秋津洲国における魔種族、魔獣報告   作:koe1

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野生のオルクセンである『秋津洲国における魔種族、魔獣報告(https://syosetu.org/novel/367528/)
の以下の各話にて軽く触れていました


-秋津洲国における魔種族、魔獣報告 六通目-
https://syosetu.org/novel/367528/7.html

-秋津洲国における魔種族、魔獣報告 十二通目-
https://syosetu.org/novel/367528/14.html

秋津洲国における魔種族、魔獣報告 -番外編その3-
https://syosetu.org/novel/367528/15.html

秋津洲での最後の魔種族と人間族との武力衝突を記した番外編のその4です。
完全な蛇足だそうですw


秋津洲国における魔種族、魔獣報告 -番外編その4-4-

牙良の野郎が闇討ちされて3日目。

ここ神多神社に魔種族が、幸いまだ誰も武器は持っていないが陣を構えて3日目。

角田の姫さんによって『八岐大蛇討伐支度』の『2番支度』こと【オチ2番】の備えを利用した赤河麻野家への俺達魔種族による仇討ちの下知がされた。

千々父と木州の犬人族達は今頃蜂の巣を突いたような大騒ぎだろうな。

正直2番はやり過ぎだと思うが、とっととやらねーと帝が止めに入るからまあしょうがあるめぇ。

せめて植杉が動いてくれていれば、2番は止めようがあったのにな・・・

赤河麻野家の一族郎党族滅はしかたねーにしろ、植杉の顔を立てたもう少しおとなしめな、オチ3番かオチ4番ぐらいになったんじゃねーかな・・・。

『次席どん、幕閣の方がいらしたぜ』

床几に座りながらそんなことを考えていると、力士をやってる下手な鬼族より迫力がある猪人族に案内されて御老中と大目付様がやってきたが・・・幕閣のお2人の後ろに続いている2人は医者・・・御典医様か?

しかも格好からいって、昨日までと違って籠でいらしたようだな・・・。

こっちが『導術が使える秋津洲に住まう魔種族全て、魔種族次席にして府内筆頭である牙良近衛少将殿が赤河麻野家によって闇討ちされた悲しみと、急な流行病にて尽く床に伏しており、道術願いお断り候』と秋津洲津々浦々で一斉に人間族から依頼される導術扱いを止めちまったからな・・・。

まぁ俺達魔種族間は符丁を使って導術のやりとりは続けているし、人間族にネタを流す野郎はいるだろうから嘘八百というのはバレているだろうけどな。

ただそのやりとりの中身まではわかるまい。

日の出と共に府内の豪商連中が紋付き袴で慌ててやってきて、何とかしてくれと泣きついてきたが、

『魔種族次席にして府内筆頭である牙良近衛少将殿が赤河麻野家による卑劣なる闇討ちにて討たれた心労も重なり、導術が使える魔種族尽く流行病にて床に伏しており、勝手ながら導術願いお断り候』

と、型通りに答えたときの豪商連中の顔はもうなんと言っていいか・・・。

ありゃ真っ正面から敵の軍勢と戦っているときに搦め手からも敵が現れたときの足軽の顔と同じだったな・・・。

まあ商売っていうか相場が導術に頼り切りな今、それを止められたら相場は大混乱で、物価もどうなるかわからないのは確かだが、恨むなら赤河麻野家を恨んでくれ。

さて幕閣の方が御典医様を2人も連れてきたということは、三席を診させて仮病と暴いて導術を再開させようって腹か?

角田の姫さんが怖えーから、そいつは無理なことだぜ・・・

 

と考えていると、幕閣のお二人は昨日までと違い、床机にでんと偉そうに座っている俺の前に来ると、軽く頭を下げただけで挨拶を始めた。

『上様より、植杉家御客将である邑上左近大夫将監殿にお頼みがあり参上つかまつった』といって、懐から書状を出した。

日頃の町人扱いでなく、今回の騒動での帝の御家来という扱いでもなく、1人の武士として扱ってきたのなら、武士同士の話し。

しかもやりとり的に戦場での扱いとなれば、こちらも武士として礼を示さなきゃあるめぇ

床机から立ちあがり『植杉家客将、邑上左近大夫将監。征夷大将軍様からの書状を謹んで頂戴する』と短くいって、礼をしてから公方様からの書状を受け取る。

武士身分を一応持っているとはいえ、俺は得河様の御家来じゃないし、戦場扱いだから堅苦しくなくて楽でいーやな。

というかそれを狙ってのやりとりなんだろうがな・・・。

なんだかんだいっても公方様や幕閣の方は流石だぜ・・・。

そして立ったまま書状を読んでいくと・・・おもしれぇな・・・三席を御殿医に診せるなんていうケチな手じゃなかったか。

流石は秋津洲武士の頂点たる公方様だぜ。

俺もそのことは気になっていたから一丁乗るか。

『邑上左近大夫将監、征夷大将軍様からの願い承った。同行するのは後ろにいらっしゃる御典医の御2人のみでよろしいか?』

と久しぶりな口調で尋ねると、無言で御典医の御2人が頭を下げた。

さて、寝入ったことになっている三席にこの場を影から締めてもらって、俺はちょっくら散歩に行くとするか。

 

 

普段は神多神社で預かってもらっている長裃に着替え、幕府が用意した籠に揺られて、途中長屋によってもらって戦斧を取ってきて、同じく駕籠に乗った御典医様を2人引き連れて、最低でも年に1回はお邪魔している植杉家上屋敷にやってきた訳だ。

籠から降りて門番に『当家客将、御当主後見人邑上左近大夫将監!御当主が急な病にで伏せったと聞き、畏れ多くも征夷大将軍様にお願いし、御典医殿を御2人連れて参った!御当主の診察と見舞いをさせて頂きたい!!』とでけー声で口上述べると大慌て。

さてさてどうなるかな・・・。

 

思っていたより早く屋敷内に案内され、ガキの頃から知っている江戸家老が出てきてあーだこーだと言い訳並び立てて御当主様は面会謝絶というが、そこは秋津洲医者の2つある頂点の1つであるお城の御典医様の御威光と公方様からの書状を嵩にたて、何とか御当主に合うことが出来た。

ご家来衆が見張りに立っている上屋敷の奥まった部屋に渋々という感じで案内された。

まあ穏便に会わせてもらえなかったら、前に軍神さんから貰った書状を嵩に大暴れしてでも見つけ出すつもりだったから良かった。

さて押し込められていた御当主は・・・まだ3日しかたっていねーというのにやつれていた。

そして俺の顔を見た途端『邑上様!師でもある義父の敵を取りに行くことも出来ず、申し訳ございません!!』と泣きながら土下座ときたもんだ。

うん、間違いなく病気じゃねーな。

万に1つと思っていたが、やはり押し込められていただけか。

俺は無言で後ろを振り返ると、ついてきて貰った、事前に公方様よりその役目を聞かされていた御典医様達は黙って頷くと廊下を戻っていった。

後で角田の姫さんにお願いして、とっておきの俺達魔種族印の薬を手配して恩を返さねーとな・・・。

俺は『江戸家老殿も一緒にいてくれや』といって、江戸家老殿と部屋に入る。

御当主の前に座って、あんまりこんなことはしたくねーが、貰ってからだいぶたって傷んでいる軍神様からの書状を取り出す。

それを見た御当主とその隣に露骨に嫌々という感じで座った江戸家老が息を呑む。

『見てわかるとおり、こいつは軍神様から俺が預かった書状だ。中はいざというときには如何なる手段でもかまわぬので植杉家を助けてくれと記されている。読んでみるかい?』

2人とも無言で首を横に振る。

植杉家の家祖?中興の祖?どっちだ?まあ、どっちでも良いとして、俺が軍神様から前に預かった書状のことは家中にはしっかり伝わっているようでよかった。

偽物とかいわれたら厄介だからな。

さて、江戸家老殿は大恥をかくことになるが許してくれ。

お前さんは、いや植杉家は大失敗したんだからな。

『江戸家老殿。牙良殿が討たれたときにすぐにご家来衆をまとめて敵討ちに出陣しようとした御当主殿を、江戸詰の他の重役達と図って押し込めたのは確かか?』

なれない口調で尋ねると、江戸家老の奴はすねたガキのように『確かにその通りでございますが、それは当家を守るため。当家と直接関係の無い喧嘩に口を挟むわけには参りませぬ。これは幾ら当家客将であり当主後見人の邑上様といえども口出しご無用』と言ってきたので、からっきしわかっていねえな・・・と思い、これは荒療治が必要と覚悟を決めた。

『バカヤロウォォォォォォォ!!!』

俺が腹の底から声を出すと、廊下にいた見張り役のご家来衆が刀に手をかけて部屋に押し入ってきて、さらには少し遅れて、どうも俺がきたことを知らなかった江戸詰の他の重役達も何があったのかと慌てて集まってきた。

俺は座ったままそいつ等を見回してから『重役だけではなく家来衆も含めて座れ。当主押し込みの見張り役をするぐらいだからお家にとっては間違いなく忠臣なんだろうから』と言うと、意外に素直に全員が部屋に入ってきて座る。

さて説教の開始だ。

『今回の牙良の野郎が闇討ちされた此度の一件、植杉家は関係は無い。それは確かだ。だがな、御当主の養父だぞ牙良の野郎は。養子であったとしても、他家婿入りのために格式合わせで急遽養子になったとかの名ばかり養子じゃない。ガキの頃から牙良が育て、礼式を学ばさせていたんだぞ?実の親子と言ってもいい。ならば子が親の敵を討つのは当然だろ。それをなぜ植杉家は関係ないといえる?』

と尋ねると江戸家老が堂々と『殿は既に当家婿養子として植杉家家督を継いでいらっしゃいます。確かに牙良家とは縁がございますが、その縁よりもお家大事にございます』という。

他の重役やご家来衆も同意見のようだ。

俺はついでっかいため息をついちまった。

『あのな、親子の縁は切れない。確かに他家に養子に入ったのならば、実家が何かやらかしたときの縁座の範囲からは切れるが、それだって公方様や幕閣の気分次第では適用される。それにだ御当主の場合は養子というだけではなく師弟関係でもある二重の縁だぞ。さらには御当主の次男殿が牙良の養子兼弟子となり、牙良家の家督を継いでいる。もちろん子の仇討ちは法度で禁止されているのは確かだが、それらをすべて無視して一切動かねーというのはまずすぎだろ。わかってんのか?』

というが『此度の一件は他家の喧嘩。法度によって喧嘩は両成敗にございます。ならばその喧嘩に加勢したのならば当家も幕府よりお咎めがあるのは必定』と堂々とのたまう。

・・・こいつ等本当に軍神様に使えていたご家来衆の末裔か?

全然わかっちゃいねーじゃねえか!!

こりゃ駄目だ…厳しくいくか…

『バカヤロウォォォォォォォ!!!てめーら本当に本当に軍神様に使えていたご家来衆の末裔かぁぁぁぁぁ!!!!!』

俺は怒りにまかせて腹の底から叫ぶと、俺がガキの頃に牙良の屋敷で何回か説教したことのある御当主除いて、全員が驚いて仰け反るかびびって土下座する中、御当主だけは平然としている。

それに気がついた仰け反ったり土下座した奴の何人かは尊敬する目で御当主をみているな。

とりあえず説教を続けるか。

『今回の一件、誰が喧嘩と決めた!!また幕府からの沙汰は下っていねーだろ!!それにだ、てめーらは侍として今回の闇討ちが喧嘩だと思っているのか!!!真っ昼間に天下の往来で牙良んとこのご家来衆と赤河麻野の家来衆が揉めてからの斬り合いになったわけじゃねえんだぞ!!片方の家が寝込みを襲われたんだぞ!!しかも仇討ち無礼討ちと称して!!てめーらちゃんと物見しているのかぁぁぁぁぁ!!』

そういって仰け反ったままの江戸家老をにらむと『も、物見は・・・』としかいわねえので『お城に人やって、赤河麻野の上屋敷は無理にしても牙良の屋敷、俺達魔種族が陣立てした神多神社とか人やって物見したのか!!!府内魔種族次席にして当家客将の俺んとこに来て相談の1つでもしたか!!』と、もう一度怒鳴ると『当家に迷惑がかかることを避けるため、どこも物見しておりませぬ!屋敷にて逼迫しておりました!』と重役の誰かが土下座しながらいう。

駄目だ・・・こいつら本当に軍神様のご家来衆の末裔か?

あの軍神様を支えてたご家来衆の末裔かよ…。

『あのな・・・お前等本当にあの軍神様を支えていたご家来衆の末裔か?この目の前にいる、鍛冶をやっていたのに気がついたら領主とまつりあげられていたのにその領地を竹田の野郎に盗られた無能な槌工族を拾って客将として遇してくれた軍神様ご家来衆の末裔か?何をするにも何が起きているのかを知るのは物事の基本。それをせずに何をする!ただ引きこもっているだけで都合の良いことが起きると思っているのかぁぁぁぁ!!』

と怒鳴るが、誰も何も言わない。

『もしだ、もし軍神様がいらしたら、その時のご家来衆が1人でもいたら、確かに問答無用で赤河麻野家の上屋敷を攻めるなんてことはしなかったと思う。なにせ軍神様は戦大好きだったが、戦馬鹿じゃなかった。ただ間違いなく知るやいなや敵討ちと号して出陣はした。あの人やあん時のご家来衆がしねーはずはねぇ。仇討ちだと繰り返し号令して町人達に義は植杉家にあることを知らしめつつ府内をゆっくりと行軍し、同時に幕府に人を走らせ、断られてもかまわない仇討ち願いをだし、俺達が陣立てていた神多神社にも人をやり助太刀を・・・援軍を願っていたはずだ。そして赤河麻野の上屋敷を取り囲むか、門の真っ正面に陣取るか、神多神社で俺達と合流したはずだ。その上で攻めるようにことはせずに幕府からの沙汰を待ちつつ、もしかしたら口合戦を挑んで赤河麻野を挑発していたと思う。もちろん戦国の世でも無い今にそんなことまでしろとはいわねぇ。ただ出陣するのと合戦するのは同じじゃねぇ。出陣はしても合戦をしなかったなんて俺も何度もしてきた。にらみ合いでおしめーだ。今回の一件でも植杉家は出陣だけはすぐにするべきだった。赤河麻野の上屋敷を囲めとか、門の前に陣を構えろなんてことは流石に言わねえ。御当主含めて10人でもいいから敵討ちと称して旗指物用意して戦支度の上で神多神社にやってきて俺達と合流するか、それかある程度の家来衆を引き連れて赤河麻野の上屋敷近くの適当な大きめの神社に陣を張れば良かったんだよ。牙良の野郎がやられたのに断る神社なんかあるはずがねぇ。もし神社が陣張りを断ったり、幕府が変なこと言ってきたら俺のとこに人を走らせれば良いだけだろう。こうみえてもこの口うるさい死に損ないの槌工族は植杉家客将身分の御当主後見人で魔種族府内次席の近衛府左近大夫将監だぞ!!なぜ、なぜなにもしなかったぁぁぁぁ!!既に公方様はてめーらが御当主を押し込んだことも知っているぞ!御当主に登城を促す御使者がきていただろう!!ただでさえ御当主が婿養子で植杉の家督を継いだ時も末期養子でもなかったから領地削られただろう!!今回の一件でも間違いなくまた領地を削られるぞ!!この俺がくたばったときに軍神様や牙良の野郎に合わせる顔がねぇだろ!!!!』

と言うと、御当主を除いた連中が慌てふためき始めるのがもう・・・なぁ軍神様よ、こいつ等本当にあんたさんを支えていたあのご家来衆の末裔かい?

俺が知らねー間に入れ替わっちまったのかな?

『客将殿、何とか、何とかなりませぬか!!!』

江戸詰家老が今さら縋りつくように尋ねてくるが…俺はそのために来たんだろうが…。

まぁ『当主急病』を利用させて貰うか・・・。

 

 

 

犬っころを無礼討ちしてから4日目。

幕府の御命によって他家より沢山の御家来衆が突然やってきて、当家を監視し始めたので、閉門にもかかわらず、殿のお許しで裏の勝手門より出入りしていた我ら家来衆も完全に止められ、殿も見張りがつき文字通りの蟄居となっている。

殿の御命により、何とか許しを得てご本家様に書状を出すが『此度の一件に当家一切関わりもたず。以後、当家より尋ねたいことがあったのみ使者を出す。赤河麻野家よりの使者書状は全ては御免被る』という、冷たい返事が来ただけだった。

殿だけは『まぁ禊ぎだ。すぐに終わる』と仰っていたが、御重役達はずっと狼狽しているし、我ら家来衆も流石におかしいと感じ始めた。

幕閣の皆様方と話がついていたのではないのか?

話がついていたから、あの様な火事場装束で牙良家来衆よりもずっと少ない数で無礼討ちにいったのではないか?

何か、何かおかしくないか?

出入りの商人によって食べ物だけは勝手門より運ばれるのが許されているが、それとて量も質も抑えられている。

台所の者が言うのは商人から今まで掛けで買っていた分の支払いも求められたとのこと。

今日の昼過ぎに、昨日やってきた監視の他家の者と交代でやってきた他家の者ににたまたま知り合いがいて、何とか外の様子を聞けたのだが、植杉家当主は養父である犬っころが斬られたと知ると驚きと悲しみが重なり床に伏せっていてしまったそうだが、今日の朝になり病身を押して輿に乗って世継ぎや家来衆と供に出陣し、犬っころの仲間が集まっているという神多神社に陣を張ったとのこと。

そして幕府に当家に対する仇討ち願いを届け出て、その許しを待っているとのこと。

幕閣の皆様方と話がついていたのではないのか?

一体何がどうなっているのだ?

 

 

 

俺の隣には植杉の御当主が顔色が悪いにもかかわらず床机に座っている。

まぁ顔色が悪いといっても、御家中の女中にして貰った化粧で悪くしている仮病だがな。

その後ろには植杉家御典医様もついているという念の入れっぷりだ。

更に御当主の脇にはお世継ぎ殿もいらっしゃる。

昨日の大説教の後、『当主急病』を利用して、『病身にもかかわらず、何とか動けるようになったので仇討ちのために出陣したが、法度にしっかりと従う植杉家は赤河麻野家の屋敷を問答無用で攻めるようなことはせず、幕府に仇討ち願いを届け出て、それが許されるのを待っている』という体にしての出陣だ。

『病身』というのを目立たせるため、化粧をして貰って顔色を悪くし、更に馬ではなく、植杉家出入りの大工達に頭を下げて徹夜で作って貰った輿を家来衆が担ぎ、それに乗って神多神社まできて貰ったわけだ。

もちろん町人達は『すぐに仇討ちはしない植杉家は臆病者の集まり』と悪口を言ってくる奴もそれなりにいたが、神多神社に着いてから高札を掲げて『当主の急な発病で恥ずかしくも遅参してしまったが、闇討ちをする卑怯な赤河麻野家と違い、義に厚い当家は法度を守るので幕府には仇討ち願いを届け出ている。それに府内で赤河麻野家と合戦となれば、日頃当家が世話になっている町人集にも迷惑がかかる。ただ仇討ち願いが許されれば、町人中の迷惑にかからぬ場所で赤河麻野家と合戦に及び、当主の養父であり師であった牙良近衛少将殿を闇討ちした卑怯な赤河麻野家の者を尽く討ち取る』と知らしめると、悪口の数はだいぶ減った。

さらには・・・まあこっぱずかしいがこの俺がこの神多神社に集まっている人間族のガキ共に対して、俺が軍神様に世話になっていた頃の合戦の話を聞かせて、植杉家が如何に強いか、いかに義を守るかという話しも広めている。

流石に4日目となると、導術が止められている豪商達と違って、普通の町人共は落ち着きをある程度は取り戻している。

流石に参拝にくる奴は相変わらずいないが、府内の魔種族の有名どころが集まっているせいもあって近所のガキ達が神社に遊びにやってきたから出来る手だな。

そんなガキ共に水飴を配って、俺の話を聞かせて、植杉家が日和ったわけではなく、当主の急の発病で遅参しただけだという話しを少しずつ町人達にも広めようとしたのだが、ただ・・・まあ・・・なぁ・・・いい年した御当主やお世継ぎ殿や江戸家老も含めた植杉の御家来衆も目を輝かせて俺の話を聞いているし、いつの間にかガキだけじゃなくて結構な数の大人の人間族も集まり、俺の話を聞いていやがる。

町人だけではなく武士もそれなりにいるし、浪人体やご隠居体の格好をした奴もちらほらといるが、その内の幾人かは見覚えがある他家の旗本や大名の御当主達だ。

何でそこまでして物見しに来るかね?

まぁ今は軍神様と植杉家の強さと義の厚さをただ話すだけだな。

軍神様の戦馬鹿なところと政がちょいと苦手で御家来に頼っていたことは隠しつつな。

んでもって時折『ご公儀より仇討ちのお許しさえでれば、卑怯で吝嗇で犬人の老人一頭も斬り殺せぬ末生り大名とそれに仕える青瓢箪家来衆なぞ、義に厚い植杉家は、養父を闇討ちされて怒りに燃えている御当主と軍神様以来の精鋭無比な御家来衆が鎧袖一触!』と台詞を入れるわけだ。

うん、ガキ共だけじゃなくて、御当主もお世継ぎ殿も御家来衆も大人達もどんどん目を輝かせているな。

この死に損ないの槌工族の話し、そんなに楽しいか?

 

 

 

***********************************************

とある大名の日記より抜粋(後世に口語訳されたもの)

 

牙良近衛少将殿が闇討ちされて4日目に植杉家がようやく出陣し、魔種族達が陣を張る神多神社に供に陣を張ったと家来より知らされる。

当主の養父が討たれたというのに臆病風に吹かれていたと思っていたが、物見してきた家来より当主の顔色はかなり悪く、馬ではなく輿に乗り、医師も常に側に控えているので仮病ではなく、間違いなく病身であると伝えられる。

昼過ぎになり、物見していた家来より再び知らせがあり、神多神社にて邑上左近大夫将監殿が戦国の世の時の話しをされているとのこと。

日頃は上様も含めてお願いしても中々話してくれぬというのに、今日に限っては包み隠さず色々と話されているとのこと!

某も是非とも聞きたいと思ったが、流石にこの様なときに出向くのもと躊躇っていると、隠居体でお忍びで出向いてはどうかと家来が耳打ちをしてくれたので、慌てて用意させ、供の者も浪人体にさせる。

徒歩で神多神社に着くと大勢の人だかりであったが、左近大夫将監殿の声は大きい上に良く通るので問題なく聞こえる。

周りを見ると、ちらほらと見知った顔があるが、皆会釈だけですまし、左近大夫将監殿の話を聞く。

時折、某を含めて先祖が打ち破られたところで嫌な顔をする者もいるが、誰もその場を離れずに聞き入る。

時折町人から野次が飛ぶが、左近大夫将監殿は上手く捌く。

そして時折『ご公儀より仇討ちのお許しさえでれば、卑怯で吝嗇で犬人の老人一頭も斬り殺せぬ末生り大名とそれに仕える青瓢箪家来衆なぞ、義に厚い植杉家は、養父を闇討ちされて怒りに燃えている御当主と軍神様以来の精鋭無比な御家来衆が鎧袖一触!』と左近大夫将監殿は言うが、この台詞は芝居に使う者がでそうだと感じる。

例え影からでも赤河麻野家の肩を持つのはやはりやめておいた方が良いだろう。

しかし大変良い話を聞けた。




次でこの蛇足編は最終話だそうです。
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