――まるで急勾配のジェットコースターで振り回されているかのような嘔吐感と、ドリルで頭に穴を開けられているような激しい痛みの皆顔を歪め、その場にしゃがみ込む者も居た……体調の悪化はどんどん激しくなり、その場に立っている者が皆無になり、激しい頭痛の為か景色が二重に見えてくる。
――
最悪なコンディションの中で、誰の言葉かは分からないが、その言葉だけは認識出来た。
セーラームーンこと月野うさぎは浅い眠りから目覚めようとしていた……まどろみの中で“腹の立つ”誰かと口論になったような気がするが、目を開けた時にはもう忘れていた。
最初に目に入って来たのは雲に覆われた薄暗い空であった。
身を起こしながらうさぎは、自分が何故こんな場所で横になっていたのかを思い出そうとしていると、それに気づいた誰かの声が聞こえてくる。
「――目が覚めた、うさぎちゃん?」
「……美奈子ちゃん?」
自分を呼ぶ声に視線を向けると、そこには心配そうな愛野美奈子の姿があった……そのまま見回すと、首を振りながら身を起こす火野レイや、その隣には水野亜美や木野まことの姿があった。
「……一体…何が起こったの」
ようやく意識がはっきりしたのか、立ち上がったレイが周囲を見回しながら独り言ちる……突然姿を現した黒い鎧をまとった者達――
「……ホント、なんでこんな事になったんでしょうね」
どんよりとした雲に覆われる空を見上げながら美奈子がぼやく。そんな美奈子のボヤきに苦笑を浮かべていたうさぎだったが、不意に居るべき人が居ない事に気付いた。
「――そう言えば、まもちゃんは?」
その場所には美奈子達セーラーチームだけで、地場衛の姿だけでなく他にも騒がしい土浦市の姿や、お邪魔虫の天川美夏の姿もなかった。
「――まさか、天川さんが抜け掛けを!?」
「……何を馬鹿な事を言っているのよ、うさぎ」
「……さすがにこの状況でそれはないでしょう」
「……もっと、周りの状況をみようよ、うさぎちゃん」
ガガーンっと背景にイナズマを背おって、驚愕の事実に愕然とするうさぎにジト目を作りながら突っ込みを入れるレイと美奈子とまこと……そして苦笑を浮かべていた亜美が、気が付いた時には市と美夏の姿が無く、衛が二人を探しに行っていると説明してくれる。
四人それぞれが呆れたような視線を向ける中、後頭部を掻きながら てへへと誤魔化すように笑う うさぎ――そんな中、聞き覚えのある声が響いた。
「――聞いたような声だと思ったら、良くここまで来れましたね」
人払いの結界を張っていたのに、こんな所まで入り込んで来るなんて驚きですよ、と口角を上げて嗤うのは、漆黒の鎧をまとう地妖星『パピオン』の
「――美春ちゃん!?」
「……今私達は大事な時期に来てるの――だから、邪魔な人達には消えてもらうわ」
そう言うと美春から放たれる威圧感が増す――これが市の言う
「――みんな、変身よ!」
強烈な嘔吐感に襲われて意識がもうろうとなった時、突然 浮遊感に襲われた後に意識が途切れ、次に意識を取り戻した時に土浦 市が目にしたのは空を覆う分厚い雲であった。
「……どこだ、ここは?」
先ほどまで山陰は出雲の近くの観光地に居たというのに、今は建物はおろか人の気配すら無い……いや、正確には生者の気配がないと言うべきか、代わりに死の匂いとでも言うべきモノに満ちている。
「……まさか、本当に『黄泉平良坂』に辿り着いたのか」
幼少の頃に流れ込んできた知識によれば、『黄泉平良坂』には死者の群れが延々と歩いており、冥界の法則に支配された死者の群れはただひたすら山の斜面を登って頂上にある大穴へと落ちていくらしい。
人は死んだ後、冥界の法に支配されるという……先程から感じる濃密な死の匂い――冥界の空気が、人間を縛るのかもしれない……市がそんな事を考えていた時に誰かが歩いてくる音に気付く。誰だ? うさぎちゃん達なら問題はないが、これで
足音がする方に振り向くと、歩いて来るのは見覚えのある男性だった。落ち着いた色のシャツと品の良いジャケットを着た年若い男性 地場衛の姿だった。
「――先輩」
「ここに居たのか市。お前だけか?」
「……って言うことは、他のみんなは?」
「……みんな無事だ。お前も見つかった事だし、後は天川を探すだけだな」
うさぎちゃん達中学生組は、年若い見た目に反してこれまで幾度となく超常の存在を相手に戦ってきた歴戦の戦士だという話だ……普段のうさぎちゃん達を見ていると、とても戦士には見えないが。
しかし、この様子を見ると地場衛とうさぎちゃん達は揃って同じ場所に飛ばされたようだが、市と天川美夏だけが別の場所に飛ばされてしまった……この差は何だろうか? 市だけなら「……また顔面偏差値が足りなかったのか」とクサるだけで済んだが、天川深夏もまた別の場所に飛ばされるとは……つまり地場衛やうさぎちゃん達と、市や天川深夏とでは明確な違いがあるのか?
「……ここに来てから嫌な空気を感じる…こんな場所で天川一人だけ行方が分からないとは、心配だな……ん、どうした市?」
「――えっ!? いや、そ、そうでやんすね」
そんなとりどめのない事を考えて、何とも言えない顔をしていた市だったが、突然爆発音が聞こえて来てその方向に視線を向ける――その方向からは、この世界に満ちる冥界の空気に交じって攻撃的な
「……あの爆発……
爆発が見えた方向――うさぎ達 中学生組がいる場所へと急ぐ衛と市そして美晴達が震源地へと辿り着いた時、そこは爆発の影響からか未だ土煙に覆われていたが、少しずつ煙が晴れて来ると、最初に目に映ったのは漆黒ながら輝くような光沢をもつ美麗な装飾が施されて背中に大きな特徴的な翅をもつ
だが、遠目からでも分かる。戦闘を開始して暫く経つのだろう、悠然と立つ美春に対して片膝を付いているセーラー戦士もおり、戦いの優勢は美春に傾いているように感じる。
「――あっちは、うさこ達が居る方向だ! いくぞ市!」
「――うぃす!」
どこからともなく出てきたタキシードを纏う地場先輩と共に、胸にある『クロストーン』を掲げてヒドラの
時は少し遡る――うさぎ達セーラーチームの前に姿を現した、地妖星『パピヨン』の
「――美春ちゃん、その鎧を脱いで! それはとっても危険なモノなんだよ! このままじゃ、“戻れなく”なるよ!」
無限学園の廃墟で出会った、人を見下したあの傲慢な
だが、そんなセーラームーンの言葉を受けても、美春は揺るがなかった。逆にセーラームーンに向けて「……それが何か?」と問い返してきた。
「……何か、って……」
「大体、私が
「――そんな言い方って!?」
美春の物言いに抗議の声を上げるセーラーヴィーナス。表情を険しくしたセーラーマーズが、お札を取り出して「――駄々っ子には、お仕置きが必要ね」と臨戦態勢に入る。
「どの道、私の仕事は邪魔なあなた達を排除すること」
そう美春が宣言すると、周囲に無数の光る蝶が舞い踊る。
「蝶の羽ばたきの中で消えなさい――『フェアリースロンギング』」
「パピヨン」の美春の宣言と共に無数の光る蝶がセーラームーン達に殺到するが、それを見越したセーラーマーズが炎の周囲に弧を描いており、複数の凝縮された炎の塊を撃ち出した。
「――『バーニング・マンダラ』!」
殺到する光る蝶を炎の球が迎撃するが、如何せん蝶の数が多く、焔の迎撃網をすり抜ける光る蝶がセーラーチームに襲い掛かるが、
「――来ると思っていたよ、『スパークリング・ワイド・プレッシャー』!」
「――させない! 『ヴィーナス・ラブ・ミー・チェーン』!」
セーラージュピターが額のティアラから伸びた避雷針に雷を集め、掌で凝縮させながら握り潰して無数の光が蝶を迎撃し、セーラーヴィーナスが集めたエネルギーを鎖の形に変えて、迫る光の蝶を薙ぎ払う。
以前、町中に現れた巨大なダイモーンと美春の戦いを目の当たりにしていたセーラーチームは、今回の出雲行きで再び美春と戦う事になった時の為に、幾つかの戦術を考えていたのだ……あまり親交がなかったとはいえ、美春とは同じクラスのクラスメート……他の同級生などの美春の人となりを聞いたり、巨大ダイモーン戦の考察や、戦った事もある土浦市に彼女と戦った様子などを聞き取り、再び彼女と戦う時に向けて戦術を組んでいたのだ。
「――『マーキュリー・アクア・ミスト』」
セーラーマーキュリーが大気中の水分を両手の間に凝縮して放つ――セーラーマーキュリーによって周囲が濃い霧に満たされ、その霧が美春の視界を遮る。
「……これは…目くらましね」
視線を動かして周囲を見回す美春。
セーラーマーキュリーとやらの能力か、周囲に立ち込めた濃厚な霧によって、小癪な攻撃をしてきた他のセーラー戦士達の姿も見えないが、それで姿を隠した気になるとは失笑モノだ――彼女達からは、
ほら、後ろに回り込んだセーラームーンとその妹のようなちっこいのが、力をためて放とうとしている。
「――『ムーン・スパイラル・ハートアタック』!」
「――『ピンク・シュガー・ハートアタック』!」
それぞれが持つロットの先端から放たれるハートの形をしたエネルギー波が美春に迫るが、その予備動作を含めてバレバレである。
「……これで目くらましのつもり? 無駄よ、あなた達の動きは分かるもの」
迫る二つのハートを最小限の動きで躱す美春……その時、紙一重で躱した二つのハートから清浄な波動のようなものを感じる……なにこれは? 冗談のような形をしているのに、それに内包されている力の波動は、まるですべてを浄化するかのような神聖な力を感じる。
……それまで余裕の表情を浮かべていた美春の表情が一変して、真剣な表情へと変わる。
「……簡単なお仕事かと思っていたけど――ここからは、
宣言と同時に、美春から放たれる気配が劇的に変わる。
気配が濃厚なモノになり、周囲の大気にすら影響を与えている……これは、この見知らぬ大地に広がる“死の匂い”を煮詰めたかのような濃密な気配が、美春を中心として周囲に放たれる……これが、市の言っていた冥界の闘士である
「――『ワールド・シェイキング』!」
何処からともなく、まばゆいばかりの輝きを発する強力なエネルギーボールが飛来するが、美春は左手を無造作に振り払ってエネルギーボールをはじき飛ばした。
「……だれ?」
エネルギーボールの飛来した方向を向いた美春が問いかける――彼女の視線の先には、複数の人影があった。
セーラーチームと良く似たコスチュームを纏った三人の女性のうち、凛々しさの中にも女性らしいラインを持つ戦士が己を誇示するかのように答える。
「――天空の星 天王星を守護に持つ飛翔の戦士 セーラーウラヌス」
入れ替えるように、ウエーブの掛かった髪を持つ戦士が名乗るった。
「……深海の星 海王星を守護に持つ抱擁の戦士 セーラーネプチューン」
彼女達から少し離れた所に立つ、大きな杖を持った戦士が名乗りを上げた。
「時空の星 冥王星を守護に持つ変革の戦士 セーラープルート」
外部太陽系三戦士 新たな危険に誘われて、ここに参上
――これ以上、好き勝手にさせない。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
謎の現象によって黄泉平良坂へと迷い込んだセーラー戦士達の前に、冥衣を纏った美春が立ち塞がる。
――美春を元に戻す為に。
――邪魔者を力づくでも排除する為に。
激突する双方……果たして、衛と市は間に合うのか?
今回の投稿ですっからかんになりました。
SOULのライフは ほぼゼロ状態ですので、続きは長い目でお待ちください。