その姿はまさに生きた厄災とも呼ばれた。
俺に不運があったとするなら…まずは見た目だろう。
腕が四本、腹にも口が備わっており、なまじ人間と呼べるか怪しいフォルムと特徴、更に顔には突出した外骨格が仮面のように右目付近を覆っているなんらかの動物とも例えられない異形。
あと個性にも拍車をかけた。要約するとキッチン調理で使う包丁、無機物と有機物の取捨選択の切断が可能な二つの斬撃個性は、ヒーローに向かず
そして両親の友好関係にも恵まれなかった…。
個性と呼ばれる超常の力が使える世界で、アメリカンコミックのヒーローとヴィランが凌ぎを削る。そんな世界で、個性を自由に使うことこそが真の自由であると謳う"異能解放軍"の初代主導者のデストロ、その息子であるリ・デストロを両親は最大限の助力を持って支持…いや陶酔していた。
週一で行われる集会には必ず参加し、そこに俺も個性が芽生えた四歳から強制参加させられた。
リ・デストロ…四ツ橋力也とは歳も近かったことから、何かと一緒にいる時間が増え、奇妙な幼馴染みたいな関係になっていた。
…あぁ、言い忘れていたが、不運にはそれなりの幸運が裏付けされると相場が決まってるが、俺が幸運な点だが…。
「"解"ッ!」
「ぐぅ…低威力の斬撃でストレスで強化されたこの体に傷をつけるのか…堕天!現代に蘇った"両面宿儺"はやはり伊達ではないな」
「くひ!力也、両の腕で斬撃を防いだか、また個性を伸ばしたか?やはり反射神経も大したものだな」
この世界を知った上で、別の世界から転生して来れた最大限の
それと両面宿儺と呼ばれているが、人並みの善性を持ち合わせているので、どこかで裏切るつもりだ。こんな馬鹿野郎共と一緒にいては此方までおかしくなる。
…まぁ、既にコイツとつるんで二十年ほど経っただろうか?一緒にバカをやるのも悪くないと思い始めた。
◆◆◆
二種類の斬撃を扱う個性も、当初は触れることでしか発揮しなかった個性だが、個性を伸ばした結果、遠隔…触れた空気の微粒子を伝って遠隔で発動させることもできる。要は個性の解釈の拡張だ。
水泳選手であったとしても陸を走れないわけではないし、その逆も然り、人魚姫でも魔女の手助けアリだが陸を歩けたんだ、コレしかできないという固定概念は早々に捨てることこそ躍進の早道だ。
個性を伸ばすという事は、勉強をするというわけではない。概念的な筋トレのようなものだ。
想像してもらいたいが、絵を描き始めて10分単位で絵が上手くなり始めていると実感できたら、果たしてやめられるだろうか…答えは否だ。
際限なく絵を…個性を伸ばして、いずれ到達点に…その体が出せる限界点に辿り着く。
紙に絵を書いたとして、余白が無くなればその絵を白く塗りつぶして新しく絵を描くか?…答えは否だ。新しい紙に絵を描くに決まっている。
そこで俺は個性を授けてくれるという魔王…オール・フォー・ワンとコンタクトを取った。生憎、"そういう"ツテは大いにあったので利用させてもらった。
利用できるものは利用させてもらう、悪だからどうとか、善だから良しだとかそういう潔癖はない。俺は俺の考える良し悪しで決まる。
直接の接触こそ無かったが、此方が指定したものの類似した個性の移植は滞りなく行われて、半年間の個性の定着を持って完成させた。
俺が指定したのは影を立体化させ自由に操る個性と、
一見すると実用性皆無で、むしろひ弱すぎてあってもなくてもわからない。個性を伸ばす前提なら影を立体化させ操る個性だけなら、恐らく出力次第ではプロヒーローにもなれなくはない。
そう、俺が提示した移植させる条件は個性を伸ばした時にようやく実力を発揮できるような個性だった。
組み上がる前のパズルは組み立てる過程が楽しく、組み上がった完成品を唐突に渡されたところで楽しいどころか寧ろ興醒めすらある。
0を1にすることができないならば、1にする事は仕方がないものとしよう。しかし、他人から10を貰うのは虫唾が走る。
どれだけ完成度の高い料理であったとしても、その味付けが俺好みでなければ、世間一般的に及第点でも俺個人納得はできないだろう。
あってもなくてもどうでもいい物をどれだけ磨くことができるか、研究と研鑽というものはそういうモノだろう?…尤も俺の目指す"両面宿儺"という理想像に、どれだけ近づけさせられるかという好奇心も大いにあるのは否定しないがな。
そしてそんなある日、ある男と出会った。ハリのある特徴的な大らかさすら感じる声の持ち主だ。
「やあ、虎杖堕天くん…それとも両面宿儺と呼んだほうがいいかな?」
「なんだ、見ず知らずの男…それともオール・フォー・ワンと呼んだ方が良いか?」
魔王との直接的な縁はそこから始まった。
◆◆◆
ある少年を拾った。拾ったというのは揶揄だな、親戚の中でたらい回しにされてきた少年を引き取った。名前をつけられる前に両親が死んだから、適当に呼ばれていたそうで名前は無いとのこと。
引き取ったのは俺の気まぐれだが、その少年は俺に捨てられないために料理を覚え、怯え切った態度をしていたが心底退屈な、生きることを含めた全てがどうでもいいとさえ思ってるような眼をしていた。
俺はコイツを見て、「もっと自由になればいいのにな」と感じた。コイツはひたすらに生きづらそうで、見ていて俺まで憂鬱になる。
「おい、俺がお前に名前も意味も存在理由も…生きる愉しさを教えてやる。お前は今日から"裏梅"と名乗れ」
"外典"と違う世界で呼ばれた少年は、俺が生まれたことから、その少年は"裏梅"と名付けられた。外典というコードネームは力也が名付けた名前だ。なら、俺は俺の呼びやすい名前にする。
◆◆◆
私は産まれを悼まれ、幼い時に両親を亡くし、親戚間で穀潰しの厄介者と思われ生きて来た。なまじ強すぎる個性がいつ暴発してもおかしくないと恐れられていたことも拍車をかけた。
そんな折、裏の世界で現代に甦った両面宿儺と呼ばれる人物に引き取られることとなった。
曰く、他の異形型と呼ばれる個性が裸足で逃げ出す様な化け物の様な見た目。その見た目から人を食べるなんて噂もある。
そんな人物に引き取られた時、私の人生は終わったとも思えた。私はその人に食べられないために、自分の存在理由を示そうと、慣れない料理を頑張った。
辛うじて人に出せる物にまで仕上げた料理を両面宿儺に出すと、その料理を訝しながら口に運び、横に座っていた私の頭に大きな手が触れようとしていた。
殴られるか、握り潰されるか…もしかしたらそのまま食べられてしまうのか…そういった不安から固く目を瞑ったところで、待っていたのはただ頭に手を置き私を撫でたこと。
「おい、俺がお前に名前も意味も存在理由も…生きる愉しさを教えてやる。お前は今日から"裏梅"と名乗れ」
ぶっきらぼうとも、自分勝手とも思える名付けは、彼が一番早いと思う距離の詰め方なんだと思った。
名前をつけられる前に両親が死んだことから、私を呼ぶときは「おい」か「お前」で何も与えられることがなかった自分の人生に、名前というものを貰えた事は我ながら単純に思えるが、誇りに変わった。
私はこの人について行こう。例え地獄であっても、彼が居れば、そこは私にとっての天国なんだ。一生お供いたします…宿儺様。
お疲れ様でした!
戦闘描写は…また次があれば…