夏油傑と小さくなった名探偵 作:蠅頭
「うーん青い海。青い空。田舎の空気は格別だね!」
「そうかしら」
はっはっはと笑う夏油に対し、冷めた言葉で返すのは撫子を名乗るキュラソーだ。
夏油と撫子は今、本土を離れ離島神海島に訪れていた。
「それで、こんな島に何の用? まさかトレジャーハントって訳じゃないでしょうね」
この神海島には現在、海賊メアリー・リードとアン・ボニーが残したとされる宝があると噂になっている。
「そのまさかさ、私たちはその宝を取りに来たのさ」
「えぇ? あなたそういうのするガラじゃないでしょう」
「ま、ちょっとやってみたい事があってね」
夏油にあるのは何時だって原作イベント間近で見てぇ! という俗っぽい願望だけ。特に深い理由は無い。
その趣味に連れまわされる事になる撫子は災難である。
夏油と撫子は海辺に移動し、呪霊を呼び出す。
全て翼の生えた個体であり、飛行能力を持つ呪霊だ。
「いつ見ても気色悪いわね」
呪霊を見ることが出来る様になった撫子は呪霊を見てそんな言葉を漏らす。
「まぁ、人の負の感情から生まれる存在だからね。どうしても見た目は相応に悪くなるさ」
そらいけ、と夏油は呪霊を飛び立させた。
「それで、宝の当てはあるの?」
「勿論ある。道を見つけるまで私たちは島を観光と行こうか」
■
「おっ毛利探偵じゃないですか! 奇遇ですねこんなところで!」
それからしばらくして、神海島を観光している毛利探偵一行と夏油は遭遇した。
「おや夏油さん……そちらの方は?」
小五郎は分かりやすく鼻の下を伸ばしながら、隣にいる撫子について問いかける。
「始めまして、皆さま方。私は枷場撫子。夏油教祖の付き人をさせてもらっています」
「これはどうもどうも枷場さん、名探偵の毛利小五郎です!」
「お噂はかねがね。是非貴方の推理を拝見したいものです」
「機会さえあれば是非に」
だらしのない顔をする小五郎にコナンと蘭がじとーとした目を向ける。
「やぁコナン君。また会ったね」
「……お兄さんついてきたわけじゃないのになんでいるの?」
「さぁ、なんでだろうねぇ」
はっはっはと夏油は笑う。
「おっ──どうやら用事が出来たので私はこれにて失礼。君たちの宝探しが上手く行く事を神にでも祈っているよ」
夏油はそう言い残すと撫子を連れてさってしまう。
お元気でー、と小五郎は一人枷場に向かって手を振るうのだった。
■
「それでもう見つけたの?」
「ああ。呪霊は実体を一時的になくすことも出来る。それを使えばあっという間さ」
夏油達は再び海辺に来ていた。
夏油はオニエイトマキエイ、マンタ型の呪霊を出す。
「さぁこれに乗っていくよ」
「……これに乗るの? 狭くない?」
「じゃあもう一体だそうか」
夏油はそういうと今度はピンク色のマンタ型の呪霊を出す。
「ていうかこれ飛べるの? 安全なのよね?」
「安全安全。これまで他者を載せて事故をしたこと無いからね」
「自分以外載せてないから事故ってないだけじゃない?」
ぐちぐち言いながらも撫子はマンタ呪霊に乗る。
「さぁ無限の彼方にさぁ行くぞ!」
「そんな遠くには行かないわよね?」
マンタ呪霊は飛び上がり、進んでいく。
「け、結構スピード出るわね」
マンタ呪霊の速度に驚愕しながら二人は空を飛んでいく。
そうして暫く飛ぶと島が見えてくる。
「あれが目的地?」
「そうさ。ここに私が求める物がある」
夏油はマンタ呪霊を動かし島に着地させる。
二人はマンタ呪霊から降り、島を探索する。
夏油は原作──というか映画知識──を元に島を捜索する。
「あった、が……」
「崩れてて通れそうにないわね」
夏油は島の地下、木造船が眠る地への道となる洞窟を見つけるも女神像の後は土砂崩れか何かで通れなくなっている。
「ま、こういう時の為の呪霊ってね」
夏油は手持ちの呪霊を雑に放出する。
その数は百。人型に限定して呪霊を出した。
「さぁ、土砂を動かそう!」
夏油は呪霊に指示を出し土砂を運ぶよう命令を下す。
格納呪霊からスコップと猫車を出しての万全の準備だ。
「……貴方、ここが土砂で崩れているのも想定していたの?」
「……さぁね。想像に任せるよ」
まるで事前に知っていたかのような準備の良さに撫子は気持ち悪さを感じ問いかけるも夏油は真面には取り合わない。
呪霊達は一生懸命に土砂を運び作業を進めていく。
暇なので夏油と撫子は持ってきたリバーシで遊んだりし、一時間程過ごせば土砂も無くなり移動が可能になる。
「よし、行こうか」
夏油は機嫌よく格納呪霊から懐中電灯を取り出し奥へと進む。
「足場結構悪いわね」
「ま、古い洞窟だからね」
撫子も足場が悪いと愚痴りながらも進んでいく。
その歩みは普通の道を歩くが如くだ。組織の女として悪路ぐらいは慣れているのだろう。
そうして二人が進んでいくと、遂に大きな空間に出る。
「これは……」
撫子が目にした物は巨大な帆船だ。しかも木造の物である。
「しまったな。松明でも持って来ればよかったか」
階段の近くにある松明用の灯りを見ながら夏油は呟く。
これに火を付けれない以上暗いままだろう。だが天井から多少とはいえ光が入っている為夜目に慣れている二人には少々薄暗い程度で済む。
夏油と撫子は階段を登り帆船へと入る。
「これがアン・ボニーとメアリ・リードが遺した宝?」
「そうみたいだね。過去でもこれだけの船だ。これだけで一財産になるだろう」
二人は何となく船の中を捜索するがめぼしいものは無い。
宝らしい宝、金銀財宝の類は無い。空の木箱がある程度だ。
夏油は船内から外に出ると撫子が待っており真剣な表情を浮かべている。
「──誰か来るわね」
「へぇ」
撫子がそう言うと同時に階段の壁に付けられていた灯りに火が灯る。
「はは、宝だ!」
男二人が駆けあがって来る。
男二人──松本光次と伊豆山太郎だ。
彼らは正攻法でこの場所にやって来たのだ。
「誰だお前は!」
「私は夏油傑。ま、こんななりだが教祖をしているよ。どうだい? 君たちも何か迷うことがあるならばうちに来ないかい?」
夏油は怪しい笑みと共にそう問いかける。
「は、誰が宗教なんかに入るかよ!」
松本は好戦的な笑みを浮かべる。
「げ、夏油さん?」
其処に遅れて蘭と鈴木園子が階段を登ってやってくる。
「おや蘭さん。奇遇ですね、このような所であうとは」
夏油は後光でも光っているのではないかと思える笑みを浮かべる。
「……まぁいい、死にな、宝は俺の物だ!」
松本はナイフを片手に夏油に襲い掛かる。
夏油は冷静に対処する。ナイフを持っている手にパンチを当てナイフを落とさせ、左手を呪力を使い強化。
強化したパンチをもって鳩尾に一発入れ、ダウンさせる。
「お、おい!」
もう一人、伊豆山が困惑の声を上げる。
しかしすかさず撫子が背後から強襲し首を絞め意識を落とした。
「あ、ありがとうございます。御強いんですね」
「趣味が格闘技なもので」
夏油の趣味の一つが自己鍛錬だ。
真人や他の人型呪霊を相手にした模擬戦を夏油は良くしている。その為戦闘力も非常に高いと言えるだろう。
夏油はテキパキと船に有ったロープで男二人を縛り上げる。
「……蘭姉ちゃん! 園子姉ちゃん!」
そこに夏油の呪霊が掘って来た穴を通ってコナンが入って来る。
「コナン君!」
「蘭姉ちゃん、大丈夫!」
「うん、私は大丈夫。ほら、夏油さんが助けてくれたの」
蘭がそう言うと夏油は「やっ」と手を上げる。
「夏油さん?! 何でここに?」
「私もまぁトレジャーハントに興味があったというだけさ」
はっはっはと夏油は笑う。
「これで一件落着という事かな?」
夏油はそう微笑む。
「まだだよ。ねぇ、僕の後をこっそり付けて来た岩永さん?」
コナンはそう言うと振り向く。
其処には夏油達が掘った穴から出てくる岩永城児が居た。
コナンは推理を披露する。
この島で起きた殺人事件の犯人こそが岩永であると。
そしてこの島の宝さがしゲーム。それはアン・ボニーとメアリ・リードが遺した宝のヒントを元にしたものだと。
岩永は膝から崩れ落ちる。
「はは、流石は名探偵だな……」
コナンは全て毛利小五郎が教えた事だという事にして自らの推理を披露したのだ。
「ん?」
その時地震が起こった。
震度にして三程度の揺れだろう。直ぐに収まった。
だが、続いて轟音が響いた。
「なんだ?!」
コナンが驚愕の声を上げる。
洞窟の壁が崩れ、海水が流れ込んでくる。
「こりゃまずいね」
更に轟音は響き、夏油達が通って来た穴が塞がってしまった。
「さて、どうするか」
「取り合えず船に!」
夏油達一行は船に乗る。
船に乗る前。コナンはガスが入って来た事を見逃さなかった。
「取り合えず蘭姉ちゃんたちはこれを使って」
コナンは蘭たちにエアボンベを渡す。阿笠博士作成の小型ボンベだ。
(うーん、どうしようか)
夏油が脱出する方法は簡単だ。
適当に呪力砲でも撃って天井を完全に破壊し、マンタ呪霊に乗って空を飛べばいい。
だが夏油はそれをする気はない。何せ今起こっているのは原作(劇場版だが)イベントだ。
原作イベントを下手に壊したくは無いというミーハーな気持ちで夏油は皆が助かる手段を隠している。
そしてついに海水は松明にまで届き。灯りを消してしまう。
「蘭姉ちゃんに園子姉ちゃん。それに夏油さん達も聞いて」
コナンは自らの考えを言う。
天井のメタンガスに向かって鉄の鎖を蹴り上げ火花を起こし、爆発させるというのだ。
(うーんファンタジー!)
流石名探偵、やる事が一味も二味も違うと感心する。
夏油達は大人しく岩永と共に船内に入る。
そしてコナンが鎖を蹴り上げ──目論見通り大爆発が起こる。
「流石主人公」
夏油は思わず口から言葉が零れ落ちた。
そして大爆発によって海底神殿の天井が船が通れる程に開けられる。
だが海水の勢い凄まじく、海水は船内にまで入りこんでしまう。
夏油は呪力で強化し何とか耐える。
そうして耐え続けていると流石に人間である撫子は耐えられず意識を失ってしまう。
(おっと)
流れて仕舞いそうになる撫子を抱え、浮上するのを待つ。
そうしてついに地上にまで浮上する。
夏油は船室のドアを開け、海水を放出させる。
「ぷはっ」
夏油は口を大きく開け息を吸う。
「うーん。今日もいい天気だ!」
夏油は原作イベントを見れた事で満足し、倒れた。