食戟のソーマ 十傑評議会入りRTA 「神の舌」不使用チャート 作:あらゆる幸運を用いたとて、
私の家では、週末に一度外食に行く決まりがある。決まりというには守られる回数の少ない決まりではあるけれど。
仕事の忙しい父がしてくれる唯一の家族サービスが日曜日の外食だった。行き先はじゃんけんで勝った人が決めれるので、私は勝つと決まってファミリーレストランを提案した。
苦い顔をした父親には目もくれずハンバーグを食べている光景が、何故か俯瞰された視点から記憶にこびりついている。
小学生高学年の頃には流石に舌も肥えてきて、じゃんけんに勝ってもファミレスを選ぶことは無くなって、代わりに父が選んでいた店の中からその日食べたいジャンルを選択して提案するようになった。
その中でも私がよく挙げたのがこの町中華、「山田飯店」だった。
ドアを開けると、むわっとした空気と共に脂っこい匂いが襲いかかってくるあの感覚が、私をこの店の虜にした。小さい頃は汚いと思っていた床のベタつきも、あの頃の私には何か特別なモノのような気がしていたのだ。
私が彼女の存在に気づいたのは、中学に上がる前だった。
注文を終えて手持ち無沙汰になっていた私は、店を見渡して暇を潰していた。そういえば厨房の方は見たことがないな、と視線を移したとき、目の中に小さな少女が入り込んできた。
私はとてもびっくりして、父親に早口で捲し立てた。
「パパ!見て見て!ちっちゃい子がお手伝いしてるよ!えらい!」
父は、少し顔を歪ませて「そうだな」と生返事を返した。後になって知ったが、小さい子を働かせることにあまり良い印象を持っていなかったらしい。
ともあれ私は、山田飯店の客として彼女、
中学生になった初日、入学式が終わり教室に戻ると前の方の席に怜樹ちゃんが居て驚いた。今になって思えば、あの地域の小学生は皆んなこの中学校に入るので、当たり前のことではあるのだが。
「怜樹ちゃん!お外いこーよ!」
入学からしばらく経って、私は怜樹ちゃんと行動を共にすることが多くなった。昼休みに入ると、私は決まって怜樹ちゃんと一緒に外に出る。
小学生の頃は児童でパンパンになっていた校庭も、中学生にもなれば人はまばらで空いていた。私達は昇降口から校庭に出ると、校庭の右端まで歩いて移動して、校庭を走り始める。
怜樹ちゃんは正直浮いていた。いつも眠そうだし愛想も良くない。おまけに、昼休みは校庭を走り込んでいる。周りの子は怜樹ちゃんのことを明らかに避けていた。
「はあ、はあ」
息が上がって、足を止める。
「……無理についてこなくていいのに」
前から怜樹ちゃんの声が聞こえる。
「別に私は気にしてないんだし、私についてくると貴方まで避けられちゃうよ?私のことを可哀想って思ってるなら、」
「怜樹ちゃんが可哀想だからとか、そんな理由でやってるわけじゃないもん」
校庭の真ん中の方から、ドッチボールをしている子たちの声が聞こえる。
「カッコいいなって思ったの。怜樹ちゃんが料理してるところ。だから、一緒にいたらダメ、かな……」
息はもう整った。怜樹ちゃんの顔をしっかり見て、返事を待つ。
「……まあ、それならいいけどさ」
「……!へへへ」
「なにその笑い方」
私は思い立ったように走り出し、後ろを見ずに言い放つ。
「ほら、置いてくよ〜」
「あ、ちょ、ずるいっ!」
────
「遠月茶寮料理學園?」
中学3年の秋、進路志望を決める授業の最中。怜樹ちゃんは長ったらしい名前を紙に書いていた。
「……知らないの?」
「うん」
「ウソでしょ……?」
怜樹ちゃんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして私の方を見てくる。確かに常識知らずなところがちょっぴりある私ではあるが、流石に学を學と書くような学校が常識な訳はないはず……
「そんなに頭いい学校なの?」
「あー違くて、料理の学校」
「ふーん?」
成程料理の学校か。なら私が知らないのも無理はないだろうに。……というか、この辺りにそんな学校があっただろうか。
「聞いたことないけど、どこにあるの?」
「東京」
「え?」
「ん?」
東京?
────
「東京でも頑張れよ〜!」
「風邪ひくなー!」
少し暖かくなってきた風を受けながら、怜樹ちゃんが乗った船を見送る。
「……むぅ」
私と怜樹ちゃんの家族しか来ないんじゃないかと思っていたが、意外と人がいる。まあ多くは漁師らしき風貌の人たちだけど。
「あ〜あ。行っちゃったなぁ……」
料理の勉強って、あんなに美味しい料理作れるならもう学ぶことなんて無いと思うけどなぁ。今更豆腐ハンバーグのコツ!みたいなこと教えてもらってどうなるんだろ。
「……はぁ」
名前も覚えていない料理の学校に心の中で悪態をつきながら、私は小さくなっていく船をいつまでも眺めていた。