▼水木が不老ほぼ不死なのは幽霊族の血液浴びた余波とかそういう感じ
pixivより転載
まだ夏休みだった頃のことだ。
「そう言えば、終戦日間近になると思い出す奴がいるんだよなぁ」
差し入れの西瓜を頬張りながら、百暗がふと言う。
「八重ちゃんの曽おじいさんじゃなくて?」
「そっちもまぁ思い出すっちゃ思い出すがな。兵隊時代の同じ部隊に、水木って奴がいてな」
種を吹き飛ばす。
「そいつはやけに生命力が強い奴でなぁ。1度酷い怪我を負ったんだが、こいつは生き残るだろうってことで俺は灯をやらなかった。後で少し後悔したが、結局そいつは俺の予想通り復活した。まぁ怪我の跡は残っちまったらしいがな」
「凄いな」
「だろ? あとそいつは佐田啓二みたいな今でいうイケメンでな」
「誰?」
「あー今の奴はわかんないか……まぁ当時の二枚目俳優だと思ってくれりゃいい。そんなわけで、よく上官にケツを狙われてた」
「わぁ」
真木は思わずアイスを片手に尻を隠す仕草をした。戦場に駆り出されて、性的に味方から狙われる。とんだ地獄だろう。真木が思わず身も知らぬ「ミズキ」という人物に同情していると、モグラは言う。
「あんまり気の毒なんで見かけたら庇ってやってたんだが、水木はそれを恩に思ってくれたらしくてな。戦後復員して奴も色々あったらしいが、俺のことも気にかけてくれた。一応同じ東京にいたわけだしな。まぁこの通り抽斗通りは『こんなの』だから俺の場合は自宅は無事だったんだがな。ついてる方だったよ俺は」
真木と八重子が何とも言えずに聞いていた。自宅の有無は生命にもかかわる。80年近く前にその辺りに転がっていた悲劇だ。
百暗は語る。
「そのうち血液銀行ってのができてな。今の血液センターだが、当時は売血ってのがあって……まぁ文字そのまま血を売ることだな。奴はそこにうまいこと入ってのし上がっていった。あいつは『食われるがままの弱者でいられるか』っていつも怒ってたな。気持ちは分かったが、無理はしないで欲しかったよ。で、戦後10年経って、奴は無理をしたらしい。とある小さな村が壊滅して、そこから奇跡的に助けられたのが、何があったのやら総白髪になった水木だった」
「──」
「そのときは俺が水木が収容されたって言う病院まで行ったよ。水木のお袋さんをひとりで行かせるわけにいかなかったからな。そこで、魂の抜けたようになった水木を見つけた。実際、村にいた間のことは記憶喪失で、何があったかてんでわかりゃしない。警察もこりゃダメだってことで水木を返してくれたよ」
沈黙が下りる。
百暗は西瓜に齧りついた。
「それからしばらくは俺が水木の世話をした。お袋さんには家事をやってもらわないといけなかったからな。それにどうせ俺は暇だったし。しばらくしたら会社に復帰できるぐらいには回復したから、俺は帰ったよ。心配だったがな……多分灯を使ってもどうしようもなかっただろうし。で、しばらく間が空いた」
百暗は言った。
「5年後に再会したとき、なんとまぁ子どもを連れてた」
「えっ」
「結婚したんですか、ミズキさん」
「いや、拾った子だったらしい。まぁあの頃には捨て子なんてよくある話だったからな。今も珍しくないだろ? それはともかく、俺はそれを見て直感した」
百暗は言った。深刻な顔で。
そのとき、ふと足音が近づいてきたことに真木は気付いたが、百暗の話に夢中になってしまった。
「『あぁ、彼岸に片足突っ込んだな』って。……その子どもは、どうにも人ならざる者の気配がしてた。それでも俺は何も言えなかった。家族の関係に嘴を突っ込むと痛い目を見るからな。でも、もう水木とは会えないだろうな、と思った。あれから60年経つ……」
「よ」
不意に、やけに気軽な男の声がした。
百暗は眉間を顰めた。真木と八重子はきょとんとそちらを見る。
着流しにレジ袋と言うちぐはぐなようで日常に馴染んだその姿。顔は若々しいのに頭は総白髪。欠けた左耳と、首筋に火傷の痕が見える。
百暗は不機嫌そうに言った。
「で、こいつがくだんの水木だ」
「えっ」
「えっ」
「何の話をしていたかは知りませんが、どうも水木です。この抽斗通りにいるってことは君たち若そうだけど俺らの同類か? 百暗」
「違う。彼らは一般人。そういうお前こそいい加減くたばれよ。お前こそ人間だろ!」
「死ねないから仕方ないだろ。それより浮雲さんはどこだ? 天狗の酒を持って来たんだが」
「なんでお前毎回土産が酒なんだよ! 俺飲めないつってるだろ!」
「お前にはこれ」
「なんで毎度寒天ゼリーなんだよ! おじいちゃんか!」
「俺もうじじいだからな」
ぎゃあぎゃあ喚き合う彼ら。ぽかーんとしていた彼ら。名を呼ばれてやってきた浮雲に、真木は問うた。
「あの……ミズキさんっておいくつなんです?」
「90歳は越えられたはずですよ」
「きゅうじゅっ……」
八重子が絶句した。そう言えば百暗と一緒に戦場にいたならば、雄八とも歳が近くて当たり前なのだ。
そして、確実にキーポイントとなるだろう、水木の個人史における「村の壊滅」について気になって仕方なくなった真木と八重子だった。百暗と水木の口論は続く。
どうやら、何かしら気を回す百暗が気の置けない間柄らしい。それに真木と八重子はどこかで安堵したのだった。
「そういや梗史郎元気か?」
「まだ元気だな。相変わらず太らないが。藤史郎もまだ大丈夫だ」
「父親が健在ならよかった。杏子さんも心配だしな」
「猫附家ともお知り合いなんですかあなた……」
了