便利屋68。それはキヴォトスをまたにかける非合法企業。キヴォトス屈指の少数精鋭たる彼女たちは記憶喪失の少女ーーハクノと共に暮らしていた。
これは本来、この世界にはいないはずの少女ハクノが便利屋オペレーターとして、キヴォトスで暮らしていく物語である。

*筆者はにわか
*ブルアカのゲームはシナリオが肌に合わず挫折。今は便利屋業務日誌が好き
*便利屋68推し
*fateではネロが推し
*あくまで短編。連載候補

この辺が無理な方はブラウザバック推奨

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えー現実逃避気味に短編書いてみました。
是非とも読んでみてください。便利屋68最高


便利屋はくのん

 

 『便利屋68(シックスティーエイト)』それは学生たちが規律と自由、そして暴力の名の下、青春を謳歌する学園都市キヴォトスをまたに駆ける非合法企業。破壊、誘拐、強盗…それが犯罪であろうと構わない。報酬次第でどんな依頼でも遂行する“何でも屋”である。

 無慈悲、冷酷、冷徹。彼女たちを前には例え裏社会の大物であろうとも敵わない。もしも歯向かうのならば卓越した智謀、圧倒的な破壊、戦慄する狂気、そして、それらを牽引する絶対的なカリスマによって叩き潰されるだろう。キヴォトスでも屈指の実力者が揃う少数精鋭にして、悪名高い指名手配犯(アウトロー)。それが彼女たち便利屋68である。

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「な、ななな……なんでこーなるのよーっ!!?」

 

 

 子供たちが銃弾に気絶(倒れ)、窓は粉砕され、建物が倒壊し、指示と悲鳴、怒号が銃撃と爆発の暴威によって文字通り消し飛ばされる混沌と暴虐の嵐の中、赤髪の乙女の悲鳴がこだまする。

 それはまるでこの世全ての善、この世の全ての悪、全ての理不尽を纏めて糾弾したいという意思が篭ったかのような、大きな大きな声量であった。

 彼女の名は陸八魔アル。便利屋68の社長を務める悪党(アウトロー)に焦がれる少女である。

 え?前文と印象が違うって?嘘は言ってはいないのでセーフ。

 

「社長、まずいね。どこもかしこも風紀委員や不良だらけだ。突破だけならできなくはないけど、確実に風紀委員長が来るよ」

 

「そ、それはまずいわ!こいつらだけなら兎も角、今の装備じゃ風紀委員長(ヒナ)なんて相手にできないわよ!!課長、なにか作戦とかない!?」

 

 社長と呼ばれた赤髪の少女は慌てながらも、鷹の目の如き鋭い目をした少女に聞く。

 課長と呼称されるのは鬼方カヨコ。便利屋68における頭脳担当(ブレイン)である。

 

「あははっ!なら、ここら辺一体、吹き飛ばしちゃおうよ!!敵もビルも諸共さ!!」

 

「吹き飛ばすんですか?わかりました。吹き飛ばします吹き飛ばします吹き飛ばします吹き飛ばします吹き飛ばします――――――」

 

「ストップ!ストーップ!!ダメよ。ムツキ室長、ハルカ!ここら辺には民間人もいるもの。関係ない一般人を無闇に巻き込むのはアウトローとして三流はおろか失格よ!!」

 

 それどちらかというと秩序(ロー)側のセリフじゃね?と思うようなアルの静止に室長たる浅黄ムツキは頬を膨らませながら、眼に狂気を浮かばせていた一般社員のハルカはおずおずと顔を俯きながらそれぞれの武器を一旦下げる。

 

 そもそも何故、彼女たちがこのようなトラブルに巻き込まれたのか。それはまさに不運(ハードラック)(ダンス)っちまった――というに相応しい不幸な出来事であった。

 本来、今日は平和的な1日になるはずだったのだ。今回の依頼はクライアントを銀行から目的地のビルまで護衛するという簡単なもの。道中も順調であり、無事に依頼も達成。

 懐も温かくなったことだし、お土産でも――と街に繰り出したのが運の尽き。目当ての品物を入手できたのは良かったものの、美食研究会と温泉開発部(キヴォトス2大テロリスト)共がそれぞれ便利屋を挟む位置で問題を起こしてしまったがために街中が混戦状態に。自然と便利屋までもが巻き込まれる事態となったのだ。

 事務所で待っている()()()()()()の一声が無ければ、恐らく対応すら厳しい状態になっていたのは違いない。

 

「どうにかしたいけど、状況が混沌とし過ぎてる……。まずは戦況を把握しないと」

 

 カヨコが眉間に皺を寄せながら、触発され襲いかかってきた不良共に向けて引き金を引く。

 作戦を立てようにも俯瞰的な情報がない状態だ。下手に動いても状況が悪化する可能性が高い。しかし、このままではキヴォトス屈指の強者たる風紀委員長が出張るのも時間の問題である。遅かれ早かれ、撃鉄(アクション)を起こさなければならない。

 便利屋が確実に追い込まれ、各自が最悪自分が囮に……と無茶な思考が脳裏によぎる中――――

 

 

 

『みんなお待たせ』

 

 

 

 

 その思考を打ち消すかのように、全員の耳に装着されたインカムから1人の凛々しげな印象がありつつも落ち着いた声が届いた。

 

「は……()()()()()っ!!」

 

「はくのんおそーい!待ってたよ♪」

 

「は、ハクノさん!!」

 

 アルは感極まった声色で、ムツキはまるで新しいイタズラグッズが手元に届いた時のような愉しげな表情で、ハルカはそれまで俯いていた顔が思い切り上がる。

 そして次の瞬間、ムツキがスモークグレネードで煙幕を張り、風紀委員や不良達の視界が遮られているうちに4人は建物の陰にへと逃げ込んだ。

 待ち望んでいた救援に皆がテンションが上がる中、この四人の中で一際冷静なカヨコが口を開く。

 

「ハクノ、早速で悪いけどマップが欲しい。大雑把でも良いから、各戦力の位置情報も」

 

『うん。わかってる。みんなゴーグルはつけてる?今から、衛星からハックしたマップを映し出すよ。後、ハルカは私のドローンを再起動して欲しい』

 

「え?でも、ハクノさんのドローン…充電があと5分も――――」

 

『問題ない。3分もあれば事足りる』

 

 ハルカの心配をバッサリと両断するが如く、ハクノと呼ばれる少女は断言する。その頼もしさにハルカは考えるよりも早く身体が動き、リュックの中から取り出したドローンを起動させた。

 

「ゴーグルは付けたわハクノ。さぁマップを映してちょうだい」

 

『了解。社長』

 

 アル達4人のゴーグルに、数々の点々と共に周辺のマップが表示された。

 

「……完全に囲まれてるね。私たちは巻き込まれただけなのにこの執拗さ……間違いなくアコの仕業だ」

 

 カヨコのゴーグル上に画一された動きで便利屋の4人を囲む点々が映し出されている。

 

「まーた行政官ちゃんかー。美食研と温泉放ってわたしたちを狙うなんて私情挟みまくりじゃん」

 

 アルの傍でムツキが小悪魔のような笑みでそう呟いた。

 

「笑い事じゃ無いわ。ヒナが来る前に撤退しないと、その時点でゲームオーバーよ」

 

「つ、つまりみ……みみ皆殺しにすれば良いんですか?わ、わわわ私私――」

 

「ステイ!ステイよハルカ。……それでカヨコ、ハクノ。作戦は決まったかしら?」

 

 アルが暴走しかけたハルカの頭を撫でながら2人に聞く。当のハルカは急なアルの撫で撫でによって脱力したのか、蕩けそうな顔と共にグレネードのピンにかけた指が離れた。

 

『逃走ルートは確保したよ。ここから300m先の路地にマンホールがある。そこから逃げよう』

 

「マンホール……ね。なら、こっちのルートを通って、風紀委員と他の不良たちを上手くバッティングさせれば、その隙にマンホールから降りて逃げられるかもしれない」

 

『なるほど。なら、ベストなタイミングで私が向こうのオペレーターにハックを仕掛ける。混乱した隙に逃げよう』

 

「うん。それならほぼ確実に逃走できるね」

 

「『どうする社長?』」

 

「う、え?わ、私…!?」

 

 高レベルの頭脳同士のやり取りについていけないアル。

 そんな、2人からの急なパスに戸惑うものの、リーダーとして決断すべく思考する。

 

「マンホール……マンホールね…………」

 

 この時、アルの頭にあるのは確実に成功するかどうかでは無い。そもそも便利屋屈指の頭脳派2人の作戦に疑いなど最初から抱いていない。

 問題はこの作戦がアルにとってのアウトローとしての基準に合致しているか否かではある。アウトローとしてのロマンこそがアルにとって何より重要なのだ。

 

『社長。スパイアクション作品において、マンホールからの逃走は常套手段だよ』

 

「うん。大多数の追っ手を華麗に躱して、追っ手の目の前で声高らかにマンホールから脱出。まさにアウトロー」

 

「あ、アル様。私はアル様が決めたことでしたら何でも……」

 

「ムツキちゃんも面白そうだし、全然良いよー♪」

 

 ハクノとカヨコのその言葉がアルの琴線に触れ、ハルカとムツキの同意が彼女を決心させた。

 

「決めたわ!カヨコとハクノの作戦を採用。ハルカは前線で敵の撃退、ムツキは撹乱。私とカヨコはハルカの援護よ。そして、ハクノはナビとサポートをお願い!」

 

 次々と役割を決めていく。覚悟を決めた後のリーダーシップこそ、アルの長所である。

 

「さぁ!みんなでアウトローにこの窮地から脱するわよ!」

 

 アルは大きく手を挙げ宣言する。

 アルの決断に他の4人も頷いた。

 

「見つけたぞ!観念しろお尋ね者ども!」

 

『来た』

 

 その中、風紀委員達がアル達を捕捉する。連絡を受けたのか、続々と他の風紀委員が集まってきたようだ。

 追手を撒くため。仲間のため。ハクノのドローンの無機質な瞳が襲い掛かろうとする風紀委員を向けられる。

 

 

 

『――――術式(セット)起動(アップ)

 

 

 

 イメージするのは電子回路と一つのボタン。押した瞬間に、電流の如く神秘のエネルギーが回路全体に流れ出す。それが意味するものは他の誰でも無いハクノ独自の異能の発動。たった一つ。たった一つのプログラム(単語)がこの世界に超常の現象を再現し、逃走劇の開幕を宣言となる。

 

『hack_skl(16)』

 

 ドローンから鳴る機械音声により、確かに再現された不可視の超常現象。それが、風紀委員の1人に向け、ドローンの瞳から射出された。

 

「んんぐぅっ!!?」

 

 先頭の風紀委員に直撃する。すると、彼女は一瞬だけ痺れるように痙攣したかと思えば、その場に崩れ落ちた。

 

「へ?ちょっ!!?」

 

「あ、こ…転っ!?」

 

 

 

「「「「にゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!?」」」」

 

 

 

 地面に伏す風紀委員に引っかかり、ドミノ倒しのようにバタバタと倒れ込んだ。狭い路地だったのが、不幸だったのだろう。連鎖的に倒れ込んだ風紀委員が山のように積み上がり、一つの壁となって路地を閉鎖する。

 

「今のうちよ!ハクノ、ルート案内お願い!」

 

『了解。でも、その前に』

『move_speed();+heal(16);』

 

 次にアル達に向け、射出される。

 だが、それらは先ほどのような妨害のような効果ではない。

 

「身体が軽いわ。……傷も癒えてる。いつも思うけど、ハクノ係長の“コードキャスト”は凄いわね」

 

 そう、これこそがこの広いキヴォトスにおいてハクノのみが持ち合わせる異能“コードキャスト”。

 規定されたプログラムに沿って、対象にバフデバフを与える能力である。

 今、アル達に適用したのは移動速度上昇と傷の回復。この状況において的確なコードキャストだ。

 

『ありがとう。でも、私が……というより、このデバイスの性能が凄いだけ』

 

「何言ってるの!!それを使いこなしているのは間違いなくハクノの力よ。さっきのスタンも見事だったじゃない」

 

 アルの心からの賛辞に、ドローンの動きが少し鈍くなる。画面の向こうで照れるハクノの姿が透けて見えるようだった。

 それを見ていたカヨコがため息を吐きながら口を開く。

 

「社長。ハクノの能力に感動するのも良いけど、さっさと行かないとヒナが来るよ」

 

「うっ!そ、そうね。出発よ!!」

 

 そして始まる逃走劇。

 並み居る風紀委員に、襲いかかる不良共の波状攻撃。

 何人かは風紀委員と不良同士をぶつけ合わせることで、数を減らしてきたが、それでもまだまだ多い。しかし、それに屈する便利屋68ではない。

 

「――んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでくだ――」

 

 眼が狂気に、頬が赤く染まったハルカによって放たれる、愛用のショットガン(ブローアウェイ)の弾幕が目の前の敵を薙ぎ倒し――――

 

「はーい♪追ってきてご苦労様ー。じゃあ、スタートまで戻ってね♡」

 

 大通り出た後、ムツキによって振り撒かれた爆弾が後尾から追ってくる風紀委員達を無慈悲に吹き飛ばし――――

 

「全く落ち着く暇さえないね」

 

 カヨコの持つハンドガン(デモンズロア)が鳴らす轟音が敵を怯ませ、ハルカが猛進する隙を作り出す。

 

『見えた。あのマンホールだよ』

 

 進むこと数十秒。

 ドローンの視線が指し示す先に一つのマンホールがあった。

 

「ええ。確認したわ。ムツキ、煙幕(スモグレ)の用意を――――」

 

 次の指示を出そうとアルが口を開いたその時、大通りから何か踏み潰すような重量感のある破壊音が鳴った。

 

「待てー!!指名手配犯ども!!これで貴様達も終わりだー!!いけー!多多益善号(虎戦車)ー!奴らを消し飛ばせー!!」

 

 消し飛ばしてどうすんねんというツッコミはさておき、アル達の前に現れたのは先頭に虎の顔をそのままつけた装甲車両。ぶっちゃけ戦車である。

 

「な、なんで巻き込まれただけの私たちに戦車なんて持ち出すのよーッ!!?」

 

 街の被害なんてお構いなしな秩序側の猛攻に、思わず内心で白目を剥くアル社長。

 ギャグみたいな状況だが、はっきり言って不味い。装甲車両の名は伊達ではなく、それ相応に頑丈。そのまま突っ込まれ、マンホールを塞ぐようなことになれば作戦そのものが瓦解する。

 しかも1番攻撃力のあるハルカでもショットガンでは破壊不可能。ムツキも今はスモークグレネードを手に持っているため、突っ込んでくる戦車に対応できない。カヨコは言わずもがな火力が足りない。ならば、今動くことが出来るのは陸八魔アルただ1人。しかし、彼女は彼女で狙撃手(スナイパー)。とてもじゃないが、丈の長いスナイパーライフルを両手で構えて撃つ暇など――――

 

「はぁ……仕方ないわね」

 

術式(セット)起動(アップ)

 

 ないはずだった。

 今のアルに先ほどまで混乱していた様子は見られない。今いるのは、ため息を吐きながら戦車に相対する社長とそしてその側にいるドローンの姿。

 

「あれくらい……()()()()()()()()()()

 

『gain_mgi(16);』

 

 両手で構えることなど必要ない。まるで拳銃を向けるが如く()()で持ったライフルの銃口を戦車に向けて突き付けた。

 そして、発射されたライフル弾にハクノによる威力上昇のコードキャストが込められる。

 

「な、まさかー!!?」

 

 貫通などするわけがないと鷹を括っていた風紀委員達の腹を明かすようにその銀の弾丸(切り札)は虎戦車に着弾。内部にまである程度貫通したと同時に、弾丸そのものに込められた神秘が暴走。そのまま戦車を巻き込むようにして破裂する。

 

「「ぐわー!!」」

 

 断末魔と共に消し飛んでいく戦車。

 え?中にいるやつ死んだんじゃないのー?って?

 安心して欲しい。キヴォトス人はこれくらいじゃ死なない。

 

「社長、今だよ」

 

「わかったわ!!」

 

 すでにマンホールの蓋はカヨコによって開けられており、いつでも逃げられる状態である。

 アルは小脇にドローンを挟むと、爆風に紛れ、そのまま颯爽とマンホールの下へにと降りていったのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「行政官ダメです。虎戦車の大破と同時に便利屋68を見失いました」

 

「な、まだ近辺にいるはずです!探してください!!」

 

 視点が便利屋から全く別の場所に変わる。

 大量の書類が置かれた長机が乱立する風紀委員会室にて、横胸がはみ出たイカれた服装をした青髪の少女――――天雨アコが必死に指示を出していた。

 

「近辺のマップを表示!そして、ドローンの類の反応を探知してください」

 

 アコの指示通り、手に持った端末にマップが表示される。便利屋はオンボロながらもドローンを所持していたはず。ならば、その反応を探知すれば行き先がわかると思っていたのも束の間――

 

「あ、な、何ー!?」

 

「どうかしましたか!!?」

 

 機材を動かしている風紀委員の叫び声にアコも驚いたのか目を見開いた。

 

「ぱ、パソコンの画面が!!ま……またあの変な文字に乗っ取られてます!!」

 

「な、なんですって!!?」

 

 駆け足で食いつくようにアコはパソコンの画面を見る。

 その目に映るのは

 

 

 ――――ザBザBチャンネル

 

 

 と、“桜”と“小悪魔”をモチーフにしたかのようなキュートでポップなフォントで大きく描かれた文字だった。

 音声がない分、どこか侘しさを感じる画面であるが、今はそんなことは関係ない。

 問題はこれは間違いなくこのパソコンは他者からの干渉を受けているという証左であるということ。

 

「ま、またですか……。せっかく、新調した最新の機器だというのに」

 

 手元の端末を見ると、同じように“ザBザBチャンネル”と映っている。その文字から感じられる妙なウザさに、思わず床に叩きつけそうになるのを、何とかアコは堪えた。

 

「このままでは便利屋を取り逃がして――――」

 

 戦車を投入してまで追い込んだというのに、この体たらく。普段の便利屋であれば、最低でも風紀委員長が現着するまで時間を稼ぐことくらいはできる。だが、彼女達にオペレーターが加入したことで全てが変わってしまった。

 風紀委員会と便利屋68の差(ヒナを除く)を明確に表すならば、それは優秀なオペレーターの存在だろう。それが数では勝っても質では劣る風紀委員会が便利屋に勝る点の一つであった。しかし、今はそれさえ埋められてしまっている。

 

「(なー私たちって美食研と温泉部追ってたはずだよなー?)」

 

「(なー)」

 

 他で仕事をしながら小声で話す風紀委員を他所にアコは悔しさのあまり自身のスマホを握りしめる。ピキピキと音を鳴らし、今にも砕け散りそうな時、スマホがプルプルと振動した。もちろんスマホの細やかな抵抗ではない。通知を見ると、そこには己が敬愛する風紀委員長の名が映っている。

 

「は、なっ!?ヒ…ヒナ委員長!?」

 

 あまりのショックにスマホを空中で投げ出したり、慌てて掴み取ろうとした手が3回ほど空ぶったり、床に落ちそうになったスマホをリフティングの要領で蹴り飛ばしだ後にキャッチに成功して、ようやく応答する。

 

「お、お待たせしました!!」

 

『……アコ、手短に話すわ』

 

 緊張を隠せないアコに反比例するかのような冷静沈着な声の主。彼女こそゲヘナ学園最強とされる風紀委員長――空崎ヒナ。

 ヒナはアコの気持ちを知ってか知らずか、端的に報告をし始める。

 

『初めに温泉部と美食研はどちらも殲滅した。救急医学部をこちらに派遣して頂戴』

 

「は、はい!流石は委員長!!」

 

 流石はゲヘナ最強の女といったところか。

 すでに事態を解決したらしい。それを聞いたアコは顔を青くしつつも賞賛を送る。

 このまま電話を終えるか……と思ったが現実は甘くない。

 

『それでアコ。あなた温泉部と美食研放置して、便利屋を追っていたそうね。しかも、戦車まで投入して」

 

「うっ……」

 

 ヒナの指摘に、アコはますます顔を青くする。

 

「お、お言葉ですか委員長…。便利屋は立派な指名手h――――」

 

『そうね。でも、今起きてる問題を放置するほどではないわ。それは、あなたならわかっているでしょう?最近のあなたの活躍は目覚ましいものがあるけど、流石に今回は私情で動き過ぎよ」

 

「…………はい。大変申し訳ございません」

 

 ヒナの正論ワンツーに撃沈するほかなかったアコは項垂れながら頭を下げ謝罪した(電話越しで)。

 

『後で反省文ね』

 

「はい……」

 

 自分に課されるお仕置きに、アコはただ頷くしかできなかった。

 

 

◇◇◇

 

 場所はさらに変わって便利屋68事務所。

 都市部の一等地のビル…………ではなく、郊外の方にある建物の2階。それが彼女達の拠点である。

 カツンカツンと金属製の階段を上がると、そこにシンプルな片手扉がある。

 4人組の1人がガチャリとドアノブに手を置き開くと、緊張感から解放されたのか、身体を伸ばしながら大きく口を開いた。

 

「ただいまー!」

 

 その声の持ち主はアルだ。それは一仕事を終え、達成感を全面に出すように事務所に広がった。

 その後、各々「ただいま」と言って事務所の中に入る。

 そんな彼女たちを出迎えたのは――――

 

「おかえりなさい」

 

 エプロンを身につけた1人の少女だった。

 栗のような髪色に茶色い瞳、凛々しさのあるやや太めの眉毛。その美しい髪は毛先にウェーブがかかったロングヘアーにセットされている。

 そして、その手には大きいソフトボールほどのサイズの、まるでルービックキューブのような青い装置を持っていた。

 

「ご飯できてるよ。今日の献立は豆腐ハンバーグ(豆腐率60%)」

 

「わー!ご飯たっのしみー♪」

 

 ムツキが飛び込むように応接間を過ぎ、パーテーションの内側に入ろうとする。

 

「こらこらムツキ、まずはシャワー浴びましょう」

 

「そうだよムツキ室長。先に手洗いうがい」

 

 アルと少女の言葉に制されるムツキ。

 注意された彼女は頬を膨らませた後、少し拗ねるように「はーい」と言いながら洗面台へと向かった。

 その様を見ていたカヨコは「おかんが2人」と小さく呟く。

 そして、それは少女の耳にも入ったようで。

 

「うん、確かにそうだ。以前の私はいざ知らず、今の私は良妻系オカンみたいなものだね」

 

 無表情ながらもふんすと鼻息を鳴らすように言う少女。

 鉄面皮でありながらも、明らかにドヤ顔とわかる、少女の様子にカヨコは「(良妻系オカン……?)」と少し呆れながらも思っていた。

 

「た……大してお役にた、立ってないわ、わわ私がご飯を食べて良いんでしょうか?しかもアル様と一緒にシャワー浴びるなんてお……恐れ多い」

 

「それは違うわハルカ。あの作戦は貴女の突破力が前提にあってのことよ。役に立っていないなんてことはありえないわ」

 

 憂鬱になるハルカをアルは髪を撫でながら鼓舞する。

 

「それともあれかしら?ハルカは私と一緒に食事なんて嫌だって?」

 

「い、いいえ!!アル様たちと一緒にご飯を食べたいです!!」

 

 少し寂しそうにアルが言うと、流石のハルカもアルが落ち込む姿は見たくないようで大声で否定した。

 

「そう。それなら良いわ。みんなでお腹いっぱい食べましょう」

 

「は、はい!!」

 

 髪を指で軽く漉くように撫でるアルに大きく返事をするハルカ。

 その後、また憂鬱モードになりそうになったハルカの手をカヨコが握った。

 

「じゃあ、私ハルカ連れてくから……。そうだ、後でドローンの録画見せて。今日の出来事についてもう一度、確認したいから」

 

「わかったカヨコ課長」

 

 少女が頷くと、カヨコがハルカを洗面所へと連れて行こうとする。すると、カヨコの言葉に何か思い出したことがあったのか、アルが口を開く。

 

「そうだったわ!今日は頑張ったみんなの慰労も兼ねてシュークリームを――――」

 

 そうしてごそごそとリュックから取り出したのは一つの箱が入ったビニール袋。

 それを見たカヨコは嫌な予感に囚われる。

 

「社長……もしかしてもうそれ潰れ――――」

 

「あー!!箱がべっこべこー!!?」

 

 カヨコの指摘も遅かったようで、アルの持っていたシュークリームの箱は潰れ、案の定、中身にも被害が出ていた。

 

「わーん!!みんなで食べたかったのにー!!」

 

 もはやただの女の子に戻ったアルにカヨコは呆れ、少女はくすりと微笑む。

 

「大丈夫だよ社長。これくらいならキッチンでクリーム詰め直せるから。紅茶を淹れて、食後のデザートにでも食べよう」

 

「ほんとう!?やったわ!あなたが作るスイーツも絶品だものね!!」

 

 喜ぶ社長と同調するように嬉しそうな顔をするハルカ。呆れながらも微笑ましく見るカヨコと少女を尻目に、洗面所から顔を覗かせたムツキが「みんなまだー?」と声をかけた。

 その後、4人は共にシャワーに入り、ご飯を食べて、次の日の依頼に向け5人で就寝する。こうして便利屋68の1日は過ぎていく。

 

 

 これはそんな騒がしくも楽しく暮らす便利屋68と()()()()の少女――――便利屋オペレーター“ハクノ”によるドタバタした日常の物語である。

 




はろー。色々あって疲れ気味な味噌漬けです。
人間関係でトラブって心を病んで退社したり、新しく入った会社では集団リストラに巻き込まれそうだったり(現在進行形)、人身事故の現場を見たりなど色々トラブルに苛まれながら生きてます。
そんな中、FGOと便利屋68に心を癒されたので、現実逃避気味に書きました(連載放って投稿したのは申し訳ございません。現在、他で続き書いております)。

続き書くとしたら、
・ギルガメッシュを目の前に、啖呵切りつつ内心白目剥くアル社長
・ローマに脳が焼かれるアリウススクワッド
・神父オリジナルレシピ麻婆豆腐に撃沈する美食研
・コンビニで働く岸波白野(男)
・小鳥遊ホシノを諭す臥藤門司

こんなシーンを書きたい所存。
どうか、感想などがあればお願いします。

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