秋津洲国における魔種族、魔獣報告   作:koe1

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野生のオルクセンである『秋津洲国における魔種族、魔獣報告(https://syosetu.org/novel/367528/)
の以下の各話にて軽く触れていました


-秋津洲国における魔種族、魔獣報告 六通目-
https://syosetu.org/novel/367528/7.html

-秋津洲国における魔種族、魔獣報告 十二通目-
https://syosetu.org/novel/367528/14.html

秋津洲国における魔種族、魔獣報告 -番外編その3-
https://syosetu.org/novel/367528/15.html

秋津洲での最後の魔種族と人間族との武力衝突を記した番外編の最終話に当たる、その5です。
完全な蛇足編だそうですw


秋津洲国における魔種族、魔獣報告 -番外編その4-5-

『よくぞたどり着きました、我が精鋭無比な強者共よ!!』

大鎧を着込み、金棒を地につけて構えている私の前に整列し、畏まっている千々父と木州からたどり着いた犬人族と大神族を前に声を張り上げる。

『知っての通り、我ら秋津洲魔種族次席にして犬人族族長である牙良の爺が人間族の卑劣なる大名家に討たれた!!しかもただ討たれたのではない!卑怯千万にも幕府拝領屋敷で寝入ったところを闇討ちされた上に、魔種族である牙良の爺を守ろうとした人間族の家臣多数共々討たれたのだ!我が精鋭無比な強者共よ、これを許せるか!!!』

『『『『『否!!断じて否!!!』』』』』

犬人族と大神族が揃って返事をする。

それに満足し、話を続ける。

『我ら秋津洲魔種族は帝の家来となり安寧を得た!魔獣共を帝の家来である人間族達と打ち倒し、安寧を自ら手に入れた!人間族の中から武士共が生まれた直後は奴らと激しい戦いをしたが、武士の長たる者が帝の家来となってからそれもなくなった!人間族の武士達と共に魔獣と戦いこの秋津洲の地に静寧をもたらした!そうだな!!』

『『『『『応!応!応!』』』』』

『時には人間族と喧嘩をし、命の奪い合いもしたが、それは個々の喧嘩であり、種族同士の戦には我ら魔種族も人間族もしなかった!そうだな!!秋津洲魔種族と人間族は友である!そうだな!』

『『『『『応!応!応!』』』』』

『しかし!赤河麻野家は幕府の命により下されたお役目に失敗し、その失態を全て牙良の爺のせいとし、逆恨みして襲った!しかし末生り大名如きでは牙良の爺を誅することは出来なかった!それなのに命を奪おうとしたことすら赦した牙良の爺をさらに恨みし、とうとう家来衆を使った闇討ちにて牙良の爺と、爺を守ろうとした人間族の家来衆を討った!これはもはや個々の喧嘩ではない!我ら魔種族に対して人間族の大名家が戦いを挑んだのだ!魔種族と人間族の和親に楔を打つものである!そうだな皆の衆!!』

『『『『『まさに!まさに!まさに!』』』』』

ここで私は一呼吸置いて畏まっている犬人族と大神族をゆっくりと眺めて静かに言う。

『だから赤河麻野家は滅ぼさなければならない』

 

 

 

朝議は大紛糾していた。

魔種族達の導術は途絶え、幕府との繋ぎもとれない。

魔種族の長である角田三位中将は大病と称して屋敷から一歩も出ていない。

帝直々の出仕を促す勅すら急病だと無視し、ならばと治療のために送り込んだ御典医も拒否する。

赤河麻野の痴れ者のせいでこの秋津洲魔種族達がどう動くか皆目見当がつかん!!

『奉行殿!!何か動きはつかめておりませぬか!!??』

どなたかが幕府より都へ使わされている町奉行2人に尋ねる。

本来ならば月番で交代でお役についているが、事態が事態ということで2人共にいらしてもらっている。

2人は見合って頷くと、上席にある方の方が口を開いた。

『逢坂の奉行所とも早馬で繋ぎを取っておりますが、逢坂でも魔種族達の動きはつかめていないとのこと。ただ木州からの早馬にて木州住まいの犬人族と大神族が大勢出立したのは確か。武器は持っていなかったとのことですが、どこかで手に入れるのかもしれませぬ。奉行所手勢を放ち、近隣の街道を見張らせておりますが、裏街道や秘道を通ったようでその行き先は皆目見当も。ただ木州からの早馬を逆算し、都を目指しているのならば既に見つかっていてもおかしくはないので木州の魔種族勢はこの都を目指していないのは確かかと』

それを聞き安心する者もいるが、私のように安心しきれぬ者もいる。

『木州をでた魔種族達は何処へ!?近衛少将が討たれたときのように夜討ちでこの都を襲うのではないか!?』

私以上に心配性の方がいらしたようだ。

しかし太政大臣様が『三位中将の気性から帝に仇なすことはないかと。そうであろう奉行殿?』と落ち着いた声で奉行殿に尋ねる。

奉行殿達は畏まり、上席の奉行殿が『御意に。三位中将様の御気性からおそらくは赤河麻野家・・・もしかしますと本家である亜芸麻野家も連座で誅するのみかと思われますが、ただどの程度になるかは皆目・・・』と言い、続いて下席の奉行殿が『赤河麻野家の家中の者のみを誅するか、両家共に誅するか、それとも誅した上で連座として領地も含めて荒らし回るか皆目見当がつきませぬ・・・なにせ皆様もご存じの通り、牙良近衛少将様は角田三位中将様の後を継ぐ予定でして・・・それがなくなったとなれば・・・その・・・』

奉行殿が段々と歯切れが悪くなったところで、どなたかが呟くように言う。

『嫁入りというか、婿捜しか・・・』

誰もが無言となる。

昔、繰り返し角田三位中将のことを『逝かず後家』と侮辱し続けていた愚か者が、朝議の場ですら侮辱し、堪忍袋の緒が切れた近衛中将の手によってその場にて文字通り金棒で磨り潰されるまで殴り続けられ誅されたことを知らぬ者はいない。

その時の様子を知る者に聞くところ、泣き叫びながら金棒を振り下ろし続け、朝議にいた者達は自身に飛び散った血肉がつくにもかかわらず恐ろしさから一歩も動けず、駆けつけた人間族、魔種族の衛士も誰も止められなかったとのこと。

そして完全に磨り潰した後『私だって嫁にいきたい!婿が欲しい!!こんなお役目嫌だ!辞めたい!もう辞めたい!誰でも良いから変わって!嫁に行きたい!婿が欲しい!!もうやだ!!』と突っ伏して泣き続けたという。

元々その愚か者が宮中どころか町雀、果ては当人の家中ですら大層評判が悪かったことと、三位中将が『私のように逝き遅れないように、嫁に行かれている方も婿様に嫌われないように仲睦まじくあるために美しくいてください』と、宮中の女官達や帝や公家の室に・・・老婆も含めて全ての者に大変な効果がある、万金積んでも手に入りにくい魔種族印の化粧品を金も取らずにいつも配っていたことから宮中の女官衆、帝や公家衆の室には大変人気があり、そんな女衆から助命嘆願が即日おこなわれ、さらにその場に居合わせた公家ですら『確かに不浄が赦されぬ場であるし、近衛中将がしたことは赦せぬが、我ら人間族の都合で無理に勤めさせている三位中将が哀れすぎる』との同情の声も、自身の室に背中を押された者も含めて上がり、とどめとばかりに磨り潰された愚か者の家からですら減刑もしくは無罪嘆願が届き、帝よりの勅もありその愚か者は『宮中にて急の病にて死亡』ということになり、角田三位中将は一切咎に問われず、それどころか一件すらなかったこととなり、三位中将はそのままとなった。

ただその時のことがきっかけで、哀れに思った牙良近衛少将が後に継ぐとことになったがその近衛少将が屋敷で闇討ちされたのならば、確かにどこまで角田三位中将がやるのかが皆目つかない・・・。

結局この朝議では、そんな手勢がどこにいるのかは知らぬが念のために都の守りを固めつつ、下手なとばっちりを受けぬためにも赤河麻野家の領地には一切何も知らせないということが纏まった。

さて三位中将がどこまで動くか・・・

 

 

赤河麻野家の府内上屋敷と本領の城を同時に、後数刻で攻め入ることとしたが、果たして赤河麻野家は本当に気づいていないのか?

人間族に化けられる狸人族、狐人族、猫人族を本領に物見にやっているが町や城の様子はいつも通りだと言うし、竜で空から城を覗いても特に戦備えをしている様子はないとのこと。

それどころか牙良の爺の屋敷を闇討ちしたことすら未だ伝わっている様子がないとのこと。

1年と少し前に赤河麻野家本領から魔種族は追放されているので、導術の輪から外れてしまっているので、導術では伝わりようはない。

なので私達魔種族の仇討ちを察していないとは思うが、どこぞの愚かな家が書状や使者で伝えてしまっていることもあるし、他領からの商人が話しているかもしれない・・・。

府内上屋敷と下屋敷は閉門されているとのこと。

上屋敷には初めの内は本家である亜芸麻野家や幕府よりの使者が激しく出入りしていたそうだが、4日目以降それも途絶えたとのこと。

上屋敷と下屋敷を見張らせている人間族に化けた狸人族、狐人族、猫人族によると、牙良の爺が斬られた翌日から家来衆が飲み歩いていたとのことで、あちこちに人を放って物見をしている様子もなく、それどころか神多神社に私達が陣張りしていることすら気がついた様子がないとのこと。

4日目以降もそれを他家が赤河麻野家に知らせた様子もなく、上屋敷と下屋敷共に物静かな様子で、蟄居閉門の見張りで出入りしている他家の者に銭を掴ませて聞ききだしたところでも戦備えは全くしていないと。

ただ・・・もし待ち伏せをされていたら・・・私達魔種族は人間族より力は上であるし、導術を使えたりもするが、斬られれば死ぬ。

槍で突かれれば死ぬ。

鉄砲玉に当たれば死ぬ。

長く生きていて、少し頑丈なだけで不死身であるわけではない。

待ち伏せされているところに、鉄砲を禁じた仇討ち衆が攻め入れば沢山の者が討ち死にする・・・。

『逃げ道を潰すために、上屋敷の連中を怖気立たせるために、まず赤河麻野家下屋敷を先攻めする』と騙し伝えて下屋敷攻めをすることになっている植杉家にも沢山の者の討ち死が出るかもしれない・・・。

なにせ植杉勢は本領攻めと上屋敷攻めのことを伝えていないし、それらより1刻ほど早く下屋敷を攻める手はずとなっている・・・。

赤河は・・・赤河麻野家は本当に気がついていないのか・・・。

 

 

 

遠くから暁八ツの鐘の音が聞こえた。

輿の上に乗った某は無言で軍配を振る。

どーん!どーん!!どーーーーん!!

江戸家老自らが陣太鼓を叩く。

年の割には大変力強い。

邑上様の話を聞いてから若々しくなっている気がする。

『かかれぇー!!』

当家家来と魔種族の力自慢が担いでいる丸太が、ここ紅坂にある赤河麻野家下屋敷の門に叩き付けられる。

裏の勝手門でも同じように丸太を叩き付けて門を打ち破る手はずとなっている。

さらには下屋敷を取り囲んでおかれた松明にも火がつけられ、下屋敷からは誰も逃さぬようにする。

閉門の見張りをしていた他家の方々は日が暮れると共に下屋敷からでるよう手はずが整えられていたので、中にいるのは全て赤河麻野家家臣のみ。

そう考えていると門があっという間に破られた。

未だに赤河麻野家方の反撃は無し。

『女子供は斬ってはならぬ!もちろん乱暴狼藉、火付けも禁じる!仇討ちのみに専念せよ!それとおらぬとは思うが、命乞いをしたものは斬ってはならぬ!生かして赤河麻野家の恥さらしとするのだ!』

輿の上から軍配を振りながら指図する。

龕灯持ちと槍持ちが2人一組となって先陣を切って破った門から屋敷に入っていき、続いて松明持ちと間違って火がついてしまったときにそれを消すための水の入った桶を持った達2人一組で入っていき、最後に刀だけを持った者達が入っていく。

当家家来衆だけではこれほどの軍勢を揃えられなかったが、義父上の家来衆の生き残りの大半や魔種族も加わってくれているためこれだけのことが出来た。

陣借りと称してやってきた士官目的の浪人達は厄介だったが、なんとか全てを追い払うことが出来た。

もし当家家来衆だけならば灯り持ちや下屋敷を取り囲むことをするだけの者は用意できなかっただろう。

邑上様は『赤河麻野の野郎共の逃げ道を先に潰した上で、次は自分達だという恐怖を上屋敷の連中に与える』と仰っていたが・・・嘘であろうな・・・。

おそらくすぐにでも魔種族だけで上屋敷も襲うつもりだ。

さて、そろそろ小用と言って輿からおり、家来衆や他家の物見や野次馬の目を盗んでこっそりと赤河麻野家上屋敷に1人で向かうか。

間に合うかはわからぬが、義父上の敵を取る努力だけは怠ることは出来ぬ!

ここは江戸家老と息子に任せるとしよう。

手柄は全て江戸家老のものとして、某を押し込めたことはなかったことにしてやろう。

 

 

 

『邑上どん、赤河麻野の下屋敷攻めが始まった。赤河方の待ち伏せは無し。寝間着姿で逃げ惑うばかりだと』

隣にいる犬人族が送られてきた導術を俺に教えてくれる。

俺はそれを聞いて黙ってうなずき『ならば手筈通り。赤河麻野の城攻め、上屋敷攻め変わらず。あと下屋敷油断候とこちらかも導術を出してくれ』と頼む。

『おう』導術役の犬人族はこめかみに手をまた当てて、導術を送り始める。

さてさて、思っていたとおり赤河麻野の莫迦共は全く戦備えをまったくしていなかったか。

こりゃ下手すりゃ植杉勢がすぐに取って返して、知らせていなかった上屋敷攻めにも加わっちまうかもしれんが、それだけはやらせねぇ。

すぐにでも上屋敷攻めをしたいが、これは俺達魔種族の恐ろしさを人間族に伝えるため、本領の城攻めと同刻に始めなきゃならん。

俺達魔種族だけで赤河麻野を族滅しなきゃならねえ。

牙良の野郎がやられてすぐにでも植杉がきていたら一緒にやっても吝かではなかったが、すまねぇがそれも無しだ。

下屋敷だけで我慢してくんねえ。

犬人族だけじゃなく鬼族も手伝ってくれているから赤穂麻野の城攻め勢に導術が届くまで半刻かかるかかからねーか程度。

上屋敷攻めのために近くの神社に隠れ集まっている連中にはもう届いてもいい頃だろう。

さて・・・こんな真夜中にもかかわらず俺達を物見している幕府や他家の奴らの中には、犬人族が俺の隣にきただけで散っていった奴もいるから、俺達が動き始めたのは気がつかれているだろうな・・・。

そんなことを考えていると隣の犬人族が声をかけてきた。

『邑上どん、上屋敷攻め衆から族長の家来衆の人間族が3人ほど仇討ちに加えさせて欲しいとやってきたと言っている。どうする?』

牙良の御家来衆か・・・全部下屋敷に行ったと思っていたが、察しの良い奴もいたんだな・・・。

う~ん・・・牙良の、犬人族の家来ならば魔種族の家来といえるし、なら魔種族も同然と言い張っても問題ねえかな?

そーなると牙良が自分の子同然に育てた植杉の御当主はどうなっちまうか・・・う~ん・・・

まぁ角田の姫さんには俺が詫び入れれば良いか!

植杉の御当主には家来衆や町人の前で土下座しよう!

そうすれば面目も立つだろうし、軍神様も赦してくれるだろう!

よし、決めた!

『そいつ等も一緒に仇討ちに加わっても構わねぇと伝えてくれ。ただし下知には従うようにと言い聞かせてな』

 

 

 

『上様!始まりました!』

側用人が体を揺すって余を起こす。

本来ならば大奥で寝ているところだが、赤河麻野の一件があってから中奥で寝るように手筈を整えていた。

それが功を奏したようだ。

『して、どうなっておる?』

覚悟が決まっていたので落ち着いて尋ねることが出来る。

余と同じく中奥に、屋敷にも戻らず寝泊まりをしている側用人の1人である柳佐和吉保が淡々と答える。

『植杉家の者と魔種族が赤河麻野家下屋敷を攻め立てております。鉄砲は使わず、槍刀のみ。赤河方は逃げ惑うばかりと』

それを聞いて心底、赤河麻野が情けなくなる。

自分達が爺の屋敷に闇討ちをしておいてやり返されぬと思っていたのか・・・。

『火付けや乱取りはしておるのか?』

気になったことを短く尋ねると『その様なことは一切なく。女子供は捨て置き、命乞いをした者も斬ってはおらぬとのことでございます』と返事が来るが・・・命乞いをしている者もいるとは・・・情けなし。

『此度の屋敷攻めは植杉家より届け出のあったとおり仇討ちとする。よって乱取り火付けをせぬ限りは植杉家は咎は無し。夜が明け次第、都に早馬を出せ。間に合わなかったと』

『御意に』そう言って吉保は部屋を出る。

さて角田の姉上がこれだけで済ますはずがない・・・邑上殿が止め役になってくれてはいると思うがどこまでやるか・・・。

下手に手を出せば角田の姉上は我ら幕府にも噛みついてくるであろうから、見ているだけじゃな。

さて今日はもう寝てはいられぬな。

民草に被害が及ばぬように、そして幕府と朝廷の威信が傷がつかぬよう祈るしかない・・・。

 

 

 

『なんまいだ・・・なんまいだ・・・なんまいだ・・・』

助けを求める声に釣られて再び戸を開けてしまったことを私は心底後悔した。

夜中に犬の遠吠えが聞こえてきて、あまりにもその声が大きかったので気になって戸を開けると沢山の槍刀を持った甲冑姿の犬人族と遠吠えをしながら進んでいく大神族がお城の方へ向かって歩いていた。

何が起きているかさっぱりわからなかった。

1年ほど前にお殿様の命にて領内の魔種族が全て所払いになった仕返しかと思った。

ただすぐにこれは大事になると察し、家族と店の者は持てるだけのものを持たせて逃がし、私は店を守らねばと思い、しっかりと再度戸締まりをしてただ1人残ったが、残ったことを後悔した。

目の前で、お城の方から逃げてきた御武家様が大神族の大きな顎で食い殺された瞬間を見てしまった。

私は恐ろしさから腰が抜け、明け放れたままの戸にすがりつきながらずっと念仏を唱えていた。

月がとても明るいので大きな大神族の姿がはっきりと見える。

私と目が合ってしまった。

私は恐ろしさから失禁してしまった。

しかし大神族は私に目もくれずにまた城の方に走り去っていった。

私は戸にすがりつきながらずっと念仏を唱え続けていた。

そして耳には城の方からの悲鳴がずっと聞こえ続けていた。

 

 

 

どーん!どーん!どーん!

ここ赤河麻野家上屋敷攻めの総大将にされた俺が陣太鼓を叩く。

『各々方、仇討ちにござる!討ち入りにござる!』

俺が陣太鼓を叩きながら、邑上様に言うようにいわれていた芝居じみた台詞でそう告げると、大神族は一息で上屋敷の塀を跳び越え、同族の犬人族は鍵縄や梯子を使って塀を越えて上屋敷の中に入っていき、門を内側から開ける。

すぐに槍を構えた大叔父に仕えていた人間族が飛び込んでいく。

俺もその後に続いてゆっくりと門を越えて屋敷に中に入り、門の前を本陣として、陣太鼓を叩き続ける。

俺の役目はただこれだけ。

屋敷攻めの最中ずっと陣太鼓を叩いているだけ。

近くにいるのは同族がたったの2頭だけで、赤穂麻野の連中が反撃してきたらと考えると正直怖くてたまらないが、俺達犬人族の、魔種族の恐ろしさを赤河麻野家の連中に、野次馬に来る人間族も含めて思い知らせるためにも、堂々として陣太鼓を叩き続ける。

まぁこの陣太鼓は邑上様いうところの『意趣返し』だそうだが、手を抜く訳にはいかない。

さて、赤河麻野家の奴らだけではなく、近所の家も変を察したようだ。

裏門からの仲間も門を開けることに成功したようで、屋敷のあちこちから大槌で戸板を打ち破る音が聞こえてきた。

既に屋敷の中から悲鳴や大神族の吠える声も聞こえる。

『厩を忘れるな!!馬を殺して逃げられぬようにしろ!』

誰かが声を上げているのが聞こえる。

正直そこまでやらなくても逃げる先なんてないだろうと思うし、無様に逃げているところを討ち取るのが良いのではないかと思っているが、邑上様が必ず馬は斬るようにと厳命していたから致し方ない。

お、門前に人間族が集まりだしたぞ。

近隣の家からの野次馬だな。

しっかりと邑上様に言われたとおりの口上を述べないと。

『人間族の皆様方、討ち入りにござる。某の大叔父上の仇討ちにござる。我ら魔種族の邪魔をなさいませぬように伏してお願い申す』

 

 

 

『なんだと!!植杉の御当主が下屋敷攻めから姿を消した!?』

導術で伝わってきた話に俺は心底驚く。

驚きにあまり、床机から立ちあがっちまったぐらいだ。

どさくさ紛れに討ち取られる玉じゃねぇし、下屋敷の中に突っ込んでいったのならば『消えた』なんて導術が来るわけがねえ!

間違いなく赤河麻野の上屋敷に向かっているに違げーねぇ!!

御家来衆、しっかりと見張っとけや!!

牙良の野郎の家来衆だけならともかく、流石に上屋敷攻めに植杉が1人でも加わったと姫様が知ったら『植杉も上屋敷討ち入りに加わってしまいましたか・・・ん~・・・なら本家の亜芸麻野家も縁座で族滅しましょう。魔種族だけでやるからこそ私達の怒りと恐ろしさを人間族の愚か者共に思い知らせることが出来るのですから♪』なんて言いかねねぇ!

もう戦国の世じゃねーんだよ!!

いや、戦国の世でも族滅なんて滅多になかったか・・・。

族滅しまくっていたのはそのずっと前だし、人間族同士の戦いばかりだったな・・・。

『すぐに導術で植杉の御当主を捜すように仲間に伝えてくれ!もちろん上屋敷攻めの連中にも御当主が向かったことを伝えて、誰でもいいから見つけたらとっ捕まえて絶対に上屋敷攻めに加えさせるな!!』

間に合うと良いが・・・。

流石にこれ以上、人間族の血を流すのは賛成できねぇ。

 

 

 

『三位中将様。植杉家が主攻を勤めております赤河麻野家下屋敷攻め、万事上手く進んでいるのとこと』

私にも届いていますが、隣にいる者がたった今届いた導術の内容を伝えてくれる。

『植杉が主攻とはいえ・・・女子供は当然としても、命乞いしたものも助け、鏖殺しないのは残念ですね・・・』

そう口に出した後、ため息が出る。

牙良の爺とて戦国の世や、更にその前の辛い時代を過ごしてきたというのにずっと甘かった。

幼い頃に都で兄妹揃って飢え死にしかけていたところを公家に拾われて助かったとはいえ、人間族に甘すぎる。

なにせ今でもその拾ってくれた公家の子々孫々である各々当代当主を、自身の方が位階が上になっても『御当主様』といって下にも置かない有様だったし、戦国の世では援助もしていたぐらいだ。

そのせいでその公家は位階が低くても、ずっとそこそこ大きな顔が出来ていたという有様。

もっとも爺に対してはこちらも子々孫々、ずっと下にも置かない有様だから、爺と当代当主2人が会っているのを見ていると面白かった。

今回爺が誅されたと知ると、すぐに私の元に当代当主が見舞いにやってきたぐらいだ。

会わなかったけど。

まぁ、そんな爺が甘いままで人間族の養子を育てたから、その養子である植杉家当主も甘い。

というか、昔は私と同じ考えをしていた邑上も甘くなった。

私が知っている頃の邑上なら牙良の爺が討たれたと知った瞬間、後先考えずに、私の下知なぞ待たずに、約定なぞ知ったことかと纏められる者だけ纏めて赤河麻野の上屋敷を攻めていたはず。

得河の世になってみんな甘くなった・・・。

まぁそれが時代の流れでしょうし、仕方ないといえば仕方ないですね。

そんなことを考えていると、城攻め勢からも導術が入りましたね。

『城攻め勢、こちらも順調とのこと。こちらも備えは全くなく、赤河勢の一部が鉄砲を取り出し、畳を並べて陣を構えたとのことでございますが、すぐに打ち破ったとのこと。傷を負った者はいるものの、討ち死にした者は出ておりませぬ。城回りの武家屋敷も一軒一軒討ち入りしているとのことで、城内、城外共にもはや落ち武者狩りの有様だと』

順調ですね。

とても順調ですね。

どうせ赤河麻野家はこれで所領没収で改易決定ですし、そもそもお家断絶にするのですから、城も燃やして得河様の手間を省いて差し上げましょう♪

城下町に飛び火したら・・・町人衆には可哀想ですが連座ということで♪

早速、命じるとしましょう。

それにしても遠方の上屋敷攻めは中々導術がきませんね。

まぁ致し方ありません。

吉報を待ちましょう。

赤河麻野家の族滅という吉報を。

私の嫁入りを・・・婿取りを邪魔した罪は族滅でもって償っていただきます。

 

 

 

『お願い致します!武士の情けを!武士の情けを!せめて一太刀!!大将殿!武士の情けを!!』

本陣となっている赤河麻野家の門前の手前で、神多神社の総本陣からの導術で知ることが出来た植杉の殿様の単騎駆けをギリギリのところで止めることができた。

まさか具足も纏わずに刀一本で、野次馬に紛れて入り込もうとするなんて思わなかった。

本当に吃驚した。

俺の護衛でついていた同族2頭が押さえ込んでいる。

野次馬の人間族からは『せめて一太刀ぐらいは!』や『大将殿、お情けを!』なんて声が上がっているけど、入れさせる訳にはいかない。

えーと邑上様からはこう言えって伝えられたよな。

『真に相済まぬが、我ら犬人族族長の仇討ちである赤河麻野家上屋敷攻めは我ら魔種族が抜け駆け致した!よって助太刀並びに手出し無用!御免!!』

あ、殿様が簀巻きにされて何人かに担がれて持っていかれた。

あの家紋は植杉家の人かな?

いや担いでいる人達から導術の気配がするし、家来衆が殿様を簀巻きにするわけないから、植杉家の家来衆に化けている狐人族か狸人族か猫人族だな。

俺達魔種族が殿様を運んで行くと後々揉めそうだから、わざわざ家来衆に化けてくれたんだな。

面倒をかけます。

さて!赤河麻野の家来衆の殆どは討ち取って、女子供は庭に集めて大神族が取り囲んでいるし、後は赤河麻野の殿様を見つけるだけ。

千々父の犬人族と大神族はここ百年ぐらい、大叔父上から度々助けてもらっているからしっかりと討ち取らせてもらうよ。

『いたぞー!!炭小屋に隠れていたぞぉー!!』

あ、見つかったみたいだ。

大叔父上がされたように首を取りますか。

因果応報。

自分がしたことは自分の身に返ってくる。

苦しまないように一太刀で・・・落とす自信は全くないから、苦しませることになると思うけど我慢してくださいね。

いや、大叔父上の家来衆の人間族にやってもらった方が良いかな?

さてどうしよう。

 

 

 

事が全て終わり、殿の遺骸が安置されている寺にたどり着いた。

魔種族の御好意で冷やしの札を沢山つけられている殿の遺骸はまだ腐ってはいない。

その遺骸の前に麻野内匠頭の首を置いて報告する。

『殿!情けないながらお守りは出来ませんでしたが、殿の大甥殿が率いる魔種族の仇討ち勢に助太刀させて頂き、麻野内匠頭の首、討ち取ることが出来ました!!』

拙者がそう言って殿の遺骸に向かって頭を下げると、2人の同僚や大甥殿が率いている犬人族や大神族も頭を下げてくれる。

さて為すべきことは全て済んだな。

同僚2人と無言で頷き合い、腹を切ろうとすると大甥殿が慌て出す。

『お待ちください!!ここであなたたちが腹を切ると、共に討ち入りした私達魔種族も斬らないといけなくなります!それに牙良家はまだ大叔父の御養子である御当主がご無事であるはず!ただでさえ赤河麻野家の卑劣な闇討ちで御家来衆が多く討たれたというのに、あなたたちも腹を切ってしまえば牙良家はこの後どうなりますか!』といって止めてくる。

そう言われると確かだが、我ら3人は殿に拾って頂き武士となった身。

確かに御当主様も大事だが・・・殿を守り切れなかった恥ずかしさもある・・・。

と、情けないながら3人揃って迷っていると、邑上様が『ちょいと失礼するぜ』と言いながらやっていらした。

慌てて平伏する。

大甥殿が率いていた魔種族達も平伏する。

邑上様は殿の遺骸に手を合わせてから『今回のことで誰1人として腹を切ることは許さねぇ。ただ後腐れがないようにここにいる人間族3人と魔種族44頭は腹を切ったことにはしてもらう』と仰るが意味がわからない。

腹を切ったことにするといっても、御公儀は空ならず検屍をするはず。

幾ら邑上様とはいえ誤魔化しようがないはず。

それなのになぜ?

大甥殿達魔種族も混乱している。

邑上様は皆が一様に解せない様子を見てから『入ってくれ』というと、1人の僧が入ってきた。

この寺の方ではないどなただ?

『こいつは、殆ど知られてねーが府内魔種族第五席の狐人族の澤象司(たくぞうす)っいう奴だ。魔種族のくせに物好きで仏様の教えを学んでいやがる。で、はっきり言って狐人族の族長殿より導術の力がある』

そう邑上様が紹介すると、人間族の顔だったのが突然、狐人族の顔になり頭を軽く下げられた。

そして口を開いてこういった。

『府内次席殿よりの願いにより、拙僧の導術をもってまやかしの皆様の遺体を作り出します。流石に無いものからは作り出せませんので、どさくさ紛れに赤河麻野の上屋敷や下屋敷からこっそりと持ち出した赤河麻野家の人間族の遺体や馬の死体を利用致します。これらに拙僧の導術をかけて皆様のまやかしの切腹した遺体とします。拙僧の導術は軽く10日は持ちますので埋められてしまえば後はもうわかりません。・・・正直、仏門の者としては亡くなった者は全て仏様ですので不本意ではございますが、魔種族人間族の和親のためには致し方ないかと。あ、馬の死体は大神族の方のまやかしのご遺体と致します』

それを聞いていた大甥殿が『だから馬を斬っておけと邑上様は仰っていたのですか・・・』と呟いたのが聞こえた。

そして寺の庭に赤河麻野家家来衆の遺体や馬の死体が次々と、猪人族が牽いている何台もの大八車で運び込まれてきた。

そしてその光景を見ながらなぜか拙者はほっとしてしまった。

同僚2人の顔を見ると2人ともほっとした顔をしていた。

やはり死ぬのは怖かったが、こうなれば粉骨砕身御当主を支えるのみ!!

『ん?死体が1体足りねぇ?あ~どっすかな・・・。おい大将!帰りは表門から堂々と出て行ったんだよな?となると討ち入りの人数は・・・47人としっかりと野次馬共に把握されているか・・・しょうがねえ!おい、一番若い奴は誰だ?お前か?よし、すまねえがお前さんは一緒に腹を切るつもりだったが都の角田の姫さんへの報告役として、渋々都へ走るよう命じられてただ1人生き残ったことにするぞ!後で路銀と俺の書状を用意するから、面倒で申し訳ねーが一休みしたら都の姫さんのとこまで大変だが行ってきてくれ。もちろん礼金は別にはずむから、すまねぇが頼む!』

 

 

 

一昨日無事に赤河麻野家の族滅が終わり、後始末もある程度おわって一息つけたので、病明けの身ながら数日ぶりに内裏に出仕すると、当然のことながらすぐに呼び出された。

『三位中将、何か申し開くことはあるか?』

太政大臣様が帝にかわって私にお尋ねになる。

御簾の向こうには帝がいらっしゃり、太政大臣様の他にも左右大臣様に大納言様と朝廷の司る皆様方が全て揃っていらっしゃる。

つまり私がこの場で暴れ出して皆様全てを誅することはないと踏んでいらっしゃるわけですね。

その通りです。

私はそんなつもりは一切ございません。

ただあわよくば此度の一件の咎で近衛中将の位を剥奪していただきたいと思っている程度です。

もちろん命を持って償わせるというのでしたら一暴れして異国へ逃れさせて頂くつもりですが。

異国で婿様を探すのも楽しそうですね。

さてそろそろ言上させて頂きますね。

ゆっくりと顔を上げて口を開きます。

『此度のこと、個々の喧嘩ではなく、人間族の大名家が我ら魔種族の次席である牙良近衛少将をその家来衆ごと闇討ちして討ったというもの。つまり人間族が魔種族に戦いを挑んだのでございます。これを放置すれば我ら魔種族は人間族に侮られ、しいては帝の御威光にも恐れながら陰りが生まれてしまいます。それによって魔種族と人間族の和親がなくなれば、魔人相争い、秋津洲の地は戦国の世以上に大いに乱れてします。そうなれば我ら魔種族は全て討ち取られるか、遙か西の地にて近く生まれたと伝え聞く猪人族の国のように魔種族だけの国をこの秋津洲の地の何処かに打ち立てねばなりませぬ。そのようなことが起きぬよう、帝の宸襟を安じ奉るため、この近衛中将が命じ、近衛少将を誅しました赤河麻野家を族滅と致しました。さらに赤河麻野家の拝領上屋敷に討ち入りました者達はその責を感じ、私への書状を持たされた者を除き、全て切腹致しました。これによって魔種族と人間族の遺恨は全て消え去りました。帝の宸襟は安じ奉られ、得河様の武威をもって秋津洲の地は平安のままとなりましょう。弥栄!』

そう言って再び頭を下げた。

こうして魔種族と人間族の国は再び安寧が訪れました。目出度し。目出度し。

 

 




以上で蛇足編完結だそうです。

おつきあいして頂き、ありがとうございました。
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