立派になった弟子達が責任を取らせに来る話   作:PER

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『レイ』について

 あ? 何顔真っ青にしてんだ。おまえにゃ関係ねー話だろうが。

 何だって? 胃が痛い? 食い過ぎたか?

 いや、だから何で叩くんだよ。痛くも痒くもねーけど鬱陶しいんだよそれ。

 

 ……は? さっさと続きを話せ?

 ったくよくわかんねー奴だなァおい。

 まぁいいよ。どうせまだまだ話は続くんだし。

 

 えーっと、アリアと別れたところからだったな。

 あの後は、そりゃあもう凹んだよ。俺は。

 2、3年くらいずーっと後悔してた。

 もうちょい一緒にいればよかったなーとか、やっぱり娶りたかったなー、とか。ずっと。

 

 だって超最高の女なんだぜアイツ!?

 気遣いも完璧だし、俺のことは俺以上に知ってるし。

 アイツ以上にいい女なんて一人も居ないね。少なくとも、その辺にあるような女どもの中じゃあ。

 

 だから……まぁ、何だ。

 俺は次の女を育てる事にした。

 ホラ、恋愛の傷は新たな恋愛で消す、みたいなのあるだろ? アレと一緒だよ。

 あのままじゃあずっとアイツの事引きずって、どうにもならねーと思ったから……な。

 

 んで、そっから、俺は新しく育てるガキを探し始めた。

 たっても当然だが人間のガキじゃあねぇ。

 最低でも万年は生きられるような長命種である事が最低条件だ。

 

 ……だがまぁ、知っての通り、長命種のガキなんてのはそうそう見つかるモンじゃねぇ。

 普通の長命種だって、俺が見たのは数百年かけて世界を旅している中でたった十数回だけ。

 まぁ、その内の2、3度は長命種の里を見つけたって話だから出会った長命種の数でいやぁ数百とかなんだけどさ。

 え? 何の種族かって?

 巨人と、マーメイドと……あとは……ああそうだ、鬼ってやつだったか。

 

 あー、そう。鬼ね。オーガじゃなくて。

 オーガの上位種族みたいなモンよ。人間の何倍も賢いし、強いし、魔法も使う。

 洞窟から入れる地下にクソデケェ空間があってさ。そこに里築いてやんの。

 しかもその里がすっげぇ奇妙でなぁ。

 今度行く機会がありゃあ色々と見てくればいいぜ。

 特に『過去と現在を映す鏡』は必見だ。

 

 ……っと、話が逸れたな。

 

 んで、長命種の里にもちょいと滞在して分かったんだが……長命種のガキって、とにかく里の外に出ねぇのよ。

 里の中でありゃあ遊んだりもするんだが、里と外の境界近くには近づこうとすらしねぇ。

 いやマジで本ッ当に近づかねぇのよ。鬼ごっこして遊んでても、里の外に出そうってなるとどんな無理なルートでも中に戻ろうとしやがる。

 一体何なんだろうな? 普通、ガキっつったら大人に内緒で村の外に出て親にこっぴどく怒られるモンだと思うんだが……さて、本能的な何かがあるのか、小さな頃からの刷り込みか……もしくは人間のガキの方が生き急ぎすぎなだけなのか。

 

 まぁとにかく、長命種のガキを人の世で見ない理由は多分そこなんだよな。

 そもそも外に出ない。だから人の世界になんて当然出ない。

 だから本来、長命種のガキを見つけるには、その種族の里を見つけるしかないのさ。

 

 ……いや、そうなんだよ。

 だからアリアってマジで奇跡みてぇな存在だったのよ。

 本人曰く魔法の練習に失敗してぶっ飛ばされた先に人間がいて捕まったって話らしいけどさぁ……どんな奇跡だよって話だ本当に。

 

 んで、まぁそんな奇跡が2度も起こるとは俺も思わねぇ。

 だから俺は今度は長命種の里を見つけて、そっからガキを攫ってやる事にした。

 

 つっても、さっきの3種の長命種の里からじゃあねぇ。

 巨人属なんざデカすぎるし、マーメイドは生息域が違いすぎる、そして鬼は攫ったところで一瞬で補足される。

 だから俺は他の種族の里を見つける必要があった。

 

 いやー、そっから頑張ったんだぜ? 俺。

 以前の冒険の時よりも、人の避けるような秘境とか絶境の中を敢えて進んで行ってさ。

 いやマジでアレはキツい。仙に至った俺ですらキツい。完全に人間辞めない限りあそこで暮らすのは無理だわ。

 ああいう領域って、そもそも人間用に用意された場所じゃねぇんだろうな。

 

 氷極の領域を歩いてる時なんて特にそう思ったね! 凍るんだわ、体が! 血が! 目が!

 別の種族の里は見つけたっちゃ見つけたけど、イエティとか言う毛むくじゃらのバケモンしか居なかったし、そもそも長命種じゃねぇし……最悪だった。もう2度とあそこには行かん。

 

 はぁー……まぁ、うん。本当に、本当に大変だったよ。

 さっきのイエティのにも言えるんだけど、どれだけ頑張っても見つけた種族が人間好みの顔じゃない、あと普通にそもそも長命種じゃない、なんてのがずっと続いてさ。

 10年くらいずーっと苦行を繰り返してたよね。

 でもまぁ、最終的に見つかったから良かったよ、うん。

 

 天衝山ってあるじゃん。あの東の方の、馬鹿みたいに高い山。

 周囲の環境も何もかもが厳しすぎて、そもそも麓にすら辿り着けないって言われてるあそこ。

 そこにねぇ、あったんだよ。竜人って種族の里が。

 いや本当、スッゲー所だった。

 山の中腹くらいに里作ってたんだけどさ、美人しかいねぇの!

 男も女も肌が真っ白で、目が切れ長で、鼻の形もシュッとしててさ。

 八方美人なんて言葉があるけど、八方美人は八方美人でも『八方(に)美人(しかいない)』って感じだったよ。いやマジで。

 スラっとした細身の体に角とか尻尾が生えてたり、瞳孔の形が蛇みたいだったり、所々に鱗が生えてたりもするんだけどさ、全然気にならないよね。

 むしろそれがあるからこそより神秘的で、より綺麗に見えたんだと思う。

 

 ……で? どんな種族だったかって?

 あー……何だろう。とにかくプライドが高いって感じか。

 最初俺のこと見た時はみんなびっくりすんのよ。何でこんな所に人間が!? ってな感じで。

 でもそのすぐ後にねー……こう言うのよ。

 

「此処は貴様のような人間風情が至っていい領域ではない。疾く去ね」

 

 って。

 いやー、うん。スッゲー傲慢。

 でもね、実際ね、すごいモンよ、アイツら。

 生まれながらにして人間とは格が違ぇわ。

 人間『風情』なんて言えるくらいには種族としてのパワーが違いすぎるわ。

 それこそトカゲとドラゴンくらいの差があると思うよ? 俺らとアイツらでは。

 多分アイツら、天使とか多腕族と同じく、神の手が入ってる種族だね。

 

 でもそんなのが相手だろうと、俺にとっちゃあ関係ないわけよ。

 

「帰って欲しけりゃここで一番綺麗で幼い娘を寄越せ」

 

 って言ってやったのよ、アイツらに。

 当時の俺ってばただでさえアリアを失って傷心中な上に、自然環境に散々打ちのめされてて滅茶苦茶気が立ってたからさ、まぁ仕方ないよね。

 んで、まぁ当然だけどその場に居た竜人達、全員ブチギレて襲い掛かってきやがんの。

 もちろん全員ぶっ飛ばしたよ? 

 俺ってば究極の大天才だし。

 神の手が入ってるってだけで神そのものじゃねーんだからそりゃあ勝てるよ。

 

 で、まぁそのあとは好き勝手里の中を探索させてもらって、一番綺麗だった娘を連れてきた。

 人間で言うところの12〜13歳くらいの子。

 いやぁ、スッゲーよ。マジで。それこそ神が直接自分の手で作ったんじゃねーのってくらい綺麗な子だったわ。

 まず肌がもう超綺麗。で、長い白い髪は、なんかこう老人の白髪みたいな感じじゃなくて、清流の流れみたいに透き通っててさ。目なんてもう……浅葱色っていうの? 青と緑の中間っぽい色なんだけど、宝石みたいにキラッキラしてて。

 肩から覗く鱗もすっげー綺麗。透けてね? って思えちゃうくらい綺麗。

 

 いや、さっきから綺麗しか言ってないけど、本当に綺麗なんだよ。

 嘘だと思うなら実際に見てほしいわ。

 実際に見てみたら常人なら気とか失うんじゃないの?

 アレを絵に表すのは無理。目で見ないと無理。

 どれだけすごい画家でもアイツの美しさを表現するのは絶対に無理って断言する。

 だって俺でも無理なんだもん。

 

 ……え? そいつの名前? 何で今?

 まぁいいよ、レイだけど。

 ……あー、そう。それ。『麗』って書くらしいね、竜族の文字だと。

 

 いや、ってか何でそんな事知ってるのよ。

 ……へぇー。そうなんだ。アイツ、人の世で生活してんだ。ってかあの国の女皇だったんだ。知らんかった。

 あそこの国連中、女皇様がー、女皇様がーって五月蝿いって思ってたけど、アイツが女皇様だってんなら納得だわ。それだけ綺麗だからな、アイツ。

 

 ……ん? どんな感じに育てたのか詳しく話せ?

 まぁまぁ、言われずとも話してやるから、大人しく聞いてろ。

 

 俺がアイツを攫った当初、アイツはそりゃあまぁ暴れたモンだった。

 当然っちゃあ当然だろう。いきなり攫われたかと思えば、見ず知らずの下等種族が自分を育てるだの娶るだの抜かすんだから。

 まぁ勿論、俺は大天才だから。

 いくらアイツが暴れようが、いくらアイツが俺を殺しに来ようが、俺には届かない。

 

 むしろ丁度いいと思って、アイツからの攻撃かわしながら色々と教えてやったわ。

『最高の女』に育て上げてやるんだったら矯正するのが良かったんだろうけどさ。やっぱり俺ってば弱い女が嫌いだし、完璧すぎると前みたいに俺がソイツに相応しくなくなっちゃうからさ。

 むしろ欠点があってくれた方が良かったわけよ。

 だからアイツの負けん気と傲慢さはそのままにした。

 そのままにして、徹底的に上下関係を叩き込んだ。

 

「気に食わん」

 

 それがアイツの口癖だった。

 洗濯しろだとか、掃除しろだとか、もっと行儀良く食えとか。

 俺がそう指摘するたびにアイツ、そう言うんだわ。

 俺に攻撃を仕掛けて、俺に負けた時もそう。

 

「気に……ッ、食わん……ッ!」

 

 ってな。

 スッゲー悔しそうに顔歪めて言うんだわ。

 そんな表情も死ぬほど綺麗なんだから、スゲーよなアイツ。

 

「気に食わん! 気に食わん気に食わん気に食わん! 人間如きが妾に指図するのも! 人間如きに負けるのも! そして貴様が妾を娶ると言って憚らないのも! 何もかも気に食わん!」

「気に食わなくて結構。むしろ気に食わないままでいてくれ。そっちの方が都合がいい」

「はぁ〜〜ッ!? いっつもそうじゃのう貴様! 本当に何なのじゃ! 一人で騒いでおる妾が馬鹿みたいではないか!」

「お前らしくていいじゃねぇか」

「妾を馬鹿だと言っておるのかそれは!?」

「どーだろーな……っと。まっ、どうせ最終的には相思相愛の関係になるんだから、今のうちに騒いどけ騒いどけ」

「ぐぎぃ……! 馬鹿にしおってぇ……!」

 

 500年くらいず〜っとこんな感じよ。

 いやぁ、新鮮だったわ。

 アリアってとことん俺に従順だったからさ、こういう暴れ馬を世話する感覚は本当に久々で。

 楽しかったよ、本当に。

 

 しかも表情がとんでもなく豊かなんだわ、コイツ。

 からかってやるのが本当に楽しくて楽しくて。

 手玉に取ってやるとコロッコロ表情変えるのがマジで面白い。

 

 あ、でも特に楽しかったのはやっぱりベッドの上ね。

 無駄にプライドが高い分、頑張ろうとしてくれるんだけど、毎回毎回俺に負けちゃうの。

 

「気に食わんッ……♡ ハァ、ハァ……♡ 気に……食わん……♡ おお゛っ……♡」

「いつまでやってんだお前……さっさと体力回復しろよ、さっさと洗いてェんだわそのベッド。毎度毎度ビッチャビチャにしやがって」

「ぎぃ……っ、黙れッ♡ 黙れ黙れ黙れ黙れッ♡ 誰のせいっ♡ 誰のせいだと……あ゛っ♡」

「うわぁ」

 

 うん、まぁ、うん。

 本当に手のかかるやつだったよ。楽しかったからいいんだけどさ。

 でもねぇ……うん。やっぱりねぇ、駄目だったわ。

 何が駄目って、俺また娶りたくなくなっちゃったんだよね。

 

「なぁ、レイ。ちょっと話いいか?」

「何じゃいきなり。そろそろ娶らせろとか言うつもりか」

「あー、そう、それ」

「言っておくが妾は貴様の番になんぞなるつもりは無いからな。貴様の子を産むなど以ての外じゃ」

「お、じゃあ都合良いわ。俺、お前を娶るのやめたから。ここからも消えるし、あとはもう自由に生きて良いぞ」

「は?」

 

 その頃にはもうアイツもすっかり成長してたんだけどさ。

 やっぱりとんでもなく綺麗なのよ。本当に綺麗。『美しい』って言葉がそのまま形を持ったみたいな。

 スラっとしてて、でも程よく肉の付いた体にはほんの一分の無駄もなくて。

 顔なんてもう兵器だよ、アレはもう。

 さっきも言ったけど多分、男でも女でも、アレを直接目で見たら卒倒する。

 女皇にそう言う逸話とか無い? あるでしょ?

 ……やっぱりね。その頃にはもうアイツ、そんくらい美しかったのよ。

 

 んで、まぁそんなアイツに別れ話を持ち出したんだけど、そしたらもう、アイツすっげぇ怒りやがんの。

 

「何を言うておる!? 貴様が妾を()()したのじゃろう!? 貴様が! 貴様が妾を! それを、それを今更になって捨てるつもりか!? 他所で他の女を作る気か!? ふざけるな! ふざけるでないわ! 責任を……責任を取れ! 責任を負え!」

 

 って感じで。

 いやまぁ、悪い事はしたと思ってるよ。

 竜人の里から無理やり攫ったこととか。

 攫った癖に最後まで責任取れないってのも、正直まぁ、うん。最低だとは思ってる。

 

 でもさぁ、仕方ないじゃん。

 思っちゃうんだよ。コイツが『気に食わない』って言うたびに。

 コイツにとって俺と婚姻を結ぶ事は、幸せなのかなって。

 

 勿論俺は幸せだよ。だってレイは一緒にいて楽しいし。

 ガキが出来たとして、多分俺はソイツのことを十分に愛せるだろうし。

 アイツと一緒に生きて行くことに、何の不満もないわけ。

 

 でもさ、アイツからすれば違うんだよ。

 俺みたいな下等種族に勝手に攫われて、躾けられて、犯されて。

 人間からすれば猿に攫われて躾けられて犯されるみたいなモンだぜ? 最悪だろ。

 そう考えるとさ、俺がアイツを娶って幸せになったところで、アイツは幸せどころか、むしろ地獄のどん底みてぇな気分になるんじゃねぇかって。

 そう思っちまった。

 

 だから、娶らないことにした。

 

「貴様が居なくなってしまったら、妾は……妾は、いったい、どうすれば……?」

「……すまなかったな。今まで。……どうか、幸せになってくれ」

「どの……口で……っ! 何が……! 貴様がっ! 貴様が、妾を幸せにするんじゃろうが……っ!」

 

 俺は涙を流すレイの顔を見ていられなかった。

 その泣き顔があんまりにも美しすぎて、決意が揺らいでしまうからだった。

 

「……ありがとう。楽しかった。…………すまない」

 

 気の利いた言葉が思いつかず。それだけ言い残して。

 俺は駆け出した。

 

「ッ、逃げるなぁ! 責任から、妾から、逃げるなぁぁああああああああああああああああ!」

 

 大気を揺るがすような咆哮だった。

 だが、俺は止まらなかった。勿論、一回も振り返らなかった。

 

 ……………アレから幸せになれたかどうか、不安だったがな。

 そうか。うまくやってるのか。じゃあ、もう大丈夫だよな。

 ははっ……あー……会いてぇなぁ……もう一回なぁ……

 まぁ、アイツとしちゃあもう俺なんて顔も見たくもねぇんだろうなぁ……ははっ、はははははははははっ…………はぁ…………

 

 あー、惨めだ。




竜皇国シェン……女皇の隣、皇帝の座には、未だに誰も座っていない。
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