昨日の模擬戦の余韻を残したまま、1年A組はホームルームを迎えていた。教室の空気はざわついている。
「1年生のヒーローインターンだが」
教壇に立つ相澤先生が口を開いた瞬間、空気が引き締まる。
「昨日協議した結果、校長をはじめ多くの先生が『やめとけ』という意見でした」
静かな声が響き、教室にざわめきが広がった。
「えー!あんな説明会までして⁉︎」
上鳴が大げさに肩を落とす。
「でも……全寮制になった経緯から考えたらそうなるか」
切島が現実的に頷く。そのとき、机を叩くようにして爆豪が叫んだ。
「ざまア!!」
参加できない自分が悔しいはずなのに、妙に嬉しそうに口角を上げている。
(爆豪さん……子供ですわね)
時崎はふっと小さく笑った。
だが相澤先生は、教室の空気を一刀両断するように次の言葉を告げた。
「……が、今の保護一辺倒の方針では強いヒーローは育たないという意見もあった」
一瞬、教室が静まる。
「結論として『インターン受け入れの実績が多い事務所に限り、1年生の実施を許可する』。そう決まった」
その瞬間、爆豪の顔が引きつる。
「クソがァ!!」
彼の怒声が教室に響き渡り、クラスの空気は再び騒然となった。
時崎は放課後、静かな教室で携帯を耳に当てていた。職場体験と同じように、エンデヴァーの事務所にインターンを申し込むつもりだったのだ。
「……なるほど、そういう状況なのですね」
携帯から響くのは、サイドキックのバーニンの説明だった。
今、エンデヴァー事務所は海外で活動するヴィランの足取りを掴むため、総力を注いでいる。インターン自体は受け入れ可能だが.....正直、満足のいく活動は期待できない。
「承知しました。ご丁寧にありがとうございます」
通話を終え、時崎は小さく息をついた。
(困りましたわね……エンデヴァーさんの事務所が難しいとなると……)
思案に沈んでいると、廊下の向こうから軽やかな声が飛んできた。
「どうしたの、狂三ちゃん?」
蛙吹が首をかしげるようにして近づいてきた。その隣には麗日の姿もある。
「実は……エンデヴァーさんの事務所にインターンを申し込もうとしたのですが、どうやら向こうの都合が悪いようでして」
「ケロ。それは大変ね」
時崎が説明すると、麗日の目がぱっと輝いた。
「あ、じゃあさ! うちらと一緒のとこにしない?」
「お二人のインターン先は……どちらの事務所でしょう?」
「ドラグーンヒーロー《リューキュウ》の事務所!ねじれ先輩が誘ってくれたの!」
その名を聞いた瞬間、時崎の脳裏にニュースや雑誌で見た姿がよぎる。
若くしてヒーロービルボードチャートJP9位。実力はもちろん、ドラゴンに変身する豪快な個性で、特に若年層から絶大な支持を集めるクールなプロヒーロー、リューキュウ。
「それは……ありがたいお話ですが、人数の関係は大丈夫ですの?」
麗日は携帯でリューキュウの事務所に確認を取る。
「問題ないって!」
麗日が答え、蛙吹も頷く。
時崎は二人の善意を正面から受け止め、深々と頭を下げた。
「お二人とも、ありがとうございます。そのご提案、乗らせていただきますわ」
そう告げる時崎の微笑みは、いつもの皮肉を帯びたものではなく、純粋な感謝の色を宿していた。
そして数日後、時崎達はインターン活動を開始した。
「ここね……」
「ここだね」
「ここですわね」
三人の声が、建物の前で重なった。
蛙吹、麗日、そして時崎。雄英高校の女子生徒三人は、スマホに送られてきた住所を頼りに足を運び、ようやく目的の場所に辿り着いたのだった。
ビルの外観は思ったよりも落ち着いていて、派手さはない。だが、どこか荘厳な雰囲気を漂わせており、ただの事務所ではないことを感じさせる。
「そろそろだね、予定の時間」
「遅れないようにしないとですわね」
三人は頷き合い、扉を押し開ける。
中に入ると、受付のスタッフがすぐに対応してくれた。簡単な手続きを済ませ、案内を受けて奥の事務所へと足を踏み入れる。
そして、扉を開いた瞬間、彼女たちの目に飛び込んできた光景は想像を超えていた。
赤を基調とした壁。天井から吊るされた豪奢な龍の意匠。柱には金色の装飾が絡み、彫刻のように精緻な模様が浮かび上がっている。
まるで異国の宮殿に迷い込んだかのような中華風の空間は、ただのヒーロー事務所とは思えない威厳と存在感に満ちていた。
「すご……ここ、本当に事務所なの?」
麗日が思わず息を呑む。
「どちらかといえば、宮殿みたいですわね」
狂三は口元に指を添えて微笑み、蛙吹はしっかりと周囲を見渡してから頷いた。
「雰囲気に圧倒されるけど……落ち着く感じもするわ」
その時、奥の扉が開き、長身の女性が姿を現した。
「ようこそ、リューキュウ事務所へ」
現れたのは、鋭い瞳としなやかな体躯を持つ女性ヒーロー。ドラグーンヒーロー《リューキュウ》。
三人は自然と背筋を伸ばし、順に自己紹介をしてヒーロー名を名乗る。
リューキュウは真剣な眼差しで彼女たちを見渡し、やがて時崎に視線を留めた。
「お茶子ちゃんから“もう一人一緒にどうか”と相談を受けて承諾したけれど……まさか貴女だったのね」
リューキュウの視線が時崎に向かう。
事実、雄英を首席で入学し、体育祭ではほぼ全ての競技を1位で制覇し、圧倒的な策略で優勝した少女、時崎狂三。その名は既に、プロの間でも広く知られていたのだ。
「改めて聞くと、時崎さんってやっぱりすごいわ……」
麗日が小さく呟き、蛙吹も「ケロ」と頷いた。
リューキュウは表情を緩めずに、事務所の活動方針を語った。ここでは主に、ヴィランの鎮圧に重点を置いている。
派手さはなくとも、確実に人々を守るための実働部隊。それがリューキュウ事務所の姿だった。
“……わたくしの《刻々帝》も、鎮圧にはうってつけですわね”
時崎は心中で微笑み、口元にわずかに影を落とす。彼女の中では、既にこの環境での自分の役割が見えていた。
「それじゃあ、コスチュームに着替えてきて。あちらの更衣室を使ってちょうだい」
リューキュウの指示に、三人は同時に頷いた。
「「「わかりました」」」
声を揃え、三人は更衣室へと向かう。歩きながらも、それぞれの胸の内には期待と緊張が交錯していた。
その中でそれぞれのヒーローとしての姿へと身を包んでいくのだった。
更衣室の中は、静かな緊張とわずかな興奮が入り混じる空気に包まれていた。
ロッカーの並ぶその一角で、時崎狂三、蛙吹梅雨、麗日お茶子の三人がコスチュームを整えていると――
「やっほー!!」
明るい声が響いた。すでにヒーロースーツに着替え終え、腰に手を当てていたのは、三年の波動ねじれだった。
青と白を基調としたコスチュームに身を包み、髪を軽やかに揺らしながら、にこにこと笑っている。
「リューキュウさんから聞いてるよ! 一年生が来るの、すっごく楽しみにしてたんだ~!」
「波動先輩、インターンのお誘いありがとうございます!」
麗日が御礼の言葉を言うと、ねじれは「どうってことないよ!」と軽やかにいった。
「改めて自己紹介するね。私、波動ねじれ! ヒーロー名は《ネジレちゃん》! よろしくね~! それでそれで、君たちって体育祭で大活躍したって聞いたんだけど、あれ本当に全部自力なの? あ、もしかしてチームワーク重視タイプ? それとも個人戦で爆発的なタイプ? あとそのコスチュームって機能面どうなってるの?!」
次から次へと飛び出す質問。まるで弾丸のように間髪入れず繰り出されるその言葉に、麗日も蛙吹も圧倒され、目をぱちくりとさせるばかりだった。
時崎だけは、そんな光景を見ながら少し苦笑した。
(……これが、マシンガントークというものですのね)
彼女の中でも、ようやくその言葉の意味が腑に落ちた気がした。
そんな事がありながらも着替えを終える。
「着替えたわね。じゃあ、行きましょうか」
リューキュウが入口から声をかける。
「「「分かりました」」」
三人の声が重なり、そのあとに元気よくねじれの「はーいっ!」が続いた。
四人は並んで更衣室を出る。廊下を抜け、外の光が差し込む玄関口へ。
今日の活動は、まず近辺のパトロールから始まるらしい。
街へ出ると、すぐに視線が集まった。
竜の名を冠するプロヒーロー《リューキュウ》。そのNo.9の名声は街中に広く知られており、行く先々で人々が立ち止まり、写真を撮ったり声をかけたりしていた。
さらにその背後には、雄英高校の制服の意匠を残したコスチュームを着た一年生三人、そして三年生の波動ねじれ。
まるで雑誌の見出しになるような顔ぶれに、通行人の注目は一気に集まる。
「わぁ、リューキュウさんだ!」
「あの後ろ、雄英の子たちじゃない?」
「ほんとだ、体育祭で見た子もいる!」
ざわめきが広がる中、リューキュウは一切動じず、堂々と前を歩く。
「注目されるのも、プロの仕事のうちよ。落ち着いて行動してね」
その言葉に、時崎は静かに頷いた。
“視線を集める”ということは職場体験でも経験したが、インターン活動となるとより重く、そして現実的な意味を持つのだと、彼女は改めて実感していた。
その思いを胸に刻み、時崎達の初めてのインターンが本格的に始まったのだった。
当初、インターン編は
はい....全部作者の自業自得です....すみませんでした。
そのスランプ状態のなか友人に頼まれ、リコリスリコイルの二次創作、「リコイル•ギア•リコイル」を書きました。まぁ.....ついでに読んでくれると嬉しいです.....