滅茶苦茶なくらいスランプでした。
生存報告です。
一昨年、3月頃帝国北方─────
雪が溶け春の訪れを少しずつ感じてきた頃、メラクは旅装束の青年に出会った。
「お前が《死の精霊》か・・・?」
「・・・・お前は?」
無遠慮かつ不躾な青年の問いにメラクは警戒心を高め構える。
おまけに何やら後ろ、正確には7時の方角のかなり遠くからも何かがこちらを狙っている気配もある。
「質問に答えろ、お前が《死の精霊》なのか?」
「その前に後ろの狙撃手なんとかしてくれると嬉しい」
「・・・ふむ・・・は?」
青年の言葉にメラクが両手を挙げて降参の姿勢を取りながら返すと青年は少し訝しげに眉をひそめると言われた方角を確認し慌て始めた。
「・・・っておい、本当に狙われてんのかよ!?おいミネア!狙撃は良いって俺言ってたよな!?」
そう言いながら青年は大きく両手を振って狙撃手がいるであろう方向に声を上げた。
暫くすると濃紺色の髪に白い肌、紫色の瞳のレザーコートを着た女性が音もなく歩いて来た。
「話に聞く《死の精霊》が相手と言っていたからな、備えは必要と思ったまでだ、実際必要だっただろうキルクス」
「だから要らないって言ってたろうが!?」
「え、えっと・・・?」
なんて事ない、といった顔で狙撃銃を見せてくる狙撃手ミネアに青年キルクスが声を荒らげる。
その様子をメラクは困惑した様子で見る他なかった。
数分後、メラクに頭を下げて謝り倒すキルクスがいた。
「いや、本当に悪かったな・・・上からの命令でお前さんを調べることになってたんだ」
「上っていうのはよく分からないけど・・・まぁ、別に良いよ」
あまり気にすることのないメラクは普通に許すがそこに1人口を挟んだ者がいる。
「あれは私の独断だ、もし罰があるならキルクスではなく私に下すといい」
「いやだから何もしないって」
クソ真面目な顔で言ってくるミネアにメラクが困った顔で返す、そんな押し問答が1時間近く続くというなんともいえない出会い方をした。
数日後、とある山の中──────
「片付いた・・・」
「みたいだな・・・おーいミネア!そっちはどうだ?」
「あぁ、掃討は完了したようだ」
太刀に付いた血を払いながら言うメラクにキルクスが答えそのまま少し後方にいるミネアに聞くと応答が聞こえる。
とある山中にて3人は辺りを見渡す。何故こうなったのかは単純で野盗を見つけたメラクがほぼノータイムで襲撃に向かってしまいそんな彼をキルクスとミネアが付き合う形で野盗の討伐に乗り出した。
ここ数日の間キルクスはメラクを観察し続けていた。
確かに前評判の通り野盗を含め悪人には容赦が無いが下手くそながらに味方を気遣う優しさ、道具を真摯に手入れする時の真っ直ぐな目、困っている人間がいれば気付かれないように助けるという不器用さを知った。
キルクスには彼を《外法》と斬り捨てることなんて出来なかった。
片やミネアは少し懐疑的な目で見ることが増えた。
最近戦うことが妙に増えたからだ。まるでつい最近会った少年が戦いを引き寄せているかのように感じていた。
「(人柄は・・・そうだ、不器用でもまともだ。だがだからこそ疑ってしまう・・・キルクス、お前には彼が懸命な少年に見えるのだろう?だが私には・・・)」
戦いで死を振りまくこの少年が人間の血を啜って笑う死神に見える
口から出掛けた言葉をミネアは静かに押し殺して目を逸らした。
結局その日は何か起きた訳ではなく、問題もなく1日を終えた。
その日の夜─────
「しかしまぁ、お前の作る飯は美味いなぁ!」
「確か君の友達の遊撃士から教わったそうだな?」
「うん、シトリィっていうんだ・・・今は離れちゃってるけど・・・」
キルクスとミネアが言うとメラクは少し嬉しそうに、でも寂しそうに返した。
鍋に魔獣の肉やその辺りで採れた山菜やキノコを下拵えして煮込む、肉とキノコの出汁が出ているおかげで塩で軽く味を整えるだけで十分過ぎるほどのご馳走になった。
「そのシトリィってのとはもう会わないのか?」
「遊撃士だからあまり会えない、それにあまり付き合わせるのも迷惑だし・・・」
「だからなんでもかんでも1人でやろうとすんのか?」
「その方が良いから・・・」
キルクスの言葉に少し後ろ向きな答えを続けるメラク、するとキルクスはメラクの背中をいきなりバシっと叩いた。
「痛い・・・」
「辛気臭いな、おめぇはよ。友達や仲間には頼ったって良いんだぜ、メラク?1人でなんでもかんでもやろうとすんな!」
そう言ってキルクスは痛がるメラクの背中をもう何度か叩くと頭をわしゃわしゃ音を立てながら撫でるのだった。
その後疲れて眠ってしまったメラク、その傍らでキルクスとミネアは静かに話した。
「なんだよミネア、いつもより神経質じゃないか」
「キルクス、君はわかっているのか?この少年と行動を共にしてから一気に戦闘が増えた、まるでこの少年が戦いを引き付けているかのようだ」
「気にしすぎだぞ」
「しすぎなものか、実際以前なら週に1度戦えば多かったのがこの少年といるだけで週に3、4回は戦っているぞ。明らかに増えているじゃないか」
いつも冷静なミネアが珍しく静かに声を荒らげる、だがそれを聞いてもキルクスは意見を曲げたりはしなかった。
「お前が何を言っても俺の答えは変わらないぞ、上からの命令があった以上あと少なくとも1、2週間は様子を見るつもりだ。それであいつが一般人に太刀を向ける事が無ければメラクは《外法》では無いと判断した旨の手紙をあてる」
「だが・・・」
「そんな顔すんなよ、今までだって色々あったけど切り抜けて来たじゃないか」
不安そうにするミネアにキルクスは笑って答える。
しかし、それでもミネアの疑念は晴れることはなかった。
そしてその疑念は最悪な形で的中する事になる。
その日も彼らはいつも通りに野盗を見つけそれらの討伐をしていた。
討伐自体はすぐに終わった、しかし不自然に敵の数が少なかったことを疑問に思った3人が辺りを散策するとやがて大きな古くさびれた2階建ての建物が見えた。
「なんだここ・・・?」
「もしかしたらさっきの野盗のアジトかも、慎重に入るぞ」
「やめておいた方が良い気がするが・・・」
武器を構えながら入っていくキルクスとメラク、そんな2人きミネアがたしなめながら続く。
しかし、この時3人は気付いていなかった。
3人が通った建物の扉、その上に故意に付けたであろう真っ黒い手形が付いていることに。
建物内部──────
「おい、キルクス、メラク・・・これを見てみろ」
恐らくは自分たちが倒した野盗たちがアジトとして使っていたと推測されるさびれた建物、その1室を見たミネアが2人に呼びかける。
彼女が指す場所には妙に荒らされたタンスがあった。
「妙だな・・・」
「うん、アジトならこんな荒らさないはずだ。わざわざ自分の住処を荒らすのは不自然だ」
キルクスの言葉にメラクも頷きながら答える。
その後、他の部屋も見たが同じように荒らされていてそしてその中でもとりわけ目立つものがある。
「やっぱりおかしい・・・どの部屋も不自然に荒らされてるし・・・窓も内側から木材で十字に打ち付けられてる、それになんだか壁が黒く焦げているぞ」
「なんだ・・・床もだ、なんでこんなに焦げてるんだ」
焦げた壁を触れながらキルクスが呟く、メラクも同様に呟き周りを見る。
そんな中窓から様子を見ていたミネアが声を上げた。
「おい、何かが外に居る・・・10、20・・・まだいるぞ!」
ミネアの悲鳴に近い声にキルクスもメラクも窓から外を見ると木々の影から全員服装が統一されている者たちが次々と出てくる。
真っ黒な、まるで舞台の裏方である黒子のような格好、右手には短剣を持ち胸の辺りに真っ白な箱をベルトを使って巻き付けていた。
「どうする、どう迎え撃つ?」
「とりあえず2階に上がる!急げ!」
メラクの言葉を聞いたキルクスが声を上げ階段を上る。次にミネア、最後にメラクの順で急いで2階に登るとその瞬間家の扉も蹴り開けられた。
「獲物はどこだ!?」
「あの方に献上せよ!」
下の階から怒号が飛び交う、その者たちは尋常じゃない様子で1階のクローゼットや隠れられそうな場所を乱暴に漁っていく。
「なぁ、キルクス・・・ここってまさか」
「あぁ、あいつらの狩場みたいなもんなんだろうな」
「私たちはまんまと奴らの縄張りに入ってしまったというわけか・・・」
3人は声を押し殺しつつも1階の様子を窺う。建物に入り込んだ者は5人、他は建物の外で入口を塞ぐように待機していて入っては来ない。
しかしすぐに2階に上がる階段が見つかってしまった。
「こっちだ!1階にいないなら2階にいるはずだ!」
そう言って侵入者の1人が階段を上り階段を半ばまで上った瞬間だった。
パシュッという音と共に侵入者の胸から血が吹き出た。
「・・・あ、れ?」
「まずは1人・・・」
ミネアが2階からサイレンサー付きの近接用拳銃で侵入者を撃ち抜いていた。
完全に心臓を貫いたであろう一撃に侵入者は理解出来ないまま口から血を吐き出す。
これで決まった、そう考えたミネアだったがそれでは終わらなかった。
「・・・みよ。わ、たしは尽くす」
「ん・・・?」
「めが、みよ。わたしは尽くすわたしは尽くすわたしは尽くすわたしは尽くすわたしは尽くす・・・!」
「は?」
ブツブツと侵入者は呟きながら白い箱の蓋を開ける、そこには小さなレバーが付いていた。
そして侵入者はそのレバーを最後の力を振り絞りそのレバーを引き抜く。
その瞬間、白い箱は侵入者ごと爆散した──────
「ぐぁ!?」
「ミネア!?」
あまりの爆発の衝撃にミネアは背後の壁に叩きつけられ唸り声を上げ、爆風の被害を受けなかったキルクスがミネアに駆け寄り肩を貸してゆっくりその場から離れる。
「ミネア、大丈夫か!?」
「あ、あぁ・・・だがマズイぞ、あいつらどう考えてもおかしい・・・自爆になんの躊躇もない!」
「あぁ、どう見ても死兵だ・・・だが訳が分からない、目的はなんだ?」
ミネアの無事を確認したキルクス、しかし最初の自爆によって他の侵入者たちもキルクスたちが2階にいることに気付いてしまった。
「上だ!2階に居るぞ!」
「同志に続けー!」
ぞろぞろと階段を上がり侵入者たちが迫る。
「メラク、そいつらを止められるか!?」
「・・・出来る!」
キルクスの問にメラクは太刀を構えながら答えるとそのまま階段を上ってくる侵入者たちの目の前に降り、そのまま太刀を抜き放つ。
「肆の型・紅葉切り・・・」
「・・・え?」
ヒュンと小さく風を切る音がし先頭にいた侵入者がピタリと足を止めた。
何事かと後続の者たちも足を止めると先頭にいた侵入者の首に静かに切れ目が入り、そしてそのままぼとりと地面に落ちる。
直後に頭が無くなった侵入者の首から血が噴水のように噴き出す。
「な・・・!?」
「いつまで固まってるんだか・・・ほいっ!」
目の前の光景に呆気に取られている侵入者たちにメラクは一言ぼやくと首なし死体をそのまま蹴り転がす。
首なし死体は階段を転げ落ち後続の者たちを巻き込んで1階までドタドタと雪崩のように落ちて行く。
そして誰かがレバーを引いていたのかそのまま全員まとめて爆ぜた。
「うわぁ!?」
「メラク!」
爆心地から離れていたとはいえ大の大人1人を吹っ飛ばす爆風はメラクのことも吹き飛ばす。
幸いにもミネアよりは勢いが無く壁に叩きつけられる前に体勢を取り直すことでメラクは怪我をせずに済んだ。
一方、外では仲間たちが全員爆ぜた事実に他の者たちを建物に入ることを躊躇っていた。
「お、おい。次は誰が行くんだ・・・」
「それは・・・それ、は・・・」
皆が皆、周りを見渡し悪い意味で押し退けあっている。
そんな中1人の男が白い箱を地面に落とし声を上げた。
「い、嫌だ・・・俺はここで死にたくない!こんな所で死にたくない!俺は逃げ「ほほう、逃走か・・・まぁ良い、土壇場で逃げるような塵に用は無いよ」お、ごぁ!?・・・」
『逃げる』そう言おうとした男の言葉は彼の胸から突き出た剣とその主によって阻まれた。
「あ、がが・・・ぁ・・・」
「どうした、逃げるのだろう?ほら、早くすると良い」
「く、クレイド様・・・も、申し訳ありません」
「逃げろ、と言ったのが聞こえていないようだな・・・まぁ良い、なんにせよ君はもう用済みだ・・・」
「ぐぎゃ!?」
逃げようとしていた男は自身の主である男クレイドに慈悲を求めるがクレイドは冷たい目のまま突き刺していた剣をそのまま上に振り抜き突き刺した胸から上を左右に切り裂いた。
その様子を周りの者は震えながら見つめる。次逃げようとすれば目の前の男のようになるのは自分だと、そう思い知らされる。
そんな彼らを見てクレイドは口を開いた。
「さて諸君、君たちには2つ選択肢がある。1つはこのまま使命を全うする、もう1つはこれと同じ道を辿る。さぁ、好きに選びたまえ・・・」
そう言いながらクレイドは自身で切り裂いた男の死体をまるで汚い物を遠ざけるように足蹴にする。
その様子に侵入者たちは震え、息を荒くしながら血走った目で白い箱を見つめる。
どの道末路は1つしかない、そんな考えが彼らを支配した。
「行くぞー!」
『『『おぉぉぉぉぉ!』』』
1人の掛け声に他全員が答え、大きく響く。その声は指揮を上げるための物か、はたまた絶望から目を逸らすためのものか。
その様子に心から笑んでいるのは彼らの主であるクレイド、裏の世界では《蒐集鬼》と呼ばれている男ただ1人だけだった。
ご拝読ありがとうございました。
次話もよろしくお願いいたします。
今回から少しずつミナズキの過去が見えるようになります、そこで質問です。ミナズキの過去編は本作品ページに載せるべきですか?
-
この作品ページに載せて
-
過去編用の作品ページを用意して
-
好きにしていい