「新しい天使」と題されているクレーの絵がある。それにはひとりの天使が描かれており 、天使は、かれが凝視している何ものかから、いまにも遠ざかろうとしているところのようにも見える。かれの目は大きく見ひらかれていて、口はひらき、翼は拡げられている。歴史の天使はこのような様子であるに違いない。かれは顔を過去に向けている。ぼくらであれば事件の連鎖を眺めるところに、かれはただカタストローフのみを見る。そのカタストローフは、やすみなく廃墟の上に廃墟を積みかさねて、それをかれの鼻っさきへつきつけてくるのだ。たぶんかれはそこに滞留して、死者たちを目覚めさせ、破壊されたものを寄せあつめて組みたてたいのだろうが、しかし楽園から吹いてくる強風がかれの翼にはらまれるばかりか、その風のいきおいがはげしいので、かれはもう翼を閉じることができない。強風は天使を、かれが背中を向けている未来のほうへ、不可抗的に運んでゆく。その一方ではかれの眼前の廃墟の山が天に届くばかりに高くなる。僕らが進歩と呼ぶのは〈この〉強風なのだ。
| プロローグ「転生林檎」 | |
| round 0「ゲルマニア=アウグステ」 | |
| 第一章「フランク帝国」 | |
| round 1「ゲルマン民族大移動」 | |
| round 2「メロヴィング」 | |