神の舌? いいえ、贅沢舌です   作:斗鬼派金成

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今回も短いですが、前回の続きです。
お待たせして申し訳ない、当初思い描いてたプロットを修正してたら遅くなりました。
その所為で主人公の出番がめっきり減った上に、心臓云々の話も次話に回すことになりました、本当に申し訳ない。
時間ギリギリになりましたが、投稿します。


仙左衛門は逡巡する

「酷い目に遭った……!」

 

 危うく性癖が壊れる所だった、そう嘯く彼に歳相応の幼さはない。

 まるで子供の肉体に、大人の精神性が宿っているようなアンバランスさ。気味が悪い部分もあるが、そんな歪さを口調やおちゃらけた態度が不思議と中和していた。

 過程や方法はどうあれ、彼が真凪を救ってくれたであろう恩人である事には変わらない。

 それどころか本人曰く攫われて来たらしく、申し訳なさや我が身の情けなさが胸中の大部分を占めていた。

 この後襲い来るであろう責任や追及の大きさに、せめて愛娘(えりな)だけでも――というまたも身勝手な考えが脳裏をよぎる。

 

「ああ、お気になさらず。自分が蒔いた種ですし、責任くらいは自分で取りますよ」

 

「それを言われると、大人としては何も言えなくなるんだけどね……」

 

 此方を気遣う様子を見せてくる少年の対応に、自分は何をしているんだと悔恨の念を抱くしかない。

 どうにも調子が狂う、まるでこの子の前だと真面ではいられなくなるような錯覚さえしてくる。

 或いは真凪も、少年のこの感覚に囚われて正気ではいられなかったのかもしれない。もしそうでなくても、彼女が仕出かした行為から目を背ける気もないが。

 

「先ずは謝罪を、僕の妻が君にとんでもない事を――」

 

「その件に関しては既に過ぎた事ですし、そもそもが自業自得ですので。寧ろこちらが謝罪すべき立場かと――」

 

「いやいや――」

「いえいえ――」

 

 僕が謝り、彼もまた謝り返してくる。そうして益体のない会話を一頻り繰り返し、仙左衛門殿が真凪に詳しい事情を聴き出す時間稼ぎに終始していった。

 


 

「何故、戻ってきた――というより、何故戻れた? 真凪」

 

「おや、心身共に衰弱した娘が戻って来た事がそんなにショックだったのかえ? 父上」

 

「茶化すな。心にもない事を……お主の口から聞いておきたい、何故かを」

 

 頬がこけ、弱り切った娘の姿を思い返す。これといった対処法もなく、薙切の家から遠ざけるしか打てる手はなかった。

 何もしてやれない無力な自分を呪った事は幾度もあったが、目の前の娘にそんな衰弱した面影は最早ない。

 完全に元通り、という訳でもなく。肉体は未だ弱ってはいるものの、気力は充実していた。

 そんな母の姿にえりなは喜び、先の別れなどなかったかのように振る舞い疲れ眠りに落ちるまでずっと母の愛を求め続けた。

 そんな娘を真凪(母親)は無碍にする事なく応え、これまで構ってやれなかったのを詫びるように娘の希望を受け入れた。

 

 家族として当たり前の、取るに足らない……だが確かで尊いといえる理想の家族愛の実現が、其処にはあった。

 だからこそ知りたい、そんな真凪がこうして戻れた理由を。見ず知らずのえりなと同い年ほどの少年を連れて来た訳を。

 

「あの子を私の、延いてはえりなの為に薙切に迎え入れたい。そう思ったまで」

 

「あの少年に、それだけの価値があると? 神の舌に相応しい、何かを見出したと?」

 

()()()()

 

 そんな儂の疑問を一蹴するように、真凪はたった一言――信じられぬ言葉を吐き出した。

 それは薙切家の史実集に記載されず、歴代の神の舌の持ち主(ホルダー)が書き記した史料にのみ記述された単語だった。

 曰く、神の舌の救済措置――その者が作る料理はどれも至高の品で、余人がどれだけ足掻こうとも到達し得ない領域にある美味であると。

 その者は一族間で現れる事のない突然変異で、歴史の転換期に突如として現れる特異点だという。

 史実集に記載されず眉唾物と謳われる存在、神の舌の持ち主(ホルダー)にとって最後の希望。

 それが神の両腕、料理人の完成形とされる伝説の存在だった。

 

「馬鹿な、()()()()……!? いくら神の舌が二代続けて生まれたとて、まだ物心ついたばかりの子供だ。何かの間違い、という線はないのか」

 

「私が料理を食べ、それを認めた。その事実こそが肝要であり、嘘偽りなどない。それでは足りませぬか、父上?」

 

 そう言われ、ぐうの音も出ない。

 これまで散々神の舌を利用し、料理界を牽引してきた事実は変わらない。

 あらゆる手を尽くし、救う手立てを模索し続けた。しかし何の成果も得られず、結局は嘗ての持ち主(ホルダー)達と同じ末路を辿らせた。

 いくら足掻いても、確固たる結果が出せなかった。

 

 その時点で、反論など出来る筈もなかった。

 

「――とはいえ、言葉だけでは父上も納得しきれないでしょう」

 

 落ち込み顔を伏せる此方を慮ってか、渋々といった形で真凪は妥協案を提示し始める。

 妥協、と言っても実際には自らの欲求を最大限充たさんと貪欲に意気込む蠱惑的な誘いだ。

 食欲という原初の欲望、本来なら制御し呑まれないよう断るべきだ。

 しかし、"神の両腕"という滅多に現れない"神の舌"とは双翼関係になり得る異能。至高の味という魅力は何物にも耐え難く、せめて自らの舌で測りたいという理由付けは存在していた。

 ならば此処で一つ、確かめるのも一興か。

 

「良いだろう、であれば儂も覚悟を決めよう。あの者が果たして、神の舌を救う一助足り得るか。若しくは、お主やえりなを穢さんとする俗物かをな」

 

 娘の不手際を一旦は恥に置き、料理界を牽引する遠月茶寮料理學園総帥として見極める。

 本物であるならば、総ての非を認め謝罪し、真凪の要求を呑もう。仮初とはいええりなの許嫁とし、真凪の専属料理人として薙切に受け入れる。

 だが偽物であるならば――、娘を誑かし孫に危害を加えんとする俗物として排除するまで。

 

「父上も乗り気になられた事であるし、私は一足先に向かっていよう。……薊の様子も、心配である故な」

 

 真凪は笑ってそう告げると、慣れた様子で退席しあの子の元へ向かっていく。

 将来的に計画しているプランへの影響を考慮しようとして、ふと気づく。

 薊に時間稼ぎとしてあの子への対処をしてもらっている事も、真凪が万が一にも暴走しないよう居場所を告げないようにしていた。

 だというのに、真凪は先程まるで知っているかのように儂の元から立ち去った。

 

 もっと早く違和感に気付くべきだった、気付いた時には遅かった。

 

「あぁあああぁぁああっぁああああ!!?」

 

 困ります! 困ります! お姉様!! 困ります! あーっ!!

 困ります! お姉様!! あーっ!! 

 お姉様!!お姉様!!お姉様困り!! あーっ……

 

 あまりにも悲惨な、離れていても聞こえてくるほどに困り果てた彼の悲鳴が響き渡った。

 幸いにしてえりなが起きてくる様子はなかったが、このままでは起こしてしまいかねない。

 これから向き合わねばならない問題の大きさに頭を抱えながらも、どうにか自己を再確認し歩を進めた。

 

 頼むから偽物であったとしても、どうか真凪やえりなを恨まないでくれと――身勝手な言い分を胸に抱いて。

 




Q.あ、薊さん……!!
A.妻のやらかしを精一杯カバー、もとい誠意を込めて謝罪する社会人の鑑。
尚、8割くらいはポンコツ転生者くんのやらかしの所為。かわいそう。
次話でもっと苦しむ事になるかもだけど、労いはあるから……(震え声)

Q.神の両腕って何だよ? ゴット・ハンド・クラッシャー(意味深)?
A.既存の料理概念をぶち壊しかねないのである意味間違ってない。本作独自設定の、原作にはあるわけない設定。
 時代の転換期に現れ、神の舌の持ち主と相見えられるかは運によるものが大きい。
 同性なら創真やタクミみたいな関係になり、異性なら双翼の言葉通り恋人関係からの夫婦になりやすい。歳が離れていたら愛玩関係もあり得るか。

Q.ポンコツ転生者くん真凪さんに弱すぎない?
A.強さは極まってたけど、代償として人間関係の構築とか異性との関わり合いが完全に0だったため。
 どうしていいか分からない未知と、強気にぐいぐい来る相手への対処が苦手なため愉快な事に。

なんかお気に入り件数が600超えてて何があったしと宇宙猫になり掛けました。
何で??? 超嬉しいです、ありがとうございます。
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