」

 

 命令されると反抗できない小市民精神。

 踵をひるがえした、エレガントな所長さんの背に続く。

 

「──カルデアの使命は人類史を守ること。どんな家柄であれ、どんな血筋であれ、決して気を抜かないように」

 

 ……何を言ってるのかは、やっぱり最後まで、よく分からなかったが。

 

 

     ◆

 

 

 西暦2015年、カルデアスは炎の赤に包まれた!

 

 これにより百年後の未来が消えた! 世界がヤバイ!

 

 原因っぽい場所を特定したぜ! 2004年の地元・冬木市だ!

 

「そんなバカな……故郷の地下に秘密帝国があるとでも……?」

 

「そこ、私語を慎みなさい」

 

 最前列の席にいたので、所長さんの鋭い注意にハイ、と背筋が伸びる。

 しかし他のマスター候補? の人たちからは不満が紛糾している。まあ、なんかエリートどころを集めたバイト会場らしいし、いきなり雪山にまで来て「命令絶対、反抗絶許」とか、文句の一つも言いたくなる気持ちは解る。

 

「人類史を守る──この重要性を理解しない人はただちに出ていきなさい。もっとも、標高6000メートルの冬山を生身で降りる気概があればの話ですが」

 

 ……なんだってそんな極限環境に基地があるんだろうか。

 さっきも説明の中で「魔術師」とか聞こえたが、これってやっぱり危ないサークルなのかな?

 舞台設定には興味をそそられる所があるけれど……

 

「そこの貴方。まだ冴えない顔をしているけど、何か不満でも?」

 

「……え。えーと……」

 

 どうやら所長さんには目を付けられてしまったらしい。

 不満というか、こっちはまだレイシフトだとか、特異点とか、タイムスリップとか、まるで現実感を持ててないんですが……全部事実だとして、本当に私なんかが居ていい場所なんだろうか? さっき国連承認のミッションって言ってましたよね? バイト感覚の仕事じゃなくない?

 

 言い淀んでいると、ツカツカと所長さんが目の前までやってきて此方の制服を掴んだ。

 

「……このID……まさか一般枠? 実戦経験は? 仮想訓練の一つもなし!?」

 

「な、ないです」

 

「わたしのカルデアを馬鹿にしてるの!? 貴方みたいな素人がここにいる資格なんてないわ!」

 

 突き刺さる正論。

 なまじ交流があった分だけ、ダメージは大きいぞ!

 

「レフ! この新人をつれて行って! ロマニにでも預けてきなさい!」

 

 所長に呼ばれて出てきたのは、シルクハットが特徴的な……いや色々と濃いビジュアルの外人さんだった。困った顔で所長と私の顔を見る。

 

「そう邪険に扱わずとも……彼女も選ばれたマスター候補の一人ですよ」

 

「ならせめて最低限の訓練を済ませてきなさい。それまで管制室の敷居をまたぐことを禁止します」

 

 そんなわけで追い出された。

 バイト初日から先行きが不安である。

 

 

     ◆

 

 

『命令を受けておいてなんだが、私もレイシフトの準備があるんだ。個室までの案内は……うん、廊下に地図があるだろうから、それを使うといい』

 

 レフ、という人にも半ば放逐されて、私はカルデアの廊下を歩いていた。

 ……奇妙な舞台設定だとは思ってたけど、どうやらみんな大真面目にやってるらしい。あんな良い大人まで協力してるんだから、所長さんの話は本当なんだろう。

 

 問題は現実感がまるでない、ってコトだが。

 

「フォウゥ、フォーウ!」

 

「あ、謎リス」

 

 とぼとぼ歩いていると、見覚えのある小動物が走ってきた。

 空気的には厳しそうな組織なのに、ペットを飼ってるのはどういう意向なんだろう? 研究動物的ななにか?

 

「フォウ? フォウフォウ!」

 

「……お前、案内してくれるのか……?」

 

「フォゥ、フォーウ!」

 

 フォウフォウ言いながら、リスっぽい動物が「ついて来い」、と言うように歩き始める。いや人語を解しているとは考えにくいが……心細いので、ここは一緒に探検に行くとしよう。

 

「フォウ!」

 

「……部屋? まさかほんとに?」

 

 廊下をしばらく歩いた先、てしてし、とフォウ(仮称)が辿り着いたドアを叩いている。

 恐る恐るスイッチを押して開けてみると、そこには、

 

「……んん!? だ、誰だ君は!? ここはボクのさぼり場だぞ!」

 

「フォウ、お手柄だ。給料泥棒がいる。所長さんに通報しよう」

 

「待った待ったぁ!? そんな不審者を見る目を向けないで! どこからどう見ても真っ当なお医者さんじゃないか!」

 

 ゆるふわ系な、こう、学校の保健室にいてくれたらホッとする感じの人がいた。髪をポニーテールに束ねた男性で、その手にはお菓子を持っている。もしや、歴戦の自由人だったりするんだろうか。

 

「ボクはロマニ。ロマニ・アーキマンだよ。Dr.ロマン、となぜか皆から呼ばれているけど。ところで君、どうしてここに?」

 

「いや……所長さんに追い出されてしまって……」

 

「ははぁ。ってことはボクと同類だな! ──あれ、そこにいるの、もしかしてマシュから聞いてた怪動物?」

 

「マシュ──?」

 

「ああ、Aチームのメンバーの一人だよ。眼鏡で、ショートカットの、君くらいの年代の女の子だ。見なかったかい?」

 

「そういえば……」

 

 説明会の会場……管制室の隅で、そんな子を見かけたような。

 文学少女な子も、所長さんの言うレイシフト実験に参加するのか。

 

「何はともあれ、せっかく会えたんだ。所在ない者同士、お喋りでもしようじゃないか! 君も、色々と聞きたいことがありそうだし!」

 

「……ですね。だいいち、バイトっていう規模の組織じゃないし。よろしくお願いします、Dr.ロマン」

 

 そうして私はようやく「カルデア」という組織について、ドクターから聞き出すことができた。

 特異点。グランドオーダー。アニムスフィア。

 未来を取り戻すための戦い。

 私がやってきてしまったのは、そういう場所。

 

 ……余りにも日常からはかけ離れた裏側の世界。

 ちゃんとバイト代は出るのか、それくらいが心配だった。

 

 

     ◆

 

 

 ────燃えている。

 炎の気配が、音が、熱さが空間を満たしている。

 

 ……何があったのか、静かに記憶を呼び起こす。

 部屋でドクターと話していた。爆発音があって、警報が鳴って、照明が落ちて、管制室が──

 

「……ッ!!」

 

 飛び起きた。

 幸い、まだ生きていた。

 だが見回したその「場所」に、──変わり果てた見覚えのある景色に、呆然となる。

 

「冬木……?」

 

 街──ビルが立ち並ぶ、文明景色のど真ん中だった。

 ここは……新都か? けど記憶にある景色より、少し古い──そうか、2004年!?

 

「た、た、タイムスリップ……」

 

 ──そうだ。

 警報で部屋を飛び出したドクターを追って、私も管制室に向かった。

 生存者を探しているうちに隔壁が閉じてしまって、アナウンスの声が聞こえて──

 

────アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始 します。

 

「……それで此処に来たってわけか。まんまSFの世界だなぁ……!」

 

 思わず乾いた笑い声が漏れてしまう。

 拠点は爆発、レイシフトに巻き込まれて、昔の故郷へタイムスリップ。

 しかしこの炎上具合……新都の全てが燃え盛っている。こんな規模の災害、私は知らない。有り得ない歴史が起きている──これが特異点、か。

 

「……いや感動してる場合じゃない」

 

 状況は一人。圧倒的ぼっちである。

 ロマニから特異点の危険度も聞いている。サーヴァントとか、マスターとか、そういうのが必須になる過酷な環境だと。

 

 だが私にはなにもない。魔術師なんて知らないし、英霊だってよく知らない。歴史の授業は嫌いじゃないが、それを呼び出す方法とかまず知らない。

 

 ナイナイ尽くしの一般人、ここに終わる。

 私の来世にご期待ください──!?

 

「い、いや、土地勘はあるんだ。えーとえーと、オカルトっぽい場所、オカルトっぽい場所……!」

 

「Graaaaa──!」

 

「ひょぁ──!?」

 

 聞いたこともない鳴き声に飛び上がる。

 振り返れば、そこには骨の骸骨? っぽい? 明らかに「お前をコロス」意志しか感じない、敵の皆さんが──!?

 

「──────、無理だ」

 

 まず生きよう、なんとかしよう、の意志が砕け散る。

 ここは逃走一択、逃げる他あるまいて──!

 

「Graaaa!!」

 

「おわぁ──! いっぱいいる──! 労働お疲れさまです──!?」

 

 その場から走り出した瞬間、コンクリを燃やす炎の影にもスケルトンがコンニチハ!

 方角も何も分からないまま、ひたすら駆ける。なす術なく、安全地帯を求めて、死の逃走が始まっていく。

 

 故に足は、まず炎から離れようと人気のない場所へ向かっていく。

 骸骨兵たちの声が聞こえなくなるまで──いつの間にか、森のある方へと。

 

「──、っえ」

 

 その境界に踏み入った瞬間、ゾクリと悪寒が背筋に走った。

 パニック状態になっていたツケがきた。慌てず周囲を見て、建物の影に隠れるとか、他にも方法があったろうに────という、冷めた自分の思考が走馬灯のように駆け巡る。

 

 瞬間。

 

「■■■■■■■■────!!」

 

「ッ、が……!?」

 

 大気を揺るがす怒号、次いで炸裂音。

 私の行く道を塞ぐようにして、そいつは上空から落ちてきた。いや──「向かってきた」のか。

 しかしそんな状況(コト)さえ、私は認識できていない。それが着地した瞬間の、爆撃じみた衝撃で身体が吹っ飛び、木に叩きつけられたからだ。──ああ、なんて脆弱な人の身よ。

 

「……、……ウソだろ」

 

 こんな最悪の状況に対してではなく、まだ生きている絶望に笑いを零す。

 いや笑っているが、既に反射的なものだ。絶望からの逃避に過ぎない失笑。だって余りにも、目の前にいるものは現実感から飛びぬけていた。

 

 ……影に覆われた巨躯。人型を形成しているおぞましさ。あれほどの暴力の塊が、なんか大剣らしきもんを持ってるアンマッチ。白状しよう、私が真に「レイシフト」だの「特異点」だのを実感したのは、まさにこの、命の危機の時だった。

 

「……いや、これは」

 

 さっさと死んだ方が、ラクなのでは?

 とりあえずこの絶望から抜け出したい。でも助かる方法なんて思いつかない知らない見つからない。

 

 運命などない。

 だって私は主人公、なんて器じゃないんだから。

 そういうのはもっと────

 

「……クソ。こっちはバイト代も貰ってないんだぞ……!」

 

 自棄(ヤケ)になりつつ、崩れていた己の脚に活を入れる。──よし動く。まだいける。

 火を点けたのは本当に些細な、下らない記憶。

 バイト代で親友(あいつ)に奢ってやるよ、とうそぶいた、いつかの出来事だった。

 

「■■■■──ッ!!」

 

「あああああもう! なんだってやってやる!! 英霊だのサーヴァントだの知らないが、やる気がある奴、やって来──い!!」

 

 詠唱も儀式も、縁もクソもない呼びかけ。

 こんな馬鹿げた召喚の呼び声に応える奴がいるのか? いいやいまい。

 英霊、英雄は間に合わない。いくら未来で縁を結ぶかもしれない、とはいえ、この時点で応えられる者など数少ない。

 

 ……だが。人間の声を聞く存在は、いつだってそこにいる。

 

 

 

『──正気か?』

 

『あ、行くの?』

 

『──ええ』

 

 

『だって、面白そうですから』

 

 

 

 ──月が落ちてきたのかと、思った。

 夜に輝く神秘の姿。それは目前にまで迫った暴風を、指先で弾き、払ってみせた。

 

「──────っ」

 

 その顕現に、大地が震撼する。

 拡散した光はやがて一つの人型を形成し、私の前に現れる。

 

 

「──尋ねます。あなたが、私のマスターですか?」

 

 

 夜風に揺れる、白いドレス。

 金砂のように流れる黄金の長髪。

 此方を静かに見据える紅玉の双眸。

 身長は高くなく、可憐な月花は()()()()の姿を以って現世に顕れる。

 

「は、……は、い。えーと、君は……?」

 

「私はムーンキャンサー、アーキタイプ……いえ、エコアルクです」

 

「エコ……?」

 

「特に出力が落ちていることを言い表しているわけではありません」

 

「エコ……!?」

 

「エコアルクです」

 

 そういう事にしてください、と毅然と暗に念押しするプリンセス。

 ……彼女がサーヴァント……? ってことは英霊? でもエコアルクって? なに?

 

「呼びにくければ『アース』とでも。貴方の呼び声に応じて参上しました。我が身に関わる不祥事ですので、当面、サーヴァントとしての力を振るいましょう」

 

「な……なるほど。よ、よろしくお願いします」

 

「──ニャー。こんな脆弱パンピーなマスターで大丈夫かニャ? 人選違くない、アースちゃん?」

 

「!?」

 

 ぴょこっ、と何かが少女の足元から飛び出した。それは小動物のようであり、人型であり、しかし猫耳が生えており……!?

 

「え、エイリアンだ──ッ!?」

 

「ネコはネコなり! アタシのことはネコアルクと呼びな、ルーキーガァール!」

 

「すみません、こちらのノイズは無視してください。私とは何の因果関係もない、宇宙の謎猫(スペースキャット)ですので」

 

 何の因果関係どころか、ところどころ似てるパーツがあるんですけどッ!?

 わからない……英霊、ネコ、宇宙の謎……なにもわからない……! というかムーンキャンサーなんてクラス名もロマニから聞いていないんだが……!

 

 ……そこで右手の甲に熱を感じた。なにか赤い文様が刻まれている。あ、これが噂の令呪だろうか……?

 

「私は自然現象のようなもの。誰にも従わず、従えません。けれど姫として、エスコートを求めます。手始めに──」

 

 そこで少女が振り返る。

 夜闇の向こうには、未だこちらを睨む強大な気配が一つ。

 

「この局面を切り開きましょう。戦闘の作法、お教えします」

 

「記念初回バトルだ! キバッていけよラッキガール!!」

 

「……!」

 

 令呪の刻まれた手を握り込む。

 右も左も分からないが、ここが私の始まりにしてオープニング。

 アースと名乗る少女、ネコなのに喋るネコと行く人理修復の旅。

 

「これが……グランドオーダーかッ……!!」

 

 これから待ち受ける試練に戦慄しつつ、まずはこの月夜のファーストオーダーに、私は彼女たちと共に飛び込んだ────

 




 エコアルク、もといロリクェイドを召喚したSSが読みたかった産物。続きはない。
 たぶん召喚できた縁は「運命に出会わない」点あたり?(こじつけ)

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