このソシャゲ世界で、俺を嫌ってくれるヒト募集   作:高々鷹々

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今回から奏章Ⅳの内容にガッツリ触れてます。

マスターのこと嫌いな鯖同士の絡みとか書きたいなーと思って書きました。実際、どういう会話になるんでしょうね。


弱っちいクセに無駄に度胸あるやつ。つまりオマエな?

「よおザコ、いる~? 遊びに来てやったぜ」

 

 挨拶としては随分な言い方と共に、バーヴァン・シーは人類最後のマスターの部屋を訪れた。彼には一貫して『嫌い』という態度を取っている彼女だが、それ故に気まぐれの範囲を出ない程度に抑えつつマイルームを訪れるのだ。

 本当は、もっと部屋に入り浸りたかったが──そうすれば、あのマスターは不審がるだろうし、距離を置かれてしまう。これが最善だと、バーヴァン・シーは理解していた。

 

「あら。お客さんみたいね」

 

「・・・・・・ああ、バーヴァン・シー。おはよう」

 

 直前まで上機嫌だったバーヴァン・シーの表情が、一気に(けわ)しくなる。思いも寄らない先客に対して、()()()()。マスターの様子が、明らかにおかしいのだ。

 顔は青ざめており、目には光がない。ベッドに腰掛けたまま、隣のサーヴァント──マリー・アントワネット・オルタの袖を掴んでる。手を繋いでいないのは、それが二人の距離感だからだろう。

 

「・・・・・・随分な顔色じゃねぇか。今にも死にそうだぞ、オマエ」

 

 今すぐ駆け寄りたいのを抑えて、バーヴァン・シーは今できる精一杯の悪態をついた。それこそが、このマスターにとって必要な接し方だから。

 

「ははは・・・・・・そんなに酷い?」

 

「えぇ、とっても酷い顔よマスター。まるで悪夢に魘された子供みたい」

 

「ッ・・・・・・」

 

 悪夢──バーヴァン・シーは、無意識に拳を握り込む。本当に悪夢を見たなら、その原因は自分も含まれているだろうから。

 

「それは、大丈夫。

 ただ、ちょっと・・・・・・今回の特異点、だいぶキツかったから」

 

 キツかった──何が『キツかった』のかは、彼は口にしないのだろう。少し前の、アヴェンジャークラスの一斉退去、その時にも、彼は何も語らなかった。今回も、退去はしていないらしいものの、ルーラーたちが姿を消している。

 きっと、同情して欲しくないんだろう。バーヴァン・シーはそう思っている。

 

「そうかよ・・・・・・白けた。そんなんじゃ、遊ぶどころじゃねぇな」

 

「ごめん・・・・・・」

 

 その謝罪をスルーし、バーヴァン・シーは部屋を出る。マスターである彼は、苦笑する気力すらも湧かず、それを見送った。

 

「ふふふふふ。随分と悲しそうな顔をするのね。あの子にも、居て欲しかった?」

 

「・・・・・・そういう、わけじゃ」

 

「誤魔化さなくても良いのよ? 本当に誰にも会いたくないなら、わたしにそう頼めば良いのだもの。

 わたしの首飾りの力は、知っているでしょう?」

 

 青い顔のままの彼に、マリー・オルタは妖しく微笑んだ。

 確かに、彼女の首飾りには欺瞞効果がある。それは、自分も体験済みだ。けど彼は、確信を持って言った。

 

「頼んでも、その首輪を使わないでしょ、マリー・オルタは」

 

「・・・・・・生意気ね。つまらないわ」

 

 図星だったのだろう。機嫌の悪くなったマリー・オルタは、意地悪で彼の手を振り払ってみた。

 すると、彼は本気で泣きそうな顔になる。まるで、迷子の子供のような表情。その姿があまりにあどけなく感じて、マリー・オルタは彼の手を握った。

 

「──言っておくのだけど。これは同情じゃないわよ。

 わたし、あなたのこと嫌いだもの。嫌いな相手に向けるほど、わたしの同情は安くないの」

 

「うん・・・・・・うん。ごめん」

 

 落ち着いたらしいマスターに、マリー・オルタはわざとらしく溜め息をついた。

 

 そうして、少しの間も置かずに部屋がノックされる。やや控えめなそれに、彼は顔を上げた。

 

「・・・・・・バーヴァン・シー?」

 

 ノック音だけで悟ったらしい彼に、マリー・オルタは半眼を向ける。

 扉を開いて入ってきたのは、その通りバーヴァン・シーだ。しかし、普段の姿ではなく、読書好きな魔女の後継というプリテンダーの姿。

 

「もう一度お邪魔します、マスター。

 ・・・・・・読みたい本があったのだけど、ちょうど図書館が混んでて。場所、借りるわよ」

 

 普段よりも落ち着いた物言いで、バーヴァン・シーは何冊かの本を手にしたまま彼の隣──マリー・オルタの反対側へと座る。

 

「あら、優しいのね。もしかしてマスターに惚れでもしたのかしら」

 

「・・・・・・馬鹿なこと言わないで。ただ読書に適した場所を探していただけ。

 自分の部屋も集中できるけど、たまには気分転換もしたいの」

 

 マリー・オルタの言葉に、バーヴァン・シーは努めて冷静に返した。もし災神の巫女としての姿や、妖精騎士としての霊基だったなら、もっと言い返していただろう。

 けど、今は自分よりマスターだ。こんな状態の彼を、放ってはおけなかった。

 

「・・・・・・ごめん、バーヴァン・シー」

 

「何が『ごめん』なの。私に居場所を占拠されてるんだから、怒っても良いのよ」

 

 返事はない。ただ、マスターは弱々しく、彼女の袖を掴んだ。読書の邪魔をしないように、控えめな掴み方。バーヴァン・シーはそれに少し目を向けて、すぐに開いた本へと視線を落とした。

 

 二人に挟まれて、少し顔色の戻った彼は、自分が()()なった原因へと思いを馳せる。

 

 オーディール・コールを終え、ルーラークラスのサーヴァントたちがボーダーから姿を消したから──ではない。

 

 大切な後輩であるマシュを失いかけ、精神が不安定になったから──でもない。

 

 特異点での記憶に加えて、何故か『ゲームとしての特異点攻略』の記憶もあるから──でもない。確かに意識が混濁し、自分がわからなくない感覚はある。でも、問題はそれでは無いのだ。

 

 あの特異点でも、意味の分からない好意を向けられた。みんな、ずっと自分に好意的だった。

 

 リリスは、終始(しゅうし)協力的だった。マシュへの憎嫌(けんぞう)こそあれど、人類最後のマスターである彼には、ずっと()く接してくれていた。理由が、分からない。彼女に対して、自分は何もしていないのに。ギャラハッド越しに見た記憶が原因か? けれど、それへの言及は無かった。

 

 メタトロン・ジャンヌ──その【怠惰】の部分。彼女も、自分に好意を向けてくれていた、と思う。自惚れか? いや、違う。彼女は、明確に自分への好感度が高かった。親愛か、友愛か、それとも別の感情かはわからないが、ずっと好意を向け続けてくれていた。気安く接し、休息を与え、身を案じてくれた。理由は、わからない。

 

 自身の体験と、ソシャゲとしての『FGO』の記憶──その二つがあるのに、彼女たちが自分へ向けていた好感情の理由が、わからない。それが、恐怖でしかなかった。

 

 いや、正確には違う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それが問題なのだ。

 

「ねぇ、二人とも」

 

「なに」

 

「なにかしら?」

 

 バーヴァン・シーは本から目を逸らさず、マリー・オルタはどうでもよさそうに、返事した。

 

「俺のこと、嫌い?」

 

「──少なくとも、そうやってウジウジしてるあなたは嫌いです。みっともない。

 もし私が今のあなたに有効な呪いを知っていたら、間違いなく使っているわ」

 

「あははは! あなた、随分と優しいのね? でもわたしはそんな言い方してあげない。

 嫌いよ、だーい嫌い。このままここで腐り続けて、死ねば良いとすら思っているわ」

 

 良かった。二人は、自分の事を嫌ってくれている。まだ自分は、ヒトから嫌われる存在だ。

 ずっと、意味もわからない好意を向けられ続けると、本当に狂いそうになるのだ。特異点で、このボーダーで、その他の騒動で。初めて会った相手から、理由不明の好意を向けられる。特に今回の特異点は、自分に悪意を持って接してくる存在が、あまりに少なかった。

 

 メタトロン・ジャンヌ──裁判長が嫌っていたのは、あくまで汎人類史だ。その嫌悪は、自分にはあまり向いていなかったように思う。

 言峰神父もまた、自分の役目を全うしようとしていた。むしろ、カドックを助ける素振りすら見せてくれていた。

 リリスの嫌悪は、ずっとマシュに注がれていた。彼女の悪感情は、常に同じ方向に向けられていた。

 

 故に、狂いそうだった。魔獣やハヤ・ラアから向けられる敵意が無かったら、自分は裁判どころでは無かったかもしれない。天使はあくまで成すべき事を成そうとしているだけで、そこに敵意は無かったから。

 

「ありがとう。ちょっと、元気出た」

 

 自分は、嫌われる存在である──誰彼構わず好かれるような異常な存在ではなく、普通の人間であると、自分を誤魔化せる。

 

「・・・・・・あなたの、そういう──弱っちいクセに、無駄に度胸あるところ。私、本当に嫌いよ。

 それが原因で、いつか痛い目に──いいえ、それは私が言えるコトじゃなかったわね。ごめんなさい」

 

「心配してくれたんでしょ? ありがとう」

 

 言い淀んだのは、過去の自分のしたことを悔やんでいるからだろうか。バーヴァン・シーのそういう真面目さを、彼は好ましく思っていた。

 照れかそれ以外か、少しだけ顔を赤くしたバーヴァン・シーはベッドから立つ。マスターが俯いたままで良かった。

 

「・・・・・・コーヒー、()れるけど。あなたも飲む?」

 

「ありがとう。お願いしてもいい?」

 

「うん。そっちは?」

 

「ふぅん。マスターは『あなた』でわたしは『そっち』なのね。

 コーヒーはいらないわ。わたし、紅茶派なの」

 

 マスターの手を優しく掴んで袖から離し、マイルームに置かれているインスタントコーヒーを手に取る。

 

「伯爵が居たら、淹れてくれたでしょうね。ああ、カリオストロ伯爵じゃないわよ?」

 

「・・・・・・そうだね。巌窟王は、コーヒー淹れるの上手かったから」

 

 『モンテ・クリスト』ではなく『巌窟王』──彼が思い出しているのは、退去した共犯者の姿だ。

 事情は知らないながらも、マスターの様子から察したバーヴァン・シーは、マリー・オルタを軽く睨み付けてから、彼へとコーヒーを差し出す。

 

「ほら。この私が淹れてあげたんだから、大切に飲みなさい」

 

「ありがとう・・・・・・美味しいよ」

 

 受け取るなり、一口飲んだマスターは、弱々しく微笑んだ。その顔を直視できなくて、バーヴァン・シーは黙って隣に座る。汚すといけないので、本は閉じて離れた位置に置いた。

 

「・・・・・・うん。本当に、美味しい」

 

「そう。次は、あなたが淹れてね」

 

「・・・・・・まるでお茶会ね。気に入らない」

 

 小さく呟いたマリー・オルタだったが、それでも部屋から出ようとはしない。

 

 彼はカップをテーブルに置いて、バーヴァン・シーの手を握った。もう片方の手は、マリー・オルタと繋いだままだ。

 

「・・・・・・コーヒー、冷めるよ」

 

「そしたら、飲ませてよ」

 

「ばーか」

 

「あら、ならわたしが飲ませてあげるわ。あなたが望むなら、口移しでも構わないわよ」

 

「私の前でそういうのはやめて。あなた、そうやって毒を飲ませるタイプでしょ」

 

「残念、毒じゃなくてギロチンよ。ふふふ、でも、察しは良いのね」

 

「・・・・・・ふたりとも、仲良くね」

 

 彼の言葉に、二人のサーヴァントは黙って顔を見合わせ、どちらともなく溜め息をついた。そして、彼と繋いだ手に、怪我しない程度に力を込める。

 

 一日だけ、この日だけの休息。これから最後の戦いに向かう彼の、もう何度もないような羽休め。

 結局、彼はこのままゆっくりと眠ってしまうのだが──彼のことが嫌いなサーヴァントたちは、嫌がらせとして目を覚ますまで側に居た。




人類最後のマスター
普通で居たい一般転生マスター。
ある種の精神疾患。他者から好かれているだけだと、気が狂いそうになる。
戦闘訓練を欠かさないのは、例えシミュレーションでも敵意を向けられるため。

バーヴァン・シー(プリテンダー)
彼を嫌っている。だってそうじゃないと、彼の近くに居られない。
ミコケルや妖精騎士ならもっと罵っているが、あくまで雨の森の魔女の後継なので、そんなに口汚くない。
霊基を変えた理由は、気分。別に落ち込んだマスターに寄り添うために変えたりとか、してない。
ちなみに紅茶派。コーヒーは好みじゃないからインスタントしか用意できなかった。
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