尚今後の予定についてはあとがきにて周知します。
「アカザ? はて聞き覚えのない名ですね。ヒカル様の交友関係にはそんな人物一人も・・・」
ー破壊殺・脚式 飛遊星千輪ー
その瞬間轟音が鳴り暴風が吹き荒れた。俺は
那須はもろに胴体にそれを受けて、コンクリの壁にひび割れが起きる勢いで叩きつけられた。
「がはっ!!!??」
那須は腹部を庇ってうずくまる。相当効いてるなアレは。そして思った通り、猗窩座の武芸は那須にとって『初見』そのもの。この速度で放てば防ぎようがないみたいだ。
「ぐっ!?」
しかし技を放った俺も無事では済まなかった。捻挫程ではないが、今の技の反動で足首を痛めたようだ。
やはり身体能力の限界を超えた状態で見様見真似の技を使うのは相応のリスクがあるようだ。本来は鬼の身体前提で放つ技。早めに決着させないと不味いな。
「ごほっ・・・今の技・・・私が教えたどの古武術とも違う・・・現代格闘技のそれでもない・・・一体どこでそれを覚えて・・・」
ー破壊殺・鬼芯八重芯ー
俺は一瞬で那須に接敵し、素早く左右交互の突きを叩き込んだ。削岩機を彷彿とさせるような衝撃と轟音が鳴り響き、コンクリの壁が耐えきれなかったのか、そのまま破壊と同時に突き抜けて那須は隣の部屋へと転がった。その余りの威力に俺の拳が砕けそうになるが、その分効果は絶大だったようだ。
「がはっ!!! ゴホゴホッ!!!」
那須は血反吐をぶちまけ床を這いつくばっていた。俺はこの隙にバルザックの社員が逃げ遅れてないか周囲を見渡した。一見した限りだと誰一人居なかった。
「予め人払いは済ませてたのか。まあ当然だよな。アンタならそんくらい周到な段取りこなしていも不思議じゃない。」
「オエッ!! ハア・・・ハア・・」
床を血だまりにするほど吐血した那須が、やっとの思いでその場を立ち上がる。
「驚きました・・・ヒカル様がこれ程の武芸を独学で学んでいるなど・・・想定外です。」
「独学じゃねぇよ。ちゃんと見本はいた。俺はそいつの動きを
「成る程・・・例の『鬼』という奴らですか・・・」
すると那須は、殴られた箇所を庇うのを辞めて、両手を怪しい手つきで動かし始めた。すると視認するのも難しい細さのワイヤーが辺り一帯に浮かび上がり始める。
「っ!!」
「折角です。『人形使い』としての『業』もお見せしましょう。少々おいたが過ぎた罰だと思いなさい。」
変性血統
すると奴の指先から赤い血が広がり、糸の端まで広がっていく。それらの無数の糸は気が付けば俺の周囲を逃げ場もない程に張り巡らされていた。
(気配からしてヤベェ!!! 一度拘束されれば一瞬で戦闘不能になる!!!!!」
俺は本能でそれを理解した。これを破るには毒血解離を使って糸を腐食するぐらいしなければないが、勿論そんな溜めの時間はない。
俺はコートの裏から産屋敷家に特注で作らせたメリケンサックを取り出し糸を切り裂こうと試みた。
だが全方位からの攻撃を一手で防ぐ技量など俺にはない。俺はその瞬間、敗北を悟りそうになる。
(世話が焼けるな、下呂ヒカル。特別に手本を見せてやるからモノにしろ。)
「っ!!」
突如、俺の背後に凄まじい武の気配を感じるが、そこに立つ人物などいるはずもない。
だが突如、俺の脳裏に存在しない別の人物の記憶が溢れかえる。
(これは・・・猗窩座の生前の記憶!?)
それは現実時間にして一瞬にも満たない時間だった。道場で白の武道着に身を包んだ師弟の姿が脳内に浮かぶ。
師より弟子へ奥義の型が伝授され、そしてそれをその場で再現しようと実践する少年の姿。
(狛治! そんな慌ててやらなくていい! お前の生涯を通じてそれをモノにできればそれでいい。)
まだ幼さの残る少年とも青年とも取れる男は、師よりそのように助言を賜り一礼する。それからの人生、そして鬼へと堕ちてからも、その男は愚直にその奥義の研鑽へと励んだ。
(猗窩座の記憶が! 技の感覚が! 俺自身に伝わってくる!)
その瞬間、俺は再び現実へと引き戻される。目の前には迫りくるは凶刃の糸の数々。何もせず座して待てば揺るぎない敗北のみ。だが俺は床を踏みしめ拳を構え直し、流れ込んできた技の記憶を頼りにその絶技を再現する。
ー素流体術 奥義 終式 青銀乱残光ー
「ば、馬鹿なっ!?」
那須は目を見開き驚愕の声を上げる。なぜなら俺が突如故人の気配を纏い出し、死地を切り抜けるためにその者の奥義で秒間百発以上の乱れ打ちを放ったのだから。
俺を締め上げ切り刻もうと迫った糸は全て切り裂かれ、俺の周りで解けるようにバラバラになった。俺は静かに後ろを振り返る。
(お前は護り通せ。大切な人を。その生涯を懸けて。お前は俺のようにはなるな。)
そう言い残し、猗窩座の生前の姿の幻影は、俺の前から光に包まれるように消えていった。
「ありがとな。猗窩座。いや・・・狛治さん。アンタの技で、俺はアンタとの誓いを生涯やり遂げて見せる。約束する。」
そう呟き、俺は再び那須へと振り返る。
「馬鹿な・・・死者の交霊は霧島家でも類稀な才と素質がなければできないはず・・・ヒカル様貴方はそこまでに・・・」
「幕引きだぜ先生。これでもう納得してくれ。」
「ま、まだですよ! 私はヒカル様を導く使命が・・・!!」
ー素流体術 奥義 滅式ー
即座に繰り糸を手繰り寄せようと構える那須に対し、俺は腰を落としたまま両拳を引く。次の瞬間、俺は先生へと突進し、両の拳を突き出した。
その瞬間、今日イチの轟音が鳴り響いた。那須の身体はオフィスの机の数々を蹴散らしたまま吹き飛び、十数メートル離れた壁へと打ち付けられた。
「がはっ!!??」
那須は罅割れる壁から崩れ落ちてそのままうつぶせに倒れる。
俺はゆっくりと、吹き飛ばされ散乱したオフィスディスクの瓦礫の間を縫う様にして進み、那須の下へと足を運んだ。
「ヒカル様・・・それでも私は・・・貴方様と下呂家の将来のために・・・」
「なあ先生。」
俺はそこで那須の言葉を中断させた。那須は床に伏したまま目線を俺へと上げる。
「式の招待状送るからさ、俺と胡蝶の晴れ舞台、ぜってぇ見に来てくれよな。」
「・・・・・・」
「それにだいぶ先の話だとは思うけどよ。俺たちの間に子どもが生まれたら、ちゃんと二人で一人前の使い手に育てて見せるから。まあそいつの自由意思は勿論尊重するが・・・」
「・・・・・・」
「これでも俺、今の下呂家はおばあちゃんと先生のおかげで成り立ってるって思ってるから。今までありがとな。でも俺が当主になったら胡蝶と二人でぜってぇ下呂家をマトモで安泰な家にして見せるからよ。約束する。だからもう心配しなくても平気だぜ。安心して見ててくれよ、先生。」
「・・・全くヒカル様は・・・私のこれまでの苦労も知らないで・・・勝手なことを・・・」
「・・・・・・」
「・・・本当に・・・それは・・・ズルいですよ・・・」
そこまで言い残し、那須は意識を手放した。俺は携帯を取り出して実家に連絡する。
「ああ、俺だ。悪ぃけど迎えに来てくれ。先生のしちまってよ。んん? まあ待て。順を追って説明するから・・・」
そして俺は一通りの説明をした後一度電話を切り、今度は別の人物に通話をかけた。
「俺だ。その・・・今平気か?」
「・・・・・・下呂さんこそ平気なんですか?」
通話相手は胡蝶だった。俺が苦笑すると、耳元で胡蝶の声色が騒がしくなった。
「笑い事じゃありません! 私がどれだけ下呂さんのことを心配したかわかっているんですか!? 足の怪我さえなければ今すぐ飛んでいきたいところなのに!!」
「ちょっと待て。足怪我したって本当か? 重症なのか!?」
「大した事ありません。小銃で撃ち抜かれた程度なので。自分で応急処置は施しましたしこのくらいどうってことありません。」
「はっ!? 撃たれたって大事じゃねぇか!! 今どこだよ!! 今すぐに迎えに・・・痛うっ!!」
「下呂さん!? 下呂さんこそ怪我してるじゃないですか!? 今どこですか!! やっぱり片足でも迎えに行きますよ!!」
「馬鹿言うなよ。怪我人は早く病院行け。俺の方は大丈夫だ。問題ない。」
「いいえ、信用できませんね。近くに炭彦君もいるのでおんぶしてもらってそっち行きますよ。それよりも下呂さんの方はもう決着ついたんですか? 私それが一番気掛かりで・・・」
「ああ。もう終わったよ。」
俺は一息つき、床に臥す那須を見下ろす。
「俺が全力で説得して納得してもらったよ。もう俺たちの結婚のこと文句言う奴は下呂家の中には誰もいねぇ。だから安心して心の準備して待っててくれ。」
「っ!! 本当ですか!? それじゃあもうっ・・・!」
「ああ。」
電話越しに胡蝶の嬉しそうな声が聞こえた気がした。俺もそれを聞いて満面の笑みだった。
「もう大丈夫だ。あとは俺達次第だぜ。」
それから暫くの間、俺と胡蝶で談笑の通話が続いた。何気ないひと時でありながら、俺は胡蝶と気持ちを通わせるこの時間が何よりも大切に思えた。
おばあちゃんと先生が納得してくれたんだ。俺たちの結婚に。だからもう俺達の関係にケチつける奴なんていねぇ。
これからは胡蝶と二人で、フツーに仲良く楽しい人生を誰にも邪魔されずに送ることができる。俺はそんな先の明るい未来を思い浮かべながら、これからの人生に期待感で一杯だった。
第二部完
以上で本作第二部『護り手の毒使い』を終了とさせていただきます。完結まで追って下さった全ての読者の皆様にこの場をお借りして御礼申し上げます。正直最後駆け足過ぎましたが、とりあえず形にはなったかなと個人的には思っています。
需要はないとは思いますが、ここで執筆裏話をします。本作は元々『マリッジトキシン』という作品の魅力を同士の鬼滅ファンの皆様に布教する目的で書いてました。吾峠呼世晴先生も推薦してるだけあって、とても魅力的で面白い物語だと実感しているからです。ただ、原作が完結する前に第二部の執筆を見切り発車してしまったため、本作はマリッジトキシンの正当なストーリーを婉曲したものにしていたのではないかと個人的には途中悩んでおりました。そもそもクロスオーバー作品にしてる時点でその辺は難しい判断になるのですが、とは言え黒幕の狙いが半分程度明らかになった程度で個人が勝手に想像して内容を膨らませて書くのは原作愛があると言えるのか、と何度も自問自答した次第です。結果、最低限の黒幕の狙いと動機だけ触れた上で主人公の下呂君がそれを打ち破るという無難な結末に落ち着きました。もし拙作をきっかけに『マリッジトキシン』に興味をもった方がいれば是非各種動画サービスでアニメだけでもご覧になってください。ヒロアカを手掛けたポンズさんが制作を手掛けておりますので、拙作とは比べものにならない程原作の魅力が引き出されております。ただそれとは別に拙作を「面白い二次小説」として最後まで楽しんで頂けた方が数名でもいれば筆者としてはこんなに嬉しいことはありません。次回作のモチベーションにさせて頂きます。
さて、裏話はこの辺にして、今後の執筆予定について軽く触れます。まず以前執筆していた『狛治外伝 ~誰がために振るわれる拳~』のエピローグを書こうと思っています。こちらは狛治が鬼にならず鬼殺隊に入って兄上と戦うまでをまとめた二次小説になっております。そしてエピローグの前には一話だけ幕間の回を入れてアンケートを取る予定です。詳細はそちらの小説が更新された際に興味がある人がいれば覗いてみて下さい。
加えて新しい小説も投稿予定です。懲りずにまた書くんかと思われるかもしれませんが鬼滅の二次小説を投稿します。題名は『胡蝶家の縁壱とお労しい姉上』です。カナヲとしのぶが双子として胡蝶家に生まれるIfストーリーになる予定です。本作では二人の関係性が原作のような感じではなく「継国兄弟の女性版」的な感じになります。既にやや不穏な気配がする挑戦作になる予感がしますが、なるべく癖を抑えつつそれで居て一部の層にはぶっ刺さるある意味「鬼滅らしい」二次小説にしたいと思っています。もし興味があれば読んで見てください。頑張って執筆する予定でいます。
長くなりましたが今後の執筆予定についてでした。何はともあれ本小説を楽しんで読んでいる方が一人でもいれば書き手冥利に尽きると思っています。筆者の趣味全開ではありましたが、最後まで読了して頂き誠にありがとうございました。もし機会があれば次回作でお会いしましょう。それでは。